2010.11.13 海炭市叙景
海炭市叙景 (小学館文庫)海炭市叙景 (小学館文庫)
(2010/10/06)
佐藤 泰志

商品詳細を見る


評価 5

好きだ、この連作小説。

一章と二章に分かれているけれど特に連作になっている一章が秀逸だった。
炭鉱が閉山となり、海と山のある田舎の光景が茫漠と広がる中、
そこで必死に人間としての営みを送ろうとする人々の姿を残酷なまでに映し出していく。

最初の話は両親をなくし、兄と二人で失業し、二人で初日の出をせめて見にきたのだが・・・
妹のみロープウェイで戻ってきて兄が帰ってこない・・
その待合室での妹の気持ちがそれはそれは恐ろしいほど克明に描かれている。

それは時に優しい眼差しであり時に氷柱のように厳しい現実を見据える眼差しである。
全てが泥臭いのだ、話そのものも決して明るくない。

でもここにあるのは人々の絶望ばかりではなく、遠くに仄かに希望があるのだ。
だからこそ人間は生きていけるのだと。「
「雪沼とその周辺」と同系だけど、味わいは違っている。
洗練された雪沼もいいが、無骨な海炭市捨てがたい味わいがある。