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評価 4.9

大変面白く読んだ。
トラウマになるような話のオンパレードで、確かにこれらを幼い頃に読んだらトラウマになるだろうと笑っていた。
笑っていたのだが・・・・
この中に、忘れていたが私のトラウマになった漫画が入っていたので、これだ!と思い出して驚愕していた。

直野祥子の『はじめての家族旅行』がその漫画だった。
少々個人的な話になるけれど、『私がいつも家を後にするときに火の始末の一点を異常なまでに見る』という性癖があるのは、この漫画からっだった、と思い出したのだった。
全くこの漫画忘れていた。
でも読んだら思い出して、そうそうそうそう!これが怖かったんだ!!!とこのあとの家族の様子を想像してぞっとしたのを思い出した・・・まさにこれはトラウマ・・・?
さち子ちゃんが何度か言っちゃおうかなあ、アイロンの始末が安全かどうかという場面がある。
ここもすごくわかって、今言えば大丈夫なのに!今だったら!!と何度も思った。
けれど、この言わないという気持ちもまたわかって、更に楽しい船の旅行の中で奇妙なおじさんと出会ってますます安心するさち子ちゃんの気持ちもまたわかる、安全だと言われても彼は神ではないわけなのにそれなのにそれを信じようとするさち子ちゃん。信じたいものを信じた結果・・・ああ・・・怖い。

印象に残ったのは、再読だがディックのなりかわり。
さすがに巧いと思う。
自分が何だったのか、自分は果たして人間なのか、それともAIなのかというジレンマが襲ってくる感じがとてもよくわかった。アイデンティティのゆらぎのようなものすら感じられる。
そしてラストのはっとした感がまた素晴らしい。
(全く別の小説だが、木皿泉のカゲロボにも実にこれと似た味わいの話が入っていた。『かお』。アプローチも味わいも全く違うけれども)

これも再読だが走る取的は、最初の内は笑って読んでいる。
途中から、これはまずい、と思うのがこちらにも伝わってきて手を握りしめて必死に走りたくなる。
話は単純に『相撲取りに追いかけられる』というだけの話なのにこれほど怖いとは。

フラナリー・オコナーの田舎の善人はもうこのタイトルからしてパンチがきいている、最後まで読むと。
何が善人だ!と。
ある田舎に、毎朝話をするくらいの仲の二人の夫人、ホープウェル夫人とフリーマン夫人がいる。
フリーマン夫人は何にでも首を突っ込むお節介屋でもあり、でもホープウェル夫人は彼女のあれこれを黙認している状況にはなっている、フリーマン一家は田舎の善人なんだと。
ここまで読んでこの二人の話と思いきや(とくにフリーマン夫人)、話は思わぬ方向に転がっていく。
ホープウェル夫人の娘は義足であり体が不自由だ。
そこにある日聖書を売る好青年が現れ・・・・
ここからの展開が悪夢のような展開だ、彼は何だったんだろう?
とても嫌な舌触りが残る一品だ。

大江健三郎の野犬は、これまた『皮をはいだ無謀にも自転車で牛を運ぶ話』だけなのに、その顛末が次々に襲ってくる何かということで非常に怖い。野犬は常に追ってきていて、その上警官がやってきたり、溝に落ちたり・・・そしてまだ野犬は追ってきて・・・
どうにもこうにもならない状況でのラストの叫びが印象に残る。

白土三平の野犬・・・・ええ?これで?ええっと驚いたラストで終了・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第1展示室 子どもの頃のトラウマ(はじめての家族旅行(真野祥子)/気絶人形(原民喜))/第2展示室 思春期のトラウマ(テレビの受信料とパンツ(李清俊)/なりかわり(フィリップ・K.ディック))/第3展示室 青年期のトラウマ(走る取的(筒井康隆)/運搬(大江健三郎))/第4展示室 大人になって読んでもトラウマ(田舎の善人(フラナリー・オコナー)/絢爛の椅子(深沢七郎))/第5展示室 中年期のトラウマ(不思議な客(『カラマーゾフの兄弟』より)(ドストエフスキー)/野犬(白土三平))/第6展示室 老年期のトラウマ(首懸の松(『吾輩は猫である』より)(夏目漱石)/たき火とアリ(ソルジェニーツィン))/喫茶室TRAUMA 番外編 誰も正体をつきとめられなかった幻のトラウマドラマ




評価 4.5

「人と人との対立」というのが大きなテーマになっているらしい。
前半は、一見姑と嫁の対立、という構図が入っているのでそういう話かと思いきや、(想像しうる範囲とはいえ)意外な展開が待ち受けていた。
時代が二つの話が極端に違う(あとで解説を見たら、企画もの螺旋プロジェクトなるものだということがわかった)。
語り口の巧さ、冒頭でがっちり人の心をつかむ技、スリリングなテンポよい展開と、この辺りは言う事がない。
が、やや、私の好みからは外れるか・・・
特に後半の話が、設定が荒唐無稽(一種のSFだからというのもあるが)すぎるので、把握しづらいのだ。


・シーソーモンスター
バブルに浮かれた昭和の日本。
北山家という普通の家族で、妻と母とのバトルにつかれている男。
実は妻は別の顔を持っていたのだった・・・・

この話、某映画を思い出す、あの場合は夫婦だったわけだが。
だから割合これはこういう話だろうなあ・・・というのは想像できる。
でも会話が相変わらず巧いのでそこを楽しみながら読むことができる。
バブルがまだ崩壊していない昭和なのでやたら派手でやたら金を使っている。
この時代にこれが怪しい状態だと喝破している奥さんもまた素晴らしい。
どうやっても合わない姑、海族と山族は合わないという警句もまたパンチがきいている。

そして後半、そうだったのか(わかっていてもとりあえずは驚く)という展開が待っててここはここで楽しい。
共闘という言葉も頭に浮かぶ。
レストランでの相手との初めての食事会という場での出来事が鮮やかに映像化されている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・スピンモンスター

後半は舞台が2050年という近未来の話の日本が舞台だ。
自動運転車、携帯やICカードや身分証明書などが一つになったパスカ、など新しいことがどんどんと出てくる。
そして自動運転車のちょっとした誤作動から大事故が発生し、二人の人間の運命も大きく変わってきたりする。

2050年は何でもかんでもデジタル化の社会なので複写や改変などが容易になっている。
なので、時代は逆行しアナログの紙の時代へと変化しつつあるのだった・・・
水戸直正は配達人である手紙を届けようと新幹線に乗っていた。
ここで偶然出くわしたのが、かつて一家全員死亡のただ一人の生き残りである水戸直正の宿敵、檜山景虎だった。
檜山景虎はかつての自動車事故で全員死亡彼のみがただ一人の生き残りという、水戸直正の裏返しの人間だった。
二人の両親の自動運転の車がぶつかって事故が起きたのだ・・・


監視社会という設定でゴールデンスランバーとかもちらっと思ったりする。
主人公の記憶、という部分がこの話は一番面白かった。
見えていたものがどちらなのか。
記憶の改竄とは何か。
このあたりの部分を私としてはもっともっと描いてほしかった。
見えない敵の暴走を止めるべく奔走する配達人水戸や天才科学者寺島や旧友中尊寺たちとのあれこれが読んでいて、絵が浮かぶ。

(最初のシーソーモンスターともおおいにかかわってきているところは面白い。
嫁だった宮子さんのその後、がさらっと描かれているから)

以下自分用メモ(ネタバレあり)

・最初の話で、嫁と姑は同業者であった、

・水戸直正は人工知能の開発者である天才科学者寺島に、昔の同僚の技術者であった中尊寺への伝言を託す。
水戸直正と中尊寺は動き始め、人工知能を止めるために動くが、身に覚えのない罪で警察追われることになる・・・(このあたりがゴールデンスランバー)



2019.04.14 心霊電流



評価 4.8

この恐怖はどういう恐怖なんだろう?
読み終わった後、自問自答したのだが、よくわからない。
根源的なものに対する恐怖と言ったらいいのだろうか。
物理的な恐怖は、途中二人の死があるので、その部分でお得意のベロンとした描写があるけれど、そこはそれほどでもないというのはどうしたことだろう?
後半まで怖くない小説、と思っていたが、後半のある部分からとてつもなく怖くなった。
それは、
『わけのわからないものへの恐怖』
のようなものなんだろうと推測する。

前半(上巻の大部分)は、本書の語り手でもあるジェイミー・モートンの懐かしき家族風景だ。

彼の家は多くの子供と子供に愛情を注ぐ信心深い両親とで構成されている。
特にジェイミーは兄姉たちに可愛がられ、とりわけただ一人の女性の姉、クレアには溺愛されている。
特別の大金持ちでもないのだが、それぞれの性格の持ち味を母親がきちんと認め、兄弟で喧嘩をしながらも仲良くしている家族・・・
そこに一人の牧師が現れる。
とりわけジェイミーは牧師に声を最初にかけられ、牧師一家と共に家ぐるみで仲良くなるのだった。
牧師はダニー牧師、美しい妻ととてつもなく可愛い小さな男の子がいた・・・


この家族風景がとてもとても好ましく描かれている。
そして小さな村で人々が教会を中心に寄り添って生きている姿もまた描かれている。
ここで既にダニー牧師は電気に以上に興味を持っていて、後半の出来事にとっかかりが見えている。
特に、ジェイミーの兄がスキー事故で声を失った時に、ダニー牧師は電気で治療して声を再び出してあげることができて奇跡の出来事、とジェイミー一家に大喜びされる。これまた後半の牧師の行く末にも大いに影響しているのだ。

しかし暗転。
ダニー牧師の子供を乗せた妻の車は、事故に遭い大破。
そして彼は全てを失う。

このあと、ダニー牧師が不信心ともいえる説教を教会でして大問題となるのだ。
しかし子供と妻を同時に亡くした彼がこのような説教するのは理解できることではないか。
後年になって、ジェイミーの姉クレアが理不尽な死に方をしたのをうけて、ジェイミーの兄があの説教がわかる、というところも印象深かった。
これは、神を信仰していて本当に救ってくれているのだろうかということにも繋がってくる話だと思う。

・・・・・・・・・・・・・・・・
後半になり、女の子の話もあるくらいに楽しかった高校生活も終わる。
そして可愛く幼かったジェイミーはギタリストになるのだが、同時に薬にやられているジャンキーでもある。
このままだったら命を落としかねないという時運命的にダニー牧師と会うのだ、今度はダニー牧師という名前ではなくジェイコブズ師という見世物師として。
そしてここでも運命的に、彼にジャンキーから救ってもらう。
つまりジェイミーは兄を救ってもらい、自分も廃人同然から救ってもらうという二重の恩が出来た。
(のちに、これがプラシーボ効果であり、兄はもう治っていたのだがそれを認めてなかったのを認めさせただけだ、とダニー牧師は力説する。が、後年これが別の意味を持ってくる)

ジェイコブズ師は電気を利用して、多くの人の体を使い見世物の様な事をしていた。
が、多くの場合副作用というか、そのあとの異常行動が伴っていたということが、皮肉にもジェイミーの調査で分かってくるのだ・・・


後半、ジェイコブズ師は、今度はダニー牧師として一大宗教運動を起こしていく・・・
さてその先にあるものは・・・・
聖なる電気によって、歩けないものは歩けた、病から解放されたものもいる・・・
これは一体なんだろう?
ペテンなのか、それとも別の何かなのか?

そして若い時の治療で完治したはずの兄のコンの身の上にも異変が現れる。
あの時の治療は決してプラシーボ効果ではなかったのだ・・・

高校時代の恋人が余命いくばくもないほど病に侵されている事、それをだしにジェイミーは再びダニー牧師に使われることを承諾する、彼女の健康と引き換えに。
そして扉のその先に見えたもの、あれはなんだったんだろう?
マザーとは・・・
このあたりが非常に怖い。


ホラーと言ってもたくさん種類がある。
陰惨な殺人事件とか、どうしようもない死体とか(これは前半の妻息子の死体描写で現れる)も怖いのだが・・・
そして怨念で幽霊が出てくるとかも怖いが・・・
ホラーの中でもこの話にあるような形のないもの、見えないもの、そして何よりもわけのわからない神的な(悪魔的な)もの、というのは人の心にある種の楔のようなものを残すのだなあとしみじみ思ったのだった。




評価 4.8

技巧があるとかとは程遠い普通の詩の数々に、詰まらせたのだった。
罪を犯した少年たちの素朴な詩に。
彼らの心の奥に秘められた小さな想いに。
彼らのなんで自分はこうなってしまったんだろう?という小さな疑問に。
彼ら同士の小さな小さな結びつきと今まで見たこともない友情に。

彼らの出自に思いをはせるとまた涙が出る。
それは、決して恵まれた環境ではなく、彼らにも母親に対する思いがこんなにも溢れているとは。
そして言葉というのは人を立ち直らせるものなんだ、こんなにも強いものなのだ、というのも改めて思った、

・・・・
外観が非常に美しい奈良家少年刑務所。
そこに収監されている少年受刑者が、詩を作ることによって変化していく・・・

刑務所の教室という不思議な教室で花開いた少年たち・・・・
彼らの犯した罪というのが消えるわけでもないし、被害者もいるので一概に素晴らしいと手をうっては喜べない。
でも。
人間って何なんだろう?
人間の本質って何だろう?
そんなことを考えさせてくれる一冊だった。

タイトルにもなった一行の言葉。
なんだかわからなかったけれど本を読んで、ああ・・・こういうことなのか、とぐっときた。
おかん、という詩も、訥々とではあるけれど自分の中の複雑な気持ちを語ってくれている。

ここを出て普通の生活に戻った時に、この少年たちが罪を悔い改め、また新しい一歩が踏み出せますように。
2019.04.03 沼の王の娘



評価 4.8


センセーショナルな題材だと思った。
なぜなら、

『拉致監禁犯人がいて、若い少女をさらって思うがままにする残忍さ、犯人のサイコパスさと警察との攻防』

というのではなく、

『拉致監禁犯人と攫われた少女との間に出来た娘とその父親(=拉致監禁犯人)』

の話なのだ、徹底して。

・・・
映画のルームをどうしても思い出す。
そして拉致監禁と言うのは現実にもあるから、そのひどさというのまでは想像する、一般人も。
犯人の残虐さ、犯人のどうしようもなさ、犯人の出自、どうしてそういう人間になったのか、はたまた生まれつきなのかというところまでは思いを馳せる。
また犯人にさらわれた少女についても思うことはある、なんてひどい目に遭ったんだろう、なんて残酷な運命だったんだろう、その後は?立ち直ってくれるといいけれど。でも死ななかっただけでもご両親にすれば嬉しい事なのか・・・などなど・・・・

が。
犯人と少女との間に、いわば無理矢理できた子供、はどうだったのか。
そこは思いが至らない。
いや、至るのだが皆考えないようにしているように思える。
なぜなら、それは決して喜ばれた妊娠ではなかっただろうから。
そこは誰も考えたくない領域なのだ。
映画ルームでも生還した親子の子供を(つまり孫だが)見つめる祖父母が非常に微妙な雰囲気だったのを思い出す。それはそうだろう、少女の時に突然さらわれて、犯人の子供を連れて帰るのだから。

また、犯人に育てられた子供というシチュエーションに焦点をあてれば
『さよなら、シリアルキラー』
もまた思った。
けれど、シリアルキラーの方は、拉致監禁された挙句の子供、ではないという悲惨さと母親のスタンスがおおいに違う。
沼の王の娘の場合、娘は普通の父親、ちょっと変わった暮らしをしていた自分達の父親のいいところも沢山見つけている。というかそれしか見ることができないからだ。
だが母の方は拉致され強姦されて子供を産んだわけだから当然見方が違うし、精神も破壊されている。何より娘と違うのは、彼女は『外の世界』を知っているのだ、全く知らない娘と違って。だからどんなに自分たちが残虐なことをされているかどんなに不便な生活を強いられているかというのがわかっている。
またもう一つ違いをあげるとすれば、成人して秘密にしていたとはいえ佳き伴侶を得て自分が既に子供がいる状況の女性が沼の王の娘とすれば、青春真っただ中の青年が(だからこそ青春物になりえるわけだが)シリアルキラーだ。


・・・・・・・・・・・・・
犯人である父親にどういう複雑な感情を持っていたのかが、フィクションと言えどもとても分かる一冊だった。


12歳という年齢まで、電気も水もない生活を送っていた『わたし』
彼女はどうしても自分の結婚相手に自分の生い立ちを離すことはできなかった。
そして子供が二人生まれて貧しいながらも幸せに暮らしていた。
ところが父親が終身刑で閉じ込められているはずの刑務所から脱走のニュースが飛び込む。
父の思考回路がわかる『わたし』は絶対に自分たちのところにやってくると確信する。
そして父を捕まえられるのは自分しかいないと思い行動し始めるのだった・・・・


とらえられたかつての少女は母になる。
けれどもたとえ母になっても、母親としてよりもとらえられているいつまでもの少女であるというメンタリティは変わらないように見える。思考回路がもうストップ状態だったのだろう、過酷な自分の運命に負けて。

が、この沼地近くで生まれた娘はサバイバル生活をし、父の手となり足となり、冷静に自分のことを見つめられるようになる。
なぜ自分がここにいるのか。
その秘密はかなり後まで知らないのだが、自分たちと違う人間の家族を滝で見た時に典型に撃たれたようになる場面が印象深い。
初めて水を触ったヘレンケラーのように彼女は覚醒するのだった。

サスペンスではあるものの、この裏に『わたし』の父親に対する気持ちの複雑さ、母親に対する冷静な見方、また祖父母が理不尽に自分たちのお金を使ってしまったことに対する不満、など、人の心の揺れ動きも鮮やかに描かれている。

『わたし』であるヘレナは過去幸せだった日々が確実にあった、それは幼少時代に父に色々なことを手ほどきしてもらったサバイバルのあれこれとか、ささやかな家庭であるとか。
父を尊敬していた事さえある『わたし』
全てが見えるまでの幸せと、見えた後の、母の絶望がわかる場面など読みどころはあった。

やや、もう一歩のサスペンス感が欲しいとない物ねだりを。
登場人物が少ないのであともう少し警察の人などが出てくると話全体が活気づくのではと思ったりした。
2019.03.31 2019年3月漫画


世界に女だけしかいなくなっちゃった世界。
そして男がいた、という事実すら知らない女の子も沢山いる世界。

風呂屋がなんで二つに分かれているのか。
そして、打ち捨てられた小便器はどうやって使うのか。
見当すらつかない女の子たち。

そしてそこで、昔の牢獄がありそこには男の子がいたよ、と教えられるのです。
冗談でそこには行ったりしている女子・・・
ところが、→ネタバレそこに実は一人のひ弱(今はそう見える)男子がいた!!!

続きが非常に気になります。
そもそもこの世界なんでこうなっちゃったんだろう?
いつから?
よしながふみの大奥を遠くで思いながら、果敢に生きていく女子の逞しさを見ておりました。
次は秋か・・・溜息・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・


じわじわと進んでいるヒュッレム物語・・・

スレイマンさんのお気に入りになり、毒殺にも怯えながら。でもここからヒュッレムの才知が光る話が出てきて好感度大。
闘いですね、ある意味女性同士の。
男は外で外敵と戦い、女は中で皇帝の愛情争い。

・・・・・・・・・・・・・・

とある歌劇団の学校にいる女学生たちの物語。
相変わらず良いです、絵も話もグッド、とても好みです。
彼女たちのここに来るまでの背景、があり、そして彼女たちは必死の努力をしてこの難関を乗り切った・・・

今回は新興宗教という非常に取り扱いにくいだろうテーマに取り組んでいる話が入っていて、
親の気持ち、自分の気持ちというのが揺れている主人公の気持ちが伝わってきました。
隠したい、でも隠したいというその気持ちも嫌、というはざまの気持ちが。

また、もう一つの話で、ライバルという関係性は必ずこういう物語では出てきますが
入院という事になり、過去のあれこれが走馬灯のように出てくる場面がとても読ませました。

・・・・・・・・・・・・・・・・

久々の浦沢直樹の長編らしい・・・

最初の2020年の場面はすぐに消え、1959年の伊勢湾台風の時の名古屋に場面が移ります。
これは私がよくわかってない台風だったので
こんなだったのか!と衝撃を受けました。
間違って誘拐されたがために助かった賢いでも大家族の中で忘れられがちなアサの運命はいかに?
今、被災者におにぎり配布作戦をしているので、これからどうなるのか?というので目が離せないところ。
(ただこれだけ読むと、まだ面白さはわからないのが正直なところです)
3月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:3228
ナイス数:286

ジニのパズル (講談社文庫)ジニのパズル (講談社文庫)感想
とても面白くそして私の琴線に触れた一冊でした。また知らないこともとても多かったと私は思いました。青春の懊悩、反逆したい気持ち、苛立ち、居場所探し、などの個人的な中学生ジニの心も描かれていますが、その根底には国家があることが普通の青春物とは一味も二味も違っているのだと思います。在日ということで、日本語がわからないまま朝鮮学校に行きそこでも疎外感を味わい、そしてテポドンが発射される・・・テンポよく進んでいく話であり学校の話がメインなのでとても読みやすいのですが、多くの深いものを孕んでいる一冊と感じました。
読了日:03月28日 著者:崔 実
私のイサベル (ハヤカワ・ミステリ)私のイサベル (ハヤカワ・ミステリ)感想
カウンセラーをしているステラの目の前に、赤ちゃんの時に誘拐された我が子(と母親は信じている)イサベルが大学生になってやってきた、ところから物語は始まります。面白いのは、読んでいてこちらの心も(本当?)(ストーカー?)とアップダウンがあり話に翻弄されるところです。ステラに対しての感情が目まぐるしく錯綜するのです。イサベルの最初の方で言った言葉「彼女が憎い」というのは何かという謎も加わります。優しい現夫、イサベルの母、イサベルの恋人も出てきて、後半であ!と。ただ私にはいくつか疑問がまだ残っていて・・・
読了日:03月27日 著者:エリーサベト・ノウレベック
悪意悪意感想
映画化されるというので納得、映像がどれも浮かびます。最初のトムが非常に面白かったです、死んだはずの息子トムからの電話がかかってくるというスリリングな出だしからラストの明るいのにどん底というねじれた顛末まで一気に読みました。小品ですがラストのごくごく短い一編も気に入りました。レインは奇妙な依頼を残し死んだ作家と妻を失った翻訳家との顛末。親愛なるアグネスへは書簡体が中心で某作品を彷彿とし二人の女性のかかわり方を年代を追って描いています。抒情的なサマリアのタンポポ、最後抒情では終わらないものが待ち受けて・・・
読了日:03月24日 著者:ホーカン・ネッセル
林忠彦 昭和を駆け抜ける林忠彦 昭和を駆け抜ける感想
かの有名な太宰治の一枚を撮った写真家林忠彦。作家系の写真はよく見ていました。人物写真も沢山あり、川端の眼光の鋭さ、三島由紀夫の(撮りづらかったと言っている)一枚、吉行淳之介のイケメンっぷりが光る一枚と多彩です。また表紙にもなっている戦前戦後の日本を撮った写真を非常に感慨深く見ました。銀座の街にバラック?屋台?そしてその遠景に服部時計店!(和光)が!遠くに今もある書店教文館が!!あったもの、なかったものを比べていくと複雑な思いが錯綜します。戦災孤児たち、生き延びてなんとか大人になっているといいなあ。
読了日:03月24日 著者:
府中三億円事件を計画・実行したのは私です。府中三億円事件を計画・実行したのは私です。感想
タイトルも含めセンセーショナルな売り文句、この作者白田が本当に三億円事件の犯人だと言っているわけだから。彼が年齢を経て息子さんの手を借りて告白しているという形をとっているので『素人さんが書いたもの』というバイアスがかかります。当時の学生運動、セクト間の争い、米軍基地との関わり、が描かれ、何より大学になじめない白田が目的もなく生きていくのに罪悪感を感じていた事が引き金になっているというのが恋愛模様と友情と絡めて巧みに描かれています。あっという間に読めます。ラスト一番知りたかった事はなかったけどそれは続編か?
読了日:03月24日 著者:白田
拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)感想
ポリーー!もう最高に可愛いし賢いし!出所した父親が刑務所のドンの逆鱗に触れ、出所後に彼の家族全員皆殺し命令を出され、元妻はもうすでに殺された、まだ殺されていない残った娘との逃避行をする・・・というミステリ。視点がくるくる変わってもさすがにこの作者ドラマ作りをしているだけあって勘所おさえていてわかりやすかったです。最初の内ぎくしゃくしていた父娘が徐々に打ち解けていって娘のポリーが体を鍛えて行って立派な(?)犯罪者の道に行こうとしているという暗黒の成長ミステリ、と思いきや、ラスト泣けました。ポリーと熊に拍手!
読了日:03月16日 著者:ジョーダン・ハーパー
ブルーバード、ブルーバード (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)ブルーバード、ブルーバード (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)感想
現代のアメリカの分断を象徴するようなミステリ。主人公はテキサスレンジャーの黒人のダレンではあるのですが、一方でテキサスの小さな田舎町という場所そのものもまた主人公であると感じました。白人と黒人の殺人があった別々に、という事件で犯人探しから始まるのですが、そこには人々の過去の物語、町の物語、人種が絡み合う人間模様、があるのです。一つ一つのエピソードが非常に緻密に描きこまれていました。過去が現在に重なりある人の話が別の人の話に重なり・・・。人それぞれの好みだとは思いますが、やや盛り込みすぎかなあと思いました。
読了日:03月16日 著者:アッティカ ロック,Attica Locke
ロウソクのために一シリングを (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)ロウソクのために一シリングを (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)感想
解説宮部みゆき。そして名作『時の娘』のグランド警部が生き生きと(しかしのんびりと)今回は動いています。古き良き時代のミステリだと思いました。映画女優のクリスティーン・クレイの別荘に居候させてもらっていた気の弱い若者ティンダルが彼女の溺死体を発見して犯人に疑われるところから始まりますが、容疑者は他にも映画関係者から夫までひきもきりません。エリカちゃんが重要なコート探しに大活躍で、とても可愛らしくそこがかえました。犯人が最後誰でもいいと思ったのはいけないかしらね・・・全体にのほほんゆったり。
読了日:03月16日 著者:ジョセフィン テイ
あるかしら書店あるかしら書店感想
子供向けと侮っていてごめんなさいっ!!すっごく良かったです、絵だけじゃなくて言葉も面白いし、奇想天外な本に関するあれこれがもう絶品でした。思い付きではない設定が綿密でよく考えられていました。この中で、お墓の中に本を入れておくっていうアイディアいいなあ・・・と真面目に思いました。そこから残った人が故人の本を取り出し、また新しい本を入れていくって想像しただけでもほっこりします。(ただし、本の趣味が合う人にしてほしい・・・)
読了日:03月15日 著者:ヨシタケ シンスケ
浅田家浅田家感想
読んだのにさっぱり忘れていた私ってなんだろう???しかもコスプレというのさえ忘れていて・・・新鮮だったってなんだろう?という疑問がふつふつと。これはこれなんだろうなあ。この世界なんだろうなあ。
読了日:03月15日 著者:浅田政志
クロストーク (新・ハヤカワ・SF・シリーズ)クロストーク (新・ハヤカワ・SF・シリーズ)感想
最初の方のドタバタ(親戚の人が会社に押しかけてくるって!噂話の蔓延している職場って!)であちこちに動き回る部分が、まさに同作者の航路と思いました、内容的には違いますが。脳手術まで緩く読んでいましたがそこから一気呵成に。これは一見テレパシー能力に関するSF設定でその面も非常に読ませますが、主人公ブリディが真の愛を発見する物語でもあります。人の思考がなだれ込んでくる時に脳内に鉄壁を様々な方法で作るのも面白い!!また、メイヴ(姪)の賢く可愛いことと言ったら!後半の意外な展開の連続が高度なミステリのようでした。
読了日:03月15日 著者:コニー・ウィリス

読書メーター
2019.03.28 ジニのパズル


評価 5

私の心の琴線に触れた一冊だった。
と同時に、あまり朝鮮学校について私がわかっていなかったんだなあ、と思った本でもあった。
こうだったのか・・・こういう風に考えられていたのか・・・と新しい発見が沢山あった。

鮮烈な青春のあがき、懊悩、友情のありよう、そして世間との不調和、親との確執、居場所捜し、のような若い時にありがちな苦いものに満ち溢れている。
しかし、根底には彼女個人の問題ではなく国家が存在している、というところが非常に読むべきものだろう。
決して堅苦しくなく、在日であり、朝鮮のルーツを持つジニという一人の少女の話を描いている。
淡々と文章が進んでいるような語りが読ませる。

読んでいて思わず引き込まれるのは、これはジニという一人の少女の戦いの物語だからだ。
それは、自分が納得してない国家、に対する戦いでもあるし、わけのわからないものへの戦いでもある。
これを青いとみることもできるし、果敢と見ることもできる。
ひりひりするようなジニの心模様がストレートにこちらに投げかけられてくる。

最初、今の学校を放校されそうになっている、というところから始まる。

ジニは在日朝鮮人三世として生まれている。
小さい頃は東京で日本の小学校に通っていたのだが、そこから朝鮮語がわからないまま朝鮮学校に入学する。
日本語は本来は使っていけない場なのに、朝鮮語がわからないジニのためにそれが許される。
クラスで当然浮いてしまう。
学校にうまくなじめないジニ。
そもそもわからない言葉も多い。
そしてテポドンの発射から、ジニの身の上に起こった事が引き金となり、彼女は朝鮮学校でそれを爆発する、禁忌の行動をすることによって。
東京からハワイ、ハワイからオレゴンと彼女は学校から学校へたらいまわしにされた・・・


途中に挟まれている、叔父の手紙も意味が深い。
彼がどういう経緯でこうなったのかというのを想像させる手紙だ。
そして、居場所を探しているがジニの心には鬱屈が相変わらず潜んでいる・・・
たった一人の朝鮮学校での友人ニナすら失ってしまうジニの焦燥と絶望がひしひしと伝わってくる。。
そして民族服を着て男たちにつかまった時の彼女の恐怖というのも痛いほど迫ってきたのだった。

2019.03.26 私のイサベル


評価 4.9

登場人物が極めて少なく(ほぼステラとイサベルとイサベルの母シェスティンとステラの夫ヘンリックで成り立っている)把握しやすい。
心理小説でもあると思うのだが、最初はサスペンス、だんだんホラーに近い様相を帯びてくる。
出だしがとても印象的だ。

心理カウンセラーのステラの元に、カウンセリングを受けに一人の女性がやってきた。
その名前はイサベル。
しかし彼女を見た瞬間に、ステラは
(これは幼い時に海岸でいなくなった自分の娘アリスに違いない)
と確信するのだ。
なぜなら、彼女の特徴的な耳と目の色と髪の毛の色と、そして何より元夫の妹(娘アリスからすれば叔母にあたる)の若い頃にそっくりだったから。
一体なぜ?
彼女は生きていたのか!?


冒頭から途中までは、イサベルの気持ちの部分が描かれているが、なぜ彼女が心に問題を持っているのかというのがよくわからなくて見えないようになっている。
ある女性に殺意まで持っているようだが、それはステラの事なのか?
母親に捨てられたと思っていたのか?
そもそも、イサベルは自分の母親と知っていてここにやってきたのか?
そんな疑問を残しながら話は進んでいく。

・・・・・
この話は、途中で読み手の気持ちがあちこちに揺さぶられる、というところが面白いと思う。
最初からずうっと読んでいくと、どう見てもカウンセラーのステラがいつまでもいつまでも自分の過去に向き合えずにいる、その傷が癒えていない、どんないい夫がいてどんな可愛い新しい子供ミロがいても、ということが見えてくる。
私も最初は、海岸のベビーカーから一瞬目を離した隙にいなくなった赤ちゃんを持っていたという過去があったステラに最初は同情していた。やりきれないだろうなあと。一生の心の傷なんだろうなあと。
けれども、途中でステラが余りにイサベルに執着し、カウンセリングにやってきたイサベルをいなくなった娘アリスと思い込み、あまりにイサベルを追いかけストーカーのようになっていくさま、は、ステラの夫と同じように、(あ、おかしいかも・・・ステラ・・・)と思うようになってきた。

しかも前のカウンセリングで何か問題を起こしたらしいことも発覚する(最後にわかる、この真相が)
途中でもカウンセリングをしている最中に関ジャニ官女の爆発を投げつける場面もある。
またイサベルの過保護ともいえる母シェスティンから直接ステラの夫に苦情まで来るようになる(とてもこの気持ちも分かった、カウンセラーが自分の娘を誘導していて困るという、シェスティンの気持ちが。)
そして脅迫状が届いたり、自分を見張るコートの男がいたり、というステラの発言そのものもこの時点で、(おかしいので幻影かも・・・)という視点になっていく。
何しろ語っているのは、信頼できない語り手のステラなのだから。

そしてステラの家庭の事情、ステラの過去、そしてイサベルの現実の恋愛模様と話は進んでいく・・・

ところが。

ある部分から、逆転現象が起こる。
次から次へとわかってくる新事実。
これを踏まえて最初の方のイサベルの独白を読むと
(あ!!!これはこのことを言っていたんだ!)
という驚きもある。

こういうサスペンスの場合、信じて信じてと言っている人が孤独な場合、読んでいてもぞくぞくするほど辛い。
だが、一人でもこの人のことを信じてくれる人がいると(つまり味方)、そこが緩衝材になりほっとする。
この物語ではそれが友人になっている。

面白く読んだのだが、いくつか疑問も残っている。


以下ネタバレ

・幼い時に実際にアリスは誘拐されていた。
それは

イサベル

であった。だからステラの見る目は正しかったわけだ。

・イサベルの実の母と思われていた女性は、精神疾患を持っていた。
自分が殺した子供の代わりに、海辺に遊びに来ていた若夫婦の赤ちゃんを盗む。
そしてイサベルと名付ける。
小さい頃から彼女に虐待を繰り返していた。
イサベルを薬で朦朧とさせて逃亡を続ける、その間にも人を殺す。
人を殺しても何も感じない人格。

イサベルの独白で最初の方で彼女が憎い彼女が憎い彼女が憎いという言葉が連なっているが、それは、イサベルが虐待されていたという事実を踏まえて、母親シェスティンのことだった。
このことを心に抱えながら、そうとは知らずに実母ステラのカウンセリングに行くのだ。

<疑問>
・赤ちゃんの時のアリスから成人したイサベルを見て、自分の子供とわかるのだろうか?いかに叔母に似ているといっても?
確信できるのだろうか?
・イサベルがステラのカウンセリングを受けに行った、のが偶然としたらそれがあまりの偶然過ぎる。

・イサベルが自分が虐待されていたというのを、はっきりと認識していたのかいなかったのか。
このあたりが途中でよくわからなかった。
認識していたからこそ、カウンセリングに行ったのだろうが、途中で母親を受け入れいている。
これは?
撞着?それとも実母と思っていたのでその流れ?


・最初から血液検査とかDNA鑑定をやれ、と思っていた。
それだけ思うのなら、やれなかったのだろうか。

・・・・・・・・・・・・・

・ステラの夫の浮気は浮気ではなかったのか?
ただの会社の新入社員だったのか?
このあたりの弁明が薄いのでよくわからない・・・


・・・・・・・・・・
元夫のダニエルへの心の揺れがわからない。たとえいなくなった娘アリスの事を共有しているとしても。
あれだけ庇ってくれる今の夫がいるのに。
もうこのあたりで、やっぱりおかしい人?ステラ?と思った。

・・・・・・・・・・・・
ステラが自分の身の上話を全く知らない人エーヴァに話す場面。
そしてこの人こそがイサベルの母シェスティンだったという事実・・・(彼女はステラを見張っていたのでこの出会いが仕組まれたものなので出会いとしてはオッケーだ)
これも知らない人にこんなに話すだろうか?いくら話しやすそうな人と言っても。
(ただ、シェスティンが苦情を言いに行ったのは、あくまでステラの夫だったので、ステラはシェスティンの顔は見ていないのだ。
そのあたりはよく考えられていると思った。)
2019.03.22 悪意



評価 5

帯に、デュ・モーリアとかハイスミスの文字が舞っている。
一つの作品は、ハイスミスの(名前まで作品中で出ている)某作品をかなりかなり意識しているくらいだ。
全5編のスウェーデン作家の短編集だ。
スウェーデン作品ではあるものの、テイストとしてどちらかというと英米と言った感じが漂っているように思った。

この物語全体が非常に読みやすい。
分量が上下二段でこの厚さなのでそれなりに読むのに時間はかかるけれど、それでも読みやすい。
最初のトムから心惹かれる。
これは・・・最後の数ページが予想外であった、考えもつかない顛末、そしてそれは一般的に言えば非常に明るい顛末なのだが・・・このどん底感と言ったら・・・

ある日一人の女性の元に夜中に電話がかかってきた。
トムと名乗る男性から。
それは、22年前に17歳で死んだ息子からの電話だった・・・


もうこの出だしからどきどきするではないか?
死んだ息子からなぜ電話が?
そしてこの女性が、信頼できない語り手の立場に置かれている、今精神が不安定でセラピストにかかっている、という前提条件があるので更にどきどきさが増す。

ここから、女性と夫との関係性がどのようなものだったのか、トムという息子は女性の本当の子どもだったのかという事が語られていく。
つまりは、彼女の側の事情も山のようにあったのだ。
かつてただ『自分の子どもが亡くなった』という単純な問題ではなかった。
このあたりの描き方が非常に巧い。
徐々に恐ろしい真実に向かっていく姿が伝わってくるからだ。
そして、途中までは予想できる展開だ。
死んだ息子から電話がかかってきた、という状況は、推理小説が好きな人だったら、いくつかのパターンが考えられる。
そのパターンを逸脱していない、やっぱりね、という展開。
ここまでは巧いのだが、驚きはない。
けれど、ラスト数ページの意外な展開と言ったらどうだろう。


レイン

亡くなった作家レインの最後の小説が残されていた。
それは、母国語では出版を禁じ翻訳出版のみを出すという奇妙な条件付きであった・・・
これに一人の翻訳者が挑むことになるのだが・・・


レインを訳している翻訳家は、難航する翻訳と格闘するのと同時に、自分の過去もじわじわと蘇らせていく。
彼には別れた妻エヴァがいて、エヴァはセラピストのマウリッツという男を選択した。
行方知れずのエヴァ。
ところが、あるクラシック演奏会でのラジオの録音を聞き、『わたし』ははっとしたのだ。
なぜならそこに元妻の咳が聞こえてきたから。
この音楽会に彼女は行ったのだ!!

こうしてレインの翻訳作業と、レインのエヴァ捜しが重なり合い話が進んでいくのが幻惑的だ。


親愛なるアグネスへ

全部ではないのだが書簡体の話だ。
非常に面白かった。
後半がややわかる展開にはなっているものの、そこまでが読ませる。
二人の女性が学生時代からどういうライバル関係だったのか、どういう心で動いていたのかというのがわかって、最終的にはどちらが一枚上手かという事に話が突き進んでいく。

アグネスとヘニィは子供のころから学生時代にかけて一緒に過ごした友達だった。
アグネスの夫の葬式に久々に再開する二人。
最初はおずおずと、そして後半はかつてのようにあからさまに物を言い合う二人。
そのうちに、ヘニィから思いもかけない提案がある・・・


どちらも一癖ある二人の女性、アグネスとヘニィ。
ヘニィからの提案が思いもかけない提案だった・・・

サマリアのタンポポ

学生時代住んでいた町に当時の友達に呼ばれて戻ってきたヘンリィ。
なぜここに長く戻ってこれなかったのか。
それにはある秘密があった・・・


誤解が基底になっている美しいともいえる話だ。
初恋、そして暗転、美少女とのひととき、と情景が目に浮かぶ。
そもそも、このタイトルが美しい。

サマリアのタンポポ、そういわれた誰にも愛される美少女ヴェラが学校にいた。
ところがあるパーティーの後に忽然として姿を消す。
彼女はどこに行ったのか?
パーティーを出た時刻をもとに、必死の捜索もむなしく時は過ぎた・・・


彼女の意外な行動というのがもととなっているのがよくわかってくる。
しかし、それでいながら、主人公ヘンリィの元に来る、エヴァからの手紙というのは一体何を指しているのか?
ここがスリリングであり(わかってみるとそれほど謎はないものの)、真実への向かい方が読んでいてわくわくする。


その件についてのすべての情報
非常に短い話だ。
しかし心にさくっと刺さる物語でもあった。

登校途中で死んでしまったソフィアという9年生の女子学生がいた。
彼女の担任であったSという男の教師は、彼女の成績をつける時に悩む。
上につけるべきか、それとも普通につけるべきか。
それには、最後の論文が決め手になるので、彼女の家に行こうと決心する。


生真面目な教師だ。
適当に上につけておけばいいものを、それでは良心が許さないので両親のもとにわざわざ行くという事を選択する。
ところが・・・
これは、なぜソフィアが事故に遭ってしまったのか、ここは不可抗力だったのだがその遠因というのが実は・・・というところがちょっと怖い。人生でこういう事はたくさんあるだろうなあ、と思えるような一コマを切り取っている。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<<以下ネタバレ>>


・トム
この話、自分の息子ではなく夫の連れ子であり、彼女が育てていた。
しかしある時期から悪の道に進みどうにもならなくなった息子のトム。
夫が無精子症であったことがトムからの電話を話している最中に判明、夫はそして余命少なかった。

トムに襲われそうになったユーディットは彼を刺してしまう。
そしてトムを埋めると言ってでかけた夫は実際にはそうせずに友人の医者に手当させニュージーランドに行かせる。
トムは生きていたのだ。

トムと知り合って彼の家の事情を知っていた詐欺師であった電話の主トムを夫が見つけて、彼と自動車事故を装い自分もろとも殺す。

・・・・・・・
ところがこれで終わりではなかった。
トムから電話がかかってくる。
なぜならトムは心を正していい人間になっていたから、家に久々に電話を掛けたのだ。
けれどこれはユーディットにとっては別の悪夢の始まりだった・・・

・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・

・レイン
実はレインは死んでいなくて生きていたのだった。

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・・・・・・・・・・・・・・・


・親愛なるアグネスへ

騙し合いをする二人。
アグネスはヘニィのかつてできた恋人を次々と奪っていた過去があった。
またヘニィはアグネスの重要な劇の役を奪った(そしてこれが人生の転機になる)という過去があった。
そうは言いながらも二人は女同士で惹かれあうという感情もまたかすかにあるようだ。

ヘニィからの提案は、自分の夫を殺してほしい、不倫をしてたから、という話だった。
もしそうしてくれたら、窮状に陥っていたアグネスに金銭的援助をするという。
(ここは交換殺人ではないのだが、出ているようにハイスミスの見知らぬ乗客、の発想だ。嫌疑がかかりやすい妻ではなく全く見知らぬ人が夫を殺したら疑われないという発想)

ここで、アグネスがその不倫相手というのは容易に想像できる。
ヘニィをだましたと思ったアグネス。
しかしヘニィは更にその上をいっていた。
ヘニィを殺そうとしていたアグネスは、逆に彼女から殺されることに・・・

・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・

・ サマリアのタンポポ
ヴェラは酔っており、ヴェラとヘンリィは思いがけず成り行きで体の関係をパーティー後、に結ぶのだった。
ところが、夜中にヴェラは家に戻っていく。
この事実を長年ヘンリィは話すことが出来なかった、なぜなら一番疑われるのは彼だったから。

家には謹厳実直な狂信的な父がいてその姿を見て、全部告白したヴェラを思わず殴って殺してしまい、彼女を庭に埋める。
そのことを今は病院にいるヴェラの母親が、おぼつかない口ぶりで
ヘンリィのせい
といったのでヴェラのいとこのエヴァは誤解するのだった、ヘンリィが殺したと。
母親が言ったのは、もしヘンリィがエヴァと体の関係を結ばずに早く帰宅したらこのようなことにならなかった、
という意味だった。
だからヴェラからの手紙は、エヴァが書いたもの。

(私はこの父親が殺してはいた、というのまでは想像していたのだが。
父親がヴェラを肉体的に性的虐待をしていたと思い込んでいたが・・・それは書いてなかったので、想像しすぎのようだ・・・)

・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・

・その件についてのすべての情報
論文は非常に良い出来だった。
それを見て文句なく上の成績をつけようと思った教師。
ところがそのあとに、両親が
これを書くために夜更かしした、それもかなりの夜更かしを
朝は起きられなくて集中力を欠いていた
といったところで、事態が変わる。

なぜなら、登校途中で彼女は事故に遭ったとしか書いてないが、きっと寝坊で急いでいたのだろう。
もし、この論文がなかったら。
もし夜更かしをしていなかったら。
もしもし、もし・・・・
そしてラスト、この教員は教員ではなく図書館司書になる選択をする・・・

教師も生徒が真面目であったというところがこの悲しい事件の基になっている、というのが読ませる。
教師側は、もし彼がもっといい加減であったらそのまま死んだ生徒の成績表を上位につけて両親に渡せばいいだけの話だ。でもそれが出来ずに論文を読むために両親のもとを訪れたことで、自分の課題が彼女に負担をかけ、前の晩に夜更かしをさせ、それが登校時の事故の遠因になったということに気づいてしまう。

生徒側は、もし彼女がもっといい加減であったらいい加減なレポートを作成するなどして前の晩は寝ていただろう。そして普通通りに登校し、事故に遭遇することも・・・(なかったかもしれないし、あったかもしれない・・・神のみぞ知る)