2017.09.24 ねじの回転


評価 5

新訳ということで何度目かになるけれど読んでみた。
とても読みやすい。
そして強烈に引き付けられる小説だ。

いつもこの小説を読む時に忘れているのだが(今回も忘れていたすっぽりと)、
子供達の異様さ、これは何だったんだ?という不可解さが残る結末、家庭教師の供述、幽霊の有無、という諸々に心をまず奪われるので、物語の構造、を改めて思い出した。
ストレートに、これこれこうだった、という語り口ではなく、まず前置きがある。
しかもそれは、
『炉辺に集まった人たちが怪談話をする』ような会で語られた話であり(怪談を語り続けていく百物語のようだ)、
ここで既に表題のねじの回転という言葉が、ダグラスという男から出ている。
(ついでに言えば、ダグラスの言葉に続いて二人いれば二ひねりだろうという面白くもない(と私には思えた)茶々すら観客から入ってくる。炉辺の皆がリラックスして発言できる場なのだろう。)

じゃあこのダグラスが自分の体験として話した物語なのかというと、これがまたもって回っていて、
・ある女性が書いたものがある
・その人は20年前に亡くなってしまった美しい人だった
・ダグラスはトリニティカレッジ在学中に帰郷した時に彼女に会ってほのかな恋心を抱いた(らしい)
というダグラスからの話が続く。
さて、ようやくダグラスからこの話が始まるかと思うと、まだまだじらしていて、
・この手記が木曜日にならないと届かない
という告白が出る。
ええ!木曜日まで待つ?皆さんそれほど暇人?
当然そこまでに帰宅する人たちもいて(そうだろうそうだろう)、そして少数精鋭がこの物語を聞くことになるのだが・・・・。

ここがまた最後の複雑さになっていて
・語り手はダグラス、だけれど
・この物語をダグラスから託された『私』という元々のこの話の話し手がいる
ということが記されている、ダグラスの死後の後。
『私は、この語りの炉辺にいた人物であり、聴衆の一人であった、そして最初から『私』という人称で登場していたのだった。

つまりは、物語が始まるまでに
・ダグラスが炉辺で手記を読む
・その物語をダグラスから『私』が受け取る
・手記を書いた家庭教師
が前段が描かれている。
これによって、かなり前の話ということがわかるし、手の込んだ経緯で『私』がこの手記を語っている、ということもわかる。
嵐が丘とかの物語と同じなのだが、語り手のある外枠があるのは。
ねじの回転は更にそこに行きつくまで執拗なまでにダグラスからの話としているし、炉辺で語ることになった最初のダグラスの様子や、皆の様子も描いている。
ところで、ダグラスって誰だったのだろう?

・・・・・・・・・・・・・・・・
物語は、イギリスのある屋敷に家庭教師として入った女性が、幽霊を見ていくという物語だ。
そこに幼い二人の可愛らしい兄妹マイルズ・フローラがいて、彼らもその幽霊を見ているらしい。
そして幽霊に影響されているらしい。
悪の世界に兄妹が引きずり込まれるのを阻止しようとする勇敢な家庭教師だ。
全てが、らしい、のは、本当にこの家庭教師が幽霊を見ていたのか、兄妹も邪悪な感じが漂うがこれは家庭教師の錯覚なのではないか、という疑念が読むたびに沸くからだ。
自作自演?無意識にせよ、家庭教師の?という思いがよぎる。
また幽霊がいるとすれば、見える人と見えない人がいるのはなぜだろう。
この物語の中で唯一普通の人、と見えるグロースさんには何も見えないのだから。
ラストの衝撃のことは本当だったのか。→突然幼い兄の心臓が止まって死んでしまう
しかし、それでもなお、揺らぐ家庭教師の心の変化というのがこちらに痛いほど伝わってくる、焦りと汗が滲み出てくるような恐怖というものがひしひしと文章から伝わってくるのだ。
読んでいると巻き込まれ感が半端ない。
読み手もまた幽霊を見ている、確かにと思う場面が連続してある。
なぜ誰もわかってくれないのか。
なぜ自分しか邪悪な存在を理解していないのか。
こういう家庭教師のジレンマというようなものすら伝わってくる。

14章の教会場面が一つの分岐点になっている話、でもあると思った。
14章で兄のマイルズと家庭教師は初めてがっちりと向き合う、彼が放校になった学校について自ら触れることによって。
そして家庭教師は教会に入って行けず、このあとまた幽霊を見ている・・・

・・・・
それで。
『私』は誰なのだ?
再び、
ダグラスって誰なのだ?
2017.05.16 人間じゃない


評価 4.7

それぞれの作品が何かの綾辻作品のスピンオフのような作品だ。

・『人形館の殺人』の後日譚赤いマント
・『眼球奇譚』シリーズ崩壊の前日
・『どんどん橋、落ちた』の犯人当て連作の番外編として急遽書かざるを得なかったという洗礼
・『深泥丘』の番外編蒼白い女
・『フリークス』連作人間じゃない --B〇四号室の患者--

ホラー、ミステリ、不思議話、と魅力いっぱいの作品がつまっている。

表題作が思い切り怖い。
ずずっずずっというような擬音を見ているだけでも何かが出てきそうな気がする。
場所が病院だけに余計に怖さが増している。
絵がおのずと浮かぶ作品だった。

冒頭の赤いマントは、ごくまっとうなミステリだと思う。
誰もいないはずのトイレから聞こえた声、そして血の赤・・・
印象的な事件の後、その真相がわかるのだが・・・

最後のあとがきを読んでいると、洗礼が、書くべくして書かれた作品だ。
お世話になった故人との大学時代からの長い間の繋がりが、謎解きというイベントを通して描かれている。
その思い出とともに犯人当てミステリを構築しているのだ。



評価 4.5

のんびり進む夏目漱石の話だ。
もっともっと専門的なのもあるのだろうが、これはこれで微笑ましく、入門の一歩として楽しめたのだった。
先日来、ドラマで漱石をやったのでなにかこういうものを読んでみたいなあ・・・と思って手にしたのだが・・・。

漱石がものすごく身近になるし、会話とかがもう本当にあったかのようだ。
見合い相手としてきた金之助に一目ぼれした鏡子。
苦労するが大成するといわれた占い師の言葉を信じて結婚する鏡子。

小説家であって神経を病んでいる漱石がいかに扱いが大変だったかというのがよくわかる。
一般的には悪妻ということでとおっている妻は実は夫を懸命に支えていたのだということがひしひしと感じられた。
2016.03.07 謎の毒親


評価 4.5

ああ・・・巧い。
実話ということでとても驚いたが。
この相談形式というのが巧いし、答えの感じも理にかなっている。
誰にでもある、小さい頃の家庭の不思議な出来事・・・と思いきや、この家庭は常軌を逸している。
そう思いつつ次のページをめくらせてしまう力のようなものがあった。

親子の話だが、虐待なら虐待で、ああ・・・なんて悲惨な、と思うだろう。
また、理由がわかっているのなら、だからか・・・・悲劇だ、と思うだろう。
子供を徹底的に管理したいと言う親ならそれはそれでわかるだろう。

この話の相談の場合、親がこうしたああしたということが一切何もわからないところが思い切り怖い。
理由が全く見当たらないのだ、この相談を見ている限りでは。
子供の被害妄想?と思ってしまうほど、わからない。
安全であるべきはずの家庭でこのようなことがあるとは・・・・。
これに一番近いのは、学校のクラスのいじめではないか、これまた意味なく始まっていることが多いようだ。
ホラー小説を読んでいるようだ。

相談者のヒカル。
今はもう介護も終え、親から離れているのだが、それにしても小さい頃から親が不思議な存在だった。
外側はきれいな家なのに、なぜか家中に虫がいるという異様な家。
友達も選別され意味なく罵倒される。
容姿をずうっと馬鹿にされている。
病気だ病気だと言い聞かされている。
体育と数学が優れた子になれと言われる。
運動会で一等賞をとっても話を聞いてもらえない。
頭が臭いと言われている。
外食に行ってトイレに行っているのに、その間に両親がいなくなってしまう(あとから娘が一人で駅に向かったと二人ともが勘違いしていたのがわかるが、怒られる)
女の子らしい格好をするのを否定される。
これらは一体何だったのか。
両親は仲が悪かったのだが、ヒカルへの態度は一緒だった。
なぜなのか、大人になったヒカルは考える・・・そしてかつて知っていた本屋さんに相談することになる・・・


親との軋轢と言う言葉では許されないだろう。
この相談の答えで一瞬納得したような気もするけれど、次の瞬間やっぱりこれじゃないだろう・・・おかしいんだこの親が・・・とはっとするのだ。

特に衝撃的だったのは、布団の中に入ってきて思春期の胸を触ると言う行為だった。
これは何だろう?とそれは思うだろう。
確認か、自分の娘という。
ともかくも全体に、なぜ?というのがわからない。

あとこの本にもあったけれど、一人っ子というのがとても大きい。
これが兄弟さえいれば、その当時ですら話し合えるしお互いに見ることが出来る。
大きくなってから二人で確かめ合うことも出来る。
でもまともなのが一人でおかしいのが親とはいえ二人で、多勢に無勢だ。
「奇妙な出来事にあった時にたった一人でもそれを信じてくれた人がいる」という重要性がわかったように思う。


評価 4.8

フジモトマサルの絵と共に楽しんだ。
日記なんだけど、このシュールさがたまらない。
どれもくすり、と笑える文章だった。

たまに出てくる天使って誰だろう?
天使が意外に突っ込みするのでそこにもおおいに笑わせてもらった。
2015.09.15 夏の裁断


評価 3.5

申し訳ない、さっぱりわからなかった、作家の主人公千紘の心情も周りの男達の心情も。
冒頭とてもショッキングなパーティーの場面から始まる、フォークで・・・

更に私がわからないのは、千紘の過去の出来事だ、これは一体・・・彼女の妄想なのか、だったら彼女は精神的な病気なのか。
ひりひりするような千紘の柴崎に対する思いのようなものは遠くでつかみかけたような気もした。
けれど、このエキセントリックな女性が、若い10代ならともかくも・・・・

裁断というのは、自炊の本を作るということだった。
全く筋とは関係ないが、福永武彦のあの本をばらばらにして自炊すると言うのは出来ないことだろうなあ・・・と思ったのだった。
2015.06.27 虹の歯ブラシ


評価 4.7

前作の○○○○○○○○殺人事件の上木らいちが主人公だ!
前のも下ネタだったが(そして言いたくないが強烈に面白かった)、今回もうそれに輪をかけてすごいことになっている、エロ場面で。
ああ・・これ書いちゃっていいもんだろうか、と思うほどすごい。
ところが、意外にそれぞれの短編が(連作になっている)きちんと推理になっている。
愛すべきバカミスであり、愛すべきエロミスであり、愛すべきもしかして本格・・・

援助交際をしている美女高校生らいち。
彼女は全く貞操と言うものを守ることに抵抗がない。
日替わりで、援助交際をしていて、それぞれの人の色の歯ブラシを持っているくらいだ。


特に新興宗教の館に女性が次々に取り込まれ教祖様に取り込まれてしまった(この話、「普通に」読んでいくと現実に普通にありそうな話なのでそこがまた騙される)と思われる、青は海とマニュキアの色が驚天動地のひっくり返り方だ。
まさか!まさかまさか!
ああ・・下品だがまさか!と言う驚きが・・・

そしてラストの章の話の驚き方と言ったら(その前の章の意味がよくわからないと思っていたらこういうことに・・・)。
えええーこうだったのか?
いやこうだったのか?
侮れないラストが何度も展開する面白さがある、この際エロはどうでも良くなって、らいちは何者かという興味一点に集約される・・・・

以下ネタバレ
・教祖がイカって・・・奇妙に納得させられるが。
しかもそれを食べるって・・・

・他にも色盲、バイ・グラを飲むと色覚異常が出る、放置プレイなので人がいる気配がしない部屋とか、もうそれはそれは、多彩なのだ。

・ラストのらいちが、男、老婆、宇宙人、そしてライチが複数イルと言う仮説までたどり着く過程のQEDがとても面白い。


評価 4.4

わかりにくい小説だったが、私は嫌いではない。
次のこの人の小説を読んでみたいと思ったのだった。
ただ全体にはあと一歩か、あと一歩!

わかりにくいのは、この話、「夢」の話が半分以上になっているからだ。
人の夢の話って面白くない、普通は。
そのあたりで、どこからどこまでが夢でどこからどこまでが本当で、というのが極めて曖昧なこの作品、好き嫌いわかれるだろうなあと思う。
私はこの夢の部分、嫌いではなかった、すれすれのきわどいところで「つまらない夢の話」を聞かされている感は免れている。
ただ後半ちょっと失速する、ダイチ部分でちょっと飽きるのだ、夢の世界にも現実世界にも(このいらっとする事務所の後輩の男は必要なんだろうか?)。
だからなんなんだ、と言う気持ちにもなる。

最初の部分は、ハルという女子中学生がいて彼女の話で、お父さんがちょっと家で嫌な存在になっている、年の離れたお姉さん二人がいる(ひとりは家を出て結婚して子供もいる、ひとりは大学生で家で同居している)。
お母さんはおじいちゃんのお葬式のあとのことで実家に行っている、というシチュエーションだ。
ハルは、ある男子生徒に告白されているがよくわからないと言う気持ちだ。
一方でハルは、過去いじめられていてそのトラウマがあり、今でも大きなグループにはいるがその中の一人を除いては心を許すことが出来ない。いつもおどおどとしている。

一方のダイチ部分は、同棲している女性に子供が出来た。
それを素直に喜べないのは、かつて中学生の時に、きれいな女の子伊吹がいじめの対象になっていてその最後の別れの時に会ったというのがトラウマになっていることがぼんやりと心にあるからだ。

この話、不思議の国のアリスをモチーフにしているので(と思う)うさぎが出てくる。
言葉としてクイーンも出てくるし、男女の双子のぞみとひかりも出てくるし、また顔にあざのある男性もたびたび狂言回しのように登場する。
地下のバー、いとこのシュウちゃん、伊吹の存在、観覧車、横浜の色々な場所、が小説を彩ってくれている。

私はこの話、以下のように考えた。
作者の意図したことと全くずれていたら申し訳ない。

以下ネタバレ
・シュウちゃんはなんらかの事情で亡くなっている(多分外国で客死)。
ハルのお母さんが実家から戻って来られないというのはその暗示(お父さんも途中までは言っているし)
何度もハルの前に出てくるのは、ハルが再び中学校の人間関係につまずきそうになっていて、それを助けるためにこの世界に引き込んで彼女に伝えたいことを言っているのではないか。

・一方で、ダイチの方の中学生時代のいじめられていた同級生伊吹(女性)も死んでいる。これはいじめからの自殺。
だから、シュウちゃんと伊吹は死の世界にいる。
伊吹は、いつまでも自分の死の責任から逃れられないダイチにやはり伝えたいことがあったのと、次に生まれてくる命があるので(ダイチの子供)そこに向かって踏み出して欲しいと言う意図があったのではないか。

・この作品、最初からおじいちゃんの死、ということで死が前面に出ている。
死のにおいが濃厚な作品だ。
一見そう見えないのだが、死の国に(そこにのぞみがいてひかりがいて、うさぎがいて)ハルもダイチも旅しているように見えた。

・ダイチの夢の中を(死の世界ともリンクしている)、ハルが横切り
ハルの夢の中(死の世界ともリンクしている)ダイチが横切っている。

・ハルの部分で、同級生からの言葉がどちらなのか(本当なのか現実なのか)そのあたりがとてもわかりにくい。
これはそういう風にわざと描いたのかそれともそうではないのか。
ここのあたりが、好悪分かれるところだと思う。


評価 4.1

細かく書かれていると思う、女子の内面とか女子同志の距離のあり方とか、家族のあり方とか、ブロガーのあり方とか。
学生の時に始まって、主婦になる人、キャリアウーマンで独身の人、両方をこなしている人、立場が違ってくればそれぞれ見えてくるものも違うだろう。
いや、その前に学生時代にうまく友達関係が築けなかった人というところにもスポットが当たっていると思う。
いわゆる女子のエリートと思われる志村栄利子(しむらえりこ)はいささか戯画化されているけれど、自分を押し通す自己主張の強い女というのはありえるのだろうと思う。
ありえるけれど、話として面白いのは、この人が、普通の何気ない主婦ブロガーの力の抜けたブログに目をつけたところから話は転がり始めるところかなあと思った。

だらしない気の抜けた生活をしているのを一種の売りにしている主婦ブロガーおひょう。
彼女は自分の生活に満足しているが、そこに栄利子という商社のエリート女性の侵入者が入ってくることで乱されていく。
ストーカーともいえる栄利子の行動がエスカレートしていく・・・・


ホラー漫画のように見えた、全てが。
そして、私にはこの話、どこをどう読めばいいのかさっぱりわからなかった、申し訳ない。
特に後半、栄利子の関係した社内の男と結婚する真織の本性の登場に至っては・・・・もう漫画しか浮かばなかったのだ。
後味が悪い小説、というのはどちらかというと好きなのだが、この後味の悪さって、私の求めている後味の悪さとはおおいに違うものだと確信したのだった。

(主婦ブロガーの翔子の側がまだしも心には残った。
彼女の旦那との距離感とかのほほんとしている最初の様子とか、自分が今度はストーカーになってしまったことに無意識であったこととか)



評価 4.9

とても面白い。
タイトルからして、軽くぱっと夏目漱石を振り返っちゃおう!という話だ。
中身も、語り口がとても優しい。
14歳の世渡り術というシリーズなので、ソフトで中学生に向けてと言うスタンスなのだろう。
でも大人が読んでも十分楽しめた。

どころか、漱石をもう一度読んでみたいとさえ思った。
三四郎の脇役に注目とか、短編の面白さとか(このあたり実に面白そうだ)、それからのイメージの豊富さとか、なるほど!と膝を打つような目うろこのところが色々な場所にあった一冊だった。