評価 5

じわじわと両方の側から迫ってくるような美しく忘れ難い物語だった。
ミステリの趣もあり、前半で語られている、孤児院で兄妹が偶然聞いているラジオの場面がとても印象深いのだが、この謎が後半するっと解けていく。
盲目の少女と一人の孤児の男の子の話ではあるものの、この二人は一瞬しか邂逅しない。
その一瞬の邂逅で、二人は何かを分かち合うのだった。

物と人の出る場面との調和もバランスが良く取れている作品だ。
物は、炎の海と呼ばれるダイヤモンド、重要なことを知らせてくれるラジオ、家のミニチュアセット、そして忘れてはならないのがジュール・ヴェルヌの『海底二万里』の本だ。この本が何度も登場してこの物語の根底を支えている。
触るダイヤモンド、触るミニチュアセット、音で聞くラジオと本、と五感があらゆるところに感じられる。

章の冒頭ごとについている1934年から1944年の間の年号と日付を丹念に見ていると、今がどういう時期なのかということがわかってくる。
最初は、盲目の少女がなぜか一人で家に残されているという状況(おじさんはどこに行ったんだ!と思った。お父さんはどこに行ったんだ!と思った。盲目の少女を一人置いて)が語られて、避難しろというビラがまかれていて手には取るのだが盲目なのでそれを読むことができない状況というのが淡々と語られている。

パリの戦時下で育った盲目の少女マリー=ロールは、パリの博物館に勤める父に愛されて育っている。
父は彼女のために近所の道路と家の街のミニチュア模型を作り(これがあとになって仇となる)それを触らせて近所を教え込み、外に実際に連れ出すということをしている。
また博物館には伝説のダイヤモンドがある。
みるみる戦火は激しくなり、二人はサンマロにいる大叔父の元に身を寄せる。
一方で、孤児院で妹とともに育ったドイツに住むヴェルナーは手先が器用でラジオを組み立てることから始まり数学も独学して才能を秘めている。
彼が作ったラジオで、不思議な無線通信を聞く兄と妹・・・
彼はナチスドイツの技術兵に抜擢されてそこで過ごす日々になるのだった、妹とは離れた場所で。
そこで出会った親友が鳥の大好きなフレデリックだった・・・


ほぼ交互に二人の様子が語られている。
断片のような言葉の羅列もあって、一つ一つがとても短い。
だからそれに従ってどんどんどんどん読んでいける。
長い物語だが、読み始めたら意外にすぐに読み終えるのだった、深い感動とともに。

マリー=ロールが大叔父の家にいる様子は最初の方ではとても美しく気高く微笑ましい。
前の戦争がもとで外に出られなくなった大叔父と、家政を切り盛りしているマネック夫人の様子も手に取るようにわかり、ここには戦時下と言えども愛があり、本があり、その本で繋がっていって、読み聞かせがあり、本の世界がこの悲惨な状況をある意味救ってくれている。
それぞれの人間のマリーへの心遣い、それに対してしっかり答えていくマリーの幼いながらも人間的に成長していく様子などが如実に語られている。
しかし一転、マリーのために模型を作ろうと近所を測量していた父が捕まってから暗転していく。
必要ない電波を遮断するためにラジオの撤去が始まるが大叔父の秘密のラジオは渡さないのだ。

一方で孤児のヴェルナーはよくわからないまま、それが栄光への道と信じてナチスドイツの技術兵となっていく。
兵隊なので、そこは肉体的にも訓練されていくのだが、落ちていく生徒というのがいて、それを兎を追いかける狐のように集団で追いかける種目(ゲーム?のようになっているが)が怖い。
捕まらないで逃げおおせようとする兎役。
誰が一番弱いと思うかという上官の問いに対する答え。
ヴェルナーはある時期までは信頼しきっていた組織だが、親友のフレデリックが標的になり始める少し前から、おかしいのではないか、とやや思い始める。
が、彼はいかんせん子供なのでこのすべてを止めることができない。
このあたりのジレンマがこちらに伝わってきて、ヴェルナーの妹への手紙で、検閲で黒い部分がありすぎ本当のところは何と書いてあったのか、とそこにもぐっときた。
ヴェルナーが自分が来てしまった場所がもしかしたら違うのではないか、という逡巡が芽生えてきてしかしそれに対して何もできないという場面が大変読ませる。
フレデリックの実家に行って、母親が当時のナチスドイツ熱烈支持者で裕福な暮らしをしていてパーティーに明け暮れ、おとなしくそもそも兵士に向いていない息子の様子を全く見てあげない場面も印象に残り、これがあるからこそこの後の悲劇もまた際立っていた。

マリーとヴェルナーという二人の子供がどのように心が動いていくか。
いつもいつもある種の取捨選択がありそれをどのように決断していくのか(子供なのに。しかも少女は盲目なのに)
どのように自分の心の中で全てをこなしていくのか。
その結果、二人とも年齢より大人になっていく成長具合をこの小説で読み取ることができた。

後半、マリーの父に預けられた炎の海と呼ばれる伝説のダイヤモンドを求めて、ドイツの下士官がやってくる。
彼の名前はフォン・ルンペルで、彼がとうとうマリーのいる家にまでやってくるところは息をもつかせぬ緊迫感に満ちていた。
そしてここでも大叔父の隠されていたラジオが役に立つ。

最後、登場人物の中で生き残った人たちのその後、が描かれている。
この部分も非常に思いのこもったその後、であった。
あれだけヴェルナーが心を砕いていた妹ユッタの戦時中のその後、もまた悲しみに満ちたものだったが、最後に光を見出してくれたような気がしたのだった。

(表紙はロバート・キャパ)
2017.04.14 処刑の丘


評価 4.4

このミステリ、時代背景というか、フィンランドの内戦というか、そこがとても重要なのにそこが全く知識がなかったので、何度も最初の方を確認しながら読み進めた。
最初の方に、日本人のための註として、こういう内戦があってロシアとドイツがこういう乗り込み方をしてきて、赤と白に分かれていて、この村はどちらになっていて、というような簡単な背景を書いてくれないものだろうか。
いきなりロシアボリシェビキの支援を受けた赤衛隊・ブルジョワジー中心のドイツの後ろ盾の白衛隊と言われて、わかる日本人ってどのくらいいるのだろう。

1920年代初めの内戦がまだ終わったばかりの南部の都市ラハティ。
このサウナにマッサージ係として勤めているヒルダという女性には娘をかつて白衛隊に殺されたという悲惨な過去があった。
サウナでは分け隔てなく疲れた体でやってくる人たちを慰撫するのだった。
ヒルダにはまた、内戦で心に傷を負いかつてしていた靴づくりの職ができないまでになって酒浸りになっている夫がまたいた。
そして、仲間の思想に染まっていく息子もまた・・・・


処刑の丘とは黒い岩に覆われた丘で、死体が次々に見つかるという状況が出てくるのだが、なんせ警察はほぼ機能していない。
どれも密輸業者とか酔っぱらいの単純な死として扱おうとしているのだ。
上司に阻まれながらも巡査のケッキがこの死の真相に近づこうとする。
その捜査の中で、娼婦のロシアから流れてきたヴェーラと知り合い彼女を愛するようになっていくのだ(なのでここもまた上司に目を付けられる原因ともなる)

この状況下で、虐げられながらも、ケッキの公正であろうとする姿は読みべきところがあった、女には弱いけれども。
また解説にもあるけれど、サウナが一つの『場』になっていて、そこで皆が本音を語ったりくつろいだりしている様子も非常によくわかったのだった。



評価 4.8

SFでもライトSF寄りの物語だ。
とても面白く読んだ、この作者初めてだけれど、このシリーズだったらもっと読みたい。
続くらしいのでこの次も絶対に読みたい。

ちょっと、楳図かずおの漂流教室を思い出した。
ばっと教室ごと子供たちが異世界に飛ばされてしまう漫画だ。
でもこの小説は、ばっと異世界に飛ばされてしまうのだが、
それが複数の小学生で飛ばされたのはある一組を除いてそれぞれが一人であるらしい(まだ全員出てきていないのでわからないのだが多分そう)。
しかもこの飛ばされた世界が、
『地球ではないどこか別の星らしく、それぞれが別の星に飛ばされていて、しかもその星と星は近くにあるらしい』
という状況なのだ。
更には、飛ばされた時には小学生なのに、もう5年たっているので、少年少女になっている。
このあたりもとてもうまい設定だと思う。


あるものは記憶をわざと失ってボーダーになって
あるものはなんとか生き延びようと有名なダンスを踊る人間になって
あるものは過酷な労働環境の星でなんとかお金を貯めてどこかに行って(これも次巻・・・続くのだろう)
そして皆のところを訪ねて回る一人の飛ばされた少女・・・・魚住二葉(彼女が一番謎がある)

必死に生きていこうとする彼女たちの姿が心に響く。
太陽が二つだか三つだか見える世界にいるってどういう気持ちだろう。
誰も知らない人ばかりの世界、言葉さえ通じない世界(これは意外に簡単な通じ方があった)。

最初のきっかけが、どうやら同級生が始めてしまった
「13匹の猫の首をビルの屋上から投げ落とし、自分も身を投げると異世界に行くことができる」
という都市伝説からだった。
この都市伝説からの設定もとても面白い。
元々のこの同級生はどこに?
過酷な工場を脱出したあの少女はどこに?
一時期二人でいたうちの片割れの少年はどこに?
知りたくて知りたくてたまらない。

次巻、5月が待ち遠しい。
またこれと同時に出ている少年Nの長い長い旅も読んでみたい。


評価 4.7

面白く読んだ。
東京藝大の特殊性、そこで暮らす(勉強する)彼らの生態、などが本人たちの声で語られていく。
そもそも、この作者の奥さんが実際の東京藝大の学生さんなんだ、ということを最初に知り、そこからのスタートなんだ!ということに驚いたのだった。
身内のそこから入っていくという驚きがあったのだ。
副題が、天才たちのカオスな日常、というのでとても巧い副題だと思った。

・・・・
藝大といっても、音楽分野と美術分野で大きく違っているというのがよくわかった。
少し前に恩田陸の小説、蜜蜂と遠雷を読んだが、音楽分野の話ではこの小説を何度か思い出した。
やはり常にコンテストなどとの戦いであり、自分が見られる立場であり(美術はそれがないに等しい)、師匠と弟子の関係であり(美術はそれがあってなきがごとし)、同級生と言えどもライバルである(美術では分野によるのだが共同作業というのも確実にあるので総じて仲が良い)

藝術、という一つの物差しでは測れない世界。
その最高峰というべき藝大にどういう人たちがいるのか?
音楽分野では、邦楽や(これなどまだわかるほうである)、ファゴットや打楽器やマイナー楽器に行く人たち、口笛(!)の人、はどういう気持ちでそれをチョイスしたのか。またその後はどうなっていくのか。
そういうところも読んでいて面白かった。
美術系になると更に混沌としていて、私がまったく知らに世界が広がっている・・・・彫金はまだなんとなくわかっていたつもりになっていたが、鋳金っていったい何だろう?と思って読んでいくと・・・・ああ・・果てしない作業・・・・

・・・・
将来ということを考えると、それはそれは厳しい世界だろう。
けれどこの中にいる限りとてつもなく楽しい世界だというのもわかるのだ、また自分の才能を突き付けられる場所、でもあると思ったのだ。
生きていくということ、稼ぐということ、と、芸術性を高めていくということの矛盾を抱えながら彼らは生きていく。

・・・
これ、第二弾を出してほしい。
とても面白かったのだが、やや、突っ込みが足りないような気がしたのだ。
周辺の人たち、親(出てくるのだが、間接的にしか出てこない)、学内の先生(出てくるがもっと出してほしい)、への聞き取りなどがほしい。あともっともっと多くの藝大生にあたってほしい、願わくば、ドロップアウトした人にもインタビューしてほしかった。
藝大生の話だけでもおなかいっぱいになるのだが(満足した)、彼らへのレポのみではなくその先、を語ってほしかった。
2017.02.22 失踪者




評価 5

ああ・・とても面白かったし、考えさせられた。
巧い!
ミステリではあるものの、一人一人の心理描写が細かく描かれているので、それぞれの人物像がくっきりこちらに伝わってくる。
一方で、
「ある結婚式に出るために飛行場に向かった女性が失踪する。
どこに行ったのだろうか。」
という元々の謎は最後までこちらを引っ張っていく力がある。

またイギリスの田舎の美しさの描写にも目を引かれた。
ひっそりとそこで生きていくということ。
そこから離れるということ。
何度もロンドンとの往復があるけれど、彼我の場所の違いが際立ちそれが作品全体に陰影を与えている。

・・・・
5年前にイングランドの田舎町で、兄の介護をしているエレインが幼馴染のロザンナの結婚式に招待される。
飛行機に乗っていかなければならないジブラルタルへの旅だ。
しかし運悪く霧で欠航になってしまう、呆然としているエレインに一つの救いの手が・・・・
ところがそのあとエレインは失踪してしまうのだ・・・



まず、エレインがどのような状況下にあるかというのがわかってくる。
両親のない中介護を必要とする兄に縛り付けられているエレインがいて、彼女は地味でありいわゆる冴えない容貌であり、冴えない人生を送っている。
そんな彼女が初めて外に出るチャンスと思ったロザンナの結婚式・・・
ところがここでも運悪く霧が発生して飛行機は飛ばない。
運の悪い、間が悪い、というのがエレインにぴったりなのだ、可哀想だけれど。
そして飛行場で思わず泣いている子供のようなエレインに声をかけた風采の良い弁護士がマーク・リーヴだだった。
彼は女性に関してはよりどりみどりなので、ここは好意で声をかけ、好意で家に泊めたのに、そのあとエレインが失踪するに至って殺人、強姦などのあらぬ嫌疑をかけられ、全てを失う。いわばマスコミの被害者になるのだ。

この地味などこにでもいる人間のエレインの造型が素晴らしく、彼女がいなくなってからも、彼女の心情を思ったり、本当の彼女はどういう人間だったのかと憶測を皆がするところが読ませるのだ、特にロザンナの推測が読ませる。
エレインが陰の存在とすれば、日の当たる方にいるのが、美人のロザンナだ。
彼女は再婚とはいえ、容姿にも恵まれ、義理の息子には慕われ、夫には愛され、金銭的に何も不自由がない。
しかし何かが足りないと思っている、ジブラルタルに来てからずうっと。
それは、彼女がかつてジャーナリストの仕事をしていた、というところに起因する。
イギリスロンドンから遠く離れたジブラルタルで暮らす(ジブラルタルはイギリスの飛び地でスペインとの国境沿いのイベリア半島にある)ということの淋しさ、愛する兄や父と離れて暮らすということの辛さ、イギリスの自然を見ることができない苦しさ。
そういうものを背負いながら生きているのだ、ロザンナは。
だからこそ、かつての編集長に、失踪した人たちの特集をしないかと声をかけられた時に飛びついたのだった。
調べていくうちに、冤罪ですべてを失ったかに見える一晩だけ宿を貸したマーク・リーヴに惹かれていくロザンナの姿も鮮やかだ。

一方で、隠れて隠れて暮らしていく女性の姿も描きこまれている。
読んでいるときに、これは誰なのか?もしかしてエレインなのか?と疑問が渦巻く(このあたりの描き方もまことに巧い)
更には娼婦が殺されただの、貧困の家庭の中で家出したと思った少女が殺されただの、の事件が入り込んでいく。
これはいったいどうつながるのだろうか・・・・と興味をかきたてられる・・・

・・・・・
この中で、最後の真相にも驚いたには違いないのだが、文章の端々に色々なことを思ったのだった。
思わせてくれる何物かがあった、人間の心理ということにおいて。
そこが非常に面白かった。
たとえば、その中の一つ、
当初から思っていたのだが
『なぜ、さして親しくもないエレインをそもそもジブラルタルにロザンナは呼んだのだろうか』
という疑問がある。
これはエレイン自身も最初の方で自分で自問自答しているくらいなのだ。
幼馴染で、エレインの兄とロザンナの兄が苦しい縁で結ばれている、ということを考慮に入れたとしても。
これに対する回答は、ロザンナ自身がマークに告白している、ここもとても読ませる箇所だ。
人間の心の醜さ、人間の心の動きの不可思議さを如実に表している。


自分の幸せを確認して見せびらかしたいという気持ちもあったのだった、ロザンナには。
これをリーヴに告白するのだ、なぜ呼んだかということを自分で考えていって、たどり着いた結論であった。


また、誰が誰を信じるかという人間の根本的な問いかけには、複数の人が絡まっている。
信頼していたある人間の本性がわかった時にどう思うか、ということも考えさせられる。
その人を信頼していたのに、ある一点で根本的な嘘をつかれた時には、皆、どういう反応が出るのだろう・・・


・隠れていた女性は、本当のことを警察に初期の段階で話していたのか
・ロザンナが編集者に呼ばれてイギリスに戻ったのは、本当にジャーナリストの仕事をしたいだけだったのか
・リーヴが冤罪をかけられたというが彼の言っていることは全て本当なのか
これらの問いかけが後々まで続いていく。

また、エレインの兄が四肢麻痺になった経緯というのはあとになって説明されるのだが、そこまでどういう経緯があったかわからない。
ただただ兄の怒りと屈辱に耐える姿に胸ふさがれる思いに浸らされるのだ。
最後の最後までエレインがもしかしたら自発的に失踪したのではないかという疑念は付きまとっている。
もし自発的失踪だったら、四肢麻痺の兄は捨てられたことになるのだ。
その感情の行ったり来たりも読ませた。


以下ネタバレ
マーク・リーヴがエレインを故意ではなく事故で死んだと最後に告白する。
そして隠ぺい工作をしたと告白するのだった。


信頼していたロザンナの信頼が一気に崩れる。
それに気づいたのかリーヴは自殺。
極度の鬱状態のリーヴであったのだ。
しかも、連れて帰ったエレインが、不用意に一番触れてほしくないリーヴの別れた子供について触れたのだ。
そこに激怒したリーヴ。


・にしても。
リーヴは本当に故意ではなく事故でエレインを失ったのだろうか?
リーヴの元妻の言うことは本当なのだろうか?それともリーヴの言うことが本当なのだろうか?病的な女好きは単に元妻の妄想だったんだろうか?
全てはマーク・リーヴが自らの命を絶ってしまったのでわからない。
が。

エレインの行方を知らない振りをしていた、という事実はあまりに重い。
なので、リーヴがたとえどこかで本当のことを言っていても、嘘だと思わざるを得ない。
きっとロザンナもそういう気持ちだっただろう。

・皮肉にも当初からマーク・リーヴを殺人犯だといっていたエレインの兄の言うとおりになった(殺人はしていないとリーヴは言ったものの、死体を湖に沈める隠ぺいをした時点で殺人犯と一緒の気がするが・・・)




評価 4.5

エミリーという女性が全てを捨てて家を出る、というところから始まる。
なぜ家を彼女は出たのだろう?
そして彼女の生きてきたこれまでの人生は何だったのだろう?
読んでいくとエミリーには愛する理想的な夫とまだ幼い息子がいたということがわかってくる。
自責の念に駆られているエミリーがいる。
ますますなぜ?何に対して?

どんでんかえし、の部分は確かに驚いたのだがそこよりも、私はエミリーの育ってきた環境、のところの方がずうっと面白かったのも事実だ。
視点も変わるし、心理描写も冴えている。

・・・
この物語の中でエミリーの双子の片割れである妹キャロラインが異彩を放っている。
いわゆる優等生で誰からも愛されているエミリーとは違って、いわゆる問題児のキャロラインだ。
生まれた時の状況から詳しく語られていて、どんなに母親が彼女を疎ましく思っていたかというのも語られている(途中までではあるのだが)

途中まで読んで、ひょっとしてキャロラインが夫を誘惑した?とまで思った。
キャロラインが奔放であるので、そう思ったわけだが、ここある意味当たっていることもあるのだが(←ネタバレではないと思います)
これが決定的なエミリーの家での原因ではない。
そしてエミリーの現在の暮らし、何も持たずに出てきた女性がどうやって生活していくか維持していくかというのが克明に語られている。
シェアハウスの汚さも、同室の女性エンジェルの助けている感じも、とてもよく描写されている。
華やかな広告業界に身を置くようになったエミリーの姿も颯爽としているが、そこにはまだ常に後悔が付きまとっている。

後半に行くにしたがって、名前も変えて全てを捨てたエミリーがいわゆる出世をしていくのだが、依然としてなぜ家を出たのかというのもわからない。
初期のある時に、もしかしたら?とは思ったことがあるのだが、それは別の描写で打ち消された(が、ここがあるトリックがあった)

・・・・・・・・・
真相・・・・
なんだか私はすっきりしない。
どうなんだろう、この結末って。


以下ネタバレ

・初期の段階で
主婦が全てを捨ててリセットするという気持ちになったのは
・夫の暴力(いい人に見えてひどかった)
・夫の不倫(妹と)
・息子の死亡(これは初期に思ったのだが、チャーリーという名前が何度も出てきて、それを打ち消された。が!)

・最後の段階のちょっと前で
チャーリーは犬の名前であり、息子は事故で死亡していたちょっと目を離したすきに、ということだった。
犬?

・この話、双子の相克と見ていたのだが、最後の最後で双子はたいして機能していない。
ただ、自分の息子と最後に一緒にいたのは、妹とエミリーではあったのだが・・・・

・それで。
このあと夫と復縁して双子の女の子を生む?
妹は死亡する?
エンジェルはいい人と結婚する?
これって・・・あまりに都合の良い結末ではないか。


評価 5

た・・・楽しい!!楽しすぎる!!このミステリ!!
どうなんだろう、私の苦手とするコージー&ユーモアミステリに入るんだろうかこれって?
もしそうだったら私の苦手じゃないコージー&ユーモアミステリだ。
寄宿学校生の少女たちをめぐる極上のミステリになっている。

まず少女たちの生き生きしているところがとてもとても読んでいて楽しい。
しかもそれぞれの分野(?!)で難事件にあたるというところが微笑ましい。
難事件、と書いたけれど、実際には難事件を糊塗したことをいかに続けていくか(つまり死体を隠したのだ)ということに全員が腐心する。
なぜなら、この少女たち全員が、『多少この寮に問題があったとしても、家には帰りたくない事情』を抱えている少女達だからだ。
それは、最初のこの物語には登場しない、少女たちの親戚及び知り合いたち、の項で語られる(ついでに言えば、もうここからして抜群に笑えるし導入としては秀逸の導入になっている)
だからこの少女たちは、警察が介入することによって、全員がばらばらになり帰りたくもない家に帰されるということを最も恐れているのだ。

聖エセルドレダ女学院には12歳以上の少女7人が寄宿学校生として勉学に励んでいる。
ある日夕食の席で、校長先生とその弟が突然死んでしまった。
この謎を解く前に、まず二人を片付けてしまわないと、全員が帰りたくない家に帰らされることになる。
苦肉の策で、埋めてしまうことにしたのだった・・・・


少女は7人いる。
キャサリンは、気転のキティ。この中で一番目立ち、屋台骨を背負ったという形になる少女。
メリージェーンは、奔放すぎるメリージェーンで、男好きでどの男の子も魅了されてしまうテクニックを持っている、早熟な少女。
ロバータは、愛すべきロバータで、ひょろひょろと背が高く気はきかなないのだが、おっとりしていて親切心があり裏表がない少女。
マーサは、ぼんやりマーサで、人に騙されやすいが歌声が素晴らしく優しい少女。
アリスは、たくましいアリスで、寛大さに富んでいる少女。
エリナは、陰気なエリナで、異常に死とか葬儀と死体に関心を持つ少女。
ルイーズはあばたのルイーズで、器量は良くないが、科学への豊富な知識と関心があり一番小さい少女。

この中で、アリスの演技の才能が思わぬところに眠っていた、と言えるだろう。
なぜなら、アリスは死んだ校長先生のたくましさと似ているのでメイクをして彼女に成りすます。
ありえないだろう~とは思うものの、話の妙に惹かれてついつい本当にある?あるかも、あるだろう、に心が変化していくのが不思議だ。
うまく医者とか手伝いの人を騙せたことに調子づいて、最初はベッドに眠って声をまねしているみたいな感じだったのに、いきなり外に出ていくというところまで発展するのが笑えるし、ここまたあり得ないんだけど、騙されてあげようという気持ちにすらなる。
しかもアリスはこのために自分が気に入った男の人との逢瀬を犠牲にする精神も持っている(この恋愛模様もほのぼのとしていてそれでいて笑える)

恋愛もこの中に入っているし、あくまで死に対する興味が失せないエリナに笑った笑った!
大好きだ、エリナーーー。しかも途中でメイクの技術が素晴らしいという新たなる才能を見出していく(しかも亡くなった人に似せるという・・・)

この寮に来てほしくない人たちが何故かたくさんやってくる、死体を埋めた後で。
少女たちは、誰が殺したか(毒殺というのはルイーズのおかげでわかっていた)ということに心を砕く間もなく、怒涛のように押し寄せてくる人々への対応に追われまくるのだった。
ここが読んでいて大爆笑だ。
やれ、校長先生はどこに行ったとか
やれ、校長先生の弟はどこに行ったとか(嘘が嘘を呼び大変なことになっていくのに当初は気づかない・・・)
やれ、このパーティーが開かれるはずだとか
来る大人それぞれが色々なことを言っていく。

キティの対応がとても光る、たまにどぎまぎしているけれど、なんとか仲間の助けを借りて全ての事態を切り抜けていく。
思わぬ事態にも気転をきかえていくキティはまさに少女たちの羅針盤だ。
一方で、我が道を進むのはメリー・ジェーンであり、彼女が男の人がいると突然本領発揮!というところにも爆笑した。

それぞれのキャラクターの描きわけが見事にできているので、読んでいてほどなく7人が生き生きと動き始めた。
本当に楽しいミステリだった、ラスト、犯人なんかどうでもよくなったといっては言いすぎか。


評価 4.9

まさに恩田陸そのものの世界だった。
少女、不思議な世界、そこに至るお約束事、美しい風景・・・・
児童書レーベルの話だが挿画も酒井駒子であり、美しい装丁で(函もまたとても美しい)それもまた痺れるのだ(ちょっとこの物語には子供たちの姿が幼すぎる画、というのは除いて・・・)
同時に八月は冷たい城、が出たのだがどちらから読むかちょっと悩んだ。
悩んだ末に、月の順番に、と思いこちらから読んだが・・・これが正解だと思う。
謎が持ち越されて、八月の方で解き明かされるので、八月を読んでいたら半減するだろう、魅力が。

・・・・・
夏流(かなし)という坂道と石垣が多い町に引っ越して来たミチル。
中途半端な時期だけに誰も友達ができないまま夏休みへの終業式を迎える。
緑色の目をした『みどりおとこ』から夏のお城への招待状を受け取った。
呼ばれた人は必ず行かなくてはならないらしい。

6人の少女たちとの夏流城での林間学校が始まる。
濃い蔦に覆われた古城で共同生活を始めるミチル。
そこは外部と完全に遮断された世界でもある。
そして・・・


いきなりみどりおとこ、が出てくるので何?これは?と思う。
みどりおとこのなぜか悲しげでそしてちょっと不気味なその姿に怖さを通り越して笑いすら漏れる。

そして唐突に6人の少女たちが集められそれは絶対に行かなくてはならない林間学校らしいというのにも?と思う。
けれど、疑問にあれこれ思いつつも徐々にこの世界に引き込まれるのが不思議だ。
城に3つのルールがあり、鐘が一度鳴ったら食堂集合、三度鳴ったらお地蔵さまにお参りする(お城なのにいきなり日本的なお地蔵さまが!というところでも度肝抜かれる)、そして水路があるのだがここに花が流れたら色と数を報告する義務がある、ということだ。
一体なぜ少女たちは集められたのだろう?
なぜそして家で黙認されているのだろう?
なぜ複数回来ている子がいるのだろう?
なぜ町では何もこのことが問題にならないんだろう?
そもそもみどりおとことは誰で何なんだろう?
なぜ三回の鐘でお地蔵さんに行くのだろう、それも全員が。
花の色と数とはなんだろう?

みちるが最大にわからない人で、彼女の視点が一番読者と同じで寄り添ってくれる。
他の子供たちは、とてもよく理解していること、うっすらとでも理解している子に分かれるのだが、それでも何らかの情報は入っている子が多い。
それならば、なぜみちるは何も知らされていないのだろう?
この話の中のルールも一切わからない状況だ。

・・・・・・・・・・・・・・
最初の語りだしから後半に至るまで、頭が疑問でぱんぱんになる。
不穏な雰囲気が続き、城の雰囲気、女子寮のような女子たちとの謎めいたやり取り、が続き、途中で女の子が失踪する・・・という更なる謎が・・・・
出てきた少年はいったい誰で何だったのか、というのが八月~に繋がっていく・・・
表女子バージョンが七月だったとすれば、裏男子バージョンが八月だ。
八月を読むときにはこれはこうなのね・・・とわかりながら読むのでそこは七月とは違った読み方ができる。
八月~で一気に全ての謎が氷解するのだった。

このような繋がり方があるとは!

話そのものは、荒唐無稽と言ってしまえばそれなのだが・・・
何しろファンタジー世界だから、何でも起こるのだ、ここでは。
不気味な雰囲気で始まり謎が謎を呼び、それがこういうことだったのか!と氷解する時のすがすがしさと言ったらどうだろう。


・・・・・・・・・・・・・・
(付記)
みどりおとこは、『朝日のようにさわやかに』の中の淋しいお城に既出。
2016.12.23 猿の見る夢



評価 4.5

途中で何度も(この馬鹿・・・)と苦笑していたのだった、主人公薄井に。なーにが、みゆたん、だ!!(愛人に向かっての若ぶりメール)
なーにが、女の勘がおそろしくなった、だ!!お前が隙だらけなんだ!!
そして一気に読んでしまったのだった。


馬鹿と思いつつ、なんだか笑ってしまう気持ちもある、主人公の薄井に。
あまりの哀れさに、この初老のうろうろしている姿に、笑ってしまうのだ。
自分が招いたこととはいえ、右往左往している姿が情けないったらない。
会社では張り切って会長にすりよっていて、仕事もしているのだがこの私生活の情けなさと言ったらどうだろう。

夫婦二人で息子が二人無事育っている。
愛人がいる。
銀行からの出向とはいえ、役員待遇の会社にも勤めている。
最初のうち、意気揚々だった彼が(調子に乗っていた)、途中からどれもこれも行き詰っていく様子が読んでいて苦い笑いが出てくる。
詰んだ、といった人生になっていく姿が真にこちらに迫ってくる。

愛人には愛想をつかされ
奥さんには真実を見抜かれしかも占い師を家に連れ込まれ
息子にもほぼ相手にされず
おまけに会社の中で新しい愛人と思った女性が意外に食わせ物というのがわかり
追い打ちをかけるように介護されていた母親が死亡して介護していた妹に非難され財産問題が出てきて
極めつけは会社が吸収合併される・・・・

・・・
この話、あり得る話だから苦い笑いになる。
愛人云々はともかくも、どの人でも薄井の部分ってあるだろうから。
そこを読ませる力を持っているのがこの作者だと思った。
この中で、苦い笑いと言ってられない部分は、遺言書を破棄したところだ。
ここはなんだかひどいなあ・・・・と思ったのだった、全く介護に参加していないのにもらうだけもらうのに妹が怒っても無理はないなあと。

占い師の長峰ってなんだったんだろう?
この人の言うことが本当だったのだろうか?
ただの詐欺師か?
ここは薄井が主張して、怪しい人間というのがわかる。
この真相はわからないまま、とりあえずこの人の言うことは当たっていた・・・
2016.12.09 静かな炎天


評価 5

葉村晶が四十肩!とは!!
長くお付き合いしていると若かった探偵さんも年を取ったものだ・・・と感慨深かった。

6篇入っていて、どれも味わい深いミステリになっている。
ミステリ古書店に勤めながら、その上で探偵業も開いているという形式なので、古書店のイベントのあれこれもとても楽しい。こんなのをリアルな世界で普通にやってくれたらなんて素敵なんだろう。
葉村晶も相変わらずトラブルに毎回ぶち当たり、毒づきながら事件を解決の方向に導いていっている。
不運な探偵葉村の毒づきが今回も全編に流れている。

特によかったのが、タイトルの静かな炎天。
ひき逃げ事故でひどい重傷を息子に負わせた男が普通にまた飲酒運転をしているようだ、その証拠を取ってほしいという依頼が舞い込む。
そして事実そうらしいのだが・・・

この話、次々に依頼が舞い込み快刀乱麻のごとく次々に解決していく爽快さがある。
ところが、実はこの話、ある盲点があったのだった・・・
近所の人がいなくなる時期に、自分の認知症の母を殺そうと思った町会長(熱中症ということにして)
ところが葉村の存在のみがうっとうしいので、なんとか彼女を店から遠ざけようと画策するのだが、ことごとくすぐにすべてが終わってしまう厄日のような日だった。しかも葉村にその計画を見破られてしまう・・・・


最後の聖夜プラス1も、皆からついで頼みをされ、ついで頼みのせいで奔走し、様々な出来事にぶち当たり、最後、店に戻ってくるところで襲われるという悲劇の葉村がいる。
けれどそこには怠りない葉村もまた・・・
重要なサイン本を盗まれそうになるが(ブログで古書店主が近況をアップしてしまっているため)、盗まれた本は偽のサイン本だった。