評価 4.9

アルゼンチンのブエノスアイレスというなじみのない南米の物語だ。
非常に長い話なのだが、一気呵成に読むことが出来る、それだけ吸引力のある話だから。
なんといっても、主人公の建築家ファビアンが気の毒すぎる。

元々妻とうまく行っていなかったファビアン。
妻は欝を患いつつあるらしい。
そして一人娘のモイラをファビアンはこの上なく愛している。
そんな折、ベビーシッターのセシリアと一緒に友達の誕生日パーティーに行ったはずのモイラが姿を消した、セシリアと共に。
気が狂うほど探す夫婦。
警察もそれに加担するのだが、一向に真相は見えてこない・・・


モイラが愛らしく、自分の好きなぬいぐるみを持って出かけていった(そしてこのぬいぐるみが後半とても大事になる)姿が目に浮かぶ。
目に浮かぶといえば、最初の方の段階で、嫌な予感にとらわれ、シッターとモイラを追うファビアンが目の前で電車に乗り遅れる場面も印象深い(そしてこの電車の中で出会ったホームレス女性からのちのち重要な手がかりをもらうことになるのだが・・・)

ファビアンの心へのダメージは大きい。
モイラがいなくなったことに加え・・・・→妻のリラも飛び降り自殺する。
ファビアンの人生はもう先がないように見える。
けれど、一体全体モイラが生きているのか死んでいるのかすらわからない。
もし生きているのなら、ファビアンも待っていてあげたい。
そういう彼の気持ちが痛いほどこちらに伝わってくるのだった。

この話、幼い少女の誘拐話なのだが、多分誘拐、ということで、脅迫めいたことも一切ない。
ともかくなぜだか理由がわからないまま少女は誘拐されるのだった。
そして中盤で出てくるある一つの残酷な事実
セシリアは直後に殺されていたらしい。
更に、誘拐の話って、時間が経過するというのは珍しい、しかもこれだけ経過するのは。
なんと後半で9年もたっている。
折々に時間の経過を書いてあるが、その時々でファビアンがどうしているかと言う姿に胸打たれるのだ。
全くモイラの情報が出てこない中、彼には一人の愛すべき変人私立探偵ドベルティと知り合うのだ。
彼とファビアンがタグを組んで、ホームレスの女性の情報から当日「モイラたちを見かけた」というのを引き出し、タクシー運転手があるホテルまで連れて行った、というところまで突き止める場面は秀逸だしすかっとする。
すかっとするが、このあとそれが続くかと言うと沈黙の時代が始まる・・・

最後単独でファビアンが乗り込んでいく場所は、秘境のような場所だ。
ボートも目に浮かぶし、雲の動きまで目に見えるようだ。
しかしファビアンを待ち受けていたものは・・・なんとなんと苦い真実だったのだろう。

・・・・
ちょっと引っかかったところもあったのに、ラストの真相にぎょっとした。
引っかかるところの意味が全くわからなかったからだ。
こういうことだからか、その引っかかるところがにわかに晴れたのだった。

ただ・・・人がむやみに死んでないか。
長い物語なので、致し方ないのだが・・・・
殺人もそうだが、やたら人が死ぬ話だなあ・・・と言う感じは漂ったのだった。
あと決して読後感は良くない。
もやっとした感じは残るのだった。

以下ネタバレ
・モイラは、

誘拐はされていたが、「実の父親」に誘拐されていた。
それは、
ファビアンの妻リラの兄は、リラと関係を持ち、リラはその子供をファビアンの子供として生んだからだ。

引っかかったところは、リラが過去の恋愛話を全くしない、というところだった。
ファビアンは自分の話を気楽にしているのに、リラはしていない。
ここが何かあったのか?と思ったが、まさか実の兄イバーンとの間の関係とは・・・
かつてはコルデリアと呼ばれていたリラ。
生き直そうとしてブエノスアイレスに来るが、兄が追ってくる。

・警察のシルバ刑事はファビアンを一番助けたように見えたが、実は犯人イバーンと通じていてベビーシッターの死体の偽装工作をしたのも彼。

イバーンを恐喝していたのも彼。
しかし癌でシルバが死んでしまったので、そのあと息子がそれを引き継いで、逆にイバーンに殺される。

・ドベルティも真相近くまで行くが、イバーンに殺される。