評価 5

ミステリであると同時に第二次世界大戦を背景とした歴史小説だ。
最後の解説を読むと、アメリカヤングアダルトの最優秀作品になったと書いてあったが(他の賞でも高い評価を受けているらしい)、ヤングアダルトがこんなに水準の高い小説を読むのか、と驚いた。
ヤングアダルトにも読んでほしいけれど、大人でも十分読み応えのある小説だと思った。

第一部の冒頭部分から誠に辛い。
なぜならナチの拷問場面から始まるからだ。
それは、暗号や合言葉や周波数を教える代わりに、一枚一枚の着るものをもらえる、というものだった。
着るものを一枚恵んでもらう・・・・???
拷問されていたのはスパイ容疑の若い女性でナチの捕虜になっていて、服を脱がされて寒いところに投げ捨てられているのだ。
着る物をもらうために告白!
過酷を極めているこの拷問場面から話は始まる・・・・
途中途中にもこの辛い場面(これ以上の場面も)は出てきてそこはとても辛かったのだが、読み終わった時に、一条の光が差してきたように思えた小説だった。
また、手記の中でかつての青春の日々(捕虜時点でも十分若いけれど)が鮮やかなタッチで描かれている。
ここが瑞々しく、戦火の中での女性同士の友情、同僚に対する敬意、ほのかな異性に対するあこがれ、飛行機の中から見た外の景色、仕事への情熱と愛国心、と、印象的な場面が多々あって、飛行機の姿とともに忘れ難い。
特に、こわいもの10個を二人で数え上げる場面と、飛行機の中から見た美しい太陽の色の場面(139ページから140ページの美しい描写と言ったらどうだろう!)が印象に残る。

第一部と第二部が全く別の書き手になっている。
そこも読みどころの一つだ。

ナチの親衛隊大尉フォン・リンデンは容赦がない男だ。
その男に求められ、捕虜の若い女性はイギリスの情報を手記にするように求められ、それを必死で書くのだった。
田舎の少女だったマディが美しいクイーニーという女性飛行士に憧れ、女性飛行士に抜擢されクイーニーとまたとない友情を築き上げる姿を。
飛行機を愛してやまないマディの姿を。
三人称の観点で小説のようにその手記は描かれていくのだった・・・・


前半は交互にこの書いている女性の心情と現実と、手記が現れていく。
きらきらした青春の日々の手記の物語と、今現在となんと違うことだろう。
マディが飛行機に憧れ人に憧れ、男性よりも優れた腕前を持っていくようになる経過は、マディのはつらつとした表情と一緒にこちらの胸に飛び込んできた。
途中まで私はこの手記は→マディ←が捕虜になり彼女を客観的に自分で書いているのだと思っていた。
捕虜の名前はここでは明かされていないのだから。
ところが、途中で、これを読んでいるナチの親衛隊大尉が、喝破する、この中の→クイーニー←がお前だろうと。

この途中でアメリカのインタビュアーが入る。
ナチ側もそこは用意していて、捕虜女性を美しくなんとか見せるように努力してインタビュアーの前に出す。
見張られているのでどのような言葉のやり取りもじっと見られている。
読んでいると、(気づいてよ!!彼女がひどいことになっているのに気づいてよ!!)
と地団太踏みたくなる。
→(このインタビュアーのやり取りの真相が第二部で語られ、ああ・・・なるほど・・・と思うのだった
インタビュアーはこの最後で自分の分のシャンパンをあげた、クイーニーに。
これで彼女のここでの待遇がほのかにわかったのかな?とゆるく考えていたが、第二部を読んでみると、インタビュアーにわかるように巧妙に自分の拷問の体の跡を見せていた賢いクイーニーがいた)←

過去のことを書いている青春の日々の手記の中に、クイーニーの兄が指を吹き飛ばされた戦場の話も出てくる。
ここもユーモア交えて書いているけれど、口にくわえた指のみが残るってどういう状況なのだろう・・・と涙が出た。

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第二部は、第一部を受けての物語だ。
ここにきて、そうだったのかそういうことだったのか、と第一部を新たな目で見ることになる。
第一部の最後で、クイーニーが仰天の発言をしている→自分がジュリーという名前で彼女たちに呼ばれていたという事実だ。本名はジュリーだった。が、まだこのあとがある
この仰天発言をうけているので第二部でそれが普通に言われていても、あ、こういうことだったのだと思う。

最後のところで全てがつまびらかになる。

以下ネタバレ
・187ページは非常に重要場面。
なぜなら、インタビュアーのアメリカン人女性が、フランス語で真実(ヴェリティ)を探していると言った。
ヴェリティこそがジュリー(クイーニー)の重要な暗号名だった。
彼女は動揺はしたものの、すぐに持ち直した。
このインタビューでなんとか自分の方の情報を伝えようとして努力するジュリアの姿があった。

・ジュリーは無線技術師からスパイ、マディはパイロットとして仕事に従事している。
ジュリーはスコットランド女王メアリーの血筋を引く貴族。
マディはユダヤ人の庶民階級の娘。

・ジュリーとマディは同じ飛行機に乗っていて、ジュリーは捕らわれの身に、マディは助かっていた。
しかしお互いにそれぞれの生死がある時点までわからなかった。
何度となくマディは探すのだが見つからず、そして自分の脱出もなかなかうまくいかず、その中で偶然インタビュアーがジュリーを見つけ出したのだった。

・マディは最終的にジュリアを殺す羽目になる。
フランスのオルメのゲシュタポ本部を爆破することが任務であった。

・手記には一切書かれていなかったが、ジュリーに付き添っていた女性(監視役と思われいた)は、煙草を常にくれた。そして最終でマディたちの協力者にもなってくれたのだった。
最初の段階から彼女はなにくれとなくジュリーを庇ってくれている。