評価 5 (飛び抜け)

冒頭からしばらくするまで、非常に読みにくかったのが正直な感想だ。
句点が多く、このリズムに慣れるまで時間がかかったのと、この世界観がどういうものなのか把握するのに時間がかかったからだ。
また話は錯綜している、かなり。
更に描き方として三人称だけれど、色々な人の視点というのを入れているのでそこも慣れるまでに時間がかかった、私は。

けれど、そのあとは一気呵成に!
なんて面白い話なんだろう。

なんて謎めいている話なんだろう。
謎が謎を呼び、最初は単純な失踪事件と思っていたら、心中死体が見つかることによりもしかして殺人?と思わせる妙もある。
ただ分量的にはいかにも多いので、いずれにせよじっくり読む小説だと思う。

昭和十年の春・・・松平公爵邸で開かれたコンサート。
そこには、ドイツから来たカルトシュタインというピアニストが演奏することになっていた。
女子学生の惟佐子はその演奏を聞きに行ったのだが、ピアニストからなぜか手紙を受け取った・

冒頭はこんな感じで始まる。
宮内省に勤めている木島がその手紙を持ってくるのだった・・・


笹宮惟重伯爵を父に持ち、義母と異母弟がいる家庭で育った惟佐子(いさこ)。
彼女は囲碁が非常に得意でプロ級の腕前を持っている、そして数学に多大なる興味を示している。
当時の結婚して幸せをつかむという女性の生き方から見ると異質の存在であった。
女子学習院高等科の親友の宇田川寿子の心中事件がある日突然起こり、彼女はそこに疑問を抱く。
富士の樹海で一緒に教会で会った陸軍士官の久慈とともに遺体となって発見されたのだった。
しかし寿子からは惟佐子宛てに「できるだけはやく電話をしますね」という寿子の手による仙台消印の葉書が届いていた。
なぜ富士の樹海で心中したはずの寿子からの葉書が仙台から届いているのだろう・・・
そして五月の中禅寺湖で、再びカルトシュタインの演奏会が始まる・・・


惟佐子の普通でいれば美人であり楚々とした女性であるのに、突拍子もない発言と行動っぷりが何とも面白い。
当時としてはきっと異質の存在としか言いようがない人間だっただろう。
このあたりの造型が非常に面白いし、後半推理を組み立てていくときに彼女の数学的論理的思考が役に立ったというのは言うまでもない。
これに対して、実父の笹宮伯爵の俗物っぷりと言ったらどうだろう。
絶えず自分の地位に連綿としがみつき、天皇機関説もよく理解していない感じなのにその話題に拘泥し、また自分の立ち位置からも派閥からも離れようとせず、時流を見てはそこに乗ろうとするさもしさがちょっと笑えたりするのだった。知ったかぶりの感じも実によく出ている。が、後半で、実の息子(惟佐子の実兄)になぜか逆に諭されている時に、この国がどうなっていくかを語る時に、アメリカと戦争して勝つはずがないという、今の目から見ると実に正論を吐くところに至って(余計にこれで、国粋主義になっていた息子に腹を切れまで言われる)笹宮伯爵案外いいなあ・・・と思ったのだった。

このあと無謀な戦争にどうやって日本が首を突っ込んでいったか、というのが現代の私達には見えている。
実際の首相になる人たちの名前も出てくるので、その人たちの末路というのも見えているし、ヒットラーのしたこともわかっているし、ドイツがどのような道をたどるかもわかっているし、天皇機関説もまたのちの評価がどうなっているかも見えている。
だからこそ、この物語で右往左往している人達を一種俯瞰して見るような奇妙な気持ちで読める。
未来人が過去の人間をわかって見ているような気持ちで読めたのだった。

そしてなんといっても惟佐子!!
冷静な惟佐子は美しいので周りもそのままにはしておかないが、なんと途中で突然ご乱交ともいうべきことが始まる。
いったいこれは?
彼女の淫蕩な、血、なのだろうか。
相手の人たちが一堂に会する場面というのもあるのだが、ここもヒヤリとするけれど、惟佐子はそんなことは何の気にも留めていない。一体彼女の貞操観念は・・・これは試し、ということか?それとも血?(ここにまた戻る)
(余談だが、結婚相手となるべき人のつむじの話には笑った笑った)
また惟佐子は後半、自分の姉(兄の双子の片割れ)と出会う、彼女は庵主になっていた(ということは兄も妹も二人とも双子だったのか?惟佐子も男の子との双子となかったか?)。
そして庵主と話しているうちに、惟佐子は日本列島に死体が堆積するというビジョンを幻視する・・・

更にこの物語を盛り上げてくれているのは、惟佐子の家での幼い時に遊び相手になってくれるいわゆる「おあいてさん」だった、今は職業婦人の写真家になっている千代子の存在だ。
千代子が闊達でよくしゃべり、よく動き、よく見て、よく食べる。
彼女の存在が誠に可愛らしく、推理小説で言えば足で歩く探偵の様な事をしている。
時刻表が出て来たり、東北地方に行ったり、写真のあるところに気づいて動いて行ったりとこのあたりは松本清張を遠くで思い出す。
お嬢様の惟佐子はやたらめったら動くことができないので(常におつきの人が必要)安楽椅子探偵の感じだ。千代子とそしてもう一人相棒の新聞記者の蔵原のペアが列車に乗り継ぎ、人に話を聞き、心中事件を追っていく。
探偵係の二人が徐々に心寄せあって行くところも読んでいて微笑ましい(それにしても千代子はよく食べる!笑えるほど食べる!食べないと一気に元気が出ない!!)
千代子が現実の人間とすれば、惟佐子は彼方に行ってしまった人間、でもある。
幼い時にも惟佐子はぽっといなくなってしまうことがあり、千代子が心配していたのだった。
こちら側の現実に足をかけているような感じの危うさのある惟佐子。

・・・・
惟佐子の親友が妊娠していたという事実も重くのしかかる。
一緒に心中したとされるのは、惟佐子から見ると実に不可解な男性であった・・・・なぜこの人に寿子は心寄せたのだろう・・・と。

後半一気にオカルティズム的な話になる、そしてそれが一種SF的な感じもしてくるし幻想小説の風味も醸し出している。
と思っていたら、最後のところで一気にミステリ調に。
幻視の物語かと思いきや一気に現実にも戻される。
そして真相に近づくその瞬間に、昭和11年の2.26事件が奇妙な人間を孕みながら起こっていく・・・

物語の世界観、があまりに壮大であるので、ラストほっとするのだが・・・
ほっとしながらもこれからの日本を知っている現代の人間としては、二人に幸あれと願うと同時に、惟佐子のその後、というのも非常に気になるところだった。

以下ネタバレ
・寿子と通じて子供を作っていたのは
バイセクシュアルの惟佐子の兄の惟秀。
そして兄は、槇岡貴之中尉と抱き合っていた。

槇岡から自分が寿子を妊娠させ彼女が堕胎を拒否し服毒自殺を図ったという手紙、を、惟佐子に届けさせたのも兄だった。
寿子と一緒に心中したとされる久慈は、殺された。
ドイツのカルトシュタインも男性だが兄と通じていた。
カルトシュタインも死亡したが、おそらくベッドの上で兄といる時に死亡し、それを巧く画策したのだろうと推察している。


評価 4.5

どうしたらいいんだ、と読んでいる間中思っていた。
好きな話かと聞かれたら微妙だろう。
本当に辛すぎる、どういうことだろう、避難場所が避難場所でないという事実は。
これは小説だけれど、多分同じようなことが形を変えてあるのだろうから、目を開けて見なければなあという小説だった。
ただ・・・どうなんだろう、後味悪いということではなく、想像がつく範囲内のラストだったので、ちょっともやっとする。
このもやっは、途中にもたくさんちりばめられている、それを感じさせるのが作者の狙いなのかただのもやっなのかわからないけれど。

・・・・
連続幼児殺人犯のルースが逮捕された。
そのきっかけは、ルースの娘アニーからの通報だった。
アニーは里親に引き取られ、ミリーと名前を変え学校に登校するようになる・・・


最初の方からかなり長い間、まったくよく状況がわからないように書かれている。
つまり、なぜ里親に引き取られたか、ミリーは?というのもよくわからない。
母親がどういう所業を行っていたか、というのはだいぶあとになってきて出てくる。

連続殺人犯人の話ではなく、その娘の話、なのだ。
彼女もまた被害者であり、そして唯一の目撃者でもある。
精神を痛めつけられているというのはあらゆるところに出てくる『あなた』という呼びかけの先にいる母親の幻だろう。
この家族、元々は兄がいたというのも描かれている、そして彼がいなくなったことが一番大きなルースの極端な行動の引き金だったとも。

幻聴や幻やそして脅迫の言葉や、時々に投げかけられ深く刻み込まれた言葉の数々がミリーを苛む。
彼女を里親として引き取ってくれたのが、臨床心理士のマイクだ。
この家庭には、サスキアという妻がいて、フィービという引き取られたミリーと同じ学校に通う女の子がいる。
一見普通の家族、なのだが、この家族自体も問題を抱えていて、サスキアは不倫と薬で家族を見ておらず、マイクはいい人だが見て見ぬふり、フィービはサスキアの母としての愛情を得たいがために学校で傍若無人にふるまっている女王様だ。
この家族は壊れているのだ、実際にはマイクの陽気さでそう見えないようになっているけれど。

母親の異常行動で辛い思いをしていたミリーが、学校で再び同じ家に暮らすフィービからいじめを受ける、それも徹底的な。
ここはキングのキャリーとかを思い出す。
何しろフィービのいじめは陰湿なのだ、よく考えられているともいえるけれど。
家の両親がいじめに誰も(特にマイク)気づかないというのがもどかしくてならない。
フィービはミリーのみならず、他の子に対しても強気な態度で女王様ぶりを発揮しようとする。
ミリーは近づいてくる裁判で母親の悪行を暴かなければならないし、一方で学校ではフィービとのやり取りに心を砕かなければならない。二重の苦しみだ。なんでこんな家庭に入ったのだろう?
でもミリーはこの家にずうっといたくてならない。
里親なので一時預かりなのだが、この家が気に入ってならない。
この気持ちがラストに繋がっていく・・・

そしてミリーの唯一の救いは、先生の中で美術を見て売れたMKであり(途中で崩壊するが)、近所でやはり親の虐待を受けていたモーガンという一人の少女だった。

にしても、蠅の王が途中の学校でやる劇とは!!!
少年たちの一種サバイバルゲームの蠅の王というのが何とも皮肉だった。
サバイバルしていたのだろう、ある意味ミリーは。

・・・・・・・・・・・・
学校でのフィービを見ていると、邪悪の塊、のように見える。
そしてミリーが本当はどういう立ち位置にいたのか、最後の母親の犠牲者ダニエルに対してどういう言葉をかけていたのか。
裁判で徐々に明かされていく、真実が。
(裁判では実際にはわからないのだがミリーの言葉や思いからわかっていく)

そして衝撃のラスト。
でも衝撃だがここは裁判場面ぐらいから予測できた衝撃でもあった。
こうするしかなかったか。

ミリーの一人称語りなので、その点がやや私は物足りなかった。
これが複数だったらもっともっと深い話になったのに。
特に母親の狂った感じが、彼女自身の言葉で出てきたら壮絶さが増しただろう。

以下ネタバレ


・母親のルースはシングルマザーの母親から子供を預かっては殺人を行っていた。
それを目撃していたのが、ミリーだった。

・ダニエルという男の子は、母親が連れてきたが、理由はともあれ窒息させたのはミリー。
ここのみミリーの仕業になっている。
つまりミリーは殺人者だったという事だ(が、裁判ではこの点は明らかには結局ならない、色々と怪しいところは出てきているのに)
ミリーは常に被害者と思っていたので私はこれが一番の衝撃だった。
母親からの壮絶な虐待(肉体的にも言葉でも)があったにせよ、ここでミリーの中の何かが切れたのだと思った。
もう取り返しのつかないどこかに行ったのだと。

・フィービはミリーに殺されたようなものだ、手すりに迫っていくミリーを見て驚いて落ちたのだから。
(ここは読んでいると、フィービは殺されるだろうなあとぼんやり予想できる)
けれどミリーは帰宅したことを一言も言わない。
そこを見破っているのが父親のマイク。

・ミリーはこの家の子どもになりたかった、単純に言えば。
フィービがいなくなれば自分が子供になれる!


評価 4.8

古典部ファンなので楽しく読んだ。
書き下ろしの短編を含めて(この小説をこういう取り上げ方をするとは!)

もう15年になるのか・・・と最初の著者インタビューを読んでいて感慨深かった。
著者と北村薫との日常の謎をめぐる対談も面白いし、また恩田陸との対談ではそれぞれの作品の元ネタ(海外のものが多い)でインスパイアされたものというのが興味深かった。そこにプラスして作家論(泡坂妻夫とか連城三紀彦とか)の話もまた読んでいて、ああ・・・この人たちはこういう傾向のものが好きなんだなあ・・・と改めて思ったりしたのだった。
後半に綾辻行人と大崎梢との対談もありそこもまた充実している。

主人公たちの本棚も作られていてここも見どころ満載。
折木奉太郎の本棚はいかにも彼らしいし(破獄がある!あと山田風太郎も!)、千反田えるの本棚にモモとか九年目の魔法があるのに、にんまりしたり、ここはもう見ていてただただ面白かった。
2017.12.07 雪と毒杯


評価 5

古き良き時代のミステリの雰囲気をまとったミステリだ。
雪山の山荘に閉じ込められてしまう、というクローズドサークル物ミステリなのだから(厳密に言えば、この山荘は村には行くことができるので全くのクローズドサークルではないが)
でも決して古びてはいないし、とても読みやすい。
最初から最後まで語り口に魅せられ、楽しく読んだ。
最後、犯人像にもぎょっとしてその動機もとても分かるのだが、そのあとのもうひとひねりがとてもぐっときた。

クリスマス前のウィーンで、オペラのかつての歌姫が最後を迎えようとしている。
最後に彼女の周りに集まった人々、それは友人もいるし弁護士もいるし仕事上の仲間もいるし、親戚もいた。
彼女は莫大な財産を持っていたのでその遺産相続も狙っている人達もまたいる。
歌姫の最期を看取った後、彼ら8人は帰途チャーター機が不時着したチロルの雪山の寒村のホテルに閉じ込められてしまう。
そして弁護士による遺言書が読み上げられる・・・


出だしの語り口の面白さと言ったらどうだろう。
ここで、老いた歌姫が絶対の信頼を置いていたかつてのオペラの共演者リチャードだけを枕元に呼び寄せて、あるものを渡す場面が描かれている。
そのあるものは、とても大事そうだが、最後まで明かされない。
これを冒頭に持ってくるという大胆さ。
しかも何だろうなあ?と思う間もなく、このリチャードはお金を持っていてこれ以上お金は特にほしくないという筆頭だったのに、彼にほぼ全財産を残すという遺言書が読み上げられる。そしてばかりか、そのあとにリチャードが殺される・・・
だからこの「何か大切なもの」は一向にわからないまま話は進んでいくのだ。
また8人いるが、実際財産分与に関係するのは当初6人であるので、残りの2人は全く関係ない人達だ。
普通の考えで行けば、遺産関係者の内の一人がリチャードの殺人を行った、ということが考えられるだろう。
またもし遺産分配以外の人だったら、そこに何らかの別の要因があると考えられるだろう。


遺産分配関係者
・ミランダ・・・姪
・ローレンス・・・姪の息子
・チャールズ・ランドール・・・主治医
・トレヴァー・・・歌姫マネージャー
・スーザン・・・歌姫秘書
・リチャード・・・オペラ歌手
(当初全てをリチャードに渡すという遺言が読み上げられる。
もしリチャード死亡の場合は、残りの5人で遺産分配ということも読み上げられる)

遺産分配関係者ではない人
・マクヒュー・・・飛行士
・ニール・エヴァラード・・・弁護士

一方で遺産を欲しくてほしくてたまらない姪のミランダがいる。
彼女はそれをあからさまにしていてある種お見事といってもいいくらいに、息子君溺愛と金への執着は止まらない。
ミランダの息子のローレンスは母親のミランダとは打って変わってお金の執着がさほどない、そして歌姫の秘書のスーザンと恋仲になっていく・・・

このミステリ、面白いのは、ある人間が途中まで全く嘘の証言をしていたというところだ。
何のために?と思うが、それには理由がある。
そしてその嘘の証言のために、事態が非常に混沌とし始めた。
ばかりか、第二の殺人未遂が・・・

誰がどのような嘘をついているのか。
誰が利権争いに関係しているのか。
一番疑わしいのは実は最初からお金お金と騒いでいる姪のミランダなのだが、彼女は最初の頃こそ印象的な出番があるが、後半はほぼ寝たっきりで出てこない。
だから他の人、ということになるが・・・
誰を信用していいのか全く分からない状況が作り出される。
もし、お金ということを考えなければ、犯人の可能性というのは医者にも運んできてくれたパイロットにもあるのだが・・・

途中で、色男のパイロットのマクヒューのちょっとした火遊びが出てきてここも間抜けな感じで笑えるのだが、ここすらも後半とても重要になってくる。彼がいなかったら・・・

またもどかしく進むローレンスとスーザンの恋模様というところも緊張感のある殺人事件の中でほこっとする場面だ。

最後まで読むと、必ず最初の、歌姫がリチャードに大切なものを渡す場面を読み返したくなる。
そこはとても大切な場面であった。

以下ネタバレ

・犯人は弁護士ニール。

この話、二つの嘘で、そもそもが成り立っている。
最初の嘘は、スーザンがリチャード殺しの犯人を捕まえようと、自分の恋の相手のローレンスを軽い気持ちで陥れたこと。
これは途中でスーザンが嘘というのだが、よりにもよって、犯人の弁護士に打ち明けてしまう(この時点でスーザンはもちろんわかっていなかった)。
この嘘のため、危険人物としてローレンスが部屋に閉じ込められてしまう。
そしてローレンスも殺されそうになる。

もう一つの嘘は、弁護士の読み上げた遺言が嘘だったこと。
この根本が嘘だったので、全てが崩れていく。
これは彼女の字を見せて(内容までは見えない)そのあと弁護士が滔々と話したので、誰しも信じたという状況だった、そもそもこの遺言書は戻ってから専門の弁護士とともに開封する手はずだったのだが、ここで開封してほしいという要望を受け、弁護士ニールが読み上げたのだった。
では、遺産分配にかかわっていない彼がなぜこれを読み上げたのか。
(ここもあとから注意深く読むと、彼女らしくない遺言だ、という人々の声が記述されている)

某有名公家の価値のあるダイヤモンドが入っていたブリーフケースをニールは欲しかったのだ。
それが最初に歌姫がリチャードに渡したあるものだった。
これを歌姫が持っているという噂がある、というのはここまでの話の中で語られている。
そしてそれが谷底に落ちたのを見て、弁護士ニールも飛び込んで死亡したのだった。
彼には全く遺産相続の権利がないので、犯人に目されるには遠い存在だ。
偶然ブリーフケースが開いてそれを見たニールは、リチャードが持っていたこのダイヤモンドが欲しかった。

最後の一ひねりは人を殺してまで欲しかったこれが、ダイヤモンドではなかったということだ。
ただの舞台の思い出のフェイクだった。

・・・・・・・・・
最後、弁護士にスーザンが引きずられていくのを、村の愛人ができたマクヒューが目撃する。
倒れているマクヒューだが、叫んで他の人たちにそのことを話した、というところで彼の情事も意味があったのだった。

2017.06.12 夜の谷を行く


評価 4.9


面白い・・・そして息が詰まるほどのめり込む・・・ページをめくる手が止まらない・・・
あさま山荘事件で有名な連合赤軍で刑に服した一人の女性の物語だ。
彼女はひっそりと生きている、誰の目にもつかないように。
しかし過去はどこからともなくひたひたと追って来るのだった・・・・

総括という名前でセンセーショナルな取り上げ方をされた当時のあさま山荘にいた人たち。
彼らがどうして集ったか。
どうして妊婦まで巻き込んでの惨劇になったか。
そして、この主人公はどのような生き方を余儀なくされたのか。
当時のテロリストの家族たちはどういうことになっていたのか。
その他の人たちはどうやってその後、を生きていたのか。
一体、あさま山荘で実際に行われたことは何だったのか。
小説とはいえ、ここに一つの答えが提示されているのだと思った。

啓子はかつて連合赤軍の仲間だった。
永田に目をかけられていて、彼女は爆弾をもってアメリカの基地に侵入し実際に爆破してきたのだ、被害は小さかったとはいえ。
そして啓子は刑に服し、いまはひたすら目立たぬようにひっそりと暮らしている。
そんな啓子は、一時期絶交していた妹とも何とか連絡を取り合い妹の子供(つまり啓子の姪)の結婚を楽しみにしていた。
折も折、かつての仲間の千代治から連絡があり、インタビューしたいというジャーナリスト古市の紹介がある。
そこからかつての仲間が今どうしているかということがほどけていくのだった・・・


最後私は全く予想していなかったので驚いた驚いた!
こんなことがあるとは!

最初嫌がっていた過去の千代治からの連絡を徐々に受け入れていく啓子の気持ちがひしひしとわかった。
青春時代を共にした友人というのにはあまりに過酷な状況だったが、同志の気持ちというのは消えていないだろう。
一方で、啓子の犯した罪により、啓子の両親また啓子の妹の結婚までに及ぼされた影響はあまりに大きい。
姪の結婚式でサイパンに行く、というのも、実は危ないというのがわかって、どこまでもどこまでも罪は追ってくるのだ、と啓子とともに私も痛切にここは思ったのだった。

また、啓子の視点とか考え方と、当時一緒にいた仲間(同志)と、微妙なずれがあるのがわかる。
それは一緒に山荘から逃げたはずの佐紀子(今は農家の主婦になっている)と再会した時もそうだったし、当時20歳の金村邦子の目から見た啓子はもっともっと違う啓子に見えている。
この物語、自分がそうであったはずの自分、と、周りが見ている自分との相違に気づく物語でもある。
それは忘れている部分も勿論あるのだが、当時は気づかなかった皆の考え方、皆が自分をどう思っていたのかという新たな部分がばっと噴出して啓子の目の前に提示されていくのだ。

なぜ山岳ベースに行ったのか、という答えを邦子は、
次の革命戦士を育てたかったから、
という言葉で語り始める、最後の方にある手紙の中で。
だからこそ子連れがいた、おなかに子供がいる人がいた、という説明にもなっているのだ。
そして啓子が永田に実に近い女だったという認識を邦子は示す。
そしてあの凄惨なリンチでしかなかった総括を、永田に近い啓子だったら止められたのではなかったのかという考えも示す。

・・・・
啓子は大好きな姪にもこのことを打ち明けざるを得ない状況に陥る。
姪ははっきりと彼女をテロリストだと認識する。

そして、この物語、最大のことが最後まで隠れている・・・・

全体は非常に面白く読んだ。
ただ、ドキュメンタリーではなく、小説なので、この啓子という主人公は架空らしい。
そこは架空だが事件は本当、そして永田や森など実名も多々出てくる、このあたりがちょっと腑に落ちない感じがした。
また姪の話はこれで終わりなのか。
妹ともこれで終わりなのか。
これだけ厳しい状況なのか。
さらに、スポーツジムで似ている人がいると話しかけてきた人はこれで終わりなのか。
こうしてびくびく生きていくということを言いたかったのか。

以下ネタバレ
・啓子の最大の隠されたこと、忘れたいこと、は

子供を産んで養子にしていたということ

だった。
総括で妊婦を殺したという罪悪感から、自分で育てる気持ちになれなかったのだ。

それが彼女にインタビューしたいといった最初のジャーナリスト古市だった。


評価 5(飛びぬけ)

別訳で読んではいたけれど、新しい訳で再読。

とても読みやすい。
前のが読みにくいわけではないけれど、圧倒的に読みやすい。

何も知らない、という目で読んでみるとさらに楽しい。
知らない知らない知らない・・・・

・・・・・
まずこのSFは壮大なミステリでもあるということに気づく、と同時に壮大な哲学でもあることに。
なぜなら、最初の第一部から、『なんだかわからないものが宇宙から巨大宇宙船でやってきて、天空を覆いつくすほどの宇宙船がいて、世界中の人間の生活をよりよくしてくれているらしい。オーヴァーロード(最高君主)はただ一人の人を媒介にして、話を進めている。しかしこのただ地球の一人の人すらもオーヴァーロードの姿を見ていない』
なのだ。

いったいなぜだろう?姿を見せないのは、という単純な疑問に始まって、姿が見たい!!!という気持ちに駆られるのは当然だろう。
そして、もっともっと不思議なのは、なぜ人間の生活に介入し始めいいことと思われることをしてくれたのか?
この謎は最後まで付きまとう。
これに疑問を持って、人間が支配されていると思う層が出てくるのも当然だ。
そして、唯一の接触者があることをして会見の場でオーヴァーロードの姿を映し出そうとするが、これまた失敗する。
地球の接触者ストルムグリンとオーヴァーロードのカレランとの奇妙な友情めいた話もまた素晴らしい。
老いたストルムグリンが湖の近くでこの出来事を反芻してインタビューに応じる姿もまた印象深い。
ストルムグリンは永久にこの真相を知ることは出来ず、真の姿も知ることはなかった・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

姿、に関しては、衝撃の顛末が第二部冒頭で語られる。
ここまで読んでいると、オーヴァーロードの姿形は、想像の中で、
タコのようなもの、人間と全てが逆についている気持ちの悪いもの(つまり、口が後ろについている、とか、全部内臓器官が出ているとか)、全くのロボットのような機械的なもの、おぞましい吐き気のするような形状のもの(どろどろ形)、人間に極めて似ているがゾンビのようなもの、
といろいろ出てくる。
この中でどれだったのだろう?と私は想像を巡らせた。
しかし。
第二部で語られるオーヴァーロードの形を聞いた時に、ああっ!!!と思うのだ。
もうこれはまさにあれじゃないか!!
だから見せられなかったのか!!
そしてなぜ、時間をかけてオーヴァーロードが自分たちを受け入れてもらって、そのうえで何年もたってから人類に自分の姿を見せたのか、という理由がくっきりしてくる。
もし最初の段階でこれを見せていたら、まだオーヴァーロードが浸透していない人類は反発と恐れしかなかっただろう・・・なんと深慮遠謀な・・・・

・・・
(以下ネタバレ含みます)

更に。第三部で、なぜ、彼らが地球にやってきたのかという根本的な問いが開かれていく。
国家は消滅し、宗教もある一部のものを除いてほぼ壊滅している。
犯罪が消えた一方で、芸術も何もかもここでは生まれてこない、そういう地球になっている。
ここもまた非常に圧巻であり、人間とは一体何かということまで考えさせられる。
普通の夫婦と思われた人たちに生まれた子供たちの変容・・・・
これが交霊会という実にプリミティブな集まりで、誰がこの子供たちの両親になるか、というのをオーヴァーロードが喝破するというのが注目される。

交霊会に出てそののち結婚したジョージとジェニファーの二人の子供たちは人類にとって未知の存在になっていく。
すなわち、進化を遂げ、親との意思疎通を絶ち、情緒などなくなり、オーヴァーロードと精神的に感応していくという人種になっていくのだ。
更に更に驚くべきところは、オーヴァーロードの更に上にオーヴァーマインドという意思が存在して、オーヴァーロードは単に彼の下僕だったことがわかる。
新たに生まれた新人種を連れ去るということも。
悪魔の姿も未来の記憶として人類に埋め込まれたものだとも。
オーヴァーロードは、上の意思に従って初期文明の地球のような星に舞い降りてはこれを繰り返していると、いうこともわかるのだ。

ここで面白いのは、一人だけ人類の中にジャンという男性が密入国のような形でオーヴァーロードの船に乗ってそちら側に行き、そして地球に追い返される。
しかしタイムラグがあるのでここで帰ってきて彼が見たものは・・・
異様な子どもたちと誰もいない地球であった・・・

真相を聞かされたジャンが一人ピアノを弾く姿は美しいし孤独に満ち溢れている。
そして最後のオーヴァーロードのカレランの心のうちが語られるのがまた読ませるのだ。
2016.11.11 夜行



『世界は常に夜なのよ』


評価 5(飛びぬけ)

ものすごく面白かった。同時にとても怖かったのだった、夜眠れないほどに。
ある画家が描いた夜行という絵、それが大きなモチーフとなっている。
重低音のように夜行の絵の連作が不思議な世界に誘っていく・・・・

ここにもあるように、夜行は夜行列車の夜行でもあるし、百鬼夜行の夜行でもある、と著者自身が書いている。
まさしく、読み手はこの世界に翻弄される。
百物語を聞いているような気持ちにすらなったのだった。
ここでも著者お得意の京都を舞台にして、その魅力と怪異を余すところなくこちらに伝えてくれた。
京都の夜の闇の深さの底知れなさを。
京都の山の何もかも包み込むような不気味さを。

後半のある箇所で動転するほど驚いた。
私の読んでいた物語がひっくり返ったように思ったのだった。
そういうことだったのか・・・と。
どんでん返しとかオチとかそういうことではないのだが、物語の構造がここでくるっと反転する。
ここが特に優れていると思ったのだった。
あ、と本を取り落としそうになった。

読んでいて、何度も思いだしたのは、夏目漱石の夢十夜(全体が夢のような物語が多い)と、江戸川乱歩の押絵と旅する男、だった(夜行列車が何度も出てくるけれど、特に女子高校生と坊主の出てくる奥飛騨の物語で)。
何か心の底を揺さぶられるものがあった。

物語は、ある一人の女性が10年前に京都の鞍馬の火祭で行方不明になった。
彼女は長谷川さんと言って、英会話スクールで仲良くなったグループの一人だった。
このグループで再度10年ぶりに京都を旅しよう、鞍馬の火祭を見よう、という計画が持ち上がる。
それぞれに長谷川さんの行方不明を胸に秘めながら・・・
一足先に着いた大橋君は、ある画廊で夜行という連作を見つける、岸田道生という人が描いたらしい。
少し前にその画廊に確かに行方不明の長谷川さんのような人が入っていったように見えるのだが・・・それは勘違いであったらしい・・・


グループの人が雨がしのつく宿で、この夜行の絵と長谷川さんの話を大橋君がしていると、次々にメンバーがその絵についての不思議な話をし始めるのだった。
中井さんは、突如失踪した自分の妻を尾道に探しに行く。
妻からの手紙にあった場所に行くと、妻そっくりの女性がいるが、妻ではないらしい(このあたり悪夢のようでとても怖い)。
否定されたのでいったんはその人は自分の妻ではない、と納得するのだがどう考えても似ている(このあたりも悪夢のようだ)
続いて、自分の同僚と同僚の恋人と妹の四人で奥飛騨に旅行し、占い師に死相が見える、すぐに帰れと指摘される。
そこで突然いなくなった同僚とその恋人・・・
一体誰がいなくなったのだろう。誰と誰が消えたのだろう、というのがラストの温泉シーンで混沌としてくる。

続いて、藤村さんと夫と夫の友人の旅の話だ。これは津軽への旅だった。
津軽鉄道の列車の車窓から燃えている家が見える、そこで手を振っている女性がいるらしく、一緒に行った夫の友人の児島君はそこからおかしくなっていく・・・
一方で藤村さんは小さいころに仲良かった佳奈ちゃんという女の子の姿を思い浮かべるのだった。
彼女の事を話すと夫が藤村さんの母から聞いたという実に意外な事実を語ってくれる。→佳奈ちゃんは藤村さんの妄想の友達だった、日本の生活になじめなかった彼女が自分で作り上げたイマジナリーフレンドだった。
続いて、田辺さんの天竜峡への旅の話だ。
伊那市の叔母夫婦の所に行く途中の列車内で奇妙な二人に出会う。
一人は怪しげな僧侶、もう一人は女子高生だった。
当初女子高生が僧侶に絡まれているのかと思いきや・・・
途中でこの僧侶が誰だったかがべろっとわかる(このシーンがとてもまた怖い)
→以前岸田道生の集まりで出会った一人の人だった、彼が岸田の作品を持って歩いていた(このあたりで押絵と旅する男を思うわけだ)
僧侶がおかしいと思っていると、この女子高生が徐々に奇妙な姿を見せ始める・・・
そして話は岸田の最期の場面の話になっていく・・・僧侶は看取ったと言い始めるのだった・・・・

全ての場所で全ての岸田作品の夜行の絵がある。
それは不気味で暗く、人を奇妙に惹きつける絵であった。

・・・・
そしてラストの章鞍馬の214ページであれ、と思い、222ページで、世界が反転する。
ここがすごい。

以下ネタバレ
「失踪した」長谷川さん、と思っていたら、皆で再度旅行しようとしていた大橋君こそが「失踪した」人間だった。
それは中井さんに電話をした時に、相手に驚愕されたことでわかってきた。
なので、この旅行で聞いた話が大橋君が作り上げた話ともいえるのだが・・・
でもこの話をすると、確かに中井さんは妻が失踪して尾道に探しに行ったという経緯はある。

また、後半で、岸田道生と長谷川さんが結婚しているという事実がある。
そして連作の絵は夜行ではなく「曙光」という連作であった。
場所は同じでも、全てが光に包まれたような絵。
裏表になっているのだった、大橋君の見た夜行と、この曙光の連作は。




評価 4.4

表題作がミステリの候補作に入ったようだが・・・
私は別の作品がとても良くできていると思った。
こういうちょっと残酷な短編集というのは、読後に、あ!と思わせることが大切なような気がする(どんでん返しとかではなく)
この「あ!」があった作品は、姉のように、だったのだ、私の中で。

許されようとは思いません/目撃者はいなかった/ありがとう、ばあば/姉のように/絵の中の男
の4作品が入っている。

・許されようとは思いません

は第68回日本推理作家協会賞短編部門の候補作だ。
結婚相手とうっすら考えている女性とともに、祖母の納骨をしようと何年振りかに田舎を訪れる男性がいる。
あの優しかった祖母は殺人をしたのだった、祖父の死後、自分の義理の父親を殺してしまったのだった・・・
そして・・・

後半で婚約者ともいうべき女性がこの真相を見抜くところが面白い。
そして、そこまでの伏線というのも色々納得がいくのだった。
村八分と村十分の違いが冠婚葬祭にあったというのを喝破する婚約者がいる。

このオチ、わかるようでわからない、私にとっては。
自分が同じ墓に入りたくないために殺人までして村八分どころか村十分になるという心がよくわからないのだ。田舎で昔だからか。現代の都会に住んでいる私には、一緒の墓に入りたくない思想がよくわからないのだった。

・目撃者はいなかった
営業成績を間違った注文から上乗せされて褒められまくった営業マン。
彼がそれを糊塗しようとしてさらに深みにはまっていく・・・


ドツボにはまるってこのことか。
運が悪い男ともいえるけれども。
自分で発注したものを自分で買い取る、ここまでは誰もが考えるだろう。
でもその時にまさか偶然重大事故の目撃者になるとは。
彼がもしその重大事故の真相を話せば、彼の発注ミスが分かるというジレンマに。
それだけだったら、黙っているのを誰でも取ると思う。
けれど、その時刻に別の場所で放火があり、そこに彼の姿が見受けられたという警察からの追及が・・・

何かを証明するためには何かを犠牲にしなくてはならない、はまり込んでしまった男の悲劇が読んでいて面白い。


・ありがとう、ばあば
これは微妙・・・・
ばあばの方の気持ちはよく分かったが、孫娘の気持ちが今一つ文章から読み取れなかったのだった。

デブだった孫娘を痩せさせしかも子役としてデビューさせるおばあちゃん。
ところが、彼女は孫娘によって極寒のバルコニーに締め出される・・・・


孫娘、この子は本当は子役をやりたくなかったのか、ここがよくわからない。
あと「死ぬところを見たかった」のではないのか、そうすれば演技に幅が出るから。
私はそのように思っていたのだが最後の孫娘の話は違っていた、単純に年賀状を出さなくて済むからか(自分の汚い時代の顔が入った年賀状を)


・姉のように
大変面白かった。
面白いので最初から二度読み返してみたが、よく出来ている短編だと思った。
いわゆるミスリーディングなのだが。

最初に新聞記事が出る。
仲の良かった姉と妹のやり取りが途中に入ってくる。
そしてラスト・・・・驚いた、本当に驚いた。

→最初に出ているのが名前が出ていない。そしてそのあとから事件のことが「妹夫」と「妹」とともに語られる。
だから、どうしたって、最初に出ている子供を突き落として殺した、というのがこの事件だと思う。
途中で何度か違和感はあったのだが。
違和感の最大は、妹と娘がママ友に招かれていったときに、財布がなくなった事件だった・・・いくら殺人犯の妹とはいえこれまで・・・?と思ったし、その前に殺人犯の妹をこのような場に招くだろうかという疑問もあった。

尊敬していて絵本作家までしていた姉に何でも相談していたのにその姉が警察に捕まってしまって相談できないというジレンマに陥っている妹。
そしていうことを聞かない幼い娘。
自分は犯罪を犯した姉と同じ家に育っていたのか。
この葛藤が妹のイライラに繋がっていく・・・・
そしてラスト!
お見事というしかない。

ラストの別の新聞記事で、絵本作家の姉が「窃盗」をしたというのが出ている。
ということは、最初の階段から我が子を突き落とし殺し、それまでも虐待していた、という記事は妹だった。
時系列が逆だったのだ、新聞記事の。


・絵の中の男
中にも出てくるけれど放火→絵を描くというので当然芥川龍之介の地獄変を思う。
ここには全く別の真相が・・・
2016.09.29 四人の女


評価 5

言ってみれば単純なミステリだ。
でもこの単純さこそが身上で、とても面白いミステリだった。
ラストまで一気呵成に読ませる。

人がマンションのバルコニーから落ちて死ぬ、どうやら殺人らしい(そしてこの段階で、すれた読者なら落ちた人がわかる)
その家では集まりがあった、いわく人気コラムニストのラリーという男がいる。
集まりのメンバーは、前妻、現夫人、愛人、現在のフィアンセと4人の女だ。

大体この部分で、(一体全体どうしてこの人たちが全員存在していて、ここに集結してるんだ?現在の夫人と現在のフィアンセあたりまではまだわかるが他の人は一体?)と思うだろう。
そしてこう思うことはとてもラスト、重要なことにもつながっていく。

ラリーという人気コラムニストがいわば成り上がりでのし上がっていくストーリーでもある。
彼がどういう方法でのし上がっていくのか。
富と名誉をどのように勝ち得ていくのか。
あさましいまでに有力な人とパイプを持とうとする姿が最初のうち腹だたたしい。
途中途中でその時代の奥さんというか寄り添う女性が出てきて、最初の妻シャノンは実に良妻で、彼の全てを受け入れ、彼の出自までも受けれいた女性だった。
ラリーは本当はイタリア移民の両親を持っていたのにそれを隠していたのだった。
そして父親との葬儀に出ることもしない。
一方シャノンはラリーの妹と母親とすら仲良くして、取り持とうとするのだった。
ラリーは徹底的に自分の過去というのを排除して、なんとかなんとか自分の力で生まれ変わろうとしている。
最初のうち腹立たしかったのが、徐々に(可哀想な人)という目で見るようになってきた。

・・・・・・・・・・・・・・・
また次の奥さん(現在の奥さん)クレアは美人さんである。
でも頭とか情感はシャノンにはかなわない。
ラリーは自慢に思っているクレアではあるが、シャノンの目というのが彼の中にあり、シャノンンの目で見ると実にクレアが軽薄で美しいが頭はなくラリーを何も理解していないで、彼の自慢の小説ですら聞けない解釈できない(シャノンはそれができた)という状況になっているのに気付いてしまうのだ。

一緒に本を出している愛人マギーは醜い。
けれども本を出す夢を持っていたラリーはマギーをも利用しようとしているのだ。
そして4人の女性が集まった部屋では、マギーが辛辣な言葉を吐いて息まいている。

さて現在の恋人フィアンセは妊娠しているともっぱらの評判であった。
だからラリーは幸せの絶頂のはずなのだが・・・・
実は彼女の妊娠はラリーの子供ではなかった、というのをラリーのみが知っていた。

・・・・
最初の方でバルコニー手すりが壊れているのに気付いた人が一人だけいる。
彼女が一体殺されるのは誰かと何度も頭を巡らせる。
そして・・・

最後の最後まで油断のならない作品であった。


以下ネタバレ
ラリーが殺そうとしていたのはシャノン。
いつも彼女のものの見方が頭について離れなかった。
こうした催しに彼女を呼ぶ方法は全員今までの女性を呼ぶ、という方法しかなかったのだった。

そしてラリーは自ら手すりから身を投げる。
2016.04.30 雪の断章


評価 4.8

初めて佐々木丸美作品を読んだ。
今現在の自分が読んだのが惜しい気もするし、いやいや若い時に読んだらどれだけこの小説にやられたかというのを考えると今で良かったという気もするし、というとても複雑な気持ちになった。

ある種の『毒』がある小説だと思う。
それも体の中に入り込んでじわじわと効いてくるような毒のある小説・・・
しかも中毒性がある。
これを読み終わった後、次を読みたくなった。

・・・
孤児の物語である。
施設でそれなりに幸せに暮らしていた子供がいる。
ところが迷子になった5歳の孤児の飛鳥(あすか)が親切な青年に北海道の大通公園で声をかけられ助けられる。
そして二度目があり、三度目は・・・


飛鳥が、もらわれていった先の家でこき使われる姿は痛々しい。
そして養家(養女ではないが)の人たちの理不尽な扱いに静かに恨みを抱くようになる。
ある日、限界が来て、飛び出して行ってそこで出会ったのが幼い日に出会った青年、滝杷祐也(たきひひろや)だった。
そして彼の親友近端史郎(おうはたしろう)も、飛鳥のことをチビとあだ名をつけ乱暴なやり口で可愛がってくれる。
そこにはお手伝いのトキさんもいる・・・・

・・・・・・・・・・・・
飛鳥が日々成長していく姿は手に取るようにわかる。
しかし、現実的には、これって今の時代だったらありなのか?という邪念も入る。
手続き的に無理だろうし、あとなんといっても女の子を引き取るのが「男性の単身の人」なのだから、怪しいと思ってしまうだろう、今の時代だったら。
トキさんの言う言葉で傷ついた飛鳥が家出する場面があるが、トキさんが言う言葉が一番普通かなあ・・・と大人になった私は思った。どちらかというと、物わかりの良い管理人さんがこんなに温かく二人の関係を見守っている、という方が不思議でならない。
また、滝杷祐也の実家の人たちの思惑も非常にわかる、結婚もしていないのになぜ子供がいる?他人のそれも女の子を育てている?

ただ、このあたりの戸惑いがわかるのは、私が大人になっているからで、もし私が10代のうちにこれを読んだら
(・苦しんでいた家から解放され、好きな勉強を思いきりすることができる!
・横には尊敬していたお兄さんがいて、さらにお兄さんと同じくらい素敵なお兄さんの友達がしょっちゅう遊びに来てくれていて、その人も私を見守ってくれている。
・途中から、同じ会社の(社宅でもある)お姉さんまで(厚子さん)も来てくれて楽しい会を催してくれる。

・高校に入ったら、いじめられるどころか、順子という実に頭の良いはっきりとした意見を言える親友もできる。
・そうこうしているうちに、名門の大学に入り、そこで素敵なお兄さんの友達にプロポーズされる。
・そこで初めて、自分の尊敬がお兄さんへの愛情に代わっていることに気付く。
・そして、一端は友達のプロポーズを受け入れるが、お兄さんの胸に飛び込むとお兄さんも実は彼女のことを愛していた!!!)
という夢物語に圧倒されるだろう。
しかも、ニートでもなんでもなく祐也はきちんと勤め人であり、陽気であり友達もいて、しかもしかも(ここかなり重要)、『いい男』っぽいのだ。これがイケメンじゃなかったらかなりのがっかりどころだ。いくらいい人でも、尊敬できる人でも、乙女の夢ぶち壊しだ。ちょっとでも、祐也が気持ち悪いなんて思わないだろう(今の私はうっすら気持ち悪いもやもや感が残ってしまうが)

・・・・・・・・・・・
漫画のエースをねらえもちょっと思った。
この場合、育ててくれた宗方コーチが滝杷祐也であり、
岡ひろみが愛情を持っていた(と感じていた)のは藤堂だが、これが史郎とする。
藤堂を愛していると自覚している岡だったが、実は見えない部分で岡ひろみは、宗方コーチの事を気づかないうちに愛していたのではないか。
いつも自分を見守ってくれている男。自分を成長させてくれた男。突き放しながら庇ってくれた男。それが宗方だ。
宗方が手放したのでああいう結果になったのだが・・・

源氏物語の紫の上も思った(時代が時代だけれど)
あしながおじさんも思った(主人公が孤児でお金援助で、最後のところの展開も非常に似ている)
こういう話、枚挙にいとまがないのだが、これに憧れる若い気持ちというのは理解できる。
だから、育ててくれる人がいる→それが自分の愛する人になる、という愛情物語の構図の一つなのだと思った。

・・・
ついでながら
ミステリでもある、死人が出るわけだから。
けれど、これはもう添え物といっていいだろうか。
これによって重大な展開もあるけれど、なんだか全体の流れからすると、これはこれでまあ・・・、と言いたくなる。

またこの話、北海道が舞台というのがとても大きいと思う。
あちこちに見られる北海道の景色、そして雪の情景。
そういうものが繊細な少女の心象風景と相俟って実に効果を上げている。