2012.12.28 強欲な羊
強欲な羊 (ミステリ・フロンティア)強欲な羊 (ミステリ・フロンティア)
(2012/11/21)
美輪 和音

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評価 4.9

新人さんの作品ってある意味読むのが賭けだ。
知らない人なので、文章が合うかその前に話が面白いかなど実際に読んでみないとわからないものだ。
この人も新人さんらしいのでどきどきしながら読んだけれど、結果、大変面白かった。
次作品が出たら是非読みたい。

イヤミスとうたっているようだけれど、私の思うイヤミスとはちょっと違っていた。
どちらかと言うとホラー寄りのミステリと言う作品だろう。
短編集だけれど、どの作品も読ませるし人の厭なところも書いているし(そこがイヤミスとくくられるところなのだろう)、だが、何よりも、人の思い込み、というのを逆手にとっているミスリーディングを仕掛けているところが良かった。
それも、一つのトラップは多分わかる、誰にでも。
でもそれがわかる、と思っていると、別のトラップがあって、(ああ・・・こういうことだったのか・・・)というミニどんでん返しが仕掛けられているのだ。
この中で、表題作の強欲な羊は、ある姉妹の殺し合いを語る一人の女性の話しっぷりに混沌としながら、(そうか姉妹でこれだけ性質が違っているように見えて・・・)と姉妹の部分はわかる、多分真相が。
が、それで終わらないところが非常に面白い。

私が気に入ったのは、背徳の羊だ。
幸せそうな4人家族に起こった、あまりに似すぎている友人の子供をめぐる騒動・・・
これも、ある部分はわかる、が。
ラストの反転の仕方が非常に面白いし、最初の部分とあわせて読み返すと巧みだなあと思うのだ。

ラストの話はホラーそのもの、だけれど、これまた全ての話の集大成なので、ここまで読み進めると面白いと言う構造になっている。

以下ネタバレ
・強欲な羊
これは語り手が話している姉妹のありようが、あまりに対照的であり、しかし対照的であるがゆえに、(もしかしてこれは逆じゃないか、羊の皮をかぶった狼はそう見えないほうじゃないか)というところまでは読者は考えられる。
また語り手が一種独特の位置にいる人間で、(もしかしたらこの女性は隠し子じゃないか、女中と旦那様の)と言うところまでも考えられる。

が、このあと、この語り手が一体どこで(土蔵で!!)語っているのか。
誰に対して語っているのか(好きになった男だが、姉妹で奪い合いした男でもある)
・その前に土蔵でしたこと
・なぜこの語り手が足が悪かったかということ
・土蔵でこの母子が過ごした日々など
ここは想像がつかない。

・背徳の羊
これは、この幸せそうな羊子という奥さんが、ワルだというのは割合すんなりわかる。
しかもタイトルが背徳の羊なわけだから。
夫婦ぐるみの友人の子供があまりにこの奥さんとだんなの間に出来た子供と似ていた、つまりは羊子と似ていたという事実。
そうすると、
友人の子供は、羊子が生んだものなのか、と言う疑惑が出てくる。
または、自分とだんなの子供と言っていた羊子の子供が実は友人の夫との間に出来た子供なのか(しかしこの場合、双子で一人は旦那似なので物理的に不可能っぽいけれど)と言う疑惑も持ち上がる。

探っていくうちに、以前ホテル勤務をしていた羊子が結構ワルだったことがわかる。
人の恋人をさくっと取る所業があるし、人からどう見られるかを非常に気にする人間でもあるし、上昇志向の強い人間でもあると。

羊子のおなかの子供は友人夫婦の夫のものか、と思っていたら、最後、公園部分で(これが冒頭と結びつく)全く別の人間が登場してきたので驚いた。そしてこの人間は、弁護士であり、文中にきちんと出てきていたのだ。
このあたりが巧いなあと思う。

・眠れる夜の羊
この中で、自分の彼を取って結婚した女性を殺した、というのは妄想だと言うのがわかる→実はそのかつての彼が結婚後殺したのだと言うのが真相。
そして自分の口喧しい母親が多分死んでいる、殺したのだろうというのも文中でわかる。

が。
なぜ両親が、「10歳違いの」この彼との結婚を強烈に反対したのか、というのは、この文章から、前の奥さんと出来ちゃった婚であり、いわば不倫の関係であったから、だけだと思っていた。
しかし、この10歳違いが、逆に男が下と言う構図が最後に見えてきたので、そこで驚いた、思い込みって怖いなあと。
29歳の女性が19歳の出来ちゃった婚の男を選ぶ・・・・両親反対するのも当然だろうなあと。
これが29歳が39歳の男性と同じ条件で結婚するというのとは全く違うだろうから(経済的にも精神的にも)

・ストックホルムの羊
ストックホルム症候群をすぐに思ったので、この人たちがもしかして王子に同調してしまっているのか、ぐらいまでは想像がつく。


が、
・一体王子とは誰なのか
・この王国からなぜ全員が出られないのか
・異国語の少女は一体何なのか
というのは全く見えてこない。

ある団地で、5歳の時にかばんに詰められて誘拐されてきた子供達こそが、元々いる女性達だった。
だからそのかばんを見ると、皆それをぼんやり思い出す。
異国の言葉を話す少女は、いわゆる今の女子高生の言葉を操る娘だった。
日本の話だったのだ、というところが大変面白い(途中からやや想像はつくものの)

・生贄の羊
これが一番ホラー色が強いものだ。
今までの話の総括と言っていいだろう。

公園のトイレに足の錠をつけられた三人。
ところがそのうち二人は死んだ人だった。
しかも残りの一人は、ストックホルムの羊のマリアなので、あわせて読むとこのあと、幽閉されるのだなあというのが想像できてそこもまた怖い。