2011.05.30 きことわ
きことわきことわ
(2011/01/26)
朝吹 真理子

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評価 5

前作「流跡」が一つの才能のきらめくような断片とすれば、これはそのまとまりのあるストーリー性のあるもの、だろう。
読んでいると、言葉の使い方も相変わらず冴えまくっているし、話そのものも非常に惹きつけられたのだった。

きことわ、とは、貴子と永遠子という二人の女性の名前だ。
この二人は姉妹でもなんでもなくあるひとときを
別荘の管理する娘永遠子、とそこに泊まりに来る別荘主の娘貴子という年齢も7つも違う女性たちなのだ。
しかもこの二人、ぶつっとある時点で会わなくなって(親の都合とかもあり)そのまま放置しているのだが、何十年もたって再会する。
会っているかつての子供時代の思い出が、こちらの心になだれ込んでくるように描かれている。
そこが何ともいとおしい。
いとおしいと同時に、なぜか懐かしい感情が私の中をよぎるのだ。
二人の女の子の共有した時間枠に私がいるはずもないのに、そこに参加し、確かに車の中で狸寝入りをして、大人の話を遠くで聞いたり、隣の女の子の体温を感じ、匂いまでかいでいるという気持ちになったのだ。

かつていた人もいなくなっていたりする。
かつて子供だった自分たちもいい年の大人になっている。

夢の部分が冒頭にあるけれど、この話、夢と現実が実にたくみに絡み合っていると思う。
二人の出会いの場の別荘が解体される、という実に象徴的な出来事で、二人が再会し、かつての時間がゆるゆると流れ始める、二人の周りで、という描き方も優れている。
たまに、誰が語っているのかわからないというゆらぎのようなものが全篇に満ちていて、何かの気配、というのを強烈に感じる小説でもあった。