2011.09.25 ソーラー
ソーラー (新潮クレスト・ブックス)ソーラー (新潮クレスト・ブックス)
(2011/08)
イアン マキューアン

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評価 4.9

涙が出るほど笑った、特にフィヨルドのジッパー場面に。
全篇、どうしようもない人間的には屑に近い、でもノーベル賞受賞者という肩書きを持っている一人の男の笑いに満ちた人生と(苦い笑いもある)、それと並行して地球のエネルギーシステムについて考える、という実に深遠なある意味今の日本に実にタイムリーな話題、が合わさって出来ている小説だ。

全体に非常にアイロニーに満ち満ちていて、地球温暖化の問題というのをあわせて読んで行くと、彼の問題先送り能力が、この人類全体が地球温暖化に取り組む姿勢ともやや重なってくる。
何しろいい方向に行くのではないか、なんとかそちらに行くのではないか、という楽観的見方がマイケルにしてもエネルギー問題にしても全体を覆っているわけだから。

何しろこのノーベル賞受賞者のマイケル・ビアードは異常なまでに好色なのだ。
別れようとしている妻が、彼女の浮気相手(しかもこれはマイケルが先にべつの浮気をしたので意趣返し)と彼女のことを考えて、妻に対して改めてむらむらする、といった具合だ。
5度の結婚、関係を持っている最中に結婚しようという癖、更に、マイケルは野心家でもある。
全てに恬淡としているわけではなく、隙あらば何か儲けようと強く思っている。
功績を挙げようとしている。
そしてチビデブハゲらしいのに、やたらこれがもてるのだ。
どこで声をかけても女性が付いてくるのは、彼のやはり見えざる魅力なのか。
最初の妻と知り合ういきさつも書いてあるが、これもまたミルトン専攻の妻のためにミルトンを研究してそれを出して、彼女の心を引き付ける、という考え抜かれた方法で心を射止めている。

稚気溢れるマイケルの行動はあることを偽装するまでにいたる。
これは既に犯罪なのだが、これすら裁かれることはなく、マイケルはただただ何事にも懲りることなく、わが道を邁進していく。

ラストであることが起こる。
ここもやや、笑いは出来るのだが、彼のおかれている立場、というのを考えると、実にほろ苦いものが舌先に残るのだった。

以下ネタバレ
・ラストで、気をつけていたはずの子供が出来て、子供の母親と結婚する羽目になりそうなのと同時に
子供に初めて愛情を感じる。
だが、もう一人の女性(子供なしの体だけの女)にも結婚を申し込んでいて彼女も突進してくる。
三人が彼に向かってくる様子、笑いは出来るのだが、
一方でマイケルは癌の告知も受けている。

・あることの偽装とは
途中で
マイケルは部下が自分の妻と不倫していたのを知る。
部下をなじった後に、部下が偶然絨毯で足を滑らせて死んでしまう。
これを妻の最初の不倫相手のせいに偽装工作して
最初の不倫相手を殺人犯として牢屋に入れる、という狡猾さがある。
そして最後の方で殺人犯として不倫相手が牢屋から出てきて(実は殺人をしていない)
マイケルに再会する(ここでマイケルは殺されるのではないかと怯えるが全くそのようなことはなかった)
更に

・嘘としては
自分がさもさも考えたように太陽光発電やその他のことで特許などをとるが
これは、死んだ部下のメモに残っていたものだった。
これがラストの方でばれそうになっている。

・フィヨルド場面は
北極にいったときにトイレに行きたくなり
手袋を脱いだりはめたりしていて
そしてようやく用を済ますと
イチモツがジッパーに引っ掛かって取れた、と錯覚するが
機転を利かせて酒をかけてなんとかしまった、という箇所。