エムブリヲ奇譚 (幽ブックス)エムブリヲ奇譚 (幽ブックス)
(2012/03/02)
山白 朝子

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評価 5

とても面白かった。
ホラーとしても面白いし、奇妙な話系列としても読みどころが沢山あった。
旅をする、それは異界を旅をするということにも連なっていく物語だった。

まず本の全体を通して、「迷い癖」のある和泉蝋庵という男が各地を旅指南の本を書くために回るのだが、必ず不思議な場所に迷って行ってしまう、と言う設定がねじくれていて面白い。
そして彼の旅の助手に耳彦という博打好きの男がついていく。
和泉蝋庵と一緒に怪異にあうが、耳彦の方がもっとその怪異にどっぷりと浸ってしまうという部分がある。
一人は助かっている状況、というのがよくあったので、読んでいると(いつかは蝋庵が耳彦を助けてくれるのではないか)とそこは明るく考えることができた。

最初の二編(エムブリヲ奇譚・ラピスラズリ幻想)が特に私の好みだった。
特にラピスラズリ幻想は、青い玉を握って何度も何度も生まれ変わる女性の話だが、円環の話でもあり、微妙に最初の胎児を見世物にするエムブリヲ奇譚とも繋がっている。
いわば前世の記憶を持ちながら同じ人に出会う、という繰り返しだが、状況によって微妙に人々の運命が変化しているのが何ともいえない気持ちにさせてくれる。
エムブリヲ奇譚は、拾った胎児が生きていると言う不気味さがあるのだが、読んでいる内に拾った当人と同じように私もこのエムブリヲに愛着を持つような気持ちになってきたのが不思議だ。

〆は、冒頭から気配はあった、なんせタイトルが〆であり、そこに鳥が出てくるのだから。
けれど、こういう形の終わり方をする、というのが意外でもあったし、どういう経緯でこうなったかというのが実に判るように描かれていたと思う。
村で出される食べ物の不気味さ、というのが心をえぐった。

地獄、は、穴に落とされ鬼畜になった人達の様子がおぞましいし、ラストの方での真の地獄(と思われる)、と言うのがまた怖い。

最後の「さあ行こう」と少年が言った、は、嫁ぎ先で絶句するような苦労をしている嫁が、ただ一つの救いとして、どこから来たかわからない少年に文字を教わり、そして結果的には少年に救ってもらう話だが、ラストのところで、少年の正体がわかっていても実に微笑ましい。