2017.07.10 ミツハの一族


評価 4.6

これってあれ?あれ?あれ??
いくら鈍い私でも、あれ?と思った。
そして解説を読んでやっぱり!あれ。
だって・・・一章の終わりから二章にかけ、そして最終章に至るまであれで満ちている・・・
最後、ひどすぎやしないか・・・

かつての北海道の地に
未練を残して死んだ者は鬼になり、生活の基盤である水を濁す。
その鬼を見て、その未練を想像する役目を持つ人間が集落にいる。
まず見てその様子を語るのが、八尾一族の水守、水守は、昼は目を開けられず夜になってようやく見ることができる。
そして鳥目役は昼間しか世の中を見ることができないが、彼が水守のいったことを分析して、未練を考える。


黒目がちの鳥目役の八尾清次郎が主人公となっている。
彼はH帝国大学で学ぶ医学生だが、水が濁ったことによってたびたび故郷から呼び戻される。

不可思議な水守と鳥目役の関係が目を引く。
どちらも目に一種の障害があるので、昼に目を開けるものと、夜に目を開けるもの、ということで二人の接点がほぼないのだ。
それでも二人の苦悩というのはそれぞれにあるので、なんとなく二人は理解しあっている。
強烈に美しい水守に徐々に惹かれていく清次郎の止まらない気持ちというのが切ない。
それぞれの未練、というのは、それほど大きなものではない、謎として。
でもその未練が鬼に自分をしてしまったというのが痛いほどわかる。

ラストもまた切ないし残酷だ。

以下ネタバレ

これはBL?
水守が一章で女であると思っていたら男だった、という驚愕事実がある。
それでもなお、彼(彼女)に惹かれ続ける清次郎。
最後その気持ちの未練ゆえに、事故で死んだ清次郎の霊は鬼になってしまった・・・


評価 5

とても面白かった。
童話?ちょっと苦いところのあるメルヘン?
いわゆる寓話、だと思うけれど、難しく考えなくても話として面白い。
人間の二面性ということですぐにジキルとハイド氏を思ったが、全くアプローチは違っている。

ぼく、が語り手であって、ぼくの叔父さんメダルド子爵がトルコ軍との戦争に行く。
そこで砲弾にあたり、左右まっぷたつに吹き飛ばされる。
そのうち、奇跡的に助かった部分が右半分。
右半分は悪の部分であった・・・


奇想天外なストーリーと言っていいだろう。
くっきり悪と善が分かれていて、しかも体が割れてしまっているのだから。
体半分が悪で満たされていて、それが前半は悪の限りを尽くす・・・
面白くない物語になるかもしれないスレスレのところを書き込んでいる。
とりあえず半分でも子爵は子爵なので、彼の言うことは絶対であり、しかも彼の言うことはどうも戦争以後理不尽で残虐なことが多い。
それに領民たちは気づいているものの、どうしようもない、手をこまねいているだけだ、何しろ子爵なのだから。
とりあえずは偉い人なのだから。

また、らい病患者の村というのが描かれている。
ここは隔離されていて、皆が半狂乱のような放埓な生活を送っている彼らであり、そしてそれはそれで成り立っている村でもある。
悪の子爵は自分の乳母を病でもないのにここに送り込む、という蛮行まで行っている。
この村も話の中で一つの重要な場所になっている。
なぜなら、後半で・・・

村の中にも、おかしい、悪いことばかりやってるじゃないかと思っている人もいる。
甥である「ぼく」もびくつきながらも、彼に見つからないように見つからないようにと腰をかがめている。
悪の右部分は、半分の癖に、ある少女を自分の妻にしたいと思った。
この少女、なかなか馬鹿じゃないのだ、読んでいて、ここがとても重要なところだと思った。
両親が、悪の方でも子爵なのだから!結婚した方がいい!!と乗り気なのだが、少女は彼の悪の部分を懸念している。
そこはしっかりわかっている少女、なのだ。

・・・
この話、後半になって、今度は左半分が実は生きていて、善になって戻ってきているというのがわかる。
ここで右半分悪と、左半分善が勢ぞろいするわけだ。
善はそれこそ善をしようとしている、ありがたい、と思っている人たちの姿もあるのだが、らい病患者の村に行ってその放埓さを改めようと呼びかけるに至って、彼は疎まれる(ここが非常に面白い)
善は善を成しているだけなのに、と、納得がいかないだろう。
ここに、複雑な普通の人間の感情が見えてくるのだ、善のみでは物事の本質は見えず物事ははかどらず、また悪のみでは悪政になるという真実があるのだ。

最後、両方と結婚を受け入れる約束をした少女が大きなことを成し遂げる。
無垢の少女の勝利、ともいえよう。


評価 5


とても面白く読んだ。
この対談集、騎士団長殺しを特に読んだ後だとさらに興味深く感じるだろう。
ここに対する言及が多いので、読んだばかりだと、あ!なるほど!と思うところが多かったからだ。
また別作品にも話が及んでいるので、そこもぐいぐい読めたのだった。

川上未映子のインタビューってどういう感じなのか知らなかったのだが、村上春樹の本を読みこんでの質問だし(よく勉強している!)、かといって過剰にのめり込みすぎてもいないし、もってまわったインタビューでもないし、決めつけもないし、このスタンスは好感が持てた。
村上春樹も答えやすかったと思う、このインタビューなら。
時に笑いながら(笑ったのは、プラトンのイデアなどを川上未映子が必死に読んできたのにという部分)読んだのだが、率直に知らないことは知らないと村上春樹も語っている。

彼の自分の作品を忘れているのも発言を忘れているのも、すごいことだなあと逆に思ったりした。
なんだかどちらが作者かわからなくなってるじゃないか!(それほど川上未映子は読み込んでいる)
毎日10枚のペースで書くということ
天職と自ら言っているということ
戯曲よりも何よりも小説が自分に会っているんだということ
そしていろいろなところで語られている、地下室のまた下の地下室の話(ここも川上未映子の絵が光る)のこと
特徴的な比喩の出方のこと(決して比喩帳があるわけではない・・・)
日本近代文学のこと
日本文壇のこと
どうやって世界に羽ばたいていったのかということ・・・・


村上春樹よくぞここまで語った、と思った。
これを読んで、もっと自由に村上春樹を読んでいいのだなあ・・・と改めて思ったのだった。
解釈はそれぞれ、受け止め方もそれぞれ、という単純なことを思い知ったのだった。
洞窟の中で語り部がとびっきり面白い物語を語る、それを純粋に楽しもうと思った。

騎士団長殺しで、まりえが主人公の男の人に、胸のことを相談するのが私は読んだ時に違和感があったのだが(思春期の娘が男の人に相談する?)、村上春樹の言葉ですごくここは落ちたのだった(244ページ)
いわく彼を男として見ていないと。
だからこそ二人の会話は内面的で思念的な会話になるのだと。
そしてまりえがそういう関係の持てる人をずうっと求めていたのだと。
12歳ぐらいの女の子が安心して胸のことを話せる相手、だと。

またまりえがワードローブに隠れている部分の話もとても興味深かった。
一体あれは何だろう?と思っていたから。



評価 5

好みあるだろうと思う、挿絵部分については。
私はとても良いと思ったけれど、自分の思いとは違う挿絵に、え、と思う人もいるだろう。
けれど、このセレクションのすばらしさを評価したい。
それぞれ有名な作家だけれど、選ぶのはマイナーな作品だ。そしてどれもぐっと面白い。
岡本かの子に始まって、川端康成で終わる楽しさがある。

この中で、快走、は含み笑いをもって読み終えた。
きっと今の女子だってジョギングしているよ、の時代では何のことやら?なのだろうが、書かれた当時の状況を考えると、こんな風に走るということ一つとってみても不自由な思いで走っていたし、こっそり走っていたのだろう。
弾けるような娘の若さがありそれを持て余して走るとすっきりするという発想の豊かさよ!
最後の両親の言葉までふくっと微笑める作品だ。

葱、は、この情景そっくりではないけれど極めて似た状況ってあるなあ・・・こういうことって、とかなり激しく思った。
夢を見たい。
だけど現実もある。
人間は生きていかなければならない。
そしてこのお君さんは夢心地のデートの最中に安い葱を見つけて何のためらいもなく買ってしまうのだ。
誘った田中君のがっかりした感じが伝わってきた。

地唄はいかにも有吉佐和子的、な短編だ。
芸事の道にいる父娘がそれぞれの思いをなかなかうまく伝えられない。
父が最後に取った行動が光る。

表題作の耳瓔珞も、またきわめて円地文子らしい話だ。
体の病気で夫に見捨てられてしまう滝子、死口という言葉が生々しくこちらに迫ってくる。
そしてそれだけではなく、夫には触れられない滝子の女心の揺れ、のようなものが描かれている。
最初は、高梨画伯から、そして後半は滝子が誘いをかけうぶな男をどぎまぎさせる次郎さんの躊躇いまでが流れるように描写されているのだ。

神、います、は短いけれどものすごい作品だと思った。
最初の方で温泉場(どうやら混浴らしい)で、妻の幼い体を洗っている夫が艶めかしい。
と思ったら、この状況がなぜ起こっているかというのが徐々にわかってくる。
妻は手足が動かせない病なのだ。
そしてさらに驚くことに、この情景を見ている鳥屋という男性が、妻を知っているそれも少女のころに傷つけた女性だったということに気づくのだった。
その内容はわからない、書かれていないから。
けれど、一気にここに持ってくる面白さがミステリのようだ。
そして鳥屋の気持ちがあちこちにさまよっていく・・・このあたりが、もう鳥屋が身勝手な解釈をして、神、います、まで思っていくというところに鳥屋の人間性が見えるような気がした。
これって勝手な理屈なのだ、鳥屋の(と私は思う)

・・・・・・・・・・・・・・
桃のある風景(岡本かの子)/快走(岡本かの子)/葱(芥川龍之介)/むすめごころ(川端康成)/あばばばば(芥川龍之介)/地唄(有吉佐和子)/耳瓔珞(円地文子)/佐々木のおはるさん(白洲正子)/蛍(織田作之助)/神います(川端康成


『ミステリの形や手法をとった効果で読者の心に食い込む小説はたくさんある。
また精緻な作り物以上のものでなかったとしてもそれを生み出したのは人間だから、
優れたミステリの中には<人間という存在の面白さ>がみっしり詰まっていると考えている。』


評価 5(とびぬけ)


これまた連載時(日経新聞)から楽しみにしていて、早く一冊になれ!と思っていた本。
期待にたがわず、というかそれ以上で一冊を読んでみると、有栖川有栖の選んだ『ミステリ国の人々』の『らしさ』が際立っていた本だった。
読んでいてわくわくしていて、ミステリにいる住人と仲良くなった気すらしてきた。
ミステリガイドだけれど、大上段に構えたものではなく、それこそ初心者からちょっとうるさい熟練者まで魅了してくれる一冊だと思った。
しかも、いわゆる名探偵のみの列挙(前半でホームズ、後半でポワロとかクイーンは出てくるにせよ。助手、家族、被害者も出てくる)ではなく(そもそも、ミステリ国の名探偵、ではんくミステリ国の人々、なのだから、周辺の人でもオッケー)、これは誰だっけ?というような人もいる。
たとえば、スコット・ヘンダーソンって誰?と思った、何度も読んでいるにもかかわらず、しかも主人公にもかかわらず。
それほど影の薄い名作『幻の女』の主人公だ。
これを読みながら、そうだそうだ、彼の描写が少ないんだなあ・・・と改めて思ったのだった。大した男ではないんです、という言葉に大爆笑、確かにそうだ、事件に巻き込まれてしまうが彼自身は大した男ではない・・・

柳川とし子(大誘拐)はすぐにわかった、とし子刀自だ!と。
痛快なこの作品、ネタバレがあったら悲しいなあと思っていたがそこは有栖川有栖、
『刀自がそのような行動をとった理由は、それは書けません』
と思い切り読者をひきつけておいて突き放す。
この絶妙な感じが素敵だ。

コーデリア・グレイ(女には向かない職業)が、けなげにやっていく初心者の女性の自立と心の成長話、と私は思っていたのだが、継承の話、という、ダルグリッシュに光を当てた解釈もとても心に響いた。そうか継承の話でもあるのか。

読んでいない本もたくさんあるので、ぜひ読んでみたいものだ。
またオッターモール氏の手、は私は退屈と思ったのだが、この解説されている視点でもう一度読んでみたいものだ。

・・・・・・
ヴァン・ダインーS.S.ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』『僧正殺人事件』/シャーロック・ホームズーコナン・ドイル/松下研三ー高木彬光/明智文代ー江戸川乱歩/スコット・ヘンダーソンーウィリアム・アイリッシュ『幻の女』/アリスーウィリアム・アイリッシュ『消えた花嫁』/金田一耕助ー横溝正史/三原紀一ー松本清張『点と線』『時間の習俗』/黒後家蜘蛛の会ーアイザック・アシモフ/サッカレイ・フィンージョン・スラデック『黒い霊気』『見えないグリーン』〔ほか〕
2017.05.21 無限の書



評価 4.8

面白い、特に中盤のあたりが面白い。
話がSFあり、ファンタジーあり、一冊の本の謎あり、アラジンの魔術の話のようなところあり、イスラム文化へのあれこれ、現代的なハッキング、と多くの側面を持って語られていくので一気に読ませる。
更には、本当の男女の愛とは、の恋愛のあれこれをも語ってくれている。
現実と思えば、ファンタジー魔法の世界、ここと思えばまた現実、と目まぐるしく場面も変わっていく。
後半、現実の体制が崩壊し、ネットの世界もあれこれとあり、映画のインセプションを喚起させられた。

けれど、後半(砂漠に投げ出されて魔界の後)あまりにどたばたっとしていないか。
また最初の方で高貴な女性の人と交わるのだが、その高貴な女性の姿が全く見えなくなるのはいかがなものか。
この人の人となりの魅力がよくわからないまま、知的で美しく物を知ってる住む世界の違う高貴な人、というのでずうっと通しているけれども。
また、私はサイバーパンクが苦手な方なので、これとアラビアンナイトが融合したこの話、ちょっとばかり乗れなかった部分も多かった。
アラビアンナイト部分は面白いには違いないのだが・・・(だから中盤あたりは面白い)


・・・・

中東の砂漠に囲まれたシティと呼ばれる専制国家で暮らしている青年アリフ。
彼は23才でありハッカーとして暮らしている、資産家の父の第二夫人の母とともに。母はインド人である。
混血なので彼の将来は何もないに等しい。
しかし、ネットの世界の中では彼は非常に高く評価されている。
そんな彼が、現実である高貴な女性と知り合い一夜を共にする。
ところが・・・


身分差がある世界というのがまず大前提になっている。
格差社会ということだ。
そして更にここに追い打ちをかけるように、中東なので女性は高貴な人たちは黒いベールを顔にかけている。
(ここで黒いベールをかけなくてもいい貧民のダイナがかけているところがとても可愛いし、この女の子の将来的な賢さに繋がっている)
女性の地位もおのずと低いのが結婚を勝手に親にきめられる、処女性が重要視されるというところでよくわかる(これは現実にリンクしているのだろう)

アリフが恋人にいきなり別れを告げられて、彼女から不思議な一冊の古書を渡されたというところから物語が展開していく。
アリフが政府保安局の検閲官ハンドに追っ手を差し向けられるところから攻防が始まる。
攻防と言っても最初のうち、アリフが逃げるのみなのだが・・・
そこに物語の世界の身と思っていたジンが出てきて彼を助け始める・・・


この中でアリフと同じく幼い頃から貧困の中で育ってきたダイナの一途な感じがかわいらしくて際立っていた。
後半逃げる時に彼女が賢いんだ、というところを何度も見せる。
最初の方で、高貴な人と結ばれていて彼女に熱中していたアリフが、徐々にダイナに惹かれていく姿も好ましい。

また一緒に逃げて助けてくれるヴィクラムも異様な姿をしているものの、誠実なジン(幽精)だ。
彼がいたからこそ全員が助かることにもなるのだ。
逃げ込んだモスクで偶然会ったピラル師の高潔な姿も忘れ難い。
更には、もうだめかと思った時に、のんきな(と見える)王子様が(本物の第何王子)、拷問されていた牢にやってきて、(この人はネットの中の一人で体制側に自分はいるけれど、実は反体制なのだ、という人)救出してくれる場面も読ませるのだ。

民衆のうねりというのが解説にあるようにアラブの春などを思わせた。
このあと、を知ってる現実の私としてはとても複雑な気持ちになるのだが。


本の中の言葉、そこに究極の知識があるという設定は、ネットの仮想世界と本の現実世界を繋げる意味で面白い試みだと思う。
ところで、アリフというのはハンドルで、ずうっと何が本当の名前なんだろうと思っていたら最後の最後で、モハンマド、ということがわかる。
ああっ!だから名前をハンドルにして自分の本名で呼ばれるのをかたくなに拒んだのか!とここで納得したのだった。(モハンマドはイスラム教の預言者)
(クルアーンというのが多分コーランのことだろうというのは文章の中で予想がついたけれど、文章中に註が欲しいと思った)
2017.05.16 紫のアリス


評価 4.5

人生最悪の日、と思った日に、紗季という女性が夜の公園で男の変死体を見つける、というところから始まる。
夜の公園にいたのは、その変死体だけではなく不思議の国のアリスのウサギだった・・・


月夜にアリスのウサギ!そこに一つの変死体!

こんな幻想的なところから始まるミステリだ。
最初、アリスのウサギ、というので幻想かファンタジー方向と思ったら、意外にウサギの正体はすぐに出てくる。
そしてそれは現実的なものだった。
後半が気になって一気に読む本で、途中の伏線が最後にまとまっていくというのはある。
けれど、最後まで腑に落ちないところもまた残るのだ。
読ませるが、、、、と私は思った。


三人称ではあるけれど、とりあえず紗季の視点なのだが、これがふっと消えるのだ。
この子の視点が消えたなあ・・・・この間は何をしていたのかなあ・・・と何度思ったことだろう。
だから紗季の見ているもの全てが信頼感がない。
しかも記憶が時々飛んでいるのも読んでいるとわかる。都合の悪い時に飛んでいる?と疑わしくさえなってくる。
でも本人は大真面目で、本当に記憶が飛んでいるのだ。
記憶の飛んでいた時に何が起こったのか、は、読者は想像して大体それは後半で(やっぱり)ということで出てくる。

彼女がなぜ絶望していたのかというのは、不倫していてそれを清算して会社を辞めた状況、というのもこれまたすぐに出てくる。
しかもその不倫相手がさっくり死んでいた、(殺されていたっぽい)というのもすぐに出てくる。
紗季が殺したのだろうか?
更に、公園の変死体の話が一向に出てこないけれど、これは彼女の妄想なのだろうか。

そう、この本、紗季の妄想なのか、記憶の改竄なのかよくわからないままに読み進む本なのだ。
どこからどこまでが真実なのかさえ揺らいでいる。
冒頭の方の引っ越し場面で実に印象的なものがごみの日に捨てられる・・・これは・・・と誰しも思うだろう。
そしてあとで部屋の中で残された→段ボール←があったのがわかると更に思うだろう。
しかしここさえはっきりしない、何だったのかは。

そしてお節介な独居老人が住むマンションに住むことになった紗季・・・・
高校生の時の劇のことまで思い出すのだが、そのあとのことがどうしても思い出せない・・・
ここから独居老人たちとともにアリスの謎、死体の謎、を解いていく・・・


最後のお茶会が忘れられない。
ここ、幻想かと思う場面だ、あり得ないだろう・・・
読ませる作品ではあるものの、好きかどうか聞かれたら、微妙・・・な感じの作品だった、私には。


評価 4.5

久々の吉本ばななエッセイ。
年齢的なことから見て普通のことかもしれないけれど、ご両親がお亡くなりになってる記述を見ると、ほんのり悲しくなる。
そして彼女のお姉さんと彼女とご両親の旅行の思い出とか、日々あったこととかがさりげなく語られると、全く知らない人たちなのにちょっと淋しくなる。

比較的自分の身辺についてありのままに書いているので、(法律的には結婚していなかったんだ・・・)とか(高齢出産だったんだ・・・)とか、そもそも(お子さんがいるんだ・・・)とか(義理のお父さんとの交流があるんだ・・・)とか、私は全く知らなかった事実が次々に出てくる。
ほこっとした部分もあるけれど、人の生死を見つめ、メダカの生死も見つめている、そういうことが同列に並んでいる、というのがいかにも吉本ばなな、だと思った。
思ったよりスピリチュアルな部分はなくて、思ったままの身辺雑記の趣があった。



評価 4.8

村上春樹の翻訳がこんなになったんだなあ・・・とまずそこに驚いた。
ぽつぽつぽつぽつ見ている気がしていたが、まとまるとこんなに膨大な数になるんだと改めて茫然とした。

この中で、チャンドラーとか、サリンジャーとか、人が訳したものを新たに訳すというのはとても勇気がいったことだと思う。
私も野崎孝世代なので、ライ麦畑でつかまえてをなぜ訳すかと思ったのだが・・・
実際に村上春樹訳を読んでみるとこれはこれでとてもいい!現代に会ってる!と思ったものだった。
この本を読んでチャンドラーも新しいのは読んでいないのだが、読んでみたいものだ、と強く感じた。

途中で柴田元幸さんとの対談が入っていて、そこで翻訳のあれこれが語られる。
ここがとても面白かったし、二人の違いと同じようなところが垣間見えたような気がした。
また、それぞれの訳した作品にたいしての村上春樹の思い入れのような文章もたくさんあってそこも読ませた。

それにしても、翻訳を楽しんでやれるというのは素晴らしいことだ。
あと・・・この本を読むと、安原顕さんの存在がとても村上春樹にとって大きかったことがわかる。
自由にほぼやらせてくれた感があるし、最初に翻訳をする時教えてくれた翻訳集団の人たちのセレクトなど、こういうことになっていたのか、と驚きだった。


評価 4.6

楽しい!
連載はとうとう800回を越したらしい!(祝)

なんといっても今回は真田丸に言及しているので、なるほどなるほど、と頷く場面も多い。
三谷さんが学生の時にお世話になった先生から歴史の原因と結果の話を聞いた話、とても参考になった。
先生もさぞや嬉しいだろう、自分の教え子が自分の言ったことをこれほどまでに消化してくれているのだから。

そこここに自意識はついてまとう文章だ。
だけど、それがまた三谷流。
そういえばお子さんの話もあった、しっかり親ばかしているではないか!
三谷さんも人の子、とおもった。