2013.01.26 終わりの感覚
終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)
(2012/12/21)
ジュリアン バーンズ

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評価 5(飛びぬけ)

大変面白く読んだ。
ページをめくるたびに喜びがあり、そして謎があり、含蓄のある言葉があり、更に優美な文章が連なっていく。
記憶、というものの不確かさ、揺れて改竄されていく記憶の怖さ、のようなものも感じた。
シンプルな物語ながら、非常に奥深い物語でもある。

冒頭の方は青春物語だ。
ある転校生がいて、その転校生と今まで3人グループだったグループが合わさって4人になる。
男子高校生の歴史の授業の一こま、そこにいる年老いた歴史の先生とのやり取り、先鋭的な意見を言う頭の良いエイドリアン、目立たない生徒の自殺へのみんなの反応、そして卒業してそれぞれの道へ・・・
ここでまずひきつけられる。
この青春時代を過ぎ、次のステージで忘れがたい女性ベロニカに大学時代に会って交際をして、彼女の家にまで行くトニー(アントニー)がいる。
ベロニカはなかなか体を許してくれず、家に行っても、家族にもなんとなく馬鹿にされていて居心地が悪いというのをトニーはわかってきた。
そしてベロニカが体を許した直後別れてしまうのだ。
ところが仲間に紹介したベロニカが、今度はエイドリアンと付き合い始める・・・
そしてエイドリアンの衝撃がある・・・


後半、60代半ばになったトニーの元にベロニカの母が死んで遺書と少しばかりの遺産が贈られるという知らせが来る
なぜ自分に?
何があって?
ベロニカはその後どうしたのか?
エイドリアンの日記というのが存在しているらしいが、なぜそれをベロニカの母が持っていたのか


こうして、謎に満ち満ちた話は展開していく。
必死に探したベロニカの兄からベロニカの連絡先を聞いてメールを送りベロニカに会うのだ。
そして年はとっているが以前どおりのベロニカに再会するのだ。
謎の福祉施設の集団、謎のエイドリアンの数式と日記、かつて吐き捨てるように自分がベロニカとエイドリアンに送った手紙のコピー、このあたりの描き方が圧巻だ。
記憶の不確かさが浮き彫りになり、自分が思っていた手紙とは違った手紙が存在し(ここも記憶が改変されている)、自分がそうだったのか!とわかったことがまた目の前で覆されていく。
普通の人生を送った、と思っていたが、実はある一点で別の人間達の人生に刻印を押していたとは・・・

それを人生のラスト近くになって知る皮肉もたっぷりとまたある。
妻マーガレットとのやり取りも出てくるのだが、これも本当にあったことなのだろうか。
何かを思い出す。
そしてその思い出しの間から、別の何かがひょっこり顔を出す。
そんな揺らぎをみているような小説でもあった。