2013.02.09 厭な物語
厭な物語 (文春文庫)厭な物語 (文春文庫)
(2013/02/08)
アガサ クリスティー、モーリス ルヴェル 他

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評価 5

これだけ厭な話を集結させてくれてありがとうと言う気持ちでいっぱいだ。
ただ、厭な話、って私にとってはこういう話ではなく、読後感最悪に陥るわけでもなく、どん底に気持ちが落ちるわけでもなく、どの話も救いのない話の語りっぷりを面白いなあ・・・と楽しめたのだった。
もっともっと私にとっての読後感最悪の話ってあるだろうから。

既読のものも未読のものも同等に面白さが伝わってくる。
この面白さは、結末がどん底或いは意味不明或いはどうなっちゃってるの?疑問系で終わるという面白さだ。
理不尽さといえば
圧倒的にこの中で有名な、シャーリイ・ジャクソンのくじだろう。
最初の方で、ある村で子供たちが嬉々として小石を集めている。
ある広場に人が集まってくる。
なんだか集会があるらしい。
それはどこの村だかわからないし、田舎の村ということしかわからない。
でもとても重要な会議のようなものが始まるらしい。
村人全員が参加らしい。
という冒頭から素晴らしく、以前読んだ時に見落としていた初夏で気持ちのいい日だったんだなあ(解説にもある)というのがまたラストの悲惨さを際立たせている。
絶対に近代国家でありえなそうなのに、もしかしたらあるような儀式。
そして別の場所ではもうなくなっていて、昔は違ったと言う記述などからも本当にこういうことがあったような気持ちになる。
そこが猛烈に怖いのだと思う。
また、最後の結末が、読者にある種のカタルシスをもたらすというところもまた怖いのではないか、自分の本章を突きつけられたようで。

クリスティの崖っぷちは、『善意の人』の物語だ。
この、主人公になる人は自分のライバルの弱点を偶然知ってしまうという立場になるのだが、自分を律して、卑怯な振る舞いはするまいと思っている。
ところが・・・・
この壊れっぷりが実に怖い。

フェリシテは見事な雅文調の翻訳が光る。
そして孤独な娼婦フェリシテがある一点で光明を見出し、それを失う残酷さというのが薄暗い光の中で見えてくるようだ。
これって、かなり前の話だが、今でも十分通じる話(スリッパとかを見て絶望すると言うところが秀逸)だと思う。

ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウは、最初に犬の残虐死体がある。
犬か・・・と思っていると次は黒人の同級生がいじめにあっているのを救う。
ここで終わりか、と思うとまだその先があるところが心憎い。
そして犬に最後繋がっていくのだ。
絶望の連鎖があり、巻き込まれ型なにがなんだかわからないうちにこんなことになってしまったよ的怖さがある作品で忘れがたい。
全てが夢だと思いたい主人公の気持ちが痛いほどわかった。

ソローキンシーズンの始まり、は、二度目に読み直して面白かった。
解説で会話だけ見ると普通の狩りの会話と見えるとあったのでそこのみ読み直してみたのだ。
そうすると、確かに、鹿でも狩ってる二人の人と言う面持ちだ。
それなのに、実は・・・という鬼畜っぷりがおぞましい。

カフカ判決は大変面白く読んだ。
最初の方で、自分が富裕な女性と結婚すること、自分が満足した生活を送っていること、を友に手紙を出そうとしている男が描かれている。
この男の悩みは、友が自分より下の生活をしているので出していいのかとということだ、ここで悩んでいて、読んでいてわかるわかる・・・とこちらも思っていた。
ところがここには病床の父がいる。
その父から意外な事実が・・・・・・
ラストが忘れがたい一作だ。

ハイスミスすっぽんは、すっぽんというものを食事にしようとしている母、それをペット化しようとしている内気な息子との対比が面白い。
途中で母のあまりのうるささに読者もおのずと閉口している、息子とともに。
だからこそラストの鮮やかなすっぽんとの共存(共存の対極だけど)も納得できるのだ。納得するのも怖いのだけれど。

マシスンのは、たった4ページなのにとても優れている作品だと思った。
最初のところでカンバスの袋をひきずっている男がいる。
嫌でもこれは何か?と思わせる。
そして徐々にそれがどういう状況か見えて来る。
この段階でも何が起こったかは全くわからない。
ラストの部分でこれはこうだったのか!と身の毛がよだつ一品だ。


ブロックの言えないわけは、ミステリそのものだろう。
死刑囚と彼に妹を殺された男との書簡のやり取りが続く。
結末は予想がつくのだが、そのあと、が読ませる。

フラナーの善人はそうはいない、も大変気に入った作品だった。
いらいらっとさせるお婆さんがいる。
しゃべり続けで、家族も微笑ましく見てるというより生ぬるく見ている。
この家族がとりあえず子供も含めてドライブに行く、と言うところから始まるのだが・・・
後半の畳み掛けが素晴らしい。

名作ブラウンのうしろを見るな、を最後の最後に持ってきたこの本の技が心憎い。