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評価 5(飛び抜け)

ああ・・・素晴らしい!
よくぞこれを出してくれたものだ、この作者の経歴を見ているだけでドラマなのだが、そのあとのこれが出る経緯もまたドラマっぽい。
そしてよくぞこれを日本で訳してくれたものだ。

短篇の連なりだ。
それは、一見自分のことを語っているような私小説?とも思えるが、時を越えて、また男女を変えて、それは色々な変化球が出てくる。解説にもあるように事実に基づいた小説、なのだろう。
どの作品も心が強烈に持って行かれる作品だ。

一見普通の私小説のように見える。
けれど、読んでいくうちにそこには、様々な職に就き、様々な人生体験をした作者ならではの視点がある。
文章も研ぎ澄まされ力強く、それでいて詩情がある。
でも気負っていなくて、更に、驚きまで多々あるのだ。
時の扱いも非常に巧い。
ある時にはその当時そのものを語っているし、ある時には一つの出来事から連綿と過去を思い出してまた現在に戻っていく。
妹のサリーの場面も何度も出てくるけれど、これまた過去を思いだし、彼女と姉としての自分との確執、歪つだった家族の物語がぞろっと出てくるところなど圧巻だ。

読んでいると、繋がってくるのがわかる、これを私小説という観点から見れば。
歯医者の暴力的な祖父(でも歯医者としては一流)、妹のサリーばかりかわいがる祖父、働いてくれてはいるが家族を顧みない父、これまた破綻している母、そして本人・・・
また本人が何度も結婚をし、様々な職に就き、ある時にはアルコール中毒であり、三人の夫との間に4人の男の子たちが生まれシングルマザーであった話もまた出てくる。
男の子たちもも時がたった彼らがいてもうすでに結婚していたり子供がいたり、まだ学校に行っている彼らがいたり、様々な彼らであるのだ。
本人が小学校を途中で変わった話なども読ませる、背骨の矯正器具をつけて学校に通った話、など一読して印象に残る。
印象に残ると言えば、歯医者の祖父の歯を抜く!しかも子供の私が!そのあとティーバッグを噛みしめる!!という場面も強烈に印象に残る。

また驚きは多々ある。
刑務所にいた人たちが作品を指導の元書き始めそこで一番優秀だった男の話、などなんとも衝撃のラストだ(さあ土曜日だ)
学校で転校したという話の中で、他の話では全く出ていなかったのに、一人だけ仲の良い賢い男の子の話も微笑ましいし、このラスト11行が非常に心に残る(巣に帰る)
表題作は、文字通り掃除婦をやっていた女性の話だが、様々な家に行って彼らの生活ぶりを見る、そして多くのことを感じる、という意味でも面白いのだが、それだけではなく、間にターという男の話が入っているところが何とも巧い、彼がどういう経緯になったのかというのが後半わかってくるのが驚きをもって迎えられるし、またこれまたラストの数行の力強さと言ったらどうだろう(掃除婦のための手引書)
妹サリーの病を語りながら、かつての夫マックスの話を入れ込んでいく話も心打たれる(ソーロング)

いわゆる死んだ人の家の後始末の仕事の話は、最後のところで、姉弟がそれほど親しくなかったのに親が残したものから彼らからの愛情を受けた時代、二人だけの思い出、家族があった頃の思い出を思い出すところが泣けた(喪の仕事)
自分たちの両親のありようを考えていく、しかも妹サリーの病室で、壊れた母がいかに壊れていったかという話もぐっときた(苦しみの殿堂)
自分がアルコール中毒で、幼い子供もいて上の子供は母親のアルコール中毒を見抜いている切ない話、でもちょっとばかだねえ・・と笑えさえできる話もまた心に残る(どうにもならない)
美人の従姉が見定めたターゲットの男性を射止めるためあらゆることをするのについていく小さい自分がいるのだが、そこでその男性の本性がちらちら出ていて、皮肉たっぷりでこれもまた笑える話だ(セックスアピール)

上の作品群とは全く別なのだが、ほんの2ページの小品にも私は強く惹かれた。
マカダム、その名前からして怪しい。
それについてただひたすら描かれているのだが、一見小学生の作文のようなピュアさがある。
けれど観察眼と音の強さと文章の成り立ちがこちらの胸をわしづかみにする(訳がいいということもあるのだろう)
(マカダム)

・・・・・・・・・・・・・
大変良かったので、是非残りも訳していただきたい。


評価 4.9

このシリーズ楽しいのだが、これもまた面白かった。
特に今回は映画がベースになっているので、映画の話も絡んでいてそこも誠に面白い。
ハンニバル、とかファーゴとか、シャイニングとか、読み解きが二人の対談(春日武彦と平山夢明)で始まると、こういう見方があったのか!とか(特に平山さんと同じようにシャイニングのお父さんの造型に驚いた)目を見開かされるような思いだった。

最初に動物の多頭飼いの話からして、ああ!そういう心理が働いてあんなに多くの動物を飼ってしまうのかと、ここも納得したのだった。
対談なので、そして聞くのがどちらかといえば平山さんの方が多いのだが(春日さんは精神科医なので聞かれる立場にどうしてもなる)、それに対して非常に的確な答えが出る時もあるけれど、わからないっぽい答えも多々ある。
心の中の事というのはこれこれこうです、と白黒つけて語るのはとても難しいことなのだなあと改めて思った。

(でも一番驚いたのは、全く知らなかった渥美清の話・・・そうだったのか・・・)

精神科医が人の話を聞いて病むという話も分かる気がする。
人に話を聞いてもらうという事、それを受け止めるという事、の、曖昧さそして困難さが見て取れる。

平山さんの実体験もなかなかに読ませて、奇妙なところには奇妙な人たちが集結するのだなあと改めて思った。



評価 4.9

とても面白く読んだ。
国も時代も違った三人の女性のそれぞれの話が綴られている。
金子文子は先日映画になったので名前のみは知っていたが、他の二人は全く知らなかった。
闘争の内容は違うのだが、それぞれがおおいに奮闘している、男社会の中で。
その姿がある時には勇ましく、ある時には痛ましく、そして100年後の私達に何かを問いかけてくれる、そういう物語だった。
話の作りが面白く、それぞれの人の話が10ページぐらいに小出しに出てきて、最後の一句が次に繋がり、また別の女性の話になっていく。
この時代にこういう人が!!という驚きがまずあった。
今だったら驚くこともないのだが、なんせこの時代!
そのありようがとても分かりやすい言葉でどんどんと語られていて、読んでいてぐっと惹きつけられたのだった。
いささか10ページごとに変わるので、最初の内は目まぐるしいのだが、そのうちにその形式が快感になってくる。

・戸籍にも入れてもらえない金子文子。
家庭環境はすさまじく悪く、両親の男女関係が絶えないのを幼い頃から見ている。
朝鮮に住んでいた祖母が引き取ってくれたのだが女中扱いでここでも虐待が始まる、しかしここで自殺しかけたが踏みとどまって背筋を伸ばしてこの時代を生きていく。
・女性賛成政権運動家のエミリー・デイヴィッドソン。父が裕福だったが母は奴隷状態で、エミリーは若い時から投獄続きだった。そこでの強制摂食という名の拷問が凄まじい。大臣の車にもレンガを投げる。しかし女性が参政権を持つようになんとか努力していくエミリー。
・アイルランドの独立運動に蜂起したマーガレット・スキニダーはスコットランド育ちだ。父母の実家のアイルランドで豪邸に住むイギリス人を見て、貧しい貧しいアイルランド人の住居に愕然とする。スナイパーになりイギリスを相手に戦おうとする。


彼女たちの目指していたもの。
それはそれぞれ違うのに、彼女たちではどうしようもない歴史の歯車に立ち向かっていく、その姿におおいに心動かされた。
特に金子文子のぴんと伸びた姿勢と言ったらどうだろう。
何物にも屈せず、自分の道を行く・・・
金子文子の本をもう少し読んでみたい。と思ったものだった。

7月の読書メーター
読んだ本の数:7
読んだページ数:2656
ナイス数:216

回復する人間 (エクス・リブリス)回復する人間 (エクス・リブリス)感想
大好きな短編集。死、喪失、痛み、過去への後悔から人間がどこに行くのか、そこからどういう心象風景が展開するのか。そのあたりがとても読ませました。好きなのは、姉との確執のあった妹の心の軌跡を追う、呼びかけのあなたが印象的な表題作、不思議な恋愛関係のエウロパ、あらゆる時に思い浮かべるる心に持っている街フンザ、そして私が一番好きなのは、交通事故で手を傷めてしまい立ち直れない女性の過去から現在までを描く火とかげでした。読んでいるとどの作品も自然に心の中にすっと入り、あたかも追体験しているような心持ちになりました。
読了日:07月31日 著者:ハン・ガン
カリ・モーラ (新潮文庫)カリ・モーラ (新潮文庫)感想
読んでいない方がまだ多いと思い、ネタバレ仕様にします。読ませるのです、カリ・モーラ。壮絶な彼女の生い立ち、そしてハリスらしい残虐な臓器売買の男の造型とか(その途中にさらっと出てくる食人鬼とか)も興味深いし。ただ・・・私は、カリ・モーラがあと一歩魅力的な人物だったら、と思いました。惜しいのです、彼女の背景は書かれているのだから。アントニオとの交流があと少し描かれていたら、とか、ラストに至るところで残りページ数がわずかなのにこれ?と思ったら案の定ぱーんと終わってしまうとか。犯罪小説としては読ませるのですが。
読了日:07月31日 著者:トマス ハリス
三体三体感想
正直わかるかどうかすごく不安でした、本格SFと聞いて。そして実際わからない部分もたくさんありました、言葉とかSF用語で。でもでも、それを補って余りある面白さもまたありました。最初まさか文化大革命から始まるとは・・・そして一転して、ゲームの世界が絢爛豪華に繰り広げられ、そこが非常に私は楽しくわくわくしながら読みました、でもこのゲームって何だろう?とずうっと思いつつも。最後の方で、仰天、ええっこういうこと???ストーリーが進んでいくたびに謎がありどきどき感が半端なかったです。次巻が待たれます。
読了日:07月31日 著者:劉 慈欣
続 横道世之介続 横道世之介感想
前作が悶絶するくらいに良くしかもあれ(←ネタバレ)なので、どうやって続なのかとそこも興味津々でした。杞憂。もう最高に良かったし最高の青春小説でした。ちなみにここから読んでも全く大丈夫だと思います、途中で驚愕するとは思いますが。大学を出たものの数十社の会社選考に落ちパチンコでぱっとしない日々を送っている世之介。周りが証券会社に入った親友コモロン、床屋のオヤジ、浜ちゃん、そして奇妙な出会いの桜子さんとその息子、隼人、と多彩であり世之介の善良さに皆が引き寄せられていくのです。近未来も描かれていてそこもまた涙!
読了日:07月18日 著者:吉田 修一
しあわせしりとりしあわせしりとり感想
日曜の午後にゆったりお茶を飲みながら、のんびーり読んで楽しむ感じのエッセイ、絵も途中ついてます。そうだなあ~と思ったり、ここは私と感じ方が違うなあ~と思ったり、くすっと笑ったり(食べ物の脱水に笑った)。でも決して明るい話だけではなく、(嫌なことがあったときに、甘いものとお酒って一緒に頼んでいいんだ!)と目からうろこでした(そこ?)
読了日:07月18日 著者:益田ミリ
夢見る帝国図書館夢見る帝国図書館感想
喜和子さん!作家になる前の主人公が風変わりな老女喜和子さんに上野の図書館の前で偶然出会い親交を深めていくというところから物語部分は始まります。間に図書館の話が挟まれていて、どちらも(物語部分も図書館部分も)とても面白かったです。喜和子さんの佇まいがいいし、彼女の人生の謎も途中で開いていきます。ラスト涙。図書館の歴史の方も固い話と思いきや、最初に日本に図書館を導入した福沢諭吉の話、永井荷風のお父さん(!)の話、情熱を図書館に注ぎ込んでいるのにいつも戦争でお金を持って行かれる歴代の図書館長の話と読ませます。
読了日:07月18日 著者:中島 京子
沈黙の少女 (海外文庫)沈黙の少女 (海外文庫)感想
同作者の謝罪代行社と同じように人称が変わっていき、わたし、きみ、彼ら、の三つの視点の人称で語られていくミステリ。わたし、の部分が、緻密に計算され用意された復讐であり演技であり、このあたりがはらはらしながら読んでいました。きみとわたしの繋がりは、ほどなくわかり(ああ・・・こういうことか)と。ここまでは普通のサイコ的なミステリなのですが、最後まで読むと、読み直してもまだ謎は残りました。ラストもまたええっの展開。とても面白く読んだのですが。巻末、ネタバレ警告の後でいいので、徹底解説をしていただきたかったです。
読了日:07月18日 著者:ゾラン・ドヴェンカー

読書メーター
2019.08.01 2019年7月漫画

バカにできませんでした。
すっごい面白かったし、あと、知らない作品も多数あって是非読みたいと思いました。
藪の中とかは有名だけど、他の太宰とかがちょっとひねってあって面白いなあと思いました。

・・・・・・・・・


たいしたものです。ただただ感嘆。これだけの時を経て、この漫画が描けるって!
時の狭間に生きているのは、エドガーだけでなく、萩尾先生ももしや?と思ってしまう作品。
美しさに酔いしれる作品。


・・・・・・・・・・・

これまたしみじみと読みました。
もしかしたら。
あの時にあったかもしれない人生。でももう戻ることはできない人生。
そんなのを思いました。


・・・・・・・・・・・

進路の話が出てきて・・相変わらず交流は続いています、好きなものを人と話す愉しみ。

・・・・・・・・

この巻、腰を抜かすほど驚くことが出てきます。
ええっと漫画を落とすくらいに驚きました。
そしてまだ続く・・・
2019.07.31 回復する人間


評価 5

心が自然と寄り添うような気持ちで読んでいった、あたかも短篇の中の人達の体験を追体験するような気持ちで。
どの話も、主人公は何かしらの傷を持っている。
それは、実際の体の傷という事から発する心の傷でもあるし、実際の傷そのものでもあるし、全く体とは関係ない心の傷でもある。
静謐な文章で語られていく日常という名の違和感とそして彼らが感じるその裏側、というようなものを感じ取れた。
また、わかりにくい心の動きとか感情なのにそれが手に取るように伝わってくるのは、筆力なのだと思う。
話の作り方がうまく、抽象論で終わらず、具体的にその人がどういう事をしたのか、どういう人と会ったのかということから読み解けていくところが大いにかえた。
死、喪失、痛み、過去への後悔から人間がどこに行くのか。
どういう心象風景が展開するのか。
そのあたりがとても読ませる短篇群だった。
☆印が私が気に言った作品。

明るくなる前に
自分の弟を過失で死なせてしまったことから抜け出せない姉はいつしか海外に目を向けネパール・チベット、砂漠なので時を過ごす。彼女の会社の後輩である『私』は、彼女をウニ姉さんと言って慕っていたのだが・・・
この話、『私』もまた重大な病で死の隣りあわせだったこともあったということが描かれていて、途中でウニ姉さんと『私』の立場が逆転している。元気だったと思ったウニ姉さんと、病気を隠しそろそろと生きてていた『私』の対比。
そしてウニ姉さんとの悪夢についての会話が甦ってくる・・・これは現在の物語であると同時に、過去の会話から導き出される現在を見る、という話でもあると思った

回復する人間
とても良かった、この話。
足がつまらないことからの細菌感染で非常に大変なことになり歩けなくなってしまった『私』。
ここまで読むと『私』の話かと思うのだが、あなた、への呼びかけもある、そのあなたとは姉のことだ。
そう、これは姉妹の物語なのだ。
美貌で勉強もでき両親にも期待され誰もがうらやむような結婚をした姉。全てを持っていたと思った姉は、妹の『私』を実は羨望していた・・・そして姉が亡くなってしまって、『私』は必死にあなたである姉に語り掛ける、過去の事を思い出しながら。
過去の共通の出来事を思い出していくさまが非常に読ませる、姉妹だけの貴重な思い出をこっそりのぞかせてもらっているようだった。
そして、ここには、あるだろう、の『私』の未来も描かれている。
足の事もだが、そこからどのような人生を『私』が生きていくか。
ここに希望がある、足の傷の癒えていくさまが克明に記されているが、それがあたかも人生の修復の様子にも見えてならなかった。

エウロパ
恋愛関係の話だが、ちょっとだけ不思議な恋愛関係の物語。
お互い心を寄せ合っている男女がいる、けれど、男の方は実は女の子になりたい男でもあった、彼女にとても憧れていたのだ、彼女のような女性になりたいと。
そして女性側は不幸な結婚を乗り越え音楽によってなんとか生き延びようとしている。
この二人がタグを組むと最強な感じだ。
なぜなら、一般の男女関係ではないものの、お互いに理解し合い愛し合っているから。
けれどどうしても二人は次なる一歩を進めない、男でありながら女性の格好をしたい僕が彼女を愛しているというねじれたセクシュアリティーという壁があるから。
二人の歩み寄ろうとして歩みきれないもどかしさが切ない。
歌の歌詞がしみじみと心に響く。

フンザ
この話も好きだった。
パキスタンにあると言われいる桃源郷のようなフンザという町。
そこを何度となく心で思い描いている子育てに奮闘している女性がいる。
彼女の中で段々フンザの街の存在が大きくなってくる、でもその一方で本当のフンザの街よりも彼女の中のフンザの街の方がリアリティーを持って彼女の中で育ってくる。
彼女は手いっぱいで子供になかなか目をかけてあげられないことに煩悶している。
そんな時に彼女の心に何度となくよぎるフンザという町・・・
一種の逃避なのだろうが、形を変えてフンザという町を心に描く人って多い気がした。

青い石
生と死の物語。
年の離れた画家を好きになってしまった少女がいる、そしてそれを後年思い出した・・・
亡くなってしまった画家とのやり取りの日々がきらきら光っている。

左手
異色作。
一種SFのようであり、左手が自分の石とは違って動く、というところがミソの話だ。
最初の方では、気に入らない上司に反抗する左手という姿に笑いすら漏れたのだが、途中からかなり深刻になってきて、妻子持ちが女性と付き合うきっかけになるのも左手、そして救いようのないラストになるのも左手・・・

火とかげ
これが一番好きな作品だった、そして希望がかすかではあるけれど遠くに見える作品でもある。
交通事故で左手を負傷した所から始まる両手が使えないという一人の女性の物語だ。
彼女は結婚していてしかも画家でもあるので、両手がダメだという事は筆が持てないので死を宣告されたようなものだ。
夫はよく尽くしてくれていたがこの頃になるとやや疲れてきている、妻のその様子に。
そして、彼女はかつての友達からの電話で自分の写真がある写真館にあることを聞く。
そして友達の家に行くついでに、その写真館を見るのだった、そこで見たものはかつての自分の元気な姿であり、どういう経緯でこれを撮ったのか、その時のほのかな恋心から、背負ってくれたその人の首筋まで一気に思い出は彼女を埋め尽くす。

この話、途中で火とかげが出てきて(友人の子供が飼っていた)その手を友人が挟んでしまい、それが落ちて、そこから再生したという逸話が出てくる。とても象徴的だろう、何しろ主人公は両手が使えないのだから(友人にはそれを隠している)。両手が再生したら、と思うのはこの主人公ではないか!

そしてラスト、一筋の光明が差す、それは手を使って絵の活動をし始めたのだ、筆ではなく。

2019.07.31 カリ・モーラ



評価 4.5

あの、羊たちの沈黙のトマス・ハリスが13年ぶりに書いた作品だ。

マイアミに住むカリ・モーラ。
彼女は、コロンビア人で語るのもおぞましい過去を背負っているのだが、今は移民として働いている。
働き先が麻薬王の邸宅の管理人だった。
そこから邸宅に隠された金塊を狙う犯罪集団の作戦に巻き込まれる・・・
彼女の機知と英知でそれを乗り切ることができるのだろうか・・・


ハリスらしいなあと思ったのは嗜虐趣味の男が強烈な存在感を持って現れてくるところだ。
人が溶けていく装置をうっとりとして眺める・・・
おぞましい人間の臓器密売商のシュナイダーだ。
彼のカリ・モーラに対する執着が恐ろしい。

<以下やや筋に触れます>

読ませるのだ、それなりに。
金塊の入っているらしい金庫を開ける顛末とか(どうやら仕掛けがほどこしてあるらしいし、それを知っているのは死にかけの爺さんだけという困った状態)、頭をひねりどうやってそれを持ち出すかその前にどうやって開けるのかというのが一苦労だ。
この最中にカリ・モーラがほのかな恋心を抱いていた人物が死んでしまう・・・
ここも、もうちょっとカリ・モーラとの接点の感じが描かれていたらもっとぐっと来たのではないか、と思った箇所だ。
なんだか惜しい。

そして悪者対悪者の犯罪小説だと思った。
にまっとする場面も多々ある、特に金塊の話の時に、金庫を開ける手助けをしたカリ・モーラにある恩寵がある・・・
途中サイコ・スリラーではないのだなと悟ったのだが・・・
この部分を期待していると実に悲しい。
そこはシュナイダーとか後半に出てくる、食人鬼のさりげない描写だけなのだから。

あと・・・カリモーラが今一つ精彩がないと思った。
コロンビア軍に捕らえられた少女兵士というすさまじい過去を持っているのに、それが生かしきれていない立ち回り・・・
しかも、ラスト、この残りページ数で盛り上がりがあるのか?というところが、やっぱりページ数と同じくふわっとばたばたっと着地するのはいかがなものか。
カリ・モーラが鳥を保護している場面も、なに?これは?と思っていたのだが、解説を見ると、トマス・ハリスがこのようなことをしているらしい・・・なるほど・・・
2019.07.31 三体



評価 5

本格SFなので全部わかったかと言われたらわからない部分も沢山ある。
けれどそれを乗り越えるくらいに話が面白い。

帯に大森望さんが書いているように、異星文明とのファーストコンタクトの話なのだが、それがどこから始まるかというと、中国の、あの文化大革命から始まるのだ。
だから、これは、中国のそのあたりからの歴史も含めての面白さになる。
知識人が淘汰されていったあの時代の中国のリアルさ、がこのSFの根底に流れているので、絵空事が本当に感じられるのだ。
もしかして本当にこの話、あったのかと。

物理学者の父親を文化大革命で粛清された中国人科学者、葉文潔(イエ・ウェンジェ)。
彼女はある日、巨大パラボラアンテナの軍事施設に招かれスカウトされる。
そこでは人類史に影響を与えるあるプロジェクトが進められていた・・・
数十年後、科学者の自殺が続いている中、おうびょう(ワン・ミャオ)というナノテクの研究者が某学術団体への潜入を請け負った。
そこに見え隠れする三体とは・・・


途中の三体のゲームの話の部分、非常に面白い。
ここは若者に受けるだろうなあ・・・という部分だった。
歴史上の人が沢山出てきて(始皇帝?ニュートン?、しかも入っている最中に時が流れていって、そして見える光景も変わっているようで・・・ゲームログイン状態の時とログアウトした時とゲームそのものが動いている、また前にいた人たちが違った形で出てきているのになぜか入ったその人を覚えている、など、ゲームをしている人ならこの面白さがひしひしとわかるだろう。そしてしたい、このゲームを、と思うだろう。

ただ・・・途中までこのゲームとは一体?何なのだ?三つの太陽?極寒の時と暑い時の繰り返し?三体が出てくるけれどこれは本のタイトルにもなっているけれど何なのだ?というのがずうっとわからなかった。
ゲームのリアルさとその意味の乖離があまりに激しくてわからなかったのだ。

けれど後半、これが一気に解ける。
ああっ一種の踏み絵のようなものだったのかこのゲームそのものが、というのがわかった時に、激しく次を読みたいと思ったのだった。
三巻のまだ一巻らしいので、期待が高まる。

(名前のみ、漢字で書かれているので当然日本語読みしたくなる。
でも英語読みがあるので、そこでどちらを選択するかと一瞬混乱した。ピンクの紙に登場人物一覧があるので、それを見ながら、どの読みにするか最初に決めた方がよさそうだ。)
2019.07.17 続横道世之介



評価 5

なんて素晴らしいんだろう!!!
前作の横道世之介も素晴らしかったけれど、その続編をどうやって作るんだろう???(だって横道世之介で結末がわかってしまっているだけに)と思っていたがそれは杞憂だった。
逆に、横道世之介がどうなるかというのを知って読んでいるので、全てが許せて全てがこの上なく貴重な一瞬一瞬だなあと思いながら読むことになった。
くすっと笑える部分も沢山あった(一番笑ったのが、コモロンの家に大家さんがさくっと入ってきていて、テラスにいるという場面。笑った笑った!)
青春物としても一級品だろう。

これは過去の話でもあるけれど近未来の話でもあるのだ。
ここには現在まだ開催されていない東京オリンピックが描かれている。
そして、そこにとても重要な人物が思いもかけない状況で出ているのだ、このあたりの描き方もとても巧い。
なんといっても、世之介の自然体が胸を打つ。
こうであるべきとかこうしなくちゃというのが彼には一切ない。
流れるままに生きているというとだらしない人っぽいのだが、彼は清流の魚のごとく、流れて行っているのだ彼の人生を。
桜子と出会ったのも流れの中。
彼女の兄と出会ったのも流れの中。
桜子の息子を愛するようになったのも流れの中。
コモロンと居酒屋でぐだぐだ話をするのも流れの中。
床屋で知り合った(というかその前にパチンコの台の奪い合いで知り合った)寿司屋になろうという志を持つ浜ちゃんという女性とのあれこれも流れの中。
こうしてみると多彩な人物が彼の周りを流れていく。

横道世之介。
大学を出たものの、52社から断られいまやバイトとパチンコで生計を立てているという情けない状況だ。
友達のコモロンは、うまく大手の証券会社に滑り込んだ。
コモロンとは道が違ってもどこからともなく二人で待ち合わせしてしょっちゅう会っている。
そんな中、覗きがきっかけで、桜子という子連れの女性と出会うことになる。
桜子の兄の隼人、桜子の息子の亮太、そして桜子の父と知り合いになり、ヤンキーの洗礼をたくさん受けながら、世之介は桜子と徐々に付き合っていくようになる・・・


自然な世之介。
余りに自然すぎる世之介の姿に心洗われる。
無理して生きていなくていいんだ、というのが彼全体からにじみ出てくるのだ。
この小説にも出てくる言葉だが、善良な人、というのは読んでいて心地よい。
桜子の子供の亮太とゴミ箱の蓋で草の坂道を滑っていく姿とか、眠ってしまった亮太を背中に負ぶう姿とか、桜子の兄の隼人と二人で組んでバカバカしいとも思える役どころに本気になって亮太を怯えさせる姿とか読んでいて本当に世之介の人物像が迫ってくる。

また隼人が若い時の過ちで自分の知り合いを寝たきりにさせてしまった後悔から、ずうっと彼を見舞いに行っているという話の中で、さりげなくその家に上がり込む世之介が全く違和感ないのはどうしたことか!!これすらも彼の善良っぷりが全てを許しているということなのだろう。

・・・・
途中コモロンの一つの転換点がある。
彼が自己改革のセミナーのようなもので外で叫んでいる時に偶然世之介と会う。
善良なる世之介も、なにやってるんだと声をかけるシーンが忘れ難い。
コモロンがのちにどうなったかというのも書かれているが、この後の姿を思うとまたそれはそれで感慨深いものがあるのだ。

以下ネタバレ



・コモロンは証券会社を辞めて得意な英語を武器に海外に行って働いていた。

・隼人は被害者が死んだあとに、世界を回る船乗りになっていた。

・世之介は人を助けるために電車に轢かれて若い時に死んだ。

・桜子の息子の亮太は、走るのが好きで入賞は果たさなかったもののオリンピック選手になり、そして目の見えない人の伴走者にもなる。



評価 4.5

日曜の午後とかにお茶でも飲みながら、のんびり読むには最適の本。
益田ミリさんの絵もついて、ゆるりと楽しく読んでいた。

彼女がへこんだりむっとしたりするときに取る行動が、美味しいスイーツとアルコールとか、、、やるな!それでもいいんだ!とちょっと驚いたり、お父さんとの思い出で(お亡くなりになってる)それを誰にも言いたくない気持ちとかすごくわかると思った。そしてお父さんがまだいる世界を作っているという事も(英会話の先生と話している時に、家族はまだ全員いるという事になっている)。
お母さんが元気?と自分を心配してくれるという事のありがたさも、彼女はわかっていてそのあたりもちょっとぐっとくる、自分を機にかけてくれている人が、ここにまだいるんだというその気持ちに。


カジキマグロの脱水というのも面白い。
レストランで言われた言葉らしいけれど、脱水とは!!