居心地の悪い部屋居心地の悪い部屋
(2012/03/27)
岸本 佐知子

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評価 5(飛びぬけ)

大変面白いし、ぞっとしたし、異形の世界を堪能できた一冊だった。
どの短篇も面白いけれど、きっとこれって、好みが厳然としてあるだろう。
どれが面白かった?一番?と人と語りたくなるようなそんな一冊だった。
グロっぽい場面がある作品もある。
それでもそのグロを受け入れてしまう度量を読み手に与えてしまうほどの作品の完成度の高さがあるのだ。
夕闇の広場にぽつんと残されたような心細さ、じわじわと下から這い上がってくるような怖さ、この世界が別の世界にくるっと反転するような奇妙な感覚、そういうものに満ち満ちている作品集だった。

まず最初の作品ヘベはジャリを殺すで度肝を抜かれる。
ここにはなぜ、という言葉はない。
なぜ、がなく、まぶたを縫い付けられてしまうのだ。
拷問でもなく遊びでもなく虐待でもなく。
そして更に奇妙なことに、これを片方がいない間に・・・・というラストの方のシーンがある。
まぶたをさすりながら読んだものだった。

チャメトラは、梅図漫画のようでおぞましいながら、実に読ませる。
しかもファンタジーのようにも感じてしまうところが不思議だ。
一種の暗い美しさがあるからだ。
死に行く人の頭から、列車が流れ、思い出の人が流れ出すと言う情景が目に浮かぶ。

あざ、はこのアンソロジーの中での白眉の作品だった。
最初の寄宿舎生活でのある少女の出会いと(そしてその一瞬の会話)唐突な別れ、から、後半の恐ろしい展開が息をもつかせず読ませる。
何が?どこで?なぜ?という問いを一切拒絶しているような筆致が心を打ちのめす。
そして奇妙にこの世界は心に焼きつくのだ、一枚の絵として。

来訪者は、いかにもバドニッツらしい作品だ。
ほぼ、母と娘の会話で成り立っている。
しかしその不穏なことと言ったらどうだろう。
母は父とドライブしていて娘の家に来ようとしている(らしい)
しかし話をしていて、なかなか来ないばかりか、待っている娘もそこでドライブしているのが自分の両親か銅貨と言うのが揺らいでくる。
しかも、途中で闖入者が車に現れたと言う話になっていく。

どう眠った?は、建築で眠りをあらわしていてそれはそれは楽しい。
次はどういう建築物が現れるかというのが楽しみになるほどに。

分身は、グロテスクなのにユーモアに溢れた作品だ。
足からもう一人の人間が出来上がる・・・・
それがかつての自分だったら、と思うとなんだかいとおしかった。

やあ!やってるかい!は、ジョギング中に元気よく語りかけるマッチョな男の末路が印象深い。

ささやき、は、大好きな作品だ。
自分がいびきをかいているかどうかを確かめるために、録音テープを仕掛けたら、別のものが入っていたという作品だ。
ラストの驚きが忘れられない。

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ヘベはジャリを殺す(ブライアン・エヴンソン)/チャメトラ(ルイス・アルベルト・ウレア)/あざ(アンナ・カヴァン)/来訪者(ジュディ・バドニッツ)/どう眠った?(ポール・グレノン)/父、まばたきもせず(ブライアン・エヴンソン)/分身(リッキー・デュコーネイ)/潜水夫(ルイス・ロビンソン)/やあ!やってるかい!(ジョイス・キャロル・オーツ)/ささやき(レイ・ヴクサヴィッチ)/ケーキ(ステイシー・レヴィーン)/喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ(ケン・カルファス)