イニシエーション・ラブ (文春文庫)イニシエーション・ラブ (文春文庫)
(2007/04/10)
乾 くるみ

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評価 4.4

単行本から10年ぶりの再読。
読んだ直後も再読したので、再々読ともいえるのだが・・・

ネタが全てわかっていて読む二度目は、さほど・・・というのが感想だ。
わかっているので、(これも・・か)(これも・・か)の厳しい目で見ていく。
どちらかと言うと、どこに伏線というか引っ掛けがあるかというのを見る目が先行する。
破調はどこにあるのか。
小さな何かはどこにあるのか。
そういう目で読む。
最初この話を読んだ時に、最後の二行でぶっ飛びまくったのを思い出した。
今回は、(そうだったね・・・)とわかっているので静かに対応できた。
それより、AとBのある人物の描きわけがあることによって読者を納得させると言う仕掛けの方に私は注目した。

この話、たっくん、もさることながら、繭子という名前にも注目したい。
ひらがなで「まゆこ」。
なんとも可愛らしい名前ではないか。
これが、留子(実際にいたら失礼)とか、政子(実際にいるだろうなあ・・失礼、悪いと言っているのではないので)とか、の名前だったら印象がだいぶ違う。
まゆこ。
これだからこそ、の話の側面もあると思う。


以下ネタバレ
・最初の話A面と次の話B面の主人公「たっくん」が別人であったこと。
これが最大の肝だ。
つまり可愛らしい「まゆちゃん」は、二股を同時期にかけていたのだ。
これが、最後の二行で、たっくん(本当のたっくん)の本名が辰也であったことが、新しいたっくんの恋人から告げられることによってわかる。ここで驚愕する仕掛け。
更には、読者側から見ると、Aのたっくんがそのまま会社に入ってBのたっくんの話になっているんだ、だってまゆこはいるし、静岡と東京に会社があるとAの富士通に入社したたっくんは言っていたわけだから、と思わせている(ここも細かくて、Bたっくんは、「大会社をやめて静岡の会社にしたが、やむなく東京の方に転勤になった」状況になっている)

この目で読んでいくと
・まゆこのルビーの指輪が、Bのたっくんにもらったものであったこと(これが送り返されてくる、Bたっくんの元に。別れてから)
・まゆこがAのたっくんと便秘だと言って会えなかった時期は、子供を堕胎していた時期だということ(多分Aたっくんの子供)
・まゆこの部屋にあった物理学の本はBたっくんのもの。
・まゆこと海水浴に行くと言っていたBたっくんが行けない間に、Aたっくんとまゆこは海水浴に行っていた(水着の跡でわかるのだが)
・別れたあとまゆこに電話すると「たっくん?」とまゆこが言う、何もBたっくんがいわないうちに。
自分がいわれていると思っているが、実はAたっくんを呼んでいた。
・まゆことAたっくんの恋愛の進み具合の方が、逡巡していたBたっくんと美弥子との進み具合よりも早い。

・AとBのある人物の描きわけがあることによって読者を納得させる→たっくんの描きわけが、「会社に入ったこと」によって、そして「時間が経過したこと」によって、たっくんが大人になったんだ、と読者に納得させる所。
普通に見たら、どう見たってAとBのたっくんは別人だ。
Bのたっくんはお酒を飲んで暴力的になり興奮するタイプで、しかも怒りっぽい、普段から。
更に東京から静岡まで車を毎週走らせるという、アクティブな行動力を持っている。
一途な男ではなく、別の女性にふらっとなり、最終的にはそちらに傾いて肉体関係を持っている。
これらがAのたっくんから考えられただろうか、控え目で女性を知らず一途でどちらかと言うとおとなしめのAたっくんが変わったのは、「年月がたち社会人になったからだ」と読者は少しずつ納得させられていいる。
・Bたっくんは勿論辰也だからたっくん。
Aたっくんは、本来何も関係のない名前夕樹をまゆこが考え、たっくんにした(用意周到な女だ)
これは、Bたっくんが、思わず自分の新しい恋人の名前みやこを、まゆこの前で言ってしまう失策とは大違い。

・男女七人恋物語の放送が時系が同時期だと言うことをわからせてくれて、折々に妙だなと言う気持ちにさせてくれる。