アイルランド・ストーリーズアイルランド・ストーリーズ
(2010/08/27)
ウィリアム・トレヴァー

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評価 5

正直、ここまでトレヴァーの翻訳小説を読んできてはいるけれど、「絶賛」というのにはちょっと遠い気持ちだった。
高尚であり、巧みに作られている短編小説、とは思ったし、いくつか記憶にまざまざと残る小説もないこともないのだが・・・
その場ではあと一歩。
時間がたつと熟成していい話だったなあ・・と思い出す。
私にとってトレヴァーと言うのはそういう作家だった。

が、このアイルランド・ストーリーズにまとめられていた短編はどれもとても好みのものだった。
印象深く心に突き刺さり、情景が浮かぶ。
アイルランドという特殊な場所を題材にしているものも多く、紛争とか、イギリスへの思いなども重要なモチーフになっている。

全てに始まりがあり、終わりがあり、物語が語られていくのを炉辺で聞いているような喜びがあった。
特に好きだったのが、伝説の崩壊している聖母像のところに人を連れて行く話の女洋裁師の子供、
ラストの、故郷のアイルランドに万感の思いを持って戻っていく男の物語、聖人たちだった。

どの話もきめ細かく詳細に心の内奥まで描きこまれている。
だからこそどの話も写真のように心にくっきりと焼きつくのだ。

・・・・

ある時には英語のカタコトのスペイン人夫婦だったり(女洋裁師の子供
ある時には雇い主の男性の所業に困り果てる一人のメイドの顔であったり(キャスリーンの牧草地
またある時には妻の不倫相手とわけのわからない話し合いをしているやさぐれただんなの姿であったり(第三者
先生に無意味に嫌われている罪のない男子が最後にとった行動だったり(ミス・スミス
単純な新婚旅行ではなく、奥さんのある出来事をきっかけに結婚できた貧しい人間の体だったり(トラモアへ新婚旅行
意味のわからないおぞましい話を子供たちにせざるを得ない女教師の佇まいだったり(アトラクタ
ねじれた思いが交錯する牧師館であったり(秋の日射し
映画と自分をオーバーラップさせる抑圧の多い社会にいた老女の裸だったり(パラダイスラウンジ
聖職者と女性信徒の逢瀬に使われたピアノを弾く男の子の苦い結末だったり(音楽
騙した女が騙し返した話と思いきや、ラストでアイルランド紛争がどのように影響しているかという場面を見たり(見込み薄
色々あって今はイタリアに住む男が故郷アイルランドに万感の思いを持って帰郷したり(聖人たち。


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