2007.09.28 有頂天家族
有頂天家族 有頂天家族
森見 登美彦 (2007/09)
幻冬舎

この商品の詳細を見る


評価 4.6

『ならぬ堪忍、するが堪忍』

・・・・・・・・・

ぽんぽこぽん!ぽんぽんぽん!
たぬきのお話。
たぬき一族のお話。
これって分類するとどの分野に入るんだろう。
ファンタジー?それともミニSF?昔話っぽい奇想?
とにもかくにも森見ワールド全開だ。
全開なので、彼独特の言い回しとか表現が多々見られ、それはそれは笑える。どこもかしこもぐふっとする笑いと諧謔に満ちている。独り言とか小さな言葉の数々に大笑いした。これで笑う、と言う行為は、(私だけがわかるのね)という選民意識を持たせる笑いのような気がする。そしてそういう思いを多くの人に抱かせる技、というのが森見さんにはあると思った(比べては悪いが、直前に読んだ米澤さんの小説の主人公の自分に対する突っ込みとボケの面白くないことと言ったら・・・)
話としてはたぬきと天狗との京都でのあれこれなので、あり得ない!と言ってしまってはそれまでなのだが・・・・。

たぬきの4兄弟がいる。
長兄は慎重派、次男はなぜか蛙になって井戸に潜っている引きこもり、三男は軽率なアクティブでこの話の主人公、四男は引っ込み思案の甘えん坊、とそれぞれの性格が色分けされている。プラス「くたばれ!」と叫ぶ母たぬきがいる。
これに従兄弟双子の金閣銀閣。その妹。父親たぬき(これが4兄弟の父の弟)
人間から天狗になった弁天という美しい女性。
天狗の力を失いつつある赤玉先生(赤玉ポートワイン好き)
4兄弟の父はある死に方をしてこの世にはいない。
どうやらその死が重要な部分らしい。

・・・・・・
京都の風俗とか地理を駆使して、京都ならではの味を出してくれると思った。鞍馬は確かに鞍馬天狗なので、このあたりの天狗の出し方もうまいし、大文字焼きとかたぬき汁とか糺の森とか下鴨神社とか京都の町並みとか、見ているだけでも京都を右往左往している気持になれる。
これってたぬき、なのだが、たぬきの恋愛物、とも読めるし、たぬきの一族の激しい攻防物、とも読めるが、やはりここは、たぬきの家族物、と読むのが好ましいのだろう。何しろタイトルが有頂天家族だから。
弁天から扇を奪ってそれでぱたぱたとするところも面白かったし、あと一番良かったのは、三章の奥座敷を借りてのどんちゃん騒ぎ場面だろう。ここだけ取り出してもものすごく楽しい。

ただ・・・
主人公がたぬきなので、話を読んでいて面白いなあと思っても、はっと気づくと(たぬきだぜ、これは)という思いが横切る。たぬきの毛深い姿がささっと浮かぶ。ここが乗れる人となんだこれと言う人の違いだと思う。私は乗れたには乗れたんだが、たぬき・・という思いは最後までぬぐえなかった。ファンタジー能力が私の中で薄いので、余計そう思ったのかもしれないが。
それからたぬき汁というのが・・なんだか気持ち悪い。主人公がたぬきというところでたぬき汁というのがどうにも居心地が悪い。

森見さん、ここらが正念場だと思ったりする。
私は、四畳半神話大系のような話をもう一度是非書いて欲しい。

(各章タイトルの後ろにある扉絵が微妙にずれていることに注意したい。
右方向にずれていっている。
文字のある看板を見ているとそれがよくわかる。
こういう遊び心のある絵が話と似合っている。)