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評価 4.9

相変わらず変な話だ!(褒めてます)
そして舌にざらつきを残すような話で心に引っかかりを残す。
今村夏子の作品を読むと、必ず何かが引っかかる、そしてその引っ掛かりは、もしかして自分も夢の中とかで感じていたものだったのではないか、ちょっとした瞬間にふっと思ってしまったことだったのではないか、という錯覚に近い物すら感じるのだ。
異世界とかではないのだが、ちょっとした日常から違う世界をこっそり覗き見る、そういう気持ちがする作品だった。

むらさきのスカートの女、の奇妙な人間がいる。
髪の毛もばさばさで身なりに構っていなくて、クリームパンを公園でもそもそと食べるような女。
定職についていないでふらふらと一時雇いの仕事で糊口をしのいでいる女。
公園にいると子供にすら馬鹿にされる女。
近所の人にも敬遠されている女。
ところがこの女がある時に職を得て・・・


この話の面白さは、むらさきのスカートの女、としか繰り返し書いていないけれど、この人のことを語っている『黄色いカーディガンの女』がいる、ということだ。
ねじくれた関係の二人。
正常な目で見ると、黄色いカーディガンの女は、むらさきのスカートの女のストーカーでもある。
何でこの人はこんなに知っているのか!むらさきのスカートの女を。
でもストーカーというにはあまりに接触がない。
ただただ彼女を蟻の観察のように観察しているだけだ。
彼女の想像の部分、彼女の妄想の部分もここにあるのだ。
しかもむらさきのスカートの女に固執するあまり、突っ込んでいった先の店のガラスまで割って弁償する羽目に陥るのが黄色いカーディガンの女だ。
髪の毛を洗ってほしいという思いから、試供品のシャンプーをむらさきのスカートの女の家のとってにぶら下げておくのも彼女だ。(このあと髪から漂う匂いの説明が何度もある、ここも執着か・・・)
また、むらさきのスカートの女の行く公園のベンチは一定なのだが、そこに座ったサラリーマンをこれから人が来ると追い出すまでの行動力もある、普段おとなしそうな人なのに、黄色いカーディガンの女は。
いったいこの執着とは・・・

そしてむらさきのスカートの女に求人雑誌をさりげなく提示し、自分の職場(ホテルの掃除の従業員)に誘い込むことに成功する。
そこでも黄色いカーディガンの女の観察は続く。

むらさきのスカートの女はこの職場で意外にも適応力を発揮し、変貌を遂げる。
職場の人と打ち解け、仕事を任され生き生きとし始め美しくなり、そして公園で子供達との友好関係まで作っていく。

・・・・・
むらさきのスカートの女、にも、黄色いカーディガンの女にもそれぞれ名前は出てくる。
けれどこの話の中で一般的な名前、呼称がどんなに関係ない事か。
最初読んでいると、むらさきのスカートの女が圧倒的に病的で変な人間に見える。
ところが途中から(働くあたりから)、変なのは見ている黄色いカーディガンの女であり、彼女の病的資質が透けて見えてくるのが恐ろしい。

ラストに続く流れのところで一方的な黄色いカーディガンの女の思いが炸裂する。
そして暗転・・・・

そしてラスト!
面白い大変面白い、このラスト一行が。


以下ネタバレ

・職場の上司と不倫関係になったむらさきのスカートの女。
そして職場の備品を盗んで小学校のバザーで出していたと疑いをかけられた女。
(これは黄色いカーディガンの女だろう、やったのは。
最初の方に書いてあるのだから、バザーで売っていると)

上司がアパートまで来た時に振り落としてしまう。
死亡したと黄色いカーディガンの女が宣告し、むらさきのスカートの女に逃げろと指示する、自分も後から追いかけるからと言って。
ところが。

黄色いカーディガンの女の総ての財産をもって、むらさきのスカートの女は逃走。
上司は怪我はしていたが結果死んではいなかった。
むらさきのスカートの女の上司に対するストーカーという事で一件落着させようとしていた。

・・・・
・そして公園のベンチに行ってクリームパンを食べる女が、黄色いカーディガンの女。
つまり最後、

むらさきのスカートの女、と黄色いカーディガンの女が重なる。
黄色いカーディガンの女がむらさきのスカートの女に取り替わっているのだ(ここが面白い)



だがなぜ彼女は話さないのか。
エウリピデス『アルケスティス』


評価 5

(サイコセラピストは『診る側』、原題はThe Silent Patientなので『診られる側』と、タイトルは逆になっている)

最後に至るあるページで度肝抜かれた!!
あらゆる想定をしていたが、私の想定をはるかに超えていた!!
本を取り落とすほどの驚きだった!ここだけでも満足度があるけれど、そこに至るまでの経緯が非常に読ませる。
サイコセラピスト側の独白のみではなく、最初から、患者側の今は黙しているアリシアの日記が織り込まれているので複数視点になっていてそこもまた読むポイントの一つになっている。

内容的にも、サイコセラピスト(心理療法士)が、精神病院に入院して6年間沈黙している女性の口を開かせる任を負うところがメインの話だ。
しかもその女性アリシアは、愛していた夫を銃で殺していた、体を縛り上げたこの上なく残忍な方法で。
話の行く末が見えなくて面白いし、それぞれの家庭の事情と出自も含めページターナーであるのでついつい次のページをめくってしまう。
プラス、ギリシア悲劇の『アルケスティス』がモチーフとなってあちこちに重低音のように響いている。
この話をこのミステリに入れ込んだセンスの良さが伺える。

父親に抑圧されて暴力に支配されて育ったセオは、対人関係でも生きていく上でも何に対しても自信がなかった。
そんな彼を救ってくれた心理療法士がルースだった。
他の人を救いたいという思いの元にセオの選んだ職業は心理療法士であり、得難い愛するキャシーという女優の伴侶も得た。
順調なキャリアの途中、『夫を殺して6年間沈黙し施設に収容されているアリシア』という女性画家の口を開かせるのは自分しかいないと、その施設に乗り込んでいくのだが・・・



精神病院関係の人は、患者であっても先生であっても誰もが胡散臭い。
セオがアリシアを診ることすら拒絶する先生がいるし、そもそもこの施設そのものが存亡の危機に瀕している(だからこそ、セオがアリシアの口を割れば施設継続のプラスになるので、これはセオにとってプラスになったわけだが)。
セオがアリシアを診てもいい派と拒絶派がくっきり二派にわかれているのだ。

セオが美しい女優の妻キャシーにほれ込み相手からも愛されるという僥倖に恵まれたことの流れも微笑ましい。
陰惨だった彼の人生を照らしてくれた唯一の人それがキャシーだったのだ。
彼女の闊達さ、美しさ、太陽のような明るさがセオを救ってくれた。
また患者側のアリシアもまた幼少時のトラウマから抜け出したのは、写真家の愛する夫ゲイブリエルのおかげだった。
彼女に存在価値を教え、彼女の画業の進展に寄与し、愛することを教えてくれた人間性豊かなゲイブリエルのおかげでどんなにかアリシアは救われたことだろう。
このミステリは二人の病んだ心を持った人間(セオとアリシア)が愛する人たち(キャシーとゲイブリエル)によっていかに救われていたか、というのが非常に重要な部分になってくるのだ。

一体何があったのか、この愛し合っていた夫婦に?という部分も勿論興味が出てくる。
そして勢い込んでこの人の心のケアに乗り込んできたサイコセラピストセオもまた幼少時に心を傷つけられ、彼もまたルースという心優しい心理療法士に出会って何年もかかって治療した、という患者側でもあったのだ。
今はその経験を活かし、患者を診る側、になっている。
いつアリシアが真実を話すのか。
そもそもアリシアが殺したのか。
沈黙しているわけは何なのか。
セオの使命感とは何なのか。
セオの思いは達成できるのだろうか。
このあたりが物語を牽引していく。

とても面白く読んだのだが惜しいと思うところもいくつかあるのだ。
ここがもうちょっとこうだったら、というのはない物ねだりか。

映画化もあるようで、映画化されたら是非見たいと思う作品だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・

以下ネタバレ

・最大の驚きは、

セオが決して自分が治せるという気持ち(使命感)だけでアリシアの治療にあたったわけではなく
(そしてここは読んでいて疑問に思ったところの一つ。
いくら自分がかつてセラピストによって回復したからと言って他の人を回復させることへの異常な使命感、またアリシアにターゲットを絞った違和感はあった。
最後まで読むと、あえてのアリシアということがよくわかる、セオは何しろ事件にかかわっていた当の本人なのだから。)

当の本人のセオが、6年前の殺害現場にいたこと、
どころか、椅子にゲイブリエルを縛り上げたのはセオだったこと、
銃で脅したのもセオだったこと、
そしてずっとアリシアが誰かが付きまとっていたというその、付きまといの誰かがセオであったこと、

だった。
実際に殺したのは、アリシア。
でもそのおぜん立てをしたのはセオ。
(セオはアリシアがその後殺したというのはニュースで知った。その前に退室していたから)
6年前にアリシアの夫ゲイブリエルを縛って殺そうとしていたのは(実際は殺していないが)セオであった。
その時に選択をさせる、ゲイブリエルに。
自分か、妻かどちらかを殺すと言ったらどうするかと。
そしてゲイブリエルは自分を生かしてほしいというのだった。

幼少時に父親から妻の代わりに娘が死ねばいいという暴言を聞いて自分の存在価値をなくしていたアリシアは夫に父親の目を見る。
またこの時に愛していた夫ゲイブリエルは不倫をしていたという事実をセオに聞く。

・セオは、ゲイブリエルを憎んでいた。
なぜなら、愛する妻キャシーの不倫相手だったから。
ゲイブリエルを監視しいつか罰するべく、ゲイブリエルの家の周辺をうろうろしていたのだった。

・時制が並列に書かれているのでわかりにくいのだが、

ルースに自分の妻キャシーが不倫していたという事実を話し泣き崩れるセオの姿は6年前。
キャシーが不倫していたのも6年前の出来事。

そして、キャシーの相手のゲイブリエルは殺され、キャシーは6年後見る影もなく太ったただのだらしない女性になる。

・ルースの治療はセオに役に立っていなかったということも描かれている。
これがルースをがっかりさせることだという事も。

結局ルースの長い間のセラピーはなんらセオの幼い時に痛めつけられた心を根本的には回復させてなかった。
途中で薬を復活するようになるのも、だし、キャシーとの間の縁を切る決断も出来なかった(ルースはこれを勧めた)

・一点惜しいと思うのは。

ゲイブリエルとキャシーがそれぞれを相手に不倫していたわけだが。
これは一時期の気の迷い?
ゲイブリエル、キャシー側からの、なぜ不倫をしたかというのが知りたい、これだけ愛し愛されていたと見える夫婦なのに。
心を病んだ配偶者が重荷だったのか・・・(というのが私の想像

この二人がどうやって出会ってどうやってこの深い仲になり、どうやってそれぞれの配偶者に思いをはせていたのか。
そのあたり描いてほしかった。





評価 4.7

初めて読む作家さんだ。
原題はLOOKER。

語りが一人称で書かれている。
『わたし』が近所に住む女優をずうっと見ているストーカーのような話ではあるのだが、それプラス、彼女の行動とその心があちこちで奇妙にねじくれているということが読んでいるうちにわかってくる、彼女の状況と共に。
それがリアルではあるのだが、『わたし』の視点であり、時に妄想も入るので、妄想と実際の出来事との境目が見えにくいなあと思った、他視点が少しでも入れば、この人の実像が出てくるのに。
いや、この一人称がいいところなのか?とそのあたり考え込んでいる・・・

一気に読む小説でもあった、次はどうなるかという興味の元に。
そして最終でどうなるかというのは想像の範囲内は超えていないのだが、そこに至るまでのプロセスが案外読ませるのだ。
彼女の心が壊れいていく様子が徐々に描かれていく様子が読ませる。
ストーカーの自分を見る目、妄想を持ったストーカーがどうやって自己肯定していくかという行動面を見た気がした。

『わたし』は近所のセレブの有名女優をずうっと見ている。
彼女は脚本家の夫がいて、愛くるしい3人の子供にも恵まれ、キャリアを積んでいる。
絵に描いたような
一方『わたし』は不妊治療の末子供は授からず、愛していた夫は彼女のもとを去っていく。
大学の講師をしているが、それすら危うい状況だ。
片方は、仕事家庭で全てを握った女、片方は全てを失いかけている女・・・


女優との対比があり、何より決定的なのは、自分に子供が出来なかったという事実だった。
これが『わたし』の心をかなりむしばんでいる、どころかこれがほぼ原因で夫が離れていっている・・・と思っていたら、途中で、この夫が離れていったのは、『わたし』が有名女優のストーカーのようになっていて彼女の捨てた物を拾って来たり(それもいらない赤ちゃんのガラガラとか)するのにうんざりしていることもわかってくる。(彼女の精神の異常に誰よりも先に気づいていたのが夫だったのだ!)
しかもそれは加速度的に増していく。
最初はいらない物、だったのに、次は玄関先にある子供の自転車(窃盗になっていく)に。
更にこれらストーカー獲得物を入れる部屋まで作りそこにはドアがないのでガムテープでドアを作るという凝りようだ。
このあたりに彼女の異常性が見て取れる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんといっても白眉は二回行われたご近所パーティーだ。
最初のパーティーではさほど接触はなかったものの、二回目は女優と接触を持ち話すことまでできるので有頂天になる。
このあたりの『わたし』の心のアップダウンが非常に読ませる。
また女優の夫と関係を持つという妄想も抱くようになっていく。

加えて、学校内での出来事も描かれている。
『わたし』は教えてる立場なのだが、そこに気に入った青年がいて彼が自分を好んでいるという妄想を持つ。
(ここがわかりにくい、妄想なのか本当に彼がそうういう様子を指し示したのか)
そしてとうとう彼と関係を持ってしまうのだ。
このことであとで困った立場に追い込まれていくのだが・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・
また友達がいないかといえばきちんといて、彼女は『わたし』を少なくとも気にかけてくれている。
しかし『わたし』から見るとそれは全て余計なことであり、友達ともいえない状態と思い込んでいる。
ここに『わたし』の心の闇が覗いている。

夫との関係はどうだっただろう。
夫の愛猫を返さないという手段に打って出る『わたし』の姿は夫に対する報復のような趣すらあった。
あれほど愛し合っていたのに。
あれほど楽しい思い出があったのに(楽しい思い出を語る時に生き生きとしている)
何度も夫が返せと言っているのに返さないので、パーティーの席にとうとう夫がやってくる羽目になってしまう。
ここが、
女優に話しかけられた有頂天から、元旦那に皆の前で罵倒された最底辺まで心が落ち込んだ『わたし』が如実に現れている場面だ、
ここが分水嶺になって・・・・


以下ネタバレ

・猫を殺す

・これは意図したものではないものの、近所のミセスHを突き飛ばしおそらくは死んでしまっている・・・


評価 4.5

これまでのルメートル作品を読んでいたら、読みたくなる一冊だろう。
なぜならただ一度だけのカミーユ警部の復活なのだから。
私から見るとカミーユ警部もだが、お気に入りのルイもこれで最後と思うと悲しくてならない。

パリで爆破事件が起こった。
幸い死者は出ていなかったが、犯人が名乗り出て拘束された。
しかしまだ爆破は続くという、あと6つ仕掛けてあると言うのだ。
その場所を教える代わりに、要求があり、収監されている彼の母親と自分を解放し一定の金額を欲しいというのだった。
犯人の目的は母親解放なのか。


今までの作品からするとややトーンダウンしているのは否めない。
長編ではなく中編であるということも関係しているのだろう。
出てくる情報が、ええっという驚きよりも、やっぱりという事が多かった気がしたのだった。

相変わらず読ませるには違いないのだが・・・

そしてラスト・・・え?

・・・・・・・・・・・・・・

以下ネタバレ

ラスト、爆弾の残りはありませんでした。ということで終わったのか?

母子密着の物語で、息子が母を恨んでいて(恋人を殺されたり上司を殺されたりしていた)、母と心中するだろうなというのは冊子がつくのだが・・・



評価 4.9

楽しかった前作のシャンクスものではなく、全く違う短篇が入った推理物だ。
そしてこれも読んでいて楽しい。
それぞれに作者の話もついていて、そこも作品を読んだ後に読むお楽しみになっている。
気に入った作品というのが人それぞれ違うと思うので、そういうのを話し合っても面白いだろうなあと思った。
ちょっとしたサプライズがありちょっとした仕掛けもある。
ラストの赤い封筒のみ中編で、これはビート詩人が探偵役になり、田舎アイダホから出てきた純朴な男性が補佐役になるというちょっと風変わりなミステリだけれど、面白かった。

私が好きだったのは、実際にあった孤児列車により運命が変わった兄弟の話、列車の通り道だった。
一方は恵まれた家庭に、一方はひどい家庭に。
そして三番目の子がどこに行ったのかを静聴した二人が探すことになるのだが・・・
O・ヘンリーを彷彿とさせるようなそんな作品だった。

また共犯も読んでいて、最後どうなるかと思っていたら、最後でにんまりした。
ポワロ物のテレビシリーズで原作とは違った結末が用意されていることがあるけれど、オリエント急行のラストを彷彿とさせた。

消防士を撃つは、当時の人種の問題が語られているのだが、大人になった自分が小さかった自分が見たものを回想しているシーンがなんともいい味わいを出している。
お姉さんとの絆、そしてお姉さんの行く末なども心に残る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

ローズヴィルのピザショップ/残酷/列車の通り道/共犯/クロウの教訓/消防士を撃つ/二人の男、一挺の銃/宇宙の中心/赤い封筒





評価 5

深い!!
かなり深い!!!


誰かに嫌なことをされた、誰かに嫌なことを言われた、時に、相手がころべばいいのにというのはちらっとぐらいは誰しもあるだろう。
死ねばいいのにまでは思わなくても、ちょっとした悪いことがあればいいのに、と。

それだけかと思っていたら、これは『その後』の自分の気持ちの整理の仕方を可愛い絵と共に語ってくれている。
嫌なことがあった時の逃げ道。
そして急に嫌なことがあった時に避難できる何か。

子供向けっぽいけれど、これって大人にすごくわかる話だと思った。
いくつもの逃げ場があると心穏やかに暮らしていけるんだなあと改めて思った。

自分がどうしてもダークサイドに落ちて考え込んでしまう時、こんな本が横にあったらどれだけ救いになるだろう。
そしてまたこの本、そうはいっても、的なところもきちんと描いている。
正論でこうしましょう、こうすればいいよ、という指導だけではなく、やっぱりどうやってもダメな日ってあるよね、とそこもわかっているのがなんとも好ましい。




評価 4.8

話が少女のレイプで始まるので大変厳しく辛い話だ。
そしてこれを客観的に見ている誰か、の語りで全部語られていく。
語り手が誰か、というのは途中で容易に想像できるのだが・・・

レイプそのものも辛い話だが、これに付随して、それぞれの家庭の事情と個人の過去が明るみになっていく、というところが読みどころだと思った。
実に閉鎖的な町、そしてそこに住む人たちの心の内・・・

読む前、記憶を消されたという話が主眼かと思ったら、そこはそれほどでなく、記憶を消されたことがどういう展開になっていくのか、というところに繋がっていく。
記憶を消すが主眼になったら、SFチックになるのかなあと思ったがそれは全くなかったと言えよう。

美しいコネティカット州の小さな町の学生パーティーで十代の可愛らしい少女ジェニーが森の中でレイプされた。
彼女の母親は彼女の記憶を遮断することを決定する。
そしてトラウマから逃れられるのだが・・・
同時にそれは、彼女のレイプ犯人の記憶を消し去ることでもあった・・・


最初の方から、語り手が嫌な野郎な気配が漂っている。
なんでこんなに上から目線なんだろう?
なんでこんなに特権意識を持っているのだろう?
それが後半になって爆発して更に嫌さが増していくあたりが読んでいて心かき乱される。
この人に反発しながらも思わず読んでしまって最後まで読みきってしまった・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

以下ネタバレ

・語り手が精神科医だというのはすぐにわかる。
そして、彼がこの事件そのものを客観的に見ているわけだが、ジェニー本人も、だが彼女の両親の心の秘密にも立ち入ってくる。
夫は妻に支配されていた。妻(ジェニーの母親)が強い家。
(なので、記憶消去も妻が主張した)
そして妻は不倫をしていた、夫の勤め先の上司と。
(これがきっかけとなって、上司が一時期レイプ犯人と思われる・・・これは読者も一瞬そう思わせる書き方をしている。
後半で、ジェニーの母親すら、自分の不倫相手がもしかしてレイプ犯人、と思う節もある)

・ジェニーは記憶消去をしていてもまだかけらは心の中に残っている。
何かのきっかけで蘇ることがあるが、もう犯人はわからない。

・消去したのだが、それをまた取り戻したいと本人と父親が希望する。
そして精神科医が記憶を開いていく。
父親は復讐の鬼と化している。

・語り手が精神科医というのがしばらくたって明らかになる。
彼は人のことをこれだけ聞いているのに、自分のことは決して語ろうとしない前半で。
ところが、後半で一転して、語り始める。
彼は里子であり、その家にはたくさんの里子がいた。
その中の一人に、彼は12才の時に性的暴行を受けたのだった(このことをレイプ犯人に治療中に語ってしまう→ここがレイプ犯人が彼に恨みを持った時に彼の息子をレイプしようという発想に繋がる)
彼にはジェニーと同じ学校に行っていてその当のパーティーに行っていいた、しかもレイプ犯人は体毛がないということだったが、息子は水泳部でそれに該当していて更に当日別の目撃者に彼らしき人が目撃されていたらしい。

・ここで語り手の精神科医は息子を救いたい一心で、実に卑劣な手段で、ジェニーの母親の不倫相手に罪を擦り付けようとする。
(このあたりも読んでいて、医者の守秘義務は!とか医者としてどうなの!とかなり頭にくる)

・犯人は、精神科医のかつての患者であり彼に恨みを持っていた男。
本当は、精神科医の息子を狙っていたが、ジェニーに変更したという変質者だった。

変質者グレンだと気づき、彼のアパートに行き、精神科医は自分の事も話しまた彼を自殺に追い込むように誘導する。
そして自殺。

精神科医はこのことをだれにも語っていない。
8月の読書メーター
読んだ本の数:7
読んだページ数:2440
ナイス数:251

罪の轍罪の轍感想
素晴らしかったです。実際の吉展ちゃん誘拐事件をベースにその時代が描かれています。昭和38年って昔だけど異常に昔ではないのに、ここに描かれている日本は現代の日本から見ると異世界のようです。ネットがないのは当たり前ですが、電話すらまだひけてない家が多い、飛行機が電車の10倍の値段がする、旅に時間がかかる、そしてオリンピックの前年で沸き立っている日本・・・刑事達の事件に対する熱い執念と悲惨な家庭環境で育ち孤独だった青年との攻防が読ませます。登場人物全員が目の前に見えてきます。是非シリーズ化してほしいです。
読了日:08月29日 著者:奥田 英朗
クジラアタマの王様クジラアタマの王様感想
おおいに楽しみました。絵が最初から組み込まれています。最初はわからなくて、何?何?と思っていましたが、途中からあああーそういうこと!!とわかりもう一度最初の絵から見直しました。加えてタイトルも何?と思っていたら、最後の方でなるほど!!情報がないまま読むのが面白いと思います。サラリーマンの岸、議員の池野内、芸能人のヒジリがそれぞれいい味を出しています。物語は単純な骨格ですが、さすが伊坂幸太郎、一種のファンタジーっぽいところでも輝きを放っています。あちらとこちらを行ったり来たりする感じが私は好きでした。
読了日:08月29日 著者:伊坂 幸太郎
ケイトが恐れるすべて (創元推理文庫)ケイトが恐れるすべて (創元推理文庫)感想
とてもとてもとても良かった!そしてミランダを殺すも良かったけど、これまた素晴らしいミステリでした。まず何と言っても、主人公のケイトがずうっと神経不安症のような状態で、何かに怯えていて自分の事すら信じられない状況で超ネガティブ思考でというところにミステリの『揺らぎ』を感じました。過去のトラウマから再起すべく又従兄のコービンとイギリスからアメリカに部屋を交換して来たのに、来た早々隣の女性が殺されていた。途中コービンの学生時代が描かれ、ええっと驚き、それを乗り越え更に驚きが大きくなり、とラストまで一直線でした。
読了日:08月26日 著者:ピーター・スワンソン
じゃじゃ馬にさせといてじゃじゃ馬にさせといて感想
彼女のエッセイの文章が好きで、いつも大喜びで読んでいます。いい意味でオタクなのです、一つのことを語らせたら止まらない、そしてたとえこちらがその映画とか本を知らなくても楽しい&読んでみたい見てみたいという気持ちにさせてくれる書きっぷりが素敵。好きな俳優とかもかぶっているところは、そうそうそうそう!と握手したい気持ちでした(キリアン・マーフィーですね)。一方でフェミニズム運動、現在のアメリカ事情なども入っていて、どこもかしこも魅力的でした。
読了日:08月26日 著者:松田 青子
掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集感想
今年読んだ海外小説のベストに絶対に入る本。素晴らしかったです。この本が出た経緯と彼女の実際の経歴いうのもまたドラマチックでそこからして小説のよう。短編が連なっていますが、全体に一編一編が自分のことを語っているようでもあり、人称、男女を変えてまた違う話が来たり繋がったり離れたりと何しろ読ませます。さあ土曜日だの刑務所の中の出来事のラストの驚き、表題作が一見実体験を語っているようでこれまたラスト数行の力強さ、妹の死に行く病の話を語りながらもかつての夫をも入れ込み語るソーロングの面白さ、と興奮状態で読みました。
読了日:08月26日 著者:ルシア・ベルリン
サイコパスの手帖サイコパスの手帖感想
この二人の話面白い!!特に平山さんの問題投げかけのような部分にこうじゃないかと春日先生が答える場面が面白いと思いました。特にハンニバル、ファーゴ、シャイニングと、読み解きが二人の対談(春日武彦と平山夢明)で始まると、こういう見方があったのか!とか(特に平山さんと同じようにシャイニングのお父さんの造型に驚きましたた)目からうろこでした。また動物の多頭飼いもかねてから不思議でしたが、こういうことだったのか!と(真偽はわかりませんが)。平山さんの周りに奇妙な出来事が多いのは、引き付けてるのかなあ・・・

読了日:08月26日 著者:春日 武彦,平山 夢明
女たちのテロル女たちのテロル感想
ぼくはイエローで・・・の作者の別作品を読んでみたいと思い手に取りました。これは三人の女性の物語がコンパクトにそして少々目まぐるしく語られて行きます。大逆事件の金子文子、アイルランドの独立運動のマーガレット・スキダニー、女性参政権を主張するエミリー・デイヴィッドソン、と勇ましい女性が出てきます。それぞれの章は短く、最後の一行が次の一行に繋がっていく・・・という大変面白い作りです、そして読みやすい。金子文子が特に私は気になりました、この時代にこれって!すごいバイタリティーに打ちのめされました。
読了日:08月26日 著者:ブレイディ みかこ

読書メーター
2019.08.26 罪の轍



評価 5(飛び抜け)

大変面白かった!
最初から最後まで読む手が止まらなかった。
昭和30年代(戦争は終わっていて復興しつつあり、しかもオリンピックがあと一年の世界(今と同じ)の時代が生々しく背景として描かれている。
この話、幼児誘拐事件の話であり、誘拐された子供も吉夫ちゃんなので、明らかに同時期にあった現実の吉展ちゃん誘拐事件を想起するだろう。

また当時の警察のやり方、彼らの内部の構造などこれまた目新しくはないが改めてこうして見せられると、こうだったのだなあ・・・と感慨深い。
感慨深いと言えば、山谷の風景もこうだったんだ!という知らない世界を見せてくれるようだった、そしてこれって、今にも通じる図式のような気もした(弱者を守っているという強力な人たちがいて、権力すべて反対、弱者優先、国家権力は全て悪者と決めつけ、彼らが扇動して、更に話をややこしくする)

また、当時の交通の不便さと言ったらどうだろう。
東京から北海道に行くというのは今でいう海外に行く(それもヨーロッパなど)よりもまだ大変だ。
飛行機はあったものの、値段が列車の10倍というからもういたしかたない。
地方と東京の格差というのがこれほど鮮明に描かれると、今昔を限りなく感じたのだった。

昭和38年、北海道礼文島から出てきた一人の青年宇野寛治。
彼は幼い頃から親に放置され続けてきた。
軽度の障害が脳にあるので、莫迦と言われ続けている窃盗癖のある男だ。
彼が大都会東京で見たものは・・・
彼が時々人事不省に至ってしまう本当の理由とは・・・。

そしてそんな中、浅草在住の老人が強奪殺人に遭い、そしてその捜査がまだ終わっていないのに続けざまに幼児誘拐事件が起こったのだった・・・
捜査を担当する警視庁捜査一課の刑事落合昌夫は、強奪殺人の捜査中に、子供たちに莫迦と言われている北国訛りの賽銭泥棒に行き当たる・・・


警察も脅迫電話の逆探知すらうまくできない。
そればかりか人と人が繋がるのに、電話すらまだ各家にない時代だ。これが50年ぐらい前の東京と誰が信じるだろう。

東京は来年のオリンピックで沸き立っている。
あちこちで道路工事が行われ、山谷も働く人たちで大賑わいだ。
けれどそこに取り残されている普通の人々がたくさんいる・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・
警察官たちのそれぞれの描きわけも見事だった。
大卒ゆえに敬遠され何かと嫌味を言われる人たち。
先輩で単独で捜査をして一見こわもてだが、部下を可愛がってくれる男気のある上司。
捜査本部が置かれそこでやり取りされた様々な情報から犯人にたどり着こうとする執念が凄まじい。
その一方で、暴力団とバーター取引があり、癒着があり、持ちつ持たれつのところがあるというのもきちんと描かれている。
警察のみならず登場人物全員の群像劇として読んでも大変面白い。
山谷の旅館を営む家の、母親の訳の分からない絶叫っぷり(これがまたわかる!)、賢くて冷静で肝が据わっているその娘ミキ子(忘れ難い女・・・)、弟のちんぴら明男(忘れ難い男・・・)、たちもまた印象深い。
加えて寛治の母親(故郷でスナックを営んでいる女)、や、人の良いそして的確な話をしてくれる北海道の警察官、そもそも寛治をこのような状況に追いやった狡猾な漁師赤井、なども心に残る。

方言という話もこの時代ならではだろう。
今でもあるだろうが、テレビの普及その他で、いかに地方と言えども若い人達もこれだけ訛りを持っている人というのは激減しているのではないだろか。
そしてこの方言の話の中で、脅迫者が脅迫の言葉の中でうっかり使った言葉、それが北陸訛りだったという箇所もとてもスリリングだった。だったら、この脅迫者は、北陸出身者なのか・・・
ところがこれが、落合があることを発見したことでわかってくる。

悲惨な幼少時代を送った宇野寛治。
彼の孤独さは、いかに取り調べの時に彼が雄弁だったかにも出ている。そこまた憐れと言えば憐れだ、誰も彼の話をこんなに聞いてくれる人はいなかったのだから。
孤独な北海道の魂が都会に来た時に、初めて昭夫という友達が出来たのも嬉しかっただろう。
また彼と恋人関係になったストリッパーの存在もまた。
しかし彼は孤独という名の牢獄から、幼い時のトラウマから抜け出すことはできなかったのだった・・・

途中、警察の失態もあり、公開捜査に踏み切ることになるのだが、誘拐された子供の家の豆腐屋の夫婦の姿も切々と訴えてくるものがある。
疲弊して茫然としていた彼らに容赦なく非難やいたずらの電話がひっきりなしにかかってくる。
この場面も、この時代は電話だが、今だったらネットで同じことが起こるのだろうな、と思った。

以下ネタバレ

・寛治は幼い時に義父によって虐待を受けていた。
当たり屋をやらされていたのだ。
ゆえに、大声で怒鳴られる、クラクションの音がすると人事不省になる。
しかも車にぶつかった3回目に頭をぶつけて軽度の記憶障害にもなってしまう。

・寛治は、子供を最初のうちに殺していた(これが皮肉なことに警察にとっては救いになる。なぜなら、犯人取り逃がしの失態があったから殺されたのではなく、犯人をとり逃す前から殺されていたのだからどうしようもないという理屈)
更に脅迫電話を掛けたのも彼、であり、その中の言葉北陸の方言は、母親の言葉であった(これは北海道に確認しに行った刑事が母親が同じ言葉を使っていたので発見する)

・寛治は、恋人だったはずの女性も連れ込み旅館で殺し井戸に投げ捨てた。
彼女が、脅迫の言葉を読んだ声が寛治ときづいたからだった。

・寛治は老人は殺していない。
この老人は暴力団と繋がりがあり、婿がまた関係があり。暴力団関係者に殺された。
そこにおり悪くいたのが寛治で鉢合わせしているのだが、暴力団側は、彼に罪を着せようと、寛治からバールをもらっていた。


評価 5

クジラアタマの王様って何だろうなあ?と思っていたら、最後の最後でわかった!
そういうことか!!!

この話、そもそもが、絵が間間に挟まっている異色作だ。
その絵も最初なんだかよくわからない。
なに?これ?と思いながら分を進めていくとある時に、(あ!!もう一度最初から見てみよう、絵を・・・)という気持ちになる。
そこからは一気に・・・・

製菓会社に勤める平凡なサラリーマンの岸は身重の妻と二人暮らしだ。
彼の所属するお客様相談室にはあらゆるクレームが飛んでくる。
そこから配置転換になったと思いきや、逆戻りして、ある一本の強烈なクレームを広報部員の岸が受け持つことになった。
彼のうけたクレームから、事態は思わぬ方向に進んでいく・・・


話そのものは非常に単純な骨格だと思う。
一人のサラリーマンが窮地に陥るが、それは実はある出来事とリンクしていました、という話なのだから。
でも描き方がさすが伊坂幸太郎でとても面白いのでぐいぐい読み進めてしまう。
岸のモノローグも読ませるし、相変わらず会話もぐっと惹きつけられるものを持っている。

・・・・
この話、読みながら、胡蝶の夢のようだなあ・・・と思っていたら、まさに後半でその言葉が出てきたので、やっぱり!と思った次第だ。
普段の出来事とリンクしているのが夢、という話なのだ。
これが、肝心の主人公の岸君はぼんやりしか覚えていない、というかほとんど夢を覚えていないというのがミソだ。
彼はぼんやり、なのだが、くっきり夢を覚えている、の人がいて、それがお客様クレーム室にクレームを入れた(あとで間違いだったことが判明する)奥さんを持つ都議会議員の池野内だ。
彼と岸が同じホテルで同じ火事に出会い九死に一生を得た事がわかる時に、ぞくっとする。
でも岸はずうっと、夢?と読者の私達のように疑問を抱いているところもまたいい、これが岸がすぐに納得してしまったら、オカルトチックな話になってしまうだろうから。

そしてもう一人、この二人があったホテルの火事、に出会った人がいて、それが今を時めくアイドルに近いミュージシャンの芸能人ヒジリである。
彼もまた夢をくっきり見る人であった(後半その能力が強くなっていく)
こうして、三人(サラリーマンの岸、議員の池野内、芸能人のヒジリ)がそれぞれ違う立場なのにある一点の夢というところで、繋がり、そこにいてじいっと成り行きを見ているハシビロコウという名の大きな鳥がこの物語のテーマともなっている。

中盤で、活劇になり、ヒジリのライブで思わぬ動物との対決まである。
ここのシーンが時間がたってそれぞれの生活に埋没しそうな頃の(岸はサラリーマンだが出世してそしてあの時のおなかにいた娘は高校生に、池野内都議会議員は代議士に、ヒジリは俳優に)後半の新型インフルエンザ蔓延でパニックの日本、の話にもなっていく。
彼らがどう対処していたのか。
どうこれが人生に関係してくるのか。マスコミは、そして周囲の人は。
全ての危機が次々と襲ってくる中、彼らがするのは夢での厳しい戦いと現実での戦いであった。
夢の世界では、ヒジリも池野内も、ある紙の羅列から、それぞれ3人をチョイスしている。
そして三つ巴で闘うこともあれば、一人で闘うこともある、その戦いは誰とかというと・・・
巨獣、ある時にはハリネズミの大きい版、ある時には熊と虎の合体のような動物、ある時は・・・となのだ。
そしてそこにじっといる目が印象的な大きな鳥・・・・
戦いの道具も多種多様で、岸は紐のついた投げる矢、を持って戦い抜いている(と岸以外の二人が言っている)というところも面白い。

夢と現実の境目のようなところが段々曖昧になっていく。
どちらがどちらだかよくわからなくなってくる感じが読ませる原動力になった。
最後まで夢をちょっとしか思い出せない岸、が可哀想な気もしたけれど。

また会社の話(岸の話でもあるけれど)、出世とか会社内の軋轢とか忖度とか部下に汚点を押し付ける上司とか、会社あるあるネタもとても面白かった。
後半、時間がたって、皆のその後、というのもまた会社内の事であっと言わせたところも心憎い。

中盤以降、アクションが増えてくるけれど、そこすら楽しんで読めた。
ただ・・・一点岸の赤ちゃんが生まれるところからいきなり高校生まで時間が飛ぶのが、なんだか惜しいなあと思った。
と思っていたら!!
これが重要な全ての鍵でもあった・・こう繋がるのか、この言葉たちは、と感心したのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・以下ネタバレ
・夢の世界との因果関係が現実にもあるよ、ということをまず議員が気付いたのだった。
そしてそこで戦いに勝つと現実もうまくいくと。

そして三人で闘うこともあるけれど、一人の単独で闘って負けた時には自分だけがうまくいかない現実にぶち当たるという事も。ことはそれほど単純ではなかったのだが・・・基本はこの線におさまっている。


・新型ウィルスのインフルエンザに岸の娘(高校生)がかかって生死をも危ぶまれる状態になり隔離されている。
海外のウィルス撃退薬の利権を得るための議員がいて、なんとか日本開発の薬を遠ざけようとする(はっきり言えば、なくそうとしている)

が、この段階で岸は娘のために是非この日本産の薬を守りたい。
そして、池野内議員やいまや俳優のヒジリと共に現実でも戦うのだった。
そして見事守り抜くのだ、日本産の薬を。

・タイトルのクジラアタマの王様は、ハシビロウコウのこと。