天頂より少し下って天頂より少し下って
(2011/05/23)
川上 弘美

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評価 5

なんてことのない話、なのかもしれない。
すうっと通り過ぎていってしまう話、なのかもしれない。
それで?と言われればそれで終わってしまう話、なのかもしれない。
でも私にはとても心に突き刺さる短篇集なのだった。
全体には恋愛小説、の話が多いけれど、紛れもなく川上弘美ワールドが広がっている。
一口に話を要約してみるとこういう話だったのか・・・・とちょっと戸惑う。
でも要約できないところ、物語からはみ出たところ、が大変魅力的だった。
読んでいて幸せな気持ちに包まれたのだ。
一つ一つの話を心行くまで楽しんだのであった。

最初の一実ちゃんのことは、突拍子もないことを言う女の子、の話だ。
自分がクローンだと言うのだ。
この突拍子もない話の女の子との予備校の女同士の友情物語(要約するとこういうことになる)だが、この両方の女のこの佇まいが実に好ましく、そしてほのぼのとしてくる。
特に、語り手の女の子のぼやんとした鈍い反応が好ましい。
最初のふくろうのホウという鳴き声から、最後のところまで、一気にのめりこんだ。

同じ類がエイコちゃんのしっぽだ。
これもしっぽがある、というエイコちゃんの発言から話は始まる。
じゃあしっぽが全体に関係があるのか、というとそうでもなく、でも私は読みながらそこここに「しっぽ」を感じながら読む、という不思議な感じで読み進めていた。
職場でちょっといいなと思っていた人がいきなりせまってきて、そして逃げた先がエイコちゃんの勤めるガソリンスタンドでそこで、エイコちゃんが思い切った行動をする(要約するとこうだが・・・)
その時も、しっぽ、と思う。
思わず自分のお尻を撫でてしまいたくなる。

夜のドライブと表題作の天頂より少し下っては家族物だ、形は違っても。
夜のドライブの方は母と旅行して旅先でいきなり夜のドライブに誘われると言う話だが(要約するとこう)、ここまでに母が歩いてきた人生、来し方、そしてこの先を考えさせられる名品だった。最後のお母さんの何度もの呼びかけに心打たれた。
天頂より少し下って、はちょっと違って歪んだ家族物。
離婚して一人息子を育ててている女性がある男の人と付き合う。
そして息子もまた知らない女性と付き合っている。
この二組がばったりある場所で出会うと言う物語だが(要約するとこう)、これも折々に挟まれるちょっとした会話、母と息子の二人の家、恋人同士の思い、それらが判然としない中、渾然としてミックスされている。

・・・・

一実ちゃんのこと/ユモレスク/金と銀/エイコちゃんのしっぽ/壁を登る/夜のドライブ/天頂より少し下って