2010.11.03 ピスタチオ
ピスタチオピスタチオ
(2010/10)
梨木 香歩

商品詳細を見る


評価 5

大変優れた物語で、心に染みとおったのだった。
山の中で流れていく清冽な水を素手ですくって飲んでいる、そういう気持ちにさせられる話だった。
一瞬スピリチュアルな部分がある。
でもそれはスピリチュアルとくくるにはあまりに大きなスケールで動いていく。
決して薄っぺらなスピリチュアルな話ではない。

禅のようなそういうスタンスで話が進んでいくところがたまらなく素敵だ。
流れていく。
偶然がある。
その偶然に身を任せる。
また流れていく・・・
この繰り返しが、生きるということ、どうやって生きていくかということ、ひいては、死に行くことの意味まで広がって考えさせてくれる。
美しくも格調高い文章で私達に忘れたものをよみがえらせてくれるそういう小説だった。

最初の方では、武蔵野の自然の中で、アフリカから帰った棚と言う女性が、犬と自分の母と暮らしている。
あるとき、その犬の具合が悪くなって、病院に連れて行く戸いうことになる。
棚はペンネームで本当はみどりだ。
彼女には結婚はしてないがパートナーがいる。
そして、いつしか再びアフリカに行くことになるのだった・・・


アフリカと言う大自然の元で起こる様々な出来事。
それは土着の民族性ともいえることもあるのだが、それよりも、棚が「何かに導かれてアフリカに行き、その民族性の中に潜んでいる自分の役割を認識する」という自分の世界における役割のようなものまでいくところが実に読ませるのだ。
ゲリラに双子の半分を拉致され、その行方を追っている女性が棚と結びつき、
HIVウィルスの男性が棚と手を組み
ピスタチオのアフリカでの生育を考えている人があることでピスタチオの栽培を諦めていたのに復帰する・・・

途中、ミステリのようにさえなってくる。
それは謎が多く、アフリカで棚が声をかけようとした人が皆取り付かれたように死んでいく、ということがあるからだ。
なぜなのだろう。
いつしか棚はその渦に引き込まれまいとアフリカの大地を踏みしめるのだ。
と同時に、この流れというのにもまた棚は乗っている、抗いがたいアフリカの息吹に晒されながら、運命の輪に組み込まれながら。
アフリカの大地の様子が靄にでもかかったように私に伝わってきた。
人々の呪術信仰、精霊、そして祈り。
人間の根源のようなものがそこにはあるのだ。

ラストのピスタチオの物語も実に読ませるのだ。
そこまで話が続いていた集大成がこの物語になってまた心を打つのだった。