2017.06.12 夜の谷を行く


評価 4.9


面白い・・・そして息が詰まるほどのめり込む・・・ページをめくる手が止まらない・・・
あさま山荘事件で有名な連合赤軍で刑に服した一人の女性の物語だ。
彼女はひっそりと生きている、誰の目にもつかないように。
しかし過去はどこからともなくひたひたと追って来るのだった・・・・

総括という名前でセンセーショナルな取り上げ方をされた当時のあさま山荘にいた人たち。
彼らがどうして集ったか。
どうして妊婦まで巻き込んでの惨劇になったか。
そして、この主人公はどのような生き方を余儀なくされたのか。
当時のテロリストの家族たちはどういうことになっていたのか。
その他の人たちはどうやってその後、を生きていたのか。
一体、あさま山荘で実際に行われたことは何だったのか。
小説とはいえ、ここに一つの答えが提示されているのだと思った。

啓子はかつて連合赤軍の仲間だった。
永田に目をかけられていて、彼女は爆弾をもってアメリカの基地に侵入し実際に爆破してきたのだ、被害は小さかったとはいえ。
そして啓子は刑に服し、いまはひたすら目立たぬようにひっそりと暮らしている。
そんな啓子は、一時期絶交していた妹とも何とか連絡を取り合い妹の子供(つまり啓子の姪)の結婚を楽しみにしていた。
折も折、かつての仲間の千代治から連絡があり、インタビューしたいというジャーナリスト古市の紹介がある。
そこからかつての仲間が今どうしているかということがほどけていくのだった・・・


最後私は全く予想していなかったので驚いた驚いた!
こんなことがあるとは!

最初嫌がっていた過去の千代治からの連絡を徐々に受け入れていく啓子の気持ちがひしひしとわかった。
青春時代を共にした友人というのにはあまりに過酷な状況だったが、同志の気持ちというのは消えていないだろう。
一方で、啓子の犯した罪により、啓子の両親また啓子の妹の結婚までに及ぼされた影響はあまりに大きい。
姪の結婚式でサイパンに行く、というのも、実は危ないというのがわかって、どこまでもどこまでも罪は追ってくるのだ、と啓子とともに私も痛切にここは思ったのだった。

また、啓子の視点とか考え方と、当時一緒にいた仲間(同志)と、微妙なずれがあるのがわかる。
それは一緒に山荘から逃げたはずの佐紀子(今は農家の主婦になっている)と再会した時もそうだったし、当時20歳の金村邦子の目から見た啓子はもっともっと違う啓子に見えている。
この物語、自分がそうであったはずの自分、と、周りが見ている自分との相違に気づく物語でもある。
それは忘れている部分も勿論あるのだが、当時は気づかなかった皆の考え方、皆が自分をどう思っていたのかという新たな部分がばっと噴出して啓子の目の前に提示されていくのだ。

なぜ山岳ベースに行ったのか、という答えを邦子は、
次の革命戦士を育てたかったから、
という言葉で語り始める、最後の方にある手紙の中で。
だからこそ子連れがいた、おなかに子供がいる人がいた、という説明にもなっているのだ。
そして啓子が永田に実に近い女だったという認識を邦子は示す。
そしてあの凄惨なリンチでしかなかった総括を、永田に近い啓子だったら止められたのではなかったのかという考えも示す。

・・・・
啓子は大好きな姪にもこのことを打ち明けざるを得ない状況に陥る。
姪ははっきりと彼女をテロリストだと認識する。

そして、この物語、最大のことが最後まで隠れている・・・・

全体は非常に面白く読んだ。
ただ、ドキュメンタリーではなく、小説なので、この啓子という主人公は架空らしい。
そこは架空だが事件は本当、そして永田や森など実名も多々出てくる、このあたりがちょっと腑に落ちない感じがした。
また姪の話はこれで終わりなのか。
妹ともこれで終わりなのか。
これだけ厳しい状況なのか。
さらに、スポーツジムで似ている人がいると話しかけてきた人はこれで終わりなのか。
こうしてびくびく生きていくということを言いたかったのか。

以下ネタバレ
・啓子の最大の隠されたこと、忘れたいこと、は

子供を産んで養子にしていたということ

だった。
総括で妊婦を殺したという罪悪感から、自分で育てる気持ちになれなかったのだ。

それが彼女にインタビューしたいといった最初のジャーナリスト古市だった。


評価 5(飛びぬけ)

別訳で読んではいたけれど、新しい訳で再読。

とても読みやすい。
前のが読みにくいわけではないけれど、圧倒的に読みやすい。

何も知らない、という目で読んでみるとさらに楽しい。
知らない知らない知らない・・・・

・・・・・
まずこのSFは壮大なミステリでもあるということに気づく、と同時に壮大な哲学でもあることに。
なぜなら、最初の第一部から、『なんだかわからないものが宇宙から巨大宇宙船でやってきて、天空を覆いつくすほどの宇宙船がいて、世界中の人間の生活をよりよくしてくれているらしい。オーヴァーロード(最高君主)はただ一人の人を媒介にして、話を進めている。しかしこのただ地球の一人の人すらもオーヴァーロードの姿を見ていない』
なのだ。

いったいなぜだろう?姿を見せないのは、という単純な疑問に始まって、姿が見たい!!!という気持ちに駆られるのは当然だろう。
そして、もっともっと不思議なのは、なぜ人間の生活に介入し始めいいことと思われることをしてくれたのか?
この謎は最後まで付きまとう。
これに疑問を持って、人間が支配されていると思う層が出てくるのも当然だ。
そして、唯一の接触者があることをして会見の場でオーヴァーロードの姿を映し出そうとするが、これまた失敗する。
地球の接触者ストルムグリンとオーヴァーロードのカレランとの奇妙な友情めいた話もまた素晴らしい。
老いたストルムグリンが湖の近くでこの出来事を反芻してインタビューに応じる姿もまた印象深い。
ストルムグリンは永久にこの真相を知ることは出来ず、真の姿も知ることはなかった・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

姿、に関しては、衝撃の顛末が第二部冒頭で語られる。
ここまで読んでいると、オーヴァーロードの姿形は、想像の中で、
タコのようなもの、人間と全てが逆についている気持ちの悪いもの(つまり、口が後ろについている、とか、全部内臓器官が出ているとか)、全くのロボットのような機械的なもの、おぞましい吐き気のするような形状のもの(どろどろ形)、人間に極めて似ているがゾンビのようなもの、
といろいろ出てくる。
この中でどれだったのだろう?と私は想像を巡らせた。
しかし。
第二部で語られるオーヴァーロードの形を聞いた時に、ああっ!!!と思うのだ。
もうこれはまさにあれじゃないか!!
だから見せられなかったのか!!
そしてなぜ、時間をかけてオーヴァーロードが自分たちを受け入れてもらって、そのうえで何年もたってから人類に自分の姿を見せたのか、という理由がくっきりしてくる。
もし最初の段階でこれを見せていたら、まだオーヴァーロードが浸透していない人類は反発と恐れしかなかっただろう・・・なんと深慮遠謀な・・・・

・・・
(以下ネタバレ含みます)

更に。第三部で、なぜ、彼らが地球にやってきたのかという根本的な問いが開かれていく。
国家は消滅し、宗教もある一部のものを除いてほぼ壊滅している。
犯罪が消えた一方で、芸術も何もかもここでは生まれてこない、そういう地球になっている。
ここもまた非常に圧巻であり、人間とは一体何かということまで考えさせられる。
普通の夫婦と思われた人たちに生まれた子供たちの変容・・・・
これが交霊会という実にプリミティブな集まりで、誰がこの子供たちの両親になるか、というのをオーヴァーロードが喝破するというのが注目される。

交霊会に出てそののち結婚したジョージとジェニファーの二人の子供たちは人類にとって未知の存在になっていく。
すなわち、進化を遂げ、親との意思疎通を絶ち、情緒などなくなり、オーヴァーロードと精神的に感応していくという人種になっていくのだ。
更に更に驚くべきところは、オーヴァーロードの更に上にオーヴァーマインドという意思が存在して、オーヴァーロードは単に彼の下僕だったことがわかる。
新たに生まれた新人種を連れ去るということも。
悪魔の姿も未来の記憶として人類に埋め込まれたものだとも。
オーヴァーロードは、上の意思に従って初期文明の地球のような星に舞い降りてはこれを繰り返していると、いうこともわかるのだ。

ここで面白いのは、一人だけ人類の中にジャンという男性が密入国のような形でオーヴァーロードの船に乗ってそちら側に行き、そして地球に追い返される。
しかしタイムラグがあるのでここで帰ってきて彼が見たものは・・・
異様な子どもたちと誰もいない地球であった・・・

真相を聞かされたジャンが一人ピアノを弾く姿は美しいし孤独に満ち溢れている。
そして最後のオーヴァーロードのカレランの心のうちが語られるのがまた読ませるのだ。
2016.11.11 夜行



『世界は常に夜なのよ』


評価 5(飛びぬけ)

ものすごく面白かった。同時にとても怖かったのだった、夜眠れないほどに。
ある画家が描いた夜行という絵、それが大きなモチーフとなっている。
重低音のように夜行の絵の連作が不思議な世界に誘っていく・・・・

ここにもあるように、夜行は夜行列車の夜行でもあるし、百鬼夜行の夜行でもある、と著者自身が書いている。
まさしく、読み手はこの世界に翻弄される。
百物語を聞いているような気持ちにすらなったのだった。
ここでも著者お得意の京都を舞台にして、その魅力と怪異を余すところなくこちらに伝えてくれた。
京都の夜の闇の深さの底知れなさを。
京都の山の何もかも包み込むような不気味さを。

後半のある箇所で動転するほど驚いた。
私の読んでいた物語がひっくり返ったように思ったのだった。
そういうことだったのか・・・と。
どんでん返しとかオチとかそういうことではないのだが、物語の構造がここでくるっと反転する。
ここが特に優れていると思ったのだった。
あ、と本を取り落としそうになった。

読んでいて、何度も思いだしたのは、夏目漱石の夢十夜(全体が夢のような物語が多い)と、江戸川乱歩の押絵と旅する男、だった(夜行列車が何度も出てくるけれど、特に女子高校生と坊主の出てくる奥飛騨の物語で)。
何か心の底を揺さぶられるものがあった。

物語は、ある一人の女性が10年前に京都の鞍馬の火祭で行方不明になった。
彼女は長谷川さんと言って、英会話スクールで仲良くなったグループの一人だった。
このグループで再度10年ぶりに京都を旅しよう、鞍馬の火祭を見よう、という計画が持ち上がる。
それぞれに長谷川さんの行方不明を胸に秘めながら・・・
一足先に着いた大橋君は、ある画廊で夜行という連作を見つける、岸田道生という人が描いたらしい。
少し前にその画廊に確かに行方不明の長谷川さんのような人が入っていったように見えるのだが・・・それは勘違いであったらしい・・・


グループの人が雨がしのつく宿で、この夜行の絵と長谷川さんの話を大橋君がしていると、次々にメンバーがその絵についての不思議な話をし始めるのだった。
中井さんは、突如失踪した自分の妻を尾道に探しに行く。
妻からの手紙にあった場所に行くと、妻そっくりの女性がいるが、妻ではないらしい(このあたり悪夢のようでとても怖い)。
否定されたのでいったんはその人は自分の妻ではない、と納得するのだがどう考えても似ている(このあたりも悪夢のようだ)
続いて、自分の同僚と同僚の恋人と妹の四人で奥飛騨に旅行し、占い師に死相が見える、すぐに帰れと指摘される。
そこで突然いなくなった同僚とその恋人・・・
一体誰がいなくなったのだろう。誰と誰が消えたのだろう、というのがラストの温泉シーンで混沌としてくる。

続いて、藤村さんと夫と夫の友人の旅の話だ。これは津軽への旅だった。
津軽鉄道の列車の車窓から燃えている家が見える、そこで手を振っている女性がいるらしく、一緒に行った夫の友人の児島君はそこからおかしくなっていく・・・
一方で藤村さんは小さいころに仲良かった佳奈ちゃんという女の子の姿を思い浮かべるのだった。
彼女の事を話すと夫が藤村さんの母から聞いたという実に意外な事実を語ってくれる。→佳奈ちゃんは藤村さんの妄想の友達だった、日本の生活になじめなかった彼女が自分で作り上げたイマジナリーフレンドだった。
続いて、田辺さんの天竜峡への旅の話だ。
伊那市の叔母夫婦の所に行く途中の列車内で奇妙な二人に出会う。
一人は怪しげな僧侶、もう一人は女子高生だった。
当初女子高生が僧侶に絡まれているのかと思いきや・・・
途中でこの僧侶が誰だったかがべろっとわかる(このシーンがとてもまた怖い)
→以前岸田道生の集まりで出会った一人の人だった、彼が岸田の作品を持って歩いていた(このあたりで押絵と旅する男を思うわけだ)
僧侶がおかしいと思っていると、この女子高生が徐々に奇妙な姿を見せ始める・・・
そして話は岸田の最期の場面の話になっていく・・・僧侶は看取ったと言い始めるのだった・・・・

全ての場所で全ての岸田作品の夜行の絵がある。
それは不気味で暗く、人を奇妙に惹きつける絵であった。

・・・・
そしてラストの章鞍馬の214ページであれ、と思い、222ページで、世界が反転する。
ここがすごい。

以下ネタバレ
「失踪した」長谷川さん、と思っていたら、皆で再度旅行しようとしていた大橋君こそが「失踪した」人間だった。
それは中井さんに電話をした時に、相手に驚愕されたことでわかってきた。
なので、この旅行で聞いた話が大橋君が作り上げた話ともいえるのだが・・・
でもこの話をすると、確かに中井さんは妻が失踪して尾道に探しに行ったという経緯はある。

また、後半で、岸田道生と長谷川さんが結婚しているという事実がある。
そして連作の絵は夜行ではなく「曙光」という連作であった。
場所は同じでも、全てが光に包まれたような絵。
裏表になっているのだった、大橋君の見た夜行と、この曙光の連作は。




評価 4.4

表題作がミステリの候補作に入ったようだが・・・
私は別の作品がとても良くできていると思った。
こういうちょっと残酷な短編集というのは、読後に、あ!と思わせることが大切なような気がする(どんでん返しとかではなく)
この「あ!」があった作品は、姉のように、だったのだ、私の中で。

許されようとは思いません/目撃者はいなかった/ありがとう、ばあば/姉のように/絵の中の男
の4作品が入っている。

・許されようとは思いません

は第68回日本推理作家協会賞短編部門の候補作だ。
結婚相手とうっすら考えている女性とともに、祖母の納骨をしようと何年振りかに田舎を訪れる男性がいる。
あの優しかった祖母は殺人をしたのだった、祖父の死後、自分の義理の父親を殺してしまったのだった・・・
そして・・・

後半で婚約者ともいうべき女性がこの真相を見抜くところが面白い。
そして、そこまでの伏線というのも色々納得がいくのだった。
村八分と村十分の違いが冠婚葬祭にあったというのを喝破する婚約者がいる。

このオチ、わかるようでわからない、私にとっては。
自分が同じ墓に入りたくないために殺人までして村八分どころか村十分になるという心がよくわからないのだ。田舎で昔だからか。現代の都会に住んでいる私には、一緒の墓に入りたくない思想がよくわからないのだった。

・目撃者はいなかった
営業成績を間違った注文から上乗せされて褒められまくった営業マン。
彼がそれを糊塗しようとしてさらに深みにはまっていく・・・


ドツボにはまるってこのことか。
運が悪い男ともいえるけれども。
自分で発注したものを自分で買い取る、ここまでは誰もが考えるだろう。
でもその時にまさか偶然重大事故の目撃者になるとは。
彼がもしその重大事故の真相を話せば、彼の発注ミスが分かるというジレンマに。
それだけだったら、黙っているのを誰でも取ると思う。
けれど、その時刻に別の場所で放火があり、そこに彼の姿が見受けられたという警察からの追及が・・・

何かを証明するためには何かを犠牲にしなくてはならない、はまり込んでしまった男の悲劇が読んでいて面白い。


・ありがとう、ばあば
これは微妙・・・・
ばあばの方の気持ちはよく分かったが、孫娘の気持ちが今一つ文章から読み取れなかったのだった。

デブだった孫娘を痩せさせしかも子役としてデビューさせるおばあちゃん。
ところが、彼女は孫娘によって極寒のバルコニーに締め出される・・・・


孫娘、この子は本当は子役をやりたくなかったのか、ここがよくわからない。
あと「死ぬところを見たかった」のではないのか、そうすれば演技に幅が出るから。
私はそのように思っていたのだが最後の孫娘の話は違っていた、単純に年賀状を出さなくて済むからか(自分の汚い時代の顔が入った年賀状を)


・姉のように
大変面白かった。
面白いので最初から二度読み返してみたが、よく出来ている短編だと思った。
いわゆるミスリーディングなのだが。

最初に新聞記事が出る。
仲の良かった姉と妹のやり取りが途中に入ってくる。
そしてラスト・・・・驚いた、本当に驚いた。

→最初に出ているのが名前が出ていない。そしてそのあとから事件のことが「妹夫」と「妹」とともに語られる。
だから、どうしたって、最初に出ている子供を突き落として殺した、というのがこの事件だと思う。
途中で何度か違和感はあったのだが。
違和感の最大は、妹と娘がママ友に招かれていったときに、財布がなくなった事件だった・・・いくら殺人犯の妹とはいえこれまで・・・?と思ったし、その前に殺人犯の妹をこのような場に招くだろうかという疑問もあった。

尊敬していて絵本作家までしていた姉に何でも相談していたのにその姉が警察に捕まってしまって相談できないというジレンマに陥っている妹。
そしていうことを聞かない幼い娘。
自分は犯罪を犯した姉と同じ家に育っていたのか。
この葛藤が妹のイライラに繋がっていく・・・・
そしてラスト!
お見事というしかない。

ラストの別の新聞記事で、絵本作家の姉が「窃盗」をしたというのが出ている。
ということは、最初の階段から我が子を突き落とし殺し、それまでも虐待していた、という記事は妹だった。
時系列が逆だったのだ、新聞記事の。


・絵の中の男
中にも出てくるけれど放火→絵を描くというので当然芥川龍之介の地獄変を思う。
ここには全く別の真相が・・・
2016.09.29 四人の女


評価 5

言ってみれば単純なミステリだ。
でもこの単純さこそが身上で、とても面白いミステリだった。
ラストまで一気呵成に読ませる。

人がマンションのバルコニーから落ちて死ぬ、どうやら殺人らしい(そしてこの段階で、すれた読者なら落ちた人がわかる)
その家では集まりがあった、いわく人気コラムニストのラリーという男がいる。
集まりのメンバーは、前妻、現夫人、愛人、現在のフィアンセと4人の女だ。

大体この部分で、(一体全体どうしてこの人たちが全員存在していて、ここに集結してるんだ?現在の夫人と現在のフィアンセあたりまではまだわかるが他の人は一体?)と思うだろう。
そしてこう思うことはとてもラスト、重要なことにもつながっていく。

ラリーという人気コラムニストがいわば成り上がりでのし上がっていくストーリーでもある。
彼がどういう方法でのし上がっていくのか。
富と名誉をどのように勝ち得ていくのか。
あさましいまでに有力な人とパイプを持とうとする姿が最初のうち腹だたたしい。
途中途中でその時代の奥さんというか寄り添う女性が出てきて、最初の妻シャノンは実に良妻で、彼の全てを受け入れ、彼の出自までも受けれいた女性だった。
ラリーは本当はイタリア移民の両親を持っていたのにそれを隠していたのだった。
そして父親との葬儀に出ることもしない。
一方シャノンはラリーの妹と母親とすら仲良くして、取り持とうとするのだった。
ラリーは徹底的に自分の過去というのを排除して、なんとかなんとか自分の力で生まれ変わろうとしている。
最初のうち腹立たしかったのが、徐々に(可哀想な人)という目で見るようになってきた。

・・・・・・・・・・・・・・・
また次の奥さん(現在の奥さん)クレアは美人さんである。
でも頭とか情感はシャノンにはかなわない。
ラリーは自慢に思っているクレアではあるが、シャノンの目というのが彼の中にあり、シャノンンの目で見ると実にクレアが軽薄で美しいが頭はなくラリーを何も理解していないで、彼の自慢の小説ですら聞けない解釈できない(シャノンはそれができた)という状況になっているのに気付いてしまうのだ。

一緒に本を出している愛人マギーは醜い。
けれども本を出す夢を持っていたラリーはマギーをも利用しようとしているのだ。
そして4人の女性が集まった部屋では、マギーが辛辣な言葉を吐いて息まいている。

さて現在の恋人フィアンセは妊娠しているともっぱらの評判であった。
だからラリーは幸せの絶頂のはずなのだが・・・・
実は彼女の妊娠はラリーの子供ではなかった、というのをラリーのみが知っていた。

・・・・
最初の方でバルコニー手すりが壊れているのに気付いた人が一人だけいる。
彼女が一体殺されるのは誰かと何度も頭を巡らせる。
そして・・・

最後の最後まで油断のならない作品であった。


以下ネタバレ
ラリーが殺そうとしていたのはシャノン。
いつも彼女のものの見方が頭について離れなかった。
こうした催しに彼女を呼ぶ方法は全員今までの女性を呼ぶ、という方法しかなかったのだった。

そしてラリーは自ら手すりから身を投げる。
2016.04.30 雪の断章


評価 4.8

初めて佐々木丸美作品を読んだ。
今現在の自分が読んだのが惜しい気もするし、いやいや若い時に読んだらどれだけこの小説にやられたかというのを考えると今で良かったという気もするし、というとても複雑な気持ちになった。

ある種の『毒』がある小説だと思う。
それも体の中に入り込んでじわじわと効いてくるような毒のある小説・・・
しかも中毒性がある。
これを読み終わった後、次を読みたくなった。

・・・
孤児の物語である。
施設でそれなりに幸せに暮らしていた子供がいる。
ところが迷子になった5歳の孤児の飛鳥(あすか)が親切な青年に北海道の大通公園で声をかけられ助けられる。
そして二度目があり、三度目は・・・


飛鳥が、もらわれていった先の家でこき使われる姿は痛々しい。
そして養家(養女ではないが)の人たちの理不尽な扱いに静かに恨みを抱くようになる。
ある日、限界が来て、飛び出して行ってそこで出会ったのが幼い日に出会った青年、滝杷祐也(たきひひろや)だった。
そして彼の親友近端史郎(おうはたしろう)も、飛鳥のことをチビとあだ名をつけ乱暴なやり口で可愛がってくれる。
そこにはお手伝いのトキさんもいる・・・・

・・・・・・・・・・・・
飛鳥が日々成長していく姿は手に取るようにわかる。
しかし、現実的には、これって今の時代だったらありなのか?という邪念も入る。
手続き的に無理だろうし、あとなんといっても女の子を引き取るのが「男性の単身の人」なのだから、怪しいと思ってしまうだろう、今の時代だったら。
トキさんの言う言葉で傷ついた飛鳥が家出する場面があるが、トキさんが言う言葉が一番普通かなあ・・・と大人になった私は思った。どちらかというと、物わかりの良い管理人さんがこんなに温かく二人の関係を見守っている、という方が不思議でならない。
また、滝杷祐也の実家の人たちの思惑も非常にわかる、結婚もしていないのになぜ子供がいる?他人のそれも女の子を育てている?

ただ、このあたりの戸惑いがわかるのは、私が大人になっているからで、もし私が10代のうちにこれを読んだら
(・苦しんでいた家から解放され、好きな勉強を思いきりすることができる!
・横には尊敬していたお兄さんがいて、さらにお兄さんと同じくらい素敵なお兄さんの友達がしょっちゅう遊びに来てくれていて、その人も私を見守ってくれている。
・途中から、同じ会社の(社宅でもある)お姉さんまで(厚子さん)も来てくれて楽しい会を催してくれる。

・高校に入ったら、いじめられるどころか、順子という実に頭の良いはっきりとした意見を言える親友もできる。
・そうこうしているうちに、名門の大学に入り、そこで素敵なお兄さんの友達にプロポーズされる。
・そこで初めて、自分の尊敬がお兄さんへの愛情に代わっていることに気付く。
・そして、一端は友達のプロポーズを受け入れるが、お兄さんの胸に飛び込むとお兄さんも実は彼女のことを愛していた!!!)
という夢物語に圧倒されるだろう。
しかも、ニートでもなんでもなく祐也はきちんと勤め人であり、陽気であり友達もいて、しかもしかも(ここかなり重要)、『いい男』っぽいのだ。これがイケメンじゃなかったらかなりのがっかりどころだ。いくらいい人でも、尊敬できる人でも、乙女の夢ぶち壊しだ。ちょっとでも、祐也が気持ち悪いなんて思わないだろう(今の私はうっすら気持ち悪いもやもや感が残ってしまうが)

・・・・・・・・・・・
漫画のエースをねらえもちょっと思った。
この場合、育ててくれた宗方コーチが滝杷祐也であり、
岡ひろみが愛情を持っていた(と感じていた)のは藤堂だが、これが史郎とする。
藤堂を愛していると自覚している岡だったが、実は見えない部分で岡ひろみは、宗方コーチの事を気づかないうちに愛していたのではないか。
いつも自分を見守ってくれている男。自分を成長させてくれた男。突き放しながら庇ってくれた男。それが宗方だ。
宗方が手放したのでああいう結果になったのだが・・・

源氏物語の紫の上も思った(時代が時代だけれど)
あしながおじさんも思った(主人公が孤児でお金援助で、最後のところの展開も非常に似ている)
こういう話、枚挙にいとまがないのだが、これに憧れる若い気持ちというのは理解できる。
だから、育ててくれる人がいる→それが自分の愛する人になる、という愛情物語の構図の一つなのだと思った。

・・・
ついでながら
ミステリでもある、死人が出るわけだから。
けれど、これはもう添え物といっていいだろうか。
これによって重大な展開もあるけれど、なんだか全体の流れからすると、これはこれでまあ・・・、と言いたくなる。

またこの話、北海道が舞台というのがとても大きいと思う。
あちこちに見られる北海道の景色、そして雪の情景。
そういうものが繊細な少女の心象風景と相俟って実に効果を上げている。


評価 4.4

面白いような面白くないような・・・
ご本人が映像の方の世にも奇妙な物語ファンだと言うことで書いたと言う本らしい。
読みやすい、限りなく。
そしてライトな感覚で、ラストちょっとしたオチ(これまたホラーっぽい)がついている。
映像化したら面白いだろうが・・・・・話としては微妙な感じだった、私には。

最初のシェアハウさない、はシェアハウすを取材しようとするライターさんの心の闇、も出てくるのだが・・・
ここに集まった人達の背景が今ひとつ飲み込めないのと、ライターさんはじゃあ、なんで受け入れられたんだろう。
ここに来た人達は全員、異常性愛を持っていてお互いを抑制しあっていたのだ、監視することによって。
で、幼い頃に男に監禁され乱暴されたらしい記憶のあるライターさんは何の性癖があったのだろう?なぜ受け入れられたのだろう?


リア充裁判は出だしが架空の場所と時間なのだが、ちょっと笑えた、おおいにSNSなどを皮肉っているところが。
後半は私の解釈でいいんだろうか?
(これって、最後のところでああいう場面が出てくるが
全て架空世界と思ったのは、この谷沢知子の「妄想」であり、実生活ではこの子がコミュ障でまだ就職活動をしている人間、ということなのか?
実際の岸谷とかも話の中に出てくるし。実際の方は商社に内定している岸谷)


2016.01.06 夕暮れ密室



評価 4.3

全体にすがすがしい青春小説の趣というのが感じられた。
特にバレー部の男子生徒たちがあと一歩でインターハイに行けず、そのためにスポーツ推薦で大学を決めることが出来ない状況に陥る、成績の良い者は普通に受験すればいいけれどそうでないものはそこで一旦この街から出られないことを意味する・・・・
ただ・・・腑に落ちないことが多すぎたミステリだった。
多重推理も途中で出てくるのだが、どう考えても穴のある多重推理って読むのが辛い。
よくわからないミステリだった、私にとっては。
途中の青春群像劇的なところは、楽しいし読ませると思う。


ある地方の高校に一人の男子の垂涎の的の女子生徒がいた・・・彼女が殺されるという事件が起こる・・・
それも殺されたのは密室だった、シャワー室と言う名の密室。
一体彼女は殺されたのかそれとも自殺だったのか。
生徒達が推理を繰り出す・・・・
そして第二の事件が・・・・


まず、東京にそれほど遠くない街のように見えたが、こんなにこの時代東京に思い入れがあるものだろうか。
あとこの時代って、携帯があるのだから今の時代っぽいのだが、全体がとても「昔の時代」っぽい感じがするのはなぜだろう。
生徒達の言葉の一つ一つ、反応、そして携帯の使い方、とかだろうか。

何より思ったのは、当の憧れられていたご本人の栞という女子生徒が、なんでこんなに皆男子生徒にもてているのか、というのがよくわからなかったことだ。
最初の方ではまだ生きているので、その姿がわかる、女子マネージャーとしてバレーボール部を支えていた女の子、元陸上選手だった女の子。
それでも栞の人となりをそのあと生徒達が語っていっても、(なぜこんなに人気がある?)というのがまずわからない。
他の女子(親友を除いて)がどういう反応を示しているのかもわからない(普通反発を招くだろうが)
更に警察は当然介入してくるわけだが、途中でフェイドアウトしている感じがするのはなぜか。
生徒達で推理する推理団みたいのが発生すればそれはそれでわかるのだが(ソロモンの偽証のように)、なんだか皆がだらだらと集まってだらだらと推理しているだけだ、これはなんだろう?
普通一人同級生が死ねば衝撃でこんな推理している場合じゃないだろう。
家の人の反応も薄くてよくわからない、高校生なのだから当然家の人達も関係してくるだろうに、背景にちょこっと見えるだけだ。

決定的に最後の展開で
殺した犯人の動機がよくわからない、同じ目指していた東京に行けない、栞はこの町に残るということでそうなったのか?それだけか?


評価 5

面白かったー。

書評(漫画も含む)と映画評なのだが、簡単に言えば、センスがある文章だ。
切り取りがとても巧いし、(そういうことを私もこの本を読んで思っていたんだけど言ってくれた)という感覚よりも(それは思っていなかったけれど、あなたが書いてくれたので私も思っていることに気付いた!)という感覚が強い。
思っていなかったのに共感が出来るという不思議な感覚。
それを味あわせてくれた。

本を読む、そしてその感想を書く。
この人の本へのスタンスって、こういう本があるから面白いよ、皆読んでみようよというのではない気がする。
ただただ、自分の好きな本を熱く語る人の話を聞いているような気がしてくるのだ。
本の種類も多岐に渡っていて、読んだ本については(思っても見なかったよ!)であり、読んでない本については(なんて魅力的な本なんだろう)と思ったりした。
柚木麻子の王妃の帰還で、女子の調整力を指摘したところ(調整力と言う言葉に感心)、クリスティの春にして君を離れ、と、ららら(まさこれがこの話で流れるかと言う驚きが)の結びつき、あの、ゴーンガールの「読み方」を最後さらっと三行でこういう読み方もあるよという示唆(驚いたし爆笑した)・・・etc・・・

やや、映画評と書評が混ざり合っていて読みにくいかな、と途中まで感じていた。
でも途中からは、それもまた味があるというような気すらしてきたのだった。

この中で、最後の柴田元幸さんとの対談も非常にためになったし、この本の一つの読みどころではあると思うものの。
最高に私が気に入ったのは、ドラマ「すいか」」の分析だ。
何度、このドラマを見た人と話しても、しっくりこなかったこのドラマの良さをそれはそれは縦横無尽に語ってくれている。

(それだけに、レベッカの誤植?は惜しい。
貴族はマンダムではなくマキシムなのでは?)




評価 4.4

原題はCreep、この話を体現している(曲のタイトルでもあるけれど)。
ジェットコースター小説だった・・・

シアトルの大学で心理学を教えるシーラ・タオ。
彼女は容姿端麗でキャリアも持った完璧ともいえる女性だった。
唯一つ、助手のイーサンという若い男性と関係を持ってしまうというミスがあったのだった。
投資銀行家のモリスと夢のような婚約をしたシーラは、イーサンとの情事を終わらそうとする。
しかしイーサンはそれを唯々諾々とは認めなかった・・・・


古典のミステリだと、「男性」側が上司の娘と夢のような結婚が決って、それまでのみすぼらしい女性を捨てる、というのが王道だけれど、このミステリは、逆だ。
女性の方が切り捨てようとする、あっさりと。
しかも仕事面でも女性の方が上なので、別の部署の移動まで元自分の男に告げるのだ。
そして男性の方がそれに執着すると言ういかにも現代的な話だ。

この話、前半のある部分まで読むのにとても忍耐がいった。
というのも、しつこく追いかけてきて、情事の場面のビデオをインターネットに流すと脅迫するイーサンとか、変装してまで自分の相手シーラの婚約した男に近づこうとするイーサンとか、イーサンの女々しい気持ち悪い姿に辟易するからだ。
しかも、同じ大学でシーラの教え子のダイアナが水死体で発見されたという、いかにもイーサンがやりそうなことの情報もちらっと入ってくる。
イーサン、お前がやったんだろう!
そう心で思ってしまうので、もどかしくてならない、シーラがこんな男に脅迫され最高の婚約者モリスを失いかけていると言うことが。

・・・・
ところが、途中から一転する。
実は、シーラは、イーサンのことどころではないある問題を抱えていた。
このあたり読ませると思う、そして真実を知り衝撃を受けた婚約者モリスが離れていくとも思いきや・・・・
意外に動いてくれるモリスが頼もしい。
だけど、前半のモリスと後半のモリスと別人のように見えるのはなぜだろう、衝撃のあまり魅力が半減しているのか。

ただ・・・最後の真相にいたってはどうなのだろう。
やりすぎ、のような気もしないでもないが。
ハンニバルを明らかに連想させるけれど、それ以下でもなくそれ以上でもなく、といった感じが漂った。

以下ネタバレ
・シーラはそもそもセックス依存症だった。
依存症の会にも入っている。

・探偵の奥さんがシーラのセラピストって・・偶然ありすぎ感が・・・・

・イーサンが二回変装するのだが(モリスに近づくためと、シーラに近づくため)
怪人二十面相ではないのだから、なんだかこのあたり荒唐無稽っぽく思えた。
しかも後半は、黒人めいている方向って・・・

・イーサンが殺したのではなく
本当のサイコはイーサンの同居している彼女アビーだったという真相。