これよりさき怪物領域 (ハヤカワ・ミステリ 1259)

『もうひとつの地図には、ただ、”これよりさき怪物領域”とだけ書いてあってね、ロバートはその文句が気に入っていました・・・・ロバートの地図の世界はきれいで、平たくて、単純でした。人の住む場所と、怪物の住む場所を区別していました。その世界がほんとうは、丸くて、場所はみんなつながっており、怪物とあたしたちをへだてる何者もない、と知ることはたいへんショックなのよ』

評価 5

マーガレット・ミラーらしい心理面が描かれたサスペンスの傑作だった。
彼女の夫のロス・マクドナルドの「さむけ」とこれとどちらが先か調べてみたけれど、こちらの方があとだった・・・(ということで色々思ったのだが)

話は図式としては非常に単純で
・ある農場主のロバート・オズボーンと言う男がいる。
結婚していて妻がいて、母親もいる。
・ところがある夏の日、ぱたっと失踪してしまう。
と同時に、農場で雇っていたメキシコ人達も時を同じくしていなくなってしまう。
・妻は死んでいると思って90日たって、離婚の訴訟をする。
・が、母親は死んだことをいっかな認めようとしない。
・警察はオズボーンが殺されたのではないかと思っている、メキシコ人たちが金目当てに殺したのではないか、と。

筋だけ見れば、ありがち、な筋なのだ。
けれど、ロバートと言う人間を、この小説に出てくる人間が法廷で皆によって語られていく。
そしてそこから炙り出されていくもの、と言うのが誠に怖い。
妻のデヴォン
ロバートの母アグネス
農場マネジャーのエスティバール
近隣の農場主レオ・ビショップ
警官バレンスエーラ・・・・


ロバートの母親が奏でるピアノと言うのがなんとも不気味なのだ。
また報奨金をかけてまで息子探しにかける情熱、というのもまたすさまじい。
そして彼女が息子を溺愛するあまりに、妻が捨てたロバートのものを拾ってまた新たなロバートの部屋を作り続けている。
ここもまた鬼気迫るものがあった。

誰しも心の中にあるであろう、怪物領域。
そこをあっさりと越えてしまった人間と言うものの恐ろしさが十二分に発揮されている作品であったと思う。

以下ネタバレ
・法廷で
ロバートと言う人間が決して清廉潔白な人間ではなく、
人妻を誘惑していたり、駆け落ちしようとしていたり、その人妻ルースが死んでいたり、していることがわかる。
・脅迫していたのはフェリーペという農場主の息子で彼がロバートを殺した。
なぜならロバートがルース・ビショップを捨て、彼女が死んだのはロバートが殺したのではないかと疑っていたため。
また、ロバートが自分の父親を殺したと思って(血のついた材木を持っていたので)その口封じ料として。
が、実はこれはロバートの母親の仕業だった。
だからこそ、ロバートを寄宿舎に直後にやったのだった、母親は。

・最後の場面で、怪物領域のロバートの部屋に、金庫を開ける小さなフェリーペを閉じ込めたのだろうか。