評価 4.8

読み始めの部分が非常に面白い!
メラニーという色の白い小さな少女が、独房で暮らしている(なんで?)
どうやら全員親から引き離されているらしい(なんで?)
それも、兵士に手足と首を厳重に固定された車椅子で(なんで?)。
しかも、移動され、そこでは普通に授業を受けている、別の同じような車椅子の子供たちと(なんで?)
厳重に注意されている子供たち(なんで?)

なんでがずうっと重なっていって、この世界は一体何なんだ?子供たちは何なんだ?ここはいったい何の施設なんだ?という興味がもりもり沸く。
そして途中でこの世界の謎が明かされていくと同時に、メラニー達子供のなんで?が開かれていくのが面白い。
まっとうなエンタメであり、しかも、キャラがどの人もたっていてどの人の気持ちもわかるのだ。
最初の方で、悪役として描かれていたパークス軍曹が途中で彼の気持ちというのがわかり、彼の人となりがわかってくるにつれ、大好きな人になってきた。
メラニーが愛してやまない教師、ミス・ジャスティーノの気高さにもたまに(これはやりすぎじゃないの・・・)と思いつつも感情移入したりする。
また冷酷な科学者コールドウェルの狂気に満ちた実験もこの世界をなんとかしようという想いからだと思うと、これまたなんだかわかってしまうのだ。
また自分の家庭が最悪だったことが後半わかってくる兵士ギャラガーは、自分の故郷に帰っていく途中、果たしてそこで再び幸せになれるのだろうか?という疑問を抱くわけだが、その微妙な気持ちも痛いほどわかる。

・・・・
中盤からこの人たちが一体となって、なんとか他の人間がいるところの臨時政府の元に戻ろうという脱出劇になる。
荒廃したイギリスを旅する奇妙な一団。
ここから、メラニーが自分の欲望と闘いながらも、非常に頭脳を駆使して彼らの役に立っていく、という場面が際立ってくる。
また軍事基地にいた時には、意地悪とかしか見えなかったパークス軍曹が実はとても有能であり的確な指示を出す魅力的な男性だということも判明するのだ。
敵(それもわんさかいるし、別の敵もいる)の真っただ中をどうやって脱出していくのだろうという興味もあった。

メラニーがコールドウェルに押さえつけられ、あわや、というところでジャスティーノに救われる瞬間、
わざわざいる餓えた奴らが、何も反応がなく固まっているのにいきなりざわざわ動き始める瞬間、
そしてメラニーの秘密に彼女自身が気付く瞬間、
果てしない道を軍曹の的確な指示のもとに進んでいく皆の様子、
あることで、メラニーが嘘をつく瞬間、そしてその真実とは、
と映像になる場面が非常に多い。
メラニーが自分の欲望を我慢する姿がけなげでいとおしい。
そしてまっすぐに自分の尊敬する大好きなミスジャスティーノにぶつかっていく姿もまた初々しい。

気持ちの悪い場面も当然あるが、ラスト、どうなるんだ、というのが思ってもみなかったまとめ方だった。
こうなのか、こうなるのか。


以下ネタバレ
・メラニー達は、「人間の肉を食らう餓えた奴ら(そして食らわれた人間もまた同じく・・・の連鎖に引き込まれる)」に侵された地球での軍事基地に、実験のために集められた特殊な餓えた奴ら、であった。
普通の餓えた奴らは思考しないし、しゃべれない。同じところに集まって次の食べ物が来るまでストップしている。
そして次の食べ物が動いたり話したりするのをキャッチすると一斉に襲い掛かるのだった(ここが怖かった・・・)

教育を受けたことによって、メラニー達子どもたちはは高度な知識を得たのだった。
特にメラニーは優秀な子供だった、
彼女は人間の肉を食べたいという欲望もあるけれど、それをコントロールするようになっていく。
そしてその脳を解剖するのがコールドウェル。

・途中メラニーは、自分と同じような「教育を受けていない特殊な餓えた奴ら」を見つける。

・次世代の人間たちはメラニーを筆頭とした、高度に脳が発達した餓えた奴ら、にとって代わることを最後示唆している、ここでまたミス・ジャスティーノが教師に・・・



評価 4.4

話そのものは滅法面白い。
エンタメとしてぐいぐい引っ張っていってくれる。
世界情勢を巧みに取り入れ、そこに虚構の世界を広げている。
現代の宗教紛争、政治闘争が見事に取り込まれていて、地図もあるし、アラルスタンというのが架空の国というのを一瞬忘れそうになった。
遊牧民の生き方、ソビエト崩壊、スターリン下での中央アジアへの強制移住、イスラム主義・・・
本当の地名と本当の歴史も織り込みながら、話は女性たちを中心に進んでいく・・・

中東の国、アラルスタンで大統領暗殺が起こった。
そこで立ち上がったのが後宮にいる女性たちの集団。
後宮は、側室という側面は今やもうなく(かつてはあったらしい)、頭脳優秀な集団であり、得意分野もまたある人間たちであった・・・


ただ・・・どうなのだろう。
話が重厚な方向に向かっているのに、このアンバランスさは。
女性たちの話が実に軽いのだ。
これがエンタメたる所以なのか?
そこでかなり興を削がれ、先を読むのが辛かった・・・
途中から、漫画を読んでいるような気持ちになってしまったのだった。

欺こうとして用意された一つの劇。
そして全く思ってもみなかった意外な人物の正体・・・

・・・・・・・・・・・・
申し訳ない、きっと届く人には届くエンタメなんだと思う。
面白いには違いないのだが、私には正直合わなかった・・・
話はこれだけ面白いのに、なんだかライトな物語、もしくは漫画を読んでいる感じがしたのだ。


評価 4.8

率直な言葉で映画監督西川美和がその思いを語ってくれている。
今回は、映画永い言い訳の話が多く、もっくんの話も多かったので、映画を見た者としてはそこもとても楽しめた。
もっくん、こういう人だったのか・・・という驚きも!
まさに衣笠じゃないか・・・

裏話というのではなく、映画はこんなに多くの人を巻き込んで、多くの人の感情を揺さぶって(既に現場で)、多くの人の手を経て、ようやく私たちのもとに届くんだ、というのを実感したのだった。
監督の目、は妥協のない目であり、一点の曇りもない目でもある。
これだけの賞を取っても、実力があっても、まだ自分を探している途中というか、暗中模索のような状態というか、そこにまず驚いた。
でもそこがこの人の映画のいいところなのかも、と思った。
妙に、あがり、といった感じがないのが自然体の皆の演技を引き出しているのかもしれないなあ・・・と勝手に想像したりしたのだった。

子役の選出の大変さもひしひしと感じた。
育ってしまうからなあ・・・撮影中に・・・と思うと、オーディションの難しさ、その子の心のケアなど、作者が言うように子役への気持ちってたくさんのことが溢れているんだなあと感じた。
そして、私はこの映画で、子役の男の子の大ファンなので、この子が泣くシーンで苦悩しているというのを読んで、頑張ったなあ・・・と改めて思ったのだった。
2017.06.22 漱石漫談




評価 5

いやあ・・・楽しい楽しい!
漱石本をいとうせいこうと奥泉光が怠惰なしていくという趣向の本だ。

何よりもいいなあ・・・と思うのは、突っ込みはあるものの、二人が強烈な漱石ファンであるというのが前提になっているところだ。
本を語るということで対談するのであれば、愛がなければもやっと感が残るなあ・・・と他の対談本を読んで思っていたので、この本はなんとも痛快だった。

こころに始まり、坑夫で終わる。
この中で、行人の二人のやり取りをあげている部分がとても面白い考察だったと思った。
こうしてみると、直は割合自分の気持ちを言っている女なんだなあと再認識した。
門の章ごとの組み立て方もなるほどなあと思ったのだった。

奥泉光が小説家の目として、三人称、一人称にこだわって着目していくのも、わかるなあと思ったのだった。
また漱石がコミュニケーション不全による孤独という指摘もあり、ここもまた注目して読んでみるとまた新たな読み方ができるかもしれない。
猫温泉の言葉も忘れ難い。
いとうさんは、美禰子が嫌いと(そしてこれはとてもわかる、私も好きじゃないので)、童貞小説目線があった。

いずれにしても漱石を強烈に再読したくなる一冊だ。

(作品ごとに挟まれる、バーナード嬢曰く漫画も笑える笑える!)


評価 4.9

楽しめた。
この本のシリーズ、本当に楽しめる。
妄想と真実とが入交り、ただの日記というのから遠く離れて、一つの短編小説(それも不思議系)を読んでいる気すらする。
川上弘美の初期作品のような感じすらしてくるエッセイ集だ。

淡々とその場にある不思議とか、不思議とすら感じていないことを綴っていく文章。
過去の記憶の噴出の話(9月ごろ)とかものすごく面白かった、誰にでもある話だろうけれど、こんなに頷きながら読めるって何だろう。
あと、エア秘書の話も笑えた、脳内でエアの助け人をたくさん作っていくという話だ、これも奇妙にわかるわかる!

このシリーズ、とても装幀が魅力を増していると思う。
可愛らしい動物がひょっこり出てきてなごませたり、出てくるもの、もまた愛らしい。
外側の質感なんかも心地よい。
それと文章が相まってなんとも不思議な魅力を放つ一冊になっていると思うのだ。



評価 4.8

癒された。
なんで癒されるんだろう、星野源のエッセイを読むと。
くすりと笑うところもあるのだが、ほっこりした気持ちに必ずさせてもらえるのだ。
彼の育ちの良さ、すくすく育ちましたよ愛されてというのが全体から滲み出てくる気がする。

下手するとこういうエッセイ系(特に人気歌手とか)は、そこはかとない自慢話か、あまり面白くない日常とかが綴られていることが多々ある。
けれどそこをクリアーしているのは、彼の自然体であり、彼の難しくはないクリアーな哲学であり、そして彼が一度死線をさまよった経験もあるのだろう。でもその死線をさまよった経験ですら、さらっと語られていくのが素敵だ。


孤独な内にこもる執筆と作曲作業、そして逆に外に弾けるコンサートとかドラマ出演。
このハレとケを自分の中でこなしているのが星野源なのだろう。
自分が一人であるというのを常に自覚している男。
そして、人との付き合いに失敗した小さい頃のことを分析できる男。
この中のROOMというエッセイも一人の時のエッセイだけれど、ホテルからの東京の夜景に始まって、想像力がどんどん広がっていく無邪気なそして無邪気であるがゆえに深い洞察が光る。
2017.05.17 ifの悲劇



評価 4.9

仰天した。心底仰天した。
これが、『絶対にだまされる!』の大きな文字の帯がついているけれど、本当に騙された・・・ああ・・してやられた・・・
読み返し必至の作品だった。
しかも帯には続いて
『殺人を犯した男の人生が、ふたつに分岐していく。
驚天動地のパラレルワールドミステリ!』
という惹句もある。
そうなのだ、この話、パラレルワールドの話で、一つの話は
「犯行直後に目撃者を殺した場合」であり
もう一つは
「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」
というA面とB面に分かれている。

最初のプロローグでそこのところは作者おぼしき人が出版社の編集者とのんびりとこのパラレルワールドミステリについて語る、という部分が、実話のように書かれている。
そして始まった話・・・
これがまたえぐい。
なぜなら近親相姦や(同性愛(こちらはたいしたことがないが)を扱っているから。
しかもご丁寧なことに、主人公が妹とその禁忌を犯す、だけではなく、別の個所にもある人がそういうことで生まれた、という二つの近親相姦なのだ。

小説家の加納。
愛する(この愛は妹への愛を超えて男女の愛でもある)妹の自殺に疑問を感じて調べていた。
そのうちに、妹の婚約者奥津の浮気が原因だということに激怒する。
そして奥津を呼び出して殺害、ところが偽装工作をして帰る途中で、加納の運転する車の目の前に男性が飛び出してきて・・・


ここからなのだ。
Aは、その男性をひき殺してしまった場合。
Bは、その男性をひかずに済んだ場合。
これを読んでいくと、Aのひき殺した方が、その死体の処理は面倒なものの、あとからとても楽な感じが漂ってくる。
一方Bの方は、ここに殺人犯の加納がいてはまずいのにそれを目撃した面倒な人物が徘徊することになってこちらはかなりかなり面倒なことに巻き込まれていく。

この話の中で、妹の彩が意外に男にだらしない女だということも判明して、兄の加納は衝撃を受けたりする部分も面白い。
誰でもオッケーな女、都合の良い女、が妹だと知って衝撃ではあるのだが、加納自身が禁忌を犯して妹と結ばれているのでそこを責めるわけにはいかない。
加えて妹の婚約者の奥津にも深い事情があるというのが深くわかってくるのだった。

そしてラスト、Bが終わった。
私はここで、(ああ・・えぐい話の割には単純に終わったのね・・・)と思ったら、エピローグの衝撃が待っていて・・・
ただ。
この真相は、非常によく出来てはいるものの、同時に細部がとてもわかりにくい。
あ!そうだったのか!と思っても、もう一度照らし合わせるぐらいのことをしないと頭の中が混沌としてくる。
だからさくっとはわからない真相なのだ(表面上はさくっとわかるのだが、細かいところが、え?となる)
ちょこちょこ違和感を感じていて、更に、最後の方のB部分でたくさんの傍点が文字についている。
ここで、え?と思ったりしていたのだが・・・

以下ネタバレ
・A面
30年前の1986年に近親相姦を兄としていた加納彩は飛び降り自殺してしまう。
彼女の当時の婚約者が奥津行彦。
奥津は養子縁組で奥津家に入ったのだった。
奥津もまた近親相姦で生まれた男であった(実母の名前はリン)
奥津には婚約直前に付き合っていた琴奈という女性がいた。
琴奈の両親が『奥津が近親相姦で生まれた』というのを知り破談にさせた。
そして琴奈に屋上から突き落とされ殺された加納彩。    ★琴奈→加納彩を殺す
(この殺しを奥津は実母リンが訪ねてきたときに告白する)

加納彩の小説家の兄加納は、奥津を殺してしまう、妹を殺した人間だと思って。★兄→奥津を殺す
しかし夕張のアパートから網走に戻る途中で、猪澤(奥津の脅迫者で、彩のファン)を轢き殺してしまう。★兄→猪澤を轢き殺す
(のちに、この猪澤が奥津行彦を殺した殺人犯と警察に誤認され、それがもとで猪澤の父親が登場することになる)
ばれずに逮捕されずに兄は桃子という女性と結婚する。
二人の間にできた女の子に彩という名前を付ける。

・B面
1.琴奈は、彩を殺害したので逮捕された。
その時に奥津の子供を産んでその時に死亡、生れたのは双子。
兄卓也は琴奈の実家に引き取られ、弟進也は奥津の家(ここは実際には血がつながっていない孫)に引き取られる(どちらも孫にあたる。琴奈も奥津もこの時点でいないのだが)
この時点で、奥津進也が生まれることになる。
これを奥津行彦の生みの親リン(つまり双子の本当の祖母の一人)は把握している。

2.卓也はこのあと、もてあまされ養子に出されてしまう。
そしてぐれた道に入った卓也は、自分が殺人の被害者の父親(奥津)と、犯罪者の母親(琴奈)の間に生まれたことを知る。
そしてリンと卓也は親密になった。
リンは奥津が加納兄に殺されたことを卓也に告げ、復讐を決意させる。

3.卓也は加納兄を破滅させるために加納の娘の『彩』に接触する。
そして彩と結婚。婿養子になり、加納卓也になる。
そして加納兄の小説の営業サポートをする。

4.2016年になっても復讐が始まらないので
リン(奥津の実母)が業を煮やして、今度は弟の進也に接触する。
(進也は同性愛者で当時付き合っていた人が鈴木太郎だった)
そして卓也は進也を殺してしまう。 
更に本来の目的である、自分の父親を殺した加納兄を殺す。

 ★加納卓也→ 進也を殺す 鈴木太郎は自死するが死体を解体、加納兄(義理の父)を殺す
(30年前の父のトリックと同じの車トリックを最初の方で使う。)


・・・・・・・・・・・・・・・
AとBと二つの面でパラレルワールドと思って読んでいるのだが、最後になってこれがパラレルワールドではなく、
きわめて似た状況の時制が違う話、である、ということがわかる。
時制トリック、名前トリック、双子トリックがトリプルで仕掛けられている。

・まず時制。
途中の奥津の部屋には床下収納がない、とか(Aであったはず・・・と違和感)
二人組の刑事の一人和泉が若かった方のはずなのに中年、とか(Aでそうであったはず・・・と違和感)
キーになる夕張のバーMの雰囲気が変わっているとか(Aでは若い人たちがたむろしていた場所のはず・・・と違和感)

があるように、AとBには30年の時が流れている。

・人の名前
ここがややこしいが、上にも書いたように
・加納は二人。
加納豪(作家で筆名は花田欽也)がA面
加納卓也(変遷を経た後、上の作家の娘彩と結婚して婿になり加納姓に)がB面

・奥津も二人。
奥津行彦がA面の奥津(近親相姦で生まれた男で、加納豪の妹の彩と婚約していた男)
奥津進也がB面の奥津(上の奥津が婚約前に付き合っていた女性琴奈が生んだ双子の片割れ)

・双子トリックについては
卓也は車内に残ったDNAが一卵性双生児は同じ、
Nシステムも顔が同じだから通り抜けられる、と思って犯罪に使おうとしたが、進也の指紋が消えてしまった。

何度も顔を見た、とか
同性愛の進也の相手の鈴木太郎から思いを寄せられたりとか(顔が同じなので)
そこここに双子の伏線がある。
また、A面の最後の方(192ページ)で、はっきりと琴奈が子供が生まれる前で男の双子と記載されている。だから双子トリックはアンフェアではない。



評価 4.6

面白く読んだ。
私のスタンスとして、村上春樹の新刊が出れば初期から必ず読んでいて春樹ファンではあるけれど、作品によってすごく好きな作品と普通な作品とに分かれている、という感じだ。
だから根本的には読むのが大好きな作家だけれど、熱狂的かと聞かれるとそうなのだろうか?なんでもかんでもいいんだろうか?という自問自答も残る。

こうして面白おかしく書かれること、話し合っていくこと、ある意味おちょくっていくこと、に嫌悪を抱く人もいるだろう、特に生真面目な人に、熱狂的な村上ファンに。
またこういうくすぐりや突っ込みが面白くてたまらない、という人もいるだろう。
これまた私はこの本の中で、面白い部分もある、けれどここはどうなの?という部分もある、という印象も残った。

・・・・・
どういう観点で読んでいくのかなあというのがまずあった。
数々の思いがまたよぎる。

これって、まず騎士団長殺しを読んでいない人が読んだら、どうなのだろう?
あらすじにばしばし触れていって、そこから本を読みたくなるっていいことなのだろうか?
出版界にとってはいいことなのだろうけれども、確実に。
もしこの本を読まずに村上春樹作品にも一生触れなかったわ、だったらまだしも触れるきっかけになったからいいのだろうか?
あと、1Q84などにも言及しているのでそれも読んでなかったらどうなのだろう?

これを読んで読みたい!と思うことは素晴らしいことだとは思うものの、話に触れているので、ゼロの状態で話に向かうことは出来なくなるだろう。
きっとこのおちょくり方を頭の中に入れながら、突っ込みながら読んでいくことになるのだろうか?
人の本を読むスタイル、にもよるのだろうけれど。
少なくとも自分は読んでからこの本を手に取ってよかった、と思ったものだった。

・・・・
内容だけれど、理不尽ではない、と思った。
突っ込んでいるところはいちいちごもっとも!でもある。
ごもっとも、ではあるけれど、説明しすぎと言われてもそれがこの人の持ち味でそこがいいところなんだけれどなあ・・・と思う部分もある。
似たようなキャラクターモチーフが出てくることに対して、いろいろ言っている人がいるけれど(この本ではなくても)、それもまた大森望さんが明快な答えを出していて、ここは、膝を打つくらいに、ごもっとも!と思ったものだった(50ページ)

個人的に思ったのは、作品の内容とか表現がどうこう、矛盾点がどうこう、という前に、その作品が好きかどうかという単純な読み手の思いも、大きくこういう話し合いに関係してくるんだなあということだった。
たとえ表現が稚拙な作品であっても多少の矛盾があっても、好きな人が書いた好きな作品だったら無条件に受け入れてしまう、読書ってそういうところがある。
また好きじゃない作者でも、作品自体が今一つでも矛盾だらけでも、その時の自分の状況によって、ばしっと受容してしまうところがある、読書ってエモーショナルなものだから。
物語ってそもそも虚構なのだから、受け入れる姿勢ができるかどうかというのはひたすらその作品の質とかもそうだが、作品もしくは著者に対する愛情みたいなものもある。
そのあたりの自分の立ち位置が非常に難しいなあと思った次第だ。

騎士団長殺しの時系列表は私も読んでいる最中に軽く作ったけれど、ここできちんと作ってあるのでその部分は面白く読んだ。

・・・・
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年も触れられているが、ここは私も、(そうなの!)と思うところがとても多かった。
最初の謎(なぜ多崎がはじかれたか、仲良しグループに)が、解き明かされても、(なんで!!)という思いが強かったからだ。

というようにいろいろな思いを掻き立ててくれた一冊。
現役の作家だからこそ、そしてファンだからこそ(ゆるいファンとはいえ)こういう様々な思いが様々に錯綜するのだけれど、これが没何年という作家に対してだったら、きっと大爆笑に次ぐ大爆笑で終わったような気もする。
2017.05.06 運命の絵



評価 5

相変わらずこのシリーズ、とても面白い。
前の本でも書いたと思うけれど、一つの絵について語っているだけではなく、そこから他の本や歴史などに波及していくその語り口が思わず惹きつけられるのだ。
今回はテーマが運命。

この中でなんといっても印象的なのは、左目のないブローネルの自画像の話だった。
美男子で知られるブローネルがなぜか左目が溶けているような破損している目を描いた自画像。
その数年後に、喧嘩のとばっちりで本当に眼をなくしてしまう、しかも左目を。
これが運命でなく何であろう。
もしこれが、自分で傷つけてしまった(無意識にせよ意識的にせよ)だったら、まだ何か話が成り立つが、話を読んでいる限りは、ただのとばっちりだから余計に怖い。

ムンクの叫びは有名だが4枚あって、その中の2枚が別々の盗難にあうという運命をたどっているのは知らなかった。

ロミオとジュリエットの話から、教皇派と皇帝派の話に至り、そこから表紙のパオロとフランチェスカの話にたどり着く語りもお見事だ。しかもここにはダンテの神曲についての言及もとてもわかりやすく書かれている。

ホガースの連作の当世風結婚も読み解いていく感じが面白かった。
連作、なので最初の方から見ていくと徐々に状況が変わっていくさまが見て取れる。
2017.04.26 スレーテッド




評価 4.8

楽しい、ただただ読んでいてページをめくる手が止まらないほど楽しい。
最後の解説で大森望さんが、これと同じタイプの小説をずらずら出してくれている。
それを見ながら
(どれだけ自分はこの設定が好きなのか!)
ということに気づいた。
この設定とは、

「ある時に目覚めたら、自分が記憶を消されて別の自分になっている」
設定だ。
しかもこれは、16歳の少女カイラだからさらに不安感が増してたまらない。
少女なので自立できずに、よくわからない家庭に引き取られ、そこにもうすでにいる同じ立場の黒人の女の子といきなり姉妹になる。
父親と母親がいて、これは疑似家族になるわけだけれど、母親が微妙に冷たい(と最初見える)
そして学校に通い始めると、そこには同じようにスレーテッド(過去を清算された)された人たちがいてそこはかとなく差別されている。
犯罪者だったと言われている、スレーテッド。
じゃあ自分は何をしたのか、人殺しなのか、それとも暴力事件か・・・

・なぜ記憶を消されたのか
・フラッシュバックのように思い出される場面とは何か
・なぜカイラだけがこの記憶を保ち続けられているのか
そんな謎が最初の方から爆発している。
簡単な言葉でいえば、誰が味方か誰が敵かということすら見分けがつかない。
誰に本当のことを言ったらいいのかというのがカイラには見えてこない(ここもどきどきする)

だんだんわかってきたことは、
スレーテッドは、記憶と性格を変えて入院生活を経て普通の生活に戻された人間、
ということなのだ。

唯一、学校で出会ったボーイフレンドであり理解者の同じスレーテッドされたベンが頼りになっている。
でも嫌がらせはスレーテッドではない普通の女の子から受けていて、辛い思いをするカイラだけれど、ある日この女の子自体が学校から消え去る。
理解者であった絵画の先生も連れ去られる。
皆ローダーズと名乗る見張りに連れていかれるのだ。
ローダーズとは?
消え去る理由とは?
消え去ってからのちにどうなるのか?


手首にスレーテッドがレボと言われる輪をつけられているのも泣ける。
だから普通の人間か、矯正されたスレーテッドかは一目瞭然なのだ。この輪、のせいで、常に幸福かどうかをチェックされていて、もし幸福度が下がると失神してしまうのだ。(10段階評価になっていて3以下は失神)

カイラが特殊なのは怒りのコントロールができないと、レボの数字が逆に上がってよいことになっていくのだ。
いったいこれは?
フラッシュバックで見る煉瓦を積み上げる作業とは?
カイラがスレーテッドされたのにまだ左利きを覚えているのはなぜ?

謎がまだ謎であり、次巻に続くらしい。
この世界いったいどうなっているのだろう?

ここまでのネタバレ
・ママ、は最初の印象と違って意外にもいい人側?
どちらかというと、パパが怪しい。

・カイラはルーシーという女の子だったらしい。
ルーシーは行方不明者としてネットに出ていた。

・カイラをいじめていたはずの普通の人間はとらえられ、スレーテッドされた。