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評価 5

脱帽。
非常に心に残ったし、連作のどれもがヒットした一作だった。

官能面が注目されているようだが、そこよりも実際は青春の痛みを嫌と言うほど焙り出している。


家が貧しいことで理不尽な目に合う由井。
そんな中でも彼女を理解する人はいた。
そしてそんな中でも由井は人を愛することを知った・・・


なんといっても冒頭の中学時代の由井と桐原の切ない恋物語が初々しくそして切ない。
心がひりひりする、由井の逃げ場と言うのはないに等しいのだから。
家ではアル中の父が不在、母は昼から酒を飲んでいるような状況、妹は布団をかぶって寝ている(おそらく登校拒否)、そして由井自身は誰からかのおさがりの制服を着ているような状況でクラスでも浮いている。
事実小学校の時にはいじめにあっている。
けれど。そんな中、一重の眼をした大柄の桐原と由井はなぜか惹かれあうようになりお互いを欲するようになる。
このあたりがこんな短い作品なのにぎゅっと濃縮されて描かれていたと思う。
桐原のさりげない温かさ、4人グループになった時の由井のそこはかとない高揚感みたいのも伝わってくる。

そして次からの話は由井の周辺の話だ。
中学校時代にモテモテだった高山は一体いまはどうなっているのだろう。
由井は結婚して子供もできたが、その相手はどういう人だったのだろう。
夜逃げして逃げた場所で助けてくれた人のその後はどうしていたのだろう。
そして最後の話で再び由井に戻る、現在の由井に。

最後、送られなかった手紙がある。
実際には送られたのだが受け取ることのできなかった青春の手紙の一枚が。
これはまさしく青春の痛みそのものだ。
もし彼女がこれを受け取っていたらどうなっていたのだろう。
同じだったのか、結果は。

そういうたくさんの、もし、を考える話でもあった。
もしあの時・・・・
もしあの人に・・・

有島武郎の小説も出てくるのだが、この使い方もとても心憎い。
ここで危うく泣きそうになった。



評価 4.6

冴えない男、軍平の素人探偵連作物。
昭和、が前面に出たミステリだ、まだスマホもパソコンもなかった時代ののんびりとしたミステリ。
ミステリと恋愛だがこの恋愛もほのぼのとしたちょっとした恋愛といったところが昭和感に満ちている。
面白かった。

困った人を見ると助けずにはいられない田沢軍平。
25歳の無職で、外見も冴えない男だ、でもめっぽう推理力は働く。
こうして彼は多くの女性と出会い、多くの謎を解いていく・・・

探偵役がさっぱり冴えなくて、何より探偵なのにお人好しであり、奔走しているというのが目立ったのだ。
反転するのが楽しく一気に読んだ。

運命の八分休符/邪悪な羊/観客はただ一人/紙の鳥は青ざめて/濡れた衣裳

この中で観客はただ一人を大変面白く読んだ。
自分の芝居に知っている人を呼ぶというのは演劇関係者ならやったことがあるだろう。
この主人公もそれをしている、但し呼んだ知り合いがかつての知り合いだっただけではなく彼女と肉体関係があった男と言うことはあるのだが・・・自分の人生を語ったような芝居・・・これにはこういう裏があったのだった。

邪悪な羊は、どうしても天国と地獄の映画を思い出す。
取違い誘拐事件なのだ。
のちの誘拐物の基盤になるのではないだろうか、この話。

紙の鳥は青ざめて、は、結構トリックが凝っている。
読み返せば読み返すほど、意味が変わってくる言葉があるのに留意したい。
2020.08.30 アデル


評価 4.4

本当に申し訳ないが途中まで、何度も挫折しそうだった。
一体アデルとは?
後半、夫視点が加わることでこの話の深みが増したと思う。

夫以外の男と交わるアデル。
彼女は夫以外でないと、満たされないのだった。
決して不美人ではなくむしろ美人なのに何をしても満たされず、可愛い息子がいるが彼すらも存在を忘れるほど男に没頭する・・・

しかも途中で危険な目には当然合っている。
殴られたりもしている。
それでもやめないアデル、医師の夫と可愛い息子、ジャーナリストとしての仕事も持っている、優雅な生活の総てを危険にさらしても自分の欲望に忠実なアデル・・・・

乾いた体に水を入れるようにアデルは男をただただ欲するのだ。
このあたりが、色々な小説を彷彿とさせる。
そして、アデルが欲しているのは最終的には性交渉になってしまうとは思うものの、その前段階、見つめられる、自分が注目される、熱いまなざしで見られる、というところが非常に重要なんだと思う。
自分が思った人の注目を浴びたい、嫌ってほど浴びたい、死ぬほど自分を欲してくれている状態、に焦がれているアデルの姿がある。
だから夫ではだめなのではないか。
安全であるということは欲してくれていないのだから、欲しなくてもいつでも横にいてくれるのだから。

・・・・・
以下ネタバレ含む

途中で病気?と思ったら本当に病気だった・・・
性依存症か・・・
この話、かなり後半で夫が気付くところからが面白い、彼がどういう行動に出るか全く見当もつかないからだ。
怒りまくる、離婚する、殴る、または、

何もなかったように過ごす。

彼がとった行動は・・・



評価 5

ポアロの出発点となったデビュー作。
とても懐かしい。

ポアロがまだベルギー人たち避難民と一緒に暮らしている、と言う設定そのものも目を引くし、ヘイスティングスが戦傷をそもそも癒すために旧友のいるスタイルズ荘に行く、と言う設定もいかにも戦争(しかも第一次世界大戦)があった直後と言うことが如実にわかる。
そしてその家の当主のエミリーは、ヘイスティングスの友人ジョン・カヴェンディッシュの義理の母親であり、また彼女はポアロを助けたという繋がりもあったのだ。

エミリーが結婚した20歳も年下の男がまず目を引く。
何しろ皆に嫌われているし、見た感じも(描写で)いけすかない奴だし、エミリーがどうしてこの人を選んだのかと途中で思ってしまう。

犯人が分かって読んでいると、ああ・・・こうなってるのだなあ・・・ここでこの人がこう話しているなあ・・・と読んでいてそういう意味で面白い。
また最初の殺人があった部屋の様子が、徐々に重要な事が小さなことにあるのだなあということがわかるとそこもまた読んでいて楽しかった。

2020.08.30 ABC殺人事件


評価 5

何度目かの再読。
新しい訳で読むのは初めてだ。

この話、Aの始まる場所でAのつく人が死ぬ、Bの始まる場所でBの人が死ぬ・・・・そしてそこには必ず時刻表(ABC時刻表)が置かれているという殺人事件だ。
しかもよりによってポアロのところに脅迫状が届いているという構造になっている。

初めて読んだ時には、
誰が犯人かということと
なぜこの脈絡のない人たちが殺されていったのか、共通項は何かというのに目がいった。
今回読み返してみて、ある一点が非常に重要な一点だったのだというのをあらためて思ったのだった。
また誰が犯人かというのをわかって読んでいると、その人の言動に目が行くのでそれもまた読み方として面白いと思った。


以下ネタバレ

・なぜ警察ではなくポアロのところに脅迫状が来たかと言う謎。


ここが読み返してみると、よくできているなあと思ったのだった。

2020.08.30 森瑤子の帽子


評価 5

読んでいて胸が詰まって何度も本を閉じたり開いたりして、そして読み終わった。
一時代を作った森瑤子。
女性の憧れだった森瑤子、文章が書け、本は売れ、外人の素敵な旦那様と輝くような三姉妹を持ち、別荘を海外に持ち、素敵な帽子と洋服で周りを魅了した女性。
何よりもその潔い行動と言動で、彼女ならではの美学を教えてくれた女性。
80年代当時影響された人は多いのではないだろうか。
そして彼女は、52歳と言う考えられない若さで急逝する・・・

彼女が亡くなってから時間がたち、作品もそれと共に絶版の本が多くなっている。
果たして彼女はただの時代の先駆者だけだったのだろうか。単なるはやりものだったのだろうか。
とくに初期の作品が大好きだっただけにこの本を読むのにとても勇気が要った。
彼女が実生活でどうだったかと言うのはおぼろげには彼女自身が書いたものからなどで知っていたからだ。
でも読んで良かったと思う、こういう中で、あたかも鶴が自分の羽をむしって布を織っていたように森瑤子は自分の身を犠牲にして作品群を作り上げてくれたような気がする。

この本を読んで、率直に、やっぱりなあ・・・というのが最初の感想だった。
保守的な夫との確執、三姉妹の育て方への葛藤、働く女性の実像、セクシュアリティの問題、が余すことなく描かれている。
あの情事の鮮烈なデビューの裏にはこんなことがあったのか、というのがたくさんあってそこも大きく納得したし、そもそもこの本を島崎今日子が書いたと言うのも山田詠美の存在があったからと言うのも初めて知った。
山田詠美といえば、冒頭にも出てきて、彼女の森瑤子への思いが綴られていてそこもあまりに森瑤子の姿が生々しくわかったのだった。
憧れであると同時に、彼女が孤独を抱えていたというのを見抜いていた若き日の山田詠美の眼、というのもまた光る。

・・・・
この本そのものが、家族(旦那さんを含め、三姉妹の娘たち)の話を入れ込みながら、森瑤子がずうっと心から消していなかっただろう亀海さんとの結びつき、大学時代にバイオリンを芸大に行くまでに習っていたのに捨てて謳歌していた青春の一コマ、その時代に付き合いのあった人たちにも聞いているし、最後の方で、一番近かった秘書の人にも話を聞いている。
このあたりがフラットに描かれているので、比較的書き手の思いのようなものが排除されている。
それが非常にこの本に合うと思った。
濃い出来事、森瑤子本人も含め濃い人々が現れてくるので、ここにあまり思い入れの強い作者の言葉が出てくると読み手は辟易することになるだろう。
そこは淡々と事実を拾っていく姿勢がとても好ましい。

読んで、読み手側がどう感じるかというのはそれぞれだろう。
成功するってどういうことなのだろう。
彼女が持っている孤独が、元々あった孤独だったのか、それとも彼女が持っている元々の孤独が成功して増幅された孤独になったのだろうか。

私は、もし森瑤子が孤独を抱えていない人間で順風満帆な結婚生活であったら平凡な主婦としてある意味幸せだった、とは思うが、それは別の意味であの作品群が私たちにもたらされない不幸でもある、と思った。
2020.08.30 死んだレモン


評価 4.8

ニュージーランドのミステリだ。
ナイオ・マーシュ賞新人賞受賞。

冒頭で、絶体絶命の男が出てくる、それが主人公のフィン・ベル(作者と同じ名前)
彼は、車いすを使う障碍者であり、今では崖の途中で車いすごと引っかかってさかさまになっている、あともう少しで死ぬところだ、しかもどうやら敵?らしき人がこれから来るらしい、という状況に置かれている。

ここから以前の生活に話が戻る。
このミステリ、過去と現在を行ったり来たりする手法が撮られているのだが、なんせ崖の方の状況は一刻の猶予もなく緊迫感に満ちている、そして何があったのだろう?と過去を覗きたくなる(と言うのが上手い)
そして、主人公のフィンが飲酒運転の末車いす生活になったこと、妻が出て行ったこと、ほぼ自暴自棄になりニュージーランドの南のコテージに住み始めたことまでわかってくる。
ところが、ここは隣に近所から恐れられている、ゾイル三兄弟が住んでいて問題を起こしているというのがわかってくる。

ゾイル三兄弟が登場して、ようやく冒頭の部分からのもう一つのパートが何かというのがわかってくる。
と同時に、フィンの心を解き明かす、カウンセラーの存在もまた強烈に印象深く出てくるのだ、そのセラピストがベティ・クロウ。色々な課題をフィンに投げかけ、表題のデッドレモン、死んだレモンは人生の落伍者と言う意味なのだ。
何度もベティからその問いかけがなされる、フィンあなたはデッドレモンなのかしら?と。

フィン自身が住んでいたコテージのアリスと言う少女がある日突然いなくなり酷い有様で死んで見つかるという事件があったことを知ったフィンは、素人探偵になり26年前のその事件を解き明かそうとする・・・そしてそこには隣のゾイル三兄弟の存在が大きくあったのだった・・・

心が何もなくなったような絶望の淵にいたフィンがいかにそこから立ち直っていくかと言うところも読めるミステリだ。

・・・・
ニュージーランドだけあって、マオリ族の様子や過去の入植者についての描写がそこここに見られる。
車いすのスポーツ、マーダーボールで仲良くなったタイの一家とのやり取りもまた心温まる。

ただ・・・私にはカウンセリングの場面が自分に合わなかった。
サスペンスのような展開なのに、カウンセリングのところで一歩違うところに行く気がしたのだった。
7月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:3319
ナイス数:325

もう終わりにしよう。 (ハヤカワ・ミステリ文庫)もう終わりにしよう。 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
ジェイクと私が付き合い始めて、ジェイクが自分の実家に彼女を連れていくというシーンがあり、実際実家に行くのですがなんだか変な両親と変な農場と変な動物たち・・・何かがおかしいがその何かがわからない・・・そしてそのあとにジェイクが向かった先は・・・うーん、私の思ってる解釈で合っているのかしら・・・

カウフマンが映画化するというのでそれに期待します。
読了日:07月31日 著者:イアン リード
たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説感想
非常に面白く読みました。副題に昭和24年の推理小説とあったので乗れるか?と思ったのは杞憂でした。敗戦直後の日本の様子を資料だけではなくおそらく作者ご自身の実体験も含め描いているので臨場感あふれていました。青春ミステリでもあり推理小説同好会と映画研究会の合宿で殺人事件が起こった、そのあとも奇怪な殺人事件が・・・推理小説と映画の蘊蓄の披露もまた楽しく、トリックもなるほど、と思いました。犯人の動機が痛いほどわかってぐっときましたこれも時代を感じさせるもの。そしてラスト!ああ!なんてすばらしいラスト!こう来たか!
読了日:07月31日 著者:辻 真先
パーキングエリア (ハヤカワ・ミステリ文庫)パーキングエリア (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
平凡な女子大生ダービーが猛吹雪の中パーキングエリアに閉じ込められ、その駐車場で車の中に監禁された少女を偶然発見、というところから始まります。パーキングエリアの小屋にいるのは4人の男女。誰が犯人かわからず、ダービーは動き始めるのですが。そのあたりの動きを非常に面白く読みました。ワンシチュエーション(しかもパーキングエリアと言う地味な場所)で出てくる人が少数・・・でも後半、もう壮絶な戦いが!会話も面白かったです、車の中の少女がまた賢いし。ただ・・・動機があと一歩の気がというのとラスト、ええっ・・・涙・・・
読了日:07月31日 著者:テイラー アダムス
一人称単数 (文春e-book)一人称単数 (文春e-book)感想
6年ぶりの村上春樹の短編集。エッセイ的な話も織り込まれていて、また小説では比喩とか話の展開とか言い回しに心委ねて楽しい時間を過ごせました。が、ファンだからのような気もします、もし一般の人が初めて村上作品でこれを読んだら、ヤクルトファンであることも知らないだろうし、音楽に造詣が深いことも知らないだろうし、そもそも小説とエッセイの境界線がよくわからずどう感じるのかなあと思います。表題作の一人称単数が私は気に入りました、一見村上春樹っぽい人がただお酒を飲みに行く話なのにこの展開。東京奇譚集を読むことをお勧め。
読了日:07月31日 著者:村上 春樹
木になった亜沙 (文春e-book)木になった亜沙 (文春e-book)感想
変な話3篇!面白かったです。こういう類の話は下手に書けば独りよがりになると思うのに、そこはこの作者なので非常にうまいです。何しろ最初の話は、自分が食べさせようと思ったものは誰にも食べてもらえない亜沙が木になっちゃって(ここだけでもかなり変)更に割りばしになって初めて人に食べさせられる、、、奇妙だけどでも面白い、そしてこの戦慄のラストと言ったら。次は的になると当たらない女の子、途中の展開でええ・・・と思っていたらまさかの後半の展開、ラストは寝たまま移動の女性、このラストも!!!普通に暮らしてるという驚き。
読了日:07月15日 著者:今村 夏子
旅のつばくろ 電子オリジナル版旅のつばくろ 電子オリジナル版感想
久々に沢木耕太郎の旅の話を読みました。今回は日本国内の旅。どこどこの何がおいしい、どこどこのどの景色がきれい、そういうのも旅の楽しみですが、これを読んでいるとそれのみならず人とのつながりから面白いところを発見したり不思議なつながりが見つかったりと、ここも大いなる旅の楽しみだと改めて思いました。過去に出会った人、過去に書いたものとのつながりの部分の旅は特に面白く、檀一雄や井上靖、永六輔などへの言及も楽しく読みました。予定された旅の中でもちょっとした意外性を見つけて燕のごとくあちこちに飛んでいく姿が印象的。
読了日:07月15日 著者:沢木耕太郎
ぜんぶ本の話ぜんぶ本の話感想
作家の池澤夏樹(父)と声優池澤春菜(娘)の本についての親子対談でした。本を大変よく読んでいる二人なので、幼少期の児童文学からSF、ファンタジーミステリ、そして一般の本まで語られるのが非常に魅力的でした。微妙に得意分野?が違っているのでそこもまた読みどころ。福永武彦(池澤夏樹の父)への言及も興味深く読みました。また本の話に絡めながらお互いの生きた道のりを語るところも読ませました。
ただ・・・誤植が非常に惜しい(188ページ、最初の二人の名前が逆になっています)
読了日:07月15日 著者:池澤 夏樹,池澤 春菜
サキの忘れ物サキの忘れ物感想
すごく良かったです、どの話も面白く読みました。表題作は本を通じて何者でもなかった千春が何かを見つけていくといういわゆるいい話なのですが、でもそれで終わらないのがこの作家の凄味のあるところ、10年後のこの女性病院通いをしているというところで不穏な感じが漂います。でも何と言っても私が好きだったのは行列。不条理な世界が広がっているのに、『ただあるものを見るために12時間並ぶ、そこで起こる人間模様の悲喜劇』がありそうで、コルタサルの南部高速道路を思い出しました。真夜中のゲームブックも実験的小説で楽しかったー!
読了日:07月15日 著者:津村 記久子
念入りに殺された男 (ハヤカワ・ミステリ)念入りに殺された男 (ハヤカワ・ミステリ)感想
作家志望の田舎の主婦の民宿に、賞もとり国内で誰もが知ってる作家(彼女もファン)が静養にやってくる、最初の方から少しするまでは主婦が何をしたいのかというのがよく把握できず、彼女が家族を捨て都会に行ってから、ようやくああ!そういうことなのかとわかりました。この話中盤あたりから加速度を増して読み続けたくなります。人が別人格になりたい欲求、SNSの功罪、そのあたりがツボでした。作家志望の主婦且つ彼のファンがキーになるし、頭脳戦の様相にもなってきました。あ!指も大事なキーなのですが、最初から分かっていたのかしら?
読了日:07月15日 著者:エルザ マルポ
果てしなき輝きの果てに (ハヤカワ・ミステリ)果てしなき輝きの果てに (ハヤカワ・ミステリ)感想
間違いなく年間ベストの一冊だと思います。貧困、汚職、薬物依存、シングルマザーなどの社会問題を孕みながら普通の優れた海外文学を読んでいる趣がありました。姉が警官妹が娼婦。かつて貧困の中で祖母に厳しく育てられた姉妹が相対する立場にいるところから始まります。ドラッグが蔓延している街で連続殺人が起こっていて、姉は不明の妹がその犠牲になっていないかと疑心暗鬼になっています。二人の確執が何から来ているのか全くわからなかったのですが、後半分かった時にああ!と(犯人がわかった時より感動・失礼)。微かな光もまたありました。
読了日:07月04日 著者:リズ・ムーア
その手を離すのは、私 (小学館文庫)その手を離すのは、私 (小学館文庫)感想
最初の和やかな母子の帰宅風景から暗転、子供が母の目の前で車に轢き逃げされ死亡・・・母の絶望感が伝わってくるだけに涙・・・そして名前も素性も隠した一人の絶望した女性ジェマが行き当たりばったりに行きついたのが浜辺の小さな町、ここで彼女はアーティストとして生計を立てられるようにまでなりパートナーもでき、と生きていく希望が見え始めた、と思いきや!第一章のラストのツイストに驚愕しました。ええっ驚き!!そして第二章からは新たな事実が次々と!プロットが練られています、ただ私には解せないところもまた数か所ありました。
読了日:07月04日 著者:クレア・マッキントッシュ
透明人間は密室に潜む透明人間は密室に潜む感想
初めてこの作家さん読みました。そしてすごく面白かったです、別作品も読んでみたい。
4編短編が入っていてそれぞれに趣向が凝らされています。表題作が私はめちゃくちゃ気に入りました。一見バカミスっぽいのですが、どうしてどうしてきちんとした透明人間設定の倒叙ミステリです。殺人の方法にも舌を巻きましたが、最後の動機にああっ!と唸りました。アイドルオタクたちが集まる裁判員裁判の話も楽しかったし、聴覚が優れている探偵活躍の話も伏線が見事だったし最後のクルーズ船の話はリアル脱出ゲームそのものがすごかった、よくできてます。
読了日:07月04日 著者:阿津川 辰海
コロナの時代の僕らコロナの時代の僕ら感想
2月時点でイタリアに居住している作者がコロナについて書いたエッセイ。新聞連載だけあって非常に平易でわかりやすく、作者自身の悩みで人から誘われた集まりに出るか出ないかなども語られていて好感が持てました。
ある種の警鐘は鳴らしてはいるものの、決して上から目線ではなく読者と同じような立場で物事を見ている目、もまたありました。これを読んで、コロナ真っ最中ですが、コロナ後の世界というのも考えねば、と強く私は思いました。
(作者が『素数たちの孤独』の人だったので読みましたが、これも好著でした)
読了日:07月04日 著者:パオロ ジョルダーノ

読書メーター


評価 4

え、なに?これで終わった?
ネットフリックスであのカウフマンが映画化するというので興味を持って読んでみたのだが・・・

これはホラーなのか?
スリラーなのか?
それともサイコパスの物語なのか?
そこすらよく見えてこない。
私の考えている結末で合ってるのか?

読んでいるとぞくぞくと何かがおかしい、と地面が揺れている感じは味わった。
何かがおかしいのに、それを指摘できない女性がいる。
彼の実家の様子も変だし、家畜も汚いし、家の様子も妙だ。

・・・・
話は比較的単純で

二人の男女がいて、
女性を連れて、男性側が自分の実家に行くという状況だ。
車でのやり取りから
男性側が比較的理屈をこねる気難しい男、であり
女性側がそれに応じながらもそこまでの気持ちが男に対してないというのもわかってくる。
とりあえず二人の関係は終わりにしたいと言う気持ち満載なのだから(であるならなんで行く!と私は突っ込んでいた)

何度も彼女の携帯にメールが来る。
そこには
「答えを出すべき問いはただ一つ」
とわけのわからないメールが来るのだ。
最初見ていた女性も最後は見ないようになってくる。

そして実家。
受け入れられるが、どうも彼の両親の様子が変だ。
もしかして母親が精神的な何かの病かもしれない。
彼女にやさしく接してくれるのは彼の父親のみだが、その農園は荒れ果てている・・・・

やっとのことで、そこを出ると今度は今はやってなさそうな学校に真夜中に到着し、男が入っていく・・・
女も追うのだが・・・・そこで用務員が掃除をしているのを見かけるのだった、無人のこれまた奇妙な学校で。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

以下ネタバレ

私の解釈

・用務員はジェイクであり、この女性もジェイクである。
心が分裂していた用務員、もしかして多重人格の兆しが?
牛乳などにアレルギーがあると女性が言っていたが、それはこの用務員そのものだった。
そしてジェイクの両親は(用務員の両親)ずうっと前に死んでいたので、あの農場を訪れたシーンは全くの彼の創造の中の産物。

用務員は孤独の中、学校の中で自ら死ぬ、クローゼットに入り込んで自分を刺して失血死した。
この物語は用務員が書いた物語。


評価 5

とてもとても楽しい小説だった。
副題に昭和24年の推理小説、とあるので、読む前は警戒して、(その時代の話に乗れるだろうか?)と危惧していたのだが、全くそのような心配は杞憂だった。
逆に、昭和24年がどういう時代だったかというのを普通の目でとらえられていて、知らないこともたくさん知った。
これは、資料のみ(資料ももちろん使われたとは思うが)ではなく、作者の辻真先の実体験も大いに入っていると思うので、本当にそのあたりも臨場感たっぷりだ。
戦後日本の混乱期、そこに生きる人たちにまつわる苦悩と喜びの人生も生々しく感じられる。
アメリカに負けていったい日本はどうなったのか。
どういうところを目指しているのか、そのあたりも考えさせられる。

また、名古屋という場所の出来事というのも私にとっては新鮮だった。
東京の話はよく聞いているのだが、名古屋もこんなに爆撃とかがあったのか、と改めて思い知らされた。
キティ台風も知ってはいたがこうして読んでみると、ものすごい台風だったのだなあと改めて思い知らされた。

加えて、この話青春ミステリなのだ。
昭和24年時点の男女共学になったばかり(!)の学生たちのやり取りがなんともこそばゆいしどきどきする。
あだ名が古めかしくそこは微笑んでいた・・・いまどきこういうあだ名ってないんだろうなとも思っていた。
旧制中学と新制の入れ替わりの時期の高校生たちのなんと眩しいことと言ったら!

また映画研究会と推理小説研究会の合同合宿と言う設定なので、もう出るわ出るわ、探偵小説(当時の呼び名で)から、映画の蘊蓄からのあれこれまで沢山出てきてそのあたりもとても読んでいて面白い。

しかも実際に密室殺人が起こる!首切り殺人が起こる!
もうたまらない設定だろう。

昭和24年、ミステリ作家を目指している風早勝利(かつ丼)は、推理小説研究会を作っていた。
顧問の勧めで、映画研究会と合同で一泊旅行を計画する。
顧問と男女生徒5名で湯谷温泉へ行くのだが、そこで密室殺人に巻き込まれる・・・
また夏休み最後には、廃墟での首切り殺人事件、が起こる、キティ台風が来ている中での事件が起こる。
勝利たちは、これらに遭遇するのだった・・・


どうやって、という手段いわゆるトリックも面白かったのだが、首切りも密室も両方とも。
それよりも、動機が非常にわかって、ここがまた良かった、しかも時代とつながっている、

更に、この小説が完璧なのは、最初と最後が呼応しているのだ、なんとも心憎い方法で。
ラストの一行まで楽しめた一冊だった。

(そして前作は昭和12年らしいのでこれもぜひ読んでみたい)


以下ネタバレ



顧問別宮操が妹の敵討ちをする、犯人。
最初に顧問が入ってくる場面で、犯人はお前だと言っている、この遊び心!
ラスト、推理小説を書いているという設定でこの最初の文章を書いているという入れ子の素晴らしさ!!