2013.03.15 火葬人
火葬人 (東欧の想像力)火葬人 (東欧の想像力)
(2013/01/23)
ラジスラフ・フクス

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評価 5

最初読んでいる時に、(これは火葬と言う仕事を持った人のジレンマ)のような話なのかなと思った。
なぜなら、自分の仕事に誇りは持っているのだが(熱心すぎて焼く順番表まで自宅にあるし、常に仕事を思っている)些か常軌を逸するほど、家族を愛し仕事を愛しそしてまた余暇を楽しみ(動物園がそもそも夫婦の出会いだし、蝋人形館に行ったり(しかもペストの状況を模した蝋人形館)、果ては息子のためとはいえプロレスにまで行くのだ。
そしてそれを饒舌にひたすら語る男が主人公のコップフルキングルだ。
あまりに自分の家族が素晴らしいことを語り、妻が美しいことを誇りにし、娘のボーイフレンドにまで過剰な期待をかけ、息子がふらふら出て行ってしまう落ち着きのなさぐらいが悩みの種の男だ(と見える)
だから、これは裏返しで、火葬という暗い仕事についているこの人間のジレンマなのかと思っていた。

が、全く違った。
この話、途中で思わぬ方向に転がり始めるのだ。
なぜなら、これはチェコであり、時代はといえばナチがぐいぐいと攻め込んでくる時代なのだ。
ヒトラーの名前が漂い始める時に既に火葬という言葉自体別の意味が忍び込んでくる。

更にコップフルキングルが、友人のナチ信仰者に段々引きずられ、物乞いの姿でユダヤ人の集まりの情報を得ようとする場面が印象深い。
彼がそこまで語ってきた、非常によくしてくれている医者がユダヤ人、妻にもユダヤの血が、と続々と近所の人の素性というのが、ここで生死にかかわってくるようになる。
この部分が崩れる描き方が実に巧いと思った。
そしてここでコップフルキングルは決して懊悩はしないのだ。
鼻歌交じりにある境目をひょいと越してしまうのだ。
この怖さを残酷なユーモアとともに語ってくれている。
蝿の標本も飾られているのだが、これもまた劣性遺伝子の話を思ったりもする(きっとこのメタファーだろう)

最後の方で、妻、そして息子、とグロテスクな部分が続く。
普通の人間が普通でいなくなっていき、そしてまた本人は全くそこに無自覚というのが空恐ろしく思えた。
全体に大きな真っ黒な寓話のような感じを受けた。

途中で出てくるシーラッハは、罪悪のシーラッハの祖父のことだろうか。

以下ネタバレ
・途中でユダヤの血が入っている妻をあっさり首吊り自殺に見せかけて殺してしまう。
・息子もSS将校の柩にいれて一緒に焼き殺してしまう。

・火葬ということでガス室の言及があるが、火葬ととヒトラーが出てきた時点で、読者はここを思うはずだと思った。