評価 4.8

長い・・・辛い・・・
長いが割合すらすら読めた。

・・・・・・・・・・・・・・
これはレーガンが大統領に選出された1980年の出来事だ。
モンタナ州の小さな山あいの町で、妻子と別居中のピートはソーシャルワーカーをしている。
彼自身の家庭にもまた問題があるのだが・・・。
そして彼は保護された11歳の少年ベンジャミンと出会う。


この主人公のピートの悲惨な人生と言ったらどうだろう。
妻子は別居中(しかも子供を目の中に入れても痛くないほど愛しているのに)、弟は服役を繰り返しいまや逃亡中、ピートがやっている仕事と言えば、ストレスたまりまくりのソーシャルワーカーだ。
このソーシャルワーカー業がまた強者揃いの相手であり、暴力振るうものあり、狂信者あり、子供に虐待をする者あり、と困った人のオンパレードだ。
特に終末論に傾いている頭のおかしいと見えるジェレマイア・パールとの交流は命懸けだ、何しろかっとすると相手は銃を持っているのだから。
しかしパールの息子ベンジャミンは、体は汚れてはいても無垢な心を持っていて、登校も出来ない状態なのだが、学校にあこがれを持っているようでピートを慕ってくれている。なんとかこの親子を真っ当にしたい・・・ピートの心も何度も挫折する。
また、何度も何度も助けの手を伸ばしても脱走してしまう問題児セシルの気持ちの中に何があったのか。彼のシングルマザーの元に戻すのは何か問題があるのか、そして彼の妹ケイティを救うのにはそうしたらいいのか、ピートは煩悶する。
ソーシャルワーカーの仕事の間に殴られるということは日常茶飯事で、しかも後半、今度はいわれのなき嫌疑で警官にまでめちゃくちゃにされている・・・何とも可哀想なピート。
もしかして彼自身が自分を罰しているのか、と思うほどの人生であり、仕事である。

ピート自身の家庭にも問題があるのが徐々にわかってくる。
特に妻が不倫をしたということで女性全般への不信感が高まるピートの姿が痛ましい。
また、娘のレイチェルは妻が引っ越してからも飲酒と乱交が止まらなく、家に不特定多数の男性や女性が出入りしているいわゆる問題家庭で過ごすことになる、そして、レイチェルの家出・・・
まさに娘が言うように、人の家を見ている場合ではなくピートは自分の家が仕事でお世話している家と全くかそれ以上の相似形を見せていることに気づくのだった。

・・・・・・・・・・・
レイチェルが第二の自分を作ってローズと名付け、客観的にレイチェルを見ているという構図のやり取り(おそらくソーシャルワーカーか、医療関係者かとのやり取り)が胸に刺さる。
徐々に堕ちていくレイチェル。
何度もお父さんに連絡という選択肢があったのにそれを使わないレイチェルの姿がまたここに浮き彫りにされている。

ラストが非常に辛い。
何らかの救いが欲しかった、ピート自身に対して。レイチェルに対して。
けれど、ここに一抹の救いを求めるとすれば、見守っているケイティと、最後にすり寄ってきたベンジャミンの姿だろうか。

謎が一つあった。それは予測されたいたこととはいえ、パールの奥さんの行方と子供たちの行方だった。
ベンジャミンを除く他の子供たちが4人もいたということに、ピートは後半自分の家で娘を探す旅に出た時に奥さんの実家に行って気づくのだった・・・そしてそれはまた一つの悲劇でもあった・・・
2017.07.17 ピンポン



評価 5

ピン・ポン・ピン・ポン・ピン・ポン!
エエエエエエ・・

へ・・・変な話!!過剰に溢れかえっていすぎるよ!なんでもかんでも!
そしてラストこの回収の方法か!すごい!
面白い!
なんて変な話を思いつくんだろう?

SFでもなく奇想と言えば奇想だけれど、それのみでもなく。
夢の話であるようでそうでもなく。
それにしてはあまりにスケールが大きく、また細かい部分は細かすぎていて。
そもそも、「二人の男の子が学校で壮絶にいじめられていた肉体的にも精神的にも」という話からピンポンの卓球台がなぜか外にあり、放置されていてそこでいじめられっ子の二人がピンポンをする・・・」というところで、
あ~いじめられていた二人がピンポンによって救われて友情をはぐくむ話ね、と思いきや、そうでもなく(その部分もあるけれど)

じゃあ、ピンポンを文字通り手玉に取って、ハレー彗星を待ちわびるへんてこな人の集まりと絡み合い、地球の存亡を考える・・・気宇壮大な物語に変貌してい後半がきわめてSFに近い話・・・かというとそれだけでもなく。

この話の巻き込感にずるずると引き込まれていくのだ、読んでいるうちに。
どんどんどんどん新しい人、新しいエピソードが出てくる、釘とモアイの二人の少年に振り回されながら、ピンポンを見ながらこの話の深部にぐいっと自分が入り込んでいくような気がしていた、読んでいる間中。


・・・・・
モアイ像にそっくりでモアイとあだ名をつけられていた口数の少ないモアイ。
釘とあだ名をつけられていた少年。
この二人はクラスのチスという少年グループから壮絶ないじめを受けている、暴力は時に致命傷になりかねない暴力沙汰に発展している、その他にも恐喝、脅し、気まぐれな呼び出し、性的虐待、と言語を絶するいじめは尽きない。
お互いに話すことのなかったモアイと釘は、ある日、外で卓球台を見つけ、ピンポンを始めることになる・・・横には古びたソファまで・・・


ピンポンを始めることで、多くの人と出会ってい釘たち。
チスの愛人マリ、双子がいる卓球洋品店のセクラテン、バスの運転手、お金をあげればマッサージをしてくれるホームレスの老人たち、乾電池を舐めて死んでしまうハレー彗星の会の太った人・・・・そしてモアイが語る超絶に面白いジョン・メーソンの小説の話・・・
そもそも、このモアイと釘はごくごく普通の、いや普通以上の感受性と頭を持った二人の少年だったのだ。それが読んでいくとよくわかる。
その合間合間にも失踪したチス(自分の女を殺した容疑で警察に追われている)から呼び出しがありまたいじめられ、チスの手下たちに呼び出されまたいじめられ、という連鎖は止まってないのだ。

釘たちがその合間にお互いのことを知っていく。
モアイは絶大なお金持ちであり、お屋敷にお爺さんと二人で暮らしているということがわかってくる。
また釘の親たちは釘がいじめられているのにも全く気付いていない共働きの二人で善人ではあるが、息子の動向には重きを置いていない。
この物語の中で、卓球用品店のセクラテンの存在は大きい。
何くれとなく世話を焼いてくれる。
そしてラリーができるほどに釘とモアイは卓球が上手になっていく。

セクラテンは後半実に意外な卓球史を教えてくれ、彼らにこの世界がずうっと試合のジュース状態だと教えてくれるのだ。
彼らは偉大な人たちの中から一緒に戦ってくれる人を二人選ぶ(このシーン笑える、どの偉人が卓球ができそうかと古今東西の中から選ぶ作業)
そして・・・

以下ネタバレ
・空からハレー彗星ではなく(だからハレー彗星の会とかの話も無駄ではなかった)、大ピンポン玉が落ちてきて、それが地球上に来ると大地に地震が起こり、地球が卓球界(!)になってしまう(この部分の説明もとても楽しい、地球をピンポン玉に見立てた話で、ちょっと横に向けると、ちょっと落とすと・・・)

ネズミと鳥とのピンポンの試合の勝者が人類の存亡を握っているのだった。
彼らと闘うのが、釘とモアイそして二人の偉人たち。
勝った方が、人類をアンインストールするか、そのままにできるか、をチョイスできるのだった。

そして釘たちは勝者になりアンインストールに頷くのだった。

(こんな変な話(誉め言葉)を書いた作者の顔を見たいものだ!と思って裏表紙を開けたら!
そこにまた人を食った作者の顔が!なんとまあ・・・
2017.07.15 海岸の女たち


評価 4.8

取材に出かけたフリージャーナリストの夫。
彼からの連絡が突然途絶える、それも10日間も。
ニューヨークの舞台美術家の妻のおなかの中には子供が・・・
そしてパリからの夫からの手紙には謎めいた写真が入ったディスクと手帳があった・・・


まあ・・・この妻アリーがアクティブなのだ。
ディスクと手帳という心もとない手がかりをもとに(それのみで)、ああだこうだ考える前に行動しよう!ということで、なんだかやたらめったら突撃!みたいにしてニューヨークからパリへ飛んでしまう。
でもこの捨て身の行動、が実を結んだのか、最初全く何もなかった状態から徐々にオットがいったい何をしていたのか、何の取材をしていたのか、というところまで突き止めていく。
ヨーロッパの都市からリゾート地まで彼女は足を運ぶのだった、ひたすら愛する夫のために。
この場合、探偵役が妻になっているのだと思う。
全くの見知らぬ土地でしかもおなかに子供がいるのに(まだ初期とはいえ)、ぐいぐい進んでいく行動力には脱帽する。

最初の方で、よくわからない場面が海岸でいくつか点在している。
・靴のない少女が海から上がってきて、靴を見つけた話
・男性と海岸で関係を持ち、そこで死体と遭遇したテレーセという女の子の話
この二つがあとから関係してくるのだ、アリーの捜索に。

最初の内、(これは失踪した夫の秘密の生活の暴露?)というようなミステリだと勝手に思っていた。
けれど、開かれてみると、これは紛れもなく社会派のミステリであった。
話の裏側で響いている重低音は、ヨーロッパの移民問題であり、密入国であり、人種間の闘争であり、そして奴隷の人身売買まで行きつくという、結構ハードな物語だ。
夫がジャーナリストとして認められる賞を惜しくも逃してから、この問題に肉薄していってその結果失踪した。
この経緯も良くわからないまま突進していく妻のアリーの姿が勇ましい(と同時におなかに子供がいることを思えば所々で無謀だなあ・・・とは思うものの)

にしても、私はこの話の中で一番驚いた部分が、夫婦間のことだった。
ここで驚くのもおかしいのかもしれないが・・・本筋とずれている?
いや、でもこのことが非常に大きなポイントともなってくるし、最初の二人の女性の海岸での出来事を後から読み直すと、ここと合わせてなるほどなあ・・・と思うのだった。
ちょっと前に読んだ本と同じパターンなのに全く気付かなかったのだった。
え!と。
文字で読んでいて、夫は失踪してかなりハンサムのジャーナリストで、妻は舞台美術家のキャリアウーマン、という設定でこちらが想像していた夫婦とは全く違っていたのだった。

そしてこの物語、アリーの側の話もまたある。
アリーがもともとチェコの人間であり、彼女自身は過去の自分を否定するような生き方をしていた。
しかも今、夫と幸せに暮らしていたのだ。
けれど、夫が失踪して探しているうちに、内なる自分の出生にも目を向けていく物語でもあるのだ。
ホテルに泊まり、最後にオットが電話していた部屋に泊まり、彼が見たものを想像し、火事の跡を見つけ、、人権活動家のところに行き、夫の知り合いの女性のところに行き(軽く嫉妬しながら)、架空の会社の裏側、に行き、夫がトラブルを起こしたらしいレストランに行き、そこでの出来事を何とか聞き出そうとし、とずるずるっと紐が引き出されるように、妻は真相に近づいていく。彼女に警告する女性というのもまた現れる。
この連続した妻アリーの足跡は読ませるところだと思った。
そして黒幕はいったいどこにあったのか・・・・

後半、あまりにむごいことがある。
それが、妊娠していた女性だからこそむごい。
この場面って必要なんだろうか。
そして最後に更に過酷な真実が・・・

以下ネタバレ
・私が驚いたのは、
かなりあとになって、ジャーナリストの夫が黒人だったという事実が明らかになったことだ。
ハンサムな黒人と白人の妻の組み合わせだったのか!!
ここが文字の面白いところだと思う、なぜなら、夫の写真を毎回色々な人に見せているのに私たちはそれを見ることができないのだから。

そして彼が黒人だったことにより、彼が死んで海岸に漂着しても、それな難民だと思われたというのがよくわかる。
アフリカ難民の溢れていたこの時代、なので、漂着はほぼ黒人だったのだ。
密航船が溢れていて(これは最初の描写でもわかるし途中でも過酷な船内の様子がわかる)、そもそもヨーロッパに着くことすら難しい。着いたら着いたで搾取される人間たち。
しかも最初の方で黒人の死体を踏みつけた女の子の話が出てくるが、これが夫だったとは。

・妻アリーが妊娠していながら、黒幕の手先にレイプされる場面がある。
ここ必要な話だったのだろうか?
あまりにむごい。



評価 4.8

読み始めの部分が非常に面白い!
メラニーという色の白い小さな少女が、独房で暮らしている(なんで?)
どうやら全員親から引き離されているらしい(なんで?)
それも、兵士に手足と首を厳重に固定された車椅子で(なんで?)。
しかも、移動され、そこでは普通に授業を受けている、別の同じような車椅子の子供たちと(なんで?)
厳重に注意されている子供たち(なんで?)

なんでがずうっと重なっていって、この世界は一体何なんだ?子供たちは何なんだ?ここはいったい何の施設なんだ?という興味がもりもり沸く。
そして途中でこの世界の謎が明かされていくと同時に、メラニー達子供のなんで?が開かれていくのが面白い。
まっとうなエンタメであり、しかも、キャラがどの人もたっていてどの人の気持ちもわかるのだ。
最初の方で、悪役として描かれていたパークス軍曹が途中で彼の気持ちというのがわかり、彼の人となりがわかってくるにつれ、大好きな人になってきた。
メラニーが愛してやまない教師、ミス・ジャスティーノの気高さにもたまに(これはやりすぎじゃないの・・・)と思いつつも感情移入したりする。
また冷酷な科学者コールドウェルの狂気に満ちた実験もこの世界をなんとかしようという想いからだと思うと、これまたなんだかわかってしまうのだ。
また自分の家庭が最悪だったことが後半わかってくる兵士ギャラガーは、自分の故郷に帰っていく途中、果たしてそこで再び幸せになれるのだろうか?という疑問を抱くわけだが、その微妙な気持ちも痛いほどわかる。

・・・・
中盤からこの人たちが一体となって、なんとか他の人間がいるところの臨時政府の元に戻ろうという脱出劇になる。
荒廃したイギリスを旅する奇妙な一団。
ここから、メラニーが自分の欲望と闘いながらも、非常に頭脳を駆使して彼らの役に立っていく、という場面が際立ってくる。
また軍事基地にいた時には、意地悪とかしか見えなかったパークス軍曹が実はとても有能であり的確な指示を出す魅力的な男性だということも判明するのだ。
敵(それもわんさかいるし、別の敵もいる)の真っただ中をどうやって脱出していくのだろうという興味もあった。

メラニーがコールドウェルに押さえつけられ、あわや、というところでジャスティーノに救われる瞬間、
わざわざいる餓えた奴らが、何も反応がなく固まっているのにいきなりざわざわ動き始める瞬間、
そしてメラニーの秘密に彼女自身が気付く瞬間、
果てしない道を軍曹の的確な指示のもとに進んでいく皆の様子、
あることで、メラニーが嘘をつく瞬間、そしてその真実とは、
と映像になる場面が非常に多い。
メラニーが自分の欲望を我慢する姿がけなげでいとおしい。
そしてまっすぐに自分の尊敬する大好きなミスジャスティーノにぶつかっていく姿もまた初々しい。

気持ちの悪い場面も当然あるが、ラスト、どうなるんだ、というのが思ってもみなかったまとめ方だった。
こうなのか、こうなるのか。


以下ネタバレ
・メラニー達は、「人間の肉を食らう餓えた奴ら(そして食らわれた人間もまた同じく・・・の連鎖に引き込まれる)」に侵された地球での軍事基地に、実験のために集められた特殊な餓えた奴ら、であった。
普通の餓えた奴らは思考しないし、しゃべれない。同じところに集まって次の食べ物が来るまでストップしている。
そして次の食べ物が動いたり話したりするのをキャッチすると一斉に襲い掛かるのだった(ここが怖かった・・・)

教育を受けたことによって、メラニー達子どもたちはは高度な知識を得たのだった。
特にメラニーは優秀な子供だった、
彼女は人間の肉を食べたいという欲望もあるけれど、それをコントロールするようになっていく。
そしてその脳を解剖するのがコールドウェル。

・途中メラニーは、自分と同じような「教育を受けていない特殊な餓えた奴ら」を見つける。

・次世代の人間たちはメラニーを筆頭とした、高度に脳が発達した餓えた奴ら、にとって代わることを最後示唆している、ここでまたミス・ジャスティーノが教師に・・・
2017.07.10 ミツハの一族


評価 4.6

これってあれ?あれ?あれ??
いくら鈍い私でも、あれ?と思った。
そして解説を読んでやっぱり!あれ。
だって・・・一章の終わりから二章にかけ、そして最終章に至るまであれで満ちている・・・
最後、ひどすぎやしないか・・・

かつての北海道の地に
未練を残して死んだ者は鬼になり、生活の基盤である水を濁す。
その鬼を見て、その未練を想像する役目を持つ人間が集落にいる。
まず見てその様子を語るのが、八尾一族の水守、水守は、昼は目を開けられず夜になってようやく見ることができる。
そして鳥目役は昼間しか世の中を見ることができないが、彼が水守のいったことを分析して、未練を考える。


黒目がちの鳥目役の八尾清次郎が主人公となっている。
彼はH帝国大学で学ぶ医学生だが、水が濁ったことによってたびたび故郷から呼び戻される。

不可思議な水守と鳥目役の関係が目を引く。
どちらも目に一種の障害があるので、昼に目を開けるものと、夜に目を開けるもの、ということで二人の接点がほぼないのだ。
それでも二人の苦悩というのはそれぞれにあるので、なんとなく二人は理解しあっている。
強烈に美しい水守に徐々に惹かれていく清次郎の止まらない気持ちというのが切ない。
それぞれの未練、というのは、それほど大きなものではない、謎として。
でもその未練が鬼に自分をしてしまったというのが痛いほどわかる。

ラストもまた切ないし残酷だ。

以下ネタバレ

これはBL?
水守が一章で女であると思っていたら男だった、という驚愕事実がある。
それでもなお、彼(彼女)に惹かれ続ける清次郎。
最後その気持ちの未練ゆえに、事故で死んだ清次郎の霊は鬼になってしまった・・・


評価 4.7

私にとって驚きの一冊。
どう驚いたかというと、帯とかで私が想像していたのは
『非道な父に監禁され、虐待され、そこでなぶり殺しの目にあっていた少女の脱出劇』
だと思っていたから。
18年間父と二人きりで暮らしているとあったので、てっきり監禁物語と勝手に思ってしまったのだった。

ところが、これ、監禁の物語ではない。
監禁は終わっていて(何しろ父親は死んでいる)、そこからもう出られる状況の少女がいるのだ。
ところがその少女は気味の悪い遺言執行人と結婚しなければすべての財産をあげないよという父の非道な遺言が残されている。
この男というのは、父の友人なので、当然年を取っている。
父の監禁が終わったと思ったら、今度は父の友人の監禁か・・・と少女ベティも読者も暗澹とした気持ちになるのだった・・・
そしてその友人から逃げるために、ベティは非常に勇気ある行動で逃げていくのだ、しかも一人の純情な青年を巻き込みながら。

・・・
つまりこれ、ロードムービーの様にかなり最初の部分からなっている。
追われる逃げる、追いつかれる、更に逃げるの連続の話だ。
ベティは父に教わった護身術を駆使しながら、生き延びていく。
そして、弁護士事務所に保管されていた父の遺品から、自分の出生を割り出していくのだった。

この一緒に逃走するデッカーの造形がとても良い。
彼のすがすがしい行動とか、あまりに愚直すぎる行動とかもどきどきしながらも見守っていけるのだ。
一方で、ベティは人と接したのが父親しかないので、まずそこから徐々に外の世界に慣れていく。
喧嘩腰だったベティを変えていったのはデッカーのやさしさだと思った。

ベティが自分の母親と父親との手紙から、彼らのロマンスひいては自分の境遇を想像するところが面白い。
が、なんだか荒唐無稽?という感じも否めない。
このために、ベティは監禁されていた?

以下ネタバレ
その結果、想像で全く別のところに行きついたベティ。
彼女が本当の父親と思って一緒に暮らそうとしたのは、単なる母親のストーカーだった。
そしてこのストーカーに対抗するために、本当の父親(一緒に暮らしていたのが本当の父親)はベティに護身術などを教えたのだった。
2017.07.10 風の歌を聴け


評価 5

年に何度か読み返すのだが・・・

デビュー作に全て詰まってるというのは至言であって、本当に村上春樹のスタートがここから始まると思いながら読むと感慨深い。

・バーで出会い介抱した女性
・指に特徴のある女性
・鼠というあだ名をつけた彼
・今まで付き合った三人の女性の行方
特に最後に自死した女性への気持ちとその揺らぎ
・ひと夏の出来事
・おしゃれな小物の数々・・・
・音楽への憧憬

初めてこれを読んだ時に、これが日本の小説というのにとても驚いたというのをまた改めて思い出した。
もう文体から何から、翻訳小説そのものだったから。
内容もついでにいえば、翻訳の世界の物だったから。
なんだか画期的な作品だったのだった。


評価 4.6

ドメスティック・ノワール、というのがよく意味がわかったようなわからなかったような気がしていた。そして、裏のあらすじを見て、ママ友の軋轢の話?っぽく思っていたのだが、それはそうでもあり、全く違った側面もまたあった。
後半、真実がめくれていくにつれ、これってサスペンス要素のある話だなあと思ったのだった。
まさかこのようなことが陰で行われているとは。
途中で何度かハイスミスに言及したところがあり、実際に作品名も出てくるのだが、ハイスミスを意識して書いているなあ・・・と思う部分も多々あった。
一人の人間の裏の面がべろっと出てくるところがとても楽しめたのだった。

ステファニーのブログも巧みに使われている。
ブログの虚実もまたあらわになっている。
またママ同志の微妙なヒエラルキーも作用しているところも面白い(ここは日本と一緒)

シングルマザーのステファニーは、同じ幼稚園のママ友に親友ができた。
その名前はエミリー。
お互いの子供同士が仲良かったこともあるのだが急速に仲良くなった二人。
ある日、エミリーは息子をステファニーに預けたまま失踪する。
ステファニーから見れば、理想的な夫、潤沢な資産と美貌を持ったエミリーが子供を残して失踪するということ自体が意味が分からなかった・・・


そしてステファニーは自分のやっている育児ブログで、情報提供を呼びかけるのだ。
ブログの功罪がここで明らかになってくる。
ブログは書き方によれば、ある一定の人に向かってのメッセージにもなりえるのだ。

ステファニーの語りで進んでいく前半は、彼女の暗い過去もまた映し出している。
なぜ彼女がシングルマザーになったのか。
そして彼女の最大の秘密は何なのか。
そしてその最大の秘密の後の、更なる秘密とは何なのか。

一人の人間が出来上がるのは必ず彼女もしくは彼の過去があり、過去が人間を追ってくる。
それが如実に出た作品だった。

惜しいのは、最後だと思う。
最後、もうひとひねりがあっても良かった、こちら側の反撃とか。
あとエミリー側のある一つの秘密、は割合最初の方でわかる。
これはちょっと使い方が安直だと思う。

以下ネタバレ
・後半は失踪していたエミリーの告白になる。
エミリーと夫のディヴィッドは保険金目当ての犯罪を計画していた。
エミリーは死んでいなかった。
保険金を受け取ったら、ディヴィッドと海外に逃亡するつもりだった、息子を連れて。
それまでの間、息子を安全に生かしておいてくれる人が、わざと近づいた友達ステファニー。

しかしエミリーーが双子というのを知らなかったディヴィッドは、彼女のDNAが死体と一致したために、彼女が死んだと誤解する。
そしてステファニーと深い仲に。

代わりに死んだのが、エミリーの双子の妹(ドラッグで身を持ち崩している女)
この双子、というのは、最初の方で双子の絵がある家なので割合容易に想像がつく。

・エミリーを崇拝し、そして羨み、ついにはその座を乗っ取ったと思われるステファニー。
一見地味で(ここがブログを見ると非常に明るく張り切っている女性に見える)、普通のシングルマザーに見えたが、彼女は異母兄と密通していたという穢れた過去があった。
そしてそれを結婚後も続けていて、見破った夫は絶望して異母兄とともに車の事故で自殺したのだった。
これが最大のステファニーの過去。
さらにわかった過去が、ステファニーの今いる子供が、異母兄の子供、であるということだった。

・最後エミリーは、夫はどうでもいいので(ステファニーと密通しているし)、息子のみ取り戻したいと思う。
そして息子の幼稚園に遠くから顔を出し、息子に合図を送る。
息子は、食事の席でママに会ったと言って、ステファニーたちを戸惑わせる。
ほどなくエミリーはステファニーの前にも現れ、彼女は死んでいないんだということを確信するに至る・・・

保険会社のプラガーがやってきて、保険金のことで調査し始めたので、エミリーの誘いに乗ってステファニーはエミリーの夫に罪を擦り付ける車殺人を共にすることになる。
プラガー死亡。
そこにあった指輪から警察はエミリーに事情を聴きに来るが、巧みにエミリーはステファニーに話を誘導する。
そして警察はステファニーに。

エミリーは高跳びの用意をする、愛する息子とともに。

・・このラスト、ステファニーがもう一回、反撃すればいいのに、と思った。



評価 4.4

話そのものは滅法面白い。
エンタメとしてぐいぐい引っ張っていってくれる。
世界情勢を巧みに取り入れ、そこに虚構の世界を広げている。
現代の宗教紛争、政治闘争が見事に取り込まれていて、地図もあるし、アラルスタンというのが架空の国というのを一瞬忘れそうになった。
遊牧民の生き方、ソビエト崩壊、スターリン下での中央アジアへの強制移住、イスラム主義・・・
本当の地名と本当の歴史も織り込みながら、話は女性たちを中心に進んでいく・・・

中東の国、アラルスタンで大統領暗殺が起こった。
そこで立ち上がったのが後宮にいる女性たちの集団。
後宮は、側室という側面は今やもうなく(かつてはあったらしい)、頭脳優秀な集団であり、得意分野もまたある人間たちであった・・・


ただ・・・どうなのだろう。
話が重厚な方向に向かっているのに、このアンバランスさは。
女性たちの話が実に軽いのだ。
これがエンタメたる所以なのか?
そこでかなり興を削がれ、先を読むのが辛かった・・・
途中から、漫画を読んでいるような気持ちになってしまったのだった。

欺こうとして用意された一つの劇。
そして全く思ってもみなかった意外な人物の正体・・・

・・・・・・・・・・・・
申し訳ない、きっと届く人には届くエンタメなんだと思う。
面白いには違いないのだが、私には正直合わなかった・・・
話はこれだけ面白いのに、なんだかライトな物語、もしくは漫画を読んでいる感じがしたのだ。


評価 4.8

率直な言葉で映画監督西川美和がその思いを語ってくれている。
今回は、映画永い言い訳の話が多く、もっくんの話も多かったので、映画を見た者としてはそこもとても楽しめた。
もっくん、こういう人だったのか・・・という驚きも!
まさに衣笠じゃないか・・・

裏話というのではなく、映画はこんなに多くの人を巻き込んで、多くの人の感情を揺さぶって(既に現場で)、多くの人の手を経て、ようやく私たちのもとに届くんだ、というのを実感したのだった。
監督の目、は妥協のない目であり、一点の曇りもない目でもある。
これだけの賞を取っても、実力があっても、まだ自分を探している途中というか、暗中模索のような状態というか、そこにまず驚いた。
でもそこがこの人の映画のいいところなのかも、と思った。
妙に、あがり、といった感じがないのが自然体の皆の演技を引き出しているのかもしれないなあ・・・と勝手に想像したりしたのだった。

子役の選出の大変さもひしひしと感じた。
育ってしまうからなあ・・・撮影中に・・・と思うと、オーディションの難しさ、その子の心のケアなど、作者が言うように子役への気持ちってたくさんのことが溢れているんだなあと感じた。
そして、私はこの映画で、子役の男の子の大ファンなので、この子が泣くシーンで苦悩しているというのを読んで、頑張ったなあ・・・と改めて思ったのだった。