色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
(2013/04/12)
村上 春樹

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ある時期まで全面伏字にします。
読み終わった方のみどうぞ。
内容に触れています。

評価 4.7

読み終わって楽しかったのだ。
独特の春樹節とも言える文章と比喩、そしてミステリ的な話の流れ(一体多崎つくるは、何をしてはじかれたのか)、多崎つくるの再生を求めての巡礼(かつての友を一人一人訪ねていく)、更に多崎つくるを励ましてくれた女性の存在、とかつての親友達の現在の姿も相まって、一種青春物という読み方も出来よう。
人によってどこの部分を読み取るかというのが違ってくる作品だと思う。
彼の再生を読むのか
彼の友情の破滅の顛末を読むのか
彼の周囲の人々の流れを読むのか
ただただ村上春樹の提示する物語を読み解こうとするのか。

・・・・・
楽しくて面白かったのだが、納得できないもやもや感もところどころにまた残るし、そして何よりも既視感が強烈にあった。
分析とかしないで、小説をぼんやり読んでぼんやり楽しむほうが好きなのだが、ちょっと気になったところを書き出してみた。

まずこの話、『色彩を持たない』とあるのは、最初非常に単純な形で出てくる。
名古屋の高校時代、仲の良いそれこそぴったりとした5人組の一人だった多崎つくる。
彼は自分自身でこの個性集団の中で一番目立たない人間だと思っている。
が、ぱっと見て違うことは、あとの4人は色がついた名前を持っているということだった。


・赤松慶・・・アカ。男
・青海悦夫・・・アオ。男
・白根柚木・・・シロ。女
・黒埜恵里・・・クロ。女。
ここにプラス
・多崎つくる・・・男
がいる。

この5人は完璧なワールドを持っていて、均衡を保っているという。
ところが、多崎つくるが大学を名古屋以外に出る(駅に魅せられているのでその系統の大学に行く)ということで調和が取れなくなるのだ。
全員が地元に残ると言ういわば均衡を保とうとする4人と言うのがなんだか信じられない。
永遠にこのようなことが続くはずもないのに、と思う。

このあと、指の話が出てくる(これが既視感があるのは、デビュー作で指の(多指症)話が出てくるから)ので、この『5人組』というのは私は指なんだと思った。
5本の指は完璧で、6でもなければ4でもない。
でも、高校時代の5本指の友人達は、つくるが抜けることで4本指になってしまって完璧ではなくなってしまうのだ。

・・・
更に、理由がわからないまま多崎つくるは、この5人組から絶交を告げられる。
わからないだけにもがき苦しみ、そして、自殺まで考え、そこから這い上がってくるのだ。
外見も変わったが、内面的にも変わったつくる。
ここに現れるのが、灰田という下級生だ。
この灰田は途中でまたよくわからないままフェイドアウトするので、私はもしかして灰田は多崎つくるの見た幻影かとも思ったのだった、学籍簿を調べに行くまで。
学籍簿にいたので、彼は実在していたのだとようやくそこで納得したのだった。
なぜ幻影かと思ったかと言うと、あまりに彼がつくるのあちこちにそぐう形でい続けて、つくるの理想の友人のような姿をしていて考え方も理想の考え方で、ぴったり過ぎるからだ。
灰田との交情の一場面は印象的でもあるけれど、これがきっかけになって二人の間に亀裂が生まれてくる。
この時点でもまだ幻影だと思っていたので、つくるが心を再生するのに必要な幻影であり、いらなくなったらフェイドアウトしていったのだなあと思ったりもしていた。

絶交の原因。
それは、シロが多崎つくるに乱暴され妊娠したという嘘だった。
それを残りの4人が全て信じたわけではないが、そこでつくるはやってもいなかったことではじかれたのだった。
つくるがはじかれた原因は、全員が納得するようなものでなければならないので、これで納得は出来るのだが、一方でここでも既視感があった。
これは『濡れ衣で誰かを陵辱したという疑いを掛けられ精神を病んだ』というシチュエーションで、『ノルウェイの森』のレイコが教えていた少女に(同性愛だがこの場合)乱暴されたと嘘の供述をするというところに重なってくる。

また緑川という大変印象的な人物が灰田の父親との絡みで出てくる。
旅行先でであった緑川の話、そしてピアノの上の何かの袋(のちに多崎つくるはこれが指だったのではないかと推測する)が思わせぶりに置かれている。
自分が死んでいく時の死の「トークン」を受け取った話をしたりする。
彼も唐突に登場し唐突に消えていく。

現実的な話として考え、現実的な謎としては
・灰田が現存していたとすれば、彼の行ったことはつくるの夢だったのか、現実だったのか
・灰田はなぜ突然いなくなったのか
・緑川もなぜ突然いなくなったのか
・シロは一体誰に殺されたのか
・あれだけ多崎つくるのことを考えてくれたように見えている女性沙羅は年上の誰と付き合っていたのか(一番良いパターンでお父さんとも思ったが、親密度が違うだろう、明らかに肉親とは)

ラスト、どうなるかまだわからない。
この余韻の残り方はとても気に入ったのだった。