2010.11.25 英雄たちの朝
英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)
(2010/06/10)
ジョー・ウォルトン

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評価 5

私がこの小説を読む前に知っていた知識は
「ナチの時代の歴史改変物」
というものだった。
だから最後の解説にもあるけれど、プリーストの「双生児」とかを強烈に思い浮かべながら読み始めたのだった。
ところが読み始めて全く違うというのがよくわかる。
最初の方で貴族の女性が、ユダヤ人と結婚したというのでどれくらい非難されたかというのが女性の手によって描かれている。
まだこの時点でこの世界はわからない。
更に殺人事件が起こり、それを解決しようとするカーマイケル警部補が出てくるところに至って、これは歴史改変というよりミステリ?と思うのだ。

話は、
・貴族の娘ルーシーの視点
・カーマイケル警部補の視点
と交互に出てきて進んでいくのだ。
そして読み進めて行くうちに徐々にこの世界が
・ドイツのナチが消滅していないばかりか、ヨーロッパを支配しているということ
・ところがイギリスはそこからはやや距離を置いて(実際の史実でヘスがイギリスに渡って講和条約を取り付けよう(実際は)出来なかったが、この小説世界では出来たことになっているらしい)、ユダヤ人差別はあるものの、とりあえず強制収容所などはまだないこと
・まだドイツとロシアは敵対していること
・ヨーロッパのユダヤ人はまだ星印の布がつけられている
・つまりはナチがまだ現存していて、ヒトラーも健在
というような世界だというのがわかってくるのだ。

この世界観がわかったとして、それでもミステリ部分は変わらない。
一体誰がどうやってどういう意図で下院議員を殺したのか。
強烈なファージングセットという政治派閥の中の誰かというのは間違いがない、とカーマイケルは睨んでそこを追求していくのだ。
ところが、刺された下院議員の胸にはユダヤ人を表す星印があるのだ。
だから誰が何のためにこれもしたのか・・・

ルーシーの健気さ、凛とした姿がとても印象的だった。
またこの話で、ゲイの話がくらくらするくらいに出てくる。
誰と誰が関係していて、誰と誰が関係していて・・・
もうここが女性を交えて(両刀という人も多い・・・)混乱するのだが、権力中枢の人たちがこのようなことに岩ば耽っているのが実に印象的でもあった。
なぜなら、ナチは、ゲイだって迫害してたわけだから。

・・・・
この話、最後まで読んで、とても納得が出来ないミステリ小説だった。
ミステリなので最後すっきりと終わったと思いきや、実に意外な終わり方をする。
え!これで終わり!これなのか!!!と驚き、
ここが納得がいかなくて・・・・と思っていたらば、これは、2巻、3巻に続く最初の一歩だったということがわかるのだ(第二巻第三巻を読んでみて)

いわばこの小説、将棋で言えば、最初の「歩」なのだ。
そして第二巻で「飛車」「角」が暗躍し縦横無尽に飛び回り
第三巻で文字通り「王将」の登場だ。
下積みになるような布石になるようなこの巻。
非常に重要な一冊だというのが三冊の最後まで行くとよくわかるのだった。

以下ネタバレ
・カーマイケルは必死に捜査して真相にたどり着く。
そしてそれはカーマイケルの進退にも関わる(彼もゲイでジャックという男性と同居している・電話でルーシーに逃げろというのを言外に密告してあげた)脅迫で握りつぶされるのだ。
脅迫に屈したカーマイケル。
そしてその失意の思いを胸にカーマイケルは次巻で意外な人間になっていく。

・真相は現職のイギリス首相になるマーク・ノーマンビーが殺人犯であった(共犯はいたものの)。
イギリスは殺人犯で、強烈なナチ信仰者を首相に選んだのだった。