2014.08.06 時は乱れて
時は乱れて (ハヤカワ文庫SF)時は乱れて (ハヤカワ文庫SF)
(2014/01/10)
フィリップ・K. ディック

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評価 5

おおおおおおおお!
怒涛の展開とはこういうことを言うのだろう。
この話、ある映画を思い出す。
また、別の小説などでもこういう話、結構あると思う。
でもたとえ別にこういう話があっても、ここまで面白くは書けないだろう。
やっぱりディック。
さすがディック。
この作品を読めたことを寿ぎたい。

自分が住んでいる世界がぐらっと揺らぐような、そういう感覚をもたらせてくれる作品だ。
新聞の懸賞問題をずうっと解き続けて尚且つ当たり続けている男、その町で知らない人がいないくらいの有名人レイグル・カム。
彼は家にいて懸賞金稼ぎをしていて、スーパーで働く弟一家と一緒に住んでいる。

しかし彼にはたまに自分が別の人間ではないかと思う瞬間があった。
しかもパーティーで、弟もまた暗がりで自分が思ってもみなかった場所に電気のコードを探す、それはないのに。
この記憶はどこから来たのか。
自分の記憶と言うのは正しいのか。
また自分の生きている世界と言うのは、本当の世界なのだろうか。
このあたりが読んでいてスリリングでそれはそれは面白い。
自分が揺らぐという意識をもたらしてくれ、加えて、自分の立っている現実まで揺らがせてくれる。
ぽつぽつっとレイグルだけではなく、別の人達の記憶のふたのようなものが外れる場面が出てきてそこが読ませる。

そして全ての疑いの一番の引き金になったのが、弟夫婦の子供がある古雑誌を近所の廃墟から拾ってきたと言うエピソードだ。一見普通の古雑誌に見えたのだが・・・・
そこにある美人女優マリリン・モンローを美しいと思ったレイグルは誰だか聞いてみるが誰も知らない。なぜ誰もこの世界の人はマリリン・モンローを知らないのか(と読者は思う。)
またその雑誌の電話番号にはどこも通じない。なぜなのか。
レイグルがこの街から出られないのはなぜなのか。
レイグルの目の前で飲料品店が消え、一枚の紙切れになったのは事実なのかどうなのか(この時点ではレイグルの頭がおかしいと言う疑念も払拭できない)。事実だとしたら一体何なのか。
新聞社の人がやってきて、レイグルを勝ち続けさせたいっぽいことを言うのだが、これはなぜなのか。
ここは1950年代のアメリカなのか、本当に。
前半、レイグルがもしかして精神的に破綻しているのか、という気持ちもある、なぜなら彼がしていること、懸賞に対して応募し続けていることが既に普通ではないことだから。
レイグル自身も自分の精神破綻を思っているのだ。
しかし実は彼よりも・・・・

冒頭から中盤まで実に普通の生活がつづられている、ところどころに綻びがあるものの(その綻びがあとで重要なことになってくる)。
このあたりは、時代を感じさせる、キンゼイリポートとか、ジェームズ・ディーンとか、今となると遺物のような言葉も多数見受けられる。

以下ネタバレ

・本当の地球は1990年代になり月からのミサイル攻撃にさらされている。
状況としては、
1990年代、月に移住した人々が地球政府に対して反乱を起こしていて、月の移住者と地球政府が戦闘状態なのだ。

ある種の特殊能力に優れたレイグルが、いまや敵となってしまった月からのミサイルを迎撃する仕事をしていた。
しかし彼はある時、ノイローゼになった。
地球政府はこの緊急事態になんとかレイグルに心穏やかに仕事をしてもらおうと画策する。
その結果、彼の少年時代の思い出がある1950年代の昔のアメリカの街を町ごと作り上げ、ここに住む住民を募る。
住民を丸ごと精神的に洗脳して、小さな虚構の街を作り上げている。
つまりはレイグルのためでもあり、ひいては地球全体のためでもある。
実は地球の運命を握っているのは懸賞をといているレイグルだったのだ。
その懸賞とは
「月から発射されるミサイルの到達地点」を読み解くためのパターン解析だった。

・この小説を読んで、まず映画のトルーマンショーを私は思ったのだが、調べてみたらトルーマンショーは、この話にプロットを借りたらしい。
なるほど。