メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)
(2011/10)
アンソニー ドーア

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評価 4.9

記憶にまつわる短篇集は声高ではないけれど静かに人生を語ってくれていて、どの話もしみじみと良かった。
特に最初の話と最後の話が私にはヒットしたのだった。

最初のメモリーウォールは、一瞬SFだ。
一瞬ではなくSFそのものなのかもしれないが、記憶装置ということを除けば、間違いなくいわゆる普通すぎるくらいの記憶の物語である。
・ある老女がいて彼女は認知症にかかっている。
・この世界では記憶のカートリッジというのがあってそれを見ることが出来る。
・記憶を自由に保管閲覧できるのだ。
・これを見ることが出来る頭を改造された人間というのもまたいて、彼が彼女の記憶からある大儲けの片棒を担がれそうになる・・・・
認知症の老女の記憶の断片が美しく、そして彼女がどういう場面を覚えているかというのがまた心そそられる。
それはある幸せの一場面でもあるし、小さな小さな場面でもある。
そして彼女を見守るお手伝いのフェコがいる。
記憶の一場面も胸を打つし、フェコの現実問題として職場を失い子供が死にそうだということから、あることに巻き込まれるという展開もまた舌を巻く。

最後の来世は、ユダヤ人であったけれど難を逃れたユダヤ人のお婆さんで、これまた認知症を患っている。
記憶の混乱の中、かつての施設の子供達との交流が鮮やかに甦ってくるのだ。
読んでいるうちにナチス政権下でのユダヤ人の子供達の行く末を思って暗澹とした気持ちになってくる。
同時に、なぜこの癲癇もちの少女が難を逃れることが出来たのかという偶然にも想いを馳せた。
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メモリー・ウォール/生殖せよ、発生せよ/非武装地帯/一一三号村/ネムナス川/来世