2014.06.09 満願
満願満願
(2014/03/20)
米澤 穂信

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評価 5

それはそれは面白く読んだ。
これがあの、米澤穂信なのかと何度も表紙を見返した。
これでステップアップを確実にしたと思う。

全く無関係な短編集だ。
しかしその切れ味は鋭くどれも非常に読みごたえがある。
短いながらもロジックがきちんとしていて推理小説にもなっているし、更には文章も読みやすい。

夜警
警官に向いている者、向いていない者。
冒頭である部下の殉職を報じる一方で、警官向き警官向きではないという自問自答が繰り返される。
折々に向いていないだろうと思わせる新人が、ある事件で発砲してしまう、さてその真相とは・・・
途中の一見何も関係のないような道路現場の人の話が重要なファクターになり、最後のほうで出てくる意外な人物、殉職した警官の兄、の一言が状況をくるっと変えさせるところが面白い。
ハードボイルドの作品だ。
以下ネタバレ
・前からこの弟の警官は困った時に兄にメールをしてきた。「とんでもないことになった」と。
そして事件現場で発砲したのは、その前に暴発した(これが工事現場の人のヘルメットにあたるという幸運が。が、弾は一つ減ったのでそれを咎められたら最後なので隠そうとした)弾を隠ぺいするための手段であったということがわかる。




死人宿
以前付き合っていた女性の職場でのトラブルを真摯に受け止められなかった男性。
その男性が、彼女が新たに職を得た宿に泊まり、彼女の訴えを聞く。
それは、この宿の近くで死人が多く出るのだが、今日もそれで死ぬ人が宿泊客の中の三人のうち一人いるのだと。
それを突き止めてほしいと。
遺書を偶然脱衣室で見つけてしまったところから推理するのだが・・・
この話も途中の三人の様子、のある一点を見逃すかどうかでわかる話なので、そこを見落とした私は驚いた、ラストに。
以下ネタバレ
・宿の浴衣の柄が最初のほうに描かれている、克明に。
なのに、一人の人の浴衣の地が白い、ということに気付かなかった男。
それは死に装束の浴衣だった。
遺書の人間とはまた別の人間が死のうとしていたのだった。
つまり、二人いたのか、ここに死にに来ていたのは。
またラストの助ける人々の一人が放った言葉
「死人宿、これでまたさぞ繁盛するだろうよ」という言葉が宿の宿命を物語っているし、これで成り立っている商売だということもわかる。


柘榴
これは禁断の話。
美しい母がいて、二人の娘がいた。
母はわけあって父と離婚、たまにいらっとするものの、娘二人と暮らしていた。
娘が長じるにしたがって種類は違うものの美しい娘たちに育っていった・・
この話は、途中の母がたまに折檻をする場面があとになってきいてきている。
また娘それぞれの思惑がそれぞれの立場で描かれているところがなんともぞくっとする。
(特に姉の思惑がこうあったのか、というのが驚きだった)
加えて禁断の話なので、そこも心をざわつかせてなんとも落ち着かない気持ちにさせてくれる。

以下ネタバレ
美し娘二人とも、実の父と関係を持っている、持たされている。
そして一見二人で共謀したように、母に虐待されているので(ここで最初のほうに母に折檻されているというのがきいてくる。それはたいしたことのない折檻だったらしいが頭の中にはインプットされるので、本当かも・・と思わせる)父に引き取ってほしいと訴えを起こし権利を勝ち取る。
しかし、その過程で、妹は純粋に共謀、なのだが、姉は妹の白い肌に嫉妬し(だから全てをお見通し)残るような傷をわざとつける。


万灯
商社マンとして第一線に働き、バングラディシュの開発を命じられる男。
そこは苦難の連続であった。
今までの経験を生かしなんとかある村を拠点にしたいと思うのだが・・・
この話は、ラストが素晴らしい。
冒頭でどうなるかはわかっているのだが、ラスト「なぜ犯行がばれてしまったのか」というのが実につまらないこと(のように見える)が引き金になっている、予測できないようなことでしかし実は予測できることが。

以下ネタバレ
村の意向を汲むため、そこでの現地の男を轢き逃げすることになる。
そして轢き逃げして殺すのだが、一点、ここには同じ日本人森下で別のフランスの商社から来た男が同乗していた。
森下がこのことに耐え切れず日本に戻ったので、口を割るのを恐れて、日本に来て彼を殺害する。
が、問題は別のところから出てきた、森下はコレラで日本でコレラが広がっていたのだ、接触した人から。
また、この殺害した男もコレラの兆候が出ていた・・・・


関守
ちょっとしたホラーで、最初のほうからタイトルから想像して(もしかして・・・)と思った展開だった。
謎の事故が起こる場所。
そしてそこにふっと佇むドライブインとその中にいるお婆さん。
そこにこの事故の詳細を聞くべく、一人のライターが向かう。
なぜそうしたのか。
その理由は案外単純なものだが、お婆さんの口から語られるともっともだ・・と思ってしまう力がある。

以下ネタバレ
・お婆さんの娘の旦那をまず娘が殺してしまう、峠にある石仏で。
道祖神である石仏なのでそれ以降調べようとする人が現れる。
そのたびに犯行がばれないように殺していく・・・


満願
自分が弁護士になるべく、勉学に励んでいた学生時代にお世話になった下宿の大家さんの女性。
彼女は、なにくれとなく彼の面倒を見てくれた。
そして彼女の夫が人嫌いであり偏屈であり、お金もない職人であったということも見えてきている。
この話は、夫が漏らした一言「酒に強いのも不幸だが、女房が立派なのはなお悪い」という言葉がキーになっている、これは大人になって弁護士になった主人公でしかわからなかったことだと。

以下ネタバレ
貸金業の矢場を殺したのが計画的か突発的かというのが問題になるが、
達磨の位置ということが問題ではなく(最初そう思っていた)掛け軸が問題だったのだ。
(このあと夫が死亡し保険金が下りて借金がなくなったら、「安全に」保護されている「肝心な部分には血がついていない(座布団で守った)」掛け軸を検察から引き取れるので、控訴をやめる)

彼女は一見親切であったが
先祖の誇りを真似、苦しい日々の中で自らの誇りを守るためのもの、であった。
(だから、夫から見ると非常に尊大なものだったと映るだろうし、夫としては扱いにくい妻だっただろう)