2010.07.24 緋色の記憶
緋色の記憶 (文春文庫)緋色の記憶 (文春文庫)
(1998/03)
トマス・H. クック

商品詳細を見る


評価 5(飛びぬけ)

まことに私の好みの小説だった。
緻密に描かれていて読み応えがあったのだ。

老いてしまってもう校長だった父も、あの母もいない男がかつてのチャタム校で起こった事件を回想するという物語だ。
過去と現在が交錯し、カットバックする過去がある。
そこには美しい話もまたあり、秘密も見え隠れする。
小さな村で起こったほんの小さな不倫の話・・・・

最初から、「ここの村で何が起こり、何がこうしてありました」
と言う書き方はしていない。
そのあたりもいかにもクックらしい緻密な丁寧な回想と現在が入り混じった手法が用いられている。
じわじわじわじわ周辺が語られていって、読者は途中で
(この語り手の男性に何かがあった。
この若い魅力的女性教師に何かがあった。
それに書き手の父(校長)が心血を注いだチャタム校が巻き込まれた。
それは裁判になってこの村中の話題になった。)
というのがわかってくる。
このわかり方が、語り手の現在と相俟って実に味わい深いわかり方なのだ。
たとえば、途中で黒池の土地を売る話が出てくる。
これを相談された語り手は、その土地を売ってお金をもうける当の人間に
「これはアリスにあげようと思う」
と言われるのだ。
アリスが誰か読者はずうっとわからない。
そして最後の方までわからないのだ、なぜならアリスという人間が出てこないから。
そしてわかった時に、ああ・・・と思う。

途中で、エリザベスが作った彫刻を壊す場面が非常に印象的だ。
また最初にエリザベスがやってきたその美しい姿もまた忘れがたい。
幼き日々への甘酸っぱい回想と、遠い昔に起こした罪の意識・・・
この二つがないまぜになってヘンリーの心を支配しているのだ、一生。

以下ネタバレ
・少年ヘンリーは、エリザベス・チャニングという女性教師とリード教師という妻子もちの男が付き合っているのを知っていた。
そして、リード教師の妻アビゲイルに嫌悪感を持っていた。
エリザベスとリードが駆け落ちできたらいいのにと願っていた。
・なので、灯台で、エリザベスとリード教師が言い争いをして
「いっそあなたが死んでくれたらいいと思うが」
と「エリザベスに」リードが言うのだ。
これをヘンリーは、
「アビゲイルが死んでくれたらいいのに」
と思っているだろうと勘違いする。
・なので、アビゲイルを誘導して、思いがけず、アビゲイルが激怒し、車の運転で
ヘンリーの家にいたサラをひき殺し(エリザベスと間違える)、車ごと黒池に落ちていく。
・このあと
黒池にすぐに潜ったヘンリーは、出ようとするアビゲイルを中に閉じ込めるべくドアを水中で開けさせないのだ。

・このあとアビゲイルの夫のリードは自殺。
・リードの恋人のエリザベスは糾弾され、裁判の後刑務所で死亡
・リード夫妻の子供メアリーはアリスのセカンドネームで医者にもらわれていくが精神を病む。