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6月の読書メーター
読んだ本の数:15
読んだページ数:5076
ナイス数:263

彼女たちの場合は彼女たちの場合は感想
従姉妹同士のアメリカノープラン旅行。ロードムービーを見ているようで楽しめました。逸佳が17歳、礼那が14歳と未成年でしかも女の子二人なので親目線だと非常に不安で危険だと思います、現実問題としては(事実危険な目に何度か合っているし)。途中までは親のクレジットカード払いでホテルなど泊まっていましたが、途中から止められてここからの方が話が面白いと思いました。行く先々で多くの人と出会い、二人が協力してアメリカの土地土地を巡っていく・・・犬を連れたお婆さんとの出会いが後半とても重要になってきます。
読了日:06月30日 著者:江國 香織
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルーぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー感想
とても良かった!!イギリス在住の母と息子のやり取りがなんとも心に響きます。元底辺中学校に入学した『ぼく』が出会ったのは、多様な人種、貧富の差歴然のクラスだった・・・『ぼく』自身も英語で話すものの外見から差別に合うことも。格差社会がくっきりと浮かび上がってきます。ピュアな『ぼく』の物の見方、様々な友達との交流が鮮やかに描かれ(特にダニエルとティム!)、それに対する母ちゃんの一言一言が胸に刺さります。一方で真面目な話だけではなく、クリスマスに自虐ラップをする問題児とか、学校のクラブ活動などの話も楽しみました。
読了日:06月30日 著者:ブレイディ みかこ
国語教師国語教師感想
前半の方であまりの男女の感覚のずれ(男女のテンションの違いと男女の視点の違い)に、うわーと一旦本を置き・・・そこから復帰してまた読み直してみたら!読ませました、最後まで。かつて同居していた男女が16年ぶりに国語教師と作家という立場で再会する。4つの部分があり、特にこの中で国語教師の創作の若い男性の監禁物語が非常に不気味で気味悪い物でした、しかも物語が進むにつれてある部分がそこにリンクしていくというマジックが。巧みです、話の持って行き方が。齟齬だらけの二人の話がまとまっていく快感が。ラストぐっときました。
読了日:06月29日 著者:ユーディト・W・タシュラー
無実はさいなむ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)無実はさいなむ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
NHKBS放映で今やっているので再読。このミステリ、昔から言いたいことが沢山あり・・・ツッコミどころ満載なのです。が。が!設定がまず非常に面白く(お屋敷に生れも育ちも違う養子が5人!!って!)子供たちの個性がそれぞれ違って、しかも『善意』で引き取った当主の奥さんが・・・という回想部分も読ませます。加えて、既に死亡した犯人が当時主張したことが本当だったとわざわざ言いに来るキャルガリなる男がいて、長女の車椅子の旦那様、と多彩な群像劇。だからツッコミどころはあるけれど、愛すべき作品でもあります、私にとっては。
読了日:06月29日 著者:アガサ クリスティー
検察側の証人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)検察側の証人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
NHKBSが連続のドラマで今放映しているので、また読んでみました。もう欠点ないでしょう、というくらいの出来の戯曲。二転三転がこれほど鮮やかでクリアーなものってなかなか出会えないと再確認。全てがわかっていても面白いという古典中の古典。
読了日:06月29日 著者:アガサ・クリスティー
いくつになっても トシヨリ生活の愉しみいくつになっても トシヨリ生活の愉しみ感想
年末以外に中野翠さんの本が読めると得した気分、ラッキー!副タイトルにトシヨリ生活の愉しみとありますが、年老いても(というか老いている感じがしない!)いつもの作者であって、映画の話とかファッションの話とか読んでいて楽しかったです。おすすめ老人映画も八月の鯨、ストレイト・ストーリー、手紙は覚えている、小津映画と多彩でありこのあたりも読んでいてわくわくしました。ユニクロと無印の服に関する感想が私と同じで、そうなのです、日々とても助かるんですが、が。あと手作り手芸の話、大好きなのでそこも嬉しく読みました。
読了日:06月29日 著者:中野 翠
夫の骨 (祥伝社文庫)夫の骨 (祥伝社文庫)感想
面白かったです。9編入っていて全て家族の揺らぎ曖昧さ不安感を描いている小説。全てが予想を裏切られます、確実に。最初の方はありがちな普通の家庭の話から始まり、そこからなんと!!という数回にわたる驚きの展開が見事です。俗にいうイヤミスの範疇とは思いますが、中には明るいラストの絵馬の赦しなどもラスト一文がきいてます。鼠の家も暗い話ですがラストに光明が。表題作のラスト2ページの驚きで茫然とし(全て予想は違いました)、かけがえのないあなたのラストでDNAキットの意味がああっとわかりました、そういうことだったのかと。
読了日:06月22日 著者:矢樹純
冥界からの電話冥界からの電話感想
愛子先生の小説もエッセイも大好きで(なので、ここに出てくる北海道の怪異の話も知ってます)だからこそ、残念。死後の世界があるかないか、霊がいるかいないかの前に、死んだ少女の電話番号とか、少女の住所とか実在したのかとか、事故の事実確認とか、少女の兄はいったい何者なのかとか。もうそのあたりをとことん追及していただきたかったです。高林先生に対してもすみません、好感は持てません、なんであんなに胸の事を少女に何度も聞く?ここだけでかなり私にはなんだかなあの人間でした。ただあったことをありのままに書いたのでしょうが。
読了日:06月19日 著者:佐藤 愛子
三つ編み三つ編み感想
声高にジェンダー論とかフェミニズムとか叫ばれている小説は苦手なので、どうかなあと恐る恐る・・・ああっすごくいい小説!!インド、イタリア、カナダと違う場所で違う環境で生きていく三人の女性の物語です。三人の中でインドのスミタの話がやっぱり強烈で、現代?これは?と何度も何度も読み返しました、それほどひどい。そもそもどの話も話そのものが面白く、スミタの脱出劇、ジュリアの恋物語から会社の事へ、サラの焦りと全てに映像が浮かびます。また男性VS女性という構図ではないのも好感度大。ミステリのように最後三人の結びつきが!
読了日:06月18日 著者:レティシア コロンバニ
生物学探偵セオ・クレイ: 森の捕食者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)生物学探偵セオ・クレイ: 森の捕食者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
ううむ・・・変人探偵というか、もうこれは、人間関係を構築できる人ではないというレベルの変人(でも恋はしてる!なぜ!)のセオ・クレイ。生物情報工学の部分が好きな人にはたまらないと思いました。しかし独自調査すればするほど自分の首を絞めるということになってくるのが・・・後半、かなり冒険活劇チックかなあ。
読了日:06月16日 著者:アンドリュー メイン
ゆるキャラの恐怖 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活3ゆるキャラの恐怖 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活3感想
大好きなシリーズ、クワコー!待ってました!大学の先生なのに、クワコーと生徒に言われるくらいに馬鹿にされ、そしてせこくてお金を常に使わないようにしていて本当に貧乏で、でもなんだか憎めなくて。今回はゆるキャラまでになってしまったクワコー。一緒にいる女子学生のネット語満載の浮ついた会話も笑いました(ホームレス学生も懐かしい!)。後半の話は、教育勅語が出てきてこれまたおバカな男子学生が色々指摘するのですが(それもひどい言葉で)ここ、納得できたのです、彼が言う事がいちいち。にしてもセミ!きのこ!要注意!
読了日:06月15日 著者:奥泉 光
たのしい暮しの断片たのしい暮しの断片感想
鋭い切り口の金井美恵子さんのエッセイというより、のんびりと暮らしの事、昔の事を語っている本でとても好感が持てました。本と映画に当然ながら詳しいので、長靴一つとってもそこから、映画のヘッドライト、ハックルべりフィンの冒険、そしてバードウォッチングまでの流れる文章を楽しみました。また鏡花随筆集など本への言及もありそこもまた読みどころ。幼い日々の出来事を綴っている竹とんぼとか雪だるまの話が澁澤龍彦の狐のだんぶくろ(こちらは男の子の幼い日々)などを彷彿とさせました。
読了日:06月15日 著者:金井 美恵子
赤い衝動 (集英社文庫)赤い衝動 (集英社文庫)感想
読みましたが・・・
読了日:06月15日 著者:サンドラ・ブラウン
十日間の不思議 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-1)十日間の不思議 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-1)感想
これまた再読。ライツヴィルもの三作目なのですがとりあえずこれを。これも大好きな話です。最初記憶喪失の男性の話から始まるので、一種サスペンスっぽい風情もありますが、そこからエラリイがまたしてもライツヴィルの町に!年の離れた夫のいる女性の境遇、そこにいる息子の境遇、息子と対立している叔父、そしてすべてを取り仕切っている人格者の父親と、9日目まですこすこ読んでいて、エラリイが謎を解き明かしてやれやれと思い、10日目になると!この衝撃、結構私は大きかったです。犯人がわかってから全部読み直すと巧妙な人物描写が!
読了日:06月15日 著者:エラリイ・クイーン
災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
数年前に旧訳で再読して今回は新訳で再読。驚きました!解説にもあるようにハーマイオニーの名前変更!まずここに、えっと驚きました。非常に読みやすくなり、ライツヴィルもの大好きなので、この濃密な街の雰囲気とか改めて読んでも懐かしかったです。町の名家と言われている一つの家族の物語ですが、若きエラリイ・クイーンの行動が若いなあと思わせるところが多々あってそこも読ませます。婚約者が失踪したという衝撃の過去の出来事から始まり、途中の話の核となる手紙、姉妹それぞれの思い、エラリイの立ち位置と、ラストまで一気に読ませます。
読了日:06月15日 著者:エラリイ・クイーン

読書メーター


評価 4.9

楽しい!
二人の少女がアメリカを旅する話、なのだが、とても読ませるし何より二人の道中の話が楽しい。
折々に二人が家出をしたということから、二人のそれぞれの両親の様子が出てくる。
ここがまた現実に戻っているようで、更にこのことによって夫婦の亀裂みたいなものも浮き彫りになっていってそこもまた読ませるのだ。

逸佳と礼那。
二人はいとこ同士で、逸佳は17歳、礼那は14歳で、礼那は家族と共にニューヨークに住んでいる。
逸佳は不登校になりとりあえず今は礼那の家族と一緒にニューヨークに住んでいた。
ある時、二人は家出を決行する、アメリカ中を見てみようという気持ちの元に。


少女二人で最初は親のクレジットカードでホテル三昧だ。
特段に浪費しているわけではないが、いずれにしてもクレジットカードがあるというだけで二人とも安心して移動している。
けれど、ヒッチハイクも同時にしているので、贅沢三昧しているわけではなく、二人で知恵を出し合って暮しをたてながら移動しているのだ。
しかしアメリカでノープラン。
そしてそこにはたくさんの人がいる・・・・

現実的に安全、という事を考えると非常に無謀な旅でもある。
海外しかもアメリカで未成年の女の子二人での旅・・・案の定困った事態にも何度か会いかける(バイク事件が一番怖かった・・・よく逃れたものだ・・・)。
これを見ていると安全と危険って紙一重なんだなあと思う。
親たちが心配するのも無理はないと親視点では思う。
けれど、一方で、ロードムービーのようで彼女たちが途中途中で出会う人たちに励まされ、次の駒(すごろくのように途中で感じた・・・)に進んでいくところなど読ませたのだった。

特に。
クレジットカードを止められてからがとても良い。
不法とはいえ働いてお金を稼ぐようになった逸佳。そしてほのかに心を許す男の子も出てきて彼に電話をすることで精神の安定まではかっている。

この二人が、一方の逸佳がかたくなでありそれほど人に心を開かないし、英語がそれほど得意でもない。
一方の礼那が英語が堪能であり、心を開いているので多くの人と知り合うきっかけになる。
この対比が面白いし、逸佳がノーと思っていたことが後半ほどけてくる様もまた魅力的だ。
路上で倒されたお婆さんがいて、彼女の逃げ出して犬がいて、ここから二人の後半の旅が決まっていくというのもまた楽しい。

旅で色々なところに行って、長くいるところもあればさくっと離れるところもある。
けれど、礼那はまだ幼いのでよくわからないだろうが、逸佳の方はもうこの旅がこれで終わりの旅なんだ、こうして二人で長旅をすることはないんだということがわかっている。
もしすることがあってもそれは全く違ったたびになるという事も。
だからそのあたりの思いの強さというようなものは逸佳から伝わってきた。

ただ・・・
2・3気になったことを。

以下ネタバレ

・二人が旅に出るきっかけがあまりよくわからない。
そのあたりもっと描いてほしかった、二人が相談している姿とか、一人一人の心情とか。

・礼那の両親がうまくいっていないのが顕在化するわけだが、この二人の旅行によって。
母親が教会に行っていた意味がよくわからない、信者ではないのにこれだけ熱心に通っているという意味が。

・あと礼那の母親のUの発音が混ざっている単語の話は何だろう?
単にそういう話ということなのだろうか?
救いを求めていたのか?それは教会なのか?

・将来的に礼那の両親が離婚するらしいが・・・
この話、途中の流れから不仲で話し合いができない二人とはわかるのだが・・・そこまでなのか?
そのあたりが唐突に見える。将来の話とは言え。



評価 5

波(新潮社の販促誌)をずうっと見ていて、この連載が一番面白く一番楽しみにしていた。
今も続いているがそれが一冊の本になったというので、わくわくしながら読んだ。
波で読んでいても改めてこうして読んでみると、親子の会話が絶妙であり、母ちゃん、が素敵であり、息子君の逡巡、判断、友達への接し方に現代イギリスの問題点がクローズアップされる。
それはいわゆる、格差が大きいということなのだが・・・

イギリス在住で日本人の母とアイルランド人の父との間に生まれた『ぼく』。
ある意味特殊な環境の優れた(と一般的に思われている)カトリックの公立小学校に通っていた優等生の『ぼく』。
中学になって学校の選択があり、そこで人種も貧富も上下がある元底辺校だった・・・


主に子供の日々の出来事から、会話が始まりそこから見えてくるイギリスの現在。
友達同士の間も常に貧富の差(あまりに貧しいところは貧しい)があり、そこに気を遣うのも悪いし全く気を遣わないのも悪いしという心の葛藤がとてもわかる。
自分が理解できないくらいの貧しさを友達が持っているという現実がある。
そして、そこには、貧困のみならず、『ぼく』が直面する自分自身の問題でもある、人種問題も根強く横たわっているのだ。

・・・・・
何よりもこの本で読ませるのは、息子が持ち帰ってきた問題を母親がとても真剣に受け止めて(かといって過剰ではない)、彼女なりの判断をするのだが、必ずそこに息子の意見はどうなのかというのが見えてくるのだ。
教育の違いかもしれないけれど、息子君の意見がこれまたすごい。
何が正しいのか。
アイデンティティーとは何か。
大きなところで言えばそういうことだが、卑近なところで言えば見てくれも非常に良いのにクラスのみんなから疎まれている少年は微妙に差別論者だ、彼の家庭環境からだろうが・・・
一方で貧しい地域に住んでいて、兄弟が多く制服すら新調できない子もまたいる。
『ぼく』はどちらとも話せるしどちらとも付き合えるが、この二人が犬猿の仲というのは変わらない。

更に、東洋人の顔をしている彼を何くれとなく庇ってくれている上級生がいる。
彼もまた中国人という国籍を持っている。
彼が、『ぼく』を庇ってくれているという事、そのために事件が起こってしまったという事に『ぼく』の気持ちは乱れる、自分はそれほど自分のことをオリエンタルと思っていないのではないか、自分はどこかに属しているという意識がないのではないか。

学校の楽しい劇の事も印象深い。
演目はアラジンのミュージカルだがひょんなことから(声変わり!がキーとは!)最初差別的発言で反目していた子とある日仲良く話せる日が来る。
この時以降話すようになり不思議な友情関係が生まれる・・・・

クリスマスコンサートの問題児の自虐ラップも笑える。
そう、この本、真剣な話も多いのだが、笑える部分もとても多いのだ。

・・・・
折々に作者がかつて保育士であったこと、そこは底辺の保育園で実に多種多様の子供がいたこと、そして偶然その中の一人の成長した姿を見たこと、などが綴られていく。

とてもとても私的なこと(いわば息子の学校の話が中心だ)なのに、なんて普遍的なテーマを描いている一冊なのだろう。
子供らしい『ぼく』の言葉に何度も何度も胸を打たれた。
そして、エンパシーという言葉もくっきり胸に刻まれた。
2019.06.29 国語教師



評価 5

読み手の心をあちこちに持っていく話だと思った。
二転三転するのだ、話もそうなのだが、二人の男女に関する感情が揺れ動かされ翻弄させられる。
また作りも大変手が込んでいて、
1.メール
2.二人の作った物語が二つあり
一つは、男性側の祖父の自伝
一つは、女性側の非常に気味の悪い監禁物語
3.過去での出来事
4.16年ぶりの再会の時の会話
この4つで成り立っている。
これが絶妙に組泡合っているので、ある時には、監禁物語で(やっぱり!!)と思い、ある時には過去での出来事で(え?)と思う。更には現在と過去が描かれるので、そこでも違った光景が見えてくる。
一体何が真実だったのか。
そのあたりの揺らぎもある。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
最初の方で、すぐに次のことがわかる。

・昔付き合っていたらしい男女がいる。どうやら16年ぶりの再会らしい。
・女性側マティルダは国語教師であり、男性側クサヴァーはどうやら青少年向けの有名作家らしい。
・作家を招くワークショップがあり、それが『偶然』女性側の学校で開かれることになる、国語教師であるから当然ながら女性側がもてなす側のホストになる。
・この偶然を男性側は非常に喜んでいる。喜びついでにメールまで出す、個人的な思い出を語りながら。
・しかし女性側はそっけない。きわめて事務的に返している。


ここまでで、(ああ・・・きっと男性のクサヴァーはそれほど感じていないかもしれないが、女性のマティルダは何か深い傷を負ったのだな、過去に)ということは容易に想像がつく。
そしてやはりそのようなことが描かれていく。
ここまでは想像の範囲内だ。

子供を望んでいたのに全くその話に耳を貸そうとしなかったクサヴァー。
同居して16年(!)という長い年月にもかかわらず、最後あっけなく家を出ていくクサヴァー。
その陰には・・・・
もうこのあたりで、クサヴァーのクズ男っぷりが目についてくる。

ところが途中から実に不可解な展開が始まっていく。
それはマティルダの気味の悪い監禁小説とともに始まっていく・・・いったいこの話は何なのか、もしかして・・・

最初の方で感じた感情と読み終わってから感じた感情が全く自分の中で違っていたのだ。
そしてこれが、途中まで恨みとか復讐の物語とばかり思っていた自分が恥ずかしい。

・・・・・・・・・・・・・・
以下ネタバレ

・途中から、
『金持ちの女に乗り換えて、全てを手にしたクサヴァー』
が見えてくる。
そこが見えた時点で、更に最低のクズ男と思った。
またマティルダとは子供を作らないのに新しい女との間に子供が!!
更にヒットした物語を二人で作ったことは一切外に出していないというところでもまたクズ男っぷりが際立つ。

ところが途中から
クサヴァーの今があらゆる形で語られる。
それは、クサヴァーは結婚して子供がいるが、それは自分の子供ではなく奥さんの子供(同時期に奥さんが付き合っていた男からの子供)であった。
クサヴァーは無精子症で子供が出来なかったのだ(それをマティルダはクサヴァーが出て行ってから知る)

その子供が誘拐された、ベビーシッターが目を離したすきに。
永遠に見つからず、そして夫婦仲もそれで終了した。

・マティルダの創作した話には、若い男性を小さい頃から地下室に閉じ込めた監禁の物語が出てくる。
読んでいて
(この若い男性は、もしかしてマティルダがクサヴァーの子供を誘拐して育てているという実話なのか?)
という疑問が沸き上がる。
クサヴァーも同じような気持ちでいるのかともその時に思っていた。

・が、実際は

子供は事故死していた、牧場で、ベビーシッターとクサヴァーが情を交わしていた時に。
それをクサヴァーは知っていたのだ。
マティルダは自分の話が嘘だとわかっていたし、クサヴァーを問い詰めて真実を吐き出させる。
ベビーシッターの事も見抜いていた。
そしてすべてをわかったうえで、警察に行けとクサヴァーに諭す。

・マティルダは余命幾ばくもないので、クサヴァーに会いたかった。
あれだけ愛したクサヴァーに。
クサヴァーは、マティルダの病状は知らなかったが、わざとワークショップをマティルダの学校と指定したのだった。
マティルダ側も同じことをしていた。
誰よりも深くお互いのことを理解していた二人。
これは変遷を経てようやくこれが真実の愛だと気づいた二人の、愛の物語だったのだ。



評価 4.7

これもBBCの放映があるので再読してみた。
前と全く同じ感想の箇所は、消える、ということだった。
誰が消えるかというと、キャルガリだ(ドラマではカルガリーになっている)
解説にも書いてあったが、視点が一定していないということなのだろうが、ともかくも、探偵役がキャルガリだなと思っていると、ずうっとずうっとでなくなってしまうのだ。
一体どうしたことか?
なんか意図があるのか?
と最初読んだ時に思ったことまで思い出した(意図はないと思います)
あとラストのあれはやっぱりもやっとした。突然なに?なんで?(今も謎が解けません)


善意の慈善家の老婦人が殺された。
彼女の元には、引き取られた養子が5人、引き取られた家政婦、夫、夫の秘書、養子の一人の夫と多くの人がいた。
養子の中で手の付けられない息子のジャックが犯人だとされ、捕らえられた。
ジャッコはほどなく獄中死するが、最後まで自分が犯人ではないと主張して、その証拠に
『屋敷には行った。
帰りに車に出会って、見ず知らずのその車に乗せてもらった。』と言ったのだった。
ところがこの車の持ち主は見つからず、これまたジャックの嘘だと・・・思われていたのだが・・・


全ての事件が終わった、と皆が思っていたら、突然車の持ち主が現れる衝撃の幕開けがある。
持ち主がアーサー・キャルガリだ。
彼は近頃この事件を知って、自分のために迷惑をかけた人たちがいると思い訪ねてくるのだった・・・

・・・・・・・・・・
いいことをしよう!真実を告げたジャックの言葉が本当だと証明しよう!!と思ってきたのに皆から疎まれるキャルガリの姿が何ともお気の毒だ。
自分でもそれは愚痴っているのだが・・・
ジャッコが犯人だったら、ワルだったので家の人達がそれなりに納得していたのだ。
でももしジャッコが犯人でなかったら?
全員がお互いを疑心暗鬼の目で見るようになる。誰が本当の犯人なんだろう・・・
そして彼は誰にも頼まれていないのに独自に調査を始める。
4章から7章まではキャルガリが八面六臂の活躍だ。
読むほうも(ああ・・今回の探偵役はキャルガリなんだな)と思いつつ読んでいると、ふっと消える、8章から。消えたキャルガリ・・・
実にそこから18章再登場までキャルガリではなく、今度はフィルという養子の一人と結婚した車椅子の男性が探偵まがいのことを始める、人間観察ができるようになったと言って・・・

しかし、慈善家の女性がそもそもこの5人の生まれも人種も異なる子供達をどうやって養子にしたか、そして養子になった彼女たち彼らたちはどう思っていたのか本当は、というところが最大の読み場だと思った。
子供を愛する形が、伝わっているのか。
彼らは強権的な母に物質面では満足させられていたものの、心の面で本当に満足していたのか。
そして最後まで手を焼かせたジャックの本当の姿は何だったのか。
このあたりはとても読ませて面白い。
全員のキャラクターが生き生きと描かれいてる。
また、途中であるサイドストーリーのような人物が入ってくる。
この人の存在がたいしたことないな、と思っていたら最後非常に重要な役目だったんだ、というのが今回改めて注目したところだった。


以下ネタバレ

・後半フィルが殺され、ティナも殺される寸前まで行く。
それで犯人が分かるのだ(ここの展開も今一つ・・・)

犯人は家政婦のカーステンだった。

ひとたらしで年上の女性を篭絡するのが上手なジャッコにそそのかされ、カースティンは彼への愛のために雇い主を殺したのだった。
そそのかし役がジャッコ。
実行犯がカーステン。
ジャッコは自分に完璧なアリバイを持っていた(と思っていた、車を拾うところで)

ところが、途中のサイドストーリー的なところで、ジャッコの死後ジャッコの妻なるものが現れたことが、カースティンを逆撫でる。
殺人まで犯したのにジャッコには妻がいた、というところで目が覚めるのだった。

(ジャッコをカースティンが救わないのは、気持ち的にわかる。
が。
私の疑問は、なぜジャッコは自分を救うためにカースティンだったと言わなかったのかということだった。
だって自分は殺していないわけだから、実際に。
獄中死までが短かったのか?(しか考えられない)

・養子にした、裕福な家で満足な暮らしをしていない子供たちを育てた、というのが、子供達それぞれの記憶の中では必ずしもいいこと、としては記憶されていない。

・真相に近づいたフィルとティナを殺した、殺そうとした、のもカーステン。

・ラストいきなり、キャルガリとへスターが結びつくのだが・・・いったい??
医者はどうなった???え?



2019.06.23 検察側の証人


評価 5(飛び抜け

評価をつけるのもおこがましい・・・
BBCのドラマを見たので戯曲の方を何年かぶりにまず読んでみた。

どんでん返し、思ってもみなかった結末、ぞっとする最後。
こんな謳い文句がずうっとこのミステリは叫ばれていて、見る方も読む方も最初すごく目を凝らしてみている。
でも絶対にわからないと思う巧妙な作りだ。
どうやって、というのが最大のキーで、このことに関しては最初の方で一瞬だけ書かれている、そこも見逃せない。
また、すごく大胆な手口なので、ここもまた見逃せない。

ふとしたことで街中で知り合った二人の男女。
青年レナードはお金がなく妻ローマインと二人でつつましくささやかに暮らしている。
金持ちのオールドミスは金にあかせてレナードを屋敷に入り浸らせている。
そしてある夜にオールドミスが殺された。
当然レナードに嫌疑がかかるのだが・・・しかもレナードは相続の権利を持っていたのだった・・・


妻ローマインが最初は弁護側の証人でレナードがその時刻には家にいた、というのを証言してもらう手はずになっている。
ところがローマインがレナードを罵倒し始めるので、これは危険と『弁護側の証人』ははずされるのだ。
あろうことか、その後ローマインは『検察側の証人』になり、茫然とするレナードの前で彼が不利な証言をするのだった。
絶体絶命のレナード・・・ところが・・・

ここからが非常に巧い。
ローマインの造型もここまでに描かれいてる。

以下ネタバレ

・このミステリのポイントは
愛する夫のために語る妻の証言は、あまり重要視されないので無実を勝ち取れない事だ。
だから、本当は愛していた夫をなんとか絞首刑から逃れさせようとして、ローマインは逆手を取った。
不利な証言をローマインがして、別の人が(実はローマインの変装の人)その証言は嘘だったと証言して見せる。
これが唯一レナードを無罪放免する方法だった。


最初の方で
妻ローマインが
・外人であること
・かなりレナードより年上であったこと
・二人が籍を入れていないこと
・女優だったこと(ここが非常に重要になる)
というのは記されている。

ローマインは、違う女性に変装して化けた(ここが女優魂発揮)
自ら(外から見ると違う人間に見える)ローマインの言っていることが嘘だ、と証言する人間に成り代わる。
妻ローマインの言っていることが否定される。
つまりは、

レナードが釈放される方向に行く。

しかし、ラストもうひとひねりが戯曲にはある。
レナードは自分が刑務所に行くことも覚悟で(偽証罪で妻ローマインは問われることになる)絞首刑から救ってくれた妻を見事に裏切ってくれる。
彼には新しい恋人がいた・・・
そしてローマインは包丁でレナードを殺すのだった・・・




評価 4.9

あ、年末以外の中野さんのエッセイだ!と大喜びで購入して読んだ。
そして、タイトルのいくつになっても、中野さんらしいなあ・・・と思ったのだった。
年齢を経てあるところに到達する人もいる。
もう悟っちゃう人もいる。
説教臭くなり人生を語り始める人もいる。
かと思えば妙に若い感じで語られそれが痛々しい人もいる。
中野さんはこのどれでもない。
もうずうっと変わらず、映画が好きで本が好きで服が好きでというスタンスが変わらない。
正直、私の好みと映画も本もずれていることは多いのだが、それでも読んでいてその様子がとても楽しめる。

今回、無印とユニクロの話がとても分かった。
彼女と服の好みもまた違っているけれど、この二つに関しての気持ちは同じだった、そう、すごくお世話になっているところはあるのだが淋しいのだ。
彼女も無地がおしゃれというのはわかっていながら、服の組み合わせとか形の妙とかをわかっていながら、好みはここじゃないという意見に落ち着いている。
あらゆることに自分の好みを持っている人なんだなと思った。

あれをしたい、これをしたいという好奇心もまだまだ旺盛。
アイボとともに楽しい人生を送って楽しい文章をこれからも見せていただきたい。
2019.06.22 夫の骨



評価 4.9

大変面白く読んだ。
夫の骨、に至っては、『夫』の骨だから夫が死んだ後の骨、つまりは夫が殺されたとかそういう話?と思っていた予想を見事に裏切られて、本当に『夫の骨』(読んだらわかる)だったのでタイトルまで人を食っている。
気持ちのいいという話ではなくどちらかといえばイヤミスの部類だとはいえ、どの話も意外性に富み、そして家族の話を描いている。
読み手が(こうだろうなあ・・・)と予想する先を行った作風だ。
また気が付いてみれば、どれも一人称の『私』が主人公だった。

夫の骨
夫は死んでいる、既に山での事故死という事で。
二年前に他界した義母がいて、その人の死の後を追うように。
この話、面白いのは、途中まで読んで当然読者は、(ああ・・・年若い義母と物静かな夫・・・これは・・・)と二人の仲を最初から疑うような気持ちをいただかせてくれるところだ。私も当然そう思った、そうなのだなと。男女の仲なのだなと。
しかも薄気味悪いあるものが出てくる。
それに至っては・・・
だからここは、主人公の私と読者がシンクロして同じ思考回路になっていくというところだ。
ところが、のあとがたとえようもなく恐ろしいし思ってもみなかった結末だった。
大変面白い。

朽ちない花
この話も途中の一文で騙される。
ああ・・姉に虐げられているらしいこの女性は、子宮がんなのかと。それもかなり悪いのかと。
なぜなら最初の方からずうっと顔色が悪く、しかも長い介護の末、母が大腸『癌』でなくなっているのだ。
そして子宮頸がんの検診、別室・・・どうしたって想像はそちら方向に行くだろう。
が。
このあたりが巧い。
ただこの話、なぜ産むことに決めたのかというのが今一つ私には伝わってこない話でもあった。

柔らかな背
最初の方でオレオレ詐欺なのかなあ・・・と思う、おばあちゃんが孫の依頼でお金を振り込みに行くのだから。
事実銀行の人もやや首をかしげている。
けれどこの話の根幹はそこではなく・・・
同居している娘の幸恵。彼女が銀行口座から勝手に引き出して遊び暮らしているというのを発見したおばあちゃん・・・
一方で孫からの電話で待ち合わせ場所に行くと中年の男がいる・・・
どう終了するのかと思ったらこれ!
驚いた。

ひずんだ鏡
綺麗な妹にコンプレックスを持っていた姉。
姉の高級マンションに妹と恋人がやってくる・・・
妹の恋人はお金がない舞台監督だった。
姉はハイスペックな恋人と別れたばかりだがそれを言い出せない。
そして・・・
姉と妹の美醜の格差の話と思ったら、思わぬところの落とし穴があった。

絵馬の赦し
この話も面白い。
全く思ってもみなかった方向に話が転がっていく。

子供の成長を何よりも楽しみにしている母親、そこに夫のまたいとこから一本の電話が。
それをいやいや取ると、妊娠したのという声が。
ここでどうしたって、『夫とまたいとことの子供ができた、妊娠した』というのを想像する。
途中の展開もそうだ、不倫の果てに妊娠するような女といって、口を押えて泣いている『私』がいる・・・
しかし話はそんな単純な話ではない。
これ、最後が珍しく明るく終わる話だ。

虚ろの檻

犬と一緒に閉じ込められた織の中にいる『私』
別荘の管理人としていたのだが・・・一体何が起こったのか?
土佐犬なので密室状態にいるだけで怖い。
しかし・・・
檻、が問題だった。

鼠の家
複雑な過程で、子供として引き取られた遥。
彼女は『私』の妹になった。
しかし途中で父親が部屋に入り込むようになり、遥は抵抗するのだが・・・
母親がかたくなに縁の下などに人がはいりこむのを拒むのは何故か・・・
姉の気持ちが切ない。
壊れてしまった家庭にどうやって対処していくのか、そういう話でもある。
陰惨な話なのに最後に救いが待っている。


ダムの底
父と娘の物語。
二つ話があって、ダムの底に何を沈めたのかという疑問が一つ(母の死体を捨てたのかというように読者は思う)
もう一つは、ラストに出てくる。
この話もうまいのは、社会人になったばかりの娘と父親という関係がほのぼのと前半描かれているのだが、最後の方で実は・・・というところからが空恐ろしいところだ。

かけがえのないあなた
夫が借金まみれで、夫を殺して保険金をもらおうと思っている妻がいる、という話に見える。
加えて妻の前の恋人との子供らしき息子もいる。
夫はいつも庇ってくれた。
けれどこれからの事を考えると・・・そして昔の彼に頼むのだった、夫の殺人を。
最後タイトルを見て、ああ・・・と思うのだった。


以下ネタばれ
●夫の骨
・夫の遺品の中に小さな骨を見つける。
それは子供の骨だった(薄気味悪い
当然、夫と義母との不義の印と思う、それを密かに埋めたのだと(主人公もそう思う)
が。
義母の暮らしていた施設で介護士から義母の話を聞いて愕然とする。
真相は・・・
本妻と同時に付き合っていた義母(つまりこの時点では不倫関係)、同時に妊娠した。
本妻の子供の産院に忍び込み、本妻の子供を殺しザクロの下に埋め、自分の子供を本妻の産院のベッドに入れ込んだ。
つまり、『私』の夫はこの家の偽者だった、自分の子供と暮らしていた義母・・・・
●朽ちない花
・『私』は妊娠していた。
自分の恋人を姉にとられたのだが、資金繰りがうまくいかなくて逃亡している二人を見つけ出す『私』。
おなかの子供の養育費請求のためだった。
力関係が、姉→妹から、妹→姉に最後逆転している。

●柔らかな背
・一緒に暮らしていた娘は娘ではなく騙す専門の詐欺を行っている詐欺師、介護士のふりをして入り込んでいた。
おばあちゃんは認知症で、娘の幸恵は車で轢き殺した。
そしてオレオレ詐欺の男を車で殺して自宅風呂場に沈めた記憶がおぼろげにあるが、これから警察官が踏み入ってくる!
●ひずんだ鏡
・認証する高級マンションというのが、指紋認証と思う、読んでいて。
ところが、顔認証ができるという事で、一気に話が変わってくる、姉と妹は双子だったのだ。
顔認証では入れるくらいにそっくりの双子。
そして姉は太っていて不美人だというコンプレックスから抜け出していないが実際はそうではないというのがラストの方でわかる。
拒食と過食を繰り返していた姉が抗不安薬を飲みすぎて意識不明になる、その枕元で妹と恋人が話す・・・

●絵馬の赦し
・夫のまたいとこの梨沙が『かつて』不倫をして産んだ子供が、『私』の愛娘であった。
引き取ったのだ、我が子として。
梨沙は、子供を捨てた母親という負い目があり、今回の妊娠で産んでいいのかという疑問を持っている。
●虚ろの檻
・脱税のために檻が隠し財産だった。
●鼠の家
・遥を姉が殺したと思い込んでいる母。
だから遥の小さい頃の投げ入れた歯が見つかってはまずいと思ったのだった。
しかし、実際にはその家から遥を逃していて、遥は今も生きていて姉と交流しているのだった。

●ダムの底
・娘はずうっと引きこもりで娘といっても30歳を超えていた。
一回りも下の未成年とホテルで関係を持ってしまった娘。
その男に脅迫されているというので、娘と二人ダムの底に彼が犯行を行った証拠(ひったくりをしていた)を沈める。
最初の方でダムの底に沈めたのは、妻の位牌であった。
●かけがえのないあなた
・この話の中では、DNA鑑定のできるキットが決め手だ。
なぜなら『焼死した男が夫である証明』は残された息子のDNAと一致していることが条件だから。
見事に引っかかった昔の彼が死んでいる。
実際の夫との共謀に成功した妻は、夫を逃がしている、かけがえのないあなた、であるから。


評価 3.5

ど・・・どうとらえたらいい?
霊?死後の世界?巧妙ないたずら?だったら何のために?
よくわからないまま(作者もだろうが)ページを閉じた。

霊がいるかいないかは人それぞれの感じ方、思想のようなものなのでこの際それはほぼ関係ないと思う、読者側には。
あと、死後の世界が歩かないかも同じことだ。
この電話が本当にあったやり取りなのかどうなのか、そこからして非常に胡散臭い(愛子先生は話を聞いた、という立場なので)

ある開業医の話。
彼のところに、以前講演会の事からやり取りがあった少女から電話があった。
しかし彼女は死んでいた・・・


少女が突然電話をかけてくるわけではなく、間に彼女の兄が入っている、兄を霊媒?として。
途中で母?に電話をかけてもらうということになっていくのだが・・・
この少女と60歳ぐらいの高林先生との電話のやり取りが延々と続く・・・

本当に本当に申し訳ないが、高林先生がこのやり取りからはどうもよい人には見えず、そこがなんだかなあと思ったのだった。
胸の事をまず言うのも気味悪いし(相手はとりあえず少女なので、霊と言っても)、この憧れているらしい少女からの電話にうきうきしているって感じも漂う。
それにしても!!
まず最初の時になぜ、住所を聞かない?電話番号を聞かない?
なぜ非通知のまま電話し続けている?
なぜ兄ともっと連絡を取らない?
兄だったらもし妹の声が聞こえるというのだったら高林先生のところに飛んでいくだろう。
もうここで既にアウトって感じだ。

住所もわからず兄の存在もわからず、聞こえたのはその妹の声だけって・・・・
壮大な嘘?
しかもその事故の記録が調べてもないって・・・どういう・・・
高林先生までが胡散臭い。
精神的な病気か?(というのも途中で出てくる)

・・・・
愛子先生の作品大好きで、エッセイも大好きで(だから北海道の怪異の話も知ってます)、だからこそこれがラストのエッセイにならないことを本当に強く願う。
2019.06.18 三つ編み



評価 5

読む前の情報として入ってきたのが、フェミニズムとかそのあたりだったので、すごく警戒しながら読んだ、果たして私の琴線に触れる小説なのだろうか、と(そういうのを小説に描くってとても難しい)

が、読んで感じたのは
(読まずにスルーしなくて良かった!!!)
という深い満足感だった。

三人の女性がいる。
それぞれ別の場所別の大陸別の立場で暮らしている人種も宗教も異なった女性たち。
インドでは、不可触民のスミタがなんとか最低の生活から娘を脱出すべく奮闘していた。
イタリアでは、家族経営の毛髪加工会社で大黒柱の父が倒れて、その娘のジュリアが倒産寸前の会社の立て直しを図ろうとする。
カナダでは、シングルマザーの弁護士サラが弁護士事務所でトップを走っていたのだが、ある時に癌告知をされる・・・


一番印象に残るのが、やはりスミタだ。
これは現代?古代の話じゃない?と思うくらいの悲惨な状況で、
『素手で人様の家の糞尿をかきだしてきれいにする』
という最低の人間とは思えない仕事をしている。そして夫といえば、ネズミ捕りをしていてそれが皆の食事になるわけだ。
この生活から何とか娘を脱出させたいスミタ。
学校ですら先生に差別され掃除を言いつけられ泣きながら帰ってくる娘がいる、しかも先生になけなしの賄賂を渡していたというのに。
彼女の下した決断はこの村を捨てるという決断だった。下手をしたら殺されるのにそれでも果敢に娘と逃走していくスミタ。
彼女が信仰している神様の場所まで行きつこうと必死の努力をする、これまたひどい列車や賄賂の横行する関門を潜り抜けながら。ここでも何度か(これは現代?)と思った。
と同時に、インド内の女性蔑視がスミタのような不可触民だけではなく、夫が亡くなった寡婦が人間扱いされないとか(夫が亡くなったのは妻のせいって・・・)、娘が一人で歩くことができないとか、一般に広がっている男性優位の社会だというのが色々な箇所から溢れ出ている。

イタリアのジュリアはそもそも闊達な少女だ。
大好きな父の毛髪工場で一緒に働いている働き者でもあった、そして読書家で夢見る少女でもある。
彼女が図書館で偶然出会ったのが、全く違った宗教と外見を持つカマルだ。
カマルといつしか恋仲になっていくジュリア・・・
しかしその目の前には父が突然の事故で意識不明、そして多大の借金が残されいるという事を初めて家族は知るのだ。
それを返済するためにジュリアにお金持ちのある男性と結婚してほしい母。
ジュリアはいったんはカマルとの間をなかったことにしようとカマルに手紙を書くのだが・・・・
ここからの展開が、ああ!!!!と思った、こう繋がるのか!
ここに来るのか!!

カナダのシングルマザーのやり手弁護士サラが一番現代日本でわかりやすい状況だ。
いくら隠し通そうとしてもわかってしまった癌との日々、そしていつしかサラは重要なポストから外されるというハラスメントを受けていく。
そして抗癌治療が始まり・・・・

読んでいて、スミタ(インド)とジュリア(イタリア)の結びつきはカマルの提案があった時点でわかる。
けれどサラ(カナダ)がここにどう結びついているのかというのがわからなかったのだが、最後の見事な結びつき方と言ったらどうだろう。

解説にもあるけれど、男性が対抗軸として書いていないのが好ましい。
とてもとてもいい男性もいて、まずスミタの夫は一緒に逃げなかったものの娘の良き人生は願っていて努力はしてくれているし、ジュリアの恋人のカマルは外見からは想像もつかない(もっと旧弊に見えた)新しいアイディアと解決策を出してくれるし、サラにしても多忙なサラの子供達を見てくれ信頼できたのは男性のベビーシッターだ。
男性VS女性というヒステリックな描き方ではないところが読ませる一因ともなっている。

・・・・・・・・・・・・・・
三人の必死に生きていく女性たち。
フェミニズムの見地からも読めるだろう。
でも、それよりも、話そのものが非常に面白いのだ。
スミタの必死な様子、列車の混雑具合、時々に出てくる周りの人々、バスを追いかけてくる父
ジュリアの弾けるような恋とそこから生まれた一つの大きな出来事
サラの最後の決断

どれも映像が強烈に浮かぶ。どの人の立ち姿もまた脳裏にしっかりと刻まれていくのだ(作者が映画監督だった!なるほど!)
この三人が将来的にどうなるのかは一切書いていない。
そこも大変良いと思った。
スミタは果たして娘を本当にこの地獄から脱出させることができて、教育を受けさせることができるのだろうか。
ジュリアの工場再建計画とカマルとの結婚は巧く行くのだろうか(ここは一瞬、想像か本当かわからないけれど彼らの先の出来事が描写されている部分があった)
サラは事務所と戦えるまで回復するのだろうか、個人事務所は巧く行くのだろうか。

この小説を読んで、誰もが、頑張れ!!負けるな!!と全員の女性に思うに違いない。


<以下ネタバレ>

・スミタは信仰している神のいる寺院で髪を切る。娘も切る。
そうして神への供物として意気揚々と次の段階に進めるのだった。

・インドの子の神の事を教えてくれたのだがカマル。
そしてジュリアはカマルの進言をうけて、インドの髪を輸入して工場で加工することを決める。

・サラはスミタと娘の髪でできたかつらをかぶってみた。
そしてそれは彼女に生きる希望を与えたのだった。

三人はそれぞれ面識がないしお互いの存在すら気づいていない。
でも髪の毛が三人をこうして結び付けているのだ。