トンネルに消えた女の怖い話トンネルに消えた女の怖い話
(2010/07/21)
クリス・プリーストリー

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評価 5

とても怖くそして面白い話の連続だった。
解説にもあるように中にはヘンリー・ジェームズの「ねじの回転」を彷彿とさせるような話もある。
児童文学といえども容赦がなく、死ぬ時には死ぬんだ、の気配が濃厚だし、ばっさり行くときには行くという考えも漂っている。
勧善懲悪でもなく、そして子供だから救ってあげよう、と言う話でもない。
どん底に落ちる時には落ちてしまうんだと言う話ばかりだ。
そして何より怖いのは、これがただの話の羅列ではなく、トンネルの前でストップした列車の中で子供がある女性に話を聞いている「シチュエーション」そのものだ。
周りにいる大人たちは昏睡状態でなぜか眠ってしまっている。
その中でただ一人おきている少年がこの女性の怖い話を聞き続けている・・・

どの話も面白いのは、全く荒唐無稽な日常から始まるのではなく「いかにもそこここにありそうな子供の目線の風景」から始まるところだ。
そこが怖いところでもある。
またラストは予測できる(全ての話のラスト)
それでもそこまでぐいぐい読ませる力というのがこの短編集にはあると思う。

例えば、「島」なんかは、兄弟のただの冒険物語っぽい。
引っ越してきたばかりの兄弟が、家から見える畑の中の島に行って来るだけの話なのに、兄弟の性格の違いから、兄弟のとる行動から、そして兄弟が最終的にどういうことに陥るかまでがある意味克明に描きこまれいてラストの怖さを誘っている。

「新しい家庭教師」はねじの回転を思い出させるような小説だ。
(ちょっとサキの開かれた窓、にも通じるところがある)
家庭教師にことごとく逆らう新しい家の子供の長男ダニエル。
その真相とは・・・・
この話、ラストの4行がまたきいている。

一番怖かったのが「壁の割れ目」だ。
壁の補修工事をしているだけなのにその先に広がる怖さと言ったら・・・
一種の幻想譚といってもいい。
これって、壁紙の色が黄色い壁紙とあるのだが、あの「黄色い壁紙」を意識しているんだろうか。

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以下ネタバレ
・列車事故で全ての人が死んでいる中
この男の子だけが瀕死の状態で助かっているらしい。
話をしてくれた女性は死神のようなもの。
途中でこれはわかってくる(いくら回りを起こしても起きないから)
また男の子の義理の母の予言(トンネルとキスに注意)というのもあとから意味がわかってくる。
この場合トンネルの入り口はあの世への入り口と考えていいのだろう。

・家庭教師の話は
ダニエルがかつて死んだそこに養子のような形で育てられそして死んだ男の子で
家庭教師と子供以外には見えていなかった。

・壁の割れ目は
何かが壁の割れ目にいる、というぞわぞわ感で成り立っている。
割れ目を覗くとその向こうに血走った目が見える・・・
壁の補修をしているベンソンは子供のフィリップに悪意は持ってないが、壁の向こうに部屋と言う荒唐無稽なことは信じていないで馬鹿にはしている。

ベンソンはラストのあたりで、この見えない何者かに体をのっとられる。
だから落ちた時に自由な意志を奪われた顔をしている。
そしてこのあと、この見えない何者か、は、フィリップの体にとりつくのだ。

・・・・・・・・・

列車 7−30
温室 31−59
島 61−103
新しい家庭教師 105−147
小さな人たち 149−182
猫背岩 183−228
ジェラルド 229−269
シスター・ヴェロニカ 271−300
ささやく男 301−337
壁の割れ目 339−370
トンネルの入口 371−391