2017.09.10 Y駅発深夜バス


評価 4.5

Y駅発深夜バス・猫矢来・ミッシング・リング・九人病・特急富士の5編が入っている短編集だ。

この中で、表題作のY駅発深夜バスが飛びぬけて素晴らしい。
アンソロジーにもとられていたようだが、私は読むのがこれが初めてなので、読めてよかった!と思った作品だった。
深夜バスに乗る男の気持ちに沿って、何とも魅力的な謎の提示で始まっている。
何やら、怪しい気配のバス、もしこのまま普通に読んでいたら、(もしかして怪談?)と思わせてくれるような不気味なバスだ。何しろ、必死の思いで乗ったバスは、車掌は無口だし、運転手は目深に帽子をかぶってあさっての方向を向いているのだ。
しかも乗っている乗客全員が黙ったままだ。

更にこの話が最大限に面白いところは休憩のために、パーキングエリアに止まる。
その時に、トイレに急いでいった主人公が見たものは、『灯りを消していた店舗』であり、その中をのぞくと全員が同じ方向をじいっと見ていた・・・』というまさにホラーの様相が呈されている。
これってキングのホラー作品のあれこれを思い出す場面だ。
いったいこれは何だ?
主人公とともに私もここでは戦慄した。

帰宅しても妻から、帰宅した時刻が自分が思っていた時刻と違っていたと言われる。
しかも土日は自分が載ったと思った便がなかったという事実・・・
一体あのバスは何だったのだ?
酔った自分の記憶違いだったのか。
夢だったのか。
(かなり酔っぱらっていた主人公で、しかも深夜という設定がまた記憶の曖昧さを助長している)

と思う間もなく、今度は同じマンションで起こった仲の良い夫婦の悲劇の話に移行する。
そして・・・謎解きをする人物が・・・

この話、起承転結がとてもうまい具合に働いていて、謎がぺろっとめくれる謎解きが素晴らしかった。

・・・・
九人病も一種のホラーミステリのように見える。
見えていたのだが、ラストの方で、ミステリ?と思ったそのあとで、また一枚違ったカードが切られる。
そこがすごいと思った。
冒頭の全く関係なさそうな刑事が重要な位置を占めている作品ともいえよう。
偶然鄙びた温泉宿で同室になった男とのやり取りが、これは乱歩の世界を体現しているようで不気味だ。

語りの面白さ、というのが存分に発揮されている。

・・・
猫矢来は、なぜ新品のペットボトルを隣人は塀の上に置いたのか、という謎が中心になっている。
この話、学校内部の話が中心で、主人公たちにも好感が持てるので、シリーズ化したら楽しいだろうなあ・・・と思った。

以下ネタバレ

・Y駅発深夜バスでは
最大の謎、パーキングエリアで灯りの消えた休憩所で人々が同じ方向を向いていた、のは、
全員がしし座流星群を見ようとする集まり、だった。
深夜バスを運転していたのは、マンションの知り合いだった。
しかもそれは深夜バスではなく、夜行バスだった。

家族ぐるみで交際していたマンションの知り合いのある一家の夫と、主人公の妻はダブル不倫をしていた。
そして、主人公の妻は、相手の妻をマンションベランダから落とした。
最後にわかるが、主人公の妻は不倫の果てで彼の子供を妊娠していたのでこの蛮行に及んだのが一番大きな理由だろう。

2017.08.26 大雪


評価 5

これまた小さい頃の愛読本。
ウルスリのすずを目にした方が早いという記憶なので、あまりに気に入っている私を見て両親が買ってくれたのだろうか?(これまた記憶では本が小さかったような記憶が・・・)

こちらはお兄さんになったウルスリ君。
フルリーナが妹でお兄さんのそりにつける毛糸を手に入れようとする。
ところがフルリーナが大雪に埋もれてしまい・・・

これは大雪が主体であるので、大雪場面がすさまじく、そしてその対比で明るい場面(特にラスト)が美しさが際立つ。
カラフルな絵本であり、ウルスリのフルリーナへの家族愛が滲み出ている一冊だと思う。
23ページの誇らしげな二人の姿が大好き!



評価 5

小さい頃の愛読本(判型がもう少し小さかったような気がするが・・・)だ。
絵が好きで好きでずうっと眺めていた。
この二人(絵と文)に興味が出て読み返しているところだ。

ウルスリのすず、はすずが日本の鈴とはだいぶ違う。
牛の首につける鈴、これはスイスの鈴、だ。
そして形状も違ってここが異国情緒たっぷりのように子供のころには思ったものだ。
外にパッと開いていないで内にこもっているような形の鍵のようにも見える鈴。
これが大きいのやら小さいのやらたくさんあるのだが、小さなウルスリが大きな鈴をもってパレードの先頭を歩きたい!!という気持ちだけで、山小屋まで冒険しそこで眠ってしまって・・・という展開が子供らしくて微笑ましい。
そして今読むと、それを死ぬほど心配している両親の姿もまた胸を打つ。
自然描写も素晴らしく、雪、とか、山小屋、とか、橋、とか、見ているだけで楽しい。

最後、大きな鈴、をもって得意げに歩くウルスリの姿が可愛らしくも眩しい。
2017.07.29 AX


「蟷螂の斧って言葉を知ってるか」


評価 5

伊坂ワールドが広がっていて満喫した。
小気味よい会話の妙があり、適切な比喩がある。
しかも今回は、「強い妻への考察」というのがあり、どうやったら家庭生活を円満に送るかというノウハウがうじゃうじゃ詰まっていて、それがまた適切なので大爆笑させてくれる、とというおまけつきだ。
細部のちょっとしたこと、がつながっていって、ある一つの出来事にまとまる爽快感がある、読んでいて。
小さなことでこれはなんだろう?と思っていると必ず後で回収がある。
ちょっとした色々なことへのくすぐりもまた楽しい。

過去作品、にもところどころで言及していて、そこもまたファンは(ああ・・・あのことね・・・)と楽しめる。
でも、グラスホッパー、マリアビートル、の一連の殺し屋シリーズではあるけれど全くこれ単体でも楽しめる作品でもある。

今回のテーマは『恐妻』だ。
もうこれが各所で笑えて笑えて!
本当は『最強の殺し屋』なのに強烈な恐妻家で常に動向をうかがっている、というところでぐふぐふ笑えるのだった。
なんせ、夜中に帰った時に、音がしてはいけないので魚肉ソーセージが必須というくらいに気を使っている夫なのだから。

本当は最強の殺し屋
仮の姿が文房具会社の営業マン
そして仮の姿が良き夫であり、良き父である。

と思っていたら、最後の方で、(もしかして違うのではないか)と思った。

本当は良き夫で良き父であり
仮の姿が最強の殺し屋で
更に仮の姿が文房具会社の営業マン。
こうなのではないか。
なんていい父なんだろう、たとえ人殺しでも。
なんていい夫なんだろう、たとえ残忍な人殺しでも。
最後まで読んでみて、つくづくそう思ったのであった。

・・・・
業界で、兜と言われる超一流の殺し屋がいる。
彼は、医者の所に行き指示を仰ぐ。
この医者は医者という名目でカルテの中に指示書を隠し、指示を病気の説明のごとく悪性腫瘍などの言葉に置き換えて指示を出している。
しかし兜は長年この仕事をしていて引退したいと願っている、愛する一人息子克巳と、愛する家庭のために。
引退には費用が必要だと医者に言われ、仕方なく仕事を続けているのだった。


兜の最初の話の殺しも、ぐいぐい読ませる。
なぜなら、息子の話、奥さんの話、が何気ないだけにこれが関係しているというのが読む側に最後の方でわかるという仕掛けになっているからだ。

息子の話
・この頃、学校に来た美人教師がいる。
彼女は学校の他の男性熱血教師と不倫しているらしい。
それが噂になっている。

奥さんの話
・この頃ご近所で突然二軒引っ越していった人がいた。

この二つを一つにまとめていくとは!
息子の通っていた高校をヘリポート代わりに使う計画。
女性教師はそれの片棒を担いでいた。
男性熱血教師はその行動を見とがめ、抹殺されたのではないか。
そして爆弾犯を兜は殺す。
女性教師は潜入した女。


息子の克巳君も本当にいい子どもだ。
高校生になってもこんなに両親と話をする、という時点でいい子だし、家庭のことをじいっと見ていて、父親の苦労(主に母親に対しての遠慮)も見抜いてちゃんと適切に声をかける。
そしてその声のかけ方に、兜は、ぐっときて息子を抱きしめたくなるほどなのだ。
奥さんはじゃあ勝手な奴かというとこれもそうではなく、ごくごく一般的な夫を疑わない(まさか殺人犯だとは思ってない)普通の愚痴をこぼし普通以上に一人息子に心を砕く、母親なのだ。

次のBeeでは、庭に巣を作ってしまったスズメバチの巣の退治の話と言ってしまえばそれまでだ。
けれど、それをやらないでねと何度も念を押されたのに、完全防備で宇宙人のような格好でやってしまう兜の姿が笑える。
しかも笑った挙句に、最後転がってしまうというのが後で繋がってくる妙がある。
最初に息子の話で飼っていた猫が死んでしまって動揺した母親が心無い言葉を小さな息子にかけた、というエピソードが語られる。
全くこの話関係なさそうだが、最後転がっている兜を宇宙人に見立てきっちり回収している。
また、この物語で出てくる「敵」は、毒を刺すというのを得意技にしているようなので、これもまたハチへの防御と同時に殺人犯への防御にもなっている。


次のCrayonでは、友達がいなかった兜がボルダリングスポーツを通じて、同じように妻を警戒している男松田と偶然友達になる。
恐妻家としておおいにおおいに話は盛り上がる、久々に兜が心を開ける人間ができた・・・
しかもこの人の娘が息子の同級生だったという偶然も加わり、がぜん親近感がわく二人・・・
そしてこの二人が飲みに行った時に思わぬ事件に巻き込まれ・・・
この話の中で、松田が語っていた「子供がクレヨンで描いた絵」というのがあとから兜の所でも出てきて、最後の話に繋がる。

男たちに絡まれ、偶発的に自分の鬱屈も出て相手を倒してしまい、打ちどころが悪くて死なせてしまった兜の友達松田。
兜と二人で初めての身に行った時の出来事だが、これを兜はお得意の自分の組織を使って消し去ろう、と画策する。
松田を助けようとしたのだ。
そして死体はなくなり、消し去られたが、同時に松田一家は引っ越していった・・・離婚したらしい・・・(というのを「息子の同級生の話」として語られるのが秀逸)


またボルダリングのホールド(出っ張っているところ)に掴んでいるときの気持ちを二人で話し合うところも読ませる。
必死につかんでいる二人。
落ちないようにつかんでいる二人。
それはとりもなおさず、家庭を作っている二人の気持ちでもあった。
更に、ここに兜の妻から久々に会った息子の同級生のお母さん友達との印象深い会話が加わる。
それは、
4人で話していた時に、一人のご主人が亡くなった、事故で、
というのを全員が知っていて話していた。
そこでご主人が亡くなった人へ一人の女性が慰めるようなことを言ったら
「事故で夫を亡くした人間の気持ちなんてわからないくせに」
と怒られ黙ったという話だ。
一面から見るとこの話、悪気がなかった人の無防備な話、なのだが、
このあとで息子の克巳が同級生のお母さんなので事情を知っていて、
言った当人も、事故で自分の娘と夫を数年前に亡くしていた
ということを知る。

Exitは動の話。
あるビルの警備員と万引き少年を同時に目撃した兜が知り合いになる。
そして警備員奈野村に、夜中に自分の息子を連れて警備をしたい、それは息子の要望なのだ、という話をされる・・・・

この物語、途中まで結局この二人の話し合いがどうなったかわからない。
いきなり、数人の子供たちと奈野村の子供が話しているところに、兜が遭遇する、そのあと更に数人の子供たちを追い詰めているときに別の死体に遭遇するという話に転がっているからだ。
まさに動。
そして・・・・

兜は奈野村と友達になれるのかとも思っている。
けれど、実は奈野村も組織をやめたい兜と同じ側の人間であった。
最後死闘が繰り広げられる、二人の間で。
縦軸と横軸のクロスワードだけではない、とあとで呟くように、このデパート内で何が起きていたのかと複雑な事件を自問自答するのだった。



この物語の中で、古山高麗雄の戦争の名話がとても巧く引用されている。
友人と知人との違いについて述べよ、とか、捕虜を温めてあげることが必ずしも捕虜にためにならなかったとか。
そしてこの話をしながら、兜は前日のミッションで、
・いきなりボウガンが部屋の中から飛んできたのをよけた話

・バス停で待っていた数人の高齢者とのバトル
を思い出すのだった。

そしてラストのFINE。
この前の話の最後で、既に兜は死ぬということが記載されている。
そしてFINEでは既にあの高校生だった克巳が大人になっていて結婚して子供もいて、「自殺した」兜とそのあと少し精神の状態が悪くなった今も存命の奥さんの姿、などが描かれている。
一体、兜に何が起こったのだろうか。

途中で兜の視点もまた描かれる。そこで彼が飛び降りる経緯が書かれている、克明に。

兜の残したものを納戸で克巳が開いた時に泣けた。
そこには
・クレヨンで描いた克巳のお絵かき(おとうさん、がんがってくれてありがとう)の絵。(これが松田の話に繋がる。松田の娘も全く同じような絵を彼に送っていて松田はそれを心の支えにしていた。それは兜も同じことだった。)
・大学ノート3冊(フローチャートで、奥さんがこう話せばどう返すか、のやり取り。笑える)
・キッズパーク開園!のチラシ(ここでは意味が分からないのだが、この章をラストまで読んだら超絶に泣ける話)
・どこのものだかわからない鍵一つ。

克巳は本来のお父さんの職業を知らないので、暗中模索で探っていく。
まずは、鍵からなのだが、杳としてつかめない。
そして、あの指示を出す「医師」にたどり着いてしまうのだった。
ここで、読み手側は、(危ない・・・克巳君・・・・)とはらはらする、医師は悪者であるのだから、お父さんを殺した多分張本人であるのだから。
けれど、無防備な克巳は医師に近づいていく。
そしてひょんなことから、鍵の場所を発見するのだった、それはあるマンションのカギだった。うるさい管理人のいるマンションの鍵。
うるさい管理人が、「ここは親族は入っちゃいけない」と絶対に入れてくれない。
押し問答をしているうちに医師がやってきて
自分は親族じゃないからと無理矢理入るとボウガンが飛んできて死亡。
ここは前の章のEXITで、兜が実際に出会った部屋の話を模倣している、けれど「うるさい管理人」を擁することによって、自分の家族の安全は守りたかったのだった。
ここで、兜の章で、「マンションを探している時に、管理がしっかりしているところ」と指定した意味が分かる。
そして何度も管理人と話してこれこそ自分の求めていた管理人だ、そして体も丈夫そうだし死なないだろうという目星を付けるのだった、(その直前から、引退したいと言っていた兜は執拗に命を狙われる)


最後まで、克巳は兜の本当の職業を知らなかった。
そして近くのクリーニング店の店主は、奈野村であり、自分と息子を助けるために兜は死んだと言うのだった>と言われても克巳は何のことだかわからないのだが。

ラスト。
兜の遠い過去で、結婚する前の妻と出会った時のことが語られる。
ここで、チラシ配りをしていた妻(納戸で息子の克巳が見つけたキッズパーク開園チラシはこの時の物)と出会う。

このラストでとても泣ける。
ここから全てが始まっていくのだ。

2017.07.26 怒り



評価 4.9

面白く読んでいた。
読み始めたら止まらなくて、あっという間に上巻が終わり下巻に突入・・・
何しろ、
・事件の全容が全くつかめない
というのがある。
だれが何のためにやった犯罪なのかというのが全くつかめない。
しかも
・ポーランドの地方都市オルシュティンの防空壕で見つかった白骨の男が10日前には生きていて、なんでじゃあこんな短期間に白骨になったのはどうしてか
という謎もある。
更に更に調べていくと
・この白骨部分が全て同じ人の骨ではない
という驚き部分もある。

また途中途中入る、一見良い家庭に見えているのだが、なぜか夫に怯える女性の出来事はこれにどうかかわっているのだろうかという興味もある。
この夫が全ての犯人なのだろうか。
それとも全く別のアプローチがあるのだろうか。
という興味も尽きない。

また登場人物も多彩で、フランケンシュタイン博士(!)という名前遊びの博士が実際に出てきてこれも遊び心をくすぐる。
双生児のような感じすら漂う、いや親子のような様子すら漂う、シャツキに雰囲気の似ている見習い検察官エドモンド・ファルクの「論理的に物事を考える姿勢」「論理的選択をする」というのもやや硬直した姿勢だなあと思いつつ読ませる。
検察官シャツキその人のとっつきにくさもまた読ませるし、彼の新しいパートナーゼニアが彼の心のよりどころになっている感じもとても伝わってきた。

だが・・・・
途中からやや失速したような気がした、どのあたりからかというと、
検察官シャツキ本人に話が降りかかってきたあたりからだ。
なんだか、ここからが惜しい、もうひとひねりふたひねりが欲しい。
そしてラスト、これでいいのか。
ここでもう一つ仕掛けなくていいのか。

ラストまで読んでプロローグを読むと、ああ!!と納得する。
また冒頭の方にある家族についての高校でのシャツキの講演会もまた最後になってから読むと、感慨深い。

・・・・・

作者がルメートルを愛読しているらしく(文章中でも登場人物がルメートルの本を読んでいる描写もある)、ポーランドのルメートルらしい。
が、インパクトがちょっと弱くないか、特に後半戦で。
もっとつるべ打ちのようにがんがんいく最後の方の展開が欲しかった。

あとこれが最終巻らしいので、ずうっと読んできた人たちとその思いの違いもあるかもしれない。
ここで、検察官シャツキに私たちは初めて出会い、彼の家庭状況を初めて知って、彼の愛情の振り分け方のようなものも知っていく。
高校生の娘と衝突しまくっていて、新しいパートナーと娘という二人の女性に困惑している人間らしいシャツキの姿というのを、初めて触れる私にとっては、この前がどういう結婚だったのか、どういう展開でこのようになったのかというのを知りたい気もした。

新米刑事のヨハネ・パウロ・ビェルト(この名前もすごい!作中でも言及されているが)が、263ページから268ページの交通巡査の時に悲惨な理不尽な事故を見てきた記憶、という部分、とてもとても読ませるのだ、神への懐疑とともに。
だけどこれで終わりか、これが何かにもっと繋がっていかないのか、と惜しい気がした。

ラスト、思いもかけない展開だったが・・・
過去の総ての引き金になったある家の火事の場面が忘れられない。

以下ネタバレ
・シャツキの娘が誘拐され、彼女が排水管洗浄剤で溶かされる危険が出てきた。
今までの人は、それをされていた。もしくは虐待を受け、耳を損傷したり、片手をなくしたりしていた。
それは、家族を虐待してきた人間への制裁、だったのだ。

・このシャツキの娘を誘拐した首謀者は
かつてシャツキが講演をしてそこで知り合った高校生ヴィクトリアだった。
(そして彼女にはチームがいた。)
彼女は、シャツキの娘ヘレナを密室に閉じ込め排水管洗浄剤で溶かして埋めるという映像を、シャツキを呼び寄せ見せていた。
逆上したシャツキは、犯人のヴィクトリアを殺害。
(ここで検察官シャツキは、殺人犯シャツキになった)
ところが、ヘレナに入れられていたのは、発泡スチロール剤で彼女は死ななかったのだった。
(この部分、比較的想像がつく、読んでいる側としては)

・最後の打撃。
ファルクが仲間で、全てを把握していた。
殺人を犯したシャツキに、警察に自首する代わりに自分たちの仲間になってくれという。
リーダーを望んでいたのだ(だからまだ犯人ほう助する人たちはいた)

・暴力を防ぎたければ間違ったやり方はするな。
これが高校の講演会で(犯人ヴィクトリアも聞いている)シャツキが最後に語った言葉だった。

・私がわからなかったこと。
ファルク見習い検察官がお父さんと食事をする場面がある。
ここで、お父さんはファルクの身を案じているし、こういう自分とは違った人間に育ったファルクを見守っている父、言っても聞かない息子を持った無力な父に見える。
(自分は温かい家庭を作れなかったと後悔はしているものの)
が。
ファルクがこういう活動(事前に家庭内暴力の人間に制裁を加える、または事後に家庭内暴力人間を抹殺する)に至ったのには、自らの家庭事情があったのだろうか?
このお父さんは暴力のお父さんだったのだろうか?


評価 5

ヒラリー・ウォーの傑作『失踪当時の服装は』を書かせた原点になった(この本を読んで驚き、実話ではなく物語で書こうとした)犯罪実話集、ということで大いに興味を持って読んだ。
とてもとても面白い一冊だった。
英米の10事件に関する捜査記録をまとめたアンソロジーだ。
事実の話、で事件であるけれど、女性が犠牲になった10の事件が描かれている。
しかしこの事件の読み応えのあることと言ったらどうだろう。
これが、虚構ではなく、事実である、ということが叩きのめされた気がする。
しかもこの語り口、実に平坦に見事に描かれつくしているのだ。

被害者がいて加害者がいて、
その間にもつれがあって、
それぞれに家族がいたりすることもあって、
別の容疑者が浮かび上がってくることもあって、
ある人間は隠そうともせず、ある人間は巧妙に隠そうとして
そしてそれを暴く刑事たちの真摯な姿がある。
ここを非常に淡々と描いているのだ、エモーショナルな書き方の対極を行くようだ。

<以下内容に触れます>

冒頭のボルジアの花嫁、で既に衝撃を受けた。
この話、最後に犯人が捕まって死刑になるところは書いているが、犯人側の主張などがほぼ書かれていない。
それなのにこれだけのインパクトがあるのは、
「お嬢さん花嫁学校」と知られている学校で一人のフィアンセのいる女性が毒殺された。
果たして犯人は、

というところから始まるのだが、実は
・この女性が既婚であった(驚きその1)
・しかも女性は偽名を使って男と結婚していた(驚きその2)
・秘密結婚であった(驚きその3)
というのが友達の証言からわかってくる。
更に
・この花婿の意外な正体(驚きその4)
・隠ぺい工作(驚きその5)

というように畳みかけるように驚きが連打していく。
あまりに作り込まれていて本当の事件か?と思うほどだ。
しかも。
殺された女性の側のお母さんの感じは、非常に厳しそうではあるけれど真実の娘のことをあまり知らない、知らなくていいといった節もある。
このあたり小説だったらじわじわと描いたのだろうが、もうここはさらっと流している、こちらは想像するのみだ。

・・・・
青髭との駆け落ちは、話の行く末もドキドキすることこの上ないのだが、なぜこれが発覚したかというのが、「野球少年のボールがある家に入ってしまって、そこで暖炉で焼けている人間の頭部を見た」という強烈な冒頭部分で始まるところも見逃せない。
もしこの少年がいなかったら(少年にとってはトラウマになるだろうから迷惑な話でもあるけれど)、このバンガローでのことは見つかったとしても時間がかかっただろう。犯人はどんなにか驚いたことだろう。

・・・・
サラ・ブリマー事件も面白い。
あるお屋敷で美人家庭教師が殺された、主人夫婦がいなかった時に。
しかも4人の使用人たちが近くで眠っていたという事実。
主人の子どものみ残されていたけれど、何もなかったという事実。
この中で、警察は本当に小さな出来事、「すす」から犯人を割り出すのだった。
別の犯人オーハシになりそうだったが(日本人?)、火かき棒を使った、被害者の顔にすすがついているのは、という嘘と、なんとなく薄汚れて見えた(顔をすすで偽装していたためあとで落としたが落としきれなかった汚い顔の犯人)人間がいた、などの事実の積み重ねで、真犯人にたどり着く警察の姿が光る。

彼女が生きている限り、も心惹きつけられた。
遺産相続、というミステリで格好の材料になることが主題だからだ。

ロシアのニコライ皇帝の従妹のシルビア王女の悲劇の物語だ。
彼女の息子の嫁ヴェロニカに信託財産からお金が渡るように王女の夫がして、ここはアメリカドルだったので莫大な財産が残ったのだった、シルビア王女が文無しなのに。
そして運の悪いことに息子は戦死して、息子の嫁は再婚した・・・
嫁そのものはシルビア王女に小切手を送ってくれていたのだがそれも手紙も途絶えているので何かあったのではないか・・・
ヴェロニカは次の夫に殺されたのではないか・・・

この話、最初(ああ・・勘違い・・・)で終わる。
何しろ、ヴェロニカに会ったことのある医師さえ、あれはヴェロニカだと証言したわけだから。
ヴェロニカの周辺にも夫側の人たちが多く集まっている。
でもこの会見が終わってから、刑事の一人が、(なんだか全員が偽者臭い)と独特の勘を発揮するところから真相が明らかになっていくところが読ませる。エンバーミングで死体を細工、なんてもし本当のミステリでやったら鉄拳が飛んできそうだ。
けれど、これは事実だと思うとうすら寒い気すらする。
そしてラスト、犯人が捕まって、さあシルビア王女にお金が渡る・・・と思った時に起こる事実の悲劇・・・吉報を受け取る前日にシルビア王女は亡くなったのだった。



評価 4.8

読み始めの部分が非常に面白い!
メラニーという色の白い小さな少女が、独房で暮らしている(なんで?)
どうやら全員親から引き離されているらしい(なんで?)
それも、兵士に手足と首を厳重に固定された車椅子で(なんで?)。
しかも、移動され、そこでは普通に授業を受けている、別の同じような車椅子の子供たちと(なんで?)
厳重に注意されている子供たち(なんで?)

なんでがずうっと重なっていって、この世界は一体何なんだ?子供たちは何なんだ?ここはいったい何の施設なんだ?という興味がもりもり沸く。
そして途中でこの世界の謎が明かされていくと同時に、メラニー達子供のなんで?が開かれていくのが面白い。
まっとうなエンタメであり、しかも、キャラがどの人もたっていてどの人の気持ちもわかるのだ。
最初の方で、悪役として描かれていたパークス軍曹が途中で彼の気持ちというのがわかり、彼の人となりがわかってくるにつれ、大好きな人になってきた。
メラニーが愛してやまない教師、ミス・ジャスティーノの気高さにもたまに(これはやりすぎじゃないの・・・)と思いつつも感情移入したりする。
また冷酷な科学者コールドウェルの狂気に満ちた実験もこの世界をなんとかしようという想いからだと思うと、これまたなんだかわかってしまうのだ。
また自分の家庭が最悪だったことが後半わかってくる兵士ギャラガーは、自分の故郷に帰っていく途中、果たしてそこで再び幸せになれるのだろうか?という疑問を抱くわけだが、その微妙な気持ちも痛いほどわかる。

・・・・
中盤からこの人たちが一体となって、なんとか他の人間がいるところの臨時政府の元に戻ろうという脱出劇になる。
荒廃したイギリスを旅する奇妙な一団。
ここから、メラニーが自分の欲望と闘いながらも、非常に頭脳を駆使して彼らの役に立っていく、という場面が際立ってくる。
また軍事基地にいた時には、意地悪とかしか見えなかったパークス軍曹が実はとても有能であり的確な指示を出す魅力的な男性だということも判明するのだ。
敵(それもわんさかいるし、別の敵もいる)の真っただ中をどうやって脱出していくのだろうという興味もあった。

メラニーがコールドウェルに押さえつけられ、あわや、というところでジャスティーノに救われる瞬間、
わざわざいる餓えた奴らが、何も反応がなく固まっているのにいきなりざわざわ動き始める瞬間、
そしてメラニーの秘密に彼女自身が気付く瞬間、
果てしない道を軍曹の的確な指示のもとに進んでいく皆の様子、
あることで、メラニーが嘘をつく瞬間、そしてその真実とは、
と映像になる場面が非常に多い。
メラニーが自分の欲望を我慢する姿がけなげでいとおしい。
そしてまっすぐに自分の尊敬する大好きなミスジャスティーノにぶつかっていく姿もまた初々しい。

気持ちの悪い場面も当然あるが、ラスト、どうなるんだ、というのが思ってもみなかったまとめ方だった。
こうなのか、こうなるのか。


以下ネタバレ
・メラニー達は、「人間の肉を食らう餓えた奴ら(そして食らわれた人間もまた同じく・・・の連鎖に引き込まれる)」に侵された地球での軍事基地に、実験のために集められた特殊な餓えた奴ら、であった。
普通の餓えた奴らは思考しないし、しゃべれない。同じところに集まって次の食べ物が来るまでストップしている。
そして次の食べ物が動いたり話したりするのをキャッチすると一斉に襲い掛かるのだった(ここが怖かった・・・)

教育を受けたことによって、メラニー達子どもたちはは高度な知識を得たのだった。
特にメラニーは優秀な子供だった、
彼女は人間の肉を食べたいという欲望もあるけれど、それをコントロールするようになっていく。
そしてその脳を解剖するのがコールドウェル。

・途中メラニーは、自分と同じような「教育を受けていない特殊な餓えた奴ら」を見つける。

・次世代の人間たちはメラニーを筆頭とした、高度に脳が発達した餓えた奴ら、にとって代わることを最後示唆している、ここでまたミス・ジャスティーノが教師に・・・



評価 4.4

話そのものは滅法面白い。
エンタメとしてぐいぐい引っ張っていってくれる。
世界情勢を巧みに取り入れ、そこに虚構の世界を広げている。
現代の宗教紛争、政治闘争が見事に取り込まれていて、地図もあるし、アラルスタンというのが架空の国というのを一瞬忘れそうになった。
遊牧民の生き方、ソビエト崩壊、スターリン下での中央アジアへの強制移住、イスラム主義・・・
本当の地名と本当の歴史も織り込みながら、話は女性たちを中心に進んでいく・・・

中東の国、アラルスタンで大統領暗殺が起こった。
そこで立ち上がったのが後宮にいる女性たちの集団。
後宮は、側室という側面は今やもうなく(かつてはあったらしい)、頭脳優秀な集団であり、得意分野もまたある人間たちであった・・・


ただ・・・どうなのだろう。
話が重厚な方向に向かっているのに、このアンバランスさは。
女性たちの話が実に軽いのだ。
これがエンタメたる所以なのか?
そこでかなり興を削がれ、先を読むのが辛かった・・・
途中から、漫画を読んでいるような気持ちになってしまったのだった。

欺こうとして用意された一つの劇。
そして全く思ってもみなかった意外な人物の正体・・・

・・・・・・・・・・・・
申し訳ない、きっと届く人には届くエンタメなんだと思う。
面白いには違いないのだが、私には正直合わなかった・・・
話はこれだけ面白いのに、なんだかライトな物語、もしくは漫画を読んでいる感じがしたのだ。


評価 4.8

率直な言葉で映画監督西川美和がその思いを語ってくれている。
今回は、映画永い言い訳の話が多く、もっくんの話も多かったので、映画を見た者としてはそこもとても楽しめた。
もっくん、こういう人だったのか・・・という驚きも!
まさに衣笠じゃないか・・・

裏話というのではなく、映画はこんなに多くの人を巻き込んで、多くの人の感情を揺さぶって(既に現場で)、多くの人の手を経て、ようやく私たちのもとに届くんだ、というのを実感したのだった。
監督の目、は妥協のない目であり、一点の曇りもない目でもある。
これだけの賞を取っても、実力があっても、まだ自分を探している途中というか、暗中模索のような状態というか、そこにまず驚いた。
でもそこがこの人の映画のいいところなのかも、と思った。
妙に、あがり、といった感じがないのが自然体の皆の演技を引き出しているのかもしれないなあ・・・と勝手に想像したりしたのだった。

子役の選出の大変さもひしひしと感じた。
育ってしまうからなあ・・・撮影中に・・・と思うと、オーディションの難しさ、その子の心のケアなど、作者が言うように子役への気持ちってたくさんのことが溢れているんだなあと感じた。
そして、私はこの映画で、子役の男の子の大ファンなので、この子が泣くシーンで苦悩しているというのを読んで、頑張ったなあ・・・と改めて思ったのだった。
2017.06.22 漱石漫談




評価 5

いやあ・・・楽しい楽しい!
漱石本をいとうせいこうと奥泉光が怠惰なしていくという趣向の本だ。

何よりもいいなあ・・・と思うのは、突っ込みはあるものの、二人が強烈な漱石ファンであるというのが前提になっているところだ。
本を語るということで対談するのであれば、愛がなければもやっと感が残るなあ・・・と他の対談本を読んで思っていたので、この本はなんとも痛快だった。

こころに始まり、坑夫で終わる。
この中で、行人の二人のやり取りをあげている部分がとても面白い考察だったと思った。
こうしてみると、直は割合自分の気持ちを言っている女なんだなあと再認識した。
門の章ごとの組み立て方もなるほどなあと思ったのだった。

奥泉光が小説家の目として、三人称、一人称にこだわって着目していくのも、わかるなあと思ったのだった。
また漱石がコミュニケーション不全による孤独という指摘もあり、ここもまた注目して読んでみるとまた新たな読み方ができるかもしれない。
猫温泉の言葉も忘れ難い。
いとうさんは、美禰子が嫌いと(そしてこれはとてもわかる、私も好きじゃないので)、童貞小説目線があった。

いずれにしても漱石を強烈に再読したくなる一冊だ。

(作品ごとに挟まれる、バーナード嬢曰く漫画も笑える笑える!)