亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)
(1994/08)
泡坂 妻夫

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評価 4.9

雲とか虫とかの写真をぼけっと(と見える)撮っている亜愛一郎。
好青年で見た感じも悪くないのに、なぜかぼんやり見える。
ところが一旦何かの謎が出てきて彼の手にかかると、その謎が快刀乱麻のごとくたちどころに解けていく・・・・

最初、亜愛一郎のキャラクターがよくつかめなかった。
が、最初の方で見事な推理をしてくれたあたりからぐいっと引き込まれる。
奇抜な出来事とその見事な謎解きが光る短編集だ。
細かい描写が続き、ここに解決の伏線が潜んでいて、更に亜愛一郎がふと漏らした言葉の数々にも伏線がしのびこんでいる。
じわっとボディブローのように効いてくる謎解きがそれはそれは読ませるのだった。

私が好きなのは右腕山上空だ。
どう見たって、空の上でこれ以上の密室はない、という空の部分で殺人事件が起こる怪奇さが目を引く。
亜愛一郎の推理が光る一品だ。

曲がった部屋、は、元沼地に建った団地の中で起こった殺人事件が主題だ。
この話、団地という特殊な内部構造がわかるかわからないかで読み方が違ってくると思う。
→(部屋入れ替えがこの話のメイントリックになるが、その前にこの時代の団地の部屋が、偶数と奇数で鏡のように同じような部屋になっているというのが珍しくなかった)またこれまた奇怪な暗号が潜んでいるのが
掘り出された童話だ。
普通の可愛らしい物語、と見えて、実はその中に暗号が隠されている。
しかも、その暗号の前にあることで別の女性が重大な秘密が別のルートからわかってしまうのだ。
(この話、しかし一つだけ、奥さんと偶然そのあとに出会った女と、女性同士が偶然同じ名前、というのが引っかかった。)

戦争中の話だがホロボの神も忘れがたい一品だった。
かつての戦地に遺骨収集団として行こうとしている一人の男性が、そこで起こった現地の人の奇妙な死について語る。
そしてその真相を亜愛一郎が暴くのだ。
現地の人とそれを操る軍の人間とのやり取りが、まるで絵巻物を見ているように目の前の浮かび上がる。