心臓に毛が生えている理由 (角川文庫)心臓に毛が生えている理由 (角川文庫)
(2011/04/23)
米原 万里

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評価 5

久々に米原万理を読んでみたが、相変わらずとても良い。
読んでいて、くすっと笑いつつも、新しい知識とか新しい見方を教えてもらえる、そういう本だった。

プラハ・ソビエト学校で少女時代を過ごしたと言う特異な環境下にあった作者の洒脱な語り口が何よりの魅力だ。
それは文学作品に言及され、そこから思いもかけない発見をさせてくれる。
ノヴァーリスの青い花の話から通訳の能力の話になり、そして最後、青い花に戻るだけではなくそこに新たな意味を見出させる「花も実も」などまさに絶品ではないか。
コーヒーブレークの話から、ゴンチャロフの「平凡物語」に至り、コーヒー豆の禁輸の経緯を想像する話「非物的娘」とかも短いがはっとさせられる。
またロシアの人が寒い中水泳をする、寒い国では泳げると言うのがステイタスなのだという一文は、はっとさせられたのだった。
またプラハ・ソビエト小学校の図書室の先生ドラゴン・アレクサンドラ(あだ名)の話も忘れられない。
本を借りた少女の作者に、借りた本の要約を語らせる。
つっかえつっかえ話していた少女はいつしか教室でも語れるようになっている・・・

表題作は、通訳の微妙な感じをとてもよく表現している一文だと思った。
最初に結論ありきの言語と、最後に曖昧が許される日本語と。
通訳の人は本当に大変だろう。

ロシアの歴史や東欧の状況を織り交ぜながら語ってくれるその語り口にひたすら魅了されたのだった。