その女アレックス (文春文庫)その女アレックス (文春文庫)
(2014/09/02)
ピエール ルメートル

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評価 5

一気読みするしかないミステリだ。
表の帯に「あなたの予想はすべて裏切られる!」とか「大逆転サスペンス」とかある。
これから予想されるのは、どんでん返しのようなミステリだろう。
が、どんでん返しとはまた趣が違うのだ。
ネタバレありネタバレなし別にして、全ての情報をシャットダウンして何も知らない状態で読むのが吉だと思う。
大変面白く読んだ。
ラストまで読んで、また最初に戻って読み直してみると、慟哭、と言う言葉が浮かんだ。
監禁事件のところもまったく別の読み方が出来る。
二章のそれぞれの事件も全く違った読み方が出来る。

・・・・・
一章と二章と三章に分かれている。
表紙でもわかるように(ちょっとこの表紙、違うとは思ったものの)、監禁で始まるミステリだ。

非常に凄惨な監禁、それは街を普通に歩いていた非常勤の看護師のアレックスに起こり、いきなり車で連れ去られ監禁される、それも奇妙なやり方で監禁される。
その一方でその監禁事件はすぐに連れ去る人を見た人があり、警察の知るところになる。
そして警察が行方を追っていく章が、監禁場面と交互に出てくる。
そして・・・・


一章の終わりで私は愕然とした。
こういう終わり方なのか。
そして焦って二章にいって、その真相を細かく知ろうとする。
そして二章でだいぶわかったな・・・と思い、この女はこれだな、と思いつつ、二章の終わりに行ってまた衝撃を受ける。
これなのか、ラストは。
でもラストの章がまだある・・・

そして第三章で、ああ・・・これはこういう物語だったのかという図柄が見えてくる、全く予想もしていなかった着地点だった。

・・・・

警察内部の様子も克明に描かれていて
・かつて自分の妻を監禁の末殺されたトラウマを持つ、背の低いパリ警視庁の警部カミーユ
・富裕な道楽者のカミーユの部下ルイ
・極端な倹約家アルマン
・そしてカミーユをさりげなく気遣っている上司ジャン・ル・グエン
この人達が話を大いに盛り上げている。

警察の人達のキャラクターが明解でここもとても引き付けられる。
画家の母の喫煙のために小さい体で動き回るカミーユは、母への思いもありながら複雑な気持ちも持っている。
またかつて監禁の挙句妻を殺された事件を持っているというのが彼の大きなトラウマになっている。
また陽気なルイ(しかし博学)がいつも着ているもののも素敵だし、彼の姿も目に浮かぶ。殺伐とした警察の話の中の緩和剤になってると思われる明るいルイだ。
そして私の大のお気に入りのアルマン(笑っていた、あまりにけちなのだが、人間臭い)は、異常なくらいにけちだ。人に煙草をたかる、物をたかる名人だ。でも彼の真価は途中途中によく表れていて、捜査には欠かせないし(綿密なので)、また彼の本領発揮もあるのだ。
そして忘れてはならないのが、上司ジャン・ル・グエンだ。彼は一種の戦友のような気持ちでカミーユにぶつかっているのだが、カミーユも重々承知しながら、まだまだ自分の過去と向き合うことが出来ない。

このような警察の人に囲まれながら、一つのミステリが完成している。
独創的、とも言っていいだろう。

以下ネタバレ

・一章でアレックスが監禁されて(それも箱に押し込められ、上につるされている。ルイによるとこれは少女というフランスにあるルイ十一世の時代の監禁方法)、彼女は被害者だ。
ネズミが忍び寄る中、知恵の限りを尽くしてネズミを利用してなんとか下に落ちて助かろうとするアレックス。
一方で、この監禁した人、というのは案外簡単にわかって、更には橋の上から飛び込んで死んでしまうので、監禁場所がわからない。
しかしある偶然から監禁場所を特定してそこに警察が飛び込むと、アレックスは(名前はこの時点では警察にはわかっていなかった)、脱出した後だった、警察にも飛び込まないで。
一体なぜだろう。
そして誰なのか。
(一章の途中でなぜ監禁されたか、その監禁した男の息子が「硫酸」を飲まされ殺されていた(だから男は息子の仇をとろうとアレックスを監禁していたらしい)というのを発見したところにある。彼女は殺人鬼であったのか?そして誰なのか?
というのがうっすら見えてくる)

・二章は、監禁から脱出して知恵があり根性あるアレックスが跳梁跋扈してあちこちで闇雲に(と見える)殺人を行っている様子が描かれている。
なぜだろう、と思いつつ読み進めていた。
警察が思うように、「性的快感」を受けているのか。
その殺人方法はすさまじく、一点の曇りもない。
手近にあるトロフィーとか電話機とか重いものでばしっと頭を何度も打ち込んで、そのあとに必ず生きているうちに「硫酸」を飲み込ませる。
単純な生まれながらの殺人衝動を持った人間なのだろうか。
それは、気のよさそうなトラック運転手、売春宿のおかみなどにも及ぶ(このおかみに及んだ時に、女性なので性的快感説が崩れる)
偽名を使いまくっているアレックス。
もうこの時点になると、アレックスを追う警察がすぐそこまで迫ってきている。
そして衝撃の二章のラスト!
なんと死んでしまうのだ、アレックスが。
それもかなり異常な方法で。
自分で頭を打ち付けて、睡眠薬を多量に飲んで死んでしまうのだ。
え?
主人公が死んでしまった・・・

・そして第三章。
この最後の章で、全てがわかってアレックスの全ての過去がつまびらかになる、その凄惨な少女時代が。
それは、二章で彼女が捨てた自分の過去の入ったゴミ袋の中の日記帳から、写真から、警察が丹念に読み込み割り出すのだ、これしかない、と。
それは

兄がアレックスの若い時からずうっと性的虐待をしていた。
果ては兄の友人にも妹を回していた。
更には、自分の利益を得るために知り合いの知り合いにも回していた。
母は見てみぬ不利だった。
その過程で、アレックスは性的虐待のみならず、硫酸を女性器にかけられるという所業を誰かにされる(これは誰なのだろうというのは最後まで疑問だった)。
このままだと死んでいたのだが、尿道をわずかにたもった雑な手術をしたのはアレックスの母だった。
母は看護師だったのだ。

全ての人に硫酸を入れ込んだのはこの恨みから。
また全ての人はアレックスの少女時代に関係している人だった。だから無差別ではなかった。
最後、がまた読ませる。
なぜアレックスは自分で死んだのか。
それは自殺ではなく、「兄が殺した」という証拠をばらまいていたのだ、バスルームに彼の髪の毛とか、兄をそこまで来させるとか、あらゆることをして自分を殺されたように見せかけている。
そしてそれが全て警察にわかったので、警察は、兄を殺人容疑で逮捕しようとしている。
真実ではなく、正義を行おうとして。

・カミーユのお母さんの作品を全部売却してしまったカミーユだったが
誰かが自画像を買い戻してくれておおいに感謝する。
金持ちのルイかと思っていたが、実は倹約家のアルマンが買い戻してくれたのだった(お金の使いどころを知っている男)