評価 4.8

さくさく読めるゴーストストーリーだ。
ヤングアダルト小説に入るだろう。
語られている話は凄惨な話もあるのにほのぼのとした読み心地で終わるのはなぜだろう。
どの話も心の中にある何かをかきむしられるような懐かしい気持ちにさせてくれるのだ。
聞いたことがある話というのもまったあって、猿の手などはまさにそれで、またアッシャー(!)夫人などが出てくるし、火事が出てくるし、棺の中からも出てくるしポーを意識したところもあるし、青髭を連想させる部分もあるし、そういう過去の作品とリンクしている部分もまたとても楽しめたのだった。

マイクという少年がお母さんが待っている自宅に急いで車で帰ろうとする。
その時に、偶然道路で見かけた少女を乗せた。
彼女が忘れたものを彼女の下りた場所に届けていくと・・・というマイクの話が外側にある。
マイクは何の役割かというと、ゴーストたちの話を聞く、ということがある。
その中は、次々とゴーストが自分が死んだ状況までを語っていくという・・・


ゴーストの特徴はみんな若かった死ということなのだ。
だから理不尽な死である、ということだろう。
理不尽の中でもまだ事故などはわかるのだが・・・・ほとんどがそうではない。
ゴースト、不思議な事象、不思議なものにからめとられていくような人生なのだ。
けれどここで語られる話は実に面白く、そこに行きつくまでのストーリーに心惹きつけられる。
語りというのが巧い。

姉妹の葛藤で揺れていたエヴリンのように見てはいけない鏡に吸い込まれてしまう話(白雪姫やハリーポッターの魔法の鏡とかを想起した)、や、これはわがままな妹とのやり取りがあり通信販売で買った生き物に追いかけまわされるディヴィッドの話や(ここに出ているような怪獣映画を想起)、蜘蛛の大嫌いな口うるさい先生に嫌がらせをしたことによって後半思いもかけない復讐があったジョニーの話(これが体感としてとても怖かった)や、嘘ばかりを言う放火魔の同級生に翻弄される、うそつきの女の子ジーナの話とか、自分の好きな男の子が事故で死んでしまったのでその直前に手に入れた猿の手でなんとかしようともがくリリーの話や、親友ケヴがある一つの『像』にとりつかれることから身を滅ぼしていくリッチの話や、何かに『没入』し我を忘れてしまう男の子エドガーが両親から引き離され隔離されているのだがそこから発展する凄惨な事件や(これ、歯が怖かった)、叔母に引き取られたトレイシーが叔母がどういう人間だったかを昔の新聞から知り、更に入ってはいけない部屋に入ってしまうとそこには・・・(青髭を想起)という話、があった。

どれが人によって一番怖かったのかと話し合うのも面白いだろうなあと思う。
人によって違うと思うから。
ゴーストたちの墓石がそれぞれの話のトップにあるのだけれど、そこに生年と没年が書かれていてそれを見ていくと、その時代背景がわかるし、あと、意外に今の近くで亡くなったゴーストもいるのだなあ・・・という思いにも駆られる。



評価 4.5

実在の人や事柄をモチーフにした不思議な感触の短編集だ。
10編の物語が入っている。
(・誘惑の女王・・・ヘンリー・ダーガー
・散歩同盟会長への手紙・・・ローベルト・ヴァルザー

・カタツムリ結婚式・・・・パトリシア・ハイスミス
・臨時実験補助員・・・・放置手紙調査法
・測量・・・グレン・グールド

・手違い・・・ヴィヴィアン・マイヤー
・肉詰めピーマンとマットレス・・・バルセロナ男子バレーボールアメリカ代表
・若草クラブ・・・・エリザベス・テイラー
・さあ、いい子だ、おいで・・・・世界最長のホットドッグ
・13人兄弟・・・・牧野富太郎)

 いかにも小川洋子らしい静謐な雰囲気に満ちていて、ちょっとだけ歪んだ世界にぞくっとするような小説の数々だった。
モチーフにした人(や事柄)の簡単な略歴が最後に載っているけれど、その人のどこを切り取ってこういう作品群にするのか、というところが面白いなあと思った。
この中で、あるアルバイトをしていてのちにそこで一緒に組んだ人との再会を描いた、臨時実験補助員は、本当にこういう実験が行われていた(手紙をわざと落として皆がそれを郵便箱にどのくらいの割合で入れるか実験)というのに驚いた。また母乳を搾る姿が生々しく、その後の彼女の零落した様子との落差が読ませた。

カタツムリ結婚式、は自分の同志を見つけようとしているちょっと変わった女の子の物語であり、彼女が飛行場で見つけた奇天烈な男がカタツムリを持っていたという話なのだが・・・
この話そのものよりも、ハイスミスのカタツムリをどうやって持って行ったかという偏愛ぶりの解説の方に度肝抜かれた。

肉詰めピーマンとマットレスは、異国でのRという息子との再会の話だ。
これが切なくて、彼女とRが日本でどういう風に暮らしてきたか、を物語りながら現在のバルセロナを見ていくというだけの物語なのに心惹きつけられたのだった。
非常に巧みな作品だと思う。

・・・・・・・・・・・・・・・
ただ。
小川洋子の作品はその時の自分の気持ちに寄り添うかどうかというのが重要になってくるような気がする。
今回は、どれも面白いし彼女の雰囲気もよく出ている作品だけれど、全体には残念ながら今の私の気持ちにはそぐわなかったのだった。
また時を置いて読んでみたい。



評価 4.5

ラノベレーベルで出ている本だけれど、カフカの一文字とこの作者なので読んでみようかと思った次第。
そして面白かった、いろいろと思うことはあったけれど。

深海楓(ふかみかえで)は中学時代あらゆる男女関係の修羅場を潜り抜けている(早熟な!)
モテモテだった深海楓。
高校生になったら天然を装って過去は封印していたが、自分が女を落とせるという自信は崩れない。
そんな彼の前に現れたのが、架能風香(かのうふうか)という読書家のカフカ好きの女子高生。
彼女は自信満々の深海楓に全くなびかないどころか、もし好かれたいならば
「カフカにおなりなさい」
と言い放つ・・・
そして彼はカフカもどきの小説を書き始めるのだが、現実で次々に不可解な事件が持ち上がっていく・・・


もし、カフカをゼロの知識であっても、カフカをよく知っていても、カフカ部分はとても楽しめると思った。
それぞれの作品(変身のみならず、かなりコアな作品まで網羅している)に即した話で、それぞれの作品への言及もとても楽しい。
どうやっても、そこは本好きとして、カフカもう一度(または初めて)読んでみようかなあ!!と思う気持ちに掻き立てられる、それほど魅力的なのだ。
城、流刑地にて、審判、橋、といろいろ出てくるが、この中で流刑地にてへの考察が楽しかった。
橋、も考えさせられた・・・・

一方で、キャラクターという面では、主人公が中学校でこれだけ男女経験があるというのがまずしっくりこなくて、プラス、自信満々だった彼がなぜ突然カフカ好きの女の子に強烈に惹かれていったのか(ふられたからとはいえ・・・)というのがよくわからなかった、私には。(女子学生の風香にあまり魅力を感じなかったからだろう)
ただ前半と後半、だんだんに成長していく姿は印象的だったのだが。
また、女子学生のほう、風香の位置づけもよくわからない、根本的なところだけれどなぜ彼女はカフカにこれだけ惹かれているのか。両親のことがあったので不条理をこの世に感じているのか。
彼女のヘルメットも理由はわかったが、なんだかよく呑み込めなかった、おかしな人?なぜ誰も突っ込まない?女子とのかかわりは?
お兄さんの存在も・・・
あと放火の話も・・・
なんだかぽっと出てきてぽっと消えた感じがするエピソードの一つのような気がしてならなかったのだ。

これって、次があるのだろうか。
次を是非読みたいのだが、もしあったら、そのあたり彼女の心の部分を書き込んでいただきたい。
カフカ部分がとても良いので、そこは継続してほしい。

謎という面ではたわいもない謎、が多くてそれはそれで微笑ましいけれど。
一つだけ、うおーーーっと驚いた謎は198ページのひっくり返るような展開だった、見抜けなかった・・・・



評価 4.3

それで?
なんだかよくわからない話だったのは私のせい(理解力)だったとしよう。
仕掛けがあるらしいけれど、文の章が素数であるということ、はわかったが、だから?というのも私の理解力のせいとしよう。
寓話らしい、それも何か政治的なことも絡んだメッセージが含まれているような寓話。
ただし、読み終わった後、ああでもないこうでもないと頭で考える小説ではあった、
小説、というより哲学者の趣すらあったのだ。


二人の幼い兄弟がいた。
二人はお母さんに届けるための食事をもって歩いていたら、突然穴に落ちてしまった。
そこから二人のサバイバルが始まる。
出られない外。
閉じ込められる日常。
そんな中で「お母さんの食べ物」には手を付けずにミミズやその他の虫を食べ、泥水をすすり、生き抜こうとしている二人。
兄は弟を庇い、弟は兄に従う。
そして弟は、途中で失語症になるほど衰弱し、死にかける時もある。
が、最後・・・・


この中で途中で飢餓のために弟が気が狂っていくような場面がある。
そして自分は全ての創造主だと。
これは幻覚なのかそれとも彼が神であるという暗喩なのか(わからない)。
そういえば、兄も弟も名前がない、これだけ接しているのに名前を一度も呼び合わない。
ここはいったいどこなのか?どこの森なのか?なぜ誰も救いの人が来ないのか?
お母さんは一体何をしているのか?
兄は兄なのか?兄が弟を産婆のように取り上げることはあるのだろうか?(そう語った場面があった)
更に、「お母さんに食べ物を届けてあげるために」歩いていて穴に落ちたらしいのだが、そのお母さんの食べ物を食べればいいものを、そこは絶対に手を付けてはならない、なぜか?(わからない)

更にわからないのは、
その大切にとっておいたお母さんの食べ物は、後半あることがなされる。
これは一体何か?(わからない)
→外に出られた弟が、お母さんのところに行って、お母さんは何故か普通に暮らしていて、そしてとっておいた食べ物が入った袋でお母さんを窒息死させる。その時に兄が俺たちにしたことを思いだせ、彼女が自分たちを突き落とした、という。これは?一体?母親が二人を穴に入れたのか?母親は何の象徴なのだろう?

政治的弱者がこの兄弟なのか。
最底辺にいる者たちの暗喩なのだろうか。
ピラミッドをさかさまにしている形の穴というのは、最底辺で上を支えている人たちがいるということなのか。

この本、解答編がほしい。
つけてくれたら一番ありがたかったのだが・・・


評価 5

いやあ…面白かった!
こういう方向性で本を読むとは!
なんだか全部読んでみたくなったのだった、ここにあげられている文庫解説を。

そう、文庫の解説について語っている本なのだ、これは。
特に古典と言われているような本の解説に。

・・・
文庫の解説って、確かに読む。
本当の小説の事前に読むか事後に読むかというのは時によって違うけれど、ともかくもついていれば必ず読む。
腑に落ちない解説というのも確かにある。
これはいくらなんでも解説じゃないんじゃないかとうっすら思うこともある。
けれどそういうものなんだ・・・と納得してきたのだが・・・・
納得した背景には、「解説っておまけのようなもの」という認識があるからだろう。
おまけなんだから文句言っちゃいけません、みたいな気持ちがあるからだろう。
ついているだけでお得、みたいな気持ちが。

斎藤美奈子、ばしばしそこを斬る。
途中で何度も大爆笑した。
こばひでって!(あの小林秀雄です、容赦なく斬る斬る!)
よくわからない文章にはわからないと斬る、これも読める人だから斬ることが許される(わからない人だったらわからないというのが無知をさらけ出すようなものだから)

坊ちゃん、こんなに出ていてこんなに解説が違うだなあとまずそこで驚いた。
悲劇とみるか喜劇とみるか。
これを読んで、集英社文庫の坊ちゃん解説(ねじめ正一)を猛烈に読みたくなった、小学館文庫の夏川解説も。

伊豆の踊子、これは驚いた。
私が長年疑問に思っていたことがこの話の中ですっきりしたのだった。
それは、最後の最後で、なんでこの一高生が泣くのか、それも少年の学生マントの中で!
BLとは思わなかったのだが、なぜ?そもそもこの中で???
と長年の疑問だった、泣く気持ちはわかったのだが(と思っていた)
ああ・・・こういうことだったのか・・・

ティファニーの龍口直太郎の解説はとても覚えている。
なんだか衝撃的だったのだ、ティファニーに行ったのだなんだという話と、映画への否定と。
この映画の否定が、ハリウッド映画を否定してもいいんだに繋がると斎藤美奈子は喝破している。
映画を否定されたので長年見てなかったし(で、見たら案外私は好きだった)
これは同時に村上春樹の解説にも触れているが、ここは春樹、うまいなあ逃げ方が(失礼)と思ったりした。

他にも三四郎、赤頭巾ちゃん気をつけて、ひとひらの雪(ここも大爆笑した)、三毛猫ホームズシリーズと楽しい解説の解説、が続く)


評価 4.9

こちらは少年たちグループだ。
七月~のように、夏流城(かなしろ)の林間学校に初めて参加する男子、光彦(てるひこ)中心に描かれる。
(彼は、ひそかに七月の少女の中の一人蘇芳と連絡を取っているというのが七月を読んでいるとわかる)

二年ぶりに再会した卓也、
大柄で穏やかに話す耕介
勝ち気ではきはき物を言う幸正が同じところにいる。
4人の男の子たちが死と向かい合うというところで、スタンド・バイ・ミーを思ったりする。
七月よりもこちらの方が陰惨であるし、ホラー色が強いと思った、そこも含め好きだが。

この話、男子同士が(本当にこの人はこの性格なのだろうか?)と人間を疑っているところもある。
要は疑心暗鬼になっているのだ、耕介がおっとりしているのは本当なのか?とか、幸正はかつてここを訪れたことがあるらしいがそれについて何も語らないのは何故か、攻撃的なのは何故か、とか、幼馴染の卓也は幼馴染の頃のままなのか、とか、疑問は常に付きまとっている。

・・・・
いきなり到着のところで首を折られたヒマワリが四本並んでいる。
これは何を示唆するのか、しかも集められた少年たちが4人・・・どうしても自分たち?と思うだろう。
ここからして世界が尋常ではない世界に向かっているのがわかる。

ここからは、お地蔵さんに集まるとか花とか女子バージョンの七月と同じことが起こっていくのだが、読む側はこれが何かわかっていながら読んでいる、だから余裕をもって読んでいるはずなのだが・・・
こちらの八月の方が怖いのは、光彦の不安がどんどんどんどん加速して増していって、またその不安がこちらに伝わってくるからだと思う。また禁忌と思われることがいとも簡単にさらりと触れられているみどり男の真相もまた衝撃的だ。

茂みの奥に鎌を持ったものを目撃したところから、また普通ではない世界が広がっていく。
彫像が倒れ危機が生まれ、鎌を持った者がいるらしくそこでも危機感が生まれ・・・
ある誤解が生まれるのだが・・・ここもとても緊迫した場面だ。
人の死がかかわっているから。

誰を信用したらいいのか。
誰が本当に悪い奴なのか。
そもそも悪い奴はいるのか。
この物語、疑心暗鬼の物語ともいえよう。

以下ネタバレ

・子供たちは緑色感冒にかかって隔離されている親の死亡が近いと城に集められる。
シェルターと病院は城の下にある。
地蔵のところに現れるのは、その親と対面する最後の機会で、マジックミラー越しに子供たちに会うことができる。
出てくる番号は、自分の親の番号。

・流れていく花は、国内で緑色感冒で死んだ人。
男は白、女は赤。

・みどりおとこは、世界に緑色感冒のパンデミックが起こる。
サバイバーたちは人を食べて生き延びる。
死にゆく人と、「夏の人」が対峙し、強いほうが弱いほうを食べる。

・全てが、このSF的世界(パンデミックが起こった世界)の出来事というのが惜しいような歯痒いような。
これで落としどころは出来たのだけれど、なにがなにやらわからないままの世界でもそれはそれでよかったのではないかとないものねだりを。
2017.01.21 バスめぐりん


評価 4.2

移動車に乗ってきている図書館。
これは、私の地域でもかつてあったので(今はない)、とても雰囲気はわかる。
ちょっと図書館に遠い人とかにはもう絶対に必要不可欠なものだし、数万冊あるだろう図書館から何をチョイスしてくれて来たのだろうかという楽しみもあったから。
車の中にもあるのでそこにひょいと乗って本を見たりする楽しみもあった。
確かにこの本に書いてある、他の人たちとの交流もあった、もっと図書館とは違った意味の濃密な図書館員との交流も。
そのあたりは痛いほどわかったのだった。

この話、定年退職後にこの運転手さんをしている男の人と、図書館からやってきた張り切った若い女性というのが核になっている。
ちょっとした謎、なんかも提示されていて、ほのぼのとしたムードはしている。

が。
ちょっともやっと私がするのは、『図書館の人が借りていく人たちの本をべらべら人に(たとえ運転手さんでも)話すこと』だった。
しかもその趣味同士の人たちを結び付けよう・・・・としているところには、え!となった。
気味悪くないか?
片方側の人は友達をほしがってるかもしれないが、相手はどうなんだろう?
この話では善意の人だったのでいいのかもしれないが・・・。

あの人は、コージーミステリが好きとか、それはわかることだろう、いつも見ていれば。
だけど・・・どうなんだろう、これを語り合うって。
例えば、これがコージーミステリだからいいけれど、いつも陰惨なスプラッタホラーを借りていく人だよと認識され言われたらどうだろう?
それがたとえ趣味の世界であっても、研究の範囲でも、借りていくものだけを見ていくわけだからわからない。
このあたりが非常に私には、もやもやして、肝心の話にのめり込めなかったのだった。
2016.11.28 本格力



評価 5

ば・・・・ばかだねえ・・・本当に愛すべき馬鹿(誉め言葉)だと思う、そして楽しすぎる!!
本格愛に満ち満ちた作品だ。
笑いながら結構真剣に読みふけったのだった。いつまでも読んでいたいものだと思った。

これは、読んでない古典とか読んでないミステリを読んでいこう、そしてあわよくば処分して自分の持ち物を軽くしようという試みだ。
そこの部分は、『博士と女子高生』という二人語りになっている(作者が両方書いている)
あと笑ったのは、みすを。
あいだみつをを模しているのだろうが、まあよくこれだけ考えられるなあ・・・と思ったくらいにミステリへの言葉のもじりでここはおおいに笑わせてもらったのだった。
カナなぞり書きのお手本(これも今巷ではやっているのを、小説の一部分をチョイスしてというので笑った笑った)のあとの、喜国雅彦の一文もとても面白い。
そして奥さんの国樹由香の探偵の話(つまり喜国の日常の話)も面白い、犬への愛の話、そこに挟まるミステリへの愛の話、基本ポジティブシンキングの話、と話は尽きない(し、こちらも興味がある)

・・・
なんといっても、でも、博士と女子高生の古典ミステリへの言及が読ませどころだ。
今までよしとされていた本もここでは女子高生の口を借りて実に率直に面白い面白くないと斬られていく。
ネタに触れないでよくこれだけ説明できるものだ、と感心していた。
毎回非常に多くにミステリが読むべき本として女子高生の前に出されるが、この評価をよく読んだ上で、読んだ本でも読んでいない本でも是非手に取ってみたいものだと強く思った。




評価 4.9

上巻はほぼ興奮状態で読み終わった、そして転がるようにして下巻へ。
事態は二転三転でどんどん思った方向とは違った方向に動いていく。

過去に監禁という異常な状態を経験し、今もトラウマを持っているダンテという男性と、
過去の捜査で何らかの心に傷を負った今のところ元捜査官のコロンバという女性の
二人の事件の洗い出しが非常に読ませる。

特に、11年間幼児期をダンテがサイロという特別な場所で監禁されて生活のすべてをパードレ(父親)と言われる人物に支配され、命からがら逃げてきた悲劇が物語の面白さを増長させる。
ダンテは、閉所恐怖症のようになっていて、外にも出られないという状態だ。
ダンテは今ローマで失踪人捜索専門のコンサルタントを請け負っている。
ローマで女性が惨殺されて、その6歳の息子が行方不明になった・・・・
警察幹部が二人にその事件をひそかにゆだねた・・・

・・・・
ダンテの推理が的を射ていて、さながらどの場面もシャーロック・ホームズのようでここがまた読みどころの一つだ。
彼の優れた頭脳でいろいろのことを分析して、これこれこうだからこうだろう、という推理が痛快なのだ。
コロンバはコロンバでとても気が強く、手も早く、ついでに行動も早く、ダンテを常に外に外にと引っ張っていく。
しかしなんといっても極秘任務なのでほかの警察官からこの二人はかなり疎まれている。
だから勢い、喧嘩をしながらも二人は結びつくしかないのだ。

この話、『ダンテがかつて見た、かすかに見た、という人物は、監禁した男なのか、そしてその後に捕まえられた男はダンテの言うように真犯人ではないのか』というところに全てがかかっている。
これがダンテの心の病であったからきたことの妄想、と思うのは警察官ならずとも普通だろう(なんせダンテは外にも出られないくらいの心の病なのだから)
また、パードレがまだ生きていて、何十年もたってから同じような事件を起こしている、とダンテが考えるというのも、本当なんだろうか?と警察官ならずとも考える、そんなに時がたっても同じことをするのだろうか?
追いかけていく側の二人の精神状態がとてももろいだけに、上巻ははらはらしながら読んでいった。
誰も信じてくれないもどかしさ、をダンテの描写から感じた。
そこに僕を監禁した男がいるというのに・・・・

そして後半わずかな糸の先(残された靴、暗黒街の仲間・・・)をたどるように探っていくと、実はこれが私が思っていたのとは全く別の物語ではなく、全く別の様相を帯びてくるということがわかる。
このあたりから、私は驚いたのだった、こういう方向の話だったのかと。
ここが非常に苦い方向の話だ、私が思っていた普通の監禁の話も苦いといえば苦いのだが・・・

そして案外真相はあっさりわかってしまうものだなあと思っていたら!
ラストにこんなどんでんが!

帯でディーヴァーが褒めているように、ちょっと作品全体がディーヴァーっぽい感じもする。
続編を楽しみにしている。
2016.11.11 秘匿患者


評価 4.9

思いがけず面白い本だった。
A級ミステリかと聞かれればそうではないのだけれど、全体の話のかわし具合みたいのが私の好みだった。
そしてあるところで、私の驚いたことと言ったら!
なんとなくなんとなくあれ?と思ってはいたものの・・・・
そして読み終わった後、誰かと話し合いたくなるような本の一冊だった。


・・・・
メリーランド州の精神科医療施設メーカーは、犯罪を犯した心神喪失者を主に収容している。
ここに、ジェイソンという一人の男の患者が送り込まれてくる。
担当医はリーサ。
当初からジェイソンの履歴がないので不満に思っているのだが、上司に聞いても取り合ってくれない。
そしてジェイソンの過去の断片を聞いていて、それをつなぎ合わせる作業をしている多忙な日々を送っている・・・・

リーサが精神医療のチームのトップにいくら聞いてもジェイソンの素性は杳として知れない。
ここに何か陰謀があるのか、とリーサが考えるのも無理はない。
そして、リーサ本人の両親の亀裂もリーサの独白でわかってくる、患者を診る側のリーサ自身も過去の自分を探ってはいたのだった。
毎日判で押したような日々のリーサ。
彼女がいつもいく朝の喫茶店ではダイエットしているので、コーヒーとともに毎朝くれるおまけのピーナッツをこっそり捨てることすらも日課となっている。
またマージの店という、近所の人が集まる輪になったくつろぎのダイニングもリーサの緊張の日々の一つの救いになっている(ここには常連さんがいていつもリーサに温かく声をかけてくれる)

一方でジェイスンの性癖も徐々にわかってくるのだ。
悲惨な体験をしたということもわかってくる。
全てが謎に包まれたジェイソンがなぜこの精神の医療施設に入れられたのか・・・・

途中、非常に意外な展開で、リーサが巨大なる陰謀に巻き込まれる。
FBI、CIA、と出てくる言葉も物々しい。
ここから活劇が始まり、二人の人間がかかわってきて、敵味方入り乱れての冒険小説の趣になってくるのだ。
ヒッチハイクで助けてくれる人がいたり、一瞬的かと思った人が実は味方だったり、味方と思っていた人が敵だったりと目まぐるしく状況は変わる。
前半が静だったとすれば、後半のある部分までは完全に動。

以下ネタバレ

・実はジェイソンはリーサの弟であった。
そしてリーサこそがこの病院に入れられ医師であるという妄想を抱いている患者であった。
ジェイソンは、姉を助けるべく記憶を呼び戻そうとしてここにやってきている。

・リーサの毎朝行っていると思っていた朝のダイニングは、病院で薬を渡す場所だった。
紙コップのおまけのピーナッツなどは、投薬で、それをリーサは飲まずに捨てていた。

・マージの店、は、患者たちが集う食堂だった。
いつも声をかけてくれている常連も、患者たちだった。

・リーサは自分の家に戻っている、と思っていたが、それはこの施設内の自分の部屋だった。

・リーサがしたことは、ジェイソンが学生の時にゲイだということを人に知られこてんぱんにいじめられそうになった時に人が変わったように彼らを叩きのめしたこと。
そしてジェイソンが長じて良き男性のパートナーを得たのだが、リーサは彼を殺してしまった。

・リーサの妄想の中で出てくるダリルリンダーとエアロン・レミーはFBI捜査官ということになっているが、彼らはリーサの飲んでいる薬の名前から来ていた。

(一つ、ここを裏付けをしてほしいと思ったのが、逃げている最中(妄想だが)ヘイデンという男が出てくる。
彼は最終的に守ってくれて死んだということになっているが(妄想で)、彼が何から発生して出てきたのか、そこを描いてほしかった)

・リーサがすべてを受け入れて治った、と最後のほうで思ったのだが。最後の二ページでリーサは医者になっていたので、やはり彼女は永久に治らないというのが示されていた。