奇想、天を動かす (光文社文庫)奇想、天を動かす (光文社文庫)
(1993/03)
島田 荘司

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評価 5

なんて面白いんだろう!
最初は、北海道の列車の中で、奇妙な踊りをしたピエロが車両内を歩き回り、挙句の果てに死んでしまっていてそれがトイレ内で消失すると言う手記のようなもので始まる。
江戸川乱歩の世界のような不気味さがここにある。
ピエロを見ている人間、見ていない人間、そしてトイレでのゆらめく蝋燭に照らされている死体、一旦扉を閉めた後の死体の消失、と奇妙にひらがな交じりの(あとでそれがなぜだかわかる)文章を読んでいくと、昔の探偵小説の世界に入っていくようだった。
この他にもいくつか小説が入っている(のちに小説とわかる)
小説の中にある入れ子のような小説が、大きな解決の糸口になるのだと思った。

そのあと、一旦別の話になり、浅草で消費税を払わない浮浪者に女性が刺されるという事件が起こる。
浮浪者の老人はハーモニカは抜群に巧いものの、頭がおかしいのかにやにやしているだけだ。
しかし、捜査一課の吉藪竹史が執拗に追いかけていくうちに、過去のある列車事故に繋がっていく・・・

過去の事件が現在に、というパターンであるのだが、その絶妙な繋がり具合に陶然としたのだった。
吉藪の考え方がとても心に染み入るものであって、過去を探っていくうちにハーモニカの老人のある過去がわかっていく。
と同時にこの小説、社会派小説の側面も持っている。
このあたりのバランスがとてもよかったのだった。
一人の人間の生き方を丹念に追っていくうちに見えてくる、戦時下の日本の暗部がある。

札沼線の怪事件(轢死体が動いた、白い巨人が見えた、右手に火が見えた、大きな音がした、なぜか突然列車内で爆発が起こった等)として処理されていることの解決もまた鮮やかで、冒頭のピエロ部分も非常に納得できる開き方をして終わっている。

以下ネタバレ
・ハーモニカの老人は、名前を変えた在日の人間であった。
日本という国家からいわれなき迫害を受けていた。
冤罪で服役した後、自分達兄弟を裏切った女を殺したのだった。