2011.01.15 暗色コメディ
暗色コメディ (文春文庫)暗色コメディ (文春文庫)
(2003/06)
連城 三紀彦

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評価 4.8

とてもこみ入った話だ。
謎がこれでもかこれでもかと提示され、最後収拾がつくのかと思ったら、全部をきちんと回収していたので大変驚いたのだった。
ただあまりにこみいり過ぎて、何度も読み返さないと完全理解に遠くなるのが難点といえば難点なのだが・・・
この中で、交差点でトラックに引かれた男が生きていた論理的な推理がある。
これには大変感心させられた、ここがメインではないのに、これだけのことをここに使ってしまうという贅沢さに驚嘆したのだった。

面白いところは、これが最後の方まで、狂人の妄想か(何しろ精神科まで出てくるし)、そしてもし狂人の妄想としたら一体誰が狂人で誰が狂人ではないのか、ということだ。
このあたり幻想につぐ幻想で、一瞬現実がわからなくなる。
現実に戻れなくなった頃に、がんと現実の物語になっていくところがものすごい。

冒頭から大変惹き付けられる。
・ある主婦が自分と同じ名前をショッピングセンターで呼ばれる。
それが呼ぶ予定もない夫が呼んだのかと思いその場所に行こうとすると、途中のエスカレーターで夫と出会う、しかも女性連れに。
この女性がふるやようこという自分と同じ名前の人間なのか?
一種、神経症的な女性のこの思いがずうっと続いていって、更に実に重要な口紅場面がありあとに続いていく・・・

・また一方で、「自分の夫が目の前にいるのに死んだ」と言い張る主婦がいる。
夫がいくら生きていると言っても、信じてくれない。
さておかしいのは主婦なのか夫なのか。

・また一方で碧川という絵を描いていて絶望した男が、自分は交差点で確かに死んだはずなのに死んでないと精神科にやってくる。

・また一方で自分の妻由紀子が由紀子ではないのではないか、という疑念に囚われた男高橋がいる。

更にその精神科でも波島という医者が元妻の在家弘子(看護師)と一緒に患者を診ている。
そこに森河という男が波島の下で働き始める・・・

収束の部分で現実に戻っていくのだが、この現実すら揺らいでいるという面白い小説だ。
ラスト、ある人間が一つの推理を展開する。
そのあとに別の人間が真犯人を指摘するのだが・・・
ここが些か物足りない、なぜなら、最初の人間の推理と次の人間の推理が犯人が違っているだけでそれほどの差異がないから。