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2019.03.22 悪意



評価 5

帯に、デュ・モーリアとかハイスミスの文字が舞っている。
一つの作品は、ハイスミスの(名前まで作品中で出ている)某作品をかなりかなり意識しているくらいだ。
全5編のスウェーデン作家の短編集だ。
スウェーデン作品ではあるものの、テイストとしてどちらかというと英米と言った感じが漂っているように思った。

この物語全体が非常に読みやすい。
分量が上下二段でこの厚さなのでそれなりに読むのに時間はかかるけれど、それでも読みやすい。
最初のトムから心惹かれる。
これは・・・最後の数ページが予想外であった、考えもつかない顛末、そしてそれは一般的に言えば非常に明るい顛末なのだが・・・このどん底感と言ったら・・・

ある日一人の女性の元に夜中に電話がかかってきた。
トムと名乗る男性から。
それは、22年前に17歳で死んだ息子からの電話だった・・・


もうこの出だしからどきどきするではないか?
死んだ息子からなぜ電話が?
そしてこの女性が、信頼できない語り手の立場に置かれている、今精神が不安定でセラピストにかかっている、という前提条件があるので更にどきどきさが増す。

ここから、女性と夫との関係性がどのようなものだったのか、トムという息子は女性の本当の子どもだったのかという事が語られていく。
つまりは、彼女の側の事情も山のようにあったのだ。
かつてただ『自分の子どもが亡くなった』という単純な問題ではなかった。
このあたりの描き方が非常に巧い。
徐々に恐ろしい真実に向かっていく姿が伝わってくるからだ。
そして、途中までは予想できる展開だ。
死んだ息子から電話がかかってきた、という状況は、推理小説が好きな人だったら、いくつかのパターンが考えられる。
そのパターンを逸脱していない、やっぱりね、という展開。
ここまでは巧いのだが、驚きはない。
けれど、ラスト数ページの意外な展開と言ったらどうだろう。


レイン

亡くなった作家レインの最後の小説が残されていた。
それは、母国語では出版を禁じ翻訳出版のみを出すという奇妙な条件付きであった・・・
これに一人の翻訳者が挑むことになるのだが・・・


レインを訳している翻訳家は、難航する翻訳と格闘するのと同時に、自分の過去もじわじわと蘇らせていく。
彼には別れた妻エヴァがいて、エヴァはセラピストのマウリッツという男を選択した。
行方知れずのエヴァ。
ところが、あるクラシック演奏会でのラジオの録音を聞き、『わたし』ははっとしたのだ。
なぜならそこに元妻の咳が聞こえてきたから。
この音楽会に彼女は行ったのだ!!

こうしてレインの翻訳作業と、レインのエヴァ捜しが重なり合い話が進んでいくのが幻惑的だ。


親愛なるアグネスへ

全部ではないのだが書簡体の話だ。
非常に面白かった。
後半がややわかる展開にはなっているものの、そこまでが読ませる。
二人の女性が学生時代からどういうライバル関係だったのか、どういう心で動いていたのかというのがわかって、最終的にはどちらが一枚上手かという事に話が突き進んでいく。

アグネスとヘニィは子供のころから学生時代にかけて一緒に過ごした友達だった。
アグネスの夫の葬式に久々に再開する二人。
最初はおずおずと、そして後半はかつてのようにあからさまに物を言い合う二人。
そのうちに、ヘニィから思いもかけない提案がある・・・


どちらも一癖ある二人の女性、アグネスとヘニィ。
ヘニィからの提案が思いもかけない提案だった・・・

サマリアのタンポポ

学生時代住んでいた町に当時の友達に呼ばれて戻ってきたヘンリィ。
なぜここに長く戻ってこれなかったのか。
それにはある秘密があった・・・


誤解が基底になっている美しいともいえる話だ。
初恋、そして暗転、美少女とのひととき、と情景が目に浮かぶ。
そもそも、このタイトルが美しい。

サマリアのタンポポ、そういわれた誰にも愛される美少女ヴェラが学校にいた。
ところがあるパーティーの後に忽然として姿を消す。
彼女はどこに行ったのか?
パーティーを出た時刻をもとに、必死の捜索もむなしく時は過ぎた・・・


彼女の意外な行動というのがもととなっているのがよくわかってくる。
しかし、それでいながら、主人公ヘンリィの元に来る、エヴァからの手紙というのは一体何を指しているのか?
ここがスリリングであり(わかってみるとそれほど謎はないものの)、真実への向かい方が読んでいてわくわくする。


その件についてのすべての情報
非常に短い話だ。
しかし心にさくっと刺さる物語でもあった。

登校途中で死んでしまったソフィアという9年生の女子学生がいた。
彼女の担任であったSという男の教師は、彼女の成績をつける時に悩む。
上につけるべきか、それとも普通につけるべきか。
それには、最後の論文が決め手になるので、彼女の家に行こうと決心する。


生真面目な教師だ。
適当に上につけておけばいいものを、それでは良心が許さないので両親のもとにわざわざ行くという事を選択する。
ところが・・・
これは、なぜソフィアが事故に遭ってしまったのか、ここは不可抗力だったのだがその遠因というのが実は・・・というところがちょっと怖い。人生でこういう事はたくさんあるだろうなあ、と思えるような一コマを切り取っている。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<<以下ネタバレ>>


・トム
この話、自分の息子ではなく夫の連れ子であり、彼女が育てていた。
しかしある時期から悪の道に進みどうにもならなくなった息子のトム。
夫が無精子症であったことがトムからの電話を話している最中に判明、夫はそして余命少なかった。

トムに襲われそうになったユーディットは彼を刺してしまう。
そしてトムを埋めると言ってでかけた夫は実際にはそうせずに友人の医者に手当させニュージーランドに行かせる。
トムは生きていたのだ。

トムと知り合って彼の家の事情を知っていた詐欺師であった電話の主トムを夫が見つけて、彼と自動車事故を装い自分もろとも殺す。

・・・・・・・
ところがこれで終わりではなかった。
トムから電話がかかってくる。
なぜならトムは心を正していい人間になっていたから、家に久々に電話を掛けたのだ。
けれどこれはユーディットにとっては別の悪夢の始まりだった・・・

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・レイン
実はレインは死んでいなくて生きていたのだった。

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・親愛なるアグネスへ

騙し合いをする二人。
アグネスはヘニィのかつてできた恋人を次々と奪っていた過去があった。
またヘニィはアグネスの重要な劇の役を奪った(そしてこれが人生の転機になる)という過去があった。
そうは言いながらも二人は女同士で惹かれあうという感情もまたかすかにあるようだ。

ヘニィからの提案は、自分の夫を殺してほしい、不倫をしてたから、という話だった。
もしそうしてくれたら、窮状に陥っていたアグネスに金銭的援助をするという。
(ここは交換殺人ではないのだが、出ているようにハイスミスの見知らぬ乗客、の発想だ。嫌疑がかかりやすい妻ではなく全く見知らぬ人が夫を殺したら疑われないという発想)

ここで、アグネスがその不倫相手というのは容易に想像できる。
ヘニィをだましたと思ったアグネス。
しかしヘニィは更にその上をいっていた。
ヘニィを殺そうとしていたアグネスは、逆に彼女から殺されることに・・・

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・ サマリアのタンポポ
ヴェラは酔っており、ヴェラとヘンリィは思いがけず成り行きで体の関係をパーティー後、に結ぶのだった。
ところが、夜中にヴェラは家に戻っていく。
この事実を長年ヘンリィは話すことが出来なかった、なぜなら一番疑われるのは彼だったから。

家には謹厳実直な狂信的な父がいてその姿を見て、全部告白したヴェラを思わず殴って殺してしまい、彼女を庭に埋める。
そのことを今は病院にいるヴェラの母親が、おぼつかない口ぶりで
ヘンリィのせい
といったのでヴェラのいとこのエヴァは誤解するのだった、ヘンリィが殺したと。
母親が言ったのは、もしヘンリィがエヴァと体の関係を結ばずに早く帰宅したらこのようなことにならなかった、
という意味だった。
だからヴェラからの手紙は、エヴァが書いたもの。

(私はこの父親が殺してはいた、というのまでは想像していたのだが。
父親がヴェラを肉体的に性的虐待をしていたと思い込んでいたが・・・それは書いてなかったので、想像しすぎのようだ・・・)

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・その件についてのすべての情報
論文は非常に良い出来だった。
それを見て文句なく上の成績をつけようと思った教師。
ところがそのあとに、両親が
これを書くために夜更かしした、それもかなりの夜更かしを
朝は起きられなくて集中力を欠いていた
といったところで、事態が変わる。

なぜなら、登校途中で彼女は事故に遭ったとしか書いてないが、きっと寝坊で急いでいたのだろう。
もし、この論文がなかったら。
もし夜更かしをしていなかったら。
もしもし、もし・・・・
そしてラスト、この教員は教員ではなく図書館司書になる選択をする・・・

教師も生徒が真面目であったというところがこの悲しい事件の基になっている、というのが読ませる。
教師側は、もし彼がもっといい加減であったらそのまま死んだ生徒の成績表を上位につけて両親に渡せばいいだけの話だ。でもそれが出来ずに論文を読むために両親のもとを訪れたことで、自分の課題が彼女に負担をかけ、前の晩に夜更かしをさせ、それが登校時の事故の遠因になったということに気づいてしまう。

生徒側は、もし彼女がもっといい加減であったらいい加減なレポートを作成するなどして前の晩は寝ていただろう。そして普通通りに登校し、事故に遭遇することも・・・(なかったかもしれないし、あったかもしれない・・・神のみぞ知る)



評価 4.9

表紙でいつの時代よ???と思うけれど、これが日本の敗戦直後の戦災孤児の写真だと思うと同じ日本とは思えない。
この子たちはいずこへ・・・無事に育って大人になっていますように。

太宰治のあの有名な一枚の写真が一番印象に残っている写真家さんだが、他にも作家の写真が多数あってそれらも何度見ても感慨深い。
昔の文士はこういう顔でこういう佇まいだったのかと。
特に川端康成の目、は鋭く突きさすようでこちらに迫ってくる。
三島由紀夫とか、元々の今でいうイケメンタイプが撮りにくいというのもとてもわかる。

・・・
作家関係の写真は展覧会にも行ったことがあるので何度も見ているのだが、今回表紙にもなっている昭和の戦争直後の写真を見て結構衝撃を受けた。
戦争孤児たちの悲惨さ、
GHQがまだ闊歩している姿
そして、何と言っても銀座!!!バラックが並んでいる!!
しかも今の和光の服部時計店がある!!!!
教文館がある!!(これに最も感動した、銀座の老舗本屋)

写真ってなんて恐ろしいんだろう。
単なる記録ではなくそこにいた人たちの息遣いまでこちらに伝わってきたのだった。
先人がどんなに努力して、このバラックを今の形まで押し上げたのか、私たちがそれを享受しているかという事も含めて。


評価 4.4

真?偽?

フェイクなのか?
それとも全くのフィクションなのか?
話題性で読ませる本。
それはもう、あの三億円犯人が誰だったかは気になる。
白田という人が三億円事件の犯人で彼が今告白する、という形をとっている小説(?)だ。
2時間ドラマのようにさくさく2時間ぐらいで読み終える本だ。

もしこれが本当の犯人、であり、もしあの『犯人しか知りえない遺留品』が本当なら、警察も動き出すだろうが(いくら時効を迎えているとはいえそういうものなのではないのか?)。
何度も自分がこういうものを書くとは、という素人というのを謳っている。
つまりは、そこにバイアスがかかり多少文章が下手でもなんでもそこは大目に見てくれる読者が発生する(素人さんが書いたものだから)ので作者にとっては得だ。

けれど、この小説に描かれている当時の学生運動の雰囲気とか、セクトの頂点にいた三神という女生徒の馴れ初めとか(理屈で押していって彼女を圧倒させるというところが当時を物語っている)、いとも簡単に大学を中退する経緯とか、まだ大学にそれほどの進学率がない時代とか、米軍基地との関わり方とか、そのあたりはよく描かれていると思う。
動機が見えないという人が多いかもしれない。
動機については、こ騒然とした大学生活があり、誰もが目的をもって生きていくのが正義、討論が盛んな時代で弁舌が巧みな人が一目置かれる、と思われている時代に、ノンシャランと目的もなしに生きていく白田の虚しさを考えれば、彼がこの事件を引き起こす気持ちになったというのは私には理解できた。

大学生になった白田。
彼には暴走族だったという過去があり、そして当時からの親友省吾がいた。
学生運動で揺れる学内でなじめない中、省吾と再びつるむようになる。
そんな中大学の中での唯一の知り合い、京子と再び出会うのだが、彼女は省吾と恋仲に・・・
白田は、意見をしたことから学生運動のあるセクトのリーダー三神という女性と恋仲になる・・・
そんな中、現金輸送車強奪事件が段々に形作られていく・・・


・・・・
主人公の白田が今一つ、なぜこんなに女性にもてるのかという部分は謎だった。
最初の、親友の恋人となった京子、セクトのリーダーの三神と次々に白田に惹かれている。
強烈に白田に女性を惹きつける何かがあったのだろうか?
白田の独白だけを見ていると、容姿もそれほどでもないらしいし(確か親友の省吾が言っている)、話もさほど面白くなさそうな感じだし、かといって目的を持っているわけでもないし・・・いったいどこに女性たちは惹かれたのだろう?
(というこの疑問も、もしこれが本当に犯人が書いているとすれば、自分のことを書きにくいと思うので、ここも作者にとっては得だ。)

強盗犯人に至るまでの家庭の描き方も今一つ乏しい。
白田の方の側の実家も全く分からない。
特に省吾の家の父親が警察官というのは事件にとても大きな要素になるが、彼の家庭の事とかがもっと描かれていれば物語に厚みが出たのに、と思った(でもこれが真実の物語、という逃げはあるので、もし真実の物語であるのなら残された人のために伏せていたという言い訳が立つ)

・・・・・・・・・・・・
親友、恋人とみなしていた女性、も失った白田。
そして、彼の人生のこの後は?
あのお金の行方は?

これらが全て描かれてなかったとしても、これが手記という形をとっているということで全て免れるのだろう。
しかし・・・何十年もたって告白される息子の迷惑なことと言ったら!!
もしこれが本当の手記だったとしたらネットに投稿することを勧めたというのも息子らしい・・・

(ふと思ったが、もしかして後編があるのだろうか?
その後、を描く後編が?)

・・・
これが真実の物語であれ、小説であれ、事件がありその解決に手間取って犯人が結局わからないという顛末は
・犯人側が非常に周到な準備をしていて、針の穴も見つからないような完全犯罪
・捜査側の杜撰さが目立つ捜査
・捜査側の連携がうまくいっていない捜査
というようなものもあるとは思うのだが・・・

偶然、というのも非常に大きな要素となる気がするのだ。
偶然何かに助けられた。
偶然誰かの何かがそうとは知らず犯行にプラスになった。

そういうことを考えると穴だらけの白田の犯行というのもリアルだなあと思う次第だ。
2019.03.13 拳銃使いの娘



「どのみち普通だったことなんてないもん。
あたしは金星の子なんだから」


評価 5  

ポリー!ポリー!ポリー!!
11歳の少女ポリーがとても魅力的で一気に虜になる。
最初の内、おどおどとしていて、刑務所帰りの父親の姿自体にもなじめないポリー。
どうやら学校でも浮いていたようなポリー。
そのポリーが実に逞しく成長していく、それも悪の方向jに、というまことに読ませる話だった。
とても面白かった。

刑務所で、そこのドンの親族を殺してしまったネイト。
刑務所内から指令を出せるくらいの男の親族を。
そして、ネイトが出所するのに合わせて、彼と彼の娘と彼の元妻を殺せという指令が飛び交う。
ギャング団の密な関係で追われることになるネイトたち。
しかももう既に元妻は新しい夫とともに殺されていた。
ネイトは娘のポリーを連れて逃避行に出るのだった・・・


自分のやらかしたことによって家族が殺される(自分もだが)という危険に陥らせたという事に責任を感じているネイトの姿も鮮やかに見えてくる。
この小説、どの場面も『映像が脳内に見える小説』なんだと思った。
最初の方ではでも長年離れていたポリーにそれほど執着はない。
父親としての自覚もない。
けれど、途中からポリーの機転の利かせ方、ポリーの可愛さ、ポリーの成長具合を見ていくにつれ、徐々にネイトも変わっていくのだ。

ポリーはポリーで11歳の女の子で実に普通の生活を送っていた。
義理の父親と自分の母親が最初殺されたことすらわかってないのだ。
それを知ってそのショックから立ち直ると・・・・彼女のある部分がちょっとだけ開く。
更に、父親ネイトが現れることにより、彼女のある部分(悪の部分)が完全に開花する。
それは彼女にとって花開くというようなことでもあったのだ。

彼女の常に持っているくまちゃんぬいぐるみの存在が光る。
これが第三主人公と言ってもいいくらいに重要な役割を占めている。
時々のポリーの心、をくまで示し(熊を動かし話しているポリーがいる)、見ている大人はそれを見てちょっとほっこりしたり、こうなんだろうなあと思ったりする。
その一方で、体を鍛えたり敵に追われている時のノウハウを乳から聞いて吸収したり、ポリーもとても忙しいのだ。
彼女の賢さでぐいぐいと吸収して成長していく姿が悪の方向とは言え、そして真っ当な道ではないとはいえ、実に頼もしい。
後半で、父親を何とか助けようとしようとする気持ち、死を顧みず知っている人が殺される時に突進していく姿、も忘れ難い。

ネイトの視点、ポリーの視点、別の人の視点と入れ替わりが激しいのだがそこも何ら違和感がなく読める。
全体が深くない書き方で掘り下げてない感じもするのだが、この話にはこの書き方がとてもあっている。
軽快にとんとんと進んでいくのが読んでいて小気味いいし、ポリーとネイトの関係性の変化にも沿っている。

・・・・・・・・・・
この話、ギャングに追われているので、どう最後結末をつけるのか、と思った。
いわば果てしのない旅だから。
誰か一人を殺せば終わりというものではないから。
上手く最後まとめたと思った、しかもポリーを使って。
途中で悪徳警官が出て来たり、最初にポリーが電話をしたパク刑事が出て来たり、警察側もまた読んでいて楽しい。

ラスト、非常に味わい深い。
ポリーの一言一言が身に染みる。
死闘の挙句、片目をくりぬかれそれでもポリーを思っていたネイトの心も美しい。
そして、一見普通の生活を送っているポリーの元を訪れたパク刑事にポリーは大人のような言葉を放つのだった。
彼女は一種地獄を見たのだと思った、そしてそこから立ち上がったのだとも。

映画化されるらしいが、ペイパームーンのテイタム・オニールが現在まだ子供だったらポリーのこの役是非やって欲しいものだ、と思ったものだった。



評価 4.6

ああ・・・これが賞を3つもとった(アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞、英国推理作家協会賞スティール・ダガー賞、アンソニー賞最優秀長編賞)というのがわかる。
それはこの話そのものの内容から、現代のアメリカの状況でとるべき本ということなのだろう。
勿論それ以外にも話そのものに力はある。
けれど、それよりも何よりも、今期のアカデミー賞のグリーンブックと同じような匂いをとても感じたのだった。
分断と亀裂と混沌と差別、そしてヘイトクライム。
ヘイトが満ちている国になってしまったアメリカ。
そこでこういう作品を出すということに意味があるのだろうなあと強く思った。

やや、盛り込みすぎか。
テーマ的にも書き方的にも重い一冊なので、このテーマだけでもおなか一杯になる。
主人公ダレンの出自だけでも物語に満ち満ちているのに、その上ジェニヴァーの数奇な人生もまた語られる、更には奥さんを殺されたキースの運命もまた。
このあたりが、私にはやや入れすぎかなあと感じられた。
車の中に血まみれの鹿の頭が置かれている場面は、ゴッドファーザーを想起した。

・・・・・・・・・・・・・・
話はやや複雑だ。
良い言葉で言えば重層的、読み込まないとやや飲み込みにくいところが多い、と言ってもいい。
ある事柄が起こると必ずその裏側に似たような事柄がある。
最初の内、レンジャーが何かよくわからず、保安官?と思っていると保安官は別にいた、かといってFBIでもなくいったいこれは?と思っていたら途中でわかってきたのだ、これが地位が高いものだというのがわかってくる、そして黒人がこれになるということはいかに難しくいかに名誉なことかという事も。
事件そのものは非常に単純である。

テキサス州の田舎町シェルビー郡ラークという町でで二つの死体が出た。
・一体は都会から訪れていた35歳の黒人男性
・一体は地元の20歳の白人女性
二人とも溺死というのは共通していた・・・


事件の真相を追う人物が、これまた黒人のダレン。
彼はテキサスレンジャーであったけれど、今は休職中になっている。
休職の原因が
『・ダレンの実家の農場を長年管理していたマックという実直な老人の孫娘が、貧乏白人のマルヴォイに付きまとわれていた。
身の危険を感じるほどに。
・老人マックとマルヴォイの睨み合いがあり、仲裁に入ったダレン。
・しかしその2日後、マルヴォイは近くの溝から発見される』
というものだった。
このエピソートで既に黒人対白人という図式が出来上がっている。
また、そもそもの最初の死体二つの話の中でも、
・これが逆の順番だったら腑に落ちた、つまり白人が殺され黒人が殺されたのだったら、復讐だ
という発想そのものが既に差別が身に沁みついているのがわかる。

・・・・・・・・・・・・・・
ダレンが追っていく内に、彼自身の出自もわかってくる。
彼は、リサという女性と結婚しているが、彼女はもっと彼に家にいて欲しいと熱望している、彼らの結婚生活は危ういところにあるのだ。
解説にもあるように、この結婚生活の危うさは
『最初に殺された黒人の男性がなぜこの街にやってきたか』
という所にも繋がって、また彼の美しい妻ランディ(彼女がダレンと一緒になって真相を追っていく場面もまた読ませる)とうまくいっていなかった、だからこそ黒人男性はこの街にある愛の目的でやってきた、ということにも繋がってくる。
このあたりの見せ方がとても上手だ。

・・・・
しかし何と言ってもこの話の中で印象深いのは二つの店の話だろう。
・一つはアイスハウスと言われているジェフの酒場。
ここはジュークボックスなどがある広い酒場だが恐ろしいくらいに白人至上主義の場になっている。
KKKなど目ではなく、ABTという言葉もここで出てくる。
更には、殺された女性ミシーの夫のキースもこれではないかと言われていた。
ABT、はKKKよりもっと過激であり、入団する唯一の方法は、『ニガーを殺すこと』であった。
ダレンがここに入っていく姿など、目に焼き付くほど怖い。
しかし死んだ白人女性ミシーはここで働いていたのだ。
そしてまた、黒人女性のランディ(殺された夫マイケルを探しに来た奥さん)ともここで出会う。

・もう一つはこじんまりとしたジェニーヴァ・スイーツ・スイーツ。
ここを切り盛りしているジェニーヴァという女性の人生の遍歴が一番この話の中で読ませた。
彼女の辿った数奇ともいえる運命。
それが全ての核になっている。
最初の内、ダレンがいくらジェニーヴァに話しかけても彼女とは交流ができない。
このあたりは読んでいてイライラするのだが、後半になってなぜかというのもわかってくる。
ジェニーヴァの非常に複雑な立場があったのだった。

・・・・・・・・・・・
一方で、人々の話も錯綜しているが、この中のもう一つの主人公は、テキサスの小さなこの町そのもの、なのだと思った。
ヘイトを生んでしまう町。
黒人を差別するのが普通の町。
学がありお金を持っている黒人でも黒人と言うだけで、貧乏は久慈から差別される町。
あたかも生命をもって動いているようなうねうねとした生き物のような町。
その町の中にいる強烈に自分に自負を持っている白人たち。
人間の真の姿が焙り出されてくる物語だ。
また家族間のトラブルが(これもまた白人VS黒人が絡んでいる)野火のように大きな別のトラブルに発展していくのだ。


以下ネタバレ含めての感想(自分用)

・ジェニーヴァがこの話全体のキーになる人物。

・殺された女性ミシーが黒人男性と関係したことにより、子供がどう隠しても黒人の血を持っていることがわかってくる、成長するにつれ。
ミシーの夫のキースは生粋の白人至上主義者だ。
けれど、キースはそのことを全てわかった上で、子供をどうしようもなく愛してしまう。
このあたりの人間の心のブレ、一筋縄ではいかない動きが読ませる。

・キースは自分の妻ミシーが黒人と関係したという事を根に持っていて、新たにやってきたマイケルという黒人を袋叩きにする。けれど彼は殺していない。
アイザックがとどめを刺していた。

・ウォリーはアイスハウスのオーナー。
ウォリーの父親は、かつて美しい娘ジェニーヴァに惹かれて関係を持ち、彼女のために店を作ってあげる。
それがジェニーヴァ・スイーツ・スイーツ。
しかしその後、ジェニーヴァは偶然やってきたブルースの演奏者の黒人のジョーと結婚し、子供を持つ。

・アイザックは長い間ジェニーヴァの店で床屋をしている男。

・ジェニーヴァは最初ジェフと関係を持つ。
ジョーにはウォリーという息子がいた。

ジェニーヴァにもジェフとの間に子供ができなる。
その時点で、音楽家ジョーがやってくる。
その1年後ジェフは死亡。
ジョーはその子供を可愛がってくれる、リル・ジョーとして。

つまり、ウォリーとリル・ジョーは母親違いの兄弟。



評価 4.6

なぜこれを読んだかというと、あの『時の娘』のグラント警部がここで初登場しているらしいということだからだ。
お!動いているグラント警部!!
あと、タイトルが非常に魅力的だ。

話はオーソドックスな形の古き良き時代のミステリだ。
死体、容疑者、美しい妻と仲良い夫、そして遺言・・・
最終で犯人の動機らしきものがわかるのだが、これ?これが動機?と思ったが・・・まあここも古き良き時代という事なのだろう。
(加えて言えば、動機がわかるプロセスがちょっとお粗末のような気がする、今の眼で見ると)
あと、犯人当てというより、このミステリは途中の人々の活写具合が読んでいて楽しい。
映画女優クレイの孤独、そして貧しかった過去から一気にのし上がった彼女の心境、幼い頃の劣悪な家庭環境、
そして彼女の周りを取り巻くきらびやかな映画関係者、その下克上の世界、
更に更に、クレイが快く家を共にした青年の悲劇など、そのあたりは読ませる。
グラント警部も生き生きとまではいかないが(なんだかゆったりしている印象)、少なくとも失敗はしながらも歩いてはいるのだから、こういう人なんだろうなあというのがわかる。

イギリス南部の海岸に一人の女性の溺死体が上がった。
彼女の身元はやってきた青年によってすぐにわかり、彼女は有名な映画女優クリスティーン・クレイだという事だった。
青年は、放浪の末彼女に拾われたような身分で居候していた男ティンダル。
当然彼に容疑がかかるのだが・・・ある時から彼は姿を消したのだった・・・


なんといっても溌溂としたエリカ・バーゴインという若い女性の活躍ぶりが楽しい。
彼女は警察署長の娘であり、捜査に行き詰まりしかも容疑者のティンバリーを逃したということで頭を抱えているグラント警部の一筋の光明となる。
そして黒いコート!!!
これがどこにあったのか、ティンバリーの黒いコートからは重要なボタンがとれているのか?というのを見事に探し出してくれるのだ・・・

クレイの過去をもうちょっと書いてほしかった。
弟との繋がり部分をもうちょっと深く書いてほしいという気持ちにはなったのだ。





評価 5

うわーー子供の本?とか侮っていた!!ごめんなさい!!という気持ちでいっぱいだ。
面白そうだあなあと思いつつ、もしかして絵本?とか思っていたのだが、読んでみたら文字がいっぱいあってしかもヨシタケシンスケさんの可愛い絵がたくさんあって、しかも本に関する話で、くすっとしたり、しんみりしたり、え、と驚いたり、それはそれは楽しませてもらった本だった。

ある書店に店主さんがいる。
彼の元に色々なこういうことに関する本はありますか?という質問を客が持ってくる。
それに対して店主さんは、こういう本がありますよ、と架空の本を教えてくれる。
これがまた面白いのだ。
単なる思い付きではなく、練られている本の話。
しかも本当にありそうな
書店婚、とか
本のお祭り、とか(この中で春追いに大爆笑、一冊のアイドル写真集を町中の男子中学生が奪い合うお祭りって)、本の降る村とか(雪のようで出られなくなるというところが微笑ましい)
ほのぼのとしている。

私が一番(あったら面白そうだなあ・・・実際に)と思ったのは
お墓の中の本棚、だった。
1年に1度だけパかっと開くお墓に入っているのは、大切な本たち。そしてそこから一冊とる代わりにその年の一冊を入れる、ってなんて素敵なアイディアなんだろう!!
2019.03.08 浅田家


評価 4.6

前知識ゼロだったので、一体????と最初は頭の中に?が舞っていた。
ごく普通の家族写真、と思っていたから。
途中でこの仕掛けがわかって、大笑いしていた。
いやあ・・・よくご家族が協力したなあ・・・

この中で、一番皆が合っていたのは
極道の一家の部分だと思った。
なんだか全員がはまり役、のような気がしてならない。
息子二人、お父さんも頑張っているけれど、お母さんが何と言っても味わい深い!
どこでも何らかの役割を果たしているお母さん。その存在感ったらない。不思議に何でもぴたりとはまってしまう、という人なのだ。

これをどうやって映像化するのだろう?
楽しみでもあり怖くもある。


<以下本の内容に触れます>

家族全員が色々な職業の人になったというコスプレという仕様になっている。
ある時には消防車の人(表紙の写真)
ある時にはシュプレヒコールを上げてるデモの人(ここでお父さんが日曜日撮影反対と書いてあるプラカードを出しているところに笑った。本当なんだろうきっと)、ある時には床屋と目まぐるしく変わっていく。

惜しいと思うのは、息子君の刺青が非常に目立つので、これで長袖でない限り限定されるという事だ、役柄が。
あれだけの刺青ということで、先入観は持つだろうから、見る人の側も。



2019.03.06 クロストーク



評価 5


厚い。
厚い上に二段組・・・
と思って躊躇していたのだが、読むのを。
読み始めたら、一気呵成に・・・・というわけにもいかず・・・・

なぜかと言えば、正直に言うと、4章まで私は非常に困難を極めたからだ。
そもそも、主人公のブリディの会社に押しかけてくる、彼女のアイルランドの一族らしい親戚は何?子供のことを無茶苦茶干渉しているこの母親は何?鬱陶しいことはなはだしい。(が、最後まで読んでこの部分を読み直すと実に味わい深い。)
そもそもの二つ目で、ブリディが恋人とうけようとしていて皆が反対しているEEDってなに?これが見えない。何?
そもそもの三つ目で、この会社の鵜の目鷹の目的な同僚やら先輩やら後輩は何?なんでこんなに人のことを知りたがる?ここでもEEDって何??

わからないまま話が進んでいって、もうあちこちにブリディが親戚逃れで逃げていて、地下まで逃げてそこで変人がいてその人がまたEED反対派であって(だからEEDって何!!)

主人公が右往左往している姿って何かに似てるなあと思っていて、あ、同じ作者の航路だ!と思い出した。
船内をそれはそれは右往左往する姿。
あれに重なっている、但しだいぶ状況は違うけれど。

しかし4章以降非常に面白く、これはラブストーリーなのだなというのが見えてくる。
更に、話は進んで、某有名日本SFの様相も呈してくるにしたがって、そこもとても読ませる場面だ。
最後に全ての真相が明かされるのだが、そこもまた冒頭部分の訳の分からないところと繋がっていてここもお見事だ、
何と言っても、ブリディの若い姪のメイヴが可愛らしい上に賢くて彼女が出てくると思わず微笑んでしまう。
最後の方までメイヴは関係してくるのだけれど、ひょっこり出てくるところが可愛いし、あと年よりも精神年齢が上で、周りの大人達よりずうっとしっかりしているところがかえる。
そしてメイヴの秘密もまた・・・

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4章に入ってようやくこの話が見えてくる。
3章でとうとう手術を受けるからだ、EEDとやらの。
ここんきてだいぶ状況がわかってくる。

携帯電話メーカーコムスパン勤務のブリディ。
誰からも羨ましがられる恋人トレントともっと深い愛を作るために画期的なある脳手術をすることになる。
それは二人が手術をすると
『お互いの気持ちをダイレクトに伝えることができる』
というテレパシーのようなものだった。
アイルランド系の親族にはそもそもトレントとの結婚を反対され、同僚にはEED手術を好奇の目で見られ、コムスパン一の変人CBにまで強烈に反対され、それでもブリディはこの手術を受けることにする。
そして繋がったのは・・・・


繋がった相手が忌み嫌われていたCBというのがなんともいえず皮肉だ。
トレントとはなんとしても繋がらない。
努力をしているブリディが最初は痛々しいのだが・・・
そしてここから新たな展開が広がっていく。

ブリディとトレントとCBとの三角関係に加えて、ブリディの相変わらずやかましい一族の登場(ここでメイヴが一気にクローズアップされていく)、新製品をめぐる競争、そしてトレントの真意など、読みどころ満載の話が続々と出てくる。
人の心が読めるということはいい事ばかりではない、というごくごく当たり前の事もきちんと描かれている。

以下ネタバレ含みます

CBと繋がったことに猛反発しているブリディが最初いるのだが、彼女がCBへのいつも変わらぬ助けを受けるうちに愛に変化していくというところが読ませる。
どうしようもなくなったところにさっとCBが助けに来てくれるところなど、もう騎士道の物語のようだ。
ブリディがCBと繋がるのみならず、一般の人の思考がわあっと入ってくるところは七瀬シリーズを思い出した。そして読ませるところは、CBがその防御策としてイメージで壁とか部屋を頭の中に作らせるところだ。
ここがとても面白い。

なだれこんでくる周りの人の思考を遮断する方法を教えてくれるCB。
どちらかというと変人で嫌っていたCBがなんと途中から輝いてくることか!
そして完璧と思っていた婚約者のトレントがなんて陳腐な男に見えてくることか!
このあたりの逆転劇もとても面白い。
更に、

CBが実はアイルランド人の血を持っているということがあるところでわかる。
名前から想像がつかなかったが(アイルランド系の名前の特徴というのがあるらしい)、実はそうだったという告白にブリディも読者も驚く。
告白の向こうには、CBが調べたところによると、アイルランド系の人がこのテレパシー状態を発生しやすいということがあるらしい、という話があった。

遮断するために架空の部屋、架空の隠れ家、安心した場所、を脳内に作っていくこの場面が忘れ難い。
(ハンニバルの本の中で、レクターが無数の部屋がある広大な宮殿を脳内に構築しているのも思い出す)
また歌を歌ったり、詩を暗唱したりして、人様の思考の群れを断絶するというのも面白い。
ここで意識下の二人が出会い話せるという状況も読んでいて非常に印象深い。
図書館の使い方も非常に印象的だ。

そして何と言ってもメイヴ!
彼女もまたテレパスであった。
最後の最後でわかったことは、アイルランド系の親戚全体がこの能力を持っていたのだ。
特に冒頭で一番ブリディに干渉してきた大叔母のウーナは最大にこの能力を保持していた。
2019.02.28 2019年2月漫画


あのここまで続いていた相続の話が一旦終わりました・・・
また新たな話が始まる巻・・・
今回心霊っぽいな話がかみ合っていてとてもまた面白いです。
この数字の羅列がたまりません。
そして、相変わらず色々言っている整(ととのう)君。
あー是非実写化して、高橋一生にこの役をやっていただきたい。
合うと思うんだけどなあ・・・・

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オスマン帝国にはまり込んでいるので、
ついにこれに手を出しました・・・
ヒュッレムがテレビドラマよりずうっと可愛くてまだあどけない・・・これは1巻だから?漫画だから?
まだ判別尽きませんが。

オスマン帝国に否応なく入れられたヒュッレム。
彼女の数奇な運命、そしてこれからのし上がっていくだろう強い精神力、がみものです。

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作者を全く知らなかったけれど(ごめんなさい!!)、とりあえず15世紀ヨーロッパを駆け巡る少女達というので信じて読んでみました。
面白い!
絵も好みの方かなあ。
イタリアから、二人の少女がクレタ、クリミアに行こうとする二人の少女達。
道中の風景も非常に見せるし(15世紀)途中途中の作者の簡単な当時の歴史背景も読ませるし。
これからも続けて読みたいっ!