2017.04.14 コンビニ人間


評価 5

とても面白かった。

この本を読んで、現代の若者の持っている時代の閉塞感、と感じる人もいるだろうし、人と自分が違っている違和感、に共感する人もいるだろうし、なんとか普通であろうともがいている人間に対する作品と思う人もいるだろう。
読み方がいろいろできる、ということにおいても、たくさんの人が読むのがわかるという作品だった。
その場をコンビニという現代人がほぼ行ったことのある場にする、という場所設定もまた秀逸だと思ったのだ。
無機質と思えるコンビニ。
でもそこはまた不特定多数の人が集まるある種の「場」であり、そこで物が売られている「店」でもあり、そこはかとない店員との淡い淡い交流もある「特定の空間」である。

読んだ後、同居する男性の白羽さんのべったりとした気持ち悪さがずうっと心に残った。
普通であろうとし続けるために「私」がしたこと、それは・・・・

世間の人々が全員わかりやすい解説を自分に課しているとしたら。
こういう行動をしたとしたら。
未婚の女性がポツリといるよりも、あの人は同棲している、だから結婚していないのだ、だからコンビニ店員でもあり得る、というのが確かにものすごくわかりやすくなる。
しかもこの白羽さんは、途中で問題を起こしている元コンビニ店員なのに、皆口を極めて悪く言っていたはずなのに、こと動静に至ってはなんだか微笑ましいという感じで迫ってくる姿が逆に怖かった。

「私」が人と合わせようという努力、これは普通の人でも日常にしている、誰でも素のままでは人と付き合えないから。
でも、やはり常識の範囲で考える人が多数派であり、人と合わせようとしながらも合わせられない人を偏見の目で見るというのは確かにあリ得ることだなあと思った。
こちら側とあちら側。
その境目って見えるようで見えない。


評価 5

ミステリであると同時に第二次世界大戦を背景とした歴史小説だ。
最後の解説を読むと、アメリカヤングアダルトの最優秀作品になったと書いてあったが(他の賞でも高い評価を受けているらしい)、ヤングアダルトがこんなに水準の高い小説を読むのか、と驚いた。
ヤングアダルトにも読んでほしいけれど、大人でも十分読み応えのある小説だと思った。

第一部の冒頭部分から誠に辛い。
なぜならナチの拷問場面から始まるからだ。
それは、暗号や合言葉や周波数を教える代わりに、一枚一枚の着るものをもらえる、というものだった。
着るものを一枚恵んでもらう・・・・???
拷問されていたのはスパイ容疑の若い女性でナチの捕虜になっていて、服を脱がされて寒いところに投げ捨てられているのだ。
着る物をもらうために告白!
過酷を極めているこの拷問場面から話は始まる・・・・
途中途中にもこの辛い場面(これ以上の場面も)は出てきてそこはとても辛かったのだが、読み終わった時に、一条の光が差してきたように思えた小説だった。
また、手記の中でかつての青春の日々(捕虜時点でも十分若いけれど)が鮮やかなタッチで描かれている。
ここが瑞々しく、戦火の中での女性同士の友情、同僚に対する敬意、ほのかな異性に対するあこがれ、飛行機の中から見た外の景色、仕事への情熱と愛国心、と、印象的な場面が多々あって、飛行機の姿とともに忘れ難い。
特に、こわいもの10個を二人で数え上げる場面と、飛行機の中から見た美しい太陽の色の場面(139ページから140ページの美しい描写と言ったらどうだろう!)が印象に残る。

第一部と第二部が全く別の書き手になっている。
そこも読みどころの一つだ。

ナチの親衛隊大尉フォン・リンデンは容赦がない男だ。
その男に求められ、捕虜の若い女性はイギリスの情報を手記にするように求められ、それを必死で書くのだった。
田舎の少女だったマディが美しいクイーニーという女性飛行士に憧れ、女性飛行士に抜擢されクイーニーとまたとない友情を築き上げる姿を。
飛行機を愛してやまないマディの姿を。
三人称の観点で小説のようにその手記は描かれていくのだった・・・・


前半は交互にこの書いている女性の心情と現実と、手記が現れていく。
きらきらした青春の日々の手記の物語と、今現在となんと違うことだろう。
マディが飛行機に憧れ人に憧れ、男性よりも優れた腕前を持っていくようになる経過は、マディのはつらつとした表情と一緒にこちらの胸に飛び込んできた。
途中まで私はこの手記は→マディ←が捕虜になり彼女を客観的に自分で書いているのだと思っていた。
捕虜の名前はここでは明かされていないのだから。
ところが、途中で、これを読んでいるナチの親衛隊大尉が、喝破する、この中の→クイーニー←がお前だろうと。

この途中でアメリカのインタビュアーが入る。
ナチ側もそこは用意していて、捕虜女性を美しくなんとか見せるように努力してインタビュアーの前に出す。
見張られているのでどのような言葉のやり取りもじっと見られている。
読んでいると、(気づいてよ!!彼女がひどいことになっているのに気づいてよ!!)
と地団太踏みたくなる。
→(このインタビュアーのやり取りの真相が第二部で語られ、ああ・・・なるほど・・・と思うのだった
インタビュアーはこの最後で自分の分のシャンパンをあげた、クイーニーに。
これで彼女のここでの待遇がほのかにわかったのかな?とゆるく考えていたが、第二部を読んでみると、インタビュアーにわかるように巧妙に自分の拷問の体の跡を見せていた賢いクイーニーがいた)←

過去のことを書いている青春の日々の手記の中に、クイーニーの兄が指を吹き飛ばされた戦場の話も出てくる。
ここもユーモア交えて書いているけれど、口にくわえた指のみが残るってどういう状況なのだろう・・・と涙が出た。

・・・・・・・・・・・・・
第二部は、第一部を受けての物語だ。
ここにきて、そうだったのかそういうことだったのか、と第一部を新たな目で見ることになる。
第一部の最後で、クイーニーが仰天の発言をしている→自分がジュリーという名前で彼女たちに呼ばれていたという事実だ。本名はジュリーだった。が、まだこのあとがある
この仰天発言をうけているので第二部でそれが普通に言われていても、あ、こういうことだったのだと思う。

最後のところで全てがつまびらかになる。

以下ネタバレ
・187ページは非常に重要場面。
なぜなら、インタビュアーのアメリカン人女性が、フランス語で真実(ヴェリティ)を探していると言った。
ヴェリティこそがジュリー(クイーニー)の重要な暗号名だった。
彼女は動揺はしたものの、すぐに持ち直した。
このインタビューでなんとか自分の方の情報を伝えようとして努力するジュリアの姿があった。

・ジュリーは無線技術師からスパイ、マディはパイロットとして仕事に従事している。
ジュリーはスコットランド女王メアリーの血筋を引く貴族。
マディはユダヤ人の庶民階級の娘。

・ジュリーとマディは同じ飛行機に乗っていて、ジュリーは捕らわれの身に、マディは助かっていた。
しかしお互いにそれぞれの生死がある時点までわからなかった。
何度となくマディは探すのだが見つからず、そして自分の脱出もなかなかうまくいかず、その中で偶然インタビュアーがジュリーを見つけ出したのだった。

・マディは最終的にジュリアを殺す羽目になる。
フランスのオルメのゲシュタポ本部を爆破することが任務であった。

・手記には一切書かれていなかったが、ジュリーに付き添っていた女性(監視役と思われいた)は、煙草を常にくれた。そして最終でマディたちの協力者にもなってくれたのだった。
最初の段階から彼女はなにくれとなくジュリーを庇ってくれている。
2017.03.29 完璧な家


評価 4.9

郊外の豪華な邸宅にハンサムで優しく魅力的、弁護士である夫と暮らすグレース。
誰もが羨む完璧な夫婦に見えるのだが、実は・・・


一瞬ありきたりの小説、と思えるが、実はそうじゃなかった、的な小説。
そうなのだけれど、それだけではなく、読ませるのだ、この小説は。
グレースの気持ちが痛いほどわかるから、夫の鬼畜のような行動がはらはらどきどきさせるから。
読んでいて何度、本を取り落としそうになったことだろう、驚いて。
最初の方は、ジュリア・ロバーツの映画愛がこわれる時、を思ったのだが、途中からさらにこの小説は壮絶になってくる。
加速していくのだ、夫の行動が。


監禁されているわけではないのだが、監禁されているのと同様の女性がなぜ逃げないのか、逃げられないのか。
この小説を読んで、脅迫と絶え間ない言葉の数々で『無力感に襲われる』という意味がわかった気がする。
最初は抵抗して逃げようとするのだが、それがすべて奪われていたと気づく瞬間がこの小説にはいくつかあった。
ポイントポイントで逃げようと思えば逃げられた瞬間というのもまた事実あるのだ。
けれどそこで彼女は逃げられない。

最初、夫になるジャック・エンジェルは、障害のあるミリーとともに踊ってくれたりして、親代わりになってミリーを大切にして育てている姉のグレースの心をわしづかみにする。
更に結婚後一緒に住もうとまで言ってくれる。
ミリーは豊かなジャックのおかげで心地よい施設に入れてもらえる。


壮絶なサイコサスペンスだ。
ここには今のところ(小説の最後まで)は、惨殺死体もなければ、血も飛び交っていない。
でもそれを予兆させるようないくつもの出来事が実に巧妙に描かれている。
絶望、友人の前での演技、綱渡りのような二人のやり取りが、過去と現在に分かれて描かれている。
ここでとても重要なポイントになってくるのが、主人公のグレースのダウン症の妹のミリーだ。
彼女の障害の程度、が最初のうちわからないので、読者もグレースの夫と同じような感じでミリーを受け止めていると思う。
けれども、実は、というところもどきっとしたところだった。

悪魔のような夫。
それが一番怖いのは、『精神を病んでいるのは本来は夫』なのに。夫の地位と穏やかな物腰と巧妙な事前の策のために、どんなに妻が誰かに訴えようとしても、逆に『ちょっと精神が病んでいて妄想気味なのは妻の方』と受け止められてしまうところだ。
この中で一番怖かったのはそこの部分だった。
また、場面で一番怖かったのは、ホテルの隣の人に助けを求めに行く場面だ。
夢に出そうに怖い、ここは。

また、悪魔のような夫がいる、というのに周囲と接触していながら誰も気づかない。
唯一、もしかしてこの人は気づいている?と思っている新しい隣人エスターがいる。
読んでいるうちに、(エスター気付け!)とグレースと同じように願っている自分がいた。

現在と過去が交互なので、本当の後半になってこれが効いてくる。
結局、どうなったのか。
そういうもどかしい気持ちでページをめくっていったのだった。
赤の部屋と黄色の部屋、これも大きなキーワードになってくる。

以下ネタバレ
・夫は恐怖を与えてそれを楽しむという性癖があり、過去に母親をも殺していた。
そして
ミリーを恐怖に陥れて、その彼女を見たいという欲望に捕らわれる。
ミリーを手に入れるためにはまずはグレースだった。

・グレースは全てを支配されていて、言葉の一つ一つまでチェックされている。
もしジャックの意に沿わない何かがあれば、すぐさま家に戻ってからお仕置きがある(ミリーに会わせない、部屋を小さくする、食事を持ってこない、服を着せない)


・ミリーが大好きな色は黄色。
黄色の部屋も作ってある(外向きに)
しかし地下室に真っ赤な異常な部屋を作って、更には絵の得意なグレースに虐待された女性の写真を模写するように命じて、それを何個も飾っている。

・この黄色い部屋がポイントとなるのは、
最後、エスターは、気づいていたのだ、グレースが支配されていることに。
そして彼女が殺したことに。
だから、死んでいたはずの夫が手を振っていたと言ってくれた。
エスターの確信は、『確かに夫のジャックが赤い部屋を作った、ミリーのために』と言ったのに、ミリーが来たお披露目の時に『黄色い部屋をミリーが大喜びした』ということから、ジャックが死んだ後に地下室に真っ赤な部屋があったということで、繋がっていくのだった。

・ミリーは、自分が眠れないと言って睡眠薬をもらいそれをためて、グレースに渡す。
これが彼を殺すことができる原動力になった(最終的には、餓死、なのだが、彼が殺した犬と同じで
2017.03.20 がん消滅の罠



評価 4.4

余命半年の宣告を受けたがん患者が、生命保険の生前給付金を受け取る。
すると、その直後に病巣がきれいに消え去ってしまい、癌でいう完全緩解の形になる。
一人だけならともかくも連続して起こるこの事象・・・いったい何だったのか。


まずこのミステリの謎が、あったはずの癌がなくなっている!という、人の興味を引き付ける謎だ。
癌患者の担当者、夏目医師。
そして癌の研究者で夏目の友人である羽島。
この二人が中心になり、この謎を解いていく・・・
冒頭の部分で既にミステリがあって、ここである一つのミステリの仮説は消える。
あったはずの癌がなくなっている、というのだったらこれをまずミステリ的には考えるだろう。

読んでいて、ミステリの謎を解いていると同時に、癌そのものがどういう治療法があるのか、癌患者が民間療法に頼る気持ち、保険金の仕組み、鬱病患者が文学作品を残す理由、など他の部分にも読むべきところがあった。
ただ・・・夏目と羽島たち友人たち、との会話のやり取りがいかにも長い。
保険会社の森川、夏目の婚約者紗希、森川の同僚水嶋・・・
何度かこの会話があるのだが、誰が誰やら会話のトーンが一緒なので、女性男性の区別はつくものの、夏目と羽島の区別がつきにくくここが非常に読むのが難航した。
誰なんだろう?このしゃべっているのは。
誰なんだろう?この意見を言っているのは。
常に常にこれを考えながら読むってどうなのだろう。

またこの話、もう一つ、復讐劇のようなエピソードも入っていて、それにからんでラスト一行の驚きもある。
けれど、これまたどうなのだろう。
驚きはしたが・・・

肝心のなぜ癌患者が回復したのか、という謎解きも心地よい謎ときには私には思えなかったのだ。
これだったら悪意を持った医者が現実にいたら、いくらでも出来るではないか・・・いかに物語とはいえ。

以下ネタバレ
・生活に困ってお金が欲しい人と富裕層(つまり権力者)とにわけている。
1.生活に困っている人については
免疫抑制剤を投与した後、他人のがんを入れる。
癌は増殖する。→ここで末期がん診断をもらい、保険金をもらえる。
が。
いったんはこうして癌になるが免疫抑制剤の投与をやめれば、
癌は消滅。
(しかし免疫抑制剤を投与したことによって、本人の癌リスクが二倍になる危険性も同時にある。これを本人は一切知らない)

2.富裕層は、病院側が利用する人であり、薬の認可、またはアンダーグラウンドのあれこれができる人、など用途は様々だ。
癌を盾にの脅迫なのだ。
初期がんが見つかった権力者にまず普通の治療を。
そして切り取った癌から遺伝子操作で自殺装置を組み込んだがんを患者の体内に戻す。
ポナストレンAという昆虫のホルモンに似た化学物質が体内に入ると複数の自殺装置がオンになる仕組み(つまり癌が治る)
(これは、癌をもともと持っている人にしかできないことなので、1の生活に困っている人にこの方法は用いられることはない。
また逆に、1の免疫抑制剤の方法は、脅迫することでその人が他医療機関に移る恐れがある。
それでは癌がなくなってしまうのでこれまたできない。
両方がどちらか一方にしか有効ではないのだ。)

3.宇垣医師は、西條医師の娘だった。
精子提供の果ての子供だろう。
西條医師とともにいる、現在は。

4.西條医師は死んだと見せかけてたが、死んではいなかった。
死んだのは西條医師の妻の不倫相手。
(この不倫相手の子供が、西條医師の自殺した娘の父親なので、血液毛髪などから彼が父親、つまり西條医師と認定された)


評価 4.6

長年のシリーズだ。
面白かった~けれど、ここにきて、後半のパーティー騒ぎに乗り切れなかった自分がいた。
なんだろう?前に見た既視感からか?
皆でわいわい楽しくやる、っていうのが前はあれだけ笑えたのに、今回そこについては普通の感じで遠くで見守っているよ、という感じだった。

そこよりも。
もしかして病気?重大な病気?という顛末をあれこれ書いた箇所、もうここは痛いほどわかった。
結果待ちまでの気持ち(しかし作者は強い!周りのほうが焦っているという不思議もあるけれど)、あと奇妙な怖いお医者さんには大爆笑させられた。
おじいさまが政治家でありその血を受け継いでいるところも大笑いした、こんな政治家がいたら大変だって!!
あと、ディーン・フジオカへの花粉症からの言及も爆笑したが、いいんだろうかこんなこと書いて!
花粉症ではないので、花粉症の辛さが今ひとつわからない私だが・・・
2017.01.31 ぐうたら上等


評価 4.8

毎年毎年、この一年を振り返る、という意味で読んでいる本だ。
中野翠の視点でややシニカルに斬っていく。
2016年に何があったのか、
どういう映画が流行っていたのか、
どういう出来事が(芸能・政治的なことも含め)あったのか。
一年の終わりにはこんなにも忘れてしまっているんだなあと思う。

そして2016年の最初は、ベッキーとSMAPの話題だったんだ!と思い出した。
野坂昭如が亡くなった年だったということも。
トランプが最後の方で出てくるのだが、まだこの時点では大統領ではないので生温く世間も見ていることがわかる。
それにしても、いつでもいつでも激動の一年だったなあという思いを強くする。
本ではなんといっても、コンビニ人間の記録的な売り上げだ、ここにも取り上げられている。

映画も見ているものと見ていないものがあるけれど、ハドソン川の奇跡は良かったなあ確かに、とか、ブルックリンの余韻の良かった話とか、がとても頷けた。


評価 4.6

タレントの赤裸々告白、とは一線を画すものだと思った、読んでいてしんとしたとても寂しい気持ちになったり陽気になったり、心の何かを揺さぶられたからだ。
読んでいて、なんてアイドルでいることは難儀なことか、と。
自分の両親の話も触れられているけれど、お母さんをユミさんと呼んでそして今はお年を召されているけれど、傍から見るとぶっ飛んでいるお母さんの姿が垣間見える。
普通の家庭環境ではないところで育ったのを恨むでもなく、何かをうらやむのでもなく淡々と生きている(ように見える)作者がいる。

どうしても読む側は、彼女の一部のプライベートを念頭に読む。
けれどそれは本当に一部の一部であって、そこに至るまでの心の動きは当然読めていない。
ボーイフレンドがいて、離婚があって、原宿があって、あの頃の自分がいて。
そして猫がいて。
芸能界の数多くの沈んでいった人たちを思い浮かべ、その厳しい世界で生き残った(今のところ)作者の心の内を思ったのだった。


評価 4.7

とても長いのだが(なにしろ4巻)、長さを全く感じさせない本だった。
楽しめなかったといえば嘘になるだろう。
なのだが・・・

どうなのだろう、3までは私は興奮状態で読んでいて、次を次をゼイゼイ!という気持ちだった。
母の死、それに伴うある絵の謎、ほのかな恋心、恩人への裏切り、自分の複雑な家庭環境の中で生き抜く術、そこで培われた強烈な友情、そしてその友情から発展した絵の(また絵に戻る)行方・・・息をもつかせぬ展開だった。
特にボリスとの友情場面が青春物語としても読めて、孤独な大人に見放された少年二人、が互いの家で映画を見たり冗談を言い合ったり、人生経験がありすぎるボリスにロシア語を教えてもらったりと、目が離せないくらいに面白かった。

ところが4を読んでみて、前半は意外な展開で終わる→テオが殺人をやむなくとはいえ犯してしまう怒涛の展開。
後半に至り、こういう感じにまとまるわけ?ととても残念な気がしてならなかったのだ。
なぜなら、テオ自身の自分を見つめる独白、彼の内省のような話になってきたからだ、特にラストの方、これなのかこれで終わりなのかこの素晴らしい物語は、と思ったのだった。

ラストは哲学に終わってるのか。
あとボリスとの会話は長すぎないか。
ボリスとの友情場面(この前の巻とかで)は素晴らしいので本当にこれで終わるのかと思うと惜しくてならない。
ラストの20ページ余りがこの本を強烈に愛するかどうかの境目だと思った。
私としては、彼の話よりも、全部の物語を物語ってほしかった、それこそが現代のディキンズだと思うから。
謎は解かれたものの、もやっとした気分が流れた。


評価 4.9

大学を卒業して、家具職人ホービーの手伝いをしているテオがいる。
ここで、ある人間に脅迫されることになるのだ、それは、最初は古物を偽って売っている、という単純な脅迫と思いきや(これはホービーに打ち明けることができる)、実は美術館の絵を持っているというのを嗅ぎつけられている。
しかも贋物のその絵が危ない人達の間で回されていることが分かる。

一方で、アンディ一家とまた親交が深まり、妹キッツィと婚約することになったテオ。
ボリスもやってきてまた友情が復活するのだが・・・
しかしこれは悲劇の始まりでもあった・・・

ここでピッパとのまたまたの再会があり、彼女とのひと時が婚約者と過ごすよりも心地よいということにテオは気づいていくのだった・・・折も折、婚約者キッツィも問題を抱えていることが分かる。
そしてボリスが新たな問題を出してきた・・・

以下ネタバレ

・かつてテオがお世話になっていたバーバー一家。
家長のお父さんは神経を病んでいた。
そして、お父さんとテオの同級生のアンディは不幸な船の事故で亡くなっていた。
妹のキッツィは、テオと婚約していたが、学生時代テオを裏切った男と深い仲でそれが途切れていなかった。

・自分の盗んできた絵、は、完全に隠しているつもりだった、今は有料の倉庫に万全の扱いで。
しかし、かつてボリスはこれに気付き、取り出して、別のものを入れていたのだった。
だから、テオが贋物が危ない人の間に出ている、と思った絵は実は本物であった。
そしてテオは何も持っていなかったのだった。


評価 4.9

勝手な父親とその愛人に引っ張られ、ラスベガスの果てにまで来てしまった「ぼく」がいる。
もしかしてアンディの家にずうっといたら、そこで養子にしてもらったかもしれないのに・・・という思いも消えなかった。

この巻、学校での唯一の友達、しかし親友になるボリスの存在が非常に大きかった。
そこが読ませるのだ、ちょっと変わり者のボリス。
数か国語に通じているボリス。
はちゃめちゃな生活を送っているのに親も誰も気づかないし見ようともしない。
子供たちは子供達の生活をしているだけだ。
そしてそこで強烈なボリスと「ぼく」との友情(愛情でもある)が芽生える。
この二人の男の子の様子がなんといっても読んでいて楽しい。
ひとりぼっちだった「ぼく」に異色の友人ができて、それは普通であれば親が眉を顰めるよな友人なのだが、ここではそういう人もいないので、好き勝手に二人の家を行き来している様子も青春物語だ。
しかし、後半でボリスの恋愛が入ってきて、やや、「ぼく」が投げ出されるようになっている。

一方で隠している美術館からとってきた一枚の絵、は絶えず「ぼく」の頭を悩ましている。
誰にも見つからないようにするためにはどうしたらいいのか。
どうしたらこの罪の意識が消えることがあるのか。
こういうジレンマにさいなまれるのだ。
破天荒な生活をしている「ぼく」が最後の方で、父親の借金トラブルに巻き込まれていく、というのがなんとも辛かった。
変則的な形ではあるけれど、これはこれなりに友達がいて幸せではあったのに。

そして舞台は、犬を連れた膨大なバスの旅を経て、
都会のホービーの元へ・・・・
新たな展開が待っていた・・・