2017.09.07 湖畔荘



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『偶然か、必然か』


評価 5(飛びぬけ)

傑作。

最初からなんてどきどきさせてくれるんだろう。
誰かが(おそらく女性というのはわかる、ドレスなのだから)雨の中、何かが入っている案外重い箱を埋めている姿・・・しかも、捜索隊とか警察とか不気味な言葉が連なっている。
もしや箱の中身は・・・?
そして話が開幕する・・・

ケイト・モートンの謎の作り方が今回は更に多方面多視点に張り巡らされている。
決して謎解きだけではなくそしてつまりはミステリの部分だけではないのに、ミステリ部分がふんだんあるからこそ優れた小説にもなる、という典型のような作品だ。
最初から最後までおおいに楽しめた。
間違いなくページをめくる手が止まらなくなった、特に上巻の終わりのデボラの一言と言ったらどうだろう。
ここで、え!と声をあげ、下巻に突入したのだった・・・
下巻のラストあたりで、またしてお、おお!
伏線も随所にちりばめられていて、非常に巧みな叙述トリックもあるように読めた。
秘密秘密秘密!の嵐!!

何よりも、『ある同じ物事が別の人の目を通してみると全く違って見える』場面が随所に見られそこも素晴らしい。
それはある種の思い込みのバイアスであったり、見る人の観察不足だったり、見る人が幼すぎだったり、色々と理由は違う。けれど、同じ事象が全く違った意味合いが出てきて、真実がその奥深くにある、という面白さがある。
同じ日、それはきらめくようなミッドサマーのお祭りの日(そして非常に重要な日)、の当日のそれぞれの思いも語られているわけだが、出し方もまた巧妙だ。ずらずら出すのではなく、ばらばらと、ここで!?というように当時の人たちの気持ちと行動を描写していく。
またそれだけではなく、同じ場面の人たちの様子、もまた見え方が違ってくる。
一つ出してみれば、子供がいなくなった後の記者会見で二人の夫婦が憔悴しきってマスコミの前に出る、という場面などまさにそうだ(もっともっと沢山あるのだが)。
ある人は夫が憔悴した妻を支えると見た。
これが一般的な見方だ。
しかし別の人が見ると・・・また違ったように見える。
万華鏡のように色合いが全く違って見るのだった。

この物語、私の心のどこかのポイントを押してくれて懐かしいなあ・・・と思わせてくれた。
イギリスのコーンウォールにいたわけでもなく、家族に大きな秘密があったわけでもないけれど・・・
なぜなのだろう、と思って考えてみたのだが、それは誰しも持っている
『小さい時にはよくわからなかった家族の様相、付随して周りで起こった出来事』
が大人になって紐解けている、という部分だったような気がする。
アリスの純粋な目でしかも探偵になりきっているので自分ではよく見ていたつもりの周りの情景が、実は自分の思っていた以上の展開をしていた、これに70年近くたって気づいた、というところにひどく惹かれたのだ。
しかもアリスだけではなく色々な人が色々な思惑を持っているので、事実を事実として知っている人たちはほんの少数だ。
後刻になってあの時はこうだったんだ、とわかる瞬間、こういうことってあったなあ・・・と思わせてくれたのだ。
そこがとても懐かしい箇所だった。

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今回、話が3つあり、しかも同じような話が重なり合っているのも話の効果をあげている。
・一つは、70年前に起こったお屋敷での一人の赤ちゃんの失踪事件
・一つは、現代の捜査している側の女性刑事の扱った(そして失敗したらしい)母が子供を置き去りにした事件
・一つは、現代の女性刑事の過去の母子事件
どれも母と子、の物語であり、重層的に響きあっていく。
70年前の失踪事件に首を突っ込んだ女性刑事セイディが、徐々に徐々にもつれた糸を紐解いていくが、この過程で自らの私生活を顧みて、また自分が失職寸前になっているある刑事事件をふと思い出す、という話が続いていくのだ。
でもメインはやはり湖畔荘で70年前謎の失踪を遂げた赤ちゃんの話だ。

70年前、湖のほとりに瀟洒な湖畔荘があった。
そこには3人の少女と一人の男の子と両親と使用人たちが幸せに暮らしていた。
最後に生まれた男の子、セオは皆に特に愛され可愛がられていた。
ところが、ある祭りの日に、1歳になろうとしているセオが自宅のベッドからいなくなる。
必死の警察の捜査にもかかわらず、杳としてその行方はわからなかった・・・

70年後、仕事のトラブルから閑職に追いやられたロンドン警視庁の女性刑事セイディは、あるきっかけから過去のこの事件の謎解きを始めるのだった・・・解いている間に、そこに住んでいた姉妹の一人のミステリ作家アリスと知り合う。またかつてこの事件を担当した刑事にも面識ができる・・・
彼女自身の私生活の問題も絡まって、話は進んでいく・・・


冒頭の方で、少女三人の佇まいが描かれていてそれも興味深い。
特に、闊達なアリスは印象深く、庭師のベンジャミン・マンローに恋焦がれている。
それは少女特有の熱に浮かされたような恋なのだが、本人はかなり真剣で、アリスは小説を書いてはベンジャミンに見せて感想をもらっている。
姉のデボラは年が上なので婚約が決まっていた、彼女はアリスよりも落ち着いた雰囲気があり、ごくごく常識的な優等生の長女だった。
またやや変人とみなされている末娘のクレメンタインは、独自の彼女の物の見方、行動の仕方をしているほんの子供だった。

最後まで読んで、2章に戻ると(1章は土に誰かが何かを埋める話なので、実質2章から物語は始まる)、ここに物語全般の全ての重要登場人物のその人となりが描かれているのがわかる、このあたりが非常に巧みだ。
彼らが本当はどういう人間だったのか。
本当は何を考えていたのか。
本当は誰が誰の思惑を知っていて、誰が誰の考えを知らなかったのか。
言わなかったこと、言ったこと、言ったことの中にも嘘のこと、はいったい何だったのか。
これらが2に凝縮されている。
最後まで読むと、2の日は、ミッドナイトサマーのお祭りの実に重要な日、であることもわかる。

たとえば。
・お気に入りの乳母ローズは辞めさせられていて、謹厳でうるさ方の次の乳母ブルーエンにされていて、ローズと母が言い争いをしている場面をアリスは見ている(重要)。
・ミスター・ルウェリンはこの屋敷に昔からいる男性で、どうやら作家らしい。そしてアリスと仲良しで、この日、あずまやで11時半に待ち合わせを何度も念押ししている(重要)
そして、彼が若い頃挫折した話もちらっと出ている(重要)
・また庭師のハリスの息子が戦争で脳をやられてしまったのを知り、父のアンソニーが一生彼を雇うというのも明記されている。(これのみ読むと、なんて思いやりのある雇い主、と思うが実はこれも重要)
・書斎にこもって研究を重ねる愛する父の姿もアリスによって描写されている(重要)
一番目を引くのは
・アリスの母、エリナ・エダヴェインが厳しい人間であり、秩序を守ろうとしている人間で、良妻賢母であり、子供たちを大層厳しく育てようとしている。
・この夫婦は愛し合っているが、人付き合いはほぼしていない。

またこの時にはなんとなく簡単に読み過ごしているが、
・エリナが最後の子どもセオを妊娠8か月の時に、アリスの大好きな庭師ベンジャミンがやってくる、そして母らしくなく腕まくりをしている姿をアリスは目撃している、という部分もあとから全てを知って読むと感慨深い。

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アリスが後年、本当にミステリ作家になっていて、彼女が存命の姉のデボラに会う話はとても面白い。
アリスが死ぬほど誰にも知られたくなかった秘密、とは一体何だったのか。
このあたりの捉え方が違っている衝撃があった。
しかもこの前に最後の妹クレメンタインによって、アリスがあることを見られた、という場面がある。
しかしクレメンタインはその事実をアリスに告げることは出来なかった。

登場人物表
1933年
・アンソニー・エダヴェイン・・・湖畔荘の当主 
・エリナ・エダヴェイン・・・アンソニーの妻
・デボラ・・・長女
・アリス・・・次女
・クレメンタイン(クレミー)・・・三女
・セオ・・・長男
・コンスタンス・・・エリナの母

・ダヴィス・ルウェリン・・・作家、エリナが子供のころから同居している男。エリナの魔法の扉という本を書いて一躍有名になっている。

ハワード・・・アンソニーの親友
ソフィー・・・ハワードの恋人

使用人
・ベンジャミン・マンロー・・・季節雇いの庭師
・ローズ・・・乳母
・ブルーエン・・・ローズの後の乳母

2013年
・セイディ・スパロウ・・・ロンドン警視庁女性刑事
・バーティ・・・セイディの祖父
・ルース・・・バーティの亡妻
・ルイーズ・クラーク・・・バーティが今お付き合いしている女性


・アリス・・・ミステリ作家(1933年に少女時代で登場)
・デボラ・・・アリスの姉(1933年に少女時代で登場)
・ピーター・・・アリスの男性秘書
・クライヴ・・・湖畔荘の事件を当時扱った元刑事。



セイディが扱ってる事件
・ナンシー・・・2013年育児放棄で失踪中の女性マギーの母
・ケイトリン・・・ナンシーの孫でマギーの娘

・ドナルド・・・セイディの同僚刑事





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また母エリナの描写が多方面から語られている。
少女時代のエリナ、学生時代のエリナ、恋するエリナ、結婚して幸せの絶頂であったエリナ、そして・・・彼女が大きなこの物語の主人公であると言ってもいいだろう。
そして彼女の母との確執もまた特記事項だ。
エリナが母としてセオや娘たちと向き合う話でもありながら、コンスタンスという強烈な母とエリナという娘の話でもここはあると思った。

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年代的に言うと、
・1910年代のロンドン、で、のアンソニー、ハワード、エリナの幸せな学生時代と恋とその顛末
・1930年代のコーンウォールでのアンソニーとエリナとハワードのその後
・2000年代のコーンウォール、ロンドンをまたがるセイディとエリナアンソニーの娘のアリスの話
と3つの世代が入り乱れている。
これだけの年月が流れている話、なのに読み手に興味を持続し続けさせる筆致というのが素晴らしい。
そして、折々にセイディの心の内も吐露されて、彼女が一体どんなことで謹慎処分をうけたのか、また私生活でどのような苦しみを持っていたのかというのも徐々に明らかになっていく。そのあたりも非常に読ませるのだ。


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<以下ネタバレ>



・一見仲の良かったアリスの両親は、実は戦争で心に大きな傷をったアンソニーをエリナが必死に周りから隠している、という夫婦であった。
かつてのアンソニーは医学を目指す優秀で自由闊達なハンサムな男性であった。
しかし戦争中の出来事でアンソニーは心のバランスを失い、帰国後もシェルショックという心の病を発症する。
エリナは全員にそれを隠し通そうとし(特に娘たち)、厳しくなるのだった。

そして庭師としてやってきたベンジャミン・マンローは庭師以前にエリナと知り合い、エリナとベンジャミンは双方を愛するようになる。
その結果できたのが最後の男の子セオだった。
しかしクレメンタインにベンジャミンとエリナは密会のその場面を目撃され、クレメンタインは長女のデボラにそれを相談する。デボラはその秘密を持ちきれなくて、父に相談してしまうのだ。
そして父はこれを知り、更にはセオがベンジャミンの子どもということも知る。
(この時点で、アンソニーがセオを殺した?と私も思った。
精神状態が不安定な人で赤ちゃんの泣き声に敏感な人だから。
それをわかって隠している妻のエリナの姿もまた浮かんだくらいだった。が、違った)

エリナは夫アンソニーの精神状態に非常に危機感を持っていて、特に赤ちゃんの泣き声に激怒するアンソニーに手を焼いていた。そして、エリナはセオをベンジャミンに盗み出してもらい、どこか安全な家庭で育ててもらうという決断をする。
全ては狂言誘拐だったのだった。
目論んだのは、エリナとベンジャミン。

(エリナの少女時代の描写を見ると、活発で利発で何にでも興味津々で跳ね回っていて、アリスとかクレメンタインの風体なのだ。
だからなぜエリナが大人になって母になってこういう謹厳実直なまじめすぎる人間になったのか、という謎はここで投げかけられている。夫の病を家族からまた世間から隠す、という大きな目標があったからだった。これによってこの夫婦が人付き合いをしなかったというのもとてもわかる、人付き合いをしたらばれてしまうから、夫の病気が。)

(また、乳母のローズが解雇されたのは、ローズの子どもがセオ(ローズと主人のアンソニーの子ども)と私も思った。
だからセオを誘拐したのはローズだと。
けれど、実はローズを解雇したのは、『気がつきすぎる』優秀な乳母であるので、彼女のもとから赤ちゃんを盗み出すことは出来ない。老齢の(口うるさいが目が届かない)乳母を雇い直すことによって、『子供を盗み出しやすくする』意図があった。そしてこれはうまくいったのだった。)

エリナとエリナの母コンスタンスとの確執はあった。
エリナの物語を書いてくれた小説家ダヴィス・ルウェリンはコンスタンスの最初の子の出産に立ち会って死産だった。そしてそれを生涯にわたってコンスタンスはルウェリンのせいだと思っている。
ルウェリンはこの事件をきっかけに医師をやめ、小説家になったのだった。
そして小説によって王宮に招かれるということになったルウェリンを逆恨みしたコンスタンスの手で、殺されるのだった、奇しくもミッドナイトサマーで子供が誘拐されたその日に。
(コンスタンスが死産というのを口走るので、エリナが死産したと思っていたが(私もセイディも)、実際はコンスタンス自身の死産だった)
そして、エリナはこれがきっかけとなり、コンスタンスを施設に収容させるのだった。

・アリスは、ベンジャミンに恋焦がれるあまり彼に身を捧げようとする。
しかしベンジャミンに止められ、断られおおいに傷つく。
(ベンジャミンはアリスの母と通じていたわけだから当たり前なのだが)

後に飛行機事故で死んでしまう末の妹クレメンタインが見てしまった、とアリスに告白するのだが、それを(自分が身をささげようとして拒絶された場面を見られた)と勘違いしたアリスがいる。
そしてクレメンタインが話すのを遮ってしまってそれっきりになる。
ここまでの描写でアリスとベンジャミンは性的関係があったのか?と読み取れるのだが、実は関係はない。
ただ、手ひどくふられたのだった。
そして上巻の最後で、今度は長姉のデボラがこの話を蒸し返し始める。
またもやアリスは自分が身を捧げようとしたのにふられた場面をデボラにまで知られたのか、と思うのだが(読者は性的関係があったのかとここではまだ疑っていたという二重構造)これもまた違っていて、デボラは自分がセオを死に導いたのだ、という驚くべき告白をする。

またアリスは屋敷内の秘密の通路をベンジャミンに教えた、子どもを誘拐して身代金を要求するという物語を聞かせた、ということでベンジャミンが犯人ではないか、そしてアリスがそれを唆したのではないか、と怯えていた。
デボラはデボラで、自分が父親に打ち明けたことから、父親がセオを殺したのではないかと怯えていた。
二人が別々に、自分こそがセオの失踪の原因だ、と思っていたのだった。

実は、クレメンタインもデボラもある真実を把握していた。
母のエリナがベンジャミンと関係があったのだ、
という真実を。
ずうっと知らなかったのは、アリスだけだった。
更に、長姉だけに、デボラは父の病気のこともうっすらと知っていて、父の病気を隠そうとしている母の努力も知っていた。

ちなみに冒頭で箱に入れたものは(これが、ずうっとセオの遺体ではないかと思っていた。)、ベンジャミンにてひどく振られた時に持っていたバイバイ・ベイビーというアリスの書いた小説だった。
埋めた人間はアリス、で70年後にそれを掘り起こす。

・アンソニーが家で研究をしている、という場面が多くみられる。
これが、アリスの目を通してみると、尊敬している父であり、自然史を研究している父であるのだが、実際は戦争からの発作を起こすのを恐れ、部屋に閉じ込められていたというのが実情だった。また危なくなると、娘たちに危害が及ばないように、妻のエリナが娘たちを町に連れ出し、彼と距離を置く、ということまでしている。
ここは、何をしてアンソニーは生活を立てているのか?この階級だから働くことは必要なかったのか?という疑問が読んでいて沸いた。また途中で医師になる青年のアンソニーが出てくるだけに、ちょっとした違和感はあったのだ、ここは見事に騙された。

・ラストで、調べていた女性刑事セイディの祖父バーティが当のセオだということがわかる。(・・・驚いた・・・)
養子に出した後、ベンジャミンは何度もバーティを訪ねて遊んでいるが、戦争で命を落とす。
そしてベンジャミンからセオの行く方を聞いた母のエリナは、セオの元に訪ねてくるのだ、自分が母とは言わずに(というのをバーティは覚えていた、エリナの顔とともに)


アリスの弟はセイディの祖父バーティ→アリスとセイディは血の繋がりがある(アリスが大伯母ということになるのか。ここでローズの話の中で大叔母が出てきたことが呼応)
祖父バーティは養子に出された→その孫のセイディもまた自分の子どもを養女に出している、というところに呼応しているから。)
そして、セイディが若い頃の過ちで産んだ子供シャーロットが養女に出されている。
つまり、エリナが断腸の思いで危険回避のため手放した小さなセオは生きていたし、しかも脈々とその血は繋がっていたのだ、セオから孫のセイディに、そしてセイディの娘のシャーロットへと。

・ローズが(可愛いし気が利くし若いし)もしかしたら当主のアンソニーと関係していて子供を産んでいて、それがセオと想像したのは違っていた。
が、これが考えられるのなら、
ベンジャミンとエリナが密通していたと知った時点で、すぐにセオがベンジャミンとの間の子どもだ、と皆気づかなかったのだろう?想像しなかったのだろうか?(ここは、ベンジャミンとエリナの密通を知った時点で、さすがにすぐに私は思ったので、なぜ気が付かないのか・・・と思ったものだった)


・調べている刑事の祖父が探していた小さな子供だった、というのは、出来すぎのような話の流れだけれど、私はこれは受け入れられる話だ、と思った。
元々、創作の話が大好きだったアリス達だったのだから、ここはおとぎ話にしても良いのではないかと。
最後、70年ぶりに会う姉と弟の再会場面は感動的だった。

どうしてもどうしても我が子に会いたくて、少年だったセオの所に行って話をするエリナの姿も忘れ難い。
いなくなったあと、湖畔荘を事実上捨てロンドンに移ったわけだが、そののちのエリナの人生はどうだったのだろうと思いを馳せる。


評価 4.9

第三弾からいきなり読んでしまったけれど、この青春小説おおいに楽しめた。
順番に読むと、ところどころである、くすぐり、とか引用とかもっとわかってもっと楽しめること請け合いだろう。
けれど、ここから読んでもとても楽しい。

ちょっと屈折した裏染天馬という男子高校生が日常の謎を解いていく。
本当に小さな学校内、または学校外でもまだ学校のしっぽを引きずっているような場所で、小さな謎があって、それを見事に推理していくという、他愛もないと言えば他愛もない話だけれど、よく読むと、ああ!なるほど!とすとんと落ちる推理がそこにはなされているところがお見事だ。
平成のクイーンと裏表紙にあったけれど、最初の方での推理はホームズを思い出す推理で、身近なものからこれこれだっただろう、という観察眼の勝利の話でもあった。

何しろこの高校の面々が溌溂としていて、読んでいて心が明るくなる。
どの子も生き生きと活写されている。
探偵役の天馬はもちろんのこと、卓球部の二人組の柚乃と早苗の可愛いことと言ったらどうだろう。
また新聞部部長の香織も時折とても重要な場面で顔を出している。

どの話もいいが、特に表題作の風ヶ丘五十円玉祭りの謎夏祭りでなぜどの屋台でも50円玉でお釣りをくれたのか。
その指示は誰が出したのか。
というこの謎、非常に面白かった。
最後、せこい・・・と思いつつ、確かにこれってあるんだろうなあ・・・と思わせる妙がある。
落ちた50円玉を拾うアイディア。小銭が多ければ落とすものも多くなるというアイディア。
この話の中で、懐中電灯をあてる部分がとても好きだった。


もう一色選べる丼は、
二色丼という丼の特性を生かし、なぜ置きっぱなしにしてしまった生徒がいたのか、果たしてその生徒は誰だったのか、またなぜ丼の半分を残しているのかわざわざ二色丼を頼んだのに、という何重もの謎が満ちている。
日常の謎なので、どうでもいいと言ってしまえばそれまでだけれど、どうでもよくなくてぐいぐい読ませる力がある。
学生生活であるなあ・・・この気を遣う感じ、ととても微笑ましかった。
付き合ったばかりの彼女が作ってきてくれたお弁当は嫌いなとんかつ弁当だった。
でもその気持ちを傷つけないように、お弁当の中身を捨てた後、空腹を満たす半分と、とんかつで汚れた箸を作るために二色丼の一方はとんかつにしたのだった。偽装工作する男子高校生がかわいらしい。



針宮恵子のサードインパクトは、不良っぽい針宮という少女が年下の気の弱い彼が吹奏楽部でいじめられているのではないかという疑いを持ったことから話は進む。
これまた少女たちの心理を突いていて、あるある!!こういう場面と思ったものだった。
暑いので少女たちがはだけて練習している姿を『唯一の男子部員に見られたくない』という心理がとてもよくわかったのだった。だからこそお使いに出されていて、これはいじめではなかったのだった。
そして針宮が彼との交際を宣言するところも好き。


天使たちの残暑見舞い、かつてなぜ少女たちが抱き合っていたのかという謎から、密室から少女たちが消えた謎まで一気呵成にこれまた読ませてくれる。
この日記に書かれたことは実際にあったことなのか?
学校がどういう状況だったのだろうか?
学校という特殊な場所で行われること、ということを見事に出していると思った。
まさか消防の訓練の時とは!はしご車から脱出とは!
この日記でぐっすりその前に学校内で寝てしまったと書かれているところが、誰もいなくなった不思議な校舎を作り上げている、避難訓練の日だった!!あるある、学校では。


その花瓶にご注意を、は、裏染の妹の話だ。
花瓶がこわれていた謎をこれまた水の有無から見事に推理していく。

2017.07.15 海岸の女たち


評価 4.8

取材に出かけたフリージャーナリストの夫。
彼からの連絡が突然途絶える、それも10日間も。
ニューヨークの舞台美術家の妻のおなかの中には子供が・・・
そしてパリからの夫からの手紙には謎めいた写真が入ったディスクと手帳があった・・・


まあ・・・この妻アリーがアクティブなのだ。
ディスクと手帳という心もとない手がかりをもとに(それのみで)、ああだこうだ考える前に行動しよう!ということで、なんだかやたらめったら突撃!みたいにしてニューヨークからパリへ飛んでしまう。
でもこの捨て身の行動、が実を結んだのか、最初全く何もなかった状態から徐々にオットがいったい何をしていたのか、何の取材をしていたのか、というところまで突き止めていく。
ヨーロッパの都市からリゾート地まで彼女は足を運ぶのだった、ひたすら愛する夫のために。
この場合、探偵役が妻になっているのだと思う。
全くの見知らぬ土地でしかもおなかに子供がいるのに(まだ初期とはいえ)、ぐいぐい進んでいく行動力には脱帽する。

最初の方で、よくわからない場面が海岸でいくつか点在している。
・靴のない少女が海から上がってきて、靴を見つけた話
・男性と海岸で関係を持ち、そこで死体と遭遇したテレーセという女の子の話
この二つがあとから関係してくるのだ、アリーの捜索に。

最初の内、(これは失踪した夫の秘密の生活の暴露?)というようなミステリだと勝手に思っていた。
けれど、開かれてみると、これは紛れもなく社会派のミステリであった。
話の裏側で響いている重低音は、ヨーロッパの移民問題であり、密入国であり、人種間の闘争であり、そして奴隷の人身売買まで行きつくという、結構ハードな物語だ。
夫がジャーナリストとして認められる賞を惜しくも逃してから、この問題に肉薄していってその結果失踪した。
この経緯も良くわからないまま突進していく妻のアリーの姿が勇ましい(と同時におなかに子供がいることを思えば所々で無謀だなあ・・・とは思うものの)

にしても、私はこの話の中で一番驚いた部分が、夫婦間のことだった。
ここで驚くのもおかしいのかもしれないが・・・本筋とずれている?
いや、でもこのことが非常に大きなポイントともなってくるし、最初の二人の女性の海岸での出来事を後から読み直すと、ここと合わせてなるほどなあ・・・と思うのだった。
ちょっと前に読んだ本と同じパターンなのに全く気付かなかったのだった。
え!と。
文字で読んでいて、夫は失踪してかなりハンサムのジャーナリストで、妻は舞台美術家のキャリアウーマン、という設定でこちらが想像していた夫婦とは全く違っていたのだった。

そしてこの物語、アリーの側の話もまたある。
アリーがもともとチェコの人間であり、彼女自身は過去の自分を否定するような生き方をしていた。
しかも今、夫と幸せに暮らしていたのだ。
けれど、夫が失踪して探しているうちに、内なる自分の出生にも目を向けていく物語でもあるのだ。
ホテルに泊まり、最後にオットが電話していた部屋に泊まり、彼が見たものを想像し、火事の跡を見つけ、、人権活動家のところに行き、夫の知り合いの女性のところに行き(軽く嫉妬しながら)、架空の会社の裏側、に行き、夫がトラブルを起こしたらしいレストランに行き、そこでの出来事を何とか聞き出そうとし、とずるずるっと紐が引き出されるように、妻は真相に近づいていく。彼女に警告する女性というのもまた現れる。
この連続した妻アリーの足跡は読ませるところだと思った。
そして黒幕はいったいどこにあったのか・・・・

後半、あまりにむごいことがある。
それが、妊娠していた女性だからこそむごい。
この場面って必要なんだろうか。
そして最後に更に過酷な真実が・・・

以下ネタバレ
・私が驚いたのは、
かなりあとになって、ジャーナリストの夫が黒人だったという事実が明らかになったことだ。
ハンサムな黒人と白人の妻の組み合わせだったのか!!
ここが文字の面白いところだと思う、なぜなら、夫の写真を毎回色々な人に見せているのに私たちはそれを見ることができないのだから。

そして彼が黒人だったことにより、彼が死んで海岸に漂着しても、それな難民だと思われたというのがよくわかる。
アフリカ難民の溢れていたこの時代、なので、漂着はほぼ黒人だったのだ。
密航船が溢れていて(これは最初の描写でもわかるし途中でも過酷な船内の様子がわかる)、そもそもヨーロッパに着くことすら難しい。着いたら着いたで搾取される人間たち。
しかも最初の方で黒人の死体を踏みつけた女の子の話が出てくるが、これが夫だったとは。

・妻アリーが妊娠していながら、黒幕の手先にレイプされる場面がある。
ここ必要な話だったのだろうか?
あまりにむごい。
2017.07.10 風の歌を聴け


評価 5

年に何度か読み返すのだが・・・

デビュー作に全て詰まってるというのは至言であって、本当に村上春樹のスタートがここから始まると思いながら読むと感慨深い。

・バーで出会い介抱した女性
・指に特徴のある女性
・鼠というあだ名をつけた彼
・今まで付き合った三人の女性の行方
特に最後に自死した女性への気持ちとその揺らぎ
・ひと夏の出来事
・おしゃれな小物の数々・・・
・音楽への憧憬

初めてこれを読んだ時に、これが日本の小説というのにとても驚いたというのをまた改めて思い出した。
もう文体から何から、翻訳小説そのものだったから。
内容もついでにいえば、翻訳の世界の物だったから。
なんだか画期的な作品だったのだった。
2017.06.22 穢れの町


評価 5

前巻で、うおおー次を早く!!!どうなるこの二人は!!と思っていたが、次のこの穢れの町、でも同じことが起こる。早く次を!!
エドワード・ケアリーの語りの巧さ、凄まじさが怒涛の如くこちらになだれこんできて、物語世界に一気に連れて行ってくれる。

相変わらず不気味な挿絵が素晴らしくこれがこの話を盛り上げていることは間違いない。
表紙を開いた見開きのところの図は、前回はお屋敷の図、今回は町の鳥瞰図になっていてここも楽しめる。
裏表紙を開いたところにはポスターが貼られている(これも見ていくと楽しい)



<以下内容に触れるので一部ネタバレになると思います>

今回は、タイトルにもあるように、町のフィルチングが主役になっている。
前巻は、お屋敷が主体で町はちらっとしか出てこない。
前巻で離ればなれになってしまった、アイアマンガー一族のクロッド。
死んでしまったらしい恋人ルーシー・ペナントを探していく・・・
クロッドが前巻では、おどおどしていて自分の特異な能力(その人が持っている誕生の品物の声が聞こえる、そしてそれによって品物がかつて人間だったことを知る)さえも生かしきれなかった、感じがしたが、この巻では、成長して自分をいわば敵地のようなところでもアイアマンガーと宣言できるし、ルーシーを見つけるのに全力を尽くすことでより強くなっている。

ルーシーは一旦ゴミにのみ込まれて死んだ?と思わせられていたが、実はどっこい生きていた。
いかにもはねっかえりで元気の良いルーシーらしく、最初わけのわからぬゴミの中の物にてきぱきと指示し、ゴミ山から何とか脱出しようとする姿が印象深い。

・・・
この話、町、なので、いわば貴族として君臨してやりたい放題(思ったよりやりたい放題だった)のアイアマンガー一族を、貧民の死町の庶民たちがどう見ているか、というのがよくわかった。
病気がそこら中に蔓延していて、治安の悪い汚い最低の町、フィルチング。
そこに住む人たちと住まざるを得ない人たち。
途中で、物から人へ、人から物へと流動的に話が進んでいくところが一気に読ませる。

感動の再会もあるのだが、そのあと・・・
次巻が待たれる!
2017.06.21 劇場



評価 4.6

恋愛小説だ。
作者が作者なので、ものすごく不利だと思う、なぜならこの主人公にどうしても最初のうちは作者を重ね合わせてしまう。
強烈な印象がある作者(声高に物は言わないが存在感が芸能人であるので半端なくある)の声が聞こえてきてしまうのだ。
さらに不利、だと思うのは、これが関西弁で語られているのでますます作者に重ね合わせてしまって、それを脳内から振り払うのにとても時間がかかった。

劇団で食えない生活をしている永田。
彼がふとしたことで見つけた沙希という女性は、よく笑いよく彼をサポートしてくれた。
一緒に暮らすようになり、永田は自分の劇団のトラブルや他劇団で活躍する人たちへの嫉妬にも苦しむ。
内省的な永田を常に笑いで温かく包んでくれる沙希・・・しかしその恋愛の行く末は・・・


永田が考え始めると、その考えが記されていて、それがとても屈折しているのがわかる。
彼の考えをたどっていくと、常に自分、というのがあり、常に外から見られている自分もあり、とどのつまりは自分でしかないのだ。
とてつもなく文章を頭で紡ぎ、頭だけで考えて、屈折しまくっている男、永田の姿がこちらに伝わってくる。
彼はお金もないこともコンプレックスになっている。
世間から演劇の世界で認められていないこともコンプレックスになっている。
彼独自の世界を誰もわかってくれないということもコンプレックスになっている。
そして強い自我意識のみが存在して、彼をようやくこの世で生かしているのだった。
元劇団員の女性が本を出した時のすさまじい罵倒も、彼の心の本質を描いている。

永田像というのが、昭和の時代の文学系演劇系の男性に多かったなあ・・・と懐かしかった。
今も形を変えているだろうけれど、今はインターネットがあるのでそこで決定的に違うのだ。
昭和の屈折した男永田、というのが私の印象だ。

その中で、奇跡のように現れた沙希。
現れた、というか、彼女との出会いも、普通でいえばかなり気持ち悪い、ストーカーのようなものだから。
ナンパというのでもなく、ただただ彼女を求めている永田の気持ちが薄気味悪い、普通の感覚だったら。
けれど沙希は菩薩のような存在なのだ、永田にとって。
最初のうちは永田を警戒していたのに、あっという間に警戒をほどいて彼のあらゆるところを受け入れようとする沙希がいる。
沙希の永田に対していった
「本当によく生きて来れたよね」
という言葉がわかる。

後半、沙希が壊れていく。
もし、彼女が別の男性と普通の恋愛をしていたら。
もし、彼女が永田が声をかけた時に無視し続けていたら。
いくつものもし、が頭をよぎる。
天真爛漫で誰からも愛された彼女が壊れていくのを読んでいるのがとても辛かった。

・・・・・・・・・・・・
この小説、私が違和感があるのは、性描写が一切ないということだ。
手をつなぐ、というところまではあるけれど、そのあとはない。
同棲していて当然交渉はあるのだろうから、そこに対しての両者の思いというのも絶対にあるはずで、そこが書かれていないというのが奇妙に思ったのだった。
2017.06.20 かがみの孤城


評価 5

読み終わった時に、

(この物語が、今現在学校で、家で闘っている全ての子供に届きますように。
そして闘わなくてもいいんだよ。
放棄してもいいんだよ、とも。
身近で信頼できる大人をだれか見つけられますように!)

と強く強く思ったのだった。
物語はそれだけの力があるとまだ信じている。
この物語はそれだけの力があるとも。

また冒頭の部分と最後の部分が呼応して円環の物語になっている。
冒頭を読んで絶望感に浸った人も、最後の文章で救われる。
非常に巧い構成だと思う。

・・・・・・・・・・・・
辻村作品の初期の作品にとてもテイストが似ている。
たとえば、冷たい校舎~あたりに。
けれど、かがみの孤城は、その作品よりもずうっと問題が根深くなっている。
扱っていることは、学校内のいじめ、に端を発しているのは同じなのだが、かがみの孤城ではこれが複数の人たちが何らかの形で(それはいじめに限らない)学校にいけない状況、になっているのだ。
不登校の子供たちが集結して、そして一つの謎を解いていく。
その謎とは、鏡をそれぞれくぐってきた城の中で会った少年少女が、鍵を見つけることだった。
鍵を見つければ、一つだけ願い事が叶う。
皆それぞれ独自に探していくのだが・・・・

自宅の部屋の光り始めた鏡の中を通って別世界に女子中学生こころが行く、そこには狼のお面を付けた女の子が待っている・・・
彼女はお面の中から、3月までに鍵を見つけろそうすれば願い事が一つだけ叶う、と教える。
でも願いがかなった瞬間に孤城は終わってしまう。
そして彼らの記憶も消えてしまう。
いずれにしてもこの孤城が3月までの期間限定のものだとも。
そこには自分と同じような境遇の同世代の7人の少年少女がいた・・・


これだけだとファンタジーだ。
子供向け?ここにも出てくるナルニア?
けれど、これは私が思った『そういう傾向』のファンタジーとは一線を画していた。
最初のところで挫折しかけた人はあともうちょっと読んで欲しい。
ファンタジーではない、というのがよくわかってくるだろう。

集まったものの、少年少女はお互いが何となく学校に行っていないということだけは知っているが、それぞれの事情を面と向かって聞きはしない。
本名も知らず、ただ名前のみ(または苗字のみ)を知っている少年少女。
ゲームをしまくっている男子二人マサムネとスバルの中に入れてもらえるこころの姿がまぶしい、ここでは入れてもらえた・・・でも周りを見てまた仲間外れにされるのではないかとおどおどしているこころの姿もまたあるし彼女の中の疑心暗鬼は消えていない。
最後までなぜ?というのがわからない子がいる、それは部屋にこもっていることが多かったアキ、だ。
また3人のうちの女の子の一人フウカもなかなかその本当の姿が見えない。


登場人物
・マサムネ・中学二年生。学校に行かなくてもいいと言っている独自の考えの両親がいる。ゲームマニア。言動がストレートな男子中学生。学校になぜ行けなくなったのか、学校で何と呼ばれたのかが途中でわかる。
・スバル・マサムネと最初からゲームをしている不良っぽい男の子。お兄さんがいて途中で髪を染めてくる。彼は祖父母と暮らしている。こころがハリポタのロンに似ている、と評している。
・アキ・中学三年生。大人っぽく極端に学校のことに触れられるのを嫌がる。
・こころ・中学一年生。
・リオン・中学一年生のイケメン。なんで誰からも好かれそうな爽やかなリオンがここにいるのかが皆の疑問だったが途中で意外な彼の立場が半分だけわかる(残り半分は最後の方でわかる)。
・フウカ・中学二年生。眼鏡の女の子。とっつきは悪い。部屋にいることが多かった、途中まで厳しいことを言うことが多い。
・ウレシノ・中学一年生。苗字で呼んでいるちょっとぽっちゃりめの男子中学生、最初の内疑似恋愛ごっこで全ての女の子に好きだというアプローチをして気味悪がられる。なぜ彼が不登校かは、途中で明らかになる。

主人公にあたる、こころ、の事情だけはっきりと最初の方からわかっている。
入学したばかりのマンモス校の中学校で一人の同級生から激しいいじめと仲間はずれにあっていた。
家を取り囲まれるまでに至って彼女は不登校になるのだ。

ずうっと孤城にいられるわけではなく5時と決まっていて、そこを出たら狼に食べられてしまうという掟があるので、家にいるという時間もあってそこでは日常を送っているこころ。
スクールという不登校の子供たちの学校すら行けなくて苦しむこころ。
そのスクールで唯一心が開けそうだ、とこころが認めたのが、女性の喜多嶋先生だった・・・


・・・・・・・・・・・・・
こころとお母さんのやり取りの中で、引きこもりになって初めてお母さんに全てを話した部分に泣けた。
ここは親と初めて本当のことが話せた、しかも現実というので泣けたし、そこまでこころが学校にいけないというのを問題視扱いしていた母親が、実はこころの一番の味方だったというのをこころが理解した瞬間だったから。
母親が学級担任に立ち向かってくれる姿にも泣けたのだった。
(にしてもこの担任!!!と言ったら!!!)

この物語は
・そもそもこの孤城とは何だったのか
・ここに集められた中学生は何だったのか
・狼の面をつけた少女は何者なのか
・リオンはなぜここにいるのか
・最後に探すカギは何を意味しているのか
とたくさんの謎に満ちている。

ミステリとしては、伏線がたくさんの場面に潜んでいる。
正直、こうじゃないか、という大きなこの物語の構成はその伏線を読んでいればわかる人が多いのだと思う。
わかっても尚且つ読ませる力があるとも思った。
またラストの二つ、つるべ打ちの様に衝撃だった、これはどちらも予測していなかったから。

最後まで読んだら必ずや最初に戻ると思った。
そして最初からもう一度読んでみると、新たな目で読み直すことができるのだ。


以下ネタバレ
・この物語が時制の違った子供たちが集められた、というのは話のずれで割合初期でわかる。
スーパーの有無、同じ喜多嶋先生の描写、マック、ゲームの感じ、休日の受け止め方(特に1月15日の話)・・・
そして途中で同じ学校ということも、アキがたまたま着ていた制服でわかる(制服は時を経ても変わらないものの一つだなあとは思った)
それがわかるのが、スバルが三学期のある日登校するので、皆に来て欲しいと言った時に、皆が行っても会えなかったというところも大きい。
けれど途中でマサムネがゲームに見立て、これが並行世界だと言い始めたのでそうなのかなあ・・・とそこで一旦考え直したのだが・・・でもやっぱり最終的には時制が違っていた。

最後5時過ぎまでいたアキのせいで、皆が狼に食べられてしまう。
それを救うべくこころが立ち向かう、この物語は、七匹の子ヤギの物語だと気づいて子ヤギが隠れた場所に行って、印の×印に手をやるとそれぞれの人の生い立ちが脳内に出てくるのだった。
(この×印の意味がわからなかったので、なるほど!)

・スバル1985年
親と離れ祖父母と暮らし、不良の兄の影響でそちら方向に走ろうとしている。
ゲームをするマサムネと親友になりつつあった。
だから、彼は「ゲームクリエーターの有名な人と知り合い」と言ってしまってそれが嘘とわかって学校に行けなくなってしまったマサムネのために
『自分がゲームクリエーターになる』
と宣言してくれる。ここは泣けた。
彼とマサムネは時が離れているので、実際にその可能性はあるのだ(本人たちが覚えていないにしろ)

・アキ1992年
彼女の姿が一番わからなかった、何に悩んでいるのか最後の最後までわからなかった。
彼女は義父によって家庭内の虐待になりそうなのを必死に耐えていた。
その過程でテレクラなどにも救いを求めていたが何もそこからは生まれなかったので絶望していた。
彼女を救うために全員が協力して引っ張るのだ、特にこころの活躍がある。

そして時を隔てて、彼女が実は喜多嶋晶子だということがわかる(驚いた!!)
そう、彼女は喜多嶋先生で、不登校になったこころを救うことになるのだ。
そればかりか、年老いた喜多嶋先生とその後の子供たちの出会いもある。
(リオンの姉をみとったことからこの道に進もうと決意していた)
子供たちに狼の口から救ってもらったアキはその救いの手を今度は救ってくれた子供たちに返したのだった。

・こころ・リオン2006年
リオンはハワイの学校から通っていた。
だから彼だけが不登校ではないのだ。
けれど、小さい時に姉を病気で亡くしていて、母親がその気持ちから抜けきれない。
ハワイに追いやられたと思っていた。

そしてリオンは地元の学校に強烈に行きたかった。
最後リオンはこころの学校にさっそうと現れる。
覚えていなくても、こころを見つける、このエピローグが最初の部分に繋がってい行く・・・
奇跡は起きるのだった。

さらに狼の面をつけて皆をここに招集した少女は、亡くなった彼の姉だった。

・マサムネ2013年
ゲームが大好きなマサムネ。
嘘が口からついて出てしまい、ホラマサと言われている、学校では。
仲の良い友達にまで見捨てられ学校に行けなくなる。

マサムネは、苗字であるというのがラストでわかる。
ウレシノに続いて二人目。

・フウカ2020年
ピアノの天才児と騒がれて母親もその気になり、全てを犠牲にして練習しまくるが・・・
結局それほどの人にはなれず、学校での勉強を取り戻すべく孤城で部屋で学校の勉強をしていた。
こころからの贈り物を宝物のようにしている姿が可愛い。

ウレシノからの好意をしっかりと受け止められる少女で、覚えていないというのは承知で、
年齢の違うウレシノと未来での出会いを約束する。

・ウレシノ2027年
学校で友達の名のもとにお金を奪われたり、暴力を振るわれたりする。
途中で一回戻るのだが、その時にも壮絶な暴力を受けている。


・こころをいじめていた女の子からの手紙の話(2回ある)は、

<<以下冷たい校舎の時は止まるのネタバレになりますので注意!>>




冷たい~で、角田春子という女の子がいじめをした深月にそのお詫びの手紙を出したのだが受け入れられない、

というのに通じていると思った。
このことによる悲劇的結果が、冷たい校舎ではあるのだが、かがみの孤城ではまた別の展開が用意されている。




評価 4.8

番組を楽しく見ていただけにこの本を心待ちにしていた。
こうしてまとまると、やっぱりこの番組面白かったんだなあ・・・と改めて思う。
トークバラエティとあるけれど、本好きの若林が聞き手になっていて、彼は作家たちと飲むこともあるらしく距離が近いので、素顔に近い作家たちの生の声が聞こえる。

この中で、私が一番面白いなあと思ったのは、やっぱり活字になっても同じで角田光代と西加奈子の回、加藤知恵と村田沙耶香の回だった。
どちらもちょっとずれている感じ(角田光代と村田沙耶香)の人がいて、どちらかというとノーマルな人がいて(西加奈子と加藤知恵)、という背反する二人の組み合わせが楽しい。
角田光代がこんな人で、何でもかんでも注文を引き受ける、それは小説以外にも、というのに驚いていた。
あれだけの才能を持っていてあれだけに作品を生み出している重鎮、と思っていたからなおさらだ。
村田沙耶香は、おかしいんだけど下手すると危ない不思議ちゃん枠にいられられるところをかろうじて踏みとどまっている、そこがとても好ましい。

全くその人となりを知らなかったダブル中村の好対照の話も面白かった。
こういう人たちなんだなあ・・・・!と驚いたりしたものだ。

若林の突っ込みもさえわたっていてそこも番組を大いに盛り上げてくれる。
受け答えがぱぱっと出てくるところ、別の同じような何かに置き換えるところの機転が素晴らしい。
妙に気を使うことなく、それは変だね、と素直に言える感性が、この場を盛り上げているのだろう。

・・・・・・・・・・・・
惜しい、と思ったのは、やっぱりこれ、映像で見たほうが圧倒的に面白いのだ。
角田光代が、ぼけっとしている感じ、のんびりとしている感じが伝わってくるし、村田沙耶香のおっとりとしていながら平然と怖いことを言う感じとかが文字では伝わりにくい(だからこれだけを読むと村田沙耶香は不思議ちゃんに見える)。

またこの番組再開してほしい。
2017.05.31 ガラスの靴


評価 5

ファージョン版のシンデレラ。
初めて読んだのだが、やっぱりファージョンだからとてもとても奥深い。
そしてファージョン独特の夢のような豊饒な言葉で紡がれたシンデレラストーリーだ。

一番驚いたのは、お父様がとても弱気で義理の母、義理の姉妹に言い返せないことでもなく、シンデレラの境遇がハリーポッターのようにある一つの部屋台所に押し込められていることでもなく、道化の存在だった。
道化!
王子様側にいる道化が異彩を放っている。
そして道化がいることでこの話、格調が上がっているのも確かだ。
(遠くでシェイクスピア劇を思う。
またシェイクスピアと言えば、途中の伝令官の歌、精霊たちの歌、などの各種の歌、もシェイクスピア劇を思う。)
王子が何かを言う、道化が答える。
エラの義姉たちが行った時にも道化を王子と勘違いする面白さも含んでいる。

また、シンデレラ(この場合エラなのだが)が部屋とされている台所にいる時に周りの大時計やらテーブルやらと話をするファンタジーの世界の光景が何と言っても楽しい。
(ここは、美女と野獣をちょっと思う)
祈ったからシンデレラの衣装を用意してくれるおばあさんが配置されるのではなく、おばあさんを外で助けたということから見返りをもらう、という展開も目新しかった。

更に、王子様との出会いの後、ガラスの靴を家々に持って回るのではなく、それをはくのに皆がやってくる、というのも目新しかった。
食べ物の描写も楽しくて思わずこれはなに?と食べたくなる。
司会者が歌う、極上の砂糖菓子のトライフル、なんておいしそうなんだろう!
ドレスの描写も美しく煌めいていて、どのドレスも実際に見てみたくなる。

意地悪な義母様・・・なんとかつらだったとは!
そしてその姿になった時にタイミング悪く、伝令の人が来るとは!(ここちょっと笑った)
2017.05.22 渇きと偽り


評価 5

良いなあと思った。
何より読みやすいミステリだ。
このタイプの話ってよく見かけるので話としては既視感がある。
今現在の殺人事件・・・そして過去の殺人事件・・・これが絶妙に絡み合う・・・誰もが知り合いという閉鎖的な人たちがいる片田舎のそれも殺人事件・・・
でもこのミステリが同じような話と一線を画しているのは、この環境なのだ。
旱魃で干上がっている大地。
農業をしている町の多くの人たちにとっては死活問題だ。
皆が苛立っている。
暑いし、水もないし、物も売れないし、勢い町全体が活気がない。
ここで終わるのかと思うほど皆が天を仰いでいる
周辺がこれだけ殺気立っていて一家全員が死亡というニュースも、一人の男が旱魃に負けて未来を悲観して自分の妻を殺し、子供を殺し、そして自分が自殺、という異常な状態になっても、誰も自殺を疑おうとしない。
この部分がわかる、これだけのひどい環境なのだから。
苛立ち、絶望感、は暴力を呼び、過去の亡霊にすら唾するようになる。
そこに戻ってきたのが、過去石持て町を追われた一人の男フォークなのだ。

連邦警察官フォークは、20年ぶりに故郷に帰る。
それは、フォークにとってつらい旅になった。
なぜなら、彼は20年前に町の人たちから嫌がらせを受けて父とともに逃げるようにこの町を去ったのだった。
それは、彼の女友達の死亡事件、に絡んでいると町の人たちに疑われたからだ。
そしてその時に唯一自分のアリバイを証言してくれた友人のルークが自殺したという。
ルークの父から不思議な意味深長な手紙を受け取ったフォークは、故郷に・・・


このミステリ、過去と現在を行ったり来たりはしているけれど、その描き方もわかりやすい。
章を別だてにするのではなく、太字で話の中に入れ込んでくれているのだ。
だからあっちこっち飛ばなくて済むし、何より話が途中で途切れずずうっと続いているので、一気に読める。

ルークが昔太陽のような男の子であって、ルークとフォークとグレッチェン(女子)とエリー(女子)が4人組の仲間だった。
この子たちが仲良くしている姿も鮮やかだ。
そして途中で恋模様もあり、それぞれの性格の違いなども浮き彫りになっている。
ルークは成人して、カレンという素晴らしい伴侶を得ている。
本当にルークは一家全員を殺害したのだろうか?という謎から始まる。

フォークも探偵役になるがもう一人頼もしい味方が町に外からやってきたレイコーだ。
この二人が常識的な人間なので読んでいてほっとする。
嫌がらせをフォークは過去の事件を覚えている人たちから受けるのだが、これも読んでいて胸が詰まった。

誰が(現在の事件の)犯人なのか、誰がどうしたのか、というのは途中でなんとなくわかる、動機まではわからないものの。
また善人と悪人がぴちっと分かれすぎている感じもする。
あと・・・PTAのあの怒っていたお母さんの話はいろどりなのか、あれで終わりなのか。
父との相克があまりにやるせない、と思ったりしたのだが、これもこれで終わりか。
そもそも、名前にフォークとあるだけで、疑われるという状況は一体何だろう?フォークに助けてもらったかもしれないし、フォークに連絡していざという時は、かもしれないし。名前があったから疑われる??
といろいろ思うのだけれど、読む手が止まらないのはいったいどうしたことだろう。
要は書き方がとてもうまいのだ。
伏線が絶妙に配置され、そして、フォークがある言葉で気づくというところが最大に読む側に!!という気持ちを思い起こさせる。
犯人がわかってもそしてそれが当たっていてもなーんだという気持ちにはならないミステリなのだ。
それぞれの人の心に抱える鬱屈、その人が生きていく状況、などがまざまざと喚起させられる。



以下ネタバレ
・(ごめんなさい、フォークのお父さんがずうっと犯人だと思ってました、過去の事件の。)
しかし過去の事件は、これだけ嫌がらせをしていたマルとグラント・ダウとは・・・とことん腐った奴ら・・・
エリーは父親に虐待されていた。そこから逃げようとした。
そして用意して隠したのがリュックサック。
私は、あのリュックサックに涙が出た。劣悪な環境から必死に逃げたかったエリー。

・現在の方は、あの校長がいかにも、で最初から怪しいのだが。
動機が分からなかった。
ギャンブル好きというのが、パブのバーテンダーの人の一言でわかるフォークが素晴らしい。