2017.07.24 星の王子様


評価 5

え!
色付きだった?
中の挿絵を見てまず驚愕したのだった、久々に読んだのはもちろんなのだが、岩波文庫から出たというので大喜びで開いてみたら・・・。
色付き挿絵?

本当にフランス語で普通に訳せば、「小さな王子」というのは正しい訳なのかもしれない。
けれど、最初の刷り込みがあるので、もう頭の中で星の王子様でしかあり得ない自分もいる。
またこの訳しか読んだことがないけれど、丁寧な言葉の美しいことと言ったらどうだろう。
ここにはやり言葉とかは一切ない。
それだけに、点燈夫とか、街燈とか、口輪とか、古い言葉もまた輝いてくる。
「・・・・できやしないよ」「・・・してごらんよ」なども、今の言葉では実際ないのかもしれないけれど、なんて閑雅な響きなんだろう。
小津映画を見ているようだ。

この話、様々なところで引用されているし、大人が読んで含蓄のある童話としても有名だし、それぞれの受け止め方のある話なのはもちろんだ。毎回政治家にこそこれを読んで欲しいという気持ちにもなる(読まないだろうが・・・)

・・・・
最初のところで、ウワバミが象を飲み込んだ絵、というのがとても印象的な話だ。
これがどう見ても帽子にしか見えない大人。
そしてちゃんとそれを見分けた星の王子様という子供。
この対比が克明に描かれている。

実に印象的な人たちが何人も出てくる。
そして大人の目で読めばこの人たちは明らかに社会の縮図であり、王であり政治家であり経済を回している企業人であり、ということがわかってくる。
また愚直なまでに自分の仕事をしている人もいるということも見えてくる。

有名なキツネとの会話場面もまた心に刺さる。
もしこれが普通の状況で同じことを言われたら、それほど刺さらないだろう。
けれど、童話でありファンタジーの場面で、そして一人(一本)残されたバラの花を思いながら
「大切なことは目には見えないんだよ」
と言われ、頷かない者があるだろうか?
また、「ぼっちゃん」という問いかけがまことに優しいし心地よい。
今、ぼっちゃん、と人様のお子様を言わないだろうが、ここではこのぼっちゃん、が生きている。
そしてそのまま受け入れたいような言葉だ。

星の王子様との出会いが、ある意味絶望的な状況で出来上がっているというのも今読むと新鮮だ。
何しろサハラ砂漠で不時着して、直さなければ帰れないし死ぬしかない飛行士がいる。
そこにどこからともなくやってきた星の王子様。
こんな状況でしつこく話を聞いてくる、またはしてくる王子様との会話もまた大変なのだ、普通の人間の飛行士にとって。
それどころじゃなくて、もう水なのだ!と最後の方で本音が出て、そして美しい美しい井戸の場面の会話になる。

・・・・・
今回、岩波文庫を読んでみたのは、お子さんの内藤初穂さんのエッセイを読んでみたかったのもある。
星の王子様の秘話とでも言ったらいいのだろうか。
心血を注いで翻訳した星の王子様が、石井桃子さんから回ってきたというのを私は初めて知ったのだった、ここで。
しかも石井さんは最初別の人に翻訳を頼んでいるのだが(山内義雄さん)、これは私の雰囲気ではない、内藤先生だ、ということで内藤濯の名訳が生まれたのだという。
なんて、美しいそして牧歌的な話でこの物語の翻訳が決まったのだろう。
自分が自分が!という欲よりも、合っている人、と翻訳を譲ったのもあっぱれだし、それを受け入れまた期待以上の翻訳に仕立て上げた内藤濯の手腕にも頭が下がる。

美智子皇后とのある出会いから、この物語を通じての交流、も微笑ましく読めた。
そして、例の星の王子様の落語家の言葉をご本人はどう思ってるんだろうなあ・・・とずうっと思っていたが、やっぱり激怒していたか!だろうなあ・・・と納得したのだった。
2017.07.17 ピンポン



評価 5

ピン・ポン・ピン・ポン・ピン・ポン!
エエエエエエ・・

へ・・・変な話!!過剰に溢れかえっていすぎるよ!なんでもかんでも!
そしてラストこの回収の方法か!すごい!
面白い!
なんて変な話を思いつくんだろう?

SFでもなく奇想と言えば奇想だけれど、それのみでもなく。
夢の話であるようでそうでもなく。
それにしてはあまりにスケールが大きく、また細かい部分は細かすぎていて。
そもそも、「二人の男の子が学校で壮絶にいじめられていた肉体的にも精神的にも」という話からピンポンの卓球台がなぜか外にあり、放置されていてそこでいじめられっ子の二人がピンポンをする・・・」というところで、
あ~いじめられていた二人がピンポンによって救われて友情をはぐくむ話ね、と思いきや、そうでもなく(その部分もあるけれど)

じゃあ、ピンポンを文字通り手玉に取って、ハレー彗星を待ちわびるへんてこな人の集まりと絡み合い、地球の存亡を考える・・・気宇壮大な物語に変貌してい後半がきわめてSFに近い話・・・かというとそれだけでもなく。

この話の巻き込感にずるずると引き込まれていくのだ、読んでいるうちに。
どんどんどんどん新しい人、新しいエピソードが出てくる、釘とモアイの二人の少年に振り回されながら、ピンポンを見ながらこの話の深部にぐいっと自分が入り込んでいくような気がしていた、読んでいる間中。


・・・・・
モアイ像にそっくりでモアイとあだ名をつけられていた口数の少ないモアイ。
釘とあだ名をつけられていた少年。
この二人はクラスのチスという少年グループから壮絶ないじめを受けている、暴力は時に致命傷になりかねない暴力沙汰に発展している、その他にも恐喝、脅し、気まぐれな呼び出し、性的虐待、と言語を絶するいじめは尽きない。
お互いに話すことのなかったモアイと釘は、ある日、外で卓球台を見つけ、ピンポンを始めることになる・・・横には古びたソファまで・・・


ピンポンを始めることで、多くの人と出会ってい釘たち。
チスの愛人マリ、双子がいる卓球洋品店のセクラテン、バスの運転手、お金をあげればマッサージをしてくれるホームレスの老人たち、乾電池を舐めて死んでしまうハレー彗星の会の太った人・・・・そしてモアイが語る超絶に面白いジョン・メーソンの小説の話・・・
そもそも、このモアイと釘はごくごく普通の、いや普通以上の感受性と頭を持った二人の少年だったのだ。それが読んでいくとよくわかる。
その合間合間にも失踪したチス(自分の女を殺した容疑で警察に追われている)から呼び出しがありまたいじめられ、チスの手下たちに呼び出されまたいじめられ、という連鎖は止まってないのだ。

釘たちがその合間にお互いのことを知っていく。
モアイは絶大なお金持ちであり、お屋敷にお爺さんと二人で暮らしているということがわかってくる。
また釘の親たちは釘がいじめられているのにも全く気付いていない共働きの二人で善人ではあるが、息子の動向には重きを置いていない。
この物語の中で、卓球用品店のセクラテンの存在は大きい。
何くれとなく世話を焼いてくれる。
そしてラリーができるほどに釘とモアイは卓球が上手になっていく。

セクラテンは後半実に意外な卓球史を教えてくれ、彼らにこの世界がずうっと試合のジュース状態だと教えてくれるのだ。
彼らは偉大な人たちの中から一緒に戦ってくれる人を二人選ぶ(このシーン笑える、どの偉人が卓球ができそうかと古今東西の中から選ぶ作業)
そして・・・

以下ネタバレ
・空からハレー彗星ではなく(だからハレー彗星の会とかの話も無駄ではなかった)、大ピンポン玉が落ちてきて、それが地球上に来ると大地に地震が起こり、地球が卓球界(!)になってしまう(この部分の説明もとても楽しい、地球をピンポン玉に見立てた話で、ちょっと横に向けると、ちょっと落とすと・・・)

ネズミと鳥とのピンポンの試合の勝者が人類の存亡を握っているのだった。
彼らと闘うのが、釘とモアイそして二人の偉人たち。
勝った方が、人類をアンインストールするか、そのままにできるか、をチョイスできるのだった。

そして釘たちは勝者になりアンインストールに頷くのだった。

(こんな変な話(誉め言葉)を書いた作者の顔を見たいものだ!と思って裏表紙を開けたら!
そこにまた人を食った作者の顔が!なんとまあ・・・


評価 4.7

私にとって驚きの一冊。
どう驚いたかというと、帯とかで私が想像していたのは
『非道な父に監禁され、虐待され、そこでなぶり殺しの目にあっていた少女の脱出劇』
だと思っていたから。
18年間父と二人きりで暮らしているとあったので、てっきり監禁物語と勝手に思ってしまったのだった。

ところが、これ、監禁の物語ではない。
監禁は終わっていて(何しろ父親は死んでいる)、そこからもう出られる状況の少女がいるのだ。
ところがその少女は気味の悪い遺言執行人と結婚しなければすべての財産をあげないよという父の非道な遺言が残されている。
この男というのは、父の友人なので、当然年を取っている。
父の監禁が終わったと思ったら、今度は父の友人の監禁か・・・と少女ベティも読者も暗澹とした気持ちになるのだった・・・
そしてその友人から逃げるために、ベティは非常に勇気ある行動で逃げていくのだ、しかも一人の純情な青年を巻き込みながら。

・・・
つまりこれ、ロードムービーの様にかなり最初の部分からなっている。
追われる逃げる、追いつかれる、更に逃げるの連続の話だ。
ベティは父に教わった護身術を駆使しながら、生き延びていく。
そして、弁護士事務所に保管されていた父の遺品から、自分の出生を割り出していくのだった。

この一緒に逃走するデッカーの造形がとても良い。
彼のすがすがしい行動とか、あまりに愚直すぎる行動とかもどきどきしながらも見守っていけるのだ。
一方で、ベティは人と接したのが父親しかないので、まずそこから徐々に外の世界に慣れていく。
喧嘩腰だったベティを変えていったのはデッカーのやさしさだと思った。

ベティが自分の母親と父親との手紙から、彼らのロマンスひいては自分の境遇を想像するところが面白い。
が、なんだか荒唐無稽?という感じも否めない。
このために、ベティは監禁されていた?

以下ネタバレ
その結果、想像で全く別のところに行きついたベティ。
彼女が本当の父親と思って一緒に暮らそうとしたのは、単なる母親のストーカーだった。
そしてこのストーカーに対抗するために、本当の父親(一緒に暮らしていたのが本当の父親)はベティに護身術などを教えたのだった。
2017.05.31 辺境図書館


『《この辺境図書館には、皆川博子館長が蒐集してきた名作・稀覯本が収められている。知らない、読んだことがない、見つからない――。
そんなことはどうでもよろしい。読みたければ、世界をくまなく歩き、発見されたし。運良く手に入れられたら、未知の歓びを得られるだろう。(辺境図書館・司書)』


評価 5(とびぬけ)

連載当時から(早く単行本になーれ!)と念じていた本。
本当に素晴らしい本だ、美しい装幀も光る一冊だ。
辺境図書館と銘打って、皆川博子が図書館長という設定になっている。
広義ではブックガイドなのだろうが、そこは皆川博子なので、一筋縄ではいかない選書をしてくれている。
そこが大変魅力的だ。

皆川博子が耽溺した本ということで、沢山の(多くは私が未読の本)を出してくれている。
そのきらびやかなことと言ったらどうだろう。
夜のみだらな鳥、穴掘り男爵、建築家とアッシリアの皇帝などから始まる数々の海外の本たち・・・そしてその中には間宮緑や川村二郎という日本作家も組み入れられている。

皆川博子の語り口に魅せられどれもこれも読みたくなっていく。
内容に触れてるのはもちろんのこと、最後にこの本の成り立ち、作者の状況、来歴、のようなことも書いてあり、更に皆川ファンに嬉しいのは、「その本が皆川博子のどの本にどのように影響されているか」というのを解題しているところだ。そこはとても短い文章なのだが、(ああ・・これがこの作品の根底に流れるもの!)とちょっと感動してしまう。
夜のみだらな鳥では、冬の旅人、薔薇密室、結ぶに触れられている。
ミック・ジャクソンの穴掘り公爵は、タイトルそのものが猫舌男爵を触発している(なるほど!)

この中で、アンナ・カヴァンは全体に私も読んでいたのだが、皆川博子がどう読んでいるのか、というところが非常に面白かった。また黒い時計の旅も読んでいるが、これはネタバレに抵触しないようにとても気を使って皆川博子が書いているというのがよくわかってこれまた読み手のある文章だった。

『夜のみだらな鳥』とホセ・ドノソ/『穴掘り公爵』とミック・ジャクソン/『肉桂色の店』とブルーノ・シュルツ/『作者を探がす六人の登場人物』とルイジ・ピランデルロ/「建築家とアツシリアの皇帝」「迷路」とフェルナンド・アラバール/『無力な天使たち』とアントワーヌ・ヴォロディーヌ/「黄金仮面の王」とマルセル・シュオップ/『アサイラム・ピース』『氷』とアンナ・カヴァン/「曼珠沙華の」と野溝七生子/『夷狄を待ちながら』とジョン・マックスウェル・クッツェー・・・・などなど、魅力的な本が勢ぞろいしている。

最後に彼女の短編のプラスのおまけつき。
本当に読み甲斐のある一冊だ。

2017.05.10 蠅の王


評価 5

新訳というので新たな目で読んでみた。
とても読みやすく、最初から最後までどきどきしながら読んだのだった。
解説にもあるように非常に多くの深い読み方ができる一冊だ。

記憶違いのところがあって、無人島に子供たちが生き残っているのだが、これが、私の記憶の中では船が沈んでこの子たちが流れ着いたと思っていた。
違った、飛行機が不時着しているのだ、しかも、これって、ただの状況ではなく、核戦争が起こって疎開(!)するイギリスの子供たちがたどり着いた先の島、ということなのだ。
話の中にも共産圏とか政治的な言葉が出てくる。

大人のいない暮らし。
最初の方で不安ながらもなんとなく皆がわくわくしているのが手に取るようにわかる。
特にリーダーの二人、ラルフとジャックは二人が手を取り合い仲良くなって笑いながら島を探検したりする。
この二人、後半崩れていくが、最初の方ではとてもとても気が合う二人で理解できそうな二人なのだ。
ここに太った眼鏡のピギーがいる。
ピギーはあだ名で絶対にそれを言わないでとラルフに頼むのだが、彼は簡単に皆にピギーとばらしてしまう。
だから全員がピギーと呼ぶようになってしまう・・・

読み終わってから、ピギーを侮っていたのはジャックもラルフも一緒じゃないかなあと思った、少なくとも初期は(後半はピギーはラルフ側なのでかけがえのない常識のある男の子になっていて、ジャックは最初から最後まで馬鹿にし続けている)
いわゆる格好いい系の男の子のラルフとジャック。
学校でいえば(島も大きな意味では学校になる)級長クラスの二人だ。
それに対して地味なピギーは、なんだか揶揄される方向の人間であり、しかも叔母さんに育てられたという複雑な出自を明かしている。
ぴかぴかの出自を持っていて見栄えのする格好いいラルフとジャックに対して、ちょっと落ちているという感じのピギーなのだ。
でも。
途中で彼の才能、頭の良さが際立ってくる。
彼の言うことはいちいちもっともであり、発言の機会が与えられるほら貝を取って彼が話すことはこの世界でとても重要なことだ。
それにもかかわらず、見かけから彼はなんだか皆から軽視される。

煙を出すことに執着しなんとか海を渡る船に自分たちを発見してもらおうとする努力のラルフ。
一方で煙よりも目先の豚の捕獲に走るジャック。
この二人の対決が見物だ。
また堕ちていく、というか自らの野蛮性に目覚めていくジャックの放埓ぶりも読んでいてどきどきする。
仲間を募って豚を追い込んでいき、それを焼いて食べさせ、どんどんリーダーになっていくジャックがいる。
そこには、助けられようという頭が消えている。
ただひたすら、豚を追い込んでいくのだがその姿が徐々に狂気に満ちてきて、豚を追い込むことよりも自分の本能の残虐性を目覚めさせた、といった感じだ。


また、サイモンが最初から不思議な存在感だ。
ずうっと不思議な存在であり、妙に子供にしては落ち着いている。
彼が森の中で対峙する蠅の王の部分は誠に読み甲斐があった部分だった。
そして結局彼のみが、もしかしてこの島に怪物がいるのかもしれないということの真相を知っていたのに・・・それははかなく消えてしまう。

この島は、食べ物はあり(果物ではあるものの)、外敵もいなくて(途中でいるという疑心暗鬼に駆られているが)、しかも水も適度に雨が降ってくれ川があるという、生きていくには比較的生きていきやすい場所だ。
普通の無人島ではこうはいかないだろう。
しかもこの間誰も病気にもならないし、怪我もある時点まではしていない。
だから普通に生きていこう、普通に煙をたいて統率されたまま食べ物を取って生きていこうとすればそれは生きていける島、だったのだ。
でもここで豚を殺して肉を食べたいという皆の欲求を満たしていくのが、ジャックだ。
そして最初にラルフが隊長になったのにも関わらず、ジャックが徐々に勢力を伸ばしていく、焼いた豚の威力を借りながら。
ジャックが段々凶暴化していくのが止められないところもぞくっとするし、周りの子供たちが感化されて野蛮人になりきっていくところも読ませる。
豚を追い詰めて殺すことに夢中になる子供たち。
そして、ついには・・・

・・・・
この話、最後のところは前に読んだ時と同じ感想だった。
泣けるのだ、最後の最後で、読む側も。
そこまでちょっとぞくっとしたり、色々深読みしたり、思いは複雑なのだが、最後の最後、あることで泣けるのだ。

今回新訳になって読みやすくはなったけれど、一点、最初に人物表がほしい。
これだけ読みやすいのだから、人物表があれば更に読む人のすそ野が広がるものを、そこが惜しい。

以下ネタバレ
・ジャックがサイモンを殺してしまう、豚を殺したのと同じように。
そちら側の子供が全員狂気に捕らわれていくさまが読ませる。

・ピギーはがげ下に落ちて死んでしまう。
惜しい、この子はもっと使えた子供だったのに、使いようによっては。

・最後の最後、私が泣けるのは

今まで、自分たちで何とか気を張ってやってきた大人びたラルフが、大人がそこに助けにやってきた最後になって、わんわん泣き出す子供らしい行動を示すところだったのだ。
ここまで泣かなかったのに。
泣きたくても泣けなかったのに。
小さな子供たちは泣いたり飛んだりしていたけれど、隊長さんのラルフは全くそれができなかった。
身も世もなく泣くラルフの姿に当惑して海の方を向く大人の姿も印象的だった。


評価 4.8

さくさく読めるゴーストストーリーだ。
ヤングアダルト小説に入るだろう。
語られている話は凄惨な話もあるのにほのぼのとした読み心地で終わるのはなぜだろう。
どの話も心の中にある何かをかきむしられるような懐かしい気持ちにさせてくれるのだ。
聞いたことがある話というのもまったあって、猿の手などはまさにそれで、またアッシャー(!)夫人などが出てくるし、火事が出てくるし、棺の中からも出てくるしポーを意識したところもあるし、青髭を連想させる部分もあるし、そういう過去の作品とリンクしている部分もまたとても楽しめたのだった。

マイクという少年がお母さんが待っている自宅に急いで車で帰ろうとする。
その時に、偶然道路で見かけた少女を乗せた。
彼女が忘れたものを彼女の下りた場所に届けていくと・・・というマイクの話が外側にある。
マイクは何の役割かというと、ゴーストたちの話を聞く、ということがある。
その中は、次々とゴーストが自分が死んだ状況までを語っていくという・・・


ゴーストの特徴はみんな若かった死ということなのだ。
だから理不尽な死である、ということだろう。
理不尽の中でもまだ事故などはわかるのだが・・・・ほとんどがそうではない。
ゴースト、不思議な事象、不思議なものにからめとられていくような人生なのだ。
けれどここで語られる話は実に面白く、そこに行きつくまでのストーリーに心惹きつけられる。
語りというのが巧い。

姉妹の葛藤で揺れていたエヴリンのように見てはいけない鏡に吸い込まれてしまう話(白雪姫やハリーポッターの魔法の鏡とかを想起した)、や、これはわがままな妹とのやり取りがあり通信販売で買った生き物に追いかけまわされるディヴィッドの話や(ここに出ているような怪獣映画を想起)、蜘蛛の大嫌いな口うるさい先生に嫌がらせをしたことによって後半思いもかけない復讐があったジョニーの話(これが体感としてとても怖かった)や、嘘ばかりを言う放火魔の同級生に翻弄される、うそつきの女の子ジーナの話とか、自分の好きな男の子が事故で死んでしまったのでその直前に手に入れた猿の手でなんとかしようともがくリリーの話や、親友ケヴがある一つの『像』にとりつかれることから身を滅ぼしていくリッチの話や、何かに『没入』し我を忘れてしまう男の子エドガーが両親から引き離され隔離されているのだがそこから発展する凄惨な事件や(これ、歯が怖かった)、叔母に引き取られたトレイシーが叔母がどういう人間だったかを昔の新聞から知り、更に入ってはいけない部屋に入ってしまうとそこには・・・(青髭を想起)という話、があった。

どれが人によって一番怖かったのかと話し合うのも面白いだろうなあと思う。
人によって違うと思うから。
ゴーストたちの墓石がそれぞれの話のトップにあるのだけれど、そこに生年と没年が書かれていてそれを見ていくと、その時代背景がわかるし、あと、意外に今の近くで亡くなったゴーストもいるのだなあ・・・という思いにも駆られる。



評価 4.5

実在の人や事柄をモチーフにした不思議な感触の短編集だ。
10編の物語が入っている。
(・誘惑の女王・・・ヘンリー・ダーガー
・散歩同盟会長への手紙・・・ローベルト・ヴァルザー

・カタツムリ結婚式・・・・パトリシア・ハイスミス
・臨時実験補助員・・・・放置手紙調査法
・測量・・・グレン・グールド

・手違い・・・ヴィヴィアン・マイヤー
・肉詰めピーマンとマットレス・・・バルセロナ男子バレーボールアメリカ代表
・若草クラブ・・・・エリザベス・テイラー
・さあ、いい子だ、おいで・・・・世界最長のホットドッグ
・13人兄弟・・・・牧野富太郎)

 いかにも小川洋子らしい静謐な雰囲気に満ちていて、ちょっとだけ歪んだ世界にぞくっとするような小説の数々だった。
モチーフにした人(や事柄)の簡単な略歴が最後に載っているけれど、その人のどこを切り取ってこういう作品群にするのか、というところが面白いなあと思った。
この中で、あるアルバイトをしていてのちにそこで一緒に組んだ人との再会を描いた、臨時実験補助員は、本当にこういう実験が行われていた(手紙をわざと落として皆がそれを郵便箱にどのくらいの割合で入れるか実験)というのに驚いた。また母乳を搾る姿が生々しく、その後の彼女の零落した様子との落差が読ませた。

カタツムリ結婚式、は自分の同志を見つけようとしているちょっと変わった女の子の物語であり、彼女が飛行場で見つけた奇天烈な男がカタツムリを持っていたという話なのだが・・・
この話そのものよりも、ハイスミスのカタツムリをどうやって持って行ったかという偏愛ぶりの解説の方に度肝抜かれた。

肉詰めピーマンとマットレスは、異国でのRという息子との再会の話だ。
これが切なくて、彼女とRが日本でどういう風に暮らしてきたか、を物語りながら現在のバルセロナを見ていくというだけの物語なのに心惹きつけられたのだった。
非常に巧みな作品だと思う。

・・・・・・・・・・・・・・・
ただ。
小川洋子の作品はその時の自分の気持ちに寄り添うかどうかというのが重要になってくるような気がする。
今回は、どれも面白いし彼女の雰囲気もよく出ている作品だけれど、全体には残念ながら今の私の気持ちにはそぐわなかったのだった。
また時を置いて読んでみたい。



評価 4.5

ラノベレーベルで出ている本だけれど、カフカの一文字とこの作者なので読んでみようかと思った次第。
そして面白かった、いろいろと思うことはあったけれど。

深海楓(ふかみかえで)は中学時代あらゆる男女関係の修羅場を潜り抜けている(早熟な!)
モテモテだった深海楓。
高校生になったら天然を装って過去は封印していたが、自分が女を落とせるという自信は崩れない。
そんな彼の前に現れたのが、架能風香(かのうふうか)という読書家のカフカ好きの女子高生。
彼女は自信満々の深海楓に全くなびかないどころか、もし好かれたいならば
「カフカにおなりなさい」
と言い放つ・・・
そして彼はカフカもどきの小説を書き始めるのだが、現実で次々に不可解な事件が持ち上がっていく・・・


もし、カフカをゼロの知識であっても、カフカをよく知っていても、カフカ部分はとても楽しめると思った。
それぞれの作品(変身のみならず、かなりコアな作品まで網羅している)に即した話で、それぞれの作品への言及もとても楽しい。
どうやっても、そこは本好きとして、カフカもう一度(または初めて)読んでみようかなあ!!と思う気持ちに掻き立てられる、それほど魅力的なのだ。
城、流刑地にて、審判、橋、といろいろ出てくるが、この中で流刑地にてへの考察が楽しかった。
橋、も考えさせられた・・・・

一方で、キャラクターという面では、主人公が中学校でこれだけ男女経験があるというのがまずしっくりこなくて、プラス、自信満々だった彼がなぜ突然カフカ好きの女の子に強烈に惹かれていったのか(ふられたからとはいえ・・・)というのがよくわからなかった、私には。(女子学生の風香にあまり魅力を感じなかったからだろう)
ただ前半と後半、だんだんに成長していく姿は印象的だったのだが。
また、女子学生のほう、風香の位置づけもよくわからない、根本的なところだけれどなぜ彼女はカフカにこれだけ惹かれているのか。両親のことがあったので不条理をこの世に感じているのか。
彼女のヘルメットも理由はわかったが、なんだかよく呑み込めなかった、おかしな人?なぜ誰も突っ込まない?女子とのかかわりは?
お兄さんの存在も・・・
あと放火の話も・・・
なんだかぽっと出てきてぽっと消えた感じがするエピソードの一つのような気がしてならなかったのだ。

これって、次があるのだろうか。
次を是非読みたいのだが、もしあったら、そのあたり彼女の心の部分を書き込んでいただきたい。
カフカ部分がとても良いので、そこは継続してほしい。

謎という面ではたわいもない謎、が多くてそれはそれで微笑ましいけれど。
一つだけ、うおーーーっと驚いた謎は198ページのひっくり返るような展開だった、見抜けなかった・・・・



評価 4.3

それで?
なんだかよくわからない話だったのは私のせい(理解力)だったとしよう。
仕掛けがあるらしいけれど、文の章が素数であるということ、はわかったが、だから?というのも私の理解力のせいとしよう。
寓話らしい、それも何か政治的なことも絡んだメッセージが含まれているような寓話。
ただし、読み終わった後、ああでもないこうでもないと頭で考える小説ではあった、
小説、というより哲学者の趣すらあったのだ。


二人の幼い兄弟がいた。
二人はお母さんに届けるための食事をもって歩いていたら、突然穴に落ちてしまった。
そこから二人のサバイバルが始まる。
出られない外。
閉じ込められる日常。
そんな中で「お母さんの食べ物」には手を付けずにミミズやその他の虫を食べ、泥水をすすり、生き抜こうとしている二人。
兄は弟を庇い、弟は兄に従う。
そして弟は、途中で失語症になるほど衰弱し、死にかける時もある。
が、最後・・・・


この中で途中で飢餓のために弟が気が狂っていくような場面がある。
そして自分は全ての創造主だと。
これは幻覚なのかそれとも彼が神であるという暗喩なのか(わからない)。
そういえば、兄も弟も名前がない、これだけ接しているのに名前を一度も呼び合わない。
ここはいったいどこなのか?どこの森なのか?なぜ誰も救いの人が来ないのか?
お母さんは一体何をしているのか?
兄は兄なのか?兄が弟を産婆のように取り上げることはあるのだろうか?(そう語った場面があった)
更に、「お母さんに食べ物を届けてあげるために」歩いていて穴に落ちたらしいのだが、そのお母さんの食べ物を食べればいいものを、そこは絶対に手を付けてはならない、なぜか?(わからない)

更にわからないのは、
その大切にとっておいたお母さんの食べ物は、後半あることがなされる。
これは一体何か?(わからない)
→外に出られた弟が、お母さんのところに行って、お母さんは何故か普通に暮らしていて、そしてとっておいた食べ物が入った袋でお母さんを窒息死させる。その時に兄が俺たちにしたことを思いだせ、彼女が自分たちを突き落とした、という。これは?一体?母親が二人を穴に入れたのか?母親は何の象徴なのだろう?

政治的弱者がこの兄弟なのか。
最底辺にいる者たちの暗喩なのだろうか。
ピラミッドをさかさまにしている形の穴というのは、最底辺で上を支えている人たちがいるということなのか。

この本、解答編がほしい。
つけてくれたら一番ありがたかったのだが・・・


評価 5

いやあ…面白かった!
こういう方向性で本を読むとは!
なんだか全部読んでみたくなったのだった、ここにあげられている文庫解説を。

そう、文庫の解説について語っている本なのだ、これは。
特に古典と言われているような本の解説に。

・・・
文庫の解説って、確かに読む。
本当の小説の事前に読むか事後に読むかというのは時によって違うけれど、ともかくもついていれば必ず読む。
腑に落ちない解説というのも確かにある。
これはいくらなんでも解説じゃないんじゃないかとうっすら思うこともある。
けれどそういうものなんだ・・・と納得してきたのだが・・・・
納得した背景には、「解説っておまけのようなもの」という認識があるからだろう。
おまけなんだから文句言っちゃいけません、みたいな気持ちがあるからだろう。
ついているだけでお得、みたいな気持ちが。

斎藤美奈子、ばしばしそこを斬る。
途中で何度も大爆笑した。
こばひでって!(あの小林秀雄です、容赦なく斬る斬る!)
よくわからない文章にはわからないと斬る、これも読める人だから斬ることが許される(わからない人だったらわからないというのが無知をさらけ出すようなものだから)

坊ちゃん、こんなに出ていてこんなに解説が違うだなあとまずそこで驚いた。
悲劇とみるか喜劇とみるか。
これを読んで、集英社文庫の坊ちゃん解説(ねじめ正一)を猛烈に読みたくなった、小学館文庫の夏川解説も。

伊豆の踊子、これは驚いた。
私が長年疑問に思っていたことがこの話の中ですっきりしたのだった。
それは、最後の最後で、なんでこの一高生が泣くのか、それも少年の学生マントの中で!
BLとは思わなかったのだが、なぜ?そもそもこの中で???
と長年の疑問だった、泣く気持ちはわかったのだが(と思っていた)
ああ・・・こういうことだったのか・・・

ティファニーの龍口直太郎の解説はとても覚えている。
なんだか衝撃的だったのだ、ティファニーに行ったのだなんだという話と、映画への否定と。
この映画の否定が、ハリウッド映画を否定してもいいんだに繋がると斎藤美奈子は喝破している。
映画を否定されたので長年見てなかったし(で、見たら案外私は好きだった)
これは同時に村上春樹の解説にも触れているが、ここは春樹、うまいなあ逃げ方が(失礼)と思ったりした。

他にも三四郎、赤頭巾ちゃん気をつけて、ひとひらの雪(ここも大爆笑した)、三毛猫ホームズシリーズと楽しい解説の解説、が続く)