2014.07.27 平凡
平凡平凡
(2014/05/30)
角田 光代

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評価 4.9

もしあの時あの道を通らなかったら。
もしあの時あちらの人を選んだら。
誰しも思う人生の分岐点の選択、を考えさせてくれる小説だった、しかもいかにも角田光代の味付けっぽく、それはそれは滋味深く。
上っ面だけの(あの時こうだったらなあ・・・)と言う話だと物足りないのだが、そのあたりは実にうまく描かれている。
過去を段々思い出していく様も心惹かれる。

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もうひとつは、片方が不倫カップル、片方が既婚男女と言う奇妙な組み合わせのギリシア旅行だ。
不倫カップルが時にぶつかり、時に仲良くなるのを既婚男女はおのおのの視点で見ている。
結婚式をどうしても挙げたいという不倫カップル。
それに協力的な妻側、反対する夫側。
このあたりのずれも読ませるのだ。

月が笑う、の、奥さんに理不尽とも思われる離婚を切り出され、怒り戸惑いそしてやけになる男の心の中が、小さい頃の交通事故の許しとともに鮮やかによみがえってくる様子が、こちらに迫ってきた。
この作品、小さな子供の頃の許しをふと今思い出していくその感じが実にわかるのだった。

こともなし、は料理ブログで嘘ではない、でもほのかに嘘のまじっているブログを欠いている主婦の話だ。
この中で、自分は別れた男性に不幸になって欲しいかどうかというのをかつて友人と話し合った話がある。
それが物語り全体をきゅっといい具合に締めていると思った。

いつかの一歩は、昔の彼女のお店に行って(もし彼女と一緒になっていたら・・・)と夢想する男の話だ。
これも状況としてはよくありがちなのだが、そこは筆が冴えているのでありきたりのただの夢想の話にしない。
そこから「出る」ということがこの男のひとつの物語でもあるのだ。

平凡、は、一人の平凡な主婦が、いまや有名人になってしまったかつての同級生と会う話だ。
彼女が有名で自分は平凡。
喜び勇んで会いに行くと、実はその友達のして欲しかったことは、自分のかつての付き合った男性がその町で死んだ男性かというのを知りたいと言うものだった。
ここで主婦は小さなことをする。
平凡であるような主婦の小さな小さな出来事、ここにある非凡な人生を見る。

どこかべつのところで、は、自分の大切な猫がいなくなったのをきっかけに知り合った人から、自分の選ばなかった人生を考えると言う話。
他人の人生もここには混じってくる、かつておにぎりのために息子を引きとめ、事故にあわせて亡くしたという初老の女性の話が。もし、あの時が、切々と胸に響く。
「私、二人になったみたいな気持ちでいるの」と、もう一人の自分がどこかで生きていると考えようとする女性の言葉に胸をつかれる。

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もうひとつ
月が笑う
こともなし
いつかの一歩
平凡
どこかべつのところで