バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)
(2010/08/28)
ジョー・ウォルトン

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評価 5

世界観にどっぷりと浸れ、しかも男女別視点というのに慣れてきたせいもあり、この巻もとても楽しかった。
今回は、前巻で亡くなったカーマイケルの同僚の遺児をカーマイケルが引き取る、という話なので、遺児エルヴィラはもうこの世界でこちんこちんに信じさせられている、この世界が正しいのだと。
こういう教育を受けてしまっている、というところが基盤になっている。
一方で
ヒトラーを救ったカーマイケル警部補は、これまた期せずして、
イギリスのゲシュタポのような組織の長になっている。
だから体制側に相変わらず組み込まれているのだがそれでも、着々と彼なりに彼の道を進んでいる。

男女が交互に語るという形式は同じものの、この巻で特徴的なのは、ばらばらの時間とかばらばらの空間で話が進むというよりも、「エルヴィラの話を受けてすぐにカーマイケルの話が動く」というように連動しているのだ、二つの視点が。
そしてまた二人の関係もとても緊密で近しいものだ、何せ殺された同僚の娘を実の娘同様に可愛がっていて、エルヴィラのほうも娘同様にカーマイケルを信頼し慕っているのだから。
ここが大きく前2巻とは違うところだと思った。

エルヴィラがファシストのパレードににたまたまついて行ってつかまってしまうところから話は始まる。
ここからエルヴィラとカーマイケルの危機が襲ってはまた打ち返し、また襲っては打ち返すという丁々発止のやり取りがあるのだ。
エルヴィラがつかまってほぼ拷問のようなことを受けて何かを話せといわれている時に、彼女が何も話すことがないのだが、ただ一点カーマイケルのところに来た人のことを覚えていてこれで逡巡する姿がなんとも痛々しい。
また彼女を逃がして、ユダヤ人の家に匿わすということをカーマイケルがするのだが、そこでエルヴィラが見たもの、見た宗教儀式と決して特別ではないユダヤ人の人々の生活、更に彼女を匿ったことでそこで起こった出来事の数々というのもまた読ませたのだった。
ファシストの体制を信じてきたエルヴィラが真実に目覚めていくという成長物語としても楽しめよう。

カーマイケルの同棲しているジャックの姿もまたここにはよく出てくる。
難しい本をよく読んでいるジャック。
カーマイケルを精神的に支えているジャック。
外に二人で出られないので、パーティーに行くも、カーマイケルが気に入らないという様子など、カーマイケルの仕事ではない一面を垣間見られる巻でもあるのだ。


しかしこの大団円の素晴らしさといったらどうだろう。
私は読んでいて、ページが残り少なくなってあと少しなのにどうやってこの話の決着をみるのかとずうっと思っていた。
いかにもイギリスらしい決着の仕方だ。
そしてカーマイケルが自殺をする直前のあれこれなど何度そこを読んでも胸が熱くなる。

以下ネタバレ
・女王陛下に直訴、という方法が秀逸でイギリスならでだ。