2011.07.31 ぬるい毒
ぬるい毒ぬるい毒
(2011/06)
本谷 有希子

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評価 4.7

ぬるい毒、のタイトルそのままに、体の中にぬるい毒がじわじわと入り込んでくるような小説だった。

容姿が美しい(らしい)女子短大生がいて、家庭の事情が何かあるらしい。
いきなり同級生だと電話して呼び出しをかける向伊、という男。
彼との日々が始まる・・・・


全篇に多大なる「私」熊田の自意識が溢れかえっていて、閉口しながらも読み進めてしまうのは、やはり作者が読ませるだけの技を持っているからだろう。
1年おきに電話するくらいの男、向伊。
嘘つきで誠意もないとわかっている男向伊。
彼の意図というのもよく見えてこない。
そして熊田の考えている全てが妄想なのか現実なのか、そのあたりもよくわからない。
(最後、向伊が金目当てと熊田がしているがそれも彼女の想像の域を超えないので)

また、熊田の家も何かあったらしいのだが、それも語られない最後まで。
最初、お婆ちゃんと母と三人暮らしと思えば、後半では両親と向伊の対決の様子もあるので、(あ、父はいるんだ)とそこで気づいたくらいだ。
わかりやすい小説、わかりにくい小説と分けるとすれば、間違いなくわかりにくい小説だろう、なんせ全てが見えないのだから。
そして就職し、トラック運転手たちと接するようになる熊田。
私のすべては、なぜか23歳で決まると確信している熊田。
向伊の友達とモデル仲間達との飲み会で決壊する熊田。

熊田が一人称で語っているので、全てが真実かどうかも混沌としているのだが、彼女が高校時代全く冴えない少女で認められていなかったのに、今こうしてきれいになっている、という事実が、向伊出現によって次々に暴かれていくのだ。
そのあたりが非常に読ませる。
自分、自分、自分。
熊田の考えはいつも自分で始まり自分で完結するようになって来る、他者の目を限りなく意識しながら。