2012.11.11 64
64(ロクヨン)64(ロクヨン)
(2012/10/26)
横山 秀夫

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評価 5(飛びぬけ)

なんて重厚な物語なのだろう。
なんて魅力的な警察小説なのだろう。
いわば、漢(おとこ)の物語だ。
働いている男の歯軋り、やるせなさ、怒号飛び交う中の忍耐、地道に捜査を続ける汗、家族愛、そういうものが一つにまとまった作品だと思う。
またミステリとしても伏線があり、驚きがあり、ともかくもラスト60ページ位に息を呑むような展開が待っていた。
7年ぶりということだが、それに見合う作品になっていた。

話は大きく3つの軸があって
・三上という刑事畑だったが、今は広報官に甘んじていて、その周囲、特にマスコミとの対立構造がある警察内部の話。
・64と呼ばれていて、昭和の最後の年に管内で起きた未解決少女誘拐事件の話。
・三上自身の家庭で、娘のあゆみが家出してしまった話。
となっている。

まず、娘が家出している、しかもそれは三上という醜い顔の警察官に似ている顔と言うのを悩んだ末に心の病になり家出してしまった、と言う状況が全ての三上の足枷になっている。
警察内部で捜査してくれようとしているので、三上はここで頭が上がらない。
特に上司にはその尻尾を握られているので、それもまた弱味になっている。
ある時までは、なんとか広報と、マスコミとの関係を新しいものにしよう!と思っているのに、いまや娘の足枷があるので、どうしても保身に走ってしまう。
そのあたりの三上の心の葛藤が痛いほどこちらに伝わってきて読んでいて地団太踏みたい気持ちになってきた。

また、高校の時の剣道部後輩二渡が同じ警察官になるのだが、彼は巧く警察で立ち回っている。その姿を見ている三上の気持ちもまた忸怩たる思いがあるだろう。
更に、美人妻として知られた元警察官の三上の妻が、必死に無言電話にすがるという図も目の前に浮かんでくるようだった。無言電話が自分の娘からだと思う親心が痛々しい。
三上が(なぜ美人の妻が自分のようなものと結婚してくれたのだろうか)と思う場面もまた三上の思いがけないかわいらしい場面であると思った。ここもまたかつての女性警察官が鮮やかに解き明かしてくれる場面も忘れがたい。

かつての64と言われた2000万円強奪少女誘拐殺人事件が未解決のまま、その父親雨宮のところに三上が行く場面も目に焼きついている。警視庁長官が訪問すると言うのでその画策で三上が行かされるのだが、そこで雨宮が警察に反感を持っていたということがわかる。しかもそれはつかまらなかった反感ではなく何か別の反感がある・・・
おまけに二渡が暗躍しているらしい、かつての64事件にかかわっている人達に・・・・
そこで飛び出してくる「幸田メモ」と言う言葉・・・・
何かがある、というのを調べていく三上の前に次々に驚くべき事実が出てくるのだ。

マスコミと警察広報とのやり取り。
実名報道の是か非か。
それをマスコミに流す流さないを警察広報が決めるか決めないか。
このあたりで、マスコミが激昂し、本部長のところに直訴に行く場面なども圧巻だ。

しかし、何よりも、後半60ページで新たな事件が起こる。
この残り少ないページでなぜ事件が?と思っていると、実に驚愕の真相が浮かび上がってきて、あれが伏線だったのか!と目の前が開けたようになるのだった。

以下ネタバレ
・64の時にNTT出身の人間が犯人からの電話を録音しようとするが失敗する。
それを警察はひた隠しにする。
それが申し送り事項になっていた。

・後半60ページは別の高校生誘拐事件が起こっているのだが。
その父親が脅迫電話に振り回されている。
そして2000万円を身代金として要求されている。
奔走して、その挙句に、これが娘の高校生は無事だと言うことがわかった。
そして2000万円は燃やされる、ドラム缶で。

この誘拐された女子高生の父親目崎が、64の犯人なのだ(いまだ状況証拠しかないものの)。
それを突き止めたのが、無言電話を市内中にかけていった、雨宮の執念だった。
あいうえお順にかけていく・・・前半からずうっと無言電話のことが書かれているのは、この伏線だったのだ。
それを後押ししたのが、このことで警察を辞めた幸田でもあった。

目崎を追い詰めないで寸止めにしたのは、幸田が全面協力してくれてそれでも警察を裏切れない矜持があり苦しんでいたので、雨宮がそうしたのだった。