2017.05.21 無限の書



評価 4.8

面白い、特に中盤のあたりが面白い。
話がSFあり、ファンタジーあり、一冊の本の謎あり、アラジンの魔術の話のようなところあり、イスラム文化へのあれこれ、現代的なハッキング、と多くの側面を持って語られていくので一気に読ませる。
更には、本当の男女の愛とは、の恋愛のあれこれをも語ってくれている。
現実と思えば、ファンタジー魔法の世界、ここと思えばまた現実、と目まぐるしく場面も変わっていく。
後半、現実の体制が崩壊し、ネットの世界もあれこれとあり、映画のインセプションを喚起させられた。

けれど、後半(砂漠に投げ出されて魔界の後)あまりにどたばたっとしていないか。
また最初の方で高貴な女性の人と交わるのだが、その高貴な女性の姿が全く見えなくなるのはいかがなものか。
この人の人となりの魅力がよくわからないまま、知的で美しく物を知ってる住む世界の違う高貴な人、というのでずうっと通しているけれども。
また、私はサイバーパンクが苦手な方なので、これとアラビアンナイトが融合したこの話、ちょっとばかり乗れなかった部分も多かった。
アラビアンナイト部分は面白いには違いないのだが・・・(だから中盤あたりは面白い)


・・・・

中東の砂漠に囲まれたシティと呼ばれる専制国家で暮らしている青年アリフ。
彼は23才でありハッカーとして暮らしている、資産家の父の第二夫人の母とともに。母はインド人である。
混血なので彼の将来は何もないに等しい。
しかし、ネットの世界の中では彼は非常に高く評価されている。
そんな彼が、現実である高貴な女性と知り合い一夜を共にする。
ところが・・・


身分差がある世界というのがまず大前提になっている。
格差社会ということだ。
そして更にここに追い打ちをかけるように、中東なので女性は高貴な人たちは黒いベールを顔にかけている。
(ここで黒いベールをかけなくてもいい貧民のダイナがかけているところがとても可愛いし、この女の子の将来的な賢さに繋がっている)
女性の地位もおのずと低いのが結婚を勝手に親にきめられる、処女性が重要視されるというところでよくわかる(これは現実にリンクしているのだろう)

アリフが恋人にいきなり別れを告げられて、彼女から不思議な一冊の古書を渡されたというところから物語が展開していく。
アリフが政府保安局の検閲官ハンドに追っ手を差し向けられるところから攻防が始まる。
攻防と言っても最初のうち、アリフが逃げるのみなのだが・・・
そこに物語の世界の身と思っていたジンが出てきて彼を助け始める・・・


この中でアリフと同じく幼い頃から貧困の中で育ってきたダイナの一途な感じがかわいらしくて際立っていた。
後半逃げる時に彼女が賢いんだ、というところを何度も見せる。
最初の方で、高貴な人と結ばれていて彼女に熱中していたアリフが、徐々にダイナに惹かれていく姿も好ましい。

また一緒に逃げて助けてくれるヴィクラムも異様な姿をしているものの、誠実なジン(幽精)だ。
彼がいたからこそ全員が助かることにもなるのだ。
逃げ込んだモスクで偶然会ったピラル師の高潔な姿も忘れ難い。
更には、もうだめかと思った時に、のんきな(と見える)王子様が(本物の第何王子)、拷問されていた牢にやってきて、(この人はネットの中の一人で体制側に自分はいるけれど、実は反体制なのだ、という人)救出してくれる場面も読ませるのだ。

民衆のうねりというのが解説にあるようにアラブの春などを思わせた。
このあと、を知ってる現実の私としてはとても複雑な気持ちになるのだが。


本の中の言葉、そこに究極の知識があるという設定は、ネットの仮想世界と本の現実世界を繋げる意味で面白い試みだと思う。
ところで、アリフというのはハンドルで、ずうっと何が本当の名前なんだろうと思っていたら最後の最後で、モハンマド、ということがわかる。
ああっ!だから名前をハンドルにして自分の本名で呼ばれるのをかたくなに拒んだのか!とここで納得したのだった。(モハンマドはイスラム教の預言者)
(クルアーンというのが多分コーランのことだろうというのは文章の中で予想がついたけれど、文章中に註が欲しいと思った)
2017.05.16 紫のアリス


評価 4.5

人生最悪の日、と思った日に、紗季という女性が夜の公園で男の変死体を見つける、というところから始まる。
夜の公園にいたのは、その変死体だけではなく不思議の国のアリスのウサギだった・・・


月夜にアリスのウサギ!そこに一つの変死体!

こんな幻想的なところから始まるミステリだ。
最初、アリスのウサギ、というので幻想かファンタジー方向と思ったら、意外にウサギの正体はすぐに出てくる。
そしてそれは現実的なものだった。
後半が気になって一気に読む本で、途中の伏線が最後にまとまっていくというのはある。
けれど、最後まで腑に落ちないところもまた残るのだ。
読ませるが、、、、と私は思った。


三人称ではあるけれど、とりあえず紗季の視点なのだが、これがふっと消えるのだ。
この子の視点が消えたなあ・・・・この間は何をしていたのかなあ・・・と何度思ったことだろう。
だから紗季の見ているもの全てが信頼感がない。
しかも記憶が時々飛んでいるのも読んでいるとわかる。都合の悪い時に飛んでいる?と疑わしくさえなってくる。
でも本人は大真面目で、本当に記憶が飛んでいるのだ。
記憶の飛んでいた時に何が起こったのか、は、読者は想像して大体それは後半で(やっぱり)ということで出てくる。

彼女がなぜ絶望していたのかというのは、不倫していてそれを清算して会社を辞めた状況、というのもこれまたすぐに出てくる。
しかもその不倫相手がさっくり死んでいた、(殺されていたっぽい)というのもすぐに出てくる。
紗季が殺したのだろうか?
更に、公園の変死体の話が一向に出てこないけれど、これは彼女の妄想なのだろうか。

そう、この本、紗季の妄想なのか、記憶の改竄なのかよくわからないままに読み進む本なのだ。
どこからどこまでが真実なのかさえ揺らいでいる。
冒頭の方の引っ越し場面で実に印象的なものがごみの日に捨てられる・・・これは・・・と誰しも思うだろう。
そしてあとで部屋の中で残された→段ボール←があったのがわかると更に思うだろう。
しかしここさえはっきりしない、何だったのかは。

そしてお節介な独居老人が住むマンションに住むことになった紗季・・・・
高校生の時の劇のことまで思い出すのだが、そのあとのことがどうしても思い出せない・・・
ここから独居老人たちとともにアリスの謎、死体の謎、を解いていく・・・


最後のお茶会が忘れられない。
ここ、幻想かと思う場面だ、あり得ないだろう・・・
読ませる作品ではあるものの、好きかどうか聞かれたら、微妙・・・な感じの作品だった、私には。


評価 4.5

久々の吉本ばななエッセイ。
年齢的なことから見て普通のことかもしれないけれど、ご両親がお亡くなりになってる記述を見ると、ほんのり悲しくなる。
そして彼女のお姉さんと彼女とご両親の旅行の思い出とか、日々あったこととかがさりげなく語られると、全く知らない人たちなのにちょっと淋しくなる。

比較的自分の身辺についてありのままに書いているので、(法律的には結婚していなかったんだ・・・)とか(高齢出産だったんだ・・・)とか、そもそも(お子さんがいるんだ・・・)とか(義理のお父さんとの交流があるんだ・・・)とか、私は全く知らなかった事実が次々に出てくる。
ほこっとした部分もあるけれど、人の生死を見つめ、メダカの生死も見つめている、そういうことが同列に並んでいる、というのがいかにも吉本ばなな、だと思った。
思ったよりスピリチュアルな部分はなくて、思ったままの身辺雑記の趣があった。



評価 4.8

村上春樹の翻訳がこんなになったんだなあ・・・とまずそこに驚いた。
ぽつぽつぽつぽつ見ている気がしていたが、まとまるとこんなに膨大な数になるんだと改めて茫然とした。

この中で、チャンドラーとか、サリンジャーとか、人が訳したものを新たに訳すというのはとても勇気がいったことだと思う。
私も野崎孝世代なので、ライ麦畑でつかまえてをなぜ訳すかと思ったのだが・・・
実際に村上春樹訳を読んでみるとこれはこれでとてもいい!現代に会ってる!と思ったものだった。
この本を読んでチャンドラーも新しいのは読んでいないのだが、読んでみたいものだ、と強く感じた。

途中で柴田元幸さんとの対談が入っていて、そこで翻訳のあれこれが語られる。
ここがとても面白かったし、二人の違いと同じようなところが垣間見えたような気がした。
また、それぞれの訳した作品にたいしての村上春樹の思い入れのような文章もたくさんあってそこも読ませた。

それにしても、翻訳を楽しんでやれるというのは素晴らしいことだ。
あと・・・この本を読むと、安原顕さんの存在がとても村上春樹にとって大きかったことがわかる。
自由にほぼやらせてくれた感があるし、最初に翻訳をする時教えてくれた翻訳集団の人たちのセレクトなど、こういうことになっていたのか、と驚きだった。


評価 4.6

楽しい!
連載はとうとう800回を越したらしい!(祝)

なんといっても今回は真田丸に言及しているので、なるほどなるほど、と頷く場面も多い。
三谷さんが学生の時にお世話になった先生から歴史の原因と結果の話を聞いた話、とても参考になった。
先生もさぞや嬉しいだろう、自分の教え子が自分の言ったことをこれほどまでに消化してくれているのだから。

そこここに自意識はついてまとう文章だ。
だけど、それがまた三谷流。
そういえばお子さんの話もあった、しっかり親ばかしているではないか!
三谷さんも人の子、とおもった。


評価 4.2

出だしはとても面白い、ぞくぞくするほどに。
何やらわからない場所(出身地らしいが)にきて、そこで何やらわからない仕事に就く、ME創研という会社で雇われているのだ。
連れ子のいる奥さんと一緒に家族全員でそこで巻き返し仕様とするアルトという男性が必死に働く、工場の「ような」ところで。

いきなり
お身削り、P1、お尽くし、という異常な言葉、そして何よりお互いに掛け合う言葉がお疲れ様でした、ではなくお巡りさまでしたという言葉があるのが、(なんなんだ!この町は)と思わせる。
宗教じみていると感じたのだが、それでもなさそうだ。
しかも町全体で使えるお金というのが日本国のお金ではなくなっている。

・・・
できた製品については、心がこもっていないといけないと言われ、適当に作ったものは鑑定士が排除するという仕組みになっている。
鑑定士?またわからないことが出てくるけれど、この新鑑定士の出来上がっていく苦悩も新鑑定士の言葉とともに綴られている。

そして村の外に出るには許可が要り、必然的にこの村に閉じ込められたような人達・・・
でも製品を一方で外に出す仕事の人もいてこの人は外の様子も知っている。

奥さんはこの町になじめず奉仕に行く。
奉仕の内容とは・・・・

・・・・・
これ、最初は面白いのだが、後半なんだか失速する。
思いつきは優れているのだが、そのあとが続かない、ような感じがした。
落ちないのだ、すべてが曖昧模糊の中に終わってしまって。
2016.10.08 蜜蜂と遠雷


評価 5(飛びぬけ)

傑作。
ああ・・・こういう恩田陸作品を待っていた・・・
読み終わるのが惜しくて惜しくてならなかった、二段組みの分厚い小説にもかかわらず。
もっともっとこの世界に浸っていたい、そういう気持ちにさせてくれた小説だった。
読むのに長い時間かかったのは長尺であるということだけではなく、今の時代ありがたいことに検索すれば全ての曲がすぐに聞くことができる。
それを読むのと同時にやっていて、そこもまた非常に楽しかった。
これをピアノ界の風雲児、風間塵はこうやって弾いていたのか、とか。
かつての天才少女の栄伝亜夜が母の死をきっかけに弾けなくなった最後の曲はこれだったのか、とか。、
完璧な演奏技術を持っている名門ジュリアード音楽院のマサルの曲はこれだったのか、とか。
そこに恩田陸の言葉が載せられていく、という楽しみがあった。
もし曲がなくても頭の中で恩田陸の言葉で音楽が奏でられていっただろう、豊饒な言葉で音楽を描くってこういうことなのか、と感じた。
音楽の物語であると同時に見事な青春群像劇でもある作品だった。

話は、「ここを制した者は世界最高峰の国際ピアノコンクールに優勝する」というジンクスのある日本のある国際ピアノコンクール、芳ヶ江国際ピアノコンクールの話だ。
ここに世界のピアニストの卵達が集結する。
養蜂家の父とともに各地を転々としたピアノを持たない男の子風間塵16歳という天才の出現、しかも彼はピアノ界の亡くなった重鎮ユウジ・フォン=ホフマンの愛弟子だというのだ。
ナサニエルという審査員の愛弟子のマサル・C/レヴィ・アナトール19歳の優勝候補の演奏もまた圧巻だ。
更にここに復帰戦として一人の女性が加わる、彼女の名前は栄伝亜夜20歳。かつて天才少女の名前を思うがままにしたが母の死を乗り越えられずコンサートを放棄したという過去がある。
そしてまた年齢制限の最高齢29歳の高島明石29歳、妻子がいて普通の生活を送っている音大出身の男。
彼らがこのコンテストで技術と芸術性を競っていくのだ・・・


風間塵(かざまじん)、の出現が非常に印象深い。
ある審査員には激しい嫌悪を引きおこし、別の審査員は強烈に惹きつけられる。
この魅力とはいったい何だろう、そして反発とは何だろう。
審査員たちも自問自答し始めるがそこに彼の師であるユウジ・フォン=ホフマンからの一通の推薦状があるのだ。
この推薦状が実に謎めいている、いわく、彼はギフトになるのか災厄になるのか、は、皆さん、いや、われわれにかかっている、とあるのだ。
ギフト?
災厄?
これが読んでいくと徐々に風間塵の存在が何かというのが解き明かされてくる。
この過程もとても美しい。
しかも風間塵の破天荒なピアノへの対峙の仕方というのもまた胸打たれるのだ、本来こういうものだろう音楽は、というのを見せてくれるのが風間塵だ。
失意の底にいてようやく立ち直ってコンテストに出た栄伝亜夜(えいでんあや)にとっても風間塵との出会いは衝撃的だった、彼女の音楽大学のピアノをいとも簡単に弾きこなしていたのだ、しかも忍び込んで。
正規の音楽教育を受けていなかった風間塵は非常に耳が良い。
コンテストの前の調律の間にも、床のひずみまでを見破って調律師と設定していくこの姿も印象深い。

一方で栄伝亜夜の気持ちも最初トイレに入った時に人がどう見ているか自分の事を、と言うのを知ってしまった時から、後半に至るまでずうっと追って沿うことができた。
恐れ、おののき、そして躊躇い。
圧倒的な技術と天才的な音楽的才能を持ち合わせながら失意のどん底にいた彼女を救ってくれたのは、やはり音楽だったのだ。
彼女は音楽の神様に愛されていたのだった。
そして風間塵との出会い、また幼馴染のマサルとの再会で彼女もまた違うゾーンに行くことができるのだ。

また、マサルは幼馴染の亜夜を一目で見抜いたのだった、かつて日本にいた時に同じピアノ教室に通っていた女の子あーちゃんを。
長じて再会して彼女とは音楽性で細かなところまで一緒に感じることができると確信したのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この三人が一次予選、二次予選、三次予選と徐々にコマを進めていく。
他にも優秀な人たちがひしめきあうコンテスト場面は迫力がある。

この三人組とは別に高島明石という男性の存在もとても味わい深い。
この人の後半のある二つのことでぐっときて泣きそうになった→三次予選まで行けなかった彼なのだが、思いがけず二つの賞をもらえる電話場面と栄伝亜夜と抱き合って泣く場面
普通の生活をしていて普通に暮らしている彼。
年齢がいっている彼。
既に就職している彼。
市井の彼がコンテストに応募して、自分の解釈で現代音楽を演奏していく、そして彼は他の人への冷静な賛辞もいとわないのだった。
彼には生活があり彼には子供も妻もいるのだ。
けれど彼の夢に向かって進んでいくこの姿にも心揺さぶられたのだった。



評価 5

これだけの分厚い二冊、さすがに読ませる力があるキング!
しかも後半への加速度合いが素晴らしい。
前半、ちょっと乗り切れなかったので、鈍く読み進んでいったのだが、上巻の最期の方で一気に加速して・・・・
ホラーではなく、まっとうな推理小説であった。

まず、犯人が最初から分かっている。
どういう奴かというのもほぼわかっている、筋金入りの頭のおかしい奴だと。
この人の名前も何をしているかも早い段階でわかる。
普通ミステリって、この部分が隠されているのだが、キングはそこを惜しげもなくばっと出している、作品に絶対の自信があるからだろう。
人々の造型が犯人を含めてとても練られている。

追う側、は、退職した元敏腕刑事の男とこれまたわかりやすい。
そして退職して生きる希望も無くなってテレビ三昧の日々、ピストル自殺しようかぐらいに思っているだらけた元敏腕刑事が、ある挑戦状を犯人からもらうところから、俄然生き生きとし始めるのだ。

冒頭、メルセデスが求職者の群れに突っ込んでいく場面はまことにむごたらしい。
その前の小さな交流を読んでいるだけに、ますます心が痛む。
そのメルセデスを運転していた犯人からの挑戦状こそが、皮肉なことに死なせる方向ではなく(犯人は自殺させたい)生きる方向に行かせる、のだ。

追う側、犯人と交互に描かれていて、犯人の異常な生活も徐々に見えてくる。
犯人の弟の事件というのが唯一後半まで引っ張られていくが、これもわかった時に、ああ・・・こんなことが!と戦慄させられた。

・・・・
上巻のジャネル(メルセデスを犯人に盗まれ事件を起こされる。そののち世間の目に負け(と思われている)自殺するオリヴィアの妹)が登場してくるあたりからぐっと話が面白く深みを増してくる。
なぜなら、彼女とホッジスの話にもなってくるからだ。
ところが、これもまたいい意味で裏切れらるのだった。
作者はとても非情な話に移行させている。

優秀な黒人高校生ジェローム(ハーバード大学に進学希望)の姿が冒頭から好ましい。
彼のまっすぐなホッジスへの尊敬の気持ち、機械に弱いホッジスの穴を埋めるべく働くジェロームの姿が生き生きと描かれている。

そして、後半。新たな人間が現れた、味方側に。
それは精神をやや病んでいるホリー。
・ホッジス(元刑事で心を病んでいた)
・ジェローム(まっすぐな心なのだが、黒人ということを常に意識している)
・ホリー(母からの呪縛から逃れられず精神を病んでいる女性)
このでこぼこ三つ巴がそれぞれの得意分野を生かして、犯人を追い詰めていくところが圧巻だ。
特にコンサート会場の場面はどう阻止するのだろう、と思っていて息がつまる思いだった。

また犯人側の家庭事情もどろどろしていて不気味だ。
どのようにしてこの怪物が出来上がっていったのか。
母親との関係性はどうだったのか。
そして特に、母親がハンバーグを食べるシーンは驚いた。

この作品、まだ続いているようで、これが第一部ということが嬉しい。
この三人のタグ、おおいにおおいに期待する。

(上巻147ページ3行目、誤植ではないか。
「わたし自身についてえいば→わたし自身についていえば」

以下ネタバレ
・ジャネルといい仲になって、これもホッジスの精神状態をアップさせるのだが・・・
あっさりとジャネルは犯人に仕掛けられた車の爆弾によって殺されてしまう。
ホッジスがこのあと、ここから立ち直るのが早いなあとそこは思った(心の中で思っているにせよ)
だからジャネルは後半の重要人物と思ったら違って、ホリーだった、重要人物は。

・犯人プレイディの母親は
彼がジェロームの犬を殺そうとして大量に作った毒入り肉を
母親が珍しく調理してハンバーグにして自分が食べてしまって死亡する。
完全なる犯人の自爆であった。

・母とプレイディは関係を持っている。
そして、彼らは事故で半身不随となった弟を殺していた。

・プレイディは、パソコンの仕事とアイスクリーム移動販売の仕事を掛け持ちしていた。
移動販売の時に何度もジェロームと顔を合わせていた。

・最後、プレイディは病院で生き返る。
どうなのだろう、このあとこの人間、登場するのだろうか・・・(なので次巻をぜひ!)
2016.06.28 魔法の夜


評価 4.4

褒めようとすればいくらでも褒める部分は見つかる。
でもそれとは別に、この話のファンタジックな感じに今一つ乗れなかった自分がとても残念だった。
話はバラバラと出てくるけれど、ほとんどがあとでまた同じ人たちが出てくるんで、そこは繋がっている。
この人はあの人だ、とかこの人は誰だっけ?と探す作業は楽しい。


・・・・・・・
アメリカ東海岸の海辺の町。
暑い8月の夜に異変が起こる。
色々な物(マネキンとか)、人が、性別・年齢を超え月の中で動き始めるのだ・・・・

何度も出てくるのは、少年時代から関係を持ち続ける作家崩れの39歳の男と、彼の年上の女性だ。
マネキンを慕う酔漢もいて、マネキンもこれに合わせたように動き始める。
これとは別に14歳の少女がそわそわとし始める、いったい自分は何をしていいのかわからない。
仮面集団の女の子たち、仮面をつけてあだ名をつけて家にただただ入り込みある時は食事までする(そして家の人に難なく受け家れられたりする)

魔法だ。
人形も動き出すのだから。
おもちゃのちゃちゃちゃの世界だ、トイストーリーの世界だ。
月の光の中でお読みください、らしい。
2016.06.20 埋葬された夏


評価 4.6

過去と現在とが交互にやってくるミステリだ。

「ある一人の少女」がイギリスの小さな海辺の田舎町で殺人を犯し、今も治療施設に入っている。
そして20年後勅撰弁護人の依頼を受け、一人の元刑事の私立探偵ショーンが立ち上がる。
20年前とは違い、DNA鑑定などで圧倒的に進歩している科学。
再審を求めて、物語の扉は開いていく・・・


先日読んだ「ささやかで大きな嘘 」と構造的に似ている。
どちらも、「殺された人間が誰かわからない」というところだ。
ただ、違うのは、「殺した人間がとりあえずは逮捕されている、その名前は出ている、コリーンという少女だった」というのが埋葬された夏、では明確に出ていることだ。
これをひっくり返そうとしているので、実は違う犯人がいるのだろう、というのは初期の段階で予測はできるのだが・・・・いずれにしても「誰が殺されたのか」というのは最終までわからない。

まず2003年の部分は私立探偵ショーンがこつこつと歩いてこの町の過去を探っていく、色々な人に会う、という部分で成り立っている。
途中までは正直、この部分はそれほど惹きつけられない。
茫洋としてショーンがしていることに興味が薄くなっているからだ(テンポがやや遅い)
これに対して、1983年の高校時代の描写は勢いがある。
ここは最初の部分からぐっと惹きつけられた。
エドナという初老の女性が不良娘の子供サマンサ、つまり孫を引き取ることになる戸惑い、そして過去の、自分の娘アマンダの荒れ狂った所業、サマンサへの一抹の不安、などが克明に描かれている。
更に、学生生活で、転校生のサマンサが親友だったコリーン(メイクからして不良の娘、母親がどうしようもない家庭に過ごしている)とデビー(まっとうな家に育った娘)の中に見事に割って入って、二人を引き離し、コリーンを自分の支配下に置くサマンサの特異な性格と奔放な金遣いの荒い生活が語られいてく、ここがとても見事な青春物語だ。
また、デビーが崇拝していた幼馴染の男の子アレックスの心と体さえ、実に巧みな戦略で奪っていく様は読んでいてぞっとした。
デビーの恰好をまねするサマンサ。
アレックスがたむろしている場所にさりげなく近づいていくサマンサ。
悪魔的な狡猾さでじわじわと人に迫っていくサマンサ。
嘘を悪びれずつけるサマンサ。
サマンサの母のアマンダは再婚しているが(そしてサマンサからは徹底的にそのことを批判されているので一瞬サマンサが正しく可哀想な子なのかと思う。)、一番サマンサを理解していて、この子の危うさをいぶかしんでいる。
だからこそ、かつて家出した両親の家に娘を託すことになったのだというアマンダなりの理由が後半になってわかってくるのだ。

・・・・・・・・・・・
一方で私立探偵のショーンが調査を続けていくうちに、今でも酒場でたむろしている人たち、は、酒場の持ち主を含め、全員がこの事件時に殺人者として隔離されているコリーンと同じ学校に通っている人たちだというのが明らかになっていく。
かつての不良少年のスモレットは今では更生して警察官になり、警部まで昇進している。
彼と親しいのが、レナード・リベットだ、彼は引退したとはいえ、警部でスモレットの上司らしい(そしてかなり早い段階でスモレットとレナードが強烈に繋がっている何かで、というのはわかる)
(全てが分かってからスモレットの現在の場面を読み返すと108から109ページ、非常に味わい深い)
閉鎖された小さな世界で、ショーンの行くところに様々な障害があらわれてくる。
果たして犯人は他にいるのか?
施設にいたコリーンのあの反応は何だったのか?
謎は深まる・・・・

・・・・
最後、全く予想していなかったので、ここは確かに胸打たれた。
こういうことだったのか!と。

が、ちょっと全体に盛り込みすぎ、という感じがした、あまりに多くの事がありすぎて、混沌としてくるのだ、途中で。
生まれながらの悪の造型のような人間がいて、また別の悪の権化がいて、悪の権化とつるむ更に悪がいて・・・何人悪がいたのだろう。
非常に惜しいと思ったのは、ショーンの造型が、今一つ薄い感じがしたのだった。
ショーンの動きはわかるのだが、ショーンがもうちょっと内面を見せ、魅力的だったら、と何度か思ったのだった。

以下ネタバレ
・真の殺人犯はサマンサ。
そして殺されたのは、デビーのボーイフレンドのダレン。
それはそれはむごい方法で何度も刺され(サマンサが刺した)殺されたのだった。
(サマンサは精神的におかしかった幼い頃から、というのがそこここに描かれている)

・この物語の中で、サマンサは過去にしか出てこない。
だからサマンサはどこかにいってしまったのだろう、または「殺されたのがサマンサ?」と誘導されている、読者は。
けれど、実際は、殺人のあとの隠蔽工作(レナードなどの)で、彼女は逃げおおせていて、しかも目の前にいた。
スモレットの奥さんがサマンサだった(そして見事にサマンサが受け取ったエリックからの遺産をスモレットとレナードは享受した。そう思って108ページを読むと感慨深い)

・幼い頃から問題行動があまりに会ったサマンサをずうっと母のアマンダは見ている、母親として。
一方アマンダ自身は男運に恵まれず、幼いころの父からの虐待もあり、定まらない生活をしているが、ようやく一人の理解してくれる男と巡り合う。
なんとかしてサマンサを普通の少女に戻したいと思っているアマンダの姿が後半光ってくる)

・悪の権化は警部だったレナード・リベット。
彼が支配しているような街だった、彼は男性も女性も相手にする非道な男で、女衒のようなことすらしていて、脅迫も殺人も陰に隠れてやっていた。
彼と組んでいた悪は、エドナの夫(つまりサマンサの祖父)エリック・ホイルだった。
彼も特殊な性癖を持っていて、若い男の子をレナードから斡旋されていた。
金持ちだった。
また家出した娘アマンダはなぜ不良娘になったかというと、エリックホイルに性的虐待を受けていたためだった。
これを妻のエドナは黙認していた。

・また、レナードの娘が、実はコリーンだった(コリーンの母親とレナードはかつて関係したらしい)というのが後半でわかる。
つまり、レナードは自分の娘に殺人を擦り付けたことになる(が、悪の権化なのでこんなこと痛くもかゆくもないだろう)

・コリーンは売春のようなことまでしていた、母親に強制されて。
そこで知り合ったのが、ゲイで同じようなことをしていたノージ。
男なのだが女性のような恰好をしていたノージは奇妙な書物で自分を逃避されていた、悪魔崇拝のような逃避にいっていた。
そこにコリーンははまって、ノージにもらった本をいつも頼りにしていて、彼女もまた逃避していた。

・すべての真相を知っていて
真実を暴こうとしたのが勅撰弁護人であり
それは、かつてのコリーンの親友、デビーであったのだった(これが衝撃の結末。名前を変えていた)

<文章的に腑に落ちなかったところ>
18ページ
「夫が上着に片腕を通しただけで、灰皿に煙草をくすぶらせたまま出がけにした慌ただしいキスで頬がひりひりする。」
最初の、片腕を通しただけで、と最後のところが違和感。
主語ははぶかれているエドナ、というのは十分わかるのだが・・・・

132ページの最初から4行目の読み方はなんだろう?
石の前だけれど。