2018.02.09 皇帝と拳銃と


評価 4.8

内容は非常に面白い。
どの話にも二人組の刑事がいる。
・一人はイケメンの、俳優にでもなりそうな顔とスタイルを持った爽やか刑事鈴木
・一人は死神のような様相で葬儀屋としばしば思われるくらいの暗い雰囲気をまとった乙姫警部
最終的には、主に乙姫警部が鮮やかに事件の謎を解決するのだ。
この二人の凸凹コンビとても面白いので、これからも連載に使ってほしい。

コロンボを明らかに意識していて、倒叙推理小説になっている。
だから最初に誰が犯人かというのを読者はわかっている、その手口とともに。
それをどうやって解き明かしていくのか、そこを見せてくれるのが死神の顔をした乙姫警部だ。
最後に部屋を出ていく時、尋問が終わってほっとしている犯人に向かって一言思い出したように言葉を投げかけるのも、コロンボと同じだ。

この中で特に面白かったのが、劇団員の話恋人たちの汀だった。

強欲な叔父。
彼は異常に嗅覚が敏感であらゆる消臭スプレーを部屋にまいていた。
そこに現れた甥の劇団員の男。
叔父から自分の恋人を愛人として差し出せという理不尽な要求に激怒し、殺してしまう・・・・


この物語、劇団員のチラシの形がくっきりと机に残っている(A4の紙というのが見て取れる)とというところから、チラシが確かにここにあったというのを導き出す手がかりがお見事だと思った。
劇団のチラシなので犯人の甥が持っていったのだが・・・
後の鑑識の結果、上の方に置いてある劇団の山のようなチラシには消臭スプレーがかかっていなかった。
ということは、これは、積まれたチラシの『二枚目』であったという証明になった。
また偽装工作で、恋人を別の男性とカフェで見かけさせる作戦も、逆に彼女が偽証をしているということになっていった。更に彼女に偽装工作を頼んだ時間が、死体発見の時間より早い、というので犯人特定につながっている。


表題作皇帝と拳銃と、は、皇帝が大学の先生という設定だ。

皇帝と呼ばれる稲見教授。
彼の元に来たのが、事務の経理の男だった、そして彼は使い込みを指摘し皇帝を恐喝したのだった。
けれど皇帝の稲見教授は、事前に拳銃を持っていた。
拳銃から弾が本当に出るという事を見せつけ、事務の男を屋上まで連れていく・・・


冒頭で、別部屋から何冊ものおおぶりの本を移動して本棚に並べそこに拳銃から弾を発射して、大学の先生を恐喝していた事務職員を逆に脅す場面がある。
後半本の移動が大きな問題になる。
これだけの本の移動をどうやったか。
それには段ボールが当然必要だった。そして段ボールのところに指紋がついていた。
また移動された本は掃除の状態から何だったかわかるのだが、その本のそれぞれの内容の脈絡がない。
つまり犯人が内容ではなく、単純に棚の本をごっそり欲しかっただけというのが見て取れた。
また屋上でまだその先があると思わせ、事務職員を歩かせるトリックは、すぐに乙姫警部が見破った。


運命の銀輪は、殺人を河原で起こし、何食わぬ顔で帰宅した男を刑事達が追い詰める話だ。

最初の部分で自転車、を盗もうとしたホームレスが問題になっていることがわかる。
このホームレスがなぜ殺人犯の自転車を覚えていたのか。それは、
登録番号が、自分の誕生日とこの年の47歳というので偶然一致したいたからだった。
また、犯人が宅配便(殺人直後に家に帰って宅配が来る)のサインした文字がやけに丁寧だったという事もあった


最後の吊られた男と語らぬ女は異色作だ。
ややすっきりしない、なぜなら
醜形恐怖症が今一つぴんとこないからだ。
美しいのに自分が見にくいと思い込む女性の物語。
そしてこの話、自殺であるのに他殺のように見せかけるという逆のことをしていることに注目したい。


・・・・・・・・・・・・
とまあ、話は面白いのだが・・・。

乙姫警部の形容に『うっそりと』の乱用が目立つ(ほぼ30ヵ所ぐらい)
なんでこんなにあるのか、同じページに連続であるところさえある。
うっそりと、はちょっと特殊な言葉だし最初の方では効力があった気もするけれど、これだけあるというのは何かの意図なのか。
そこが気になってならなかった。

(後半うっそりとのっそりとが混在しているところも何ページか・・・
2018.02.08 北の空と雲と


評価 4.7

ある意味素晴らしい、ずうっとずうっと全くぶれていないのが。
どこまでもシーナであり、どこまでも変わらずシーナの道を行っている。
たまにこの世界に思い切り浸りたくなって読みたくなる。

東北地方を何度か分けて旅している写真と文章がある。
(何度か分けているようだが、この本ではそこがとても分かりにくい。
第一回とか第二回とかそこを書いてほしかった。
きっと雑誌連載の時にはここがわかったのだろうが、一冊になるとわからない)


美味しい煮干しラーメンを求めて。わしわしラーメンを食べる。
いい表情の子供達に出会ってその無邪気なあいさつに感動する。
男同士で馬鹿話をして何もみのりがないのにおおいに盛り上がる。

このみのりのなさ、こそが椎名誠の旅の原点だと思った。
そして皆があこがれるのはわかる、何もみのりはないものの、そこには自然があり少年のような目があり、仲間がいるのだから。
好きな写真を撮って、好きな文章を書いてそれを本にする、というのを体現した人の一人だと思った。


評価 4.5

すごく面白そうになりそうな『気配』のようなものは感じる、全体に。
が・・・
最初の方で、姉ジュリーが夜の寝床から誰か男性に誘拐されていたのを目撃するジェイン、という妹がいる。
この絶望的な状況がここでよくわかる、侵入した男にナイフを突きつけられながら部屋から出ていく姉・・・
非常に印象的な場面だ。

そしてそこから8年がたち、というところから物語は始まる。
これは、監禁、の物語というよりも、監禁から逃れて帰ってきた我が子、の話、でもあるのだ。

13歳のジュリーが誘拐されて音沙汰がなかった。
何物かに誘拐されたままだったのだが、唯一の目撃者が寝室の近い妹のジェインだった。
両親は八方手を尽くすが、全く手掛かりはなく絶望のどん底に落とされる・・・
しかし8年後、ジュリーが家に戻ってきた!!


母の立場の一人称の語りが入ってくる、だから母の感情の流れというのはここでわかってくる。
一人の娘がいなくなり、もう一人の娘も今は家を離れている。
そして彼女の心の奥底には、ジェインはあまりの恐ろしさにクローゼットの中で数時間震えて両親に話すことができなかった、という事実が残っている。
これは、初動捜査ができなかったという決定的な出来事だ。
残された娘ジェインに対しても、なぜ、その場で言ってくれなかったのかという忸怩たる思いが母親の脳裏から失せない。
このあたりが読んでいてとても分かる感情だ。

一方でジュリーが育った姿で戻ってきて、嬉しさ爆発で、でもその間に起きたことを徐々に聞いて知っているうちに暗黒の心に覆われるように母親はなっていく。
毎日のように性虐待されていた自分の娘。
そして全く変わってしまった娘。
彼女を受け入れたい、どんな贅沢でもさせてあげたいという気持ちから一緒に服を選びに行ったりする。
大学から戻ってきていた妹のジェインも受け入れようとするし、父親もまたぎこちないながらも大喜びでジュリーの帰還を喜ぶのだ、ある意味父親の方が無邪気に喜んでいる姿が描かれている。

・・・
しかし時がたつにつれ、ジュリーがいくつかの秘密を持っているのに気づく母親がいる。
加えて、私立探偵のアレックスが、彼女はジュリーに化けたある一人の少女であってジュリーはもう死んでいるという証拠を出してくる、ジュリーそっくりの少女が歌っている動画をユーチューブで見つけて・・・
しかもジュリーはここ半年性行為はしていないと言ったのに、妊娠していて流産する。
この矛盾は?

揺れ動く母親の心が手に取るようにわかった。
本当のジュリーなのか?それとも偽者でジュリーに非常に似た誰かなのか?

途中色々な名前の人が出てくる。
誰だろう?これは?
一体この場面は何だろう?
と読者は思う。

最後、本当に悲しい事実がわかってくる。
読ませるのだが・・・

ただ、ジェイン(妹)の姿が今一つ最後の方でよくわからない。
ジェインもひどく傷ついているのは確実なのに。
あと父親の不倫問題が途中で入ってくるが(ジュリー基金の横領とともに)、ここも必要だったのか。
また次から次へと新しい名前の新しい人が新しい生活をしている姿が読み取れる。
これの何も答えがないままにまた、母親独白が始まり、ラストまで行くと新しい名前の新し人達が何かというのはわかるのだが、この『カタルシス』のようなものが少ないように思えた。
ああ・・・そうだったのか!!という落としの部分がぎゅんとこちらにこない。

以下ネタバレ
・色々な名前はジュリーだった。
色々な名前になって、ジュリーは生きのびてきたのだった。

・両親のもとにやって来た女の子は本物のジュリーだった。
私立探偵が持ってきた死体の写真は、一緒に暮らしていた別の少女だった。
ジュリーは生き延びたのだ。

・元々、知り合いの人間に連れていかれただけで、ティーンエイジャーのジュリーは自ら出ていった。
そのあとが悪夢のようなことが起きるとも知らずに、無邪気に一人の男性を信じて。

・最初、両親ともにジュリーを見た時に、ジュリーと認識させる何かがあった。
それこそがジュリーが本物であるという証拠なのではないか。
ここに疑いを持つという母親側の心理がもうちょっと描かれていたら、と思ったりした。
再会した瞬間、ジュリーと認めたわけだから、そこには親として何らかの絆があったのだろうから。
2018.02.07 この世の春




評価 4.9

時代小説音痴とでもいう私が読めたので、時代小説としてのハードルは低いんだと思う。
どちらかというと、ミステリの世界が色濃い。そこにプラス重要な要素が加わっている・・・
よくこの世界観を時代小説に取り込もうと思ったものだ、とそこにも感心した。

とは言いながらも、最初の方で誰が誰の関係者なのか、この用語は何なのかとか(時代小説特有の用語)戸惑いもあった。
しかしそこは親切にも、フリガナが必ず章の最初の方には振ってあり(全ての小説こうして欲しい。名前の特殊な読み方とか忘れるし)、人々の人間模様は最初の扉の裏に人物相関図があるのでそこを参考にし、用語はすぐに解説がある。
最初、押込(おしこめ)????と思っていたのが、後半、うん、あのことね、とすぐにわかるようになる、なんといっても目の前の世界に押込の当主がいるのだから。
本当に巧いと思う、達者に書いているというのが読んでいて頭を何度もよぎったのだった。

江戸時代半ばの六代将軍徳川家宣の時代。
下野北見藩二万石に起きた政変からこの物語は始まる。
北見藩藩主の若き北見重興(しげおき)は、新参の伊東成孝に藩政を任せ切りにしていた。
「病重篤」を理由に代々の家老衆によって強制的に隠居させられる(いわゆる「押込(おしこめ)」)。
重興は藩主の別邸・五香苑の座敷牢に幽閉され、憎まれていた成孝は切腹した。


冒頭にこの成孝の幼児の息子が必死に助けようと連れて走ってきた女人とともに多紀の目の前に現れる。
まずここで各務多紀という若い女性が父親とともに登場する。
彼女はなぜここにいるのか、というのは徐々に紐解かれていき、よんどころのない事情で嫁ぎ先から戻ってきた出戻りだったということがすぐにわかってくる(けれど彼女がそれではなぜそこから戻ってきたかというのは後半までわからない)
多紀の疑問は、なぜ父が成孝失脚の時に頼りにされたのかということだった。
そもそも成孝という人物は本当に権力を笠に着て藩主を操っていたのだろうか。

・・・・・
このあと五香苑という当主が幽閉された館に勤めることになった多紀。
常に多紀を見守ってくれる従兄半十郎、医者、藩主を幼い時から見守る元家老石野織部らとともに、藩主重興を見守っているうちに、重大な重興の秘密に触れるのだった・・・

この禁忌の重興の心の襞に触れていく多紀の姿が徐々に歩み寄っていくという感じで好ましい。
気丈ではあるけれど、決して芯がぶれない女性多紀の姿は男以上に凛々しくてそして頼もしい。
一方でこの禁忌の心の動きは非常に現代的なテーマでもあるので、医者がなんでこんなに現代医学的なことを言えるのかなあ・・・優秀な医者なのかなあ・・・という違和感は確かにあった。


以下ネタバレです。


重興は多重人格になっていた。
ある時には強い男性になり、ある時には幼子の女性名の男子になっている。
その分裂ぶりが凄まじい。
目の前にこの豹変ぶりを見て、徐々に多紀はこの分裂が何で起こったのか、というのを重興の言葉をもとにして、解き明かそうとするのだ、そこにはもちろん医師の診断も入っているし、幼いころから見守ってきた石部の話も入ってくる。
重興の父を殺したのもほかならぬ重興であった(違う人格に支配され)

そこにプラス城下で幼い男の子が神隠しに何年にもわたってあっている、多紀の母方の実家が先をを見るみたまくり〉なる魂を操る技を持つ一族であることもわかってくる。
更には、死んだと思っていた成孝は洞窟のようなところで生きていたのを助け出し、彼の口から、母方の実家の出土村が全員死亡の出火があったいきさつを聞き、成孝がその真相を探るべく重興に近づいたことを知るのだ・・・(が、このあと成孝はすぐに行方不明になる)、成孝と多紀は血のつながりがあった。

(この話、幼児虐待の話だ、しかも性虐待。それによってダメージを受け、多重人格になる重興の姿が痛々しい。
プラス、操られていたとはいえ、父親から息子への性虐待だ。
ここが、多紀以上に私は読んでいて辛かった。
性虐待だけでも辛いのに、ここに肉親が加わるとは・・・
しかも殺された子供達が、この息子への性虐待をするための前座のようなもの、というのが更に更に辛かった。)


前半から中盤までは謎が多かったので、何?なんで?(特に死んだと思った成孝が生きていたのには驚いた)と思って読み進めていたのだが、後半はもう多重人格がほぼ決定で、しかも性虐待も決定というところで、これが操られていた父親であってもなんでも、読み進めるのがかなり苦しかった。

救いは、五香苑の使用人であるおごうやお鈴(この顔にやけどをした女の子の造形も非常に良かった)や寒吉、のすがすがしい姿と、多紀の必死に生きる姿だ。あと不器用に生きているように見える半十郎、そしてなんといっても重興のことをずうっと見守ってくれる石部織部の姿が忘れ難い)
2017.12.30 海月通信



評価 5

毎年買っているシリーズなのだが・・・今回出版がちょっと早い?というような気がした。
年末押し迫ってからだと、確かに見落とすしなあ・・・
これを読まないと一年が終わらない・・・

今回も一年振り返って、あれこれあれこれ世間であったなあ、映画ではこういうのがあったなあ・・・という中野翠さんの視点で語られていく。
今回ちょっと思ったのは、いつも映画の趣味が違うなあ・・・と思っていたのだが、意外に今年は合っていた(ベイビードライバーとか、ララランドとか)
ラ・ラ・ランドの試写の時の話は笑える。
スマホをそんなにやりたかったら・・・本当に本当に映画館でスマホをつける人って何だろう?と毎回思っていたので、抗議した女性素晴らしい。
しかも試写会って映画ファンが集まるのじゃないのか?そこでスマホって・・・

小池人気の都議選が今年だったのね、と改めて思った、もう昔の事のような気が・・・いわば一周回ったのがこんなに早いんだ、小池さん・・・と思ったのだった。

・・・
中野翠さんのイラストがちょっとついていてそのページも案外楽しい。
似ている、俳優さんとかその人に。
そこはかとないイラストなのに似ているところがおかしみがある。
また、俳句が毎月ついたというのも嬉しいところだった。

サンデー毎日の連載をまとめた本なので、(ああ・・・これが出た直後に読んでいたら!)と思うことが多々あった。
(終わってしまった運慶展覧会など彼女の口を借りるとなんて楽しそうなんだろう!行けば良かった。)


評価 5

とても良かった。
穂村弘の読書日記なのだが、単に感想が書いてあるだけではなく、また評論でもなく、彼独特の目線で本を語っているスタンスがたまらなく面白い。
いつも彼の読んだ本について書いてある文章を読むたびに不思議な気持ちになる。
それは、
自分が本を読んだ感想を自分は巧く語れないけれど、プロなので私の思いを巧く言葉に出してくれたというのではなく(そういう書評家もいるけれど)、
『自分では思いもよらなかった感想だけれど、もしかして心の奥底ではこれを考えていたのかも!そうかも!いやきっとそうに違いない!』
という激しい思いに駆られるからなのだと思う。

たとえば、ジャブリゾの新車の中の女の場面で、子供がトランクにいる死体について語る話が出ている(132ページ)
子供がまだ死を知らないのであの人は眠っているんだよ、というところまでは読者は考えるだろう、私もそこは思った。
けれど、ここが人の心を揺さぶるのは、このあとに続く穂村弘の文章だ。
『我々もまた本当の意味では死を知らない。死すべき運命を知識としては自覚しているだけで、実際の詩を体験していない点では「子供」と同じ。だからこそ心の深いところを揺さぶられるんじゃないか』
ああ・・・なるほどなあ・・・

また初めての半村良を読んだ時の話(168ページ)もそうだ。
半村良を「奇想天外な世界像の背後に、びりびりくるような真面目さを感じて胸を打たれる作家がいるけれど、半村良もそのタイプだろうか。』とくくっている。
そしてこの作家群に、楳図かずお、筒井康隆、平山夢明を出している。
ああ!!なるほど!!!確かに繋がりがある!!

・・・・
古本屋さんでちょっとした高い本を買うかどうか悩んでいる姿もまた好ましい。
また穂村弘の文章を読んでいると、貶してはいないが、自分には合わなかったなあというニュアンスが(あくまでニュアンスというところが上品な雰囲気を醸し出している)びしびしこちらに伝わってくる、そこもまた一興だ。

漫画もよく読んでいて(何しろフラワーズを予約している!)、自分が初めて読むという既存の文学作品もまた躊躇なしに語っている。
知ったかぶりをしない、偉そうな感じがない、というのも穂村弘の特徴の一つだ、そしてここもまた好ましい。
偉ぶることのないほむほむ、この姿勢を崩さずに楽しい本の話を続けて欲しい。
2017.12.27 狩人の悪夢


評価 4.7

面白く読んだ。
夢と矢が重要なアイテムになるミステリだ。
ミステリ作家有栖川有栖と臨床犯罪学者火村英生のシリーズの中でも比較的好きな作品の一つだった。
ホラーとミステリという分野は違うけれど、作家が二人出てきてお互い作家業、作家道についての意見を持っている、というところでもまた読ませる。(そして非常に重要だ)

対談で知り合った売れっ子作家でありホラー作家の白布施正都に誘われ、彼の京都の住まい『夢守荘』に有栖川有栖は招かれる。
白布施の担当編集者江沢鳩子とともに。
しかしその翌日、白布施のアシスタントがかつて住んでいた獏ハウスと呼ばれる家で一人の女性が殺されている、
女性の右手首はなかった・・・


犯人、動機というのは、最初の方からすれた読者ならわかると思う、比較的ありの感じの話だから。
けれど、手、がわからなかった。
なぜ、右手が切断されていたのか。
そして、そこに残されたもう一つの血まみれの手形というのは何だったのか。

ここを最後の方で、火村が推理して犯人に突き付けてくる。
このあたり非常に読みごたえがあると思ったのだ、冒頭の方でたまたま落雷があり、たまたま木が倒れるということが記述されているが、それがこんなに大ごとになっていくとは・・・

一番のクライマックスは、犯行後犯人がどういう行動をとったのか、というところだった。
そしてなぜそれをしなければならなかったか、という理由もわかるにつれ、なるほど、と思えてくる。

・・・・
被害者の女性像というのがわかってくるにつれ、そしてその(切ない)文通の最後の言葉が明らかになってくるところなど、昭和の懐かしき推理小説の味わいとすら思ったのだ。
またこのミステリ、火村と有栖川との掛け合いもまた楽しい、薀蓄話も楽しいし、火村のいまだに見る悪夢というのも興味がある(結局謎はわからなかったのだが最後まで)
2017.12.22 怖い絵の秘密


評価 4.9

とても面白く読んだ。
怖い絵展に行くために事前準備として読んだのだが、まず大判になっているところが嬉しい。
絵画の細かいところがよく見えてくる。
どうしても見開きで一枚の絵、になるので、その間がとても見にくくなるのは致し方ないことだろう。
表紙にもなっていて、この展覧会の目玉にもなっている
『レディ・ジェイン・グレイの処刑』
は、実際に展覧会で見たら、迫力があったが(思ったよりずうっと大きかった・・・)、この前知識がなかったこれほど楽しめなかっただろう、そういう意味でこの本とても意味がある本だった。

この本の解説とか描かれていることは、怖い絵シリーズで読んでいたのでそれほど新しいことではないけれど、それでもこの絵を展覧会で見どころですよ!ぜひ見てください!というのがまるっとわかってそこは嬉しい。

更に嬉しいのは、最後に宮部みゆきと作者との対談がついているところだ。
ああ・・宮部みゆきもこのシリーズのファンだったんだ、とそこも読んでいて浮き立つような気持ちになった。
2017.11.23 黒い睡蓮


『ある村に、三人の女がいた。
ひとり目は意地悪で二人目は嘘つき、三人目はエゴイストだった。』


評価 4.9

モネの睡蓮の有名な村ジヴェルニーで、絵画コレクターでありそして滅法好色な眼科医が殺される。
眼科医は女性に手が早く、村でも有名な美貌の小学校の女性教諭ステファニーにも言い寄っていた。
ステファニーは結婚しておりその夫はジャック・デュパンだ。
また眼科医もまた結婚していてその相手はパトリシア・モルヴァルだ。
この殺人事件が、眼科医への愛憎の絡んだ恨みから来るものなのか、またはモネに関する財団があるので絵画取引での怨恨のためなのか。
事件を担当するセレナック警部はまず女性教諭ステファニーに話を聞くことにする・・・


驚いた。
ただただ、愕然とした。
技巧に満ちたミステリでとても面白く読んだ。
ある部分までは、起こっていることは殺人事件でありそれを捜査している刑事がいるという大筋のところがあり、それプラス事件が起こったのが観光客もやってくるようなモネの『睡蓮』の村であるのでモネの教養小説の趣もある、というミステリになっている。
この部分、読ませるが、あるところまで来ると推理が進まないし、しかも村人の長靴を集める?という捜査方法だし、捜査している警部が美人小学校教師にめろめろになるし(違反だろう!と突っ込んでいた)、折々に挟まれるお節介そうな老婆は一体どういう役割をこの事件で果たしているのか、だし、つまりは、読ませるのだが一体全体捜査はどうなってるのか!犯人は誰なのか!というので悶えながら読むことになっていく。更には何が問題なのか段々わからなくなってくるのだ。
途中の死体消失も、これは妄想なのか?少女の、と少女の母と同じく思ったりする。
途中まで少女の周りの友達が全員妄想の人かと私なんかは思っていた・・・・

巧緻にできたミステリだ。
あるところで、ばくっと真相が割れ、そこから謎が解けていくスタイルのミステリだ。
ただ・・・いくつか私には腑に落ちない点もまたあったのだった。
あと・・・腑に落ちないのとは別に、違反じゃないか・・・と思った箇所もあったのだった。

以下ネタバレ
・最初のトリックは名前トリック。

この村の子どものそれぞれの小さい頃のあだ名が以下の通り
●ステファニー(大人名)はファネット
●ジャック・デュパン(大人名)はヴァンサン

●後に眼科医のジェローム・モルヴァルはカミーユ
●後にジェロームの妻になるパトリシアはマリ

●本当の名前がアルベール・ロザルバは、ポール(小学生の時にジャック(ヴァンサン)に溺死させられた)

・・・・・・・・・・・・・
・次のトリックが、このミステリが時系列に描かれていないということだ。
読んでいる限り、眼科医の死、アメリカ人老画家の死は同時期に起こっているように見える。
またステファニーの夫と、ステファニーと駆け落ちをしようとしたセレナック警部との対決場面も同時期に起こっているように見える。

実際は、
これが全て同列に描かれているので、全て『同一の時期に違った事件が起こっている』と読み手は思う。
けれど実際には、

・老アメリカン人画家ジェイムズの死(ステファニーの子供時代その1)
・ポールの死(ステファニーの子供時代その2)

・眼科医の死(ステファニーが結婚してからの大人になった時代)

というのはこの順番に起こっている。



・奇妙な老女がうろうろしている話がある。
同列に、眼科医が殺された話、が出てくる。
またファネットという絵の上手な小学生の女の子がいて、絵を描いているうちにある老人の男性と知り合う。
彼の名前はジェイムズでファネットの絵を認めてくれているのだが、ある日殺される。
ところが、ファネットが殺された場所に行ってもその死体はすでになくなっている。
しかもこれに関してなぜかセレナック警部たちは気づいていないし動こうともしていない(なぜなら過去の事件だったから)

ファネットの信頼のおける大好きな男の子ポールもまたある日溺れて亡くなってしまった(なぜならファネットが気に入っていたのに嫉妬してヴァンサンが殺したから)
ファネットの好きではない同級生、ヴァンサン、カミーユ、マリも折々にファネットの周りをうろつくのだった。
小学生たちを見つめる小学校教諭ステファニーの姿もまた何度も描かれている、一種執拗なまでに(ステファニーはファネットであるということを隠すため、でも決してファネットとステファニーは同時にいないということにも気づく)
そして事件の捜査をしているセレナック警部は、人妻ステファニーに強烈に惹かれていく・・・

ステファニーとセレナック警部が駆け落ちしようとしているところに、ステファニーの夫ジャック・デュパンが現れる。
そして犬のネプチューンを殺し、先に来ていたセレナック警部に脅しをかけて立ち去らせるのだった。
ジャックは妻のステファニーに偏執狂的な愛を抱いていた。
妻の心はとっくに離れていたが。

この直後、505ページでネプチューンが現れて読者はぎょっとする。
けれど、これは何代目かのネプチューンだった。

・513ページでファネットとステファニーが同一人物である、という驚愕の事実がわかる。
そこから、ステファニーの夫の告白により全てが明らかになる。

・途中でローランタンという老警部が出てきて、なんだかローランス・セレナック警部と名前が似ていて紛らわしいなあ・・・と私は思っていた。しかもローランタンとセレナックは連絡を取り合っているようでもなく、いったいどういう関係で、どういう意図でローランタンは捜査しているのか・・・?と思っていたら。
ローランタンはローランスが年老いた時のあだ名であった・・・

・一人称のステファニー老女語り、で、実際は回想なのにあたかも目の前で見えるように描いている叙述トリックだ。
が、これ、違反っぽい感じもするのだが・・・
なぜなら、最初のところで、時も書かれているのだ2010年と。
だから当然読者はこの老女(後から思えばステファニーの成れの果て)が見た眼科医の死体の話、はこの時点と思うだろう。
ここは回想といえばそうなのだが・・・
一人称、何でもできるなと。

・腑に落ちなかったのは、
アメリカン人画家のジェイムズ死体をもう一度探しに行ったステファニーが見つけられなかったこと。
これに関して、死の床にあるステファニーの夫が移動したと言っているが・・・
ラッキーと言えばラッキーな話であるけれど、そしてこういうこともあるだろうけれど・・・

・ステファニーが夫のジャック・デュパンの異常性にうすうす気づいて、つまりは全くそりが合わず、相手が愛してくれても自分は愛せない、というところも、やや腑に落ちなかった。
ここがもっと夫から逃れられない感じ、とか、夫が勝手に執着する感じ、とか、もっと際立たせればいいのに、と思った。
たまに、勝手にステファニーが不倫をしたと見えるのも確かだ。


評価 4.5

人と違った能力を有する女子高生菜月。
その違った能力とは、同じ一時間をループすることだった・・・
菜月、はケン・グリムウッドのリプレイを思い出し、自分のことをリプレイヤーだと確信するのだ。

タイムリープ物で必ずあるように、この物語の中にも法則はいろいろある。
・このループはいつ起こるかわからない
・どうやら5回で終了し、5回目が『本当の事実』として認識されそこに投げ出されるらしい。
つまり、過去に行って何をしてもその過去は変わらず、連続している過去、ではないらしい。
いわば、最初飛ぶ4回は、夢の中の出来事、のようなのだ。
・あることが起こる。
・けれどそれを次の回に上書きできる。
・でもそれは最終回の5回目で確定してしまう。

けれどそこにいくらかの真実は混じっていて、いくらかの齟齬もある。
夢の中というのには、あまりに現実がまずあり(この場合文化祭)、そこで一人の男子高校生が転落事故に遭う事件というのは繰り返されているのでここは確定事項だ。
更に、出てくるクラスのメンバーとか、喧嘩した女友達とか、好きな男の子とか、先生とか、そういうのは一緒だし起こっている出来事も同じだ。
その人たちの微妙な秘密が、タイムリープしているうちに(こういうことだったのか・・・)と解き明かされていく。
ということは、この繰り返されている過去というのはどこの時点なんだろう?5回目の前の4回の過去ってどこにいったのだろう?(というのがよくわからなかった・・・あれはあれで消えたのか?でもそうすると少しずつ話が繋がっているというのはどうなるのか。また5回目で今までの知識を身につけた菜月とかは、どの時点の過去に繋がるのか?)

・・・・
青春物、なので、屋上で告白された菜月が必死に拓未を探す姿に胸打たれる。
菜月の特殊な体質ゆえ、誰とも心を通わせられず絶えず周りに気を使い、自分の進路すら親友たちに話せなかった彼女のジレンマというのも伝わってきた。

文化祭の楽しい様子、衣装デザインの得意な子が夢中になってやってくれるファッションショーの盛り上がり、男の子たちのバンド、放送部の番人の恩返し、と読みどころは多い。
途中途中で謎が入ってきて一つ一つは大したことのない謎なのだが、その謎解きはとても楽しかった。
全体よりこういう小さいところが私には楽しめたのだった。

が。
全体に楽しく読んだのだが、腑に落ちないことが色々あった作品でもあった。

以下ネタバレ

わからないことが多くて申し訳ない。

・最後にもう一人過去を繰り返すリプレイヤーが出てくる。
それが幼い時からモデルをしていて、クラスから浮いている理奈だった。
彼女が拓未を屋上から突き飛ばした犯人で、途中の回でクラスの女の子を鋏で刺殺する犯人。

ま・・まさか、突然同じリプレイヤーが同じ高校に現れるとは!
しかも同じ時期にリプレイしているとは!
(え、と思ったが、共鳴するということで説明されていた)
よくわからないのが、彼女のリプレイと菜月のリプレイと見るものって一緒なんだろうか。
外側(文化祭とかその他の様子)が一緒ってことか?

・中学生の時のリプレイの話は途中で終わっているけれど、この時に5回とわかったのだから(多分そう、それ以来なかったと高校の菜月が言っていた)、そのわかった時点の話って重要じゃないかなあと思った。

・親友たちとの和解があまりに短い。
それに伴って、後半がちょっとバランス悪く短いような気がした。

・放送室の番長を巧く使う菜月の親友の話、拓未にかかってきたいたずら電話は彼と自分の彼女が一緒にデートをしていた(実際は誕生日プレゼントを教えてもらっていた)男子高校生の嫉妬の話、拓未のジャンパーに頬を埋める教師に菜月は、担任が男子の拓未に思いを寄せているとある回では誤解するのだが、それはヴィンテージジャンパーに対する想いだった話、クラスの友達が言った拓未君の意外な一面の話、など少しずつの日常の謎の作り方、ここは非常に巧いと思った。

・あれだけ探していなかった拓未は最後どこにいたのか?
ここもわからない。
更にもっとわからないのが、菜月は告白されたものの、拓未のことをずうっと好きだったのか?ここが伝わってこなかった、好感度の高い男子というのはわかっていたけれど。

・何回目かで、親友の弟に写真室暗室に閉じ込められる。
あれは何だったんだろう?
どういう意味があったのだろう?
途中で親友弟が、風船の写真を撮っていたけれど、あれは菜月を撮っていたのか?(というのがよくわからなかった)