2012.01.22 幻影の書
幻影の書 (新潮文庫)幻影の書 (新潮文庫)
(2011/09/28)
ポール オースター

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評価 4.8

大きく言えば、二つの話が交錯している小説、のように思えた。
一つは、自分の妻子を飛行機事故で失い、自暴自棄になっていた一人の男「私」の物語だ。
そしてもう一つはその「私」が、ただ一つの生きるよすがとして偶然見つけたのが、映画界から忽然として姿を消した喜劇俳優のヘクター・マンの自伝執筆で、ヘクターそのものの物語だ。
そして大きく分ければ二つ、なのだが、他にも重なり合っていっている物語だ、映画の中の物語とヘクター自身の物語、映画を撮るということと映画を撮られるという相反する物語、

ヘクターは本当に死んだのか。
もし死んでないとすればなぜ姿を消したのか、そして一体どこにいるのか。

この謎をモチーフとしながら話は進んでいく。
サイレント映画のヘクターの一場面で、死に非常に近くなっている絶望の主人公が息を文字通り吹き返す場面もまた印象深い。
初めて笑えた作品があったというのが死を見つめていた主人公にどんなに救いになったことか。

ヘクターが死の床にあり撮り溜めた作品があるという伝言を持って一人の女性が来てから、話は別の方向に進んでいく。
色々あっての末のヘクターに会いにいく道中、彼女が語るヘクターの数奇な人生、というのがまた読ませるのだ。
主人公の妻子が亡くなる劇的な人生というのも

主人公の「私」しか見ていない映画、というのがあり、そして彼の死後一切の彼にまつわるものは焼却しようというヘクターの妻の意志もあった。

以下ネタバレ
・ヘクターは恋人を二人持ち、トラブルを抱える。
片方の恋人がもう一人の恋人を射殺してしまう事態が起こった。
その遺体を処分した上で逃亡を図る犯罪者になったのだった。

・ヘクターは、殺害された恋人の故郷を訪ねた、贖罪のため。
・ところが彼女の父親のもとで働くことになる。
・そして元恋人の妹から好意を寄せられる。

・しかし、素性がばれそうになると、今度は出会った女とペアになって性行為を見せ物にすることで生計を立て始める。
・更にその後、行き着いた街で銀行強盗に偶然出会ってしまう。
・その時にヘクターが体を張って守った女性が後に妻となるフリーダだった。

これだけあって、ラストが余りに悲劇的で茫然とした。