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シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々
(2010/05/13)
ジェレミー・マーサー

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評価 4.8

勝手に私が思っていたのと違っていた本だった。
「優しき日々」だから、本屋にまつわるほのぼのとした心温まる優しい話、と思っていたら、壮絶なホームレスに近い人々のサバイバル物語とでもいえる本だったのだ。
かといってつまらなかったわけではない。
結構分量があるのに、どんどん読めたのは、それぞれの人が実に味わい深く活写されていたからだ。

特にこの書店の持ち主の80を越えている(!)ジョージの姿が忘れがたい。
共産主義であり、来た人でお眼鏡にかかった人は誰でも泊まらせてあげる書店。
それを作り上げた手腕と経営努力。
でもこの経営努力も、けちけちして使ったビニール袋を洗うというところまで徹底していると思えば、3000ドルの紙幣をどこかに入れ込んでしまうとか、火事を出してしまうとか、ともかくもまとまりがない経営努力なのだ。
一言で言って、「破天荒の人」がジョージだ。

そのジョージが開いてくれた書店の泊まり場所のおかげで、なんとかパリで生き延びられる人たち。
主人公のジェレミーはあることで逃れるようにパリに来る。
そして路頭に迷う寸前、シェイクスピア&カンパニー書店に拾われる。
ここに来ている人たちは、「文学者もしくは芸術家になる前の卵の人たち」であると同時に「何らかに追われている人たち」の吹き溜まりでもあるわけだ。
以下に生きていくか。
いかに食べ物を安く得ていくか。
そう、この物語は都会でのサバイバル物語でもあるのだ。

特に老詩人と名乗る、書店を追い出されかけているサイモンの姿がラストの方の栄光とともに忘れがたい。
また女好きの気のいいカートも案外色々な過去を秘めているんだというのが後半でわかっていく。
語り手のジェレミーでさえ、逃れてくる理由とは別に、青春時代にあったある一つの出来事、というのが最後の方に出てきて、ここは推理小説のようにあっと驚く。
ジョージの過去というのも途中で出てきて読ませる。
人間が誰しも心に闇部分を抱えていて、生きているというのが読んでいると、この友情と軋轢と人間模様で炙り出されてくるのだ。

そしてまた青春物語でもある。
恋があり(なんとジョージも!!)、挫折があり、行き違いがあり、友情での齟齬があり。
そのあたりがなんとも憎いほどに読ませたのだった。