2017.07.29 AX


「蟷螂の斧って言葉を知ってるか」


評価 5

伊坂ワールドが広がっていて満喫した。
小気味よい会話の妙があり、適切な比喩がある。
しかも今回は、「強い妻への考察」というのがあり、どうやったら家庭生活を円満に送るかというノウハウがうじゃうじゃ詰まっていて、それがまた適切なので大爆笑させてくれる、とというおまけつきだ。
細部のちょっとしたこと、がつながっていって、ある一つの出来事にまとまる爽快感がある、読んでいて。
小さなことでこれはなんだろう?と思っていると必ず後で回収がある。
ちょっとした色々なことへのくすぐりもまた楽しい。

過去作品、にもところどころで言及していて、そこもまたファンは(ああ・・・あのことね・・・)と楽しめる。
でも、グラスホッパー、マリアビートル、の一連の殺し屋シリーズではあるけれど全くこれ単体でも楽しめる作品でもある。

今回のテーマは『恐妻』だ。
もうこれが各所で笑えて笑えて!
本当は『最強の殺し屋』なのに強烈な恐妻家で常に動向をうかがっている、というところでぐふぐふ笑えるのだった。
なんせ、夜中に帰った時に、音がしてはいけないので魚肉ソーセージが必須というくらいに気を使っている夫なのだから。

本当は最強の殺し屋
仮の姿が文房具会社の営業マン
そして仮の姿が良き夫であり、良き父である。

と思っていたら、最後の方で、(もしかして違うのではないか)と思った。

本当は良き夫で良き父であり
仮の姿が最強の殺し屋で
更に仮の姿が文房具会社の営業マン。
こうなのではないか。
なんていい父なんだろう、たとえ人殺しでも。
なんていい夫なんだろう、たとえ残忍な人殺しでも。
最後まで読んでみて、つくづくそう思ったのであった。

・・・・
業界で、兜と言われる超一流の殺し屋がいる。
彼は、医者の所に行き指示を仰ぐ。
この医者は医者という名目でカルテの中に指示書を隠し、指示を病気の説明のごとく悪性腫瘍などの言葉に置き換えて指示を出している。
しかし兜は長年この仕事をしていて引退したいと願っている、愛する一人息子克巳と、愛する家庭のために。
引退には費用が必要だと医者に言われ、仕方なく仕事を続けているのだった。


兜の最初の話の殺しも、ぐいぐい読ませる。
なぜなら、息子の話、奥さんの話、が何気ないだけにこれが関係しているというのが読む側に最後の方でわかるという仕掛けになっているからだ。

息子の話
・この頃、学校に来た美人教師がいる。
彼女は学校の他の男性熱血教師と不倫しているらしい。
それが噂になっている。

奥さんの話
・この頃ご近所で突然二軒引っ越していった人がいた。

この二つを一つにまとめていくとは!
息子の通っていた高校をヘリポート代わりに使う計画。
女性教師はそれの片棒を担いでいた。
男性熱血教師はその行動を見とがめ、抹殺されたのではないか。
そして爆弾犯を兜は殺す。
女性教師は潜入した女。


息子の克巳君も本当にいい子どもだ。
高校生になってもこんなに両親と話をする、という時点でいい子だし、家庭のことをじいっと見ていて、父親の苦労(主に母親に対しての遠慮)も見抜いてちゃんと適切に声をかける。
そしてその声のかけ方に、兜は、ぐっときて息子を抱きしめたくなるほどなのだ。
奥さんはじゃあ勝手な奴かというとこれもそうではなく、ごくごく一般的な夫を疑わない(まさか殺人犯だとは思ってない)普通の愚痴をこぼし普通以上に一人息子に心を砕く、母親なのだ。

次のBeeでは、庭に巣を作ってしまったスズメバチの巣の退治の話と言ってしまえばそれまでだ。
けれど、それをやらないでねと何度も念を押されたのに、完全防備で宇宙人のような格好でやってしまう兜の姿が笑える。
しかも笑った挙句に、最後転がってしまうというのが後で繋がってくる妙がある。
最初に息子の話で飼っていた猫が死んでしまって動揺した母親が心無い言葉を小さな息子にかけた、というエピソードが語られる。
全くこの話関係なさそうだが、最後転がっている兜を宇宙人に見立てきっちり回収している。
また、この物語で出てくる「敵」は、毒を刺すというのを得意技にしているようなので、これもまたハチへの防御と同時に殺人犯への防御にもなっている。


次のCrayonでは、友達がいなかった兜がボルダリングスポーツを通じて、同じように妻を警戒している男松田と偶然友達になる。
恐妻家としておおいにおおいに話は盛り上がる、久々に兜が心を開ける人間ができた・・・
しかもこの人の娘が息子の同級生だったという偶然も加わり、がぜん親近感がわく二人・・・
そしてこの二人が飲みに行った時に思わぬ事件に巻き込まれ・・・
この話の中で、松田が語っていた「子供がクレヨンで描いた絵」というのがあとから兜の所でも出てきて、最後の話に繋がる。

男たちに絡まれ、偶発的に自分の鬱屈も出て相手を倒してしまい、打ちどころが悪くて死なせてしまった兜の友達松田。
兜と二人で初めての身に行った時の出来事だが、これを兜はお得意の自分の組織を使って消し去ろう、と画策する。
松田を助けようとしたのだ。
そして死体はなくなり、消し去られたが、同時に松田一家は引っ越していった・・・離婚したらしい・・・(というのを「息子の同級生の話」として語られるのが秀逸)


またボルダリングのホールド(出っ張っているところ)に掴んでいるときの気持ちを二人で話し合うところも読ませる。
必死につかんでいる二人。
落ちないようにつかんでいる二人。
それはとりもなおさず、家庭を作っている二人の気持ちでもあった。
更に、ここに兜の妻から久々に会った息子の同級生のお母さん友達との印象深い会話が加わる。
それは、
4人で話していた時に、一人のご主人が亡くなった、事故で、
というのを全員が知っていて話していた。
そこでご主人が亡くなった人へ一人の女性が慰めるようなことを言ったら
「事故で夫を亡くした人間の気持ちなんてわからないくせに」
と怒られ黙ったという話だ。
一面から見るとこの話、悪気がなかった人の無防備な話、なのだが、
このあとで息子の克巳が同級生のお母さんなので事情を知っていて、
言った当人も、事故で自分の娘と夫を数年前に亡くしていた
ということを知る。

Exitは動の話。
あるビルの警備員と万引き少年を同時に目撃した兜が知り合いになる。
そして警備員奈野村に、夜中に自分の息子を連れて警備をしたい、それは息子の要望なのだ、という話をされる・・・・

この物語、途中まで結局この二人の話し合いがどうなったかわからない。
いきなり、数人の子供たちと奈野村の子供が話しているところに、兜が遭遇する、そのあと更に数人の子供たちを追い詰めているときに別の死体に遭遇するという話に転がっているからだ。
まさに動。
そして・・・・

兜は奈野村と友達になれるのかとも思っている。
けれど、実は奈野村も組織をやめたい兜と同じ側の人間であった。
最後死闘が繰り広げられる、二人の間で。
縦軸と横軸のクロスワードだけではない、とあとで呟くように、このデパート内で何が起きていたのかと複雑な事件を自問自答するのだった。



この物語の中で、古山高麗雄の戦争の名話がとても巧く引用されている。
友人と知人との違いについて述べよ、とか、捕虜を温めてあげることが必ずしも捕虜にためにならなかったとか。
そしてこの話をしながら、兜は前日のミッションで、
・いきなりボウガンが部屋の中から飛んできたのをよけた話

・バス停で待っていた数人の高齢者とのバトル
を思い出すのだった。

そしてラストのFINE。
この前の話の最後で、既に兜は死ぬということが記載されている。
そしてFINEでは既にあの高校生だった克巳が大人になっていて結婚して子供もいて、「自殺した」兜とそのあと少し精神の状態が悪くなった今も存命の奥さんの姿、などが描かれている。
一体、兜に何が起こったのだろうか。

途中で兜の視点もまた描かれる。そこで彼が飛び降りる経緯が書かれている、克明に。

兜の残したものを納戸で克巳が開いた時に泣けた。
そこには
・クレヨンで描いた克巳のお絵かき(おとうさん、がんがってくれてありがとう)の絵。(これが松田の話に繋がる。松田の娘も全く同じような絵を彼に送っていて松田はそれを心の支えにしていた。それは兜も同じことだった。)
・大学ノート3冊(フローチャートで、奥さんがこう話せばどう返すか、のやり取り。笑える)
・キッズパーク開園!のチラシ(ここでは意味が分からないのだが、この章をラストまで読んだら超絶に泣ける話)
・どこのものだかわからない鍵一つ。

克巳は本来のお父さんの職業を知らないので、暗中模索で探っていく。
まずは、鍵からなのだが、杳としてつかめない。
そして、あの指示を出す「医師」にたどり着いてしまうのだった。
ここで、読み手側は、(危ない・・・克巳君・・・・)とはらはらする、医師は悪者であるのだから、お父さんを殺した多分張本人であるのだから。
けれど、無防備な克巳は医師に近づいていく。
そしてひょんなことから、鍵の場所を発見するのだった、それはあるマンションのカギだった。うるさい管理人のいるマンションの鍵。
うるさい管理人が、「ここは親族は入っちゃいけない」と絶対に入れてくれない。
押し問答をしているうちに医師がやってきて
自分は親族じゃないからと無理矢理入るとボウガンが飛んできて死亡。
ここは前の章のEXITで、兜が実際に出会った部屋の話を模倣している、けれど「うるさい管理人」を擁することによって、自分の家族の安全は守りたかったのだった。
ここで、兜の章で、「マンションを探している時に、管理がしっかりしているところ」と指定した意味が分かる。
そして何度も管理人と話してこれこそ自分の求めていた管理人だ、そして体も丈夫そうだし死なないだろうという目星を付けるのだった、(その直前から、引退したいと言っていた兜は執拗に命を狙われる)


最後まで、克巳は兜の本当の職業を知らなかった。
そして近くのクリーニング店の店主は、奈野村であり、自分と息子を助けるために兜は死んだと言うのだった>と言われても克巳は何のことだかわからないのだが。

ラスト。
兜の遠い過去で、結婚する前の妻と出会った時のことが語られる。
ここで、チラシ配りをしていた妻(納戸で息子の克巳が見つけたキッズパーク開園チラシはこの時の物)と出会う。

このラストでとても泣ける。
ここから全てが始まっていくのだ。

2017.07.26 ジャンプ


評価 5

祝直木賞受賞!佐藤正午!

ということで、過去作を再読してみた。
全くのゼロの目ではなく、最後を知っている(途中の展開も知っている)目で見てみると別のところが前回とは違って際立ってくる。
基本は失踪の物語だ。
それもリンゴ一つのための失踪・・・明らかに松本清張の失踪物語とは違う展開だ(途中で主人公が松本清張を読んでいるという場面も何度か出てくる)
非常によくできている話だと思う。
失踪、をめぐる男女の心の機微の話でもあるのだが、ミステリとしてもとてもよくできている。
どちらに比重を置いて読むかは読者の好みなのだろう。
徐々に徐々に明らかになっていく失踪の謎・・・が読んでいてわくわくする。

しかも。
この話が人の心を掴むのは、誰にもあり得ること、だからだ。
「ある日突然失踪する」という心は普通の人の心のどこにもちょっぴりだけ存在している。
この話の場合、きっかけはリンゴだったけれど、ふとした時に芽生えた失踪の衝動というのが誰にもぐっとくる掴みの一手だ。

その失踪が、誘拐などされたものなのか(他者によって)、自らの意志なのか(自分によって)、またどちらでもなく単なる事故なのか(神の手によって)、ここは全く冒頭の方ではわからない。
しかも一晩明けて戻ってきました、やあすみません、という場合だって沢山転がっている。
だからこそ、最初の方の警察とのやり取りもとてもわかるし(まだこの段階では事件扱いできないだろう)、また主人公の男性が出張先にそのまま行っちゃったというのもわかるのだ。
なぜなら、翌日にやあやあがあるかもしれないから。

・・・・・

前半で、さっそくみはるの姉との会話のやり取り(この物語、会話が非常に良い)が生き生きとしていて、情景が見えてくるようだ。姉の佇まいもわかる、そして姉はふっとフェイドアウトしてしまう、「僕」の人生から(理由はあるのだが)
最初の方で必死な捜索状況というのも実にこちらに迫ってくるものがある、警察に届けたり、来た手紙を見てみたり・・・
しかしいったん戻ってきたのではないかということがわかると、じゃあ一体今はどこで何をしているのだろう?その前になぜ突然戻ってこなくなったのだろう?という疑問が次から次へと湧いてくる。
コンビニから突き止めるということをようやく思いつきそこから探っていくと、妙なことに巻き込まれたみはるの姿も浮かび上がってくる。
と同時に、彼女の大学時代、そしてそこから更に深酔いしたバートはいったい何というバーだったのか、というのがわかってくるあたりもまた読ませる。

「僕」は強烈なカクテルを知らない店でガールフレンドと飲んだ。
前後不覚となった「僕」は、ガールフレンドの南雲みはるのアパートに転がり込む。
朝リンゴを食べる習慣がある「僕」のために、みはるはコンビニにリンゴを買いに行った・・・
5分で帰ると言い残して。
ところがそのまま姿を消してしまったみはる・・・
行方を探すのだが、さっぱり見つからない・・・


<以下ネタバレになる部分があります。>



まずこの主人公に最初読んだ時には、(なんて男だ!!)と嫌悪感を抱いたのだった。
なぜなら、ガールフレンドの失踪の翌朝、心配しながらも出張に行ってしまう奴なのだ。
普通ここで何か交通事故にあったのではないかとか、コンビニに行くとか、考えるだろう。
バカなの?と思ったものだった。
また、もっとなんて男だ!と思った部分は、失踪したみはるを探しているので、てっきりこの男はふがいないながらもみはるオンリーの男と思っていたら、途中で年上の女が突然ショールームで馴れ馴れしく出てくる。
なんだなんだ?と思っていると、なんと生意気にもこの男は両天秤してた?は???
もうここで、なんて男だ!!というのが決定的になったものだった。

が。今読み返してみると、この「僕」は、典型的なサラリーマンの悲哀を背負ってもいるのだ。
会社の穴をあけちゃいけない、会社の用事が最優先だ、という普通の男であるということに気づくのだ。
なぜなら、この後半の方でも会社を優先している、どんなことがあってもやっぱり会社優先の典型的なサラリーマンだ。
両天秤、と思ったが、これは優柔不断の男だからだ。
しかも年上の女性、とは別に結婚の約束をしたわけでもなく、実に軽い気持ちで付き合っている。
一方、みはるは新しいガールフレンド(本人もガールフレンドとしているだけあって)であり、まだ未知の存在だ。
だから、振り子がどちらに揺れるか、のような感じでふらふらしている状態だったと思う。

この物語、最初の方からとても凝った作りになっている。
最初のところで自分が道を外したのは一杯のカクテルだったが、その前の段階で別の年上の男性が自分が道をずらしたのは一足の靴だった、と語っているのは、失踪したみはるの別れていた父の話、であったからだ。
これが後半みはるの失踪を探っていくうちに、沖縄のみはるの父のところで彼が聞いた事実である。

・また最初にいなくなった時に、テーブルの上にあった差出人のない水色の封筒。
・さらに、みはるが言っていた「誰からかわからない無言電話」がこの頃多い。
・ある日曜日に自分が新宿のフルーツパーラーで女性と会っていたという事実。
これらは全て後に「僕」の妻になる年上の女性の仕業だった。彼女は「僕」と結婚したかったのだ。
このことを結婚して子供もできた後で知った驚愕というのは「僕」を打ちのめしただろう、その策略を巡らした彼女と結婚しているわけだから。

●みはるの流れ
・コンビニにリンゴを買いに行く

・具合の悪くなった大学生がいて、救急車を呼んで同乗することになる

・病院で大学生は落ち着いたのだが、そこで偶然大学時代の親友の一人と出会うことになる
親友は夫の病気で来ていた、そして夫は亡くなった

次の朝、自分のアパートに戻る➡ここ重要。
しかし「僕」は出張中。
テーブルの上の手紙を持って再び家を出る。

葬儀まで彼女は付き合う。
そこで親友の夫の隠し子らしき子供と出会う。
祖父母に家に暮らしたくないので家出してきた子だ。
みはるは自分も父の顔を知らないのでその少女に同情する。
彼女を静岡まで送り届けようとしてホームで水色の手紙を読む(ここには自分が結婚したいと書いてあった)

子どもは自分の生みの母親がいる高松に行くという。
それにみはるはついていく。

東京に戻る。➡ここ重要。
ここで「僕」が新宿のフルーツパーラーにいることを目撃し確認。
「僕」の将来の妻が書いた手紙は本当だと確認する。

沖縄で実の父親と出会う。
モデルになる。

有田に行く。
陶器のデザインをしている。
2017.07.26 怒り



評価 4.9

面白く読んでいた。
読み始めたら止まらなくて、あっという間に上巻が終わり下巻に突入・・・
何しろ、
・事件の全容が全くつかめない
というのがある。
だれが何のためにやった犯罪なのかというのが全くつかめない。
しかも
・ポーランドの地方都市オルシュティンの防空壕で見つかった白骨の男が10日前には生きていて、なんでじゃあこんな短期間に白骨になったのはどうしてか
という謎もある。
更に更に調べていくと
・この白骨部分が全て同じ人の骨ではない
という驚き部分もある。

また途中途中入る、一見良い家庭に見えているのだが、なぜか夫に怯える女性の出来事はこれにどうかかわっているのだろうかという興味もある。
この夫が全ての犯人なのだろうか。
それとも全く別のアプローチがあるのだろうか。
という興味も尽きない。

また登場人物も多彩で、フランケンシュタイン博士(!)という名前遊びの博士が実際に出てきてこれも遊び心をくすぐる。
双生児のような感じすら漂う、いや親子のような様子すら漂う、シャツキに雰囲気の似ている見習い検察官エドモンド・ファルクの「論理的に物事を考える姿勢」「論理的選択をする」というのもやや硬直した姿勢だなあと思いつつ読ませる。
検察官シャツキその人のとっつきにくさもまた読ませるし、彼の新しいパートナーゼニアが彼の心のよりどころになっている感じもとても伝わってきた。

だが・・・・
途中からやや失速したような気がした、どのあたりからかというと、
検察官シャツキ本人に話が降りかかってきたあたりからだ。
なんだか、ここからが惜しい、もうひとひねりふたひねりが欲しい。
そしてラスト、これでいいのか。
ここでもう一つ仕掛けなくていいのか。

ラストまで読んでプロローグを読むと、ああ!!と納得する。
また冒頭の方にある家族についての高校でのシャツキの講演会もまた最後になってから読むと、感慨深い。

・・・・・

作者がルメートルを愛読しているらしく(文章中でも登場人物がルメートルの本を読んでいる描写もある)、ポーランドのルメートルらしい。
が、インパクトがちょっと弱くないか、特に後半戦で。
もっとつるべ打ちのようにがんがんいく最後の方の展開が欲しかった。

あとこれが最終巻らしいので、ずうっと読んできた人たちとその思いの違いもあるかもしれない。
ここで、検察官シャツキに私たちは初めて出会い、彼の家庭状況を初めて知って、彼の愛情の振り分け方のようなものも知っていく。
高校生の娘と衝突しまくっていて、新しいパートナーと娘という二人の女性に困惑している人間らしいシャツキの姿というのを、初めて触れる私にとっては、この前がどういう結婚だったのか、どういう展開でこのようになったのかというのを知りたい気もした。

新米刑事のヨハネ・パウロ・ビェルト(この名前もすごい!作中でも言及されているが)が、263ページから268ページの交通巡査の時に悲惨な理不尽な事故を見てきた記憶、という部分、とてもとても読ませるのだ、神への懐疑とともに。
だけどこれで終わりか、これが何かにもっと繋がっていかないのか、と惜しい気がした。

ラスト、思いもかけない展開だったが・・・
過去の総ての引き金になったある家の火事の場面が忘れられない。

以下ネタバレ
・シャツキの娘が誘拐され、彼女が排水管洗浄剤で溶かされる危険が出てきた。
今までの人は、それをされていた。もしくは虐待を受け、耳を損傷したり、片手をなくしたりしていた。
それは、家族を虐待してきた人間への制裁、だったのだ。

・このシャツキの娘を誘拐した首謀者は
かつてシャツキが講演をしてそこで知り合った高校生ヴィクトリアだった。
(そして彼女にはチームがいた。)
彼女は、シャツキの娘ヘレナを密室に閉じ込め排水管洗浄剤で溶かして埋めるという映像を、シャツキを呼び寄せ見せていた。
逆上したシャツキは、犯人のヴィクトリアを殺害。
(ここで検察官シャツキは、殺人犯シャツキになった)
ところが、ヘレナに入れられていたのは、発泡スチロール剤で彼女は死ななかったのだった。
(この部分、比較的想像がつく、読んでいる側としては)

・最後の打撃。
ファルクが仲間で、全てを把握していた。
殺人を犯したシャツキに、警察に自首する代わりに自分たちの仲間になってくれという。
リーダーを望んでいたのだ(だからまだ犯人ほう助する人たちはいた)

・暴力を防ぎたければ間違ったやり方はするな。
これが高校の講演会で(犯人ヴィクトリアも聞いている)シャツキが最後に語った言葉だった。

・私がわからなかったこと。
ファルク見習い検察官がお父さんと食事をする場面がある。
ここで、お父さんはファルクの身を案じているし、こういう自分とは違った人間に育ったファルクを見守っている父、言っても聞かない息子を持った無力な父に見える。
(自分は温かい家庭を作れなかったと後悔はしているものの)
が。
ファルクがこういう活動(事前に家庭内暴力の人間に制裁を加える、または事後に家庭内暴力人間を抹殺する)に至ったのには、自らの家庭事情があったのだろうか?
このお父さんは暴力のお父さんだったのだろうか?
2017.07.25 冬雷



評価 4.4

重苦しい話ではあるけれどとても丁寧に描かれている話、で、ある意味とてもよくできている話、でもあると思う。
冬雷の不気味さと、この話の感じもとてもあっている。
現代とは思えないがんじがらめになった風習とそして狭い地域に住む人たちの目・・・
・・・・
また冒頭はストーカーだったらしい愛美(まなみ)という女の子の遺書が見つかって彼女が自殺したというのはすぐにわかる。
愛美の立ち位置というのはこの物語の中でどういう感じなのだろう?
その興味で読み始めた・・・

・・・・

旧弊な町の伝統を担っている旧家と神社がある。
子どもがいない旧家の後継ぎとして孤児院から引き取られた主人公代助がいた。
同い年の神社の巫女を務める跡取り娘は真琴といい、幼いころから高校まで代助と真琴は切っても切れない友情以外の物もはぐくんできた、お互いに逃れられない運命の中で。


冒頭で夏目代助というので、あ!と思ったが、やはりこれは夏目漱石の作品を考慮に入れていたというのが途中でわかる、
代助が捨てられた時に横に置かれていたのが、夏目漱石のそれから、であった、そこから夏目代助という名前を付けられたのだった。
跡継ぎとして千田家に連れてこられ鷹匠としても鍛えられる代助。
町では特別扱いをされ、厳しい指導ながら溶け込んでいく代助の姿が雄々しい。
ところが、途中で千田夫妻にまさかの子供が生まれ、一気に代助の地位は下がっていく、なぜなら千田夫妻の本当の子供が全てを受け継ぐことになったから。
なんてひどいんだろう。
引き取っておきながらこれはないんじゃないか・・・
そしてまさかの義弟である幼子の失踪・・・代助が殺人の犯人と目される・・・・
ひどすぎる。
この町、警察はいるのか?
こんな警察がある世界ってどうなんだどうなんだ?と思った。

12年後に戻った代助は、義弟が思わぬ場所から発見されたのを知る、そして今度は、愛していた真琴が嫌疑を受けているとも。
(またしてもこの警察!!馬鹿????)と思った。
更に思いもかけない真相が・・・・
代助が愛美をもてあそんだというのは、愛美の赤裸々な日記からわかっていて、それを読んだ愛美の兄が東京で代助に暴行するまでに至ったわけだが、その日記には真実が描かれていたのか・・・
また祭りの最中になくなった真琴の実の母親が残したビデオテープはいったい何を示していたのか。どこにあるのか。

以下ネタバレ
・愛美は真琴の父と関係があった。
それをあたかも憧れていた代助とともにあったような日記を書いていた(愛美も馬鹿?)
しかも妊娠中絶をに介している。

・一方で真琴は最後に代助と契り、子供をもうけていた。
それが千田夫妻の子どもとして、今育てられている娘だった。

・愛美は自分は中絶したのに、真琴は生んだというので嫉妬していた。

・当時一人だった代助の義弟を殺したのは愛美。
そしてその隠ぺいを手伝ったのが真琴の父たち。



けれど、私にはこの重苦しい最後まで光がない感じが合わなかった・・・申し訳ない。
この因習に満ちた村からなんで出ない?というのを何度も何度も読んでいて思った。
代助が気の毒すぎるだろう・・・・
警察はバカ?というのも何度も思った、大正時代じゃないんだから、DNA鑑定とかさすがにあるだろう?
また、愛美の偏執狂的なところも怖かった。


評価 5

ヒラリー・ウォーの傑作『失踪当時の服装は』を書かせた原点になった(この本を読んで驚き、実話ではなく物語で書こうとした)犯罪実話集、ということで大いに興味を持って読んだ。
とてもとても面白い一冊だった。
英米の10事件に関する捜査記録をまとめたアンソロジーだ。
事実の話、で事件であるけれど、女性が犠牲になった10の事件が描かれている。
しかしこの事件の読み応えのあることと言ったらどうだろう。
これが、虚構ではなく、事実である、ということが叩きのめされた気がする。
しかもこの語り口、実に平坦に見事に描かれつくしているのだ。

被害者がいて加害者がいて、
その間にもつれがあって、
それぞれに家族がいたりすることもあって、
別の容疑者が浮かび上がってくることもあって、
ある人間は隠そうともせず、ある人間は巧妙に隠そうとして
そしてそれを暴く刑事たちの真摯な姿がある。
ここを非常に淡々と描いているのだ、エモーショナルな書き方の対極を行くようだ。

<以下内容に触れます>

冒頭のボルジアの花嫁、で既に衝撃を受けた。
この話、最後に犯人が捕まって死刑になるところは書いているが、犯人側の主張などがほぼ書かれていない。
それなのにこれだけのインパクトがあるのは、
「お嬢さん花嫁学校」と知られている学校で一人のフィアンセのいる女性が毒殺された。
果たして犯人は、

というところから始まるのだが、実は
・この女性が既婚であった(驚きその1)
・しかも女性は偽名を使って男と結婚していた(驚きその2)
・秘密結婚であった(驚きその3)
というのが友達の証言からわかってくる。
更に
・この花婿の意外な正体(驚きその4)
・隠ぺい工作(驚きその5)

というように畳みかけるように驚きが連打していく。
あまりに作り込まれていて本当の事件か?と思うほどだ。
しかも。
殺された女性の側のお母さんの感じは、非常に厳しそうではあるけれど真実の娘のことをあまり知らない、知らなくていいといった節もある。
このあたり小説だったらじわじわと描いたのだろうが、もうここはさらっと流している、こちらは想像するのみだ。

・・・・
青髭との駆け落ちは、話の行く末もドキドキすることこの上ないのだが、なぜこれが発覚したかというのが、「野球少年のボールがある家に入ってしまって、そこで暖炉で焼けている人間の頭部を見た」という強烈な冒頭部分で始まるところも見逃せない。
もしこの少年がいなかったら(少年にとってはトラウマになるだろうから迷惑な話でもあるけれど)、このバンガローでのことは見つかったとしても時間がかかっただろう。犯人はどんなにか驚いたことだろう。

・・・・
サラ・ブリマー事件も面白い。
あるお屋敷で美人家庭教師が殺された、主人夫婦がいなかった時に。
しかも4人の使用人たちが近くで眠っていたという事実。
主人の子どものみ残されていたけれど、何もなかったという事実。
この中で、警察は本当に小さな出来事、「すす」から犯人を割り出すのだった。
別の犯人オーハシになりそうだったが(日本人?)、火かき棒を使った、被害者の顔にすすがついているのは、という嘘と、なんとなく薄汚れて見えた(顔をすすで偽装していたためあとで落としたが落としきれなかった汚い顔の犯人)人間がいた、などの事実の積み重ねで、真犯人にたどり着く警察の姿が光る。

彼女が生きている限り、も心惹きつけられた。
遺産相続、というミステリで格好の材料になることが主題だからだ。

ロシアのニコライ皇帝の従妹のシルビア王女の悲劇の物語だ。
彼女の息子の嫁ヴェロニカに信託財産からお金が渡るように王女の夫がして、ここはアメリカドルだったので莫大な財産が残ったのだった、シルビア王女が文無しなのに。
そして運の悪いことに息子は戦死して、息子の嫁は再婚した・・・
嫁そのものはシルビア王女に小切手を送ってくれていたのだがそれも手紙も途絶えているので何かあったのではないか・・・
ヴェロニカは次の夫に殺されたのではないか・・・

この話、最初(ああ・・勘違い・・・)で終わる。
何しろ、ヴェロニカに会ったことのある医師さえ、あれはヴェロニカだと証言したわけだから。
ヴェロニカの周辺にも夫側の人たちが多く集まっている。
でもこの会見が終わってから、刑事の一人が、(なんだか全員が偽者臭い)と独特の勘を発揮するところから真相が明らかになっていくところが読ませる。エンバーミングで死体を細工、なんてもし本当のミステリでやったら鉄拳が飛んできそうだ。
けれど、これは事実だと思うとうすら寒い気すらする。
そしてラスト、犯人が捕まって、さあシルビア王女にお金が渡る・・・と思った時に起こる事実の悲劇・・・吉報を受け取る前日にシルビア王女は亡くなったのだった。
2017.07.24 星の王子様


評価 5

え!
色付きだった?
中の挿絵を見てまず驚愕したのだった、久々に読んだのはもちろんなのだが、岩波文庫から出たというので大喜びで開いてみたら・・・。
色付き挿絵?

本当にフランス語で普通に訳せば、「小さな王子」というのは正しい訳なのかもしれない。
けれど、最初の刷り込みがあるので、もう頭の中で星の王子様でしかあり得ない自分もいる。
またこの訳しか読んだことがないけれど、丁寧な言葉の美しいことと言ったらどうだろう。
ここにはやり言葉とかは一切ない。
それだけに、点燈夫とか、街燈とか、口輪とか、古い言葉もまた輝いてくる。
「・・・・できやしないよ」「・・・してごらんよ」なども、今の言葉では実際ないのかもしれないけれど、なんて閑雅な響きなんだろう。
小津映画を見ているようだ。

この話、様々なところで引用されているし、大人が読んで含蓄のある童話としても有名だし、それぞれの受け止め方のある話なのはもちろんだ。毎回政治家にこそこれを読んで欲しいという気持ちにもなる(読まないだろうが・・・)

・・・・
最初のところで、ウワバミが象を飲み込んだ絵、というのがとても印象的な話だ。
これがどう見ても帽子にしか見えない大人。
そしてちゃんとそれを見分けた星の王子様という子供。
この対比が克明に描かれている。

実に印象的な人たちが何人も出てくる。
そして大人の目で読めばこの人たちは明らかに社会の縮図であり、王であり政治家であり経済を回している企業人であり、ということがわかってくる。
また愚直なまでに自分の仕事をしている人もいるということも見えてくる。

有名なキツネとの会話場面もまた心に刺さる。
もしこれが普通の状況で同じことを言われたら、それほど刺さらないだろう。
けれど、童話でありファンタジーの場面で、そして一人(一本)残されたバラの花を思いながら
「大切なことは目には見えないんだよ」
と言われ、頷かない者があるだろうか?
また、「ぼっちゃん」という問いかけがまことに優しいし心地よい。
今、ぼっちゃん、と人様のお子様を言わないだろうが、ここではこのぼっちゃん、が生きている。
そしてそのまま受け入れたいような言葉だ。

星の王子様との出会いが、ある意味絶望的な状況で出来上がっているというのも今読むと新鮮だ。
何しろサハラ砂漠で不時着して、直さなければ帰れないし死ぬしかない飛行士がいる。
そこにどこからともなくやってきた星の王子様。
こんな状況でしつこく話を聞いてくる、またはしてくる王子様との会話もまた大変なのだ、普通の人間の飛行士にとって。
それどころじゃなくて、もう水なのだ!と最後の方で本音が出て、そして美しい美しい井戸の場面の会話になる。

・・・・・
今回、岩波文庫を読んでみたのは、お子さんの内藤初穂さんのエッセイを読んでみたかったのもある。
星の王子様の秘話とでも言ったらいいのだろうか。
心血を注いで翻訳した星の王子様が、石井桃子さんから回ってきたというのを私は初めて知ったのだった、ここで。
しかも石井さんは最初別の人に翻訳を頼んでいるのだが(山内義雄さん)、これは私の雰囲気ではない、内藤先生だ、ということで内藤濯の名訳が生まれたのだという。
なんて、美しいそして牧歌的な話でこの物語の翻訳が決まったのだろう。
自分が自分が!という欲よりも、合っている人、と翻訳を譲ったのもあっぱれだし、それを受け入れまた期待以上の翻訳に仕立て上げた内藤濯の手腕にも頭が下がる。

美智子皇后とのある出会いから、この物語を通じての交流、も微笑ましく読めた。
そして、例の星の王子様の落語家の言葉をご本人はどう思ってるんだろうなあ・・・とずうっと思っていたが、やっぱり激怒していたか!だろうなあ・・・と納得したのだった。


評価 4.8

長い・・・辛い・・・
長いが割合すらすら読めた。

・・・・・・・・・・・・・・
これはレーガンが大統領に選出された1980年の出来事だ。
モンタナ州の小さな山あいの町で、妻子と別居中のピートはソーシャルワーカーをしている。
彼自身の家庭にもまた問題があるのだが・・・。
そして彼は保護された11歳の少年ベンジャミンと出会う。


この主人公のピートの悲惨な人生と言ったらどうだろう。
妻子は別居中(しかも子供を目の中に入れても痛くないほど愛しているのに)、弟は服役を繰り返しいまや逃亡中、ピートがやっている仕事と言えば、ストレスたまりまくりのソーシャルワーカーだ。
このソーシャルワーカー業がまた強者揃いの相手であり、暴力振るうものあり、狂信者あり、子供に虐待をする者あり、と困った人のオンパレードだ。
特に終末論に傾いている頭のおかしいと見えるジェレマイア・パールとの交流は命懸けだ、何しろかっとすると相手は銃を持っているのだから。
しかしパールの息子ベンジャミンは、体は汚れてはいても無垢な心を持っていて、登校も出来ない状態なのだが、学校にあこがれを持っているようでピートを慕ってくれている。なんとかこの親子を真っ当にしたい・・・ピートの心も何度も挫折する。
また、何度も何度も助けの手を伸ばしても脱走してしまう問題児セシルの気持ちの中に何があったのか。彼のシングルマザーの元に戻すのは何か問題があるのか、そして彼の妹ケイティを救うのにはそうしたらいいのか、ピートは煩悶する。
ソーシャルワーカーの仕事の間に殴られるということは日常茶飯事で、しかも後半、今度はいわれのなき嫌疑で警官にまでめちゃくちゃにされている・・・何とも可哀想なピート。
もしかして彼自身が自分を罰しているのか、と思うほどの人生であり、仕事である。

ピート自身の家庭にも問題があるのが徐々にわかってくる。
特に妻が不倫をしたということで女性全般への不信感が高まるピートの姿が痛ましい。
また、娘のレイチェルは妻が引っ越してからも飲酒と乱交が止まらなく、家に不特定多数の男性や女性が出入りしているいわゆる問題家庭で過ごすことになる、そして、レイチェルの家出・・・
まさに娘が言うように、人の家を見ている場合ではなくピートは自分の家が仕事でお世話している家と全くかそれ以上の相似形を見せていることに気づくのだった。

・・・・・・・・・・・
レイチェルが第二の自分を作ってローズと名付け、客観的にレイチェルを見ているという構図のやり取り(おそらくソーシャルワーカーか、医療関係者かとのやり取り)が胸に刺さる。
徐々に堕ちていくレイチェル。
何度もお父さんに連絡という選択肢があったのにそれを使わないレイチェルの姿がまたここに浮き彫りにされている。

ラストが非常に辛い。
何らかの救いが欲しかった、ピート自身に対して。レイチェルに対して。
けれど、ここに一抹の救いを求めるとすれば、見守っているケイティと、最後にすり寄ってきたベンジャミンの姿だろうか。

謎が一つあった。それは予測されたいたこととはいえ、パールの奥さんの行方と子供たちの行方だった。
ベンジャミンを除く他の子供たちが4人もいたということに、ピートは後半自分の家で娘を探す旅に出た時に奥さんの実家に行って気づくのだった・・・そしてそれはまた一つの悲劇でもあった・・・
2017.07.17 ピンポン



評価 5

ピン・ポン・ピン・ポン・ピン・ポン!
エエエエエエ・・

へ・・・変な話!!過剰に溢れかえっていすぎるよ!なんでもかんでも!
そしてラストこの回収の方法か!すごい!
面白い!
なんて変な話を思いつくんだろう?

SFでもなく奇想と言えば奇想だけれど、それのみでもなく。
夢の話であるようでそうでもなく。
それにしてはあまりにスケールが大きく、また細かい部分は細かすぎていて。
そもそも、「二人の男の子が学校で壮絶にいじめられていた肉体的にも精神的にも」という話からピンポンの卓球台がなぜか外にあり、放置されていてそこでいじめられっ子の二人がピンポンをする・・・」というところで、
あ~いじめられていた二人がピンポンによって救われて友情をはぐくむ話ね、と思いきや、そうでもなく(その部分もあるけれど)

じゃあ、ピンポンを文字通り手玉に取って、ハレー彗星を待ちわびるへんてこな人の集まりと絡み合い、地球の存亡を考える・・・気宇壮大な物語に変貌してい後半がきわめてSFに近い話・・・かというとそれだけでもなく。

この話の巻き込感にずるずると引き込まれていくのだ、読んでいるうちに。
どんどんどんどん新しい人、新しいエピソードが出てくる、釘とモアイの二人の少年に振り回されながら、ピンポンを見ながらこの話の深部にぐいっと自分が入り込んでいくような気がしていた、読んでいる間中。


・・・・・
モアイ像にそっくりでモアイとあだ名をつけられていた口数の少ないモアイ。
釘とあだ名をつけられていた少年。
この二人はクラスのチスという少年グループから壮絶ないじめを受けている、暴力は時に致命傷になりかねない暴力沙汰に発展している、その他にも恐喝、脅し、気まぐれな呼び出し、性的虐待、と言語を絶するいじめは尽きない。
お互いに話すことのなかったモアイと釘は、ある日、外で卓球台を見つけ、ピンポンを始めることになる・・・横には古びたソファまで・・・


ピンポンを始めることで、多くの人と出会ってい釘たち。
チスの愛人マリ、双子がいる卓球洋品店のセクラテン、バスの運転手、お金をあげればマッサージをしてくれるホームレスの老人たち、乾電池を舐めて死んでしまうハレー彗星の会の太った人・・・・そしてモアイが語る超絶に面白いジョン・メーソンの小説の話・・・
そもそも、このモアイと釘はごくごく普通の、いや普通以上の感受性と頭を持った二人の少年だったのだ。それが読んでいくとよくわかる。
その合間合間にも失踪したチス(自分の女を殺した容疑で警察に追われている)から呼び出しがありまたいじめられ、チスの手下たちに呼び出されまたいじめられ、という連鎖は止まってないのだ。

釘たちがその合間にお互いのことを知っていく。
モアイは絶大なお金持ちであり、お屋敷にお爺さんと二人で暮らしているということがわかってくる。
また釘の親たちは釘がいじめられているのにも全く気付いていない共働きの二人で善人ではあるが、息子の動向には重きを置いていない。
この物語の中で、卓球用品店のセクラテンの存在は大きい。
何くれとなく世話を焼いてくれる。
そしてラリーができるほどに釘とモアイは卓球が上手になっていく。

セクラテンは後半実に意外な卓球史を教えてくれ、彼らにこの世界がずうっと試合のジュース状態だと教えてくれるのだ。
彼らは偉大な人たちの中から一緒に戦ってくれる人を二人選ぶ(このシーン笑える、どの偉人が卓球ができそうかと古今東西の中から選ぶ作業)
そして・・・

以下ネタバレ
・空からハレー彗星ではなく(だからハレー彗星の会とかの話も無駄ではなかった)、大ピンポン玉が落ちてきて、それが地球上に来ると大地に地震が起こり、地球が卓球界(!)になってしまう(この部分の説明もとても楽しい、地球をピンポン玉に見立てた話で、ちょっと横に向けると、ちょっと落とすと・・・)

ネズミと鳥とのピンポンの試合の勝者が人類の存亡を握っているのだった。
彼らと闘うのが、釘とモアイそして二人の偉人たち。
勝った方が、人類をアンインストールするか、そのままにできるか、をチョイスできるのだった。

そして釘たちは勝者になりアンインストールに頷くのだった。

(こんな変な話(誉め言葉)を書いた作者の顔を見たいものだ!と思って裏表紙を開けたら!
そこにまた人を食った作者の顔が!なんとまあ・・・
2017.07.15 海岸の女たち


評価 4.8

取材に出かけたフリージャーナリストの夫。
彼からの連絡が突然途絶える、それも10日間も。
ニューヨークの舞台美術家の妻のおなかの中には子供が・・・
そしてパリからの夫からの手紙には謎めいた写真が入ったディスクと手帳があった・・・


まあ・・・この妻アリーがアクティブなのだ。
ディスクと手帳という心もとない手がかりをもとに(それのみで)、ああだこうだ考える前に行動しよう!ということで、なんだかやたらめったら突撃!みたいにしてニューヨークからパリへ飛んでしまう。
でもこの捨て身の行動、が実を結んだのか、最初全く何もなかった状態から徐々にオットがいったい何をしていたのか、何の取材をしていたのか、というところまで突き止めていく。
ヨーロッパの都市からリゾート地まで彼女は足を運ぶのだった、ひたすら愛する夫のために。
この場合、探偵役が妻になっているのだと思う。
全くの見知らぬ土地でしかもおなかに子供がいるのに(まだ初期とはいえ)、ぐいぐい進んでいく行動力には脱帽する。

最初の方で、よくわからない場面が海岸でいくつか点在している。
・靴のない少女が海から上がってきて、靴を見つけた話
・男性と海岸で関係を持ち、そこで死体と遭遇したテレーセという女の子の話
この二つがあとから関係してくるのだ、アリーの捜索に。

最初の内、(これは失踪した夫の秘密の生活の暴露?)というようなミステリだと勝手に思っていた。
けれど、開かれてみると、これは紛れもなく社会派のミステリであった。
話の裏側で響いている重低音は、ヨーロッパの移民問題であり、密入国であり、人種間の闘争であり、そして奴隷の人身売買まで行きつくという、結構ハードな物語だ。
夫がジャーナリストとして認められる賞を惜しくも逃してから、この問題に肉薄していってその結果失踪した。
この経緯も良くわからないまま突進していく妻のアリーの姿が勇ましい(と同時におなかに子供がいることを思えば所々で無謀だなあ・・・とは思うものの)

にしても、私はこの話の中で一番驚いた部分が、夫婦間のことだった。
ここで驚くのもおかしいのかもしれないが・・・本筋とずれている?
いや、でもこのことが非常に大きなポイントともなってくるし、最初の二人の女性の海岸での出来事を後から読み直すと、ここと合わせてなるほどなあ・・・と思うのだった。
ちょっと前に読んだ本と同じパターンなのに全く気付かなかったのだった。
え!と。
文字で読んでいて、夫は失踪してかなりハンサムのジャーナリストで、妻は舞台美術家のキャリアウーマン、という設定でこちらが想像していた夫婦とは全く違っていたのだった。

そしてこの物語、アリーの側の話もまたある。
アリーがもともとチェコの人間であり、彼女自身は過去の自分を否定するような生き方をしていた。
しかも今、夫と幸せに暮らしていたのだ。
けれど、夫が失踪して探しているうちに、内なる自分の出生にも目を向けていく物語でもあるのだ。
ホテルに泊まり、最後にオットが電話していた部屋に泊まり、彼が見たものを想像し、火事の跡を見つけ、、人権活動家のところに行き、夫の知り合いの女性のところに行き(軽く嫉妬しながら)、架空の会社の裏側、に行き、夫がトラブルを起こしたらしいレストランに行き、そこでの出来事を何とか聞き出そうとし、とずるずるっと紐が引き出されるように、妻は真相に近づいていく。彼女に警告する女性というのもまた現れる。
この連続した妻アリーの足跡は読ませるところだと思った。
そして黒幕はいったいどこにあったのか・・・・

後半、あまりにむごいことがある。
それが、妊娠していた女性だからこそむごい。
この場面って必要なんだろうか。
そして最後に更に過酷な真実が・・・

以下ネタバレ
・私が驚いたのは、
かなりあとになって、ジャーナリストの夫が黒人だったという事実が明らかになったことだ。
ハンサムな黒人と白人の妻の組み合わせだったのか!!
ここが文字の面白いところだと思う、なぜなら、夫の写真を毎回色々な人に見せているのに私たちはそれを見ることができないのだから。

そして彼が黒人だったことにより、彼が死んで海岸に漂着しても、それな難民だと思われたというのがよくわかる。
アフリカ難民の溢れていたこの時代、なので、漂着はほぼ黒人だったのだ。
密航船が溢れていて(これは最初の描写でもわかるし途中でも過酷な船内の様子がわかる)、そもそもヨーロッパに着くことすら難しい。着いたら着いたで搾取される人間たち。
しかも最初の方で黒人の死体を踏みつけた女の子の話が出てくるが、これが夫だったとは。

・妻アリーが妊娠していながら、黒幕の手先にレイプされる場面がある。
ここ必要な話だったのだろうか?
あまりにむごい。



評価 4.8

読み始めの部分が非常に面白い!
メラニーという色の白い小さな少女が、独房で暮らしている(なんで?)
どうやら全員親から引き離されているらしい(なんで?)
それも、兵士に手足と首を厳重に固定された車椅子で(なんで?)。
しかも、移動され、そこでは普通に授業を受けている、別の同じような車椅子の子供たちと(なんで?)
厳重に注意されている子供たち(なんで?)

なんでがずうっと重なっていって、この世界は一体何なんだ?子供たちは何なんだ?ここはいったい何の施設なんだ?という興味がもりもり沸く。
そして途中でこの世界の謎が明かされていくと同時に、メラニー達子供のなんで?が開かれていくのが面白い。
まっとうなエンタメであり、しかも、キャラがどの人もたっていてどの人の気持ちもわかるのだ。
最初の方で、悪役として描かれていたパークス軍曹が途中で彼の気持ちというのがわかり、彼の人となりがわかってくるにつれ、大好きな人になってきた。
メラニーが愛してやまない教師、ミス・ジャスティーノの気高さにもたまに(これはやりすぎじゃないの・・・)と思いつつも感情移入したりする。
また冷酷な科学者コールドウェルの狂気に満ちた実験もこの世界をなんとかしようという想いからだと思うと、これまたなんだかわかってしまうのだ。
また自分の家庭が最悪だったことが後半わかってくる兵士ギャラガーは、自分の故郷に帰っていく途中、果たしてそこで再び幸せになれるのだろうか?という疑問を抱くわけだが、その微妙な気持ちも痛いほどわかる。

・・・・
中盤からこの人たちが一体となって、なんとか他の人間がいるところの臨時政府の元に戻ろうという脱出劇になる。
荒廃したイギリスを旅する奇妙な一団。
ここから、メラニーが自分の欲望と闘いながらも、非常に頭脳を駆使して彼らの役に立っていく、という場面が際立ってくる。
また軍事基地にいた時には、意地悪とかしか見えなかったパークス軍曹が実はとても有能であり的確な指示を出す魅力的な男性だということも判明するのだ。
敵(それもわんさかいるし、別の敵もいる)の真っただ中をどうやって脱出していくのだろうという興味もあった。

メラニーがコールドウェルに押さえつけられ、あわや、というところでジャスティーノに救われる瞬間、
わざわざいる餓えた奴らが、何も反応がなく固まっているのにいきなりざわざわ動き始める瞬間、
そしてメラニーの秘密に彼女自身が気付く瞬間、
果てしない道を軍曹の的確な指示のもとに進んでいく皆の様子、
あることで、メラニーが嘘をつく瞬間、そしてその真実とは、
と映像になる場面が非常に多い。
メラニーが自分の欲望を我慢する姿がけなげでいとおしい。
そしてまっすぐに自分の尊敬する大好きなミスジャスティーノにぶつかっていく姿もまた初々しい。

気持ちの悪い場面も当然あるが、ラスト、どうなるんだ、というのが思ってもみなかったまとめ方だった。
こうなのか、こうなるのか。


以下ネタバレ
・メラニー達は、「人間の肉を食らう餓えた奴ら(そして食らわれた人間もまた同じく・・・の連鎖に引き込まれる)」に侵された地球での軍事基地に、実験のために集められた特殊な餓えた奴ら、であった。
普通の餓えた奴らは思考しないし、しゃべれない。同じところに集まって次の食べ物が来るまでストップしている。
そして次の食べ物が動いたり話したりするのをキャッチすると一斉に襲い掛かるのだった(ここが怖かった・・・)

教育を受けたことによって、メラニー達子どもたちはは高度な知識を得たのだった。
特にメラニーは優秀な子供だった、
彼女は人間の肉を食べたいという欲望もあるけれど、それをコントロールするようになっていく。
そしてその脳を解剖するのがコールドウェル。

・途中メラニーは、自分と同じような「教育を受けていない特殊な餓えた奴ら」を見つける。

・次世代の人間たちはメラニーを筆頭とした、高度に脳が発達した餓えた奴ら、にとって代わることを最後示唆している、ここでまたミス・ジャスティーノが教師に・・・