2012.02.20 美しい書物
美しい書物 (大人の本棚 )美しい書物 (大人の本棚 )
(2011/12/09)
栃折 久美子

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評価 5

上品でそれでいて読ませる文章、というのはこういうのを言うのだろう、と思った。
装丁家としての栃折久美子は知っていても、エッセイとして纏めて読むのは初めてだったけれど、こんなに上手なのか、と感心したのだった。

何度か出てくる室生犀星との交流の様子がとても印象深い。
「金魚の魚拓を一枚作ってくれませんか」
犀星からのこの依頼に始まる顛末が実に好ましく描かれている。
魚拓が苦労して出来上がり、それが自分の手元から離れていく瑞々しい日々が如実に活写されている。
静かに流れるように文章が綴られていって、いつしか私も犀星と対峙して話をしているような気持ちになった。
その他にも森有正、まだ日本にいた頃の姿がちらっと見える石岡瑛子、森茉莉のことなど話は尽きない。

文章はかなり前のものも含まれているし、またまだルリユールという言葉自体が知られていない時代であっただろうけれど、それでも古びていない味わいのある文章を読める幸せが確かにあった。