もっと厭な物語 (文春文庫)もっと厭な物語 (文春文庫)
(2014/02/07)
不明

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評価 4.9

厭な物語の第二弾だ。
バッドエンドが約束されていて読むと言うのも不思議な気もするけれど、バッドエンドを読みたい気分の時も間違いなくあるので、チョイスを見てみたいと刊行される前に興味深く思っていた。

この本を読んでみて、自分の好きなタイプの厭な物語というのがあるのだなあと改めて感じた。
裏返せば、厭な物語でも自分が嫌いないタイプの厭な物語もあるのだなあと再認識したのだ。
あと、それが既読である場合(アンソロジーなどで)と、未読である場合とはまた感じ方も違うのだろう。
既読で知っている状態で読むというのは、前には目が行かなかったところに目が行くものだ。

『夢十夜』より・第三夜(夏目漱石)
私も夢十夜だったらこれを取ると思う。
なんともいえない不気味さがある上に、夢と言う設定が実に巧く使われている。
なんだかわからないけどあった気がする(夢でよくある)、子供を負ぶっていると言う唐突な設定(夢でよくある)、更にその子供が盲目である不思議さ(これも夢でよくある)、過去の記憶が甦りそうで甦らない(夢でよくある)・・・
人の夢の話というのは聞いていても面白くないのが相場だ。
それなのにこれだけ読ませる、そしてラストのどーんとした終わり方は読む価値のある一品だと思う、夢文学の中でも短いのに読ませる一作だ。


私の仕事の邪魔をする隣人たちに関する報告書(エドワード・ケアリー)
初めて読んだけれど、面白い。
自分の住んでいる場所の上下の人たちの人間観察をしているイラストレーターが、なぜ自分が仕事に集中できないかというのを綿々と綴っている。
これ、読んでいると、イラストレーターがおかしい、と見える、この人の異常性ではないかと。
そう見えているのに、それでも尚他の人たちも怪しい、かなり奇妙な人間たちだ、とイラストレーターの肩をも持ちたくなる奇天烈な人達が鮮やかに描かれている、この揺らぎがたまらなく怖い。
自分の周りをそうっともう一度見てみたくなるような気持ちに駆られる一作。

乳母車(氷川瓏)
短いけれど、怖い、ひたすら怖い。
この怖さは、電灯も少ない当時の日本のお屋敷町の夜の描写が活写されているからだろう。
そんな時間に過ぎていく乳母車・・・・
ぼわっとした白い顔が闇の中で浮かんでくる怖さがある。
加えて、ぎいぎいと何度も鳴る乳母車の「音」の怖さもまたあるのだ。

黄色い壁紙(シャーロット・パーキンズ・ギルマン)
改めて読んでみて、「這う」というのが一つのキーワードになっているのだと思った。
這う怖さがあるし、この部屋が嫌だというのを信じてくれない夫というのがいて、そして神経症であるらしい奥さんの言動も胡散臭く(だからちょっと旦那の言うことにも頷いたりしている)、それでいて奥さんの視点の壁紙探求がものすごい。
改めて読んで、この話の壁紙が子供部屋であり、子供がずいぶんかきむしったとか、子供がずいぶん乱暴に扱ってめくれているとか、そういう描写が多いのに気がついた、かなり傷んでいた壁紙だったのだと。
(壁紙などをじいっと見ていると何かに見えてくるのはよく体験することだ→シミュラクラ現象(類像現象)


深夜急行(アルフレッド・ノイズ)
これはループの物語ともいえよう。
夢の話っぽいけれど、夢ではなく、そして現実でもないような不思議な味わいの掌編だ。

ロバート(スタンリイ・エリン)
ロバートは最後の1ページが強烈なダメージを残す。
お母さんを亡くして精神のバランスが危うい先生、がいて、彼女は年金生活を二年後に控えていてそれだけを夢見ている。
それなのに、ロバートと言う生徒が思いもかけないひどい言葉を彼女に無意味に(この無意味にというところが怖いしなぜかと思う)投げつける。

ロバートの様子がクラスの皆と合わせて見てみると実に怖い。
(が、私はエリンだったら、倅の質問の方がずうっと怖い、とは思った)

皮を剥ぐ(草野唯雄)
後味の悪さではこれが一番だった、そしてこの厭さは、私の好みではないとも思った。
最初からなんとなく予測は出来る、これとこれが結びつくのだろうなあと。
読んでいて、グロというのも種類で好きなグロとそうではないグロがあるのだなあとつくづく思ったのだった。

恐怖の探究(クライヴ・バーカー
これも・・・あまり好みではない・・・・
監禁ということを軸にした恐怖物だけれど、ホラー映画を見ているようにこの「絵」が浮かんでくる。
恐怖はないという女性に対してのある暴行。
小さい頃の恐怖を思わず語ってしまった男性に対してのある暴行。
そしてそれへの全ての報いが。

赤い蝋燭と人魚(小川未明)
改めて読んでみると確かに怖い。
人魚と絵付け蝋燭の絡まりあいが日本的怖さを増幅させている。

(が、私は未明の厭な物語だったら、「金の輪」の方に軍配を上げたいと思った)

著者謹呈
一見ファンタジーだ、猫がしゃべり、自分の窮地を救ってくれる魔法の本がある。
とても面白かった、ラストの一ページがまた素晴らしい。
魔法の本に出てくる数字のページを見れば、そこにどうすれば助かるかというのが書かれている。
ご主人様を殺された話す猫がどこまでも追ってくるという怖い話のはずなのに、どこかユーモラスでいつしか賭けに向かう主人公に感情移入した利する。
そして、ラストの一ページが、驚きとともに、ちょっと笑えたのだった。