シンデレラの罠【新訳版】 (創元推理文庫)シンデレラの罠【新訳版】 (創元推理文庫)
(2012/02/28)
セバスチャン・ジャプリゾ

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「わたしはこの事件の探偵であり、証人であり、被害者であり、犯人なのです」

評価 5

大好きな本が新訳になったと言うので旧訳とともに読んでみた。
思ったのは、新訳になってわかりやすくなったということ。
太字の文字があり、そしてラストの部分が太字になったと言うことでまた新たな感じがした。
愛情問題の部分で、なぜジャンヌがこれだけ関わっているかという部分が新訳で明確になったと思う。
ここが前に読んだ時に、(同性愛の感情があるのか何なのか)というのが今ひとつわからなかったのだ。
ミにキスを拒絶されたというジャンヌの屈折した思いというのが新訳でわかったのだ。

冒頭のお伽話のような、ミドラの少女達の物語。
そして裕福なミドラ叔母さんがいて、ミには愛情を傾けてくれるけれど、ドには冷たい。
そしてラは途中で死んでしまう。
途中まで従姉妹とあるので、読者もそう思って読んでいるのだが、この冒頭のラストで、
ミは本当の孫、
ド・ラは単なる幼馴染で使用人の娘、というのがさらっと出てくる。
(これを考えながら最初を読むと実にミドラ叔母さんの行為が普通なのだ、だって自分の孫を可愛がるのは当然だから。)

この話の面白さは、「全く記憶を失った焼け出された少女(つまり顔も整形になる)」が
ミなのかドなのか、ということだ。
これが語り手が混沌としている上、周り(最初はジャンヌというミの後見人)も見定めようとしている。

後半でドがどういう計画をしたかというのが描かれている。
そしてミにこの計画がどうばれていたかも。

更にこの話、ここからは深読みかもしれないが
「全く記憶を失った少女」なのかどうか、というのも謎だ。
もしかしてミあるいはドが全てを知った上で、片方の演技をしているのかもしれない。
つまりは語り手が信用できない語り手となって、幻想小説のような面もあるように思ったのだ。
もし記憶を失っていなければ全て一人称語りが、文字通りの騙りにもなっている。

最後の一言で、この少女がどちらかだなというのが読者は想像できる(匂いの話から)
しかし、これすらも解説にあるように非常に曖昧模糊とした推理でしかないのだ。
だからこのミステリ、一筋縄ではいかないミステリなのだ。
そこが大変に面白い。

また同性愛と言う一面もある話だと思った、それは旧訳でも感じられるのだがややわかりにくい。
特にジャンヌの思いというのがとてもわかりにくかった。
ここが新訳では目の前が開けたようにわかるのだ。
魅力的なミに対するドの思い(お金のひきつける力もあるものの)、うざったく思いながら真似までしてしまう後見人ジャンヌへのミからの思い、また逆にミに対するじんわりとしたジャンヌの思い、これらが錯綜しているのだ。ミからドに対する思いは淡そうだけれど、途中で同居というところから様相がやや変化しているのが見られる気がする。

この話、語り手の人称が変化していく。
一人称であるところとか客観的三人称であるところとかが入り乱れている。
その虚構部分がどこかというのを考えるのもまた悩みどころであると思った。

以下ネタバレ
・順当に考えれば
最後の、アルジェリアから帰った男の匂いがシンデレラの罠とわかるところで
この名前を知っているのはミなので(郵便局の男が同じ匂いで聞いたと書いてある←ここを信用するとすれば)
この記憶喪失女性はミで、郵便局の男から自分の殺害の真相を知って火事から生還した。
殺されたのがド。(だから判決は正しい)
しかし皮肉なことにミドラ叔母さんの遺産は、ドに残されていた。

・しかし一方で
解説にもあるように、最初の部分でシンデレラと自らを思っているのはド。
これはミは思いようもない。
ここと結びつけると、シンデレラの罠という話も虚構で(ここが虚構とするならば)、記憶喪失女性はド。
ドなのにミと思われ、遺産をもらえないと言う皮肉がある。
しかもド殺し(実際にはミを殺しているのだから同じと言えば同じだけど、自分がドなので、自分を殺したと世間的には思われる)の罪で懲役がつく。

・ジャンヌ→ミ
ミ→ジャンヌ
このほのかな同性愛の図式がある上
ド→ミ
これもやや感じられる。