2016.04.30 雪の断章


評価 4.8

初めて佐々木丸美作品を読んだ。
今現在の自分が読んだのが惜しい気もするし、いやいや若い時に読んだらどれだけこの小説にやられたかというのを考えると今で良かったという気もするし、というとても複雑な気持ちになった。

ある種の『毒』がある小説だと思う。
それも体の中に入り込んでじわじわと効いてくるような毒のある小説・・・
しかも中毒性がある。
これを読み終わった後、次を読みたくなった。

・・・
孤児の物語である。
施設でそれなりに幸せに暮らしていた子供がいる。
ところが迷子になった5歳の孤児の飛鳥(あすか)が親切な青年に北海道の大通公園で声をかけられ助けられる。
そして二度目があり、三度目は・・・


飛鳥が、もらわれていった先の家でこき使われる姿は痛々しい。
そして養家(養女ではないが)の人たちの理不尽な扱いに静かに恨みを抱くようになる。
ある日、限界が来て、飛び出して行ってそこで出会ったのが幼い日に出会った青年、滝杷祐也(たきひひろや)だった。
そして彼の親友近端史郎(おうはたしろう)も、飛鳥のことをチビとあだ名をつけ乱暴なやり口で可愛がってくれる。
そこにはお手伝いのトキさんもいる・・・・

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飛鳥が日々成長していく姿は手に取るようにわかる。
しかし、現実的には、これって今の時代だったらありなのか?という邪念も入る。
手続き的に無理だろうし、あとなんといっても女の子を引き取るのが「男性の単身の人」なのだから、怪しいと思ってしまうだろう、今の時代だったら。
トキさんの言う言葉で傷ついた飛鳥が家出する場面があるが、トキさんが言う言葉が一番普通かなあ・・・と大人になった私は思った。どちらかというと、物わかりの良い管理人さんがこんなに温かく二人の関係を見守っている、という方が不思議でならない。
また、滝杷祐也の実家の人たちの思惑も非常にわかる、結婚もしていないのになぜ子供がいる?他人のそれも女の子を育てている?

ただ、このあたりの戸惑いがわかるのは、私が大人になっているからで、もし私が10代のうちにこれを読んだら
(・苦しんでいた家から解放され、好きな勉強を思いきりすることができる!
・横には尊敬していたお兄さんがいて、さらにお兄さんと同じくらい素敵なお兄さんの友達がしょっちゅう遊びに来てくれていて、その人も私を見守ってくれている。
・途中から、同じ会社の(社宅でもある)お姉さんまで(厚子さん)も来てくれて楽しい会を催してくれる。

・高校に入ったら、いじめられるどころか、順子という実に頭の良いはっきりとした意見を言える親友もできる。
・そうこうしているうちに、名門の大学に入り、そこで素敵なお兄さんの友達にプロポーズされる。
・そこで初めて、自分の尊敬がお兄さんへの愛情に代わっていることに気付く。
・そして、一端は友達のプロポーズを受け入れるが、お兄さんの胸に飛び込むとお兄さんも実は彼女のことを愛していた!!!)
という夢物語に圧倒されるだろう。
しかも、ニートでもなんでもなく祐也はきちんと勤め人であり、陽気であり友達もいて、しかもしかも(ここかなり重要)、『いい男』っぽいのだ。これがイケメンじゃなかったらかなりのがっかりどころだ。いくらいい人でも、尊敬できる人でも、乙女の夢ぶち壊しだ。ちょっとでも、祐也が気持ち悪いなんて思わないだろう(今の私はうっすら気持ち悪いもやもや感が残ってしまうが)

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漫画のエースをねらえもちょっと思った。
この場合、育ててくれた宗方コーチが滝杷祐也であり、
岡ひろみが愛情を持っていた(と感じていた)のは藤堂だが、これが史郎とする。
藤堂を愛していると自覚している岡だったが、実は見えない部分で岡ひろみは、宗方コーチの事を気づかないうちに愛していたのではないか。
いつも自分を見守ってくれている男。自分を成長させてくれた男。突き放しながら庇ってくれた男。それが宗方だ。
宗方が手放したのでああいう結果になったのだが・・・

源氏物語の紫の上も思った(時代が時代だけれど)
あしながおじさんも思った(主人公が孤児でお金援助で、最後のところの展開も非常に似ている)
こういう話、枚挙にいとまがないのだが、これに憧れる若い気持ちというのは理解できる。
だから、育ててくれる人がいる→それが自分の愛する人になる、という愛情物語の構図の一つなのだと思った。

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ついでながら
ミステリでもある、死人が出るわけだから。
けれど、これはもう添え物といっていいだろうか。
これによって重大な展開もあるけれど、なんだか全体の流れからすると、これはこれでまあ・・・、と言いたくなる。

またこの話、北海道が舞台というのがとても大きいと思う。
あちこちに見られる北海道の景色、そして雪の情景。
そういうものが繊細な少女の心象風景と相俟って実に効果を上げている。