どこまでも殺されて (新潮文庫)

評価 5


大変驚愕しつつ、舌を巻いた、このうまさに。

最初の方で、「僕」という一人称の少年が出てくる。
この少年は何度も何度も「殺されている」
小学校の登校場面の叔母に殺されるに始まり、学生生活においての殺され方、一人前になってからの殺され方、誰かが自分に憎しみを持って誰かが必ず手を出して自分が殺される。
自分は何度も殺されていますよ、そういう手記だ。
バス爆破事件で巻き込まれていさえする。
まずここで(ありえない・・・)と思う。
だって、どの時点でも死んでいたら、次の殺しはないわけだから。
これは全て妄想なんだろうか。
頭のおかしい人の手記なんだろうか。
被害妄想系の人のただの妄想なんだろうか。
そういう迷宮に読者は入っていく。
またこの殺されるまでの詳細が、あまりにリアルで原因もそして殺される結果も(そうだろうなあ・・・こうなってしまうのだろうなあ・・・)と短いエピソードながら奇妙に納得させられるのも事実だ。

そしてある学校で先生宛に、自分が殺されるという緊急の手紙で助けを求められる。
当然先生は極秘に調査を行い、生徒の数人も加わって、誰がその手紙を書いたのか、と焙り出そうとする。
読者はここで、この自分が殺される、という少年が(少年らしい)最初の7度殺されたと主張している少年なのだろうなあ・・・と刷り込みさせられる。

一体誰が殺されようとしているのか。
最初の手記というのは一体何だったのか。
語り手の視点が変わることが最大限の効果を挙げていて、しかも叙述が大変周到に用意されているミステリだ。
最後はあっと驚く。
全くこの最後は予想していなかった。
と、同時に、あるミステリ作品もほのかに思ったのだった。

以下ネタバレ
・教師にSOSを発したのは級長の橋本君という少年だった。
この最初の手記は、やったものとやられたものを逆転して書いてある。
つまり「七回殺された」ではなく「七回殺した」という手記なのだ。
・更に橋本という名前で、この手記は
橋本君そのものではなく、橋本君のお父さん、ということがわかる。
・橋本君は犯人が父親(特にバス爆発)戸いうことに衝撃を受け
薬物による自殺を考えた。
練習に犬を殺すが、父親は見ていた。息子は父親から逃げ出し、父親を捕まえてもらいたかった・・・・・。
・橋本君の家を家庭訪問する間に
隠沿うとしている母、やる気の感じられない科学教師の父、そこから逃げ出そうとしている橋本、の図が浮かび上がってくる。
・新聞を探して事件を追う場面で、近頃の新聞を捜していて
そのうちに30年前の新聞を思いつくあたりが、大変面白い。
橋本君(子供)そのものだったら、30年前はありえないわけだから。