ジークフリートの剣ジークフリートの剣
(2010/09/30)
深水 黎一郎

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評価 4.5

タイトルからわかるように、ワーグナーのオペラ、ニーベルングの指輪に絡んだ芸術ミステリである。
ただ、ミステリ部分と言うのは前半から中盤終わりにかけて全くなく、後半にぼろっと出てくる仕掛けになっている。
だから途中までは独特の芸術論が時折挟まれている興味深い芸術小説だ。
ある日本人天才テノール歌手和行がいて、彼を愛してくれている女性の歌手がいる。
このテノール歌手の傲慢さであるとか自信があるとかの造型が、ジークフリートに重なっていくのは勿論のこと、一人の女性によって愛に目覚めていく、ようなところも話とオーバーラップするところが、本当のワーグナーの話と一緒に実に読ませるのだ。
ミステリとしては、方法としてとか動機としてはそれほど感心しなかった。
だが・・・・

最初のところで、奇妙な老婆が「ある予言」をする。
その予言の意味が(死んでも・・・のあたり)ラストになってわかった時に、ちょっとぞくっとしたのだった。
この小説は、ラストが光り輝いている小説だと思う。
肝のこの部分、があるがために、そこまでに出た疑問
(じゃあ、この恋人だった女性の親友の存在はどういう意味があったのだ?)とか
(列車事故のあまりの安直さってどうなんだろう?)とか
(途中のテノール歌手の頭の上から落ちてきたものの結末ってこうなのか?)とか
が吹き飛ぶような気がした(まだ釈然としないところも残るけれども)
更に、
なぜこれを持って舞台に上がったのかという運命を感じ、
最初の占いの重さをここでぐっと噛み締めたのだった。

以下ネタバレ
・列車事故で恋人が死ぬ。
その時に荼毘にふされた骨の中で損傷が少ない大腿骨の骨を、恋人のテノール歌手がもらってくる。
一緒に舞台に出ようということで。
舞台で、重要な剣が意図されて隠されていることがわかる。
動揺して声が上ずる和行。
そこで、思い出したのが大腿骨でそれを剣に見立てて、見事復活するのである。
しかも不思議なことに大腿骨は光り輝いた剣になるのだった(光り輝いたのは、リンのせいか、それとも事前に「たまたま」感傷的になった和行が「飲ませた」アルコール分のせいかわからないけれど実際に輝いた)
ここがとても美しく印象に残るところだ。
(しかも大腿骨が損傷がないということで、列車事故以前の骨というのがわかる。
探偵役は神泉時というバイオリニストの放浪の男。
殺した犯人はゼーレンセン。
遺体は事前にトランクに入れられ、ゼーレンセンの弟によって運ばれている途中だった。

占いの老婆の言葉で「死んでも好きな男のために役立とうとする」という言葉がここでかちっと合うのだった