ポケットにライ麦を (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)ポケットにライ麦を (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
(2003/11/11)
アガサ・クリスティー

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評価 5

これは、トリック云々よりも、そしてライ麦の使われ方よりも、最後の最後で切なさが光るミステリだと思う。
ミスマープルの気持ち、というのがじわっとこちら側に伝わってくるのだ。
最初に読んだ時には、犯人像とかトリックとかそちらの方に目が行っていたので、それほどでもないなあ・・・と思っていた。
でもテレビドラマを見て、再読すると、
「犯人に操られていた一人の人間の悲しさ」
というのが浮き彫りになってきた。

投資信託会社の社長がライ麦を詰めたポケットで殺される。
それは第二第三の連続殺人の幕開けであった・・・
マザーグースの歌が鳴り響く・・・・


背景がマザーグースなので、日本人にはここがちょっとなじみがない。
でもここにこうして出ているとおりに事件が起こっているというぞくぞく感は伝わってくる。
誰が嘘をついているのか。
誰がどういう行動を当日とっていたのか。
これらがかちっとうまく噛み合っていたと思う。
またちょっとした記事とかがあとになっての大きな伏線となっていくと言う面白さも健在だ。
つぐみ、というマザーグースの言葉から、つぐみのいたずら、つぐみ鉱山という場所が導き出されるのが巧妙だ。

話に関係ないけれど、テレビドラマも比較的忠実によく出来ていたと思った。
ミスマープルは好みがあるだろうとは思ったものの。

以下ネタバレ
・マープルのところで働いていた、グラディスという、ちょっと頭の足りない、でも恋愛にあこがれている普通の美人でもなんでもない少女が、ある男と恋愛沙汰になる。
そしてその男に簡単にだまされて、屋敷のメイドになって、それとは知らずに毒を入れる(これが、ロシアの自白剤と信じさせられるところが、新聞記事と符合する)

・グラディスの恋愛相手こそ、東アフリカに出奔していて結婚したてで次男のランスロットだった。
別名バートで戻ってきていて、グラディスをそそのかしたのだ。
最後にマープルが届くのが遅れたグラディスからの手紙を開くとそこに、バート=ランスロットの写真が同封されているところが涙を誘う。


・つぐみ鉱山という場所が出てきて殺された社長が独り占めして一人の人間を破滅させるに至ったという過去まで引きずり出されていく。
だから当然つぐみ鉱山で破滅した人間がこの一連の事件と関係あると思わせている巧妙さがある。
しかもそのつぐみ鉱山で破滅させられた人間の娘が確かにこの屋敷にはいたのだった(しかし犯罪にはかかわっていないで、つぐみのいたずらで終わっている)